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■STEP.7...あそぼう                                   /僕らのせんせい/





静かな部屋でショーンとジョージは暫く黙っていた。
二人とも難しい顔で何か考えている様子。
が、不意にショーンが口にしていた葉巻を灰皿に押しつぶし、目の前にいるジョンを見た。


「…仕方ない。バリーとの事は白紙に戻そう」


その一言でジョージもやっと顔を上げると思い切り溜息をついた。


「それしかないな…。ったく…このロスで余計な事をしてくれた」
「…ジョージ、お前はすぐニューヨークに飛んでバリーと話をつけてこい。向こうが何を言って来ても耳を貸すな」
「分かってる。 ―ジョン、早速チケットを手配してくれ」
「…はい、ボス」


ジョンはそう言うと二人に一礼して静かに部屋を出て行った。
ドアが閉まるとショーンはゆっくりとブランデーを味わい、軽く息をつく。


「出来れば…モメたくはないな…」
「ああ。ま、でもバリーも納得はしないだろう。どう出て来るか…」
「油断はするな。ニューヨークでお前を襲った奴もまだ分かっていないんだ」
「ああ…今度はそのつもりで行くから大丈夫だ。ついでに…その件も調べてくるよ」


ジョージはそう言ってニヤリと笑うと葉巻に火をつける。
そして、ふとショーンを見ると―


「それより…とダンの事は…くれぐれも気をつけてやってくれよ、父さん」
「…ああ。当たり前だ。ちゃんと見張りをつけておく」


ショーンはソファから立ち上がると窓の方に歩いて行き、夜空に浮かんだ月を渋い顔で見上げた―



















「じゃあ、。行ってくるね」
「もう、ダン…。学校では先生って呼んで」


は目の前でニコニコしているダンを見て軽く溜息をつく。
ダンはクスクス笑いながら肩を竦めると、「はいはい。分かったよ、先生」と言って歩いて行こうとした。


「あ、ダン、待って。ネクタイが曲ってる」


はそう言ってダンを追いかけるとネクタイを真っ直ぐに直し、「これでいいわ」とニッコリ微笑んだ。


「じゃあ…ジゼル先生の言う事をよく聞いてね?」
「うん、分かってる。…後でね!」


ダンは笑顔で頷くと一年生の校舎へと歩いて行った。
それを心配そうに見送りながらも軽く息をつくと職員室の方に歩き出す。

ダニエルは試験にも見事、合格し、はれて今日から、この高校に通う事になったのだ。
クラスもジゼルが担任の1年G組に決まり、あのジョシュの弟、ジョーとはクラスメイトになる。


きっとダンなら上手くやれるわよね。


はそう思いながらウキウキした気分で職員室へと入ろうとドアに手をかけた。
と、そこへ「先生」と呼び止められ振り向いてみると―


「あ、校長先生」


この高校の校長で祖父、ショーンと昔からの友人でもあるイアン・ホルムが歩いて来た。
いつもニコニコと笑顔で、その小柄な体からも優しさが滲み出ている。
唯一、の実家の事を知ってる人物だ。



「弟さんは今日からだったね」
「はい。今、教室に行きました」


ニコニコしながら歩いて来たイアン校長にも笑顔で答える。
イアンは何度か頷くと、「彼は成績優秀なようだし楽しみだね」と微笑む。
そしてチラッと辺りの様子を伺うと、


「どうだね。だいぶ慣れたかい?」
「はい。もう生徒の名前も覚えたし…少しづつですけど慣れて来ました」
「そうか。それは良かった」


イアンは嬉しそうに頷くと、「あのクラスには…先生みたいな人が必要だったんですよ」と言って、


「色々と苦労はあるかもしれませんが…頑張って下さいね」


の肩をポンポンと叩いて校長室の方へと歩いて行った。


それを見送りつつ、は、「頑張ります…」と呟き、深呼吸をしてから職員室へと入って行った。


















***1年G組***







「君が先生の弟さん?」


自己紹介も終わり、席へつくと、隣にいた男子生徒から声をかけられ、ダンは顔を上げた。


…姉さんを知ってるの?」
「うん。先生は俺の兄貴の担任だからね」
「あ…じゃあ…君がジョー?」


ダンは目の前でニコニコしているジョーを見て尋ねた。


「そうだよ。先生から聞いた?」
「うん。自分のクラスの生徒の弟がいる…って」
「そっか。俺、ジョー・ハートネット。宜しく、ダニエル」
「ダンでいいよ。こちらこそ宜しく、ジョー」


二人はそう言って握手を交わした。
その時、授業が始まり、二人は教科書とノートを出して一応、前を向く。
だがジョーはすぐに声を潜めて、「…先生が姉貴なんて羨ましいよ」と言った。


「…そう?」
「うん。まあちょっとドジで子供みたいなとこあるけどさ。優しいし可愛いし…兄貴なんて先生が担任になってから何となく楽しそうだよ?」


ジョーはそう言って小さく笑った。
だがダンは少し眉を寄せると、「…ジョーの兄貴って…どんな人?」と尋ねる。
その質問にジョーは軽く首を傾げた。


「兄貴…?兄貴は…父さんが忙しいから俺が小さい時から兄兼父親代わりをしてくれて…凄く頼りになるよ」
「へぇ…」
「まあ怒らせるとすげぇー怖いんだけどさ。素行は悪いけど(!)頭はいいし…ケンカも強いし…あ、でも理不尽なケンカは一切しないんだ」
「…というと?」
「兄貴がケンカをするのにはちゃんと理由があって…例えば友達のためだったり…。俺、そう言う兄貴を尊敬してんだよね」


ジョーはそう言うと照れくさそうに笑った。
そんな彼を見てダンは、「へぇ…。何かいいね、そういうのって」と微笑む。


「じゃ、姉さんも安心かな…」
「うん。まあ最初は色々と苦労してたみたいだけど…。ほら兄貴のクラスって悪い先輩ばっかだし…」
「みたいだね。僕も心配だったんだ、実を言うと」


ダンが苦笑しながらそう言うとジョーは慌てて、


「あ、でも皆ほんとはいい先輩ばかりだしさ。今は先生にも打ち解けてるみたいだから心配ないと思うよ?」
「うん。それ聞いて僕も安心したよ」


ダンがちょっと笑うと、ジョーもホっとしたように微笑んだ。


「あ、ダンも今度うちに遊びにおいでよ。一緒にゲームしよう」
「いいの…?」
「もちろん。どうせ父さんは遅くまで帰って来ないしさ」
「じゃあ…今度お邪魔させてもらうよ」


ダンはそう言うとジョーも嬉しそうに頷いた。


そこで二人はノートを広げ、やっと前を向いたのだった。





















***3年G組***







「グッモーニーン♪…って、あれ!レオ?」


教室に入って来た途端、レオを見つけ驚くオーランド。
そんなオーランドをジロっと睨んだレオは徐に煙草を咥えた。


「何だよ…」
「うわ、珍しくない?続けてこんな早くに来てるのって!」


鞄をブンブン振り回しながらオーランドは自分の席まで歩いて行った。
その後ろの席ですでに座って雑誌を読んでいたジョシュは苦笑しながら、「明日は雪が降るかもな、このロスに」と呟いている。
ジョシュの言葉にレオは軽く舌打ちすると、「ぅっせーよ…」と煙草に火をつける。
その時、ふと目があった。
誰と目があったかと言うと―


(何だ、あいつ…何で入って来ないんだ…?)


レオは廊下から教室の中をコソーリ覗いて自分を見ていると目が合い訝しげに眉を顰めた。
だがはニコニコしながら口をパクパクさせ、レオに手招きしている。
レオは目を細めてジィっと見るが、はそれでも手招きをしながら"こっち来て"と言ってるようだ。
そんなに首を傾げ、レオは咥えている煙草を口から外した。


(何だ…?朝から説教か…?って、それなら別に廊下に呼ばなくてもいいしな…)


そんな事を考えながらレオは隣のジョシュや前に座るオーランドを見たが二人ともの事には気づいてない様子だ。
それを確めるとレオは軽く息をついてゆっくりと椅子から立ち上がった。
するとオーランドが不思議そうな顔で振り返る。


「あれ、レオどこ行くの?もうすぐホームルーム始まるよ?」
「ああ、ちょっと…すぐ戻る」
「……?」


ジョシュも雑誌から顔を上げたが、レオはそのまま"さり気なく"歩いて廊下へと出た。
そして後ろ手にすぐドアを閉めると、目の前でしゃがんだままのを呆れたように見下ろす。


「お前…何してンの…?」


溜息交じりで呟かれた言葉。
だがは笑顔のまま立ち上がると茶色いスェードの袋をレオに手渡した。


「はい、これ」
「…何だよ、これ…」


レオはその見るからに高級感溢れる袋を指で持ち上げ、首を傾げる。
するとが満面の笑みで、


「あのね、それおじい様が愛煙している葉巻なの!煙草より絶対いいと思うからあげるわ?」
「…はぁ?」


思い切り口が開いた。
その拍子に指で挟んでいた煙草がポトリと床に落ちる。


「あ、でもこれあげたのは皆に内緒よ?」
「…え、あ、おい―」
「ホームルーム始めるからレオくんも早く席に戻ってね!」


はそう言うと笑顔で手を振りつつ前のドアから教室に入ってしまった。
それを唖然と見送るレオ。
そしてマジマジと手の中にある袋を見る。


「…マジかよ…。何だ、あいつ…。普通、生徒にこんなもんくれるか…?」


呆れる…と言うよりは、もうすでに驚愕の域に達したレオは軽く首を振るとそのまま教室へと戻り、自分の席に座った。
するとジョシュが手に持ってる袋に気づき、眉を寄せる。


「おい…何、それ」
「…ワケわかんねーあいつ…」
「は?」


レオの呟きにジョシュも顔を顰める。
だがレオは溜息をついてその袋をジョシュに渡した。


から俺にプレゼント…」
「…は?何だよ、それ…。何貰ったんだ…?」


ジョシュは眉を寄せつつ、その袋の紐を解き、中を覗いて見る。




「………嘘だろ?」

「…いや…マジで」




レオは横目でジョシュを見ると大きな溜息を零したのだった。



















***ショーン***








「ふんふん…あいつらもだいぶ大人しくお嬢の話を聞くようになったじゃねぇか…」


俺はいつものように木に登り、双眼鏡を覗いていた。
そして初めの頃よりはまともになった生徒達にホっと一息つくと木によりかかり煙草に火をつけた。
すると下から、「兄貴…兄貴…」と小さな声がする。


「…何だ。デヴィッドか?」


下を見ると俺の実の弟、デヴィッドが立っている。
こいつは俺に憧れ、この世界へと入って来た。
つい先日から正式に俺の下で働くようになったばかりの、まだまだヒヨッ子だ。
今ボスはバリーの件でニューヨークへと行っている。
もちろん、あの話をなかった事にするためだ。
そのせいで万が一の事を考え、お嬢を今まで以上に護衛しなくてはならない。
最近はボスの息子、ダニエル坊ちゃんもいるので、どっちも見張らなくてはならないし俺一人じゃ無理だから、とジョン兄貴がデヴィッドをつけてくれたのだ。


「どうした?坊ちゃんを見張ってたんだろう?」
「いや、それが警備員がウロウロしてたから一旦、引き上げてきた。兄貴もそろそろ下りて来いよ。もうすぐ昼だし人が増える」
「ああ、もうそんな時間か…。そうだな…またババァどもに見つかるとうるせーし」


俺は仕方なく降りる準備をすると最後に一度だけ、お嬢の教室を覗いて見た。
お嬢は相変わらず可愛らしい笑顔で授業をしている様子。
あのクソガキどもも、きちんと授業を聞いてるようで皆、前を向いている。
いや…。一人を除いては…


「クソ…!あのガキャ、また寝てやがるな…」


お嬢が一生懸命、話してるというのに一人、机に突っ伏して寝てる奴がいる。
あいつは…"俺調べ"では確かブレンダンとかいうクソガキだ。
未だお嬢に態度が悪い生徒で俺の中でのワースト3に入る。(因みに一位はイライジャというガキ)
あのブレンダンは学校に来るのもマチマチで今日は珍しく来てやがると思えばあの態度…
一度シメておきたい奴だ。


「…兄貴、何してんだよ。早く…!人が来るぞ?」
「お、おう、今下りる」


俺は双眼鏡を下ろし軽く舌打ちすると慣れた動作で木から下りた。
そこへ、ちょうど子供連れの主婦が数人歩いて来るのが見え、俺とデヴィッドは反対側の方から、そそくさと逃げる。
大の男二人が公園にいるだけで変な目で見られる世の中だ。
見つかるだけでも怪しい…なんて思われてしまうからな…


「はぁ…張り込みも結構、大変なんだな…。ポリの奴らはあんな事しょっちゅうやってやがんのかな」


公園を出て学校へ向かう道を歩きながらデヴィッドが苦笑する。
俺も笑いながら、「まあでも大事なお嬢さんや坊ちゃんの為だからな」と肩を竦めた。


「ところで…坊ちゃんの方はどうだった?クラスに馴染めそうか?」
「ああ。何だか隣の奴と楽しげに話してたよ。あの感じじゃ大丈夫じゃないかな」
「そうか…。転校生はイジメられやすいからな…。もし、そんな事があれば……分かってるな?」


俺がそう言ってデヴィッドを見ると、奴は張り切って胸ポケットから拳銃を出した。


「もちろんさ!そんな奴はこいつでぶっ殺―」

「……殺すな…」

「……ラジャ…」


俺が怖い顔で睨むとデヴィッドは慌てて銃をしまったのだった…

  




















***職員室***






先生!」
「…ク、クリスさん?!」


授業を終え、が職員室へ戻ると、あのロス市警で知り合ったクリス・エヴァンスが笑顔で歩いて来た。
は目を丸くして、「ど、どうしたんですか?」と彼に駆け寄る。


「いや実は…この前の件でちょっとこちらの高校に用がありまして…」
「…え…?」


この前の件、と聞いての顔から血の気が引いた。


「あ、あの…レオくんはまだ疑われて―」
「い、いえ!彼の事を調べに来たわけじゃないんです」
「え、じゃあ…」
「一応…もう一人、こちらの生徒らしき人物を逃がしてるんで、その事で来たんですよ」
「あ…」


エヴァンスにそう言われてもハっとした。


そうだ…レオくんは誰かを庇って捕まった。
その庇って逃がした生徒の事を忘れてたわ…!


「あ、あの、それで…分かったんですか?」
「いえ、それがまだ…。部下が今、聞き込みに行ってます。あのクラブに出入りしてた生徒がいないかどうかをね」
「そ、そうですか…」
「ああ、戻ってきましたよ…」


エヴァンスがそう言ってドアの方を見ると若い刑事が顔を出した。
何だかスラリとした刑事で見た目も超がつく美形。
は内心、"刑事に見えないわ…"と思っていた。


「どうだった?へイデン」
「それが…なかなか口を割りませんね。仲間を売る気はないとか言って庇いあってます」
「そうか…。やっぱりな…」


エヴァンスはそう呟いて渋い顔をした。
だがは満面の笑みを浮かべ、「素適!うちの生徒達は皆、仲間思いなのね♪」と呑気な事を言っている。
それにはエヴァンスも苦笑いを零した。


「いや、それもそうなんですが…こっちとしては困るんです」
「あ…そ、そうですね。すみません…」


エヴァンスの言葉には頬を赤くして俯いた。
するとへイデンと呼ばれた若い刑事がニコニコしながらの方を見る。


「それより…この可愛い先生を紹介して下さいよ、エヴァンス刑事」
「え?ああ…えっとこちらはこの高校の先生で…先生だ」
「あ、あの…初めまして…!うちの生徒がお世話になってます(?)」


はへイデンの方に向かってそう言うとペコリと頭を下げた。
その様子と言葉にへイデンも苦笑すると、


「ああ、あなたが例の先生か!エヴァンス刑事から聞いてますよ」
「…え!な、何を…?」
「いや生徒思いで今時珍しい熱心な先生だって。ね、エヴァンス刑事」
「ああ」
「そ、そんな事は…」


エヴァンスに誉められていたと知り、は顔を赤くして俯いたが嬉しそうに微笑んでいる。
するとへイデンが手を差し出し、


「俺…いや僕はへイデン・クリステンセン。今年の春からロス市警に配属になったんだ」


と、今まで女性を魅了してきた必殺"へイデンスマイル"を見せる。
だがは、「今後とも宜しくお願いします」と言って微笑むと彼と握手をした。
この笑顔で今まで落ちない女性などいなかったへイデンにとって、のリアクションはかなり肩透かしだったようで…


「いやぁ…面白い人ですね、先生って」
「え?面白い…ですか?私、昔からドジとは言われてましたけど…面白いって言われたの初めてです」
「…エ?」


ニッコリ微笑んでそう言ったにへイデンの目が更に丸くなった。
その様子を見ていたエヴァンスも苦笑を洩らし、


「彼女はそこらへんの女性とは違うぞ、へイデン。変な気は起こすなよ?」
「……そんな人聞きの悪い…」
「……?」


エヴァンスの言葉にへイデンは顔を顰めたが、はキョトンとして首を傾げている。
そこへ怖い顔をした教頭が歩いて来た。


先生!」
「は、はい…!」
「何があったんです?学校に刑事なんて…。連絡を受けて出先から舞い戻るハメになりましたよっ」


教頭は機嫌が悪いのか、いつも以上に渋い顔をしている。
はあの件の報告をしていなかったので少しだけ顔が引きつってしまった。


「あ、あの実は…」
「ああ、僕が説明するよ」


が何と言おうか困っているとエヴァンスがそう言って教頭に事件の事を説明した。
すると見る見るうちに教頭の額に怒りマークが浮かび上がってくる。


「な、何ですって?じゃあ3Gのレオナルドがクラブに…?!」
「ええ。でも彼は知らずに入っただけだと言ってまして…」
「ふん…!彼に限って、そんなはずはない!だいたい、あの生徒は普段から素行が悪いし、そういうところに出入りしてても不思議じゃないんでね」
「ちょ、教頭先生…!レオくんは確かに真面目とは言えませんが、そういったクラブには―」
先生っ」
「は、はいっ」


ジロっと睨まれ、言葉を切ると、教頭は呆れたように溜息をついた。


「あなたは甘すぎます!だから生徒にナメられるんですよ!お陰でこのザマだっ。警察沙汰まで起こして…どう責任とるんです?」
「そ、それは…」


教頭に凄まれ、は言葉につまった。


「あら、でも彼女が来てから、あのクラスもだいぶ良くなったんですよ?」

「「「―――っ?」」」


と、そこへ授業を終えて戻って来たジゼルが笑顔で歩いて来る。
その瞬間、教頭の顔が薄っすらと赤く染まった。(気持ち悪いだけだが)


「ジ、ジゼル先生…!」
「ごめんなさい?事情が聞こえちゃったの。でも私もあのレオくんが制服なんかを来て、そんな店に出入りするようには思えないわ」
「え…?」


その言葉に驚いてが顔を上げるとジゼルはニッコリ微笑んだ。


「だって彼はもっと上手くやるわよ。そんな危ない店にすぐバレるような格好で行かないと思うし…」
「ジゼル先生…しかし…」
「教頭。確かにレオくんは良い生徒じゃないかもしれない。でも根はいいと思うわ?ドラッグで身を滅ぼすほどバカでもないし」
「……」


ジゼルがあっけらかんと、そう言うと教頭は言葉に詰まり、何も言えなくなってしまった。


「わ、分かりました…。…今回だけは処分は見送ります。けどね、私に報告を怠った先生には後でキッチリ説明して貰いますよ?」
「は、はい…分かってます」
「宜しい。では…その逃げた生徒というのが分かり次第…すぐに報告して下さい。退学処分にしますから!」


教頭はそれだけ言うとエヴァンスを見て、「ああ、それと…あまり校舎内をウロつかないで下さいよ?父兄にバレでもしたら困る」と言って、
そのまま職員室を出て行ってしまった。
その態度にジゼルは思い切り溜息をつく。


「なーにあれ。ほんと感じ悪い」
「あ、あの…ありがとう、ジゼル先生…」


がホっとして微笑むとジゼルは笑いながら肩を竦めた。


「いいのよ。私、教頭には可愛がられてるから。それより…こちらの素適な男性たちを紹介してくれない?」


ジゼルはそう言うとエヴァンスとへイデンの方にニッコリ微笑んだ。
するとすぐに前に出たのがへイデンだ。


「ロス市警のへイデン・クリステンセン捜査官です」
「私はジゼル。宜しくね?」
「エヴァンス捜査官です」
「あら、彼も素適。宜しく」


ジゼルがウキウキしながら手を差し出す。
それにはエヴァンスも苦笑いしながら握手を交わすと、再びの方を見た。


「ああ、先生」
「え…?」
「出来れば…もう一度レオナルドくんと話がしたいんですが…彼、今日は来てますか?」
「あ…はい」
「では…案内してもらっても?」
「え、ええ…。でも…」


エヴァンスにそう言われてはふとレオの言葉を思い出した。


"今は何も聞かないで欲しいんだ。…俺に任せておいてよ"


レオはこの前、そう言っていた。
本当なら生徒に任せておいていい問題ではない。
でもはレオを信用し、いつか話してくれるのを待とう、とすら考えていた。


「あの…先生…?」
「え?あ…すみません…。えっと…彼に何を…聞きたいんですか…?」


思い切って尋ねるとエヴァンスは困ったように頭をかいた。


「…まあ彼が話してくれるとは思えないが…もう一度だけ聞いてみようと思いましてね。誰を庇ってるのかを」
「で、でも―」
「頼みます。僕はどうしても彼が間違えてあのクラブに入ったとは思えないんだ」
「………」


エヴァンスの真剣な顔には困って目を伏せた。


「…分かりました…。レオくんはきっと…教室にいます。こっちです」
「ありがとう!」


が教室を出て行くとエヴァンスもすぐそれについて行った。


だがへイデンだけはジゼルにコッソリ電話番号を聞いていて慌てて二人の後を追いかけたのだった―


















ダニエルがそこを通ったのは偶然だった。

休み時間、誰かが「おい、今、警察が学校に来てるって」と騒ぎ出し、皆が教室を出て行ってしまった。
だがダニエルは何があったとかも、ましてや敵の警察に興味はなく、そのまま教室で本を読んでいた。
だが、ふとの事が心配になった。


そう言えば…はここんとこ生徒のことで警察署まで迎えに行ったりする事が多かったっけ…
もしかして…また何かあったのかな…


そう思ったら落ち着かなくなり、ダニエルはすぐに教室を飛び出した。
そして生徒達が走って行った方向ではなく、5階に向かう階段の方へと歩き出す。
だがその前に急にトイレに行きたくなり階段手前で踵を翻すと、更に奥にある男子トイレへと歩いて行った。
そして中へ入ろうとして、ふと足を止める。


(あれ…ジョー…?)


トイレの中でジョーが一人、こっちに背を向けて立っているのが見えてダニエルは首を傾げた。


(あいつ…トイレの前で何してんだ…?)


ジョーは手前のトイレではなく、その少し奥にある個室のトイレの前にジっと立っている。
ダニエルは首を傾げつつも、そのまま中へと入って行った。


「おい、ジョー。何して―」
「―――っ?!」


ダニエルが声をかけるとジョーは目に見えて動揺したようにハっとした顔で振り返る。
そして何故か慌ててトイレの水を流した。


「ど、どうした?ああ…もしかして煙草を吸ってたとか?」


ダニエルがそう言ってひょいっとジョーの後ろから、その個室のトイレの中を覗いた。
だが別に煙草の匂いもせず、「あれ、違った?」と尋ねると、ジョーは慌てた様子で中から出て来る。


「な、何でもないよ」
「あ、おい―」


ジョーはダニエルの方を見ないで、そのままトイレから出て行ってしまった。


「何だ、あいつ…。変なの…」


さっきと打って変わった態度にダニエルも眉を寄せて勢いよく閉められたドアを見た。
そして用を足そうと歩き出そうとした、その時―


「…?何だ、これ…」


足元に何かが転がっているのをみつけ、それを手に取ってみる。
それは何かの薬のようで白い錠剤に"S"と彫られてあった。
一定だけ落ちてた、その白い粒にダニエルは首を傾げた。


「…風邪薬…じゃないか…。でもこれどっかで…」


ダニエルはその錠剤をマジマジと見て、そしてハっと息を呑んだ。


「これ…」


そう…これは確か…ニューヨークにいた頃、一度だけ見た事がある。


「あいつ…何でこんなもん…」


それとも…他の奴が…?


「とにかく…こんなものが落ちてるなんて…マズイな…」



ダニエルはそう呟くと、その錠剤をそっと制服のポケットに仕舞いこんだのだった―




















***ジョシュ***





「あ、ジョシュくん。レオくん知らない?」


休み時間、俺が教室でブレンダンと話しているとがやってきた。
しかも、この前の刑事を連れてるから少し驚いて、「何…あいつまた何かやった?」と声を潜める。
だがは笑顔を見せると軽く首を振った。


「違うの…。この前の件でまたちょっと聞きたい事があるって…」
「何だ、そっか…」


ジョシュはホっとしたように息を吐き出すと、すぐにニヤリと笑ってを見る。


「レオなら多分、屋上で昼寝だよ。あいつ午後サボるって言ってたし」
「そう…。じゃあ屋上に…」


ジョシュの言葉には一旦、頷き、エヴァンスの方を見た。
だがすぐに、「え…サ、サボる…?!」と目を丸くして振り向いた。
その様子にジョシュは軽く噴出し笑い出す。


「…ぁはは…!気づくの遅せぇよ…バーカ」
「な、何よ、もう…!いつもからかって…っ」


は頬を赤くしてジョシュを睨む。
そしてエヴァンスの方へ向き直ると、「あ、あの屋上はこっちです」と言って再び教室を出て行った。
その様子をブレンダンは呆れたように見ていた。


「…なあ何で仲良くなってるわけ?」
「え?ああ…別にそんなんじゃないけどさ」
「そうか?俺が来ない間に気づけばお前やレオまでが、あの女と楽しそうにくっちゃべってるし驚いたよ」


ブレンダンはそう言って煙草を咥えると、ジョシュが笑いながらライターで火をつけてやった。


「あいつは…今までの教師とちょっと違うんだよ」
「…どこが?説教するのは同じだろ?」
「ん〜…。説教じゃないんだよなぁ。のは」
「は?どこが違うわけ?」


ブレンダンは眉を顰めてジョシュの顔を覗き込む。
ジョシュはそんなブレンダンに苦笑すると、


「ま、お前も毎日学校に来たら分かるよ」


と言って席を立った。


「おい、どこ行くんだ?」
「屋上。レオがまたブチ切れないようにな」
「…ああ…。お前も苦労するね。火消し役は大変だろ」
「ほんとだよ。短気な親友を持つと体力使うしな」



ジョシュはそう言って笑うと、そのまま教室を出て屋上へ向かう階段を上がって行った。











***レオ***






「ぅーわー!くさ!凄い匂いだねーこれ!」
「…うるっせぇなぁ…」



俺の隣で大きな声を出すオーランドに軽く顔を顰める。
そしてゆっくりと葉巻を吹かせば、確かに濃厚な香りが鼻をつき、独特の味が口の中に広がった。


「ねね、でもちゃんもほんと面白いよね!レオにこんなもんくれるなんてさ!」
「ああ…面白いっつーか…マジでビビるって…」


俺はそう言うとその場に寝ころがり、真っ青な空を見上げた。
今はオーランドと二人、屋上の出入り口の上でにもらった葉巻を一服中。
普段、煙草くらいなら教室で吸ってたし、それでもいいが、さすがに葉巻となると独特の香りがする。
他の教師に見つかって、もしの耳に入れば、あいつが責任を感じるんじゃないかと思うと嫌だった。


(前なら…担任の事なんて気にもしなかったんだけどな…)


ふと、そんな事を考え苦笑が洩れる。
まあ…ここなら昼寝するにも快適で他の生徒に見つかる事もない。
俺は葉巻を一旦、消すとゆっくりと目を瞑った。
が、隣のオーランドは眠くないのか、


「ねーねー。そう言えばブレンダン、久し振りに学校来てたね〜!彼女と別れたのかな」


などと一人べちゃくちゃしゃべっている。
俺は少しだけ目を開けると、「寝る気がないなら教室戻れよ…」と溜息をついた。


「え〜!午後は一緒にサボる約束だろ〜う?午後は美術があるから嫌なんだよー!あのヴィゴって教師、俺のことバカだなーって目で見るしさ!」
「…実際バカだろ…?」
「ぬ!何だよ、レオまで!」


オーランドはそう言って不貞腐れるとゴロンとその場に寝ころがった。


「はぁ〜今日もいい天気だなぁ〜♪こんな日はちゃんを誘ってデートでもしたいね、うん♪」
「……(うるせー…)」
「あ、ねぇ、レオはさー。ちゃんのこと、どう思う?」
「…あ?どう思うって…」


人が寝ようとしてるのに話し掛けてくるオーランドにウンザリしながら俺は目を開けた。


「ドジな女だな…とか…変な女…とか?あと年齢のわりにガキだし…」
「ちーがーうーよー!」
「……うっせぇな…!何が違うんだよ?」


耳元でキンキン響くオーランドの声に俺は思い切り顔を顰めた。
するとオーランドはガバっと起き上がり、笑顔で俺を見る。


「だからぁー♪俺とちゃん!どう?お似合いだと思う?!」
「……は?」
「は?じゃなくて!どう思う?」


呆れてる俺の視線に気づかず、オーランドは無邪気にそんな事を聞いてくる。
俺はちょっと欠伸をしつつ、


「お似合いなんじゃない…?」

「え♪ほんと?!どの辺りが?!」

「ちょーーーーーーーーーーーバカなとこ」

「………」


ちょっと笑いながら、そう言ってやるとオーランドのキラキラした目が一気に半目になった。


「何だよ、何だよ…。レオってば…。あ!分かった!俺とちゃんがあまりにお似合いすぎて妬いてるな?!」
「はいはい…。ほーんと脳みそ花畑になってそうなとことかすげぇーお似合いで笑えるよ」
「ムキィィィッ!!俺の脳みそは花畑じゃないぞ?!」
「…じゃあ玉ねぎ畑か?あれ食いすぎるとバカになるのよーって、そういや俺のバァちゃんが言ってたなぁ〜」
「ぬぬぬ…っ!」



俺がからかうとオーランドはますます顔を赤くして(頭から湯気が出てそうだ)口をこれ以上ないってくらいに尖らしている。
その顔を見て俺は軽く噴出した。


(あ〜オーランドイジメはこれだからやめられないって)


そんな事を思いつつ、また欠伸をすると、そこへドアの開く音が聞こえて来た。
もうすぐ授業が始まる時間なのに…と思った、その瞬間…




「…レオくん…?」

「……?」




小さくの声が聞こえて来て俺は少しだけ体を起こした。
だが眠気が勝ち、今は放ってこうと再び寝ようとした、その時…


「あー♪ちゅわーん♪」
「バ…おい、オーランド…!」


オーランドのバカがに気づき、上から顔を出してしまった。
すると下から、「あ、オーランドくん?」というの声。


「もしかしてレオくんもそこにいる?」
「うん、いるよー♪レオ!ちゃんが呼んで…って、あれ…」
「……?どうした…?」


急に言葉を切ったオーランドに俺は体を起こし、下を覗いて見た。
するとと一緒に、あのロス市警の刑事がいて俺達の事を見上げている。


「やあ。昼寝の邪魔をしたかな?」
「……何の用だよ、こんなとこまで…」
「ああ、ちょっと君と話したくてね。今いいかい?」
「……」


確かエヴァンスと言った刑事は爽やかな笑顔を見せて太陽が眩しいのか軽く目を細めた。
そのエヴァンスの後ろには見た事のない男が立っていて俺の事をジっと見ている。


「…断ったら?」
「…う〜ん…。まあ、少ししたら授業も始まるみたいだし…、もし嫌なら今日は引き上げるよ」
「へぇ。今日は、って事は…また来るって事?」
「うん、まあね」


エヴァンスはそう言って苦笑をもらす。
するとが笑顔で歩いて来た。


「あの…そんなに時間は取らないみたいなの…。だから…ちょっとだけ下りてこない?」

「………」


(あーあ…困った顔しちゃって…。ほんとは連れて来たくなかったって顔だな…)


そう思いつつ、軽く息をつくと、


「分かったよ…。でも話ならここで聞く。OK?」
「ああ。そこでも構わないよ。ありがとう」


エヴァンスはそう言ってホっと息をつくとの隣に歩いて来た。
そこへ再びドアが開き、何故かジョシュが顔を出して俺はドキっとした。


「ジョシュくん…どうしたの?」
「…俺も昼寝」
「え…ちょ、ちょっと…」


驚いているにそう言うとジョシュは横の梯子を使って上に上ってきた。


「よぉ」
「何だよ、ジョシュまで…。午後は授業出るって言ってなかったか?」
「ま〜こんな天気がいいと眠くなってさ。あ、俺のことは気にせず、話を続けろよ」
「……」


(こいつ…俺が切れないか見に来たな…?ったくお節介め…)


すでにオーランドの隣に寝ころがったジョシュを見て俺は溜息をついた。
オーランドは警察が学校にまで来た事にビビったのか、それとも俺が何をしたのか気になるのか、不安げな顔をしている。


(はぁ…何とか誤魔化さねーとな…)


「で、話って?」


俺は溜息交じりで下に足を投げ出し座ると見上げてくるエヴァンスを見た。


「この前、話した事が全てだけど?」
「うん、いや…でもね。どう考えても君が知らないであの店に入ったとは思えないんだ」
「………」
「それに…偶然ポケットにドラッグは入らないだろう?」
「…何だよ。まだ疑ってんの?俺はやってないって言っただろ」


俺がちょっと笑ってエヴァンスを見下ろすと、奴の部下らしい男(なかなかの美形だ)が少し顔を顰めて前に出てきた。


「君ね…。やってないと言ってももってたことだって問題なんだよ」
「おい。へイデン…やめろ」
「でも―」
「いいから」


エヴァンスはそう言ってへイデンって奴を静止すると、再び俺の方を見上げた。


「僕は…他の人とは違うんだ」
「は?何が…?」
「他の刑事は君がドラッグを買ってこれからやろうとしてた、と思ってる」
「…ドラッグに手を出すほど頭はイカレてないつもりだけど…?」
「うん、僕もそう思うんだ」
「………?」


エヴァンスはニッコリ微笑んでそう言った。


「君は…ドラッグをやるようなタイプじゃない」
「へぇ…タイプってあるわけ?」
「ああ、あるよ。ドラッグをやる人間は…興味本位ってのもあるが実際、弱い人間が多い」
「…弱い人間…?」
「ああ。でも君からはその"弱さ"が感じられないんだ」
「は…っ。そりゃありがたいね。実際俺は心も体も強いし」


そう言って笑うと、エヴァンスも軽く笑って頷いた。


「そう。僕のいう"弱い"とはそういう事だ。君はケンカも強いだろうが、その前に心が強い。ドラッグに手を出すタイプじゃないよ」
「……ふん…じゃあ俺に何を聞きたいわけ…?」


顔を背けて息をつく。
するとエヴァンスは一歩前に出てきて、


「君が"誰を庇ってるか…"」

「―――っ?!」


その言葉にエヴァンスを見ると、「その顔は…図星ってとこかな?」とニヤリと笑った。


「何のことだよ…?俺は別に誰も庇ってなんか―」
「いや…君は誰かを庇っている。その人物のドラッグを自分が持ち…その人物を逃がしてる間に君は逃げるのが遅れて捕まってしまったんだ」
「………っ」


エヴァンスは自信たっぷりにそう言うと、「どうだい…本当の事を言ってくれないか。悪いようにはしないから」と俺を見上げる。
俺は横で心配そうに見ているオーランドやジョシュをチラっと見ると溜息混じりに軽く笑った。


「あいにく…俺はそんなドラッグなんてヤバイ事をやってる奴を庇うほど優しくないんでね。ヘタすりゃ俺だって拘留されてたんだし?」
「………」


俺がそう言うとエヴァンスは小さく息をついて目を伏せた。


「そうか…分かった」
「分かってくれて助かるよ。俺も眠いしさ。もう帰ってくれる?」
「…君が…話してくれないなら…こっちで勝手に探す事にするよ」
「……ご勝手に」


そう言って顔を背けるとエヴァンスはに、「では僕たちはこれで帰ります」と言ってるのが聞こえてくる。
もう一人の刑事は納得いかないのか、「いいんですか?」なんてブツブツ言いながらエヴァンスについて行った。
その後ろからも慌てて、「あ、送ります…」とついて行く。


「はぁ…やっと静かになった」


俺はそう言って再びその場に寝ころがった。
するとさっきまでの元気はどこへやら、オーランドが心配そうな顔で俺を見た。


「ねぇ、レオ…。何の話?ドラッグとか…って」
「濡れ衣だよ。俺はやってないし安心しろよ」
「でも刑事が誰かを庇ってるって―」
「うるせぇな…。誰も庇ってねーって!」


俺は顔をしかめて二人に背を向ける。
するとジョシュが起き上がり俺の肩に手を置いた。


「おい…俺には本当のこと言えよ。あの刑事にもにも言わないからさ」
「…何だよ、ジョシュまで…。ほんと知らないって。だいたい庇ってヤバイ目に合うのは俺だろ?んな事しねーよ…」


そう言って軽く笑うとジョシュは小さく溜息をついた。
本気で心配してくれてるのは俺だって分かってる。
仲間だし嘘なんかつきたくない。
それでも―


(言えないことだってあんだよ、バーカ…)




今度こそ本当に寝ようと目を瞑った。
ジョシュもオーランドもそれ以上、聞いても無駄と思ったのか静かにその場に寝ころがる。
だが、ああ、これでゆっくり昼寝が出来る…と思った、その時、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
そして同時に再びドアの開く音と―


「レオくん…!レオくん…!」

「……はぁ…」


(マジ、勘弁してくれよ…。せっかく寝れそうなのに…)


そう思いながら目を開ける。
だが思い切り欠伸が出てもう一度ゆっくり目を瞑った。
には悪いけど、ここは寝たフリといこう。
隣のジョシュやオーランドもそう思ったのか、笑いを噛み殺しつつも目を瞑ってこっちに背中を向けている。


これから授業なんてかったるい…
ここは一つ見逃してもらおう…


そう思った時だった。
いきなり耳の傍で、「レオくんってば!」と声がして俺はギョっとした。


「な…何だよ、お前―」
「もうー!寝たふりしてたでしょ!」


目を開けると、目の前には頬を膨らませたの顔。
どうやら梯子を途中まで上り、そこから顔を出したようだ。


(はあ…仕方ない…。あれでいくか…)


俺はぷりぷり怒っているを見ながら指で眉間を抑えると、


「…頼むから寝かせてくれない…?夕べ、を困らせたくないから日本語の勉強してたし睡眠不足なんだ…」

「……ぷっ」

「…ぶふ…っ」


俺の大嘘に隣にいるジョシュやオーランドが噴出しそうになっている。


(まあ、こんなベタな言い訳はさすがに通用しないか…)


そう思ってを見る。
だが今まで膨らんでいたの頬は一気に萎み(?)顔には満面の笑みが浮かんでいた。
そして俺の方に身を乗り出すと、


「レオくん、日本語の勉強してたの?」
「え…?あ、ああ…まあ…」
「ぅわぁ!嬉しい♪」
「…は?」
「あ、だからさっきの問題も解けたのね!」
「……いや…うん、まあ…」
「わぁー私のために勉強してくれるのって凄く嬉しいなー♪」
「………」


(はぁ…なんて単純なんだ…。ジョシュの言った通りだ…)


俺は内心、苦笑しつつ、目の前で無邪気に喜んでいるを見た。
そう、さっきジョシュからチラっと聞いたネタ。

"は自分に関する事で俺達が頑張ったり、誉めたりすると単純に信じるから使えるぞ"

そう言われたのだ。


(まさか、こんなに喜ぶとも思ってなかったが…)


「…というワケだからさ…。今は寝かせて欲しいんだけど―」
「私もそこに上がっていい?」
「……は?」
「私、一度でいいからここに上がってみたかったの!」
「え、バカ、おい危ないって―」


ずんずん梯子を上ってくるに俺は慌てて体を起こした。
ジョシュも嫌な予感がしたのか、ガバっと起き上がる。
だが次の瞬間、その嫌な予感が当たってしまった―!



「キャ…ッ」

「―――っ?!」



途中まで昇ってきたが一瞬で俺達の視界から消えたのだ…
そしてその後に聞こえたドシン…!!という派手な音――


「お、おい!」
「あのバカ…!」


俺とジョシュが慌てて下を覗くと、そこには、したたかお尻を打ったのか、蹲っているがいた。
それを見て急いで飛び下りると、すぐに彼女の顔を覗き込む。


「おい、大丈夫か?!どこ打ったんだ?!」
?!」

「…〜〜…っ」


よほど痛いのか、は何も答えず、ただ手で腰の辺りを抑えたまま、小さく唸っている。
俺とジョシュは顔を見合わせると、今頃驚いて下りてきたオーランドに、「保険のババァ、呼んで来い!」と怒鳴った。


「わ、分かった!」


オーランドが慌てて屋上を飛び出していく。
はすぐに顔を上げると、(その目には薄っすらと涙が浮かんでいる)「ぃ、痛い…」と一言呟いた。
それを聞いて俺もジョシュもホっとしたように息を吐き出すと、その場に座り思い切り頭を振った。


「当たり前だろ…?いくらそんな高くないって言っても、こんなコンクリートに落ちたら痛いに決まってる…っ。ほんとドジだな…」
「…ったく…。どこまでドジなんだよ、は…っ」

「な、何よ、レオくんもジョシュくんも人のこと、ドジドジってぇ…」

「「実際、ドジだろが」」

「―――っ!!」


二人で声をハモらせれば、の頬はぷぅっと膨れた。
その顔に俺もジョシュもつい苦笑が洩れる。


「はぁぁ…ドジな担任持つと苦労するな…」
「ああ。全く…」
「…む…」
「おかげで目が覚めた…」
「俺も…」
「ふぁぁあ…せっかく昼寝日よりなのになぁ…」
「…だな…。あーもう学校フケてどっか行く?」
「お♪いいねぇ、ジョシュくん。そうしますか」
「あー俺、腹減ったかも」
「あ。俺も。何か食いにいく?」
「そうすっか」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ…!二人とも…!」



う〜んと伸びをした俺達を見ては慌てたように立ち上がろうとした。
だが腰が痛いのか、「ぃたた…」と呟き、再びしゃがみこむ。


「その分じゃきっとのお尻は青くなってるぞ?」
「あー言えてる。ま、赤くなるよりいいんじゃない?」
「だよなー。あはは!」

「も、もう!!レオくんもジョシュくんも笑い過ぎ…ぃたぁ…」

「バカ、動くなよ」
「そうそう。今オーランドが戻ってくるから大人しく待ってなさい」
「俺達はランチに行って来るからさ」

「ひ、酷い!怪我した女性を放っておくなんて男じゃないんだからーー!!」



その場にを置いて俺とジョシュは屋上から校舎内に戻った。
後ろでの文句が聞こえてくるが俺とジョシュは顔を見合わせ、苦笑い。


「ほんとに大怪我だったら置いてかないっつーの」
「ほんとだよ…ったく…」


二人でそう呟くと、鼻歌交じりで階段を下りていく。
その時、ふと、あの怖い顔が頭に浮かんだ。




あーあ。この分じゃ、まーたあのボディガードさんに睨まれそうだ。


"お嬢に怪我が絶えないのはお前らのせいだろう!"


なーんて言って…(また拳銃出さないだろうな…あいつ)


















あそぼう 








空を見上げたら雲が流れる



   雲が流れたら心晴れるよ



        よく怒られよく寝たフリをする



          心配ごとはおいてこい




              あそぼう、まずはそれから
















モドル>>


Postscript


そろそろ打ち解けて平和になってきましたかねー
そう言えばやっと校長が登場(笑)
それと新しくデヴィッド、へイデンが登場ですねー(いや何となく登場させてみた。笑)
しかし忙しい…
改装作業も本格的にやらないといけないので更新も停滞するかもです(;゚д゚)


50万HIT、御礼記念。
いつもありがとう御座います。
感謝を込めて…。



C-MOON管理人HANAZO