空気の澄んだ深い森に、綺麗な歌声が響く。 それを聴いてレゴラスはふと馬を止めた。 遥か遠くから聴こえて来る、耳に響く歌声は、どこか甘い、それでいて、何か悲しみを背負う愛の歌――― 君との永遠なら怖くない
ふわり、と馬を下りれば、綺麗な声がピタリと止んだ。 「やっぱりか」 「あー!レ、レゴラス…ッ」 レゴラスが嬉しそうに歩み寄るのを見て、と呼ばれた少女は顔を引きつらせた。 そんなものはお構いなしにレゴラスが笑顔で両手を広げると、少女は近くにいた母、アルウェンの後ろへ隠れてしまった。 「あらあら、どうしたの?。ああ、またどこかのセクハラ王子が何かしたのかしら」 優雅な笑みを浮かべながらも棘のある言葉にレゴラスはムっとしたように目を細める。 「やあアルウェン。相変わらず美しい。だが、その毒を吐く口は直ってないようだね」 美しいほどの微笑を浮かべながら言葉を繋いだレゴラスに、アルウェンの顔からも笑顔が消える。 「何をしに来たのかしら、闇の森の王子様」 「もちろん執務で来たんだよ。それと…僕の、愛しい姫に会いにね」 そう言い返すとレゴラスはアルウェンの背後から顔を覗かせているにニッコリ微笑んだ。 だがはすぐに顔を引っ込めて、「私はレゴラスのものじゃないんだからー」と抗議の声を上げた。 その言葉にアルウェンはクスクス笑うと、 「どうやらエルフ一モテモテの王子もには振られたようね?」 「振られた?それは違うよ、アルウェン。は君がいるから照れてるだけだ」 「……その前向きな性格も変わってないようね、レゴラス…」 「君は会うたびに嫌味に磨きがかかってるよね」 「「…………」」 暫し睨みあう2人。 どこかヒュ〜っと冷気が漂っている気さえする。 そんな不穏な空気が流れる場所へ、一人の男が現われた。 「おやおや、御揃いかな?」 「「…アラゴルン!」」 3人が振り返ると、いつの間に来ていたのかアラゴルンがニヤっとしながら立っている。 相変わらず汚い格好で、またどこかフラフラと旅をしていたようだ。 だがアルウェンはかまわず彼に駆け寄りガバっと抱きついた。 「お帰りなさい…」 「ただいま、アルウェン」 アラゴルンは優しい笑みを浮かべるとアルウェンをギュっと抱きしめ、額に口付けた。 それを呆れ顔で見ていたレゴラスも、ふとが自分を見ている事に気づき、ニッコリ微笑んだ。 「僕らも"アレ"やってみる?」 そう言って未だ抱き合っているアラゴルンとアルウェンを指差せば、は真っ赤になってパっと顔を逸らしてしまった。 「ちょっとレゴラス…あまりをからかわないで」 2人の様子に気づいたアルウェンがジロっとレゴラスを睨む。 だが当の本人は何処吹く風といった顔で、「からかうものか。僕は本気さ」と肩を竦めた。 その言葉にアルウェンは溜息をつき、アラゴルンは苦笑いを浮かべる。 「まあ、とりあえず城に戻ろう。使いで来たんだろう?レゴラス」 「まぁね。でも一国の王たる貴方が、また汚い格好でどこに行ってたんですか?」 皆で城へと向かいながら、レゴラスはアラゴルンを見て目を細めた。 「いや何。その辺を散歩だよ」 済ました顔で答えるアラゴルンにアルウェンはクスクス笑っている。 彼のそういう行動には慣れているのだろう。 あの辛く厳しい戦いから数十年が経ち、最近ではやっと真の平和が戻って来た。 だからなのか、王となった今でもアラゴルンは放浪グセが直っていないようで、フラリと旅に出てしまう事がある。 そのまま城へと戻り、レゴラスは父王スランドゥイルから託った事をアラゴルンに告げ、軽く一時間ほど話し込んだ。 「では、そのように」 話し終えるとアラゴルンは「ふぅ」と軽く息をついて椅子へと凭れかかった。 そして、すぐに立ち上がると堅苦しいマントを脱ぎ捨て、とても王とは思えない服に着替えている。 それを見ながらレゴラスは内心、変わってないなと苦笑した。 「ん?何がおかしいんだ?」 「いえ、そういう格好をしてると王には見えないと思ってね」 「格好で王になるものじゃない。私にはこれが一番シックリくるんだ」 アラゴルンはそう言うとレゴラスの隣に腰をかけた。 「で、今日はどうするんだ?泊まって行くんだろう?」 「そうだね。まだとまともに話も出来てないし。麗しの王妃に邪魔をされてね」 レゴラスが済ました顔で肩を竦めると、アラゴルンが小さく笑った。 「まあ、そう言うな。娘が心配なだけだ」 「心配?」 「だいたいお前が強引過ぎるからが逃げるんだぞ?」 「僕は素直な気持ちを態度で示してるだけだよ。それとも父君まで反対するのかな?」 レゴラスはそう言いながらアラゴルンを横目で見た。 だがアラゴルンは笑いながら軽く首を振るとパイプを咥えて天井を仰いだ。 「私はお前がを大切にしてくれると信じている」 「もちろん。そういう約束だ」 レゴラスはちょっと微笑むと静かにソファから立ち上がった。 「彼女が生まれた時、僕は本当に嬉しかった。あなたの娘が見れるなんて長生きもしてみるものだ」 「まさか、その後に"僕の妃にしたい"と言い出すなんて思わなかったけどな」 そう言いながらアラゴルンは苦笑を洩らすと、「懐かしいな…」とあの日の事を思い出したのか軽く目を瞑る。 レゴラスもちょっと微笑むと、「ほんとに」と呟いた。 アラゴルンとアルウェンに娘が生まれたと知らせを受けて、一番先にお祝いを言いに来たのがレゴラスだった。 生まれたばかりの天使のような彼女を見て、レゴラスは瞳を輝かせた。 「まさか…赤ん坊に運命を感じるなんて、ね」 自分でもおかしくなったのか、思わず苦笑いを浮かべる。 「でも…確かに感じたんだ。彼女は…僕が待っていた女性だと…」 「まあ、それを聞いて私もアルウェンも驚いたがな…」 「アルウェンなんか、僕の事をロリコンだの何だのとバカにしてたじゃないか」 「そりゃそうだろう。とお前がいくつ離れてると思ってるんだ?まあ…今では見た感じ、そうは見えないが」 アラゴルンは未だ青年のような容姿のレゴラスを見て苦笑した。 彼は一緒に戦ってた頃のまま、綺麗な微笑を浮かべ、王子としての風格も備わっている。 「だが…まだがエルフのように長生きをするとは分からない。それでもいいのか?」 ふとアラゴルンが呟いた言葉に、レゴラスは僅かに眉を顰めた。 確かに、アルウェンはエルフだが、父アラゴルンは違う。 その辺、どっちの血を引いているのか、まだ分からないのだ。 レゴラスは軽く息をつくとアラゴルンの方に振り返った。 「僕の運命の人だ。僕を置いていったりしない」 「…そうか。お前がそう言うなら…そうだな」 彼の言葉にアラゴルンは嬉しそうに微笑むと、「には…私のような思いはして欲しくない」と呟いた。 愛した人を置いて、先に逝く辛さなど知らずにいて欲しい、とアラゴルンは思っていた。 そんな彼の気持ちを察したのか、レゴラスは肩をポンと叩くと、 「では、そろそろ愛しい姫のところに行かせて頂きますよ」 「ん?ああ、そうだな…。きっと今頃は庭で遊んでいるだろう」 「もう暗くなるから迎えに行って来る。ああ、アルウェンは引き止めといて」 部屋を出て行きかけたレゴラスがシッカリ釘をさしていく。 その言葉にアラゴルンは苦笑するしかなかった。 レゴラスはゆっくりと城の周りにある広い庭を歩いて行った。 もう何度ここへ通ってきた事か。 彼女が小さな頃からだから、かれこれ18年にはなる。 あんなに小さかった彼女も、今では可憐な少女へと成長した。 いや…あの凛とした横顔を見ると、どことなく艶っぽさまで漂うようだ。 ――ザシュッ! 鋭い矢が太い木にかかった的に刺さる。 その先には綺麗な瞳で睨みつけるように的へ集中している長い黒髪の少女。 だいぶ前から弓を引いていたのか、汗こそかいていないけれど頬が少し上気していて、ほんのりと赤く染まっている。 (綺麗だ…) レゴラスは彼女の立ち姿を見て素直にそう思った。 アラゴルンの凛々しさとアルウェンの美しさを両方持っている。 ―――ザシュッ! 思わず見惚れていたが、また的に矢が突き刺さり、そこでハっと我に返った。 見れば矢は的の中央を見事に射抜いている。 そこでやっと腕が下ろされたのを確認するとレゴラスは軽く息を吐いた。 「…随分、上達したね」 軽く手を叩きながら静かに声をかけると、少女は弾かれたようにレゴラスを見た。 「レゴラス…また足音を忍ばせてきたのー?」 さっきの凛とした表情から一転、次の瞬間は子供のように、その小さな唇を尖らせた。 そんな彼女のギャップが可愛くて、つい顔が綻ぶ。 「まさか。普通に歩いてきたよ?気づかなかったなら、それだけ集中してたってこと」 そう言いながら、的に刺さった矢を抜くと、「ほんと見事だな」と呟いた。 その言葉には嬉しそうな笑みを見せて軽く目を伏せる。 に弓を教えたのはレゴラスだった。 別に争いのない今、王の娘であるが覚えなくてもいいのだが、子供の頃に見せたレゴラスの弓に興味を示したのだ。 「私もレゴラスみたいに弓を引いてみたーい」 そう言われて「姫がこんな危険な事をしなくていい」と最初は断ったが、 何度もせがんで来る彼女が可愛らしくてレゴラスもつい弓を教えてしまったのだ。 (もちろん両親である2人にもきちんと断りを入れて、の事だが) それからと言うもの、は飽きもせず、きちんと練習をしているようだ。 それだけでも何となく嬉しく感じ、レゴラスはに視線を移した。 彼女はそれほど疲れていないのか、サッサと弓をしまって帰る用意をしている。 ただ弓を引くには似つかわしくない格好にレゴラスは苦笑が洩れた。 「でも…そのドレス姿で弓を引くなんてお転婆過ぎない?」 「…だって着替えに戻るの面倒なんだもん」 その子供みたいな表情と理由に思わず笑みが零れる。 は少し俯くと上目遣いでレゴラスを見上げた。 「…お父様との話は終わったの?」 「うん。だからに会いに来た」 「………」 レゴラスの言葉に何となく視線を彷徨わせ、はパっと顔を逸らした。 子供の頃は兄のようにレゴラスを慕っていたのだが、ここ最近はあまり笑顔を見せてくれない。 それはアラゴルンの言うように、レゴラスがそろそろ男として接したいと強引に口説きだしたせいなのか、 それとも本気で避けているのか、レゴラスにも分からなかった。 でも、いつかこの気持ちが彼女に伝わると信じて、こうして何度も会いに来る。 「もう暗くなってきたし城に戻ろうか」 「…そ、そうね!私、お腹ペコペコー」 顔を逸らしたまま、ぎこちない笑顔でお腹を抑える彼女にレゴラスは小さく息をついた。 2人の距離が一定に保たれてるのも何だか少し寂しい。 (こうなったら少々強引にいくか…) 「な…何…ッ?」 心のままにの腕をそっと引き寄せると彼女は大きな瞳を丸くして顔を上げた。 その瞬間を見逃さず、レゴラスは素早くの額にチュっと口付ける。 途端にの頬がサっと赤く染まった。 「な…!何するのよーッ」 「何って…久しぶりに会えたから挨拶のキスだよ」 ジタバタ暴れるに澄ました顔で告げると彼女はぷぅっと頬を膨らませた。 「し、しないでいいわよー!」 「どうして?前は怒らなかったのに」 そう、子供の頃はこんな風にキスをしても嬉しそうに微笑んでくれてた。 なのに、この頃の彼女は、こんな風に怒り出してしまう。 その事実はレゴラスにとって、少し悲しいものがあった。 「もう僕のこと嫌いになった?」 逃げようとするの腕を拘束したまま気になってた事を尋ねる。 その問いにはハっとしたように顔を上げたが唇を尖らせたまま顔を逸らしてしまった。 「そ、そんなんじゃないけど…」 「けど…何?」 少し身をかがめ、顔を覗き込みながら更に問い掛けるとは困ったように視線を泳がせた。 何せ、目の前にレゴラスの綺麗な顔があるので直視できない。 レゴラスはの手を掴んだまま、矢の的になっていた木に彼女を押し付けた。 逃げ場を失ったは動揺したように目を見開いている。 「ちょ…何するのー?…離してよ」 「嫌だ。こうしないとはすぐ僕から逃げるからね」 「に、逃げるって…」 「逃げるだろ?僕が会いに来ても、いつもさ」 「そ、それはだって…」 「…これでも結構、落ち込んだりしてるんだけどね」 「……え?」 苦笑交じりで、そう告げるとは慌てて顔を上げた。 瞬間、至近距離で目が合い、ドキっとしたように瞳を揺らす。 「僕は…真剣なんだ。本当にを愛してる…前にも言ったよね」 「………」 レゴラスが優しく問うとはコクンと小さく頷いた。 「確かに…運命を感じたんだ。生まれた時代とか年齢とか関係ない。僕は君の全てを見てきて全てを愛しいと思ってる」 「………レゴラス…」 「にとって…僕っていう存在は何?」 その質問にはハっとしたようにレゴラスを見た。 「存在…?」 「そう。にとって僕は…必要な存在?それとも無用な存在…?」 「そ、そんな事…。レゴラスは…お兄様みたいで…それで…」 「僕は…の兄じゃない。兄にはなれないよ。君を愛してるから」 「………ッ」 ハッキリ告げるとの瞳が大きく揺れた。 レゴラスの瞳は真剣で熱い想いが伝わってくるようだ。 は胸が苦しくて喉の奥が熱くなるのを感じた。 「きゅ、急に…そんなこと言うから…私…」 「…え?」 あ、と思った時には遅かった。 の瞳からは大きな涙が零れ落ち、レゴラスはハっとして腕を離してしまった。 「…レゴラスのバカ…」 はそう呟くと身を翻し、走って行こうとした。 だが…… 「…ひゃっ」 ズデ…ッ! 「…?!」 見事、木の枝に足を引っ掛けて、その場に転んでしまった。 「い、痛ーーい…ッ」 「だ、大丈夫?!」 その場に蹲っているにレゴラスは慌てて駆け寄った。 「ど、どこか怪我した?」 「…ひ、膝が痛い…」 さっきの余韻も手伝ってポロポロと涙を零しながら呟く。 レゴラスは急いで長いドレスの裾をめくり、彼女の膝を見てみた。 すると転んだ時に打ったのか、少し擦りむけている。 まあエルフなのだから、こんなのは傷のうちに入らないが、は「痛い…」と泣いていて、 レゴラスは急いで腕に巻いていた布を外し、彼女の細い足に巻きつけてあげた。 「ほら、こうしておけばすぐ治るよ」 「……ほんと?」 「ああ。だから、もう泣かないで…」 子供のように涙が止まらない彼女にレゴラスは優しく微笑んで頭を撫でてあげた。 すると少し落ち着いたのか、は涙を堪えようとキュっと唇を噛み締め頷いた。 だが嗚咽が洩れるのか、肩がかすかに震えていて、とても頼りなげに見える。 泣かせるつもりじゃなかったのに… 少し焦ってしまったかな… そう思いながらレゴラスは軽く息をついた。 「ごめん…。を泣かせる気はなかったんだ…」 そう呟くとはふるふると首を振って顔を上げた。 辺りはすっかり暗くなり、月明かりだけの中、の涙がキラキラと光って見える。 その瞳にドキっとしてレゴラスは思わず、息を呑んだ。 (そんな表情で見られたら…ちょっと理性が持たないんだけどな…) だんだん早まる鼓動を落ち着けようとレゴラスはから少し離れようとした。 だが…ツンっとなって視線を向ければ、がマントをしっかり握り締めている。 「…どこ行くのー?」 「どこにも行かない。ただちょっと…」 "理性が持たないんだ" なんて言える訳がない! 心の中でそう言いつつ、ぎこちない笑顔を見せる。 はそんなレゴラスを不思議そうに見ていて、またその顔も可愛らしい。 そんな彼女を見ていたらハッキリ言って理性なんて簡単に吹き飛んでいく気がした。 「…今日は逃げないね」 「…え?」 「いつもなら…の方から離れて行くから」 そう言って伺うようにの顔を覗き込むと、見た目で分かるくらいに頬が赤く染まった。 「だ、だって、いつもはレゴラスが…」 「強引に抱きしめるから?」 「う…」 分かってた事を言葉にすると、は困ったような顔をした。 そんな彼女に苦笑しつつ、「やっぱり」と言ってレゴラスは肩を竦めた。 「分かってるんだけど…久々に会うとどうしても、ね」 そう言って彼女の小さな手をそっと握った。 はドキっとしたように手に力を入れたが、構わずその手を引き寄せる。 「…こういうこと、したくなるんだ」 「ちょ…ちょっと…っ」 「…少しだけこのままで…ダメ?」 小さな声でそう呟くとの体がピクリと動いた。 そして何も言わないのを確かめると、レゴラスは少しだけ強く彼女を抱きしめる。 辺りはシーンとしていて、互いの心音だけが聞こえてくる。 トクン…トクン…と、それは永遠を刻む音―― 「…愛してる」 たった一言、胸に溢れた言葉を口にした。 別に答えを言って欲しいとか、思ったわけじゃない。 素直に感じたことだけが言葉になって出てきただけ。 「……私…も…」 なのに――彼女の口から小さな言葉が紡がれた。 ゆっくり、体を離し、彼女を見つめる。 の瞳にはもう涙もなく、澄んだ目でレゴラスを見つめていた。 「…ほんと、に…?」 「………」 レゴラスの問いには小さく頷いた。 「…ほんとは…私も子供の頃からレゴラスの事…好き、だった…。でも私は子供だったし…」 「……」 「だから諦めたのにー…。なのに…レゴラスは…」 はそこで言葉を切ると少しだけスネた顔を見せた。 「頑張って…諦めたのに…あんなこと言うから…会いに来るから…混乱しちゃって…」 「…それで…避けてたの?」 「………だって…からかわれてると思ったんだもんー…」 はへニャっと眉を下げるとレゴラスの胸に顔を埋めた。 「……私で…いいの?子供だし…それに―」 「いいよ…。それに…は俺を置いていかない…」 レゴラスの、その言葉にはパっと顔を上げた。 「…ど…どうして…」 「言ったろ?運命を感じたと。その君が先に逝くはずがない」 「…レゴラス…」 再び、の瞳に涙が浮かぶ。 それを指で拭うと、レゴラスは優しく微笑み、の額に軽く口付けた。 「は…僕と永遠の時を過ごすために、ここにいるんだ」 そう告げた途端、の頬にポロっと涙が零れた。 それを今度は唇で掬ってあげると、彼女の頬が赤くなっていく。 その表情に我慢も限界を超え、レゴラスはゆっくりと身をかがめ、の唇に触れるだけのキスをした。 「―――ッ!!!」 案の定、は一気に真っ赤になり、バっとレゴラスから離れてしまった。 そして口をパクパクしながら、キョトンとしているレゴラスを睨む。 「な…何するのーーっ!」 「何って…キス…」 想いを確かめ合ったのだからキスくらい、と思っているとは真っ赤な顔でレゴラスを突き飛ばした。 「さ、最低ー!レゴラスのエッチ!!」 「えぇ?何でだよ?」 の言葉にガーンとショックを受け、レゴラスまで顔が赤くなる。 だがは耳まで赤くしてレゴラスから逃げ出そうとジタバタし始めた。 「ちょ、?」 「離してよー!」 「な…何でそんな怒ってるんだ?僕のこと愛してるって…」 逃げ出そうとするを抱きしめ、レゴラスが疑問をぶつけた。 だがは涙目のままレゴラスを睨むと、 「け、結婚もしてないのにキ、キスなんてしないものーっ」 「は…?」 「お母様が結婚まで守るのよ、って教えてくれたんだからっ」 「…………」 その言葉にレゴラスは一瞬、半目になってしまった。 (ア、アルウェンめ!何て大嘘を…!!) 若き日の彼女を思い出し、レゴラスは頭に来た。 (自分だってアラゴルンと会うたびに濃厚なキスシーンを演じてたじゃないか!何を言ってるんだ、全く!) そう思いながら、まずはを落ち着かせようと優しく抱き寄せた。 まあ確かにレゴラスからしたら、はまだまだ子供で、ただのフレンチキスで動揺してもおかしくはない。 「ちょ、落ち着いて…」 「離してーレゴラスはやっぱりエッチなんだー!お母様も言ってたんだから」(!) 「………!!(軽い眩暈)」 後で覚えてろ、とアルウェンへの怒りを心に秘めつつ、レゴラスは軽く咳払いをした。 「あ、あのね、。キスは…結婚まで待たなくてもいいんだよ?」 「嘘ーッ」 「ほんと。現にアルウェンだってアラゴルンとしてたんだ」 「えぇ…?!だ、だってお母様はそんなこと…」 「きっと僕との関係を心配して嘘を言ったんだ。これはアラゴルンに聞いてもらえば分かるから」 何とか冷静に説明すると、もともと素直な彼女は何とか信じてくれたようだった。 「ほんとに…お父様に聞けば分かる…?」 「ああ、もちろん」 引きつりつつも、にこやかに頷くとはやっと暴れるのをやめてくれた(すでに息切れ) それにはホっとして軽く息をつくと、もう一度優しくを抱きしめる。 (はぁ…女性にキスをして、ここまで暴れられたのは初めてかもしれない…)(!) そんな遠い過去を思い出しつつ、内心苦笑する。 そして気分も落ち着いてきた頃…さっきのキスの余韻で再び体が熱くなってくるのを感じた。 そもそもをこんな長い間、抱きしめてる事すら初めてでレゴラスの気分も高まっているのだ。 (どうしよう…また…キスしたいとこだけど…したら暴れるかな・・・)(!) ふと、そんなことが頭を過ぎる。 さっきの説明で納得したのか、今のとこは大人しく腕に収まってくれていて昔のように甘えているようだ。 レゴラスはそっと体を離すと、の顔を覗き込んだ。 はドキっとしたように顔を上げたが、先ほどのように逃げる様子もない。 それを確かめるとレゴラスは再び、唇を近づけていく。 (だいたい長年、待ってた彼女との初めてのキスを、こんな思い出で残したくない…!) そう思いながら少し体を硬くしたを抱き寄せ、唇を塞いだ。 「…ん…ッ」 一瞬、驚いたように身を引いたが更に腰を抱き寄せると少しづつ力を抜いていく。 それを感じ、レゴラスは触れるだけのキスを繰り返した。 その優しいキスにも今度は大人しくされるがままになっている。 だが、やはり待ちつづけた愛しい彼女と何度も唇を触れ合わせていると自然に体も火照ってきてしまう。 触れるだけのキスが少しづつ深くなり、の口から息苦しそうな声が洩れてきた。 レゴラスは本能のまま、更に深い口付けをしようと、薄く開いた唇からそっと舌を入れた、その瞬間―― 「…んンッ…やぁぁぁーーッッ!!」(!) 庭にの絶叫が響き渡り、レゴラスは思い切り………ひっぱたかれたそうな。 「何も思い切り叩かなくても…」 部屋に戻った後、レゴラスは赤くなった頬をさすった。 「ご…ごめんなさぃ…」 も悪いと思っているのか、シュンと頭を項垂れている。 あの後、の悲鳴を聞きつけて兵士が沢山飛んできて大変だった。 相手がレゴラスだった事で特に何もされなかったが、騒ぎを聞きつけたアルウェンが凄い形相ですっ飛んできたのだ。 「に何したの!」 真っ赤な顔のまま放心状態のを見てアルウェンはレゴラスに詰め寄った。 だがそこへ、アラゴルンがやってきてアルウェンを宥めてくれたおかげで何とか騒ぎは収まったのだった。 「まあ…2人でゆっくり話したらいい」 レゴラスとの様子に気づいたアラゴルンはレゴラスのために客室を用意してくれて先ほど2人でやってきたのだ。 「あ、あの…ビックリしちゃって…その…」 真っ赤になって誤ってくるをレゴラスは苦笑交じりで抱き寄せた。 「嘘だよ…。そんな誤らないで。悪いのは僕だし」 「……怒ってない?」 チラっと伺うように見上げてくるの可愛さに、つい顔が綻ぶ。 「怒ってない。にしたら初めてのことだし…仕方ないだろ?」 「………恥ずかしぃー」 は僕の胸に顔を埋めてギュっと抱きついてきた。 その仕草が幼い頃の彼女と同じで、僕は優しく頭を撫でてあげる。 そう、彼女はまだ子供なのだ。 あまり焦らず、ゆっくりいかないと… …って焦ってプロポーズして、ついでにキスまでしたのは僕なんだけど。 レゴラスはそう思いながらの背中にそっと腕を回して優しく抱きしめた。 「でも…の気持ちが分かってホっとした。それだけで十分幸せだよ」 「……私、も…」 は少し顔を上げて照れくさそうに微笑んだ。 その笑顔があまりに可愛くて、さっき焦らない、と誓った決心が揺らぎそうになる。 (ダメだ…ここでまた変な気を起こしたら、さっきみたいに驚かせてしまう…) キスしたい衝動を何とか抑えると、レゴラスはゆっくりを離した。 「じゃあ…もう遅いし…部屋に戻って」 「……え?」 はその言葉に一瞬、寂しげな顔を見せた。 「まだ一緒にいちゃダメ…?」 「…え…いや、ダメって言うか…」 潤んだ瞳でそんな事を言われ、レゴラスはクラっとした気がした。 (せっかく紳士のまま(?)帰そうとしてるのに決心がグラつきそうなこと言わないで欲しい…) 「私だって…ずっと我慢してたんだよ…?」 「…」 「レゴラスはモテるし…大人だし…。きっと私の事は妹みたいにしか思ってないって思ってた…」 「…あんなにアピールしてたのに?」 その言葉に苦笑しながらレゴラスが顔を覗き込むと、は一瞬、頬を染めた。 「だ、だって…からかってるんだって思ってたから…。レゴラスも軽い感じで言うしお母様もそう言ってたし…」 「……(またアルウェンか!)」 「だから…今日、本心を聞けて…嬉しかった…」 「……僕もだよ。まあ…僕はが絶対、好きになってくれるって思ってたけど」 「…え?」 「運命を感じた瞬間からね」 少しおどけた口調で、そう言うとは目をパチクリさせたが、すぐ照れくさそうに微笑んだ。 「じゃあ…もう少し一緒にいていい…?」 「……え、っと…それはだから…さ」 また振り出しに戻り、レゴラスは視線を泳がせた。 そんなウルウルした瞳で見上げられたら、ついうっかりキスしてしまいそうだ。 「レゴラス…?」 何も答えないからか、不安げな顔でジっとレゴラスを見上げる。 その視線に冷静な顔でいながらドキドキしてきたレゴラス。 頭の中で理性と本能が戦っている事をは全く知らない。 だがレゴラスが黙ったままなのを見て、は小さく息をついた。 「分かった…。部屋に戻るね…」 ショボンとした彼女にレゴラスの胸が痛んだ。 本当なら自分もまだと一緒にいたい。 でも… 「…明日も会えるよ。それに…この先、ずっと僕らは一緒だから」 最後にをギュっと抱きしめ、そう告げるとはすぐに笑顔を見せた。 「うん…。ずっーと一緒にいてね?」 「もちろん」 「じゃあ…おやすみなさい…」 はそう呟いて、そっとレゴラスから離れた。 彼女の温もりが腕から離れ、寂しいと感じながらレゴラスも笑顔を見せる。 「お休み。また明日…」 そう言って手を上げるとは部屋を出て行こうとした。 だが、ふと足を止めると再びレゴラスの方に振り返る。 「…?どうした?」 「あ、あのね…」 何やらモジモジしているを見て、レゴラスは首を傾げると少しだけ屈んで彼女の顔を覗き込んだ。 その時、不意に重なる柔らかい唇。 「――――ッ?」 「お、お休みの…キスだから」 真っ赤になった顔でそう言うと、は慌てて部屋を出て行ってしまった。 レゴラスは暫し放心状態だったが、ハっと我に返り、思わず手で唇に触れてみる。 まだ、そこには彼女の温もりが残ってるようで、胸が熱くなるのを感じた。 「…愛してる」 そう呟いて想いが通じ合った喜びをかみ締める。 君が生まれたあの瞬間から…こうなる事が運命だと感じた。 自分の宿命を悲しんだ事も、恐れた事もあったけど…でも―― 君との永遠なら怖くない この先 例え 何があったとしても。 ***その頃、王様の部屋では・…*** 「アラゴルン!あなたは自分の娘をあんな似非王子にあげるつもりなのッ?!」 「い、いや、待てアルウェン…!そんな怒るな!レゴラスだって本当はいい男じゃないか!」 「何言ってるの!いくらエルフは見た目が歳をとらないからって…!離れすぎじゃない!」 「い、いや私たちだって十分に離れてるだろう?」 「何ですって?あなたは私が歳だと言いたいの?!」 「ち、違う!何故、そうなる!アルウェンが何歳…いや何百歳、年上でも私は君を愛してるよ!」 あの日のある夜… たった一人の王子が原因で…ゴンドールに、国王の情けない雄たけびが響き渡った… 典子様へ 『LOTRレゴラス。甘甘。 レゴラスはセクハラまがいに積極的でヒロインはそれに慣れなくて逃げ回ってる。 とかどうでしょうか?』 というリクエストで御座いましたね…(冷汗ボタボタ。゜(゜´Д`゜)゜。) なのにちょっと変わってしまったような気がしてなりません;;すみませ;! 何だか王子も王様も王妃も全て似非となっておりますね…(苦笑) ちょっと違ったイメージのアルウェン、王子の邪魔ばかりしちゃってます…あはは; うーん、ギャグ路線でいくはずが…何だかまとまりのない内容になってしまいました(´;ω;`)ルルルル〜 こんな不出来で申し訳御座いませんー!エーン! でもでもリクエスト、本当にありがとう御座いました<(_ _*)> C-MOON@HANAZO
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