TRU
CALLING
今ドラマで演じてる役とは裏腹に、俺はギャンブルが嫌いだった。
目に見えない"運"というものに流され、放浪された上にお金まで失うなんて最悪だし、
答えらしい答えのない場所に身を置くのも苦手なんだ。
それこそ、今やってるドラマの中だけで沢山だ。
でも今日、俺はそんな苦手な空間に、我が身をおくことになってしまった。
スケジュールの都合でドラマのロケ地に先に入った俺とマネージャーの。
明日には皆が合流するホテルに来たのはいいものの、空いてる部屋がツイン一つだけと言われ、ちょっと言葉を失った。
「ほんとにありません?もう一つ取ってもらえるならダブルでも何でもいいんですけど…」
「申し訳御座いません。本日来る予定だとは知らなかったもので、今日までは他のお客様でほぼ満室状態でして…」
何度聞いてもフロントの男はそう言って頭を下げるばかり。
は困ったように溜息をついた。
「いいじゃん。別に俺は気にしないけど…」
なんて事を言えば、は怖い顔で俺を睨んだ。
「あんたが良くても私が困るのっ」
「何でだよ。どうせ一日だけの事だろ?それにツインであってダブルじゃないんだからさ」
(まあ…本音を言えば俺だってちょっと困るんだけど…)
内心、そう思いながらも、敢えてそこは口には出さず軽く答えれば、は大げさに息を吐いて腕時計を見た。
もうすでに夜の10時。
この時間に他のホテルを探すのも難しいだろう。
もそう思ったのか、渋々といった顔で、「じゃあ…その部屋でいいです」とフロントの男からキーを受け取った。
「ではお部屋にご案内します」
ボーイがやって来て俺とはエレベーターに乗り込む。
何となく気まずい空気が流れて、俺は小さく息を吐き出した。
何でこんな事になったかというと…
他の仕事が思ったより遅くなった。
"ここからならロケ地の方が近いから先に行って一泊しよう"
そう言ったのはの方だ。
いきなりの事だから予約もしなかった。
まあ二人分の部屋くらいは空いてるだろうと思ったからというのもある。
でも予想に反して明日jから泊まる予定だったホテルも、今日まではほぼ満室状態。
まあ元々は明日から泊まる予定であったわけで、いきなり来た俺達も悪いし、部屋が取れないのも仕方のないことだった。
ツインが一つだけ空いてたというのも運が良かった。
密かに彼女に想いを寄せてる俺にとったら微妙なとこなんだけど――
「はぁ…疲れた…」
部屋に入るなり、はベッドに倒れこんだ。
ここ最近ハードだったし、は俺以上に睡眠時間が少なかったから無理もない。
「大丈夫か?風呂入って寝ろよ」
「ん〜。でも食事まだでしょ…?」
はそう言って体を起こすと、隣のベッドに座った俺を見た。
「ショーンてば移動中、寝てたから何も食べてないじゃない」
「俺なら適当にルームサービスでも取るし大丈夫だって。子供じゃないんだから」
そう言って彼女の頭を軽く撫でると、は恥ずかしそうに視線を反らし、立ち上がった。
「じゃ、じゃあ…先に入らせてもらう…」
「ああ、ゆっくり入ってろよ。その間にルームサービス取っておく。はブランデー入り紅茶だろ?」
「…ん。お願い。あ、それと分かってると思うけど…」
「ん?何?」
部屋に設置してある電話の受話器を持ちながら振り向けば、かすかに目を細めたが俺を見ていた。
「覗いたら…ぶん殴るからね」
「バ、バカ!覗くかよっ」
驚いて抗議をすると、はベーっと舌を出してバスルームへと姿を消した。
「ったく…あれでも女かよ」
ブツブツ文句を言いながらも何とかルームサービスを頼み、軽く息を吐き出す。
さっきは本当に意識してなかったのに、があんな事を言うから逆にバスルームが気になり、視線が向いてしまう。
が、その時、バスルーム前の棚を見ると、そこにはバスタオルやバスローブといったものが置いてある。
「あのドジ…」
はきっと中にあると思って何も持たず入ったのだろう。
俺は慌ててタオルとバスローブを取ると、バスルームのドアをノックしてすぐに開けた。
入ったばかりだし、まだ大丈夫だろうと思ったからだ。
が、それが甘かった。
「おい、!これ忘れて―」
「…っ?!!!ぎゃぁぁぁ!!」
「…熱…!」
中に顔を出した途端、熱いシャワーを向けられ、俺の顔面に勢い良くお湯が飛んでくる。
そのせいでシャワーに浴びる前にバスローブを着るハメになってしまった…。
「ったく!信じられないっ」
「そりゃこっちの台詞だよ!何では服着てたのにシャワーかけんだよっ!見られても平気だろ?」
「仕方ないでしょ?急に入ってくるからビックリしたのよっ」
「だからって何も担当の俳優の顔に熱湯ぶっかけなくてもいいだろ?だいたい裸だったとしても湯気で何も見えねーよっ」
「…だ、だからそれは…悪かったわよ…」
俺が怒ると、はいきなりシュンとして頭を項垂れた。
いつもならもっとポンポン言い返してくるのに…と言葉を切れば、は湯上りで火照った顔のまま俺を見上げた。
「…火傷…しなかった?」
「え?あ、ああ…まあ…何とか」
いつもより元気のない顔に、何となく罪悪感を感じながらも、風呂上りで妙に女っぽく見える彼女から視線を外し、素っ気なく答える。
それでもはホっとしたように息を吐き出し、「良かった…」と呟いた。
正直、首の辺りがヒリヒリするけど、そこは敢えて言わない。
「じゃあ…先に寝てろよ。俺もシャワー入ってくるし」
「あ、うん…なるべく温くして入った方がいいよ?」
「ああ、分かってる」
そう言ってバスルームに入ると、大きく息を吐き出す。
とは四六時中、一緒にいるのに、こんなシチュエーションになった事がないから何となく落ち着かない。
それはお互い様だろうけど、彼女に惚れてる分、俺の方が意識するのは当然だし、あんなバスローブ一枚で目の前にいられちゃ、目の毒だ。
「はぁ…ったく。同じ部屋で寝るってだけでバカか、俺は…。ガキじゃあるまいし」
そんな事をボヤきながらお湯を調節してシャワーを浴びる。
それでもさっき熱湯がかかった辺りがヒリヒリするけど、それを我慢して手短に髪や体を洗った。
三つ年下の彼女と一緒に仕事をするようになって丸3年。
ハッキリ言って、さっきのような小さなケンカなんてよくある事だ。
最初は気が強い、しかも新人の女がマネージャーだなんて、ハッキリ言って不服だった。
だから当初はよく彼女とぶつかってケンカもした。
なのに…いつからだろう。
何でも本音を言い合える彼女の存在が、とても大切だと感じたのは。
周りにいるような女優みたいに気取ったりもしなければ、変に虚勢を張らないは、俺にとって唯一、素顔で接する事が出来る女だ。
多分、今そばにいる人間の中で俺の本当の姿を知ってるのは彼女だけだろう。
そんな関係が今の俺には凄く大切なものになった。
(ま、アイツはどう思ってるか知らないけど…)
シャワーを止め、濡れた髪を拭きながらバスローブを羽織った。
(結構ゆっくり入ったけど、の奴、寝てるかな…)
起きていられると、やはりこの状況、意識せざるを得ない。
こんな密室で好きな女と二人きりなんて、自分の理性を保てるかどうか不安だった。
変に今の関係をぶち壊したくはないからこそ、慎重にもなる。
そっとドアを開けてみると、ベッドにの姿がない。
「あれ…?」
どこへ行ったのかと部屋を見渡したが、それほど広くもない部屋だ。
いないのはすぐに分かる。
「アイツ…どこ行ったんだ…?」
ふと心配になって探しに行こうとバスローブを脱ぎ捨て着替えを出そうとした。
その瞬間、ドアが開き、ギョっとする。
「あ、ショーン、これ…きゃぁ!」
「わっ…!」
戻ってきたかと思った瞬間、は大きな声を上げて後ろを向いた。
俺は俺ですっぽんぽんのままなのに気付き、慌ててバスローブで下だけ隠す(!)
「な、何で裸なのよっ!」
「シャワーから出たばかりなんだし仕方ないだろっ!今、着替えようと思ってたんだよ!」
「だ、だからって何も全裸でいなくてもいいじゃないっ」
「はぁ?普通、風呂上りは全裸だろっ」
「そ、そうだけど…今日は私と同じ部屋なんだし少しは気を遣ってよ!」
「うるせーな、誰のせいだと思ってんだっ」
そんな事を言い合いながらバスローブをもう一度羽織ると、「もういいよ」とだけ声をかけた。
はそれでも恐々振り返り、ホーっと息を吐き出している。
「もうービックリするでしょっ」
「それは俺の台詞。つか、お前どこ行ってたんだよ。いないから探しに行こうと―」
そこで言葉を切り、目の前にヌっと出されたアイスピッチャーを見た。
「な、何だよ、これ…」
「今、フロントで貰ってきたの。これで焼けど冷やさないと…」
「あ、ああ…でもそんなの電話で持ってこさせりゃ良かったのに…」
「だって何度かけても出ないから取りに行った方が早いと思って…」
はそう言うと俺をベッドに座らせてタオルに氷を巻きつけた。
「あーここ赤くなっちゃってるね…。明日の撮影、大丈夫かな…」
「別に隠れるだろ?」
「でも衣装は襟元だいたい開けるでしょ?」
「じゃあメイクで隠すし平気だって」
「でも―」
「いいから気にすんなよ」
あまりに申し訳なさそうな顔をするに軽く笑ってみせた。
するともやっと笑顔を見せ、氷のまいたタオルを赤くなったところに当ててくれる。
「顔じゃなくて良かった…」
「まあ…そうだな」
確かに顔だったら明日の撮影も危ないところだったかもしれない。
そんな事を考えながら、ふと意地悪な事を言ってみた。
「ま、大丈夫だとは思うけど、もし跡が残ったら…に責任取ってもらおうかな」
「…は?」
俺の首筋を冷やしながら、はギョっとしたように顔を上げた。
「な、何よ、責任って…。私にマネージャー辞めろって言いたいわけ?」
半分、本気にしたのか、怒ったような顔で俺を睨んでくるを見て、内心、噴出しそうになった。
何にでも素直な彼女が可愛くて思わず抱きしめたくなる。
でもそんな事は出来ないから、ついいつものようにからかってしまった。
「違うよ。そんな色気のないことより…俺が言ってるのは…の体で、責任取ってもらいたいんだけど」
「…な、ど、どういう―」
「分かってるくせに〜」
そう言って彼女の額を軽く指で突付けば、見る見るうちに頬が赤くなっていく。
ちょっとしたジョークなのに、またしても素直な反応をするに不意打ちを食らった気分になり、ドキっとしてしまうから困る。
「バ、バカじゃないの?!マネージャーにそんな事してもらわなくても他にいっぱいいるでしょ?」
そう言って持っていた氷を俺に投げつけると、「自分で冷やしてっ」なんて言って慌ててベッドに潜り込んでしまった。
それには俺も困って立ち上がると、隣のベッドを覗きこんだ。
「お、おい…ジョークだって…そんな怒るなよ…」
「知らない!ショーンのバカ!スケベ!最低っ」
「最低って…」
は子供がするように顔まで布団をかぶり、一向に出てくる様子がない。
それには俺も溜息をついて自分のベッドに戻った。
とは言え、何となくケンカしたままじゃ寝れる気もせず、もう一度声をかけてみる。
「…おい、…まだ怒ってんの?」
「…………」
(無視かよ…)
何の返事もなく、ガックリ来てベッドに寝転がった。
それでもチラっと視線を送ると、もっこり膨れた布団が僅かに動き、「?」とまた声をかけてみる。
するとモゾモゾと目だけを出して、「何よ…寝れないじゃない」と、文句が返って来た。
「悪い…つか…ジョークだし、そんな怒るなよ…」
「………」
「あ、おい…」
俺の言葉には無言のまま背中を向けてしまった。
仕方なく起き上がると彼女のベッドに近寄り肩の辺りをゆすってみる。
「おい―」
「きゃ、こ、来ないでよっスケベ!」
肩に触れた瞬間、ガバっと起き上がり怒鳴る彼女に思わず手を放す。
「な、何だよ…そんな怒らなくてもさ…」
「ビ、ビックリさせるからじゃない…」
「ちゃんと声かけてたろ?ったく…人を何だと思ってんだよ…」
「そ、そっちが変なジョーク言うからでしょ?いいから…自分のベッドに戻ってよ…」
は顔を赤くしたままそう言うと再び横になって俺に背中を向けてしまった。
それが何となくショックで、俺はベッドに腰をかけるとの体をこっちに向けた。
「な、何―」
「そんな言い方ないだろ?謝ってんのにさ」
「ちょ、ちょっと…」
彼女の顔の横に手を置いて上から見下ろすと、は困ったように体を起こそうとした。
それを手で静止すると、がビクっとしたように俺を見上げてくる。
少し瞳を潤ませている彼女にドキっとした。
怯えたような顔で俺を見る彼女の態度に胸が痛む。
「そんなに…俺が怖い?」
「…え?」
「俺は…お前の事、傷つけたりしないよ…。そんな事も分からないんだ」
「…ショーン…?」
「そんなに信用ないならもういいよ…」
そう言って手を避けると、電気を消して自分のベッドに寝転がった。
もちろん今度は俺の方がに背中を向ける番だ。
何だか知らないけどイライラする。
小さなジョークで、まさかがあそこまで怒るなんて思わなかったし、あんな怯えた顔をされるとも思わなかった。
――俺はそんなに信用なかったって事か?
そう思うとやり切れなくてギュっと目を瞑った。
その時、彼女が起き上がる気配がしたのと同時に肩に体温を感じ、ドキっとした。
「な…」
「ご、ごめんね、ショーン。あの…」
「何だよ…いいから寝ろって…」
「で、でも…」
「………」
「…ショーン…?」
今度は俺が無視をすると、の声が泣き声に変わった。
「ご、ごめ…んね…。怒らないでよ…」
(さっきは自分だって怒ったじゃん…)
内心そう思いながらも、やっぱり泣きそうな声で謝られると、これ以上無視しつづけることなんて俺には出来ない。
どんなにイライラしてても、腹が立っても、コイツが泣くとこなんて見たくないんだからさ。
しかも原因が俺なんだからなおさら嫌だ。
「ショーン…」
「はぁ…」
子供みたいな声で服を引っ張るに、つい苦笑が零れる。
売り言葉に買い言葉って事で、許してやるか…
「…あのショ―」
「分かったよ…」
そう言って体を彼女の方に向ける。
が、思った以上にの顔がそばにあってギョっとした。
「ちょ…な、何だよ…」
「…え?」
目の前には涙を浮かべたの顔。
ハッキリ言って心臓に悪い。
も急に体を向けた俺に驚いたのか、少し目を見開いたままの表情で、俺を見ている。
薄暗い中、こんな至近距離で見つめあうなんて恋人同士でもないならキツイだけだ。
だったら――
「…ショーン…っ?」
恋人同士になれるよう、少しは努力をしてみようか。
そう思った瞬間、気付けば彼女の背中に腕をまわしていた。
「あ、あの―」
「…好きだ」
「……っ」
俺の顔を覗き込むようにしているをそっと抱き寄せれば、ビクっと小さな体が震えた。
静かな部屋にトクントクンと俺達の鼓動が重なり響いている。
はで何も言わず、俺の腕の中で固まったまま。
胸に顔を寄せているから、俺の鼓動が早いのなんてとっくにバレてるんだろうな、と思うと少しは開き直れた。
「俺は…お前が好きだよ」
「……」
「誰よりも大切に思ってきたし、これからもきっと、それは変わらない」
ずっと閉じ込めておいた想いを、言葉を、静かに彼女へ伝える。
やっぱり伝えないと一生、彼女には届きそうにないから。
と言っても、今日こんな風に同じ部屋に泊まる事もなければ、きっと、この告白は先へと延ばされてただろう。
抱きしめた腕を緩め、そっとの顔を見れば、思ってた以上に真っ赤で、そんな彼女を見てふと笑みが零れた。
「さあてと。今度はの番」
「え…?」
「聞かせてもらおうかな。の気持ち」
「………っ」
俺の言葉には耳まで赤く染め、慌てたように目を伏せた。
でも俺の「返事次第では、このままキスするかもよ?」という言葉に、ギョっとして顔を上げる。
「それが…嫌なら逃げればいい」
そう言って抱きしめていた腕を完全に放す。
これは俺流の賭け。
こんな時にギャンブルなんて"ハリソン"じゃないんだから、と苦笑が洩れる。
でも彼女の真っ赤に染まった顔を見てたら、この賭けに勝つような、そんな気がしてきた。
「さあ…の答えは?」
夜はまだまだ長いから、ゆっくり彼女の答えを待つとしようか。
Love is bet.
"YES"と言う答えを聞くまで――
ブラウザの"戻る"でバックして下さいませv
ゆうな紅子さまへ、相互お礼ドリのショーン夢で御座います<(_
_)>
リクエストは甘々という事だったのに終わってみれば極寒のような寒い展開で。゜(゜´Д`゜)゜。
こんな出来で申し訳御座いませんでした;;
何度でも書き直しますので気軽に言ってくださいね!
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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