あまり自分の心のうちを見せてくれる人じゃない。
だからと言って彼の気持ちを疑ったりする事もないし私から無理に聞くようなことはしなかった。
それで私たちは上手くいってたから。


まさか彼を失う事になるなんて、思いもしなかったのに――愛情は時として無謀なほどの行為に結びつく事を初めて知った。











Prison Break―――01












普段なら、どんな悩みがあろうと自分で解決してしまうほど強い人。
でも彼のお兄さんが人を殺して捕まった時は、さすがに心配になった。
何も言ってはくれないけど、彼がその事で走り回り、どうにか死刑にだけはさせないよう、動いてるのも知ってたし、
上訴しても無駄になったことも知ってたから、何も言ってくれない彼の事が凄く心配だった。


「兄さんは俺のたった一人の肉親だから、彼がどんな人間だろうと変わらず大切に思ってる」


彼はよくそう言っていた。
子供の頃に両親を失い、兄だけが頼りだった、と。
付き合いだす前から何度も聞いた話。


ここ最近のマイケルは明らかに変だった。
仕事へも行かず、フラリと出かけては夜遅くに帰ってくる。
愛想もないほどシンプルだった彼の書斎に、気付けば色々な新聞の記事が増えていき、綺麗好きだった彼にしては珍しいほど散らかしている。
お兄さんの記事かと思えば、他人の事件の記事もある。
それを真剣に読み込んでるマイケルに、私は嫌な不安を感じていた。


「…マイケル、まだ寝ないの?」
「…ああ。もう少ししたら寝るから先に寝てていいよ」


今日も夜遅くまで何か調べ物をしているマイケルに声をかければ、彼は優しい笑みを浮かべてそう言った。
いつもなら、ここで言われたとおりにする私も、今夜は寂しくてそっとマイケルに近づき、後ろから彼を抱きしめる。


「…どうした?」
「どこにも行かないで」


私がそう呟くと、彼の体がピクリと動いた。


「…ここにいるだろ?」
「これからも傍にいて。どこにも行かないで…」


何だろう、この不安は。
彼が手の届かない場所へ行ってしまいそうで怖い。


「行かないよ…の傍にいる」


マイケルは私の手をそっと外すと、正面から抱きしめてくれる。
大きな彼の胸に顔を埋めるだけで少しだけホっとしてぎゅっと抱きついた。


恐らくマイケルは兄のリンカーンを助けるために何かを企んでいる。
私は知ってる。
彼はたった一人の家族を守るためなら何でもする男だと。


「さ、もう遅いし先に寝て」
「…嫌よ。もっとこうしてたい」


そう言って顔を上げればマイケルは困惑したような笑みを浮かべた。


「どうした?今日は甘えるね」
「だって…」


最近、マイケルは私に触れようとしない。
こんなに近くにいるのに凄く遠く感じるくらいに。


私が黙っていると、マイケルは優しく額に口付けた。
そのまま彼の冷たい唇が頬、そして唇へと触れてくる。
彼のキスは私の心を暖かくしてくれる。
愛しくてたまらないと言うように、甘く優しいキスだから。


「…愛してる、マイケル」
「僕も愛してるよ」


ゆっくりと唇を離し、彼が呟く。
視線を上げれば普段とは変わらないマイケルの綺麗な瞳が私を見下ろして微笑んでいる。


「…ひゃ」


少し見惚れていると、いきなり抱き上げられビックリした。


「マ、マイケル?」
「言うこと聞かないから、こうして運ぶ」
「ちょ、ちょっと…」


クスクス笑いながら、マイケルは私を抱きかかえたまま寝室へと入っていく。
私の抗議などまるで無視して、壊れ物を置くように優しくベッドへ寝かせてくれた。


「一人じゃ眠れないもん…」
「僕もすぐ寝るよ」


額にキスをしながらマイケルが微笑んだ。
それでも不安で彼の腕を掴んで離さないでいると、唇が再び重なる。
啄ばむような甘いキスから、少しづつ深くなっていく。
しがみついてた腕をそっと彼の背中に回し、抱きしめると僅かに唇が離れかけた。


「…もっと」
「足りない?」
「…全然足りない…」


そう言って私からキスをねだると、マイケルはかすかに笑みを浮かべ、また唇を塞いだ。
ベッドに手を付いて私に覆いかぶさりながら何度も角度を変えて舌を絡める。
なのに肌には触れようとしない彼に痺れを切らし、私から彼のシャツのボタンを外していった。


「ん……?」


私の手を止め、マイケルが眉間に皺を寄せた。
それでも無理にボタンを外し、彼の首筋にキスをすると、小さく体が反応する。


「…ダメだって、
「何で…?」


ハッキリと拒まれ、少なからずショックを受けた。
こんな事、今までなかったから自然に涙が浮かぶ。
そんな私を見てマイケルは慌てたように零れ落ちた涙を指で拭ってくれた。


「泣かないで…」
「だって…」


好きな人に触れてもらえない事が、こんなにも寂しいものだったなんて。
初めて、マイケルの気持ちを疑った。


「マイケル、もう私の事―」
「まさか…言ったろ?愛してるって…」


そう呟き、涙で濡れた目じりにキスをするマイケルはどこか悲しげだった。
ジっとその瞳を見つめていると再び唇が重なる。
彼の体の重みを感じ、次第に深まるキスで息が乱れていく。
服の中に侵入した手が肌を撫でていき、ビクンと反応すれば彼の息も少しづつ乱れていった。
首筋に唇がおりていくのを感じながら、なかなかシャツを脱がない彼に気付き、そっと手をかける。




「―――ッ」




そのまま胸元を開いた瞬間、息を呑んだ。
マイケルもそれに気付き、ハっとしたように私から離れた。


「マイケル…これ…」
「…………」


胸元を指差せば、マイケルは困ったように視線を落とした。


「な、何でタトゥーなんか…しかもこんなに…」


久しぶりに見た彼の体には、鮮やかなほどにタトゥーが刻まれていた。
マイケルは土木建築技師であり、こんなものとは無縁の生活をしてきたはずだ。


「マイケル…どう言う事?ちゃんと説明して…っ」


体を起こし、そう言えば彼は軽く息をついてベッドに腰をかけた。


「ごめん…隠してて」
「…やっぱり…何かあるのね?」


ずっと感じてた不安が現実のものになったのだ、と、この時確信していた。

























「脱獄…?」


信じられない言葉を聞いて驚いた私を見て、マイケルは静かに頷いた。


「その計画のために、これを彫った。これは刑務所内の設計図だ」
「………っ」


嘘だ。
何でこんなこと…


「じゃあ…お兄さんのために…マイケルも―」
「あそこへ入る」


彼の言葉が私の心を貫いた。
あそこへ入ると言う事は、もちろん"罪人"として、という事だと私にだって分かる。


今まで色々と調べていたのも兄を助けるための計画のうちで、もうほぼ準備は整った。
だから近々、僕はここからいなくなるしの傍にもいられなくなる。


マイケルは呆然としている私に淡々と話してくれた。


「だからもう―」
「嘘つき!」
「……」
「どこにも…行かないってさっき言ったくせに!私の傍にいるって…」


涙が溢れて止まらなかった。
何を言っても、もう無駄なんだと分かるから。
マイケルは絶対に自分の意思を貫く人だから。


「ごめん…」


そう言って優しくキスをするマイケルを強く抱きしめた。
離れたくない。
彼をあんな場所へ行かせたくない。


「行かないでよ…お願い、マイケル…」
「……兄を…見殺しには出来ない…すまない」


マイケルの言葉は心の奥底にまで沁み込んで、それがやがて大きな傷となって内側から焼き尽くしていく。
そうだ。マイケルは私を見捨てても最愛の兄だけは見捨てない。
そう言う人だった―



でも、じゃあ…私はどうなるの?


マイケルがいなければ…前に進めない私は――
















Nada valgo sin tu amor






                                                  貴方の愛なしではいられない























つ、遂に書いちゃいましたよー>プリズンブレイク!
今、ハマりにハマってる海外ドラマなんですが、知らない方やまだ見てない方には申し訳ない夢ですね;;
特に長々連載やるわけでもないです。
これも続きを書くか分からない話だし、これも2話完結でいいかーみたいな(オーイ)
他にも別の話とか書くと思うけど(゜ε ゜;)
マイケル(ウェントくん)カッコいいんだよーw
ドラマもホント、24くらい続きが気になるジェットコースタードラマで御座いますですよ。