Disappointed love...








この日、私は連休も終り、久し振りに仕事に出かけた。
今日の取材相手から、散々オーエンとの事をからかわれ閉口したが何とか無事に取材を終える事が出来た。



「はぁ〜疲れた…」
、休みボケじゃないか?それとも恋愛ボケか?」
「やめてよ、トニー。そんなんじゃないってば」



私は思い切り溜息をついて車を運転しているカメラマンのトニーを睨んだ。
彼はフリーのカメラマンで、うちの出版社と契約している。



「そうなの?何だか記事には、もう付き合ってるみたいに書いてあったけど」
「勝手に書いてるだけ。付き合ってないわよ」



私はちょっとトニーを睨んで、そう言うと彼はクスクス笑っている。



「そう言えばには恋人がいたっけ。前に一度、会社に来たことがあったろ?」
「え?」
「ほら、前にが連休を取った時に一緒に会社に来た男性が編集長にくってかかってたじゃないか」



そう言われて私は思い当たった。



「ああ…オーリーのこと?彼は恋人じゃないわよ。幼なじみみたいなものかな?子供の頃から、お隣さんだったの」
「へぇ…。でも幼なじみが、あんな風に怒らないだろ?のこと好きなんじゃないの?」



トニーにサラリと、そう言われて私は言葉に詰まってしまった。



「あ〜図星?」



私の態度でトニーは、そう言ってニヤニヤしている。



「…そんなんじゃ…」
「そう?はモテるからなぁ…。ああいう派手な男性に」
「え?」
「彼、あれだろ?ACTOR」
「………トニー…オーリーのこと知ってるの?」



ちょっと驚いて彼を見ると、トニーは呆れたように私を見た。



「そりゃ見れば解かるよ…。まあ、サングラスに帽子被ってたけどね。俺は前に芸能雑誌の方でも働いてたから」
「そうなの…」
「彼、新人だけどかなり評価されてるし。でもお隣さんだったとは驚きだね。俺はてっきり仕事関係で知り合ったのかと思ったよ」
「まさか…。私は芸能人の取材なんてしたことないわ?」



私は笑いながら窓の外を眺めた。



オーリィ…どうしてるんだろう。
もしかしたら…もう仕事でロンドンに戻ったのかも…
それとも他の国に行っちゃったかな?



オーリーは、あれから顔を見せなくなった。
家にも来ないし見かけもしない。
もしかしたら私のこと呆れて嫌いになったのかもしれない…なんて思ったりした。



オーエンのことで色々言われて、つい冷たい態度とっちゃったし…
私のこと嫌になったとしてもおかしくないかも。



それなら、それでも仕方がない…




私はちょっと溜息をついて目を閉じた。



























「ちょっとオーランド!ウジウジしながらゴロゴロしてるくらいならサッサとロンドンに帰れば?邪魔なのよ。大きい図体が」





傷心の僕に、こんな冷たい言葉をかけてくる人間は、この世に一人しかいない。





「…うるさいなぁ…サマンサ…。オフなんだからゴロゴロしたいんだよ…っ」



僕はそう言ってソファーから起き上がった。
そんな僕をサマンサは仁王立ちで見下ろしている。



「何なのよ、もう。この間から、ずーっと家に篭ってばかりで…。ヒゲくらい剃りなさいよっ」
「いいだろ?別に…。面倒なんだよ…。それに外に出ないんだからヒゲなんて剃るのも面倒だよ」



僕はそう言って立ち上がると部屋に戻ろうと歩きかけた。
その時、追い討ちをかけるようにサマンサが口を開いた。



「最近、ちゃんに会いに行ってないようだけど…どうしたの?ケンカでもしたの?」
「…そんなんじゃないよ…っ。のことは今は言うなよ」
「あら。いつもなら聞いてもいないのに散々ちゃんのこと話してくるくせに一体どうしたの?」



サマンサが驚いたように僕の前に歩いて来て額に手を当ててきた。



「…熱は…ないようだけど…」
「熱なんてあるかよっ!放っておいてくれる?」
「そんなの、いくらでも放っておくけど…。やだ、あんた、完全に振られたわけ?」
「……………っ?!」



僕はサマンサの首を絞めたくなった。



「そんなんじゃないって!だって休みが終って仕事行ってるし邪魔できないだろ?」
「いつも邪魔しに行ってるじゃない」
「ぐ…っ」



(もういい…何も言うまい…)



僕は、そこで黙ってリビングを出て部屋へと戻った。
すると後ろから、



「お母さーん!オーランドが、また変なのよっ。あいつ、ちゃんと朝ご飯食べたの?!」



なんて聞こえて来て僕は更にブルーになった。



何で朝ご飯が関係あるんだ!
僕が元気ないのは空腹だからだとでも言いたいのかっ?!
そんな単純だとでも?!(うん)
全くふざけた愚姉だ!



プリプリしつつ僕はベッドに寝転がった。





「はぁ〜…。もうロンドンに戻ろうかな…。ここにいたんじゃ静かに悩む事も出来ない…(!)」



そんな事を呟きつつ、ベッドの上をゴロゴロと転がっていると本当に力が出ない。
確かに、ここのとこ、に会いに行っていなかった。
あの日の夜…とオーエンが家の外で会ってるのを見て、その前にへこんでいた僕の心を更に傷つけたからだ。
あんな楽しそうに話してる二人を見てるのが辛くて、僕はすぐにベッドに潜り込んだ。



あんな笑顔、僕には…最近では見せてくれなかったのに…



そう思うと胸が痛くて苦しくて眠れなかった。
こんな辛い気持ちから解放されたくて…暫くには会わないでおこうと決めた。
でも、そんな決心なんてもろいもので…今は会いたくて仕方ない。
でも、きっと会いに行って…の顔を見てしまえば、オーエンとの事を問い詰めてしまいそうで怖かった。
これ以上、を怒らせたくないし、呆れられたくない。
それに…嫌われたくもなかった。



こんな事なら…もっと違う出会い方をしたかったな…
もっと…大人になってから…
も僕に意地なんて張ることのないような関係で知り合いたかったよ…



「あーーっくそ!」



イライラして、つい、そう口走っていた。



僕って、こんなウジウジした男だったのか?
何だか自分が嫌いになりそうだ…



そう思った時、突然ノックの音と共にサマンサが部屋に飛び込んで来た。



「ちょっとオーランド!」
「何だよ!勝手に入ってくるなって!」



体を起こして、そう怒鳴ったがサマンサは僕の言葉を無視して部屋にあるリモコンを取ると、すぐにテレビをつけた。



「テレビ見たいなら自分の部屋で見ればいいだろ…俺は一人でいた…」
「いいから、これ見て!」
「え?」



サマンサはチャンネルをパチパチやっていたが、ある番組を見つけると僕の顔を見た。



「あんた、この事で落ちこんでたの?」



その言葉は僕の耳には聞こえていたが脳までは届かなかった。
と、言うのも僕の目はテレビの画面…正しくはテレビの中に映る、とオーエンの、あの夜の映像に釘付けだったからだ。



「これ…」



僕は驚いて、そのまま番組を見ていた。
画面の中では、あまり売れていない女性アナウンサーが隣にいる芸能関係の番組で、
よく見かけるコメンテイターの男に話し掛けている。













『…オーエン選手はゴシップ雑誌の事を否定した日の夜、こうして彼女の家に来てるわけですから、やはり交際してるという事でしょうね』


『そうだろうね。まあ彼女はスポーツ、主にサッカー専門の記者だという事だけど、この彼女に関して色々と聞いてみると、
かなり評判がいいんだ。彼女になら自分の気持ちを素直に話せるという選手も多数いたよ?』


『じゃあ、オーエン選手も、その一人だったんでしょうね?今まで彼にも恋の噂は何度かあったけど、
皆、モデルさんだったのに今回は言ってみれば一般人というのも驚かせてくれました。しかも相手は日本の方ですしね』


『そうだね。それに今までは恋の噂が出ても否定などせず素直に認めていた彼が今回は彼女が一般人ということもあって、
あんな風に否定したんだろう。かなり本気ということかな?まあ、暖かく見守りたいですね。
サッカー界の貴公子の熱愛に嘆く女性ファンも多いだろうけどね?』


『そうですね。私もちょっとショックかも』


『何だ。君もオーエンのファンだったのかい?アハハハ』













僕は、そんな事を言いながら呑気に笑っている二人の首を絞めたくなった。



「な、何だよ、これ…」



僕は次のコーナーに移っても暫く画面を見たままだった。



「ふざけやがって!誰だ?隠し撮りしてたの!」
「オーリィ…元気出して…ね?」



サマンサはスッカリ、このインチキ番組を信じたようで、そんな事を言いながら僕の肩に手を乗せた。





「何言って…こんなのデタラメだって!とオーエンは付き合ってなんか…っ」
「まあ…そう思いたいのも解かるけど…。こんな風に夜に家の前で仲良く話してるんだから何もないわけが…」
「何もないよ!」
「オーリィ…」
「俺はこの時、部屋から見てたんだ。が家の前を掃除してたらオーエンが来て…ちょっと話したら帰って行ったんだからっ」
「えぇ?そうなの?」



僕の言葉に、サマンサが驚いている。



「ああ…。全部…見てたわけじゃないけど…。本当に付き合ってるなら、こんな外で話す事なんてないだろ?家に入れるさっ」



僕は自分に言い聞かせるように、そう言って窓を思い切り開けた。
隣のの部屋は、まだ暗いままで彼女が帰ってない事が解かる。



「あんなの…嘘に決まってる…」
「なら…何で、あんた最近、ちゃんに会いに行かなかったのよ?」
「それは…」
「私、てっきりオーエンとの事があるからスネてるんだと思ったわ?」
「スネてなんていないよっ」



僕はサマンサの言葉にムっとしつつ振り返った。
するとサマンサは呆れたように肩を竦めて息をついている。



「だって、あんた、前にもちゃんに恋人が出来たと解かった時、そんな風にへこんでたじゃない」
「あの時は…自分の気持ちに気付いたばかりで…」
「あ〜そうなんだ。でも恋人がいたって気にせずちゃんを追いかけてたでしょ?」
「気にしてない訳ないだろ?!気にしてたさ…!でも…あの時はの恋人が色々な女に手をつけてるの知ってたし…
心のどこかで、すぐに別れるって解かってたから頑張れてただけだよ…」



僕は思い切り息を吐き出してベッドに座り、頭を抱えた。



「それに…それからのは男性不審でいたから…他の男にとられるなんて思ってなかったんだ…。
きっと、どっかで安心してたんだよ、俺…」
「オーリィ…」
「でも…最近、妙に心配で…。オーエンとの事もあったしさ…。この間、問い詰めちゃって…に呆れられたかもしれない…」
「そんな弱気にならないでよ…。あんたらしくない…」



サマンサは、そう言って僕の隣に座ると優しく肩を抱き寄せてくれた。
こんな風に優しいサマンサを見たのは何年ぶりだろう…。



ちゃんに会いたいんでしょう…?ちゃんと会って聞いてきたら?」
「いいよ…。そんな事したら、また情けないこと言っちゃいそうだし…」
「でも…気になるでしょ?それにモタモタしてたら、本当にオーエンとちゃん付き合っちゃうかもしれないわよ?」
「そうだけどさ…。俺が何を言っても…は、"自分の気持ちが解からない"って言うだけだし…。
俺は…男として見られてないのかもしれない…」
「そんな事…。だってちゃんが辛い時、オーランドは、いつも側にいてあげたじゃない?
そういうのって…女としたら凄く嬉しいものなのよ?ちゃんだってきっと…」
「それでも…今のままの関係がいいって思ってるんだよ、は…。何度、好きだって言った所で…もう無理かもしれないって思ってさ」



僕はそう言うと後ろに倒れて寝返りを打った。



「ちょっと…一人にしてくれる…?」
「……解かった…。でも…あまり思い込まないで…?」
「うん、サンキュ…」
「気持ち悪いわね。あんたから、お礼言われるなんて」



サマンサは、そんな事を言って、ちょっと笑うと、



「じゃ、ヒゲくらい剃ってスッキリしなさいよ?そんな顔してるから気持ちも沈むのよ?シャキっとしなさい」



と言って部屋を出て行った。
僕は一人になると仰向けになって目を瞑った。



は…大丈夫かな…
また記者に追い掛け回されるんじゃないだろうか…




そんな事を思いながら体を起こすと、サマンサに言われた通り、スッキリしようとバスルームへと歩いて行った。

























、会社戻る?」



近くまで戻って来た時、トニーが聞いてきた。



「ええ。一応、報告だけして…。今日の分は家に持ち帰ってやっちゃうわ」
「そうか。じゃあ、俺は、そのまま次の仕事に行くよ。今日の写真は明日までに持って行く」
「そう?じゃ、お願い」



私が、そう言った瞬間には車も会社の前に到着した。



「それじゃ、お疲れ様」
「お疲れ!また明日ね」



私が車を降りてドアを閉めるとトニーは笑顔で手を上げて、また車を発車させた。
それを見送り、会社に入ろうと振り向いた時、いきなり目の前が光り、私は驚いた。



「あなた、さんですよね?」
「え…?」



眩しさに目を細めた瞬間、いきなり数人のカメラを持った男達に囲まれ、唖然とする。



「な、何ですか?」
「あなたとオーエン選手の夜の密会の写真がテレビで紹介されましたけど、まだ交際を否定するんですか?」
「は?」



その記者の言葉に驚いて私が顔を上げると次から次へと質問が飛んでくる。
その中には家まで押しかけてきていた記者もいた。



「オーエン選手は、いつも家に会いに来るんですか?さんは、ご両親と同居されてますよね?という事は親公認の仲という事ですか?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!何度も言ってるように私とオーエン選手は何でもないんですっ」
「でも、この前の夜、あなたの家の前で会ってましたよね?」
「え?!」
「その写真が今度はテレビ局に送られてきたそうなんですけど」



その言葉に呆然とした。





写真?送られてきたって…
この前の夜と言うと…オーエンが突然、会いに来た時のことだろうか…?
あれだって別に家の中に入れたわけじゃないのに何で、こんな騒いでるの?



私はスッカリ囲まれて困ってしまった。



「ちょっと…どいてください!ほんとに付き合ってないんです!」



頭に来て、そう怒鳴ると私は無理やり記者達を掻き分けて会社の中へと入って行った。
だが記者達はゾロゾロと後をついてロビーまで入って来る。



「ついて来ないで下さい!」
「いいじゃないですか。本当の事を話して下さいよ」
「オーエンとは交際してるんでしょ?」
「いい加減にして下さい…っ」



私は耳を塞いでエレベーターの前まで走って行くと、扉が開いた瞬間、中に飛び込んだ。
記者達も後を追ってきたが、その時、受け付けの子が呼んでくれたのか、警備員が走ってくるのが見えた。



「何で隠すんですか?オーエンにも確認しますよ?」



扉が閉まる瞬間、そんな声が飛んで来て、私と入れ違いに下りて行った女性が目の前の記者達に驚いている。



「はぁ…何なの…?」



扉が閉まり一人になった瞬間、足の力が抜けて、その場にしゃがみ込んだ。



この前の写真が送られてきたって…どういうこと?
あの時、また誰かに見られてたってこと?
しかもテレビで流れたって言ってた。



「どうしよう…」



私は、どうしていいのか解からず、ゆっくり立ち上がると頭を抱えた。



記者が、ここの前にいたってことは…会社の皆も、もう知ってるのかもしれない…  
また説明するのが大変だ…



そんな事を考えながら息を吐くと、エレベーターがついて扉が開いた。
ゆっくり廊下に出ると、歩いている人が、あ…っと言う顔で私を見ていく。



(やっぱり知ってるようだ…嫌だな…)



少し憂鬱になりつつ、そっと編集部の中へ入っていくと、途端に同僚の女性たちが走って来る。



!下に記者達がいたでしょ?大丈夫だった?」
「ええ…」
「もぉーやっぱりオーエンと付き合ってたんじゃない!」



後輩からも、そんな事を言われて私は慌てて首を振った。



「ち、違うわ?付き合ってないってばっ」
「えぇ〜?だって、あんな夜に家まで会いに来たんでしょ?」
「あ、あれは…記者達に見張られてるのを心配してくれただけで…」
「嘘〜っ。優しい〜オーエンてば!もう!いいなぁ〜!私もサッカー選手と付き合いたいっ」
「ちょ、ちょっと!付き合っていないって言ってるじゃない…っ」



私は困って必死に、そう訴えるが皆はすっかり付き合ってると決め付けてるようで、私が何を言っても、



「はいはい」



とか、



「私達には隠さないでいいわよ」





なんて言ってキャーキャー騒いでいる。





こんなんじゃ仕事が出来ないと思って私は使わない書類だけ自分のデスクに置くと、すぐに編集長の部屋へと向かった。



「編集長」
「ああ、くん。お疲れさん」



編集長は呑気にドーナツを食べていた。



「また外が騒がしいようだね?」
「はあ…申しわけございません…。あの…あれは嘘ですから」
「ん?ああ、オーエンの事か?そんな私達には隠さなくていいぞ?誰もゴシップ雑誌にネタを売ろうなんて思ってない」
「い、いえ、そういう事じゃ…。ほんとに、この前説明した通り、彼とは何でもないんですっ」
「まあまあ。いいよ。気にしないでくれ。君とオーエンが交際となれば、我が編集部も鼻が高いよ。アッハッハ!」
「…………」



私は何を言っても無駄だと思い、



「あの…ここじゃ仕事にならないので…自宅に戻って今日の記事を纏めたいのですが…」



と言った。





「ああ、好きにしなさい。締め切りに間に合えばいい」
「はい。では失礼します」
「ああ、オーエンに宜しくな?今度、一緒に酒でも飲みたいと伝えてくれ」
「……はあ…」



私は呆れつつ、仕方なく、そう返事をすると、その場から離れた。



全くもう…!何なの?
こっちは迷惑かけたと思って気まずいのに、何で編集長は、あんなに楽しそうなのよっ



編集部の皆は私が戻ってくると、ニヤニヤしながら、「じゃ、記者達に気をつけて帰るのよ?」なんて言いながらも、



「今度、オーエンのチームメイト、紹介してね!」



と言ってくる始末…



(ほんと、勘弁して欲しい…)



そう思いながら軽く手を振って私はエレベーターの方に歩いて行った。















「さて…どうしよう…」



エレベーターに乗ったはいいけど下には記者がいるし…
このまま地下まで行って裏口まで行こうかなぁ…
でも裏にもいるかもしれない。



そんな事を考えているとエレベーターが一階ロビーに到着してしまった。
扉が開き、乗ってくる人を掻き分けながら、そっとロビーに出る。



「いない…」



チラッと見回してもロビーには記者の姿はないようだった。
さっき警備員の人に追い出されたのかもしれない。



でも外にいるかもしれないし…やっぱり裏口から出よう…



私は、そう決めて踵を翻し、ビルの裏手に歩いて行こうとした、その時、グイっと腕を捕まれ飛び上がった。



「キャ…っ」
「しぃっ。、俺だよ。マイケル」
「…え?」



そう言われて振り向き、その人物を見上げると、サングラスにキャップという姿の男性が立っている。



「…オーエン…?」



私が驚いて目を見開くと、オーエンが苦笑しながら、



「まだマイケルって呼んでくれないね」



と言っている。





「そ、そんな事より…何してるんですか?外には記者が…」
「ああ、知ってる。だから迎えに来たんだ」
「え…?」
「困ってるかと思ってさ…。大丈夫だった?」



オーエンは少しだけサングラスとズラすと心配そうな顔で私を見つめた。
その瞳と目が合い、ドキっとして視線を彷徨わせながらも小さく頷く。



「私は平気ですけど…」
「そう…なら良かった。会社の人には何も言われなかった?」
「あ…えっと…」



何も…言われてないとは言えないが、そこは頷いておいた。
オーエンはホっとしたように微笑むと、



、もう帰れるの?」



と聞いてくる。





「ああ…はい。帰れますけど…」
「じゃ送るよ」
「え?で、でも家にも記者が来てるかも…」
「じゃ、ちょっと時間潰してから帰ろう」
「え?時間潰すって…ちょ…っ」



私は驚いたがオーエンは私の手を繋いで裏口の方へと歩いて行ってしまう。



「車、裏に止めて来たんだ。正面だと記者がいると思ってさ」



オーエンは、そう言いながら私の方にちょっと微笑んだ。





「今日は…強引なんですね」



諦めて私が苦笑していると、オーエンも笑った。



「そうかな?は、いつも遠慮するから、ついね」
「…遠慮って言うか…。また一緒のとこ見られたら騒がれちゃいますよ?」



私が笑いながらオーエンを見上げると、彼は裏口手前で立ち止まり、私の方を見た。



「いいんだ。俺は…と騒がれるならね」
「…………っ」



そんな風に言い切られると何て答えていいのか解からない。
オーエンは黙った私を見つめると、



は…迷惑?」
「え…?」
「もし…迷惑だと思ったら言って欲しいんだ。俺、君には嫌われたくないし…」
「そんな…嫌うとか、そんな事はないですから…」



私がそう言うとオーエンは嬉しそうに微笑んだ。



「ほんと?そんな風に言ってくれて嬉しいよ」
       


そしてちょっと微笑みながらドアを開けて外に出ると左右を確認している。



「裏には…いないみたいだね。まだ君が会社にいると思ってるのかも」
「まだ、こんな時間だし…」



私は時計を見ながら、ちょっと笑うと、



「そうか。いつもは、もっと遅いんだっけ。俺は午後には練習も終るから時間あるけど普通の人は夜まで仕事だよな」



とオーエンは思い出したように苦笑している。
サッカー選手はだいたい午前中にチームの練習場で、監督やコーチの出したメニューをこなし、午後には練習を終える。
その後は個人練習したり、クラグハウスでマッサージを受けたりと自由な時間だ。
選手によっては帰る人もいれば、取材が入っているとクラブハウスの中で取材を受ける事になる。
も仕事で、色々なチームに取材に行く時は朝から行って、まずは練習を見てから午後に選手のアポを取って取材をしていた。





裏口を出て、すぐ前の通りにオーエンのポルシェが止まっている。



「はい。どうぞ」



オーエンが車のドアを開けてくれて、は照れくさいのもあったが素早く乗り込んだ。
裏口と言っても会社の関係者は、よく使用しているので知ってる人に見られては、また冷やかされてしまう。



「じゃ、どこ行こうか」



オーエンも車に乗り込むとエンジンをかけて私の方に微笑んだ。



「あ、あの…本当に…どこか行くんですか?」
「あ、嫌なら、真っ直ぐ送るけど…」



途端に悲しそうな顔で、そう言うオーエンに私は慌てて首を振った。



「い、いえ…嫌じゃなくて…。オーエンだって忙しいでしょ?もうすぐチャンピオンズリーグも始まるし…」
「ああ、そんなこと?ちゃんと練習はしてるから心配しないで。に、"今季のオーエンはダメだ"なんて書かれたくないしさ」
「そ、そんなこと書きませんよ」



私はオーエンの言葉に思わず吹き出してしまった。
彼も少し笑いながら車を出すと、



「解からないだろ?はシビアだからさ?ヘタなプレーは出来ないよ」



と言っている。



「そりゃあ、ミスしたら、それは書かせてもらいますけど」



私が澄ました顔でそう言って笑うとオーエンも楽しそうに笑った。





「怖いなぁ…。ミスしないように気をつけなくちゃ」
「そうして下さい」



私はクスクス笑いながらオーエンの方を見ると彼は困ったような顔で苦笑している。
そんなオーエンを見ながら、こんな風に彼と話す時間が楽しいと感じている自分がいて、少し驚いた。



どうしてオーエンと話す時は自然に笑えるんだろう…
こんなのは久し振りかもしれないなぁ…



そんな事をふと思いながら、窓の外を見た。
するとポツポツ…と水があたっていて更に顔を近づけ空を見上げる。



「あ…雨…」
「え?あ、ほんとだ。やっぱ降ってきちゃったか。今朝から雲ってたからなぁ」



オーエンは、そう言うと車のワイパーを動かしてから、「何か音楽を聞こう」 と言ってMDを入れている。




雨は次第に本降りになってきて窓を曇らせていった。





















「雨か…」



僕はテラスへ出て夕方から振り出した雨を見ていた。
少し肌寒くて空も真っ暗だからか、ますます気分も沈む。
の部屋は相変わらず暗いままで帰って来た様子もない。



「今日は…遅いのかな…」



そんな事を呟き、下を覗くと記者らしき男達がいなくなっていた。



この雨だし帰ったのかな…



さっき見た時、3人ほどの男達がの家の前にいたので様子を見ていたのだが、今は人気もなく静けさが戻って来ている。



…どうしてるだろう…
辛いから暫く会いに行くのをやめてたけど…やっぱり、こんな寂しい気分の時はに会いたくなる。
いつも、そうだった。
仕事で何か嫌な事があった時も、の顔を見ると元気になれた。
いつも軽くあしらわれてたけど、それでも僕は嬉しかったんだ。
でも、お互いに大人になって…少しづつ何かが変わってきたのかもしれない。
僕の気持ちは変わらないままなのに、は前よりも遠くに行ってしまったような気がして…



それは…僕のせいなのかな…
の気持ちが前以上に欲しくなったから…
会う度に想いが強くなっていって…前なら気にしないでいられたの言葉も今はストレートに受け止めてしまう自分がいる。
それで不安になっての気持ちを急くように答えを求めてしまって、それが彼女を困らせているのかも…



「バカだな…。自分で自分の首を絞めてるよ…」



大粒の雨が落ちてくる空を見上げて思い切り溜息をついた。
その時、大きなエンジン音が聞こえて来て僕は下を覗き込んだ。
すると見覚えのある車がの家の前に止まってドキっとする。



「あれは…確かオーエンの…」



(まさか…今まで一緒にいたとか…?)



僕は不安でドキドキしてくるのと同時に少し息苦しさを感じて身を乗り出してみた。
すると車が、また動き出しの家の駐車スペースへと入って行く。



何で、あそこに車を止めるんだ?
もしかして…家に入れる気か?



僕は見えなくなった車の方を見ながらソワソワしていた。
一緒にいた事もだが、このまま家にまで入れると言うのは心配になる。



どうしよう…家まで行ってみようか…
でも…二人一緒にいるとこを見たくはない。



僕は行くか行かないか迷っていた。























「あ〜凄い雨…。あ、今ちょっとタオル持ってくるから待ってて」
「うん、ありがとう」



オーエンは手で雨粒を振り払いながら微笑んだ。
車から家までの間に、すっかり濡れてしまったのだ。
私は急いでバスルームへ行くとバスタオルを持って彼のところまで戻った。



「はい」
「あ、ありがと」
「今、暖かい紅茶淹れるね?」
「あ、でも…本当にいいの?」



オーエンは心配そうに顔を上げて私を見た。



「そんな気にしないで?送ってもらったんだし。リビングで待ってて下さい」



私はそう言うとキッチンへ行こうとした。
すると、



「あ、もちゃんと拭かないとダメだよ」



とオーエンは私の手を掴んで引き寄せるとタオルで濡れた髪を拭いてくれた。



「あ、ありがとう…」



男の人に髪を拭いて貰うのが何だか、くすぐったくて私は少し俯いた。





「はい、出来た」
「あ…じゃあ…リビングで待ってて?」
「うん。お邪魔します」



オーエンは笑顔で頷くとリビングに歩いて行く。
私は、そのままキッチンに行って、そっと息を吐き出した。



あんな風にされると、ちょっと意識しちゃう…
最近、側にいた男の人ってオーリーくらいだもの。



そんな事を思いつつ、お湯を沸かして紅茶を淹れた。
今日は雨も降ってきたからと、あのまま少しドライヴした後に食事に行った。
そこで色々と話して夜も7時を過ぎた頃に、オーエンの方から送ると言ってくれたのだ。
私も仕事が残ってるのでそのまま送って貰う事になったのだが、まだ時間も早いし…と家の前に来た時にお茶でも…と誘った。
この前と同じように、オーエンは最初渋っていたのだが、まだ7時過ぎだと言う事で、



「じゃあお茶を頂いたら帰るよ」



と言った。





ちょっと聞きたいこともあったから丁度いい。



「これで、よし…っと」



カップをトレーに乗せて、そのままリビングに行くと、中から話し声が聞こえてきてオーエンは携帯電話で話している様子だ。



「…だから君には関係ないだろう?何で、そこまで怒るんだよ。俺達はもう別れたんだから…っ」



そんな声が聞こえてドキっとして足を止めた。
前の恋人だろうか。
普段のオーエンとは違って声に苛立ちが感じられて少し怖い。
中に入るのが躊躇われた。



「ほんとに勝手だな?自分が悪いんだろ?もう話したくない。切るよ?」



オーエンは、そう言って電話を唐突に切ったようで思い切り溜息をついている。
そして、気配がしたのか、そのまま私の方に振り向き、驚いた顔をした。



…」
「あ、あの…ごめんなさい…。聞くつもりじゃなくて…」



私は慌てて、そう言うとオーエンは、ちょっと苦笑した。





「いいんだ。もう随分と前に別れた子だし…。自分が浮気したクセに俺が君と噂になったのを知って文句を言ってきたんだよ」
「え…?別れたのに…?」
「うん。まあ…俺から一方的に別れたようなもので彼女の方は承諾してないし…。なのにもう他の女に手を出したのかってさ…」



オーエンは、そう言って肩を竦めた。



「そ、そう…。あ、紅茶」



私は何て答えていいのか解からず、目を伏せると、オーエンは心配そうな顔をしている。



「ありがとう。…ごめんね?変な話聞かせちゃって…」
「あ、ううん…」



私は軽く首を振ると紅茶のカップをテーブルの上に置いた。
オーエンはソファーに座り、ちょっと気まずそうにしていたが、私が隣に座ると顔を上げた。



「今の子とは…が…うちのチーム担当になった頃に…別れたんだ」
「え?」



突然、そう言われて私は口に紅茶を飲もうとしてカップを持った手が止まった。
オーエンは、ちょっと微笑むと紅茶を一口飲んで息をついた。



「彼女…他のチームの奴と俺に隠れて会ってて…それをチームメイトに聞いたんだ。その時は凄いショックでさ…」
「そうだったの…」



その話を聞いて、そう言えば…とオーエンと会った頃の事を思い出していた。
確かに最初、彼はピッチでプレーしている姿より、かなり大人しい印象を受けた。
大人しいというよりは…元気がないというか…。





「でもさ。が取材で来るようになって話してるうちに気付いたら、俺、元気出てたんだよな…」
「え?」



その言葉に驚いてオーエンの方を見ると、彼は少し照れくさそうに笑いながら、



「いちいちプレーのことで細かく質問してきて、それを話すまでは帰らないみたいな感じで、
俺も最初は君にヘタなこと言えないなって警戒してたんだけど…の話を聞いてると、ちゃんと試合を見てるし、
一人一人の選手の事を、よく解かってる子だなぁって感心したんだ」
「そんな事は…」
「いや、ほんと感心してさ。それでチームメイトとかともの話題が出るようになって…気付けば凄く会えるのが楽しみになってた」
「………っ」



オーエンは私の顔を見ながら、そう言って微笑んだ。
その笑顔に私は顔が熱くなって少し視線を反らすと、オーエンはそっと私の手を握った。



を…困らせるつもりはないんだ…。ただ…気持ちを黙っていられなくなったから…デートに誘っちゃっただけで…。
あ、でも軽い気持ちでとかじゃないから」





そう真剣に言うオーエンの言葉と握られた手の温もりで私は胸がドキドキしてきた。
何も言えなくて黙っている私に、オーエンは静かに言葉を続ける。



「よく…サッカーの選手は軽いとか言われてるけど…そんなつもりでにこんなこと言ってないし…。
それに…には軽い気持ちでなんて声かけられないよ」
「…え?」



私が少し顔を上げると、オーエンは恥ずかしそうに、



は凄く純粋で…そんな遊びでなんて誘えないっていうかさ…。って何だか言葉が変だな、俺…。 
ごめん、上手く言えないよ」



と言って頭をかいている。
私は、今まで知っているオーエンとは違う顔を見た気がして少し驚いた。
彼の事を軽いとか思った事は一度もない。
取材に行ってもオーエンはいつも真剣に話をしてくれて、ほんとにサッカーが好きなんだ…という思いが強く伝わってくる選手だった。



「あの…私、オーエンのこと軽いとか…思ってないわ?」
「え?」



私がそう言うとオーエンは少し驚いたように顔を上げた。
私はちょっと微笑むと、



「でも…私が純粋か、どうかは…解かりませんけど」



と付け加える。
それにはオーエンもキョトンとした顔をした。



「そんな…は…俺から見れば充分に純粋だよ?最近じゃ珍しい」
「まさか…。私はただ…臆病なだけです」
「臆病…って…?」



握っていた手を離し、オーエンは首を傾げて私の顔を見つめた。
私は少し息をつくと目を伏せて、



「私…男の人が信用できなくて…ちょっと男性不審だったから…。誰か誘ってくれる人がいても…いつも断ってたの。
人を好きになる事を自分で放棄してたと言うか…逃げてたのかも…。一人の方が気楽だって…言い訳して。
だから純粋とかじゃなく…弱虫なだけ」



そう言って軽く肩を竦めるとオーエンは心配そうな顔をした。



「それって…誰かに傷つけられたからとか…?」
「そう…かな?でも随分と前にだけど…。傷ついたと言うよりは疲れたって方が強いのかも。
男の人って何でこうなんだろうって思いが強かったの」



私が笑いながら紅茶を一口飲むと、オーエンは目を伏せている。





「そっか…。じゃあ…誰とも付き合う気はないって…事だよね…?」
「え?」
「今でも…男は信じられないって…思ってるんだろ?」
「それは…どうなのかな…。最近はあまり、そういう事を考えてなかったかも…」



と言うより…オーリーが、しょっちゅう会いに来てたし、そんな事を考えてる余裕もなかったんだ…
いつも笑顔で、"おはよう、。今日も可愛いね?"なんて言いながら、私の気持ちを乱すから…



そんな事を考えてると、オーリーの明るい笑顔に会いたくなった。





…」
「え…?あ、ごめんなさい。何?」



ついボーっとしていて慌てて顔をあげると、オーエンは真剣な顔で私を見つめた。





「もう一度言うけど…俺は本気でが好きだよ」
「…………っ」



はっきり、そう言われて私は顔が赤くなった。
オーエンはちょっと目を伏せると、



「だから…もし…の心の中に少しでも俺がいるなら…付き合って欲しいんだ…」
「…オーエン…」
「あ、でも…そんな返事は急がなくていいからさ…。よく…考えてくれていいし…」



私は何て答えていいのか解からず、黙ったまま頷いた。
するとオーエンも少しホっとしたような顔を見せる。



「じゃあ…俺、そろそろ帰るよ。8時過ぎちゃったし…」
「え?あ、ほんとだ…」



時計を見て、そう呟くとオーエンが立ち上がった。
それを見て私も立ち上がると、



「あ、まだ雨降ってるから、傘持って行って?車から乗り降りする時、濡れちゃうでしょ」
「え?いいよ、そんな…」
「いいから。風邪なんて引かれたら困るわ?大事な試合前なのに」



私がちょっと笑いながら、そう言うとオーエンもやっと笑顔を見せる。



「全く…には敵わないな…?チームのマネージャーにでもなってもらおうかな」
「あんな大変な仕事、私には無理だわ?」



そう言いながら私は玄関に出ると傘を手にした。



「ああ、俺の分はいいよ」
「え?でも…」
「大丈夫、その代わり、車のとこまでが傘に入れてくれる?自宅はマンションだから駐車場に入れるし濡れないんだ」
「そうなんだ。じゃあ…どうぞ」
「ありがとう」





私は外に出ると傘を広げてオーエンが濡れないように手をぐっとあげた。
彼は身長が高いので私が少しだけ背伸びをしていると、それを見てオーエンが笑いながら私の手から傘を取った。



「俺が持つよ。、大変そうだし」
「うわ…ちょっと身長高いからって感じ悪い」



私がスネたように言うとオーエンは楽しそうに笑っている。
そのまま彼が傘をさしてくれて何とか車の方まで歩いて行った。



「じゃあ…今日は、どうもありがとう」
「いや…こっちこそ、紅茶ご馳走様」
「明日も…練習頑張ってね?」
「ああ。も…仕事頑張って。記者の方は何とか誤魔化しておくからさ」
「ありがとう…」



私はそう言ってオーエンの手から傘を受け取り車のドアを開けている彼が濡れないようにした。
するとオーエンは私の方を振り向き、



「また…電話する」



と言ったと思った瞬間、私はぐいっと腕を引き寄せられ気付けば彼に抱きしめられていた。



「あ、あの…っ」



私は驚いたのと恥ずかしいのとで体を動かすと、オーエンはすぐに体を離してくれた。
だが素早く私の額にキスをすると、



「今夜は、あまり遅くまで仕事しないで早く寝て」



と言って微笑んだ。





「う、うん…」
「じゃ…」



と言って、オーエンが車に乗り込もうとした時、私の後ろを見て驚いた表情をしている。







「……?」




私は何だろう?と思って後ろを振り返った。




「オ、オーリィ…?!どうしたの…?」



そこにはオーリーが少し気まずそうな顔で立っていた。





「あ…ごめん…。、いるかなと思って来ただけだから…別に用があるとかじゃないんだ…」
「え?」
「じゃ…」



オーリーはそう言うと、すぐに自分の家に歩いて行こうとする。



「ちょ、待ってよ、オーリー!」



オーリーの態度に私は驚いて、そう呼ぶもオーリーは早歩きで行ってしまったようだ。
私は小さく息を吐き出すとオーエンの方を振り返って、



「あ、あの…お隣さん…なの…」



と説明した。
だがオーエンは驚いた表情のまま、



「あ、そうなんだ」



とハっとした様子で、すぐに笑顔を見せる。



「じゃあ…俺、行くよ」
「あ、はい。運転、気をつけて…」
「うん、ありがとう」





オーエンは、そう言って微笑むと車に乗り込んだ。
私は少しだけ離れると、オーエンの方に手を振った。
オーエンもまた笑顔で手を上げると車をゆっくり道の方に出して、そのままクラクションを短く鳴らすと帰って行った。
それを見送ると私はちょっと顔を上げて隣のオーリーの部屋を見てみる。



さっき…オーリー、誤解したのかもしれないな、と、ふと思った。





何だか会いに行くのも躊躇われ、私は軽く息をつくと家の中へと戻って行った。























 

 

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ちょっと久々オーリーVer第7弾です^^
だんだん二人に距離が出来てきちゃいましたねえ(苦笑)
さて、このままノリノリな私は他のも何かアップしちゃいます〜♪イエィ(謎)