TRU
CALLING
ガシャン・・・っという音で俺が目を覚ました時、トゥルーは慌てたように着替えてるところだった。
少し首が痛むのを感じ、俺は欠伸をしながらベッド代わりにしていたソファから体を起こす。
夕べはトゥルーの家に泊まったのだ。
「トゥルーどうした?出かけるのか?」
「あ、ハリソン、起こしちゃった?」
頭をガシガシかきつつ、煙草を咥えた俺にトゥルーはハっとしたように微笑んだ。
「まだ朝の7時だぞ?大学行くには早すぎないか?」
(トゥルーはと一緒にディビスの紹介で今はハドソン大学で午前中だけ授業を受けているのだ)
俺の問いにトゥルーは手を休めないまま、顔だけこっちに向けた。
「そうね、実は・・・"例の日"なの」
「え・・・」
「だから私、行くわ?」
「ちょ、おい、一人で平気か?」
ジャケットを羽織ってサッサと出て行こうとするトゥルーに俺は慌てて煙草を消し、ソファから立ち上がった。
そんな俺を見てトゥルーは軽く首を振る。
「平気よ?もし助けが必要になったら電話する」
「・・・分かった。待ってるよ」
「あ、ハリソン」
「え?」
ドアを開け、出て行こうとしたトゥルーは思い出したように振り返った。
「もうすぐから電話が来ると思うけど・・・あんた大学に行かないでくれる?」
「は?何だよ、それ・・・。大学まで押しかけるはずない・・・・・・って俺、"昨日"は行ったの?」
「ええ。"昨日"は家で待っててって言ったのに私を迎えに来たって理由をつけてね」
トゥルーの苦笑気味の顔に気づき、俺は軽く溜息をついた。
そんな俺に姉は肩を竦めて見せる。
「そういう事だから」
「何で?俺、何かマズイことでもした?」
「そうじゃないけど・・・そう・・・なのかな・・・」
「何だよ、どっち?俺が何を―」
「とにかく行かないで上手く断って!じゃ、行ってくる」
「おい、待てよ。トゥルー・・・!」
俺の呼びかけも空しく、トゥルーはサッサと走って行ってしまった。
「何なんだよ・・・。何を断るんだ?それくらい教えてくれたって・・・」
誰もいなくなった廊下に空しい言葉が響く。
仕方なく俺は部屋に戻り、冷蔵庫の中を漁った。
お腹が空き、何か腹のたしになるような物はないかと探した結果・・・・・・・・・・・・・・・何もなかった。
「何だよ・・・何もねーじゃん・・・」
ガックリしつつ、それでもミネラルウォーターを取り出し、それを口に運ぶ。
寝起きで喉が渇いていたのか、一気にそれを飲み干し、窓の方へ歩いて行くと一気にカーテンを開けた。
「うぁ・・・いい天気だな・・・」
太陽の日差しが眩しくて俺は目を細めながら再びソファに腰を下ろす。
もう一度寝なおそうか・・・とも思ったが、何だか目が冴えてしまった。
今日は仕事もない。
一日、何をしよう、と考える。
本当なら今日は大学が終った後、トゥルーの車を見に中古車センターに行く筈だった。
だけど"例の日"では、それも流れる事だろう。
「ふぁぁ・・・ま、とりあえずシャワー入って飯でも食いに行くか・・・」
空になったミネラルウォーターのボトルをダストボックスの中に放り込み、俺はバスルームへと歩いて行った。
軽く頭や体を洗い、キュっとコルクを閉めると洗いたての香りがするバスタオルを頭に被りゴシゴシと髪を拭く。
ある程度、拭くとそのバスタオルは洗濯物の籠に入れ、また新たにバスタオルを出し腰に巻いた。
これをすると、いつもトゥルーに怒られる。
"誰が洗うと思ってるの?洗濯物、増やさないで!"
それは分かっているのだが、濡れたバスタオルを巻くのは、どうも気持ちがよろしくない。
なので、ついつい同じ事をくり返しては、その度にトゥルーに怒られている。
「はぁ・・・スッキリ」
一旦リビングに戻ると煙草に火をつけ、ソファに凭れた。
テレビをつけ、くだらない朝の番組をボーっと見つつ、ふと時計を見る。
すでに8時を回っていて、普通なら皆、仕事へと向う時間だ。
「は大学に出かけたかな・・・」
そう呟いた時、家の電話が鳴りドキっとする。
「まさか・・・・・・?」
さっきのトゥルーの言葉を思い出し、電話の相手がかもしれない・・・と思った。
だがトゥルーが言った事を考えれば出ない方がいいのか?とも思う。
そうは思ってみても電話は一向に止む気配もなく鳴り響いている。
それにからだと思うと、やはり無視出来るハズもなく・・・俺は重たい腰を上げ、電話の所まで歩いて行った。
「Hello?」
『・・・・・・っ』
俺が出ると受話器の向こうからは何も返事が返って来ない。
(何だ・・・イタズラか?)
少しガッカリし、もう一度声をかけようとしたその時・・・
『あの・・・ハリソン・・・?』
「・・・あっ!?」
やっぱり彼女だ、と俺は何だか慌てて腰に巻いたバスタオルを巻きなおしてしまった。(別に見えるわけじゃないのに)
『ビックリした・・・ハリソンが出ると思わなくて』
「あ、ごめん。俺、夕べここに泊まったんだ」
『そう・・・』
「あ・・・ど、どうしたの?トゥルーならいないけど・・・」
『え?いないって・・・。じゃあ、もう出ちゃった?』
「うん。さっきね」
『・・・困ったな。実は今、大学前にいるんだけど今日使うはずのノートをトゥルーに貸したままで持って来てもらおうと思ったの』
「え?あ、でもトゥルー大学には行かないと思うけど・・・」
『え、どうして?』
(しまった・・・っ)
つい、そう言ってしまい俺は小さく舌打ちをした。
当然、俺の言葉には驚いているようだ。
それには何て説明しようかと考えたが何も思い浮かばない。
『あの・・・ハリソン?トゥルーはどこに行ったの?』
「ああ、いや・・・それが・・・ちょっと用事が出来てさ・・・!」
『用事って・・・昨日はそんなこと言ってなかったのに・・・』
「あーうん!実は・・・急に・・・用事が出来たみたいなんだ・・・っ」
何とも苦しい言い訳だったが、何て誤魔化せばいいのか分からない。
だがはそれ以上、聞いてくることはなかった。
『分かったわ・・・。じゃあ・・・』
「あ・・・で、でも、そのノートないと困るんだろ?」
トゥルーが言ってたのは、この事だったんだと分かってはいたが、俺はつい、そう声をかけていた。
『うん・・・でも仕方ないわ?』
「でも・・・」
どうしよう?行くなとは言われたけどが困るの分かってて無視は出来ない。
クソ!トゥルーの奴、分かってたんなら返しに行けよっ
そう思ったが、もうトゥルーは出てしまったので仕方ない。
俺はマズイとは思いつつ、彼女にこう言った。
「あのさ、そのノート俺が届けるよ」
『え?でも・・・ハリソン、仕事・・・』
「あ、今日は休みなんだ。だから凄ーーーく暇だしさ!」
『そう・・・?じゃあ・・・お願いしていい?』
「もちろん!」
の言葉に俺は思わず笑顔になる。
そこでから、どんなノートか詳しく聞くと、すぐに持ってくと言って電話を切った。
「う〜・・・どこだ〜?」
大学で使いそうな教科書やノートが置いてある辺りを探しながら俺は必死に探した。
「ったく・・・トゥルーの奴、少しは片付けろよな・・・」
ブツブツ言いながら積んであるノートを一冊一冊見て回っていると、何冊目かにから聞いた色のノートが出てきた。
パラパラ捲ってみれば、さっき聞いた通りの難しい医学用語やらが書いてあり、思わず指を鳴らす。
「これだ!」
だが不意に一番後ろのページからヒラヒラとメモが落ちてきて慌てて拾う。
「何だ、これ・・・」
小さなメモ用紙に書かれていたのは―
"さっきは助かったよ。お礼に後でランチでもどう? byスコット"
たった、それだけのメッセージ。
だが最後の名前を見て俺はメモをグシャっと手の中で握りつぶした。
「誰だよ、スコットって・・・」
俺の知らない場所でが男とランチを取ってる姿を想像し、ムカっと来たのだ。
(まあでも・・・俺とは何も関係ないし俺が怒る理由なんてないんだよな・・・)
何となく弱気になりながら溜息をつき、時計を見る。
「いけね!」
との約束の時間を思い出し、俺は急いでトゥルーの部屋を飛び出した。
この時の俺は今朝、言われた事なんて思い出す余裕もなかった。
車を飛ばした結果、何とか時間に間に合った。
大学の駐車場へ車を止めた俺はそこからと待ち合わせをした大学の門まで走って行く。
おかげで、ちょうど約束の時間になった時、俺は門の前と到着した。
「!」
「あ、ハリソン!」
時計を見ながら不安そうな顔で立っていたは俺の事を見ると笑顔で手を振って来た。
その笑顔を見れただけでも、こうして走って来た甲斐があった気がするなんて俺って結構、単純だ。
「ごめん、待った?」
「ううん。時間ピッタリよ?」
「はぁ・・・良かった・・・このノートで合ってる?」
一気に走ったせいか息が切れたが、すぐにノートをに手渡す。
するとは嬉しそうに頷いた。
「これよ!ありがとう、助かっちゃった!」
「いや・・・元々トゥルーが返すの忘れてたんだし・・・」
「それはいいけど・・・。でもトゥルーほんとに来ないの?」
「あ、ああ・・・。多分・・・ね。午前中には間に合わないと思うよ」
「そう・・・。せっかくディビスが紹介してくれたのに・・・」
はそう言って軽く肩を竦めたが俺は内心、苦笑した。
ディビスがここを紹介したのはの気を引きたいからだ。
でもにだけ紹介すれば変に思われるし、トゥルーだって同じ医者を目指しているんだから声をかけないわけにはいかない。
だからディビスは最初にトゥルーに、この話を持ちかけたんだ。(と俺は睨んでいる)
「あ、時間、大丈夫?」
「うん。少し余裕見て出てきたから。ほんとに、ありがとう、ハリソン」
「いや・・・こんな事くらいいいさ。今日は暇だったしね」
「そう?あ、じゃあ時間あるなら大学でも見学してく?」
「え?いや俺が見学したって―」
そう言いかけて言葉を切った。
そうだ・・・さっきのメモの男・・・
どんな奴なのか見ておくのもいいかも・・・
そう思いながらポケットに押し込んだままのメモを手で触れてみる。
「ハリソン?じゃあ帰る?」
「あ、いや・・・!やっぱ見学してっていい?俺、大学なんて縁遠いしさ」
俺が慌ててそう言うと、はクスクス笑いながら大学の方へ歩き出した。
「変なハリソン。でも、ただ歩いてるだけでも学生気分になれるわよ?私はこれから授業があるから一緒に回れないけど」
「そっか・・・残念。それって、いつ終る?」
「二時間後かな?」
「じゃあ・・・待っててもいいかな。帰り、家まで送るよ」
「え、でもせっかくの休みなのに・・・いいの?」
「いいよ。言ったろ?今日はトゥルーに約束すっぽかされて暇なんだ」
「そっか。じゃあ・・・お願いしようかな」
はそう言って微笑んでくれた。
それには俺もトゥルーがすっぽかしてくれた事を感謝したい気持ちになる。
何だよ。別に大学に来たって何ともないじゃないか。
逆にと会えて約束まで出来たぞ?
ふとトゥルーの言葉を思い出し心の中で苦笑する。
するとが時計を見て、あっと声を上げた。
「いけない。遅刻しちゃう!じゃあ、ハリソン、後で」
「ああ。授業、頑張って」
俺がそう声をかけるとは笑顔で手を振り、校内へと走って行った。
その姿を見送ると俺は一人ブラブラと大学の庭を歩いてみる。
同じ歳くらいの奴らが楽しそうに話し込んでいる姿に少しだけ後悔が襲ってきた。
俺ももっと真面目にしてれば、あんな風に大学生なんてやつになれたのかな。
そうすればともつり合うような男になれたんだろうか。
なんてガラにもないか・・・
高校の時から憧れていたと今、こうして変に仲良くなれたもんだから欲が出てきたのかもしれない。
"姉貴の親友"
そう見てきたつもりが、いつの間にかもっと大切な存在になってたなんて・・・
「スコットか・・・」
先ほどのメモを取り出し、軽く溜息をつく。
と同じ授業を受けているとこを見ると、こいつも将来は医者を目指してるんだろう。
そんな奴の方がとつり合うのかもな・・・
俺はそのメモをギュっと握りつぶすと、その場に放り投げた。
広い大学内を適当に見て回ってると、あっという間に二時間が経った。
そろそろの授業も終った頃だ。
俺はどこに行けばがいるんだろう、と大学内の廊下を歩いて行った。
沢山の学生と擦れ違い、その中で白衣を着ていた男を捕まえ、がいる場所を聞く。
どうやら方向は合ってたようだ。
そのまま真っ直ぐ歩いて行くと前にトゥルーに聞いた事のある教室が見えて来て、その中を覗いてみる。
中にはまだ数人の学生がいて、その中にの姿もあった。
何だか男二人、女一人というグループに混ざり、楽しそうに話し込んでいる。
何となく入っていくのが躊躇われ、どうしようかと思っていた時、が俺に気づいた。
「ハリソン!迎えに来てくれたの?」
「・・・ああ。もう終ったかなーと思ってさ」
「今、終ったとこなの」
そう言いながらは笑顔で俺の方に走って来た。
すると今までと話していた奴らが訝しげな顔で俺の方を見る。
その時、ブラウンの髪の男があからさまに顔を顰めたのが分かった。
(あいつかな、スコットって・・・医学生だから、もっとオタクっぽいかと思ったけど、まあまあ男前かも)
その様子に何となくそう思い、俺はすぐに視線を反らした。
「もう帰れる?」
「あ、それが・・・」
俺の問いには少し困ったように微笑んだ。
「彼らにランチに誘われたの。今の授業でちょっと分からない事があったから皆で話そうって」
「え?そっか・・・」
それを聞いて俺は少しガッカリした。
だけどにとっては大切なことで、医大に行く為に、ここに来ているのだから勉強の邪魔は出来ない。
「じゃあ俺は帰るよ」
何とか笑顔を作り、そう言うと俺は廊下に出ようとした。
するとグイっと腕を捕まれ、ドキっとする。
「どうして?ハリソンも一緒に来ない?」
「・・・え?」
突然のの誘いに俺は驚いた。
後ろで待ってる友人達もちょっと驚いた顔をしている。
だがは笑顔で振り返ると、
「彼、ハリソン。トゥルーの弟なの。一緒に行ってもいい?」
と皆に尋ねた。
すると一瞬、皆で顔を見合わせたが、その中の女が笑顔でこっちに歩いて来る。
「トゥルーの弟さん?私、アシュリー。宜しくね」
「どうも。姉がお世話になってます」
トゥルーが聞いたら苦笑いしそうな事を言いつつ、ここは一応、愛想よくしておこうと俺は笑顔でアシュリーと挨拶を交わした。
すると後ろにいた男二人もこっちに歩いて来る。
最初に名乗ったのは黒髪の日系人風の方だった。
「俺はサム。宜しく」
「どうも」
「俺はスコット」
「・・・どうも」
やっぱり、この男がスコットだ。
何となく俺に挑むような感じで微笑んだその男は馴れ馴れしくの肩を抱いた。(ちょっとムッとしてしまう)
「じゃあ、いつものカフェに行こうか」
「そうね。じゃ、ハリソン行こう?」
「え、でも俺まで行っていいの?」
「ええ。あ、でもハリソンが良かったら・・・だけど」
「もちろん・・・行くよ」
こんな状況で行かないわけにはいかない。
スコットは絶対にを狙ってるし、はきっとそれに気づいてないから何となく心配だ。
「じゃ行きましょ?」
はバッグを持つと俺の方に笑顔を見せ、歩いて行った。
「・・・それでね?トゥルーってば時々いなくなるのよ。今日だって突然、休んじゃうし。こういう事よくあるの?」
「え?それは・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
アシュリーにそう訊かれ、俺とは顔を見合わせた。
(何の事はない。授業の話をするなんて言って、さっきからただの世間話しかしてない)
するとサムがちょっと笑って身を乗り出した。
「きっとトゥルーは男と会ってるんだよ。それも皆に紹介出来ない」
「まさか・・・そんな話、聞いてないわ?」
は驚いたように、そう言うと俺の方を見た。
それには笑って誤魔化すしかない。
だいたい、トゥルーの変な行動のおかげで俺だってに少し怪しまれてるに違いないんだ。
でも、その理由を話したところで笑われるだけだ。
俺は皆を見て少しだけ肩を竦めてみせた。
「トゥルーは昔からちょっと変わった人でさ。俺にも理解不能なとこあるんだ」
「そうなの?まあ彼女確かにちょっと変わってるけど・・・」
「でも高校の時はそんな事は―」
アシュリーの言葉にが何か言おうとしたその時―
「それより、今度の休みは何してる?」
スコットの奴がいきなり話を変え、俺の眉がピクっと上がった。
当のは少し戸惑い気味にスコットを見る。
「えっと・・・休みは・・・」
「もし空いてるなら映画でも行かないか?」
「え?」
「―――っ!」
「ワォ、スコット、やるな〜」
スコットはを堂々とデートに誘い、それを聞いたサムとアシュリーが含み笑いを見せた。
俺はと言えば、かなり顔が引きつったかもしれない。
だがの方を見れば少しだけ困ったような顔をしていて俺の視線に気づくと俯いてしまった。
その様子を見てピンときた俺は不意に彼女の肩を抱き寄せ、スコットを見た。
「悪い。今度の休みは俺と約束があるんだ」
「え?」
「――?」
俺の言葉にスコットはムっとした顔をし、は驚いたように顔を上げた。
だが俺がに、「な?」とウインクすると彼女もちょっとだけ苦笑する。
「そうなの・・・・・・ごめんね?スコット」
「い、いや・・・なら次の機会にでも誘うよ・・・」
スコットはあからさまに引きつった笑顔を見せてそう言うと、「ちょっとトイレ・・・」と席を立った。
その後姿を見送り、俺は内心ホっとしていた。
余計なことだったか、と少し心配だったからだ。
でもは明らかに困ってるように見えたし、ここは断るキッカケを作ってあげないと、と思ったんだ。
「あー何だ。そういう事?」
「え?」
スコットがいなくなると、いきなりアシュリーが意味深な笑みを浮かべ、そう言いだし俺とは再び顔を見合わせる。
「そういう事って・・・?」
「だから!二人はそういう関係なのね?おかしいと思ったのよ。トゥルーがいないのに弟さんがを迎えに来るなんて」
「え・・・ち、違うわ?今日はトゥルーに貸したままのノートを持って来てもらっただけで―」
「そう?でも休みに会うような仲なんでしょ?」
「それは・・・」
アシュリーのするどい突っ込みには困ったように俺を見た。
何となく落ち着かないのか長い髪をかきあげながら答えを探しているようだ。
そんな彼女を見て俺はもう一度、助け舟を出した。
「違うんだ。俺が無理やり誘っただけだし。な?」
「え?」
「そうなの?あ、じゃあ弟さんがを好きなのか!」
「ちょ・・・アシュリー・・・」
「そういう事。ま、いつも振られてるけどね?」
「ハリソン・・・?!」
どさくさまぎれって奴だ。
こんな状況じゃなければ今の俺には絶対言えない言葉だった。
ただ"好き"なのか、"憧れ"なのか、その辺の気持ちは自分でも、よく分からない。
アシュリーは俺の言葉に、「やっぱり!」なんて指を鳴らして笑っている。
隣にいたサムも、「ワォ♪モテるな、は」なんて言っていて、
はやっぱり赤くなっていたけど、飲み物がなくなったのに気づき、席を立とうとした。
「あ、いいよ。俺が持ってくるから」
「でも―」
「いいって」
渋るを残し、俺は席を立つとブラブラとカウンターの方に歩いて行った。
大学内にある、このカフェは自分で飲み物を選び、勝手に入れていいようになっている。
俺はの飲んでいたアイスティーをカップに入れるとお金を払い席へ戻ろうとした。
その時、突然グイっと肩を捕まれ振り向けば―
「トゥルーの弟って立場を利用するなんてずるい奴だな?」
「――?」
そこにはスコットが怖い顔をして立っていて、俺は捕まれた肩を離すと軽く息を吐き出した。
「別にそんなの利用した覚えはないけど?」
「嘘つけ。彼女はトゥルーと親友なんだろ?だったらお前が誘えば断れないじゃないか」
「はぁ?そんな事があるわけないだろ?だいたいは俺がトゥルーの弟だからって変な気を使うような子じゃない」
(ってか何度、キツイこと言われてると思ってんだ?)
そう言ってやりたくなる。
だがスコットは、さっきの事がよほど気に入らなかったと見える。(これだからプライドの高い坊ちゃんは嫌なんだ)
軽く鼻で笑い、俺の肩をドンっとどついてきた。
「どう見てもお前とがつりあうようには見えないけどな」
「何だよ。ケンカ売ってんのか?」
スコットの言葉に、さすがにカチンときた。(そんなの自分が一番よく分かってるよ!)
だが奴は苦笑いしながら肩を竦めた。
「俺はそんな野蛮な事は嫌いでね。それより・・・トゥルーによく言っておかないとな?弟のしつけをしとけってさ」
「――っ!」
その言葉にカっとなった。
俺のことだけならまだしもトゥルーの事までバカにされた気がしたのだ。
「・・・ふざけんな・・・!!」
「うぁ!」
パシャンっとカップが床に落ち、アイスティーが飛び散った時、俺はスコットを思い切り殴っていた。
「ハリソン・・・!!」
スコットが床に尻餅をついたと同時に達が慌てて走って来た。
俺はそれでハっと我に返り、マズイと思ってを見たが彼女はスコットの方に駆け寄った。
「大丈夫?スコット・・・!」
「あ、ああ・・・こいつがいきなり殴りかかってきて―」
「な・・・それはお前が・・・」
「ハリソン!どうして、こんな事するのっ?」
「・・・」
怖い顔で立ち上がったは俺を見てそう怒鳴った。
カフェにいた他の連中も何事かと沢山集まり出し、周りが騒がしくなってくる。
「ハリソン・・・答えてよっ。どうして殴ったりしたの?」
はだんだん泣きそうな顔になりながら俺を見上げてくる。
そんな彼女を見て、俺は何も言えなくなってしまった。
この状況で、どう見たって悪いのは先に手を出した俺だ。
「・・・ごめん・・・俺、帰るよ」
「ちょ・・・ハリソン?!」
の声が聞こえたが俺はそのままカフェを飛び出した。
最悪だ。
こんな事ならトゥルーの言った通り、来なきゃ良かったんだ。
の大学生活を少しでも見てみたいと思った俺がバカだった・・・
に嫌な思いをさせてしまった事だけが俺の中で後悔として残っていた―
「大学に行ったのね」
疲れた顔で帰って来たトゥルーが俺に言った最初の言葉がこれだった。
俺はソファから起き上がり、思い切り溜息をつく。
「聞いたんだ・・・」
「聞かなくても分かるわ。その顔見れば」
「そっか・・・」
それ以上、何も話す気になれず、俺は煙草に火をつけた。
するとトゥルーは黙って俺の隣に腰をかける。
「・・・ハリソン・・・本気なのね」
「え・・・?」
「のこと・・・」
「・・・・・・何言って―」
「見てれば・・・・分かるわ?」
「・・・・・・」
「最初は・・・・いつもの気まぐれかなぁって思ったけど・・・よく考えれば、あんた昔からがいると少しおかしかった」
トゥルーはそう言って俺の肩を抱き寄せた。
その言葉に俺は煙を吐き出し、静かに隣で微笑んでいる姉を見る。
全て心の中を見透かされてる気がして俺はゆっくりとソファにも垂れ息をついた。
「自分でも・・・よく分からないんだ。昔からさ・・・に会うと普通に接する事が出来ないって言うか・・・」
「わざと軽く見せたり?」
「――っ?」
「意識してるからこそ、そうなっちゃうんでしょ?」
トゥルーはそう言って苦笑を洩らし、俺の頬に軽くキスをした。
「・・・まだ怒ってるかな・・・」
「さあ?私が分かるのは今日の出来事まで。その後の事は明日にならないと分からないわ?」
「・・・・・・だよな・・・」
トゥルーの言葉に俺は苦笑して煙草を口に咥えた。
「明日は仕事だし・・・帰るよ」
「そう・・・」
「車はまた今度だな?」
「そうね?」
トゥルーはちょっと笑ってそう言うと立ち上がった俺をギュっと抱きしめた。
「私はいつでもハリソンの味方よ・・・?」
「・・・・・・俺もだよ」
トゥルーの言葉に俺はちょっと微笑むと頬にキスをして、そのまま部屋を出た。
時計を見れば午前1時・・・・・・
トゥルーの言う"今日"は終った。
「はぁ・・・・」
何で、こうなるかな・・・・・・
言われた通り、大学に行かなければ、あんな小さな事で怒ったりしなかったし、あのバカを殴る事だってなかったのに。
そう・・・・・・それにに嫌な思いをさせることも・・・・・・
「今度こそ、嫌われたかな・・・」
そう呟いてみても胸が痛くなるだけだった。
もう一度、大きく溜息をつきポケットから車のキーを取り出す。
その瞬間、後ろで俺を呼ぶ声が聞こえた―
「ハリソン・・・・!」
「―――っ!?」
空耳かと思った。
いるはずの・・・・・・いや来るはずのない人の声がしたから―
「?!」
車に乗ろうとした俺はその手を止め振り返った。
するとが俺の方に走ってくるのが見え、目を疑った。
「な・・・何して・・・・・何でここに?」
目の前で息を切らしているに、俺は唖然としたまま呟いた。
そんな俺をは泣きそうな顔で見上げてくる。
「ごめんね?私、ちゃんと聞きもしないで・・・っ」
「・・・・・・え?」
「カフェのおばさんに聞いたの・・・ハリソンが怒ったのはスコットが酷い事を言ったからだって・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・っ!」
「スコットの方からハリソンにからんでたって・・・そうなんでしょ・・・っ?」
それを聞いて俺は驚いた。
だがは真剣な瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「聞いたって・・・・・・え?」
「だから・・・あのカフェで働いてる人が見てたらしくて・・・ハリソンが帰った後に教えてくれたの・・・
彼が怒ったのはスコットのせいだって・・・それで私、すぐにハリソンの行きそうな場所ずっと探してて・・・」
はそう言うと少し目を伏せて、もう一度、「ごめんね・・・」と呟いた。
俺はやっぱり驚いたまま何も言う事が出来なかったが、どうやら彼女に嫌われる事だけは免れたようだ。
(カフェのおばちゃんに感謝だな・・・)
そう思いながら俺は軽く息をついた。
そしての頬に手を添えて顔を上げさせる。
「・・・・・でも俺も悪いんだ。手を出したのは俺の方だしさ」
「そんな・・・だってそれは―」
「いや・・・に嫌な思いさせた。ほんとごめんな・・・?」
心につかえていた気持ちを素直に口にすると少し気持ちが軽くなった気がした。
も驚いたような顔をしたが最後は、あの優しい笑顔を見せてくれる。
それだけで・・・その笑顔だけで今の俺には十分に思えた。
ふと時計を見て俺は車のドアを開けた。
こんな時間にを一人で帰すわけにはいかないので送ろうと思ったのだ。
だが彼女にそう言おうと振り返った時―
「ハリソン・・・今度の休み、暇・・・?」
「え・・・?」
「私、何も予定ないんだけど・・・さっきの約束、まだ有効かなと思って・・・」
はそう言って照れくさそうに微笑んだ。
The lie is
the truth...
嘘から出た真・・・・・・
俺は初めて奇跡を信じたくなった
ブラウザの"戻る"でバックして下さいませv
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久々に更新です^^;
これは後半の方の展開にそって書いておりますので、まだ見てない人がいたら分からないかもですねσ(o^_^o)。
でもネタバレ・・・とまでは全然いってないと思うのでご安心を(笑)
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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