After friendship

 








「…ん…」





意識が戻った瞬間、俺は異様なほどの頭痛と吐き気に襲われた。




















こんなに―――好きだったんだ…

















「ぅう〜頭痛ぇ…」


うつ伏せになったまま、思わずそんな言葉が口から洩れる。
これは夕べ飲んだアルコールのせいだと理解した時、体を動かすのさえ恐ろしくなった。


あぁぁ…ムカムカするし気持ち悪い…
夕べ何時まで飲んだっけ…


そう思いながら、ゆっくりと目を開ける。
そして目の前にいる人物を見た瞬間、一気に脳が覚醒した。


「―――ッ」


驚いてガバっと起き上がると一瞬クラっとして天井が廻った気がした。
それでも軽く目を擦りつつ、恐る恐る後ろを振り向くと、確かにそこには人が寝ているようだ。
タオルケットからかすかに長い髪が見えているし、それだけで隣に寝ているのは"女"だと分かる。


(嘘だろ…?俺、夕べ女なんて連れこんだか?)


二日酔いの気持ち悪さプラス寝ぼけた頭で何とか夕べの記憶を辿って行く。


そうだ…昨日は…確か…
撮影が思ったより早く終わったからマネージャーであり、学生以来からの友人であると一緒に食事に行ったんだ。
そこで、アイツがワインなんか飲むから俺も難しいシーンの撮影が終わった開放感で一緒にそのワインを飲んだ。
アイツも俺も酒は強い方だし軽くボトル一本は空けてしまって、そのまま結局飲みに行こうって話になったんだっけ…
で…互いの家の近くにある行き着けのショーパブに行って…
そこでも、かなりの量の酒を飲んだ気がする。
ショーに出てるダンサーも仲がいいから一緒に飲もうって事になって…
それで…それで、どうしたっけ?


部屋を見渡せば、そこはどう見ても俺の家だ。
って事は記憶がなくても、ちゃんと帰ってきたって事だろう。
ショーパブに行って…皆で楽しく飲み始めたとこまでは覚えている。
だけど、その後の記憶が綺麗に消え去っていた。


確か…ジンを5杯一気飲みしたトコまでは覚えてるんだけど…
その時は俺の隣に二人、ダンサーの女がベッタリくっついてたはず…
え…って事はまさか…ダンサーの子を誘って…お持ち帰りした、とかじゃないよな?!


かなり焦って、もう一度隣で眠っている女を見た。
その時…





「う…ん…」


「――――ッ?」





女が僅かに動き、タオルケットがハラリと肩を滑り落ちていく。





「嘘だろ…」





こちらに顔を向けた女は裸で、しかも――――






…?」








隣で眠っていたのは俺の親友であり、マネージャーでもあるだった。










「ん…?」


「――――ッ!!」







寝返りを打った事で覚醒したのか、がゆっくりと手で目をこすり始めた。
動いたせいで裸の胸元が僅かに見えてドクンと心臓が跳ね上がったのと同時に顔まで熱くなる。
慌てて後ろを向いてベッドから立ち上がると、俺は見つかる前に寝室を出て行こうとした。







「あれ…マット…?」


「ぅ―――ッ」






ドアノブに手を掛けたその時、後ろから寝ぼけた声が聞こえ、俺はビクっとその場に固まった。










「……おはよ…」


「あ、ああ…」


振り向かないまま、何とか返事をする。


「マット…」
「ん…?」
「……喉渇いた…」
「……ああ…水…持って来てやるよ」
「…サンキュー。お願い…はぁ…頭痛〜ぃ…」


も当然のように二日酔いなのか、そんな事をぼやきながら再び寝返りを打ったようだ。(音で分かる)
俺はそのまま急いで寝室を飛び出すと一気にキッチンまで向かった。


「はぁぁぁ…!ビックリした…」


膝に手をつき、大きく息を吐き出す。
未だドキドキしている胸を抑えながら、シッカリと目に焼きついてしまったの肌を振り切るように頭を振る。
まだアルコールが残っていてクラクラしたが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。


この状況になった事を思い出さないと…!
と言うか…そもそも何でが俺と一緒に寝てたんだ?!
いや…が俺の家に泊まって行った事は何度もある。
でもそういう時はちゃんと別の部屋に寝てるし、あんな風に同じベッドで寝た事なんて一度もない。
だいたいと俺は親友であり、互いに異性として意識なんてしてないんだから。


学生の頃から仲が良く、周りの友人達からは、よく"付き合ってるのか?"なんて疑われた事もあったが、
何故か俺とは一度もそういった関係になった事がない。
俺もあいつの事を"女"として意識した事はないし、あいつだって俺の事を"男"として意識した事なんてなかったはずだ。
何て言うか…凄く気の合う…そう、まるで同姓の友人のような感覚で俺達は付き合っていた。
と言うよりは俺もあいつも同姓の友人なんかより、互いを信頼し、色々な事を相談したりもしてきたんだ。
今も公私に渡っていいパートナーである事は昔と変わらない。


それにお互い、恋人が出来たら必ず紹介しあって来たし、変な嫉妬だって生まれた事がない…はず。


なのに…何でそのが裸で俺のベッドに?!
いくら酔ってたからって、俺達に限ってそんな関係になるわけがない…!(と思う)



「と、とにかく…に聞いてみないと…」


俺は動揺しながらもに持っていくのに冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、軽く深呼吸をした。


の奴も…今頃、自分が裸だって事に気づいて青くなってるかな…)



そう思うと寝室へ向かう足が重い。
最初、何て声をかけたらいいんだろう?なんて頭を悩ませつつ、廊下を歩いていった。






「おい、―」


静かにドアを開けて、中へ声をかける。
一応、も裸のままだったらマズイと思ったのだ。
でも一向に返事が返ってこないから俺はゆっくりと寝室へ足を踏み入れた。


「おい…?って…また寝たのか…?」


ベッドを見ればはうつ伏せのまま、スヤスヤと眠り込んでいた。
が、タオルケットはさっき以上に下がり、今はの腰の辺りまでいっている。
おかげで彼女の綺麗な腰のラインや、真っ白な背中がモロに目に飛び込み、俺は慌てて視線をそらした。


「…た、ったく…!気づかないまま寝るなよ…っ。つか何で全裸なんだよ?!」


一人、真っ赤になって、そんな事をボヤくも、当の本人はスッカリ夢の中。
俺は思い切り溜息をついてベッドに歩み寄るとサイドボードの上にミネラルウォーターを置いた。
そのまま部屋を出ようとすると、不意に手を掴まれ、ハっと振り返る。


「マット…?」
「…お…起きたのかよ?」


気配で起きてしまったのか、はゆっくりと目を開け、俺を見上げた。


「うん…水…持って来てくれたんだ…」
「あ…ああ…そこに置いてあるから…」
「ありがと…って、どこ行くの?」


俺が再び歩き出そうとすると、が掴んだ手を引っ張ってくる。


「ど、どこって…シャワー…シャワー入って来るんだよ」
「そう……ふぁぁぁ…よく寝た…」
「…ぅわ!バカ!体起こすな―!」
「え…?」



大きく伸びをして体を起こそうとしたに慌てて叫ぶ。
だが時すでに遅し。
は両腕を思い切り伸ばし、キョトンとした顔で俺を見上げている。




「ぁ……」


「……ぇ?」




俺も男だ。
つい視線は目の前にある綺麗な形をした胸に釘付けになった。
そして……も自分の置かれている状況に気づいたのか、驚いた顔で俺と自分の胸を交互に見ながら―
























「きゃ…きゃああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!!」




























大きな悲鳴が部屋に響き渡った。










「んな!何で私、裸なのよ!!!!」








自分が裸だと気づいたはガバっとタオルケットをかぶり中に潜ってしまった。


「そ、それは俺が聞きたいよ!」
「な…何よ、それ!ってか、しかもここ、マットの寝室じゃないの!何で私がマットのベッドに寝てるわけ?!」
「だから俺の方が聞きたいって言ってんだろ?!」
「はあ?私が知るわけないでしょ?!」
「は?って、まさか…も覚えてないのかよ?!」
「……え?って事は…マットも…?」




は俺の言葉に少し驚くと、モソモソと動いてタオルケットから顔だけ出した。
そんな彼女を見て軽く息をつくと、ベッド脇にあった椅子にドサっと腰を落とす。




「ああ…実は…俺も夕べどうやって帰ったのか覚えてなくてさ…。今朝、起きたらお前が隣にその格好で寝てて―」
「な…!見たの?!」
「み、見てねーよ!!」


の言葉に慌てて否定する。
だが彼女は納得いかないといったように睨んできた。


「嘘!さっきはモロに見たくせに!」
「な!さ、さっきのは不可抗力だろ?!だいたいが起き上がるから―」
「だってまさか裸とは思わなかったのよ!ちゃんと言ってよね?!」
「言おうとしたんだよ!でもが先に起き上がったんだろ?!」
「……ぅ」



俺の言葉にはグっと言葉を詰まらせ、唇を尖らせた。
そして―








「ねぇ…」
「あ?」
「……も…してなぃ?」
「は?よく聞こえない」
「だ、だから…!」



は顔を赤くして俺から視線を外した。



「な、何もしてない…でしょうね?」
「はあ?するわけないだろ?…た、多分…」
「ちょ、ちょっと!何よ、その"多分"って!あ!ま、まさかマット…酔っ払ったのをいい事に私をベッドに無理やり―」
「バ、バカ言うな!俺がそんな事するはずないだろ?それもお前に!」
「な、何よ!その言い方!失礼ね!これでも私、何度か俳優に口説かれた事だってあるんだから!」
「は?聞いてないぞ?そんな話…誰にだよ?」
「だ、誰だっていいでしょ?マットには関係ないっ」
「……何だよ、その言い方…。関係あるだろ?俺だって一応、親友として―」
「し、親友だからって何で何もかも話さないといけないわけ?」
「……む…」



その言葉に何故か胸が痛み、俺はそこで言葉を切った。


(何だよ…そんな言い方しなくたって…)


も何となくばつの悪い顔をして俺から目をそらすと、



「ちょ、ちょっと…」
「何だよ…」
「服、取って…」
「…へ?」
「へ?じゃなくて!服、取って!こんな格好のまま出れないでしょ?」
「あ、ああ…服ね」


その言葉どおり、俺はベッドの下を確認すると、床に散らばっていたの服を手に取ろうとした。
だが"あるもの"を見つけ―










「取ってくれた…って、ちょ、ちょっとそれ私のブラ…ッ」







俺の手の中にある"モノ"を見ては一気に赤面した。
そして勢いよく手を伸ばして来たが、俺はあえてヒョイっとその手をすり抜ける。


「な、何すんのよ、マット!」


俺の行動にはますます顔を赤くして怖い顔で怒鳴っている。
だけど俺はさっきの仕返しとばかりに手の中にあるものを彼女から遠ざける。


「返してよ!」
「どうしようかなー」
「…は?何言ってんのよ…っ」
「だって、よく考えりゃ、いい眺めだし?」


からかうように、そう言うと俺はニヤリと笑った。
はそんな俺を見て耳まで赤くすると怖い顔で睨んでくる。


「どういうつもり?意地悪なら―」
「どういうつもりもないけど…まあ、こうして見るとも女だったんだなぁって思っただけ」
「……な…っ」


俺の言葉にはギョっとしたように体を竦めた。
それを見ながらゆっくりとベッドに近づき、端へと腰を掛ける。
もちろん、これもをからかうための行動だった。
なのにはビクっとして不安げな顔で俺を見てきた。
いつもは気が強いくせに、今はまるで追い詰められた子猫のような顔。
そんな表情を見るのは初めてで、さすがに少しドキっとする。


何だよ…そんな目で見るなよな…
そんな風に怯えられたら…本当にが"親友"ではなく、"女の子"に見えてきてしまう。
手を伸ばして…抱きしめてしまいたくなる。


「か…返してよ…っ」


そんな俺の心情を知ってか知らずか、は涙目で俺に哀願してきた。
言葉は普段と同じようだが、何となく声が小さくて弱々しい気がする。
その潤んだ瞳と先ほど見てしまった白い肌が重なり、俺の鼓動が更に加速し始めた。


ずっと友達だと思ってた女。
絶対に恋愛対象にならないと思ってた女。





でも…違う…。


いや…"違ってた"事に今更ながらに気づいた気がした。





俺は"恋"とかいう感情でコイツを傍に置いて…失いたくなかっただけだったんだ―――







"恋"はいつか終わる。




でも―




"友情"ならずっと続いてく。





何度ケンカしたって…何度怒らせたって…きっと時間が経てばいつも通りの関係に戻れるから。






そう思ってたから。




だから。







俺はを"女"として見るのをやめてしまったんだった……























「マ…マット…?!」








すっぽりと俺の腕の中に納まった"親友"は驚いたように体を硬くした。
それを無視して強く細い体を抱きしめる。


初めて知った。


こいつがこんなにも華奢だって事。


いつも強気なこいつが抱きしめただけで震えるようなか弱い、"女の子"だったって事。








「…ど…どうしたの…?放して―」


「初めて知ったよ…」


「…え?」








僅かにが顔を上げて俺を見上げてくる。


赤く染まった頬、そして潤んだ瞳を見て、俺は心の奥にあった"感情"を素直に口にした。










「俺…こんなに―――好きだったんだ…。お前の事…」



「―――ッ?」











その言葉にの瞳が大きく見開かれた。


でも何も言わせないように、俺はゆっくりとその小さな唇に自分の唇を重ねる。


一瞬、の体がビクっと動いたけど気にせず、何度も触れるだけのキスをした。













俺の中で…が"親友"から"女"に変わった瞬間だった。















「マ…マット…?」














僅かに唇が離れた合間にが俺の名を呼ぶ。


それでも何度も口付け、知ったばかりの自分の想いを確認するように彼女の唇を愛撫した。











「…ちょ…マット…」


「ん…?」


「ま…待って…あの―」


「待てない」










キスの合間に、そんな会話が交わされる。
もう"その気"になった俺は自分でさえ止めることが出来ないから。
もっとに触れて、この想いを知りたいって思った。


もっと、もっと、もっと彼女を――感じたい。









「わ…私の気持ちは…無視なの…?」



「……何?嫌なら逃げていいよ?」







キスをしながら苦笑交じりでそう囁く。
だって嫌なら、の事だ。
とっくに俺を突き飛ばすか、ぶん殴るかして逃げてるさ。
それに…今までだっての考えてる事は何でも分かってきたつもりだ。
おかしな話だけど…自分の気持ちを理解した時、何故かの気持ちまで分かった気がしたんだ。










「ズ、ズルイ…」


「…何が?」


「自分だけ…優位にたっちゃうなんて―」










は小さく呟くとギュっと俺の胸元を掴んできた。
それに気づき、裸の背中を指でなぞった。









「…ひゃ…」








ビクンと跳ねた体を勢いよくベッドに押し倒し、上に覆いかぶさると瞳に涙をためたと目が合った。







「もう一つ…知った」


「……ぇ?」







真っ赤になって俺を見上げてくるの唇に優しく口付ける。









がこんなに……可愛いってこと」











でも、それも嘘、かな?









気づかないフリをしてただけなんだ。









でもそれも…今、この瞬間で終わらそう。








二人で。














































After Friendship











             友情の後に残るのは―――この確かな想いだけ



























美桜さんへ

 
『お相手はマットでお願いします!
設定は、マットの学生時代からの友達であり現マネージャー。
言いたいことをなんでも言い合える関係で、お互いの全てを知り尽くしている。
そんな2人がお互いに恋愛感情を抱き始めるっていうような感じがいいのですが・・・


あぁぁーん(何)マットが偽者になってる…!il||li _| ̄|○ il||li
す、すみません…<(_ _;)> (Miss.土下座?)
ちょっとエロモード突入のマットを狙ってたんです…(ぇ)
長らくお待たせしてしまったわりに、こんな似非マットで申し訳ないっス…(涙)
ほんとにリクエスト、ありがとう御座いました<(_ _*)>


 C-MOON@HANAZO