二人で最後の夜を過ごした次の日、マイケルは銀行を襲い、警察に捕まった。
それをニュースで見た時、涙が止まらなかった。
普通の人以上に才能を持ち、そのまま行けば何不自由なく、幸せな人生を送るはずだった彼は一瞬で、それを失った。


いや―――投げ捨てたのだ、彼自らが望んで…



ニューヨークに戻って一週間経った頃、刑務所にいる彼から、私の元に手紙が届いた。














Prison Break―――03













マイケルとは大学で知り合った。
彼はロヨラ大学でもクラスで一番になるほど優秀だった。
物を作り上げていく作業が好きだ、と言っていたマイケルは建築技師の道を選んだ。


私はいつからそんな彼の事を好きになったんだろう。
物静かで誰よりも優しいマイケルを、気付けば好きになっていた。
何も言わなくても、私の気持ちを分かってくれる。
あんな人、今まで出会った事がなかった。
先に告白したのも私だ。
大学でも、常に一緒にいることが多かったし、周りからは私たちが付き合ってる、なんて思われてたのに、
マイケルは全く、そんな素振りはみせなくて。
怖かったけど、でも…それ以上に彼の愛が欲しくなった。


あれは、いつだったか。
サークルのイベントでパーティをやった時、私はマイケルとダンスを踊った。
彼は他の子からも誘われてたのに、それを全て断って私を選んでくれたのだ。
その時、初めてマイケルも私と同じ思いかもしれない、と嬉しくなった。
そしてパーティの帰り道、酔いに任せて"大好き"と彼に言ったのだ。
照れくさいから、それほど真剣には言えなかったけど、でもそんな私の言葉にマイケルは照れくさそうに微笑んでくれた。




「奇遇だね…。僕も同じこと思ってた」




あの時の彼の優しい笑顔は、今もこの胸の中にある。





















「一緒に住む?」


マイケルが就職して、あのマンションに引っ越した時、手伝いに行っていた私に不意に言った言葉。
一瞬、ジョークかと思って笑ったら、マイケルは珍しくスネたように目を細めた。


「…本気で言ってるの?」
「ジョークに聞こえる方がおかしい。僕はいつだって本気だよ」


驚いた私にマイケルは困ったように眉を下げて肩を竦めた。
私は嬉しくて、どうしようもないほど嬉しくて彼に思い切り抱きついた。


「…お互い就職したんだし…前ほど自由に会う時間が作れなくなるだろ」


素直に喜ぶ私に、マイケルはそう言って照れくさそうに笑った。


「実はもう用意してあるんだ」
「…何を?」


首を傾げると、体を少し離してマイケルは私の手を掴んだ。


「これ…」


硬く冷たいものを握らされ、掌を広げてみると、そこには真新しい鍵が一つ、眩しいくらい輝きを放って乗せられていた。


「…ありがと。どんな宝石より嬉しいかも」


何かの映画で聞いたような台詞が口から出る。



マイケルは私以上に嬉しそうな顔で微笑んで。


初めて彼の方から「愛してる、」と言って抱きしめてくれた―










あの日の事は今でもハッキリ覚えている。
無駄に広い、あのマンションを、一人で住むはずのマイケルが何故、借りたのか。


最初から私と住むつもりで借りたんだって、今なら分かるのに――




























形のない愛情を彼女に伝えるのは難しい。
元々、積極的な方ではないし、素直に愛情表現をしてくるに対し、どうやったら自分の気持ちを分かってもらえるかと考え、出た答えが一緒に住む事だった。




「マイケルは私の事、ホントに好き?」
「…どうしたんだよ、急に」


彼女は時々こうして気持ちを確かめる事がある。
それは日々の中、あまり想いを口にしない僕に対して寂しさを感じていたからだろう。


「ねぇ、好き?愛してる?」
「もちろん」


僕はいつもそう答えてきた。
でもは決まって不満げな顔をする。


「ちゃんと口に出して言ってよ」
「言ってる」
「言ってないじゃない」


可愛く頬を膨らませるを見て愛しさが込み上げる。
照れくさいから言えないという僕の気持ちも少しくらい理解してくれれば嬉しいんだけど。


「何だかマイケルが時々凄く遠くに感じるの。こんなに傍にいるのに…」


そんな事を悲しそうな顔で呟く彼女に胸が痛んだ。


「もう少ししたら大学も卒業して就職しなくちゃいけないでしょ?そしたら今みたいに会えなくなるね…」


ずっとこのまま、マイケルと一緒に学生のまま、過ごしていければいいのに。


はそんな事を言って笑ってた。
そんなの僕も同じだ。
子供のように素直な彼女を、とても愛してた。


本当はにずっと傍にいて欲しいとさえ思っていたんだ。


だから二人で住めるような部屋を探した。
でも照れくさいから最後の最後まで"一緒に住もう"とは言えず。
そのくせ合鍵なんて作っておいた。
の気持ちは分かっていたけど、もし断られたら、と考えると怖かったのもある。


でも、彼女は喜んで受け入れてくれた。
だからかな…僕はその時、素直に自分の想いを初めて自分から口にする事が出来た。



あの日の事は一生忘れない。


僕も確かにあの時、幸せだったんだ。














刑務所内から彼女に手紙を書いた。
返事のつもりじゃなく、今の自分の気持ちを、ただ伝えたくなっただけ。
知って欲しかった。
彼女に真実を伝え切れなかった自分の弱さ、そしてそれを後悔している事を。


兄が本当は無実だということ。
誰かにハメられて殺されようとしていること。
詳しくは書けないが、とりあえず元気にやっていること。


そして今もだけを愛していると、素直に書いた。


本当なら待っていて欲しいと言いたかった事も。


兄の前の恋人で弁護士をしているベロニカが外で真実を導き出してくれたら、あるいは逃げる必要もなくなるかもしれない。
何も脱獄をして全てが終わると言うわけじゃないことは分かってる。
今までの生活と愛する人を捨て、名前を隠し、ビクビクしながら暮らすなんて、本当は嫌だ。


どうしてこうなってしまったのかなんて、もう考えすぎるくらいに考えた。
を置いて行くことになる現実が、ただ辛かった。
彼女の事を考えれば正しい選択だったのかもしれない。
それでも、彼女の人生を警察に追われる辛いものにしてしまっても。



手放すべきじゃなかったのかもしれない。


僕は兄を助ける道を選んだ事で、一番大切なものを失った。

















La paga 






                 愛の代償




















またまた書いてみましたーw
拍手&コメントを下さった、そこの貴女!ありがとー(>д<)/
これは長く続ける予定ではないですけど(残り一話分考えてます)
コメント頂けて嬉しいです!
プリズンブレイク、また借りて見直しちゃってる俺。
うーん、マイケルの飄々としたトコがたまらん。