TRU
CALLING
不気味な空気の漂う薄暗い廊下を抜け、エレベーターに乗り込む。
ここは前にも来たことがあった。
今から10年前・・・
俺の母親が殺された時―
チンっと音がしてエレベーターの扉が開くと、すぐ横に部屋があった。
サングラスを外し、そこを覗き込むと、案の定、彼女はいた。
「Hi!」
「?!」
明るく声をかけると彼女は驚いたように振り向き、その大きな瞳を更に大きく見開いている。
「ハ、ハリソン?!」
「よ、元気?」
「な、何しに・・・今日はトゥルー休みよ?」
何かの書類を机に置き、彼女・・・は俺の方に歩いて来た。
俺はブラブラと部屋の中を見渡しながら、「It
knows......」と答えて肩を竦めた。
するとは訝しげに眉を寄せている。
「じゃあ・・・何しに来たの?」
「まあ・・・近くまで来たからがいるかなぁと思ってさ。今日、夜勤だって聞いてたから」
「何か・・・用事?」
「いや・・・そういうわけじゃ・・・。ただ・・・元気にしてるかなと思ってさ」
そう言って彼女の顔を伺うと、は軽く息をついて頷いた。
「この前のこと言ってるなら・・・私は大丈夫よ?」
「ほんとに?」
「ええ。あれからは、ちゃんと表通りを通るようにしてるし、護身用のスプレーも買ったわ」
「そっか、なら・・・良かった」
それを聞いてちょっと安心する。
何となく心配だったんだ。
怖い思いをしたわけだからさ。
は俺から少し視線を外し、時計を見ると近くの椅子に腰をかけた。
「ハリソン、仕事探してるの? トゥルーが心配してたわよ?」
「まあボチボチね。姉さんは心配性なんだよ」
「当たり前じゃない。大切な弟なんだから」
「何だよ・・・まで俺に説教すんのか?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
彼女はそう言って目を伏せると、何か言いたそうに視線を泳がしている。
俺も傍にあるパイプ椅子に座って、そんな彼女を見つめた。
「何か言いたそうだな」
「え? ああ・・・えっと・・・」
「何?」
ちょっと気になり、そう尋ねてみるとは軽く髪をかきあげている。
その髪をかきあげる仕草が懐かしく感じて俺は彼女と出会った頃の事を思い出した。
「あのね、ハリソン・・・」
「ん?」
「この前・・・ちゃんと言えなかったから今、言っておくわ」
「・・・何のこと?」
「だから・・・この前は・・・助けてくれて・・・その・・・ありがと・・・」
「何だ、そんなこと? 別にいいよ、お礼なんて。俺だって姉さんに言われて半信半疑で行っただけだしさ」
「でも・・・ありがと!」
はちょっとムキになって、そう言うと椅子から立ち上がって冷蔵庫の方に歩いて行く。
それは彼女の照れだと俺にはすぐに分かって笑いを噛み殺す。
「何か飲む? 」
「・・・んービール」
「ないわよ、そんなの!コーヒーとかソーダしかないんだから」
「じゃあコーヒー」
「はいはい」
彼女はそう言って苦笑しながら冷蔵庫から缶コーヒーを出すと俺の方に投げてよこした。
それを上手くキャッチすると蓋を取って一口飲む。
「なあ、こんなとこで働いてて怖くない?」
「え? ああ・・・最初はね・・・。でも、もう慣れたわ?」
「ふーん。姉さんがここで働き出した時も変わってんなぁと思ったけど・・・その親友も変わってるわけだ」
「何よ、仕方ないでしょ? 仕事しないと生活出来ないんだから。それより・・・」
はそこで言葉を切ると持っていた缶コーヒーを机に置いて俺の方を真っ直ぐ見る。
「何だよ」
「ずっと・・・聞きたかったの」
「何を?」
「この前の事とか・・・今までの事」
「・・・え?」
彼女が何を聞こうとしているのかが分かり、ドキっとした。
「トゥルーの事なんだけど・・・」
(やっぱり)
「姉さんの・・・何が聞きたいんだ?」
「だから・・・最近、様子がおかしくない? この前の事だって・・・どうしてトゥルーには分かったの? 私が襲われるって・・・」
「さあ? 俺にはよく・・・」
「嘘。知ってるんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そう言いきられて俺はグっと言葉に詰まった。
彼女は少し身を乗り出し、俺の顔をジっと見ている。
「ねぇ・・・何を隠してるの? トゥルーに何が起きてるのよ」
「それは・・・姉さんに聞けば?」
「聞いても教えてくれないからハリソンに聞いてるのっ」
「そんなこと言われてもさ・・・」
俺だって未だに信じきれてないんだよ。
何て言って説明していいのかも分からないし、だいたい言ったって信じてもらえないだろう。
姉さんが死人から助けを求められると一日前に時間が遡る・・・なんてさ。
「ねえ、ハリソン?」
「だから――」
「あれ?」
「「あ・・・」」
そこにドアが開き、所長のディビスが入って来た。
俺に気づき、少しだけ眉を寄せたのを見ると、もしかしたら彼はに気があるんじゃないかと、ふと思った。
「君はトゥルーの・・・」
「ハリソンです。遊びに来たらしくて・・・」
がそう説明をすると、ディビスはチラっと俺の方を見てすぐに視線を反らす。(ちょっと感じ悪い)
「ここじゃ遊びに来る場所じゃないんだけどね。あ、、そろそろ休憩に行っていいよ?」
「あ、はい。じゃあ・・・」
「俺が奢るよ。近くのカフェに行こうぜ」
「え? ちょ・・・」
が白衣を脱いでるのを見て俺はすぐに彼女の腕を掴んだ。
それを見てディビスの顔がピクピクしてるのが笑える。
「じゃ、彼女、借りるんで」
「おい―」
「あ、帰りはちゃんと送ってくるから心配しないでいいよ」
俺はそう言ってディビスにニヤっと笑って見せると、彼は渋い顔をしながら、
「宜しく・・・」とだけ言って隣の部屋へと行ってしまった。
「さ、行こう」
「ちょっとハリソン・・・」
「いいだろ? 俺もちょっと腹減ったしさ。何か食べに行こう」
そう言って戸惑う彼女を外へと連れ出し、近くにある洒落たカフェバーへと向った。
「美味しい?」
「え? あ、うん」
「ってオムレツ好きだよな?」
「え?」
そう言って笑いながら嬉しそうにオムレツを食べてる彼女を見ると、は不思議そうに首を傾げている。
きっと何で、そんなこと知ってるの? と思ってるんだろう。
そう・・・俺は知ってるんだ。
がオムレツが好きなのも、ほんとはコーヒーより紅茶が好きなのも高校の時、アメフト部の奴と付き合ってたのだってさ。
と初めて会ったのは俺が高校一年の時。
姉さんに彼女を紹介された。
――――Very Beautiful!
それが第一印象。
そう、彼女を見た時、俺はぶっ飛んだんだ。
透き通るように白い滑らかそうな肌に黒い髪と大きな黒い瞳が印象的で俺は暫く彼女に見惚れていた。
少し気の強そうなところが、また彼女の魅力を引き立たせてたっけ。
それは今でもちっとも変わらない。
だから、もちろんのこと、当時の彼女は凄くモテていた。
それを本人が自覚してないから困りものなんだけどさ。
まあ・・・俺も例にも漏れず、彼女に憧れていた一人だった。
ただ姉さんの親友って事で、うかつに手を出せなかったわけだけど。
だから今こうして一緒に食事をしてる事だって、当時の事を思えば凄くラッキーな事なんだ。
ま、きっと彼女は俺のことなんて嫌ってるんだろうって思ってたし。
ただ・・・この前、家まで彼女を送って行った時、"帰らないで"と言いたげに引き止められた時、ちょっと嬉しかったんだけど。
それから・・・心の奥に隠しておいた気持ちが再び顔を覗かせて、今日、あんな風に突然尋ねてしまった。
今は俺だって高校生のガキじゃない。
あの頃より、少しは成長してる・・・・・・はず。(ちょっと自信なし)
だからって今さら、彼女のことを、どう口説いていいのかも分からないんだけどさ。
そう思いながら食事も終わり、コーヒーを飲んでいる彼女を見ていると、彼女は時計を見て軽く息をついた。
「そろそろ戻らなくちゃ。これから運ばれて来た遺体の検死を手伝わないといけないの」
「・・・・・・検死・・・ねぇ・・・。ほんと、よく出来るよな?」
「私だって好きでしてるわけじゃ―」
「はいはい。生活の為だろ? 分かったよ」
俺がそう言って肩を竦めると、彼女はちょっと笑ってジャケットを羽織る。
(ああ、彼女との楽しい時間も終わりか・・・)
そう思いながら俺は支払いをするのに伝票を掴もうとすると不意に彼女がその手を止めた。
「ここは私が払うわ?」
「え? いいよ。俺が奢るって言っただろ?」
「いいの。この前のお礼!」
「ちょ・・・」
彼女はそう言って微笑むと、伝票を持ってレジへと行ってしまった。
俺は呆気に取られつつ、ちょっとだけ溜息をついた。
そのまま支払いを済ませ、店を出ると彼女をモルグまで送るのに夜道を二人で歩いて行く。
この辺は大きな通りで車もばんばん走っているから、それほど危なくもないが、やはり、この前のこともあるからか、
俺が送ると言うと、も素直に頷いてくれた。
ま、送ると言ってもカフェからモルグまで徒歩、数分なんだけどさ。
なんて思ってる間に、もう建物が見えて来た。
「じゃあ・・・送ってくれてありがとう」
「いや・・・こんな事くらいいいよ」
「またね」
「ああ・・・」
そう言いながら、まだもう少しといたいと思った。
そんな気持ちが態度に出たのか、気づけば彼女の腕を掴んでいて、驚いた顔のと目が合う。
「ハリソン・・・?」
「あ、いや・・・あのさ・・・」
「え?」
少し首を傾げながら俺を見つめる黒い瞳が凄く奇麗で心臓が少しだけ早くなる。
僅かに理性が働き、早く腕を離さなくちゃとも思うのに、なかなかそれが出来ず、それどころか少しだけその腕を自分の方に引き寄せた。
まあ、てっとり早く言うと・・・彼女を抱き寄せてしまった。
「ちょ、ちょっとハリソン、何する―」
「ちょっとだけ、こうしてて」
「ちょっとだけって・・・」
「お願い」
戸惑う彼女にそう言いながら少しだけ抱きしめる腕を強くする。
ほんとは、ずっとこうしたかった。
一度でいいからを、こんな風に抱きしめてみたかったんだ。
だけど人の欲求は増えていくもので・・・抱きしめてしまうと、今度はそれ以上の事をしたくなってしまう。
俺は彼女の髪に顔を埋めて、いっそのこと告白してしまおうかと考えていた。
それか、もっと強引にいくべきか・・・?
「ちょっとハリソン・・・どうしたの?」
「なあ・・・」
「な、何?」
「さっきのお礼なんだけど・・・まだ有効?」
「・・・え?」
「お礼なら・・・こっちの方がいいかな、って思ってさ」
「は? ちょ―」
そう言って顔を近づけると、は驚いたように体を固くし、俺の胸をドンっと押してきた。
「何するのよ、ハリソンのスケベ!!」
プシューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
「え? うわ!」
彼女は驚いている俺に向って突然、何かを吹きかけてきた(!)
それが何だったのかは・・・・・・言わなくても分かるだろ?
―Before a day......
「へぇ、姉さん今日は休み?」
「ええ、ちょっと用事があるの。ああ、ハリソン」
「何だよ?」
俺が部屋を出て行こうとした時、姉さんは苦笑いしながら、こう言った。
「今からに会いに行く気でしょうけど、もし行っても彼女にキスしようなんて思わない方がいいわよ?」
「は? (ドキッ)」
If
it is a reward,
I want the kiss!
姉さんは何を知っているんだろう?
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トゥルー夢第二弾(笑)
今回はハリソンサイドで書いてみたり・・・
やっぱり、ちょっとドジなハリソンも可愛いなーなんて( ̄m ̄)
そして姉さんは何でもお見通し・・・? (笑)
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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