"愛されたい"と願うのは―――罪ですか?
「おい、!これ、フィッティングルームに運んでおいて」 いくつかの仕事を終えて戻ると、そう言われ目の前に置かれた沢山の衣装を見て、つい溜息が出そうになる。 だがこれも仕事、と割り切って笑顔で「OK!」と答えると腕に何着もの衣装を抱えた。 私がこのスタジオにバイトに来るようになってから数ヶ月が経とうとしている。 日本から憧れの地、ロンドンに留学をした私はなるべく、こっちに慣れようとバイトをする事にしたのだ。 そこで、たまたま見た雑誌にこのスタジオでのバイトが載っていて給料もいいし、とすぐに面接に来たのだった。 面接を受ける人数がかなり多かったが、何故か私が受かり、今はこうして毎日忙しく働いている。 昼間は大学に行き、その帰りにここに寄って遅くまで働く。 かなりハードだけど私はこの仕事が本当に楽しかった。 知らない世界、というのもあるし毎日、見るもの全てが新鮮だった。 それに・・・・もう一つ、私の世界が変わる事件が起こった――― 「あれ、・・・凄い衣装だね」 「・・・あ、ダン。おはよ・・・」 ドクンと鼓動が跳ね上がった気がした。 通路で声をかけてきた人物・・・ それは世界中で有名な、あの"ハリーポッター"で主演をしているダニエルだった。 このバイトを始めて少し経った頃、このスタジオに"ハリーポッター"の最新作のため、その"ご一向様"がやってきた。 映画に疎い私だって知ってる有名な映画だったから最初は一人パニックになったが、 撮影が始まったらそれまで以上に忙しくなり驚いてる暇すらなく働いてると言う感じだ。 「おはよう。一人で大丈夫?」 両手いっぱいに衣装を持った私にダンは優しく声をかけてくれる。 それだけで胸の奥がドキドキしてくるのが分かった。 「・・・大丈夫。いつもの事だもん」 そう言って笑顔を見せながら衣装を抱えなおすと、ダンがこっちに歩いてきた。 そして私の腕から衣装を半分、受け取ると、「手伝うよ」と言って私を見た。 「え、い、いいわよ・・・!ダンにこんな雑用してもらわなくても―」 「いいってば。この前、日本語教えて貰ったお礼」 ダンはそう言いながらスタスタと廊下を歩いて行ってしまう。 私は驚いたが仕方なく、彼の後から着いて行った。 ダンの少し後ろを歩きながらチラっと彼を見れば綺麗な横顔が視界に入る。 最初に映画を見た時は可愛らしい少年だったダンも去年16歳の誕生日を迎え、グっと大人っぽくなった気がする。 身長も伸びてるし声だって声変わりをして少し低くなった。 でも今年の夏には17歳になると言うし、それも当たり前なんだろうけど・・・ ―――憧れ。 そう・・・ここ最近の私は彼に、それと似たような感情を抱いていた。 (ダンてば・・・このまま行けば確実に将来は"いい男"になるんだろうな・・・) なんて事を考えていると、不意にダンがこっちを見た。 「どうしたの?」 「・・・えっ?」 「人の顔、じぃっと見ちゃって・・・」 ダンがちょっと笑って私の顔を覗き込んでくるものだから一瞬、ドキっとして後ろにあとずさった。 「あ、あの・・・何でもない」 顔が赤くなったのを気づかれたくなくて私はダンから顔を逸らすとフィッティングルームの中へと入って行った。 この部屋は撮影で使う衣装が沢山置かれていて、俳優さんたちなどが衣装合わせをしたりする場所。 今は撮影も終わった後なので中には誰もいなかった。 「あ、あの・・・ありがとう、手伝ってくれて・・・」 抱えていた衣装を一旦、テーブルの上に置くと後ろのダンに声をかけた。 するとダンは持っていた荷物を置いて、かけてある古い衣装を一着一着眺めている。 「へえ、懐かしい衣装とかもあるんだね」 「え?あ・・・かなり前のもあるみたいね」 そう答えながらもダンの動く方向につい視線がいってしまう。 (そう言えば・・・ダンのシーンは早く終わったはずなのに何で残ってるんだろう?・・・もしかして――) 「ねぇ、」 「え・・・?」 考え事をしていると不意に声をかけられハっとして振り向いた。 するといつの間にかダンが私のすぐ後ろに立っている。 「な、何?」 ドキっとしたが手を休めることなく返事をすれば、ダンがゆっくり隣に歩いてきた。 そして私と同じように衣装をかけるのを手伝いながら、 「・・・この前の話・・・考えてくれた?」 「・・・・・・ッ」 一瞬で顔が熱くなって手が止まってしまった。 (やっぱり・・・) それでもチラっとダンの方を見てみると、彼は真剣な顔で私を見ている。 その表情を見ただけで鼓動がだんだん速くなってくるのが分かった。 「あ、あの・・・」 なんて言っていいのか分からず目を伏せるとダンは軽く息を吐き出した。 「もしかして・・・変なこと気にしてる・・・?」 「・・・・え?」 「年齢の事とか・・・。自分の・・・立場とか・・・」 「・・・・・・ッ」 図星、だった。 痛いところを突かれて思わずダンを見れば彼は困ったような笑みを浮かべて窓に寄りかかった。 その窓から夕日が差し込んでダンの顔を薄っすらとオレンジ色に照らしている。 それがまるで一枚の写真のようで、つい見惚れてしまう。 柔らかそうな髪が日に透けてキラキラ光っていて、彼の魅力の一つでもある大きな青い瞳も凄く綺麗だ、と思った。 こうして見ていると、ダンが年下だなんて思えない。 そして・・・そんな彼に告白された事も・・・まるで夢のように感じた。 あれは・・・私がダンの事を異性として意識しはじめた頃・・・突然、帰りにダンから声をかけられた――― 「!」 「あ・・・ダン。お疲れ様」 バイトを終え、バス通りに向かうのに歩いていると後ろからダンが走ってきて私は驚いた。 「お疲れ。今から帰るの?」 「え、ええ・・・ダンは・・・今日、車じゃないの?」 並んで歩き出したダンにドキドキしながら訊いてみた。 するとダンはちょっと肩を竦めて、「ちょっと寄るところがあるから断った」と言った。 「そう・・・」 (ダンはどこに行くんだろう・・・。誰かとデートとか・・・?) ふと、そんな事を考えて少し胸が痛んだ気がした。 4つ年下のダンを意識するようになったのは、ここ最近。 最初は子供のイメージが強かったのに、このバイトをするようになり初めてダンに会ってからそれが一変した。 昔に見たハリーの彼より、身長も伸びて表情もかなり大人びて見える。 それにダンは凄く優しくしてくれた。 こんなバイトの私にもよく声をかけてくれたし、先輩から怒られてる私の事をかばってくれたりしたのだ。 年下なのに凄くシッカリしていて自分の意見もちゃんと言えるダンに、私は少しづつ憧れるようになった。 いけないとは思いながらも何となくダンと会うと意識してしまう自分がいて最近は普通に接する事が出来なくなっていた。 今もすぐ隣をダンが歩いてる、と思うだけで、こんなにも胸がドキドキしている。 年下で、しかも世界的に有名な彼を好きになっても仕方がないと頭では分かってるのに・・・ 憧れから"好き"という想いに変わっていくのを感じながら、私は軽く溜息をついた。 「ねぇ、」 「え・・・?」 あれこれ考え込んでいると不意にダンが足を止めた。 「今からちょっと・・・時間ある?」 「・・・え、い、今から・・・?」 何だろう、と思いながら彼を見るとダンはちょっと微笑んで通りの向こうに見えるカフェを指さした。 「もし時間あるなら・・・ちょっとお茶でも飲んでいかないかなと思ってさ」 「・・・え?!」 思いがけない申し出に私は凄く驚いてしまった。 だけどダンはそんな私を見て少し目を丸くすると、 「何でそんな驚くんだよ」 「え、だ、だって・・・」 「あ、時間ない?」 ダンが不安げに訊いて来るのを見て私は慌てて首を振った。 すると彼はホっとしたように微笑み、「じゃ大丈夫だね」と言ってサッサと通りを渡りだす。 それを見て私も急いで彼について行った。 「僕は紅茶。は?」 「え?あ、えっと・・・ミルクティーを・・・」 「畏まりました」 ウエイトレスがそう言って戻っていく。 私は目の前にダンがいると思うと緊張して顔が上げられず、俯いたまま両手を握り締めた。 ダンはメールチェックをしているのか携帯を取り出し開いて見ている。 そんな彼を見ながら"どうして私を誘ってくれたんだろう?と頭の中でグルグルと答えのない疑問が回っている。 そしてさっきのダンの言葉を思い出し顔を上げた。 「あ、あの・・・ダン」 「ん?」 ダンは携帯をいじりながら、ふと顔を上げる。 キャップの合間から見える優しい眼差しにドキっとしながら私はぎこちない笑顔を見せた。 「あの・・・さっき寄るところがあるって言ってなかった・・・?」 「ああ・・・」 その事を思い出し尋ねるとダンはちょっと笑いながら、「ここだよ?」と私に微笑んだ。 「ここって・・・この・・・カフェ?」 「うん。時々撮影が終わった後に来るんだ。ここの紅茶凄く美味しいからさ」 「そ、そう・・・」 じゃあ・・・どうして私を誘ってくれたの?とまでは訊けず、私も笑顔を返しておいた。 そこへ紅茶とミルクティーが運ばれてきた。 一口、飲んでみると確かにその辺の店よりも美味しい。 「どう?」 「うん、美味しい・・・」 「だろ?」 ダンは嬉しそうに、そう言うと自分も紅茶を一口飲んで軽く息をついている。 その表情が少し大人びて見えてドキっとした。 きっと・・・撮影で疲れてるんだろうな・・・ いつも人に囲まれてるし、その合間に家庭教師について勉強なんかもしてるみたいだし・・・ こんな風に一人になる時間が欲しいのかもしれない・・・ ダンの表情を見ながら、そんな事を考えていた。 するとダンはテーブルに肘をついて身を乗り出すと私の額を指でツンと突付いた。 「・・・・・・ッ」 「なーに考えてんの?」 「えっ?あ、ううん、あの・・・」 いきなり、あの綺麗な瞳が目の前に見えて一瞬で頬が赤くなった。 ダンはそんな私を見てちょっと心配そうに眉を寄せる。 「ごめん、バイトしてきたんだし疲れてるよね?」 「え?」 「いや・・・ほら何だか無理に引っ張って来ちゃったからさ」 ダンは申し訳なさそうな顔で私を見ている。 その優しい瞳に私は胸が熱くなった。 「う、ううん。そんな事・・・私は凄く嬉しかった―」 そこまで言ってハっとした。 (こんな事言ったら私がまるでダンのこと好きみたいじゃない・・・) ちょっと舞い上がって本音を口にした事を後悔していると、ダンはソファに座り直し、ホっとしたように微笑んだ。 「なら・・・良かった」 「う・・・うん・・・」 彼の笑顔に答えるように私も笑顔を見せる。 (良かった、か・・・。私の言った本当の意味も気づかなかったみたい・・・) 内心ホっとしてミルクティーを飲んでいるとダンが再び、体を前にした。 「あのさ」 「え?」 「ちょっと・・・にお願いがあるんだけど・・・」 ダンはそう言うと不思議そうな顔をしている私に、 「僕に・・・日本語を教えて欲しいんだ」 「・・・え?日本語・・・?」 「うん。ダメかな?」 ダンはそう言って照れくさそうに微笑んでいる。 そんな彼を見ながら私は思わず、「ダ、ダメじゃない・・・けど」と答えていた。 「ほんと?良かったー。ほら、は昼間大学に行って終わってからバイトに来てるって聞いてたし忙しいかなと思ってたんだ」 「そんなこと・・・」 本当は毎日かなりハードだったのだが、ダンに頼まれて断るほどバカじゃない。 不純な動機だったけど私はダンの傍にいれると思うと、それだけでドキドキしていた。 やだ・・・私・・・ほんとにダンのこと・・・? でも・・・歳だって4つも離れてるし、まして彼は世界的にも有名な俳優なのに・・・ まさか、こんな気持ちが溢れてくるなんて・・・ 私、ほんとにどうかしてる・・・ 自分の心に芽生えた気持ちを振り払うように私は軽く息をついた。 「あ、あのでも・・・何で日本語を?」 気を取り直して気になってた事を訊いてみた。 するとダンは鞄の中から何通かの手紙を出すと、それらをテーブルに置いた。 「これ・・・ファンレターじゃ・・・」 「うん。全部、日本のファンの子からなんだ」 「え・・・?」 「ほら、これ全部、英語で書いてくれてるんだよね。しかも凄く丁寧な文章だし」 ダンはそう言って嬉しそうに話している。 確かに封筒から中の手紙まで全て英語で丁寧に書かれてあって私も驚いた。 (今の子って、こんなに英語力が発達してるのね・・・) ちょっと自分と比べて軽く落ち込んだ。 「でさ、返事を書きたいんだけど・・・最後に日本語でお礼を書きたくて」 「え?ダンが?」 「うん。それで・・・に教えてもらえないかなって思って」 ダンはそう言って微笑むとゆっくり紅茶を飲んでいる。 私は理由を聞いて、ダンはファンにも優しいんだなぁと内心、感心してしまった。 それに同じ日本人としてダンの気持ちは凄く嬉しく思う。 「分かった。じゃあ・・・お礼の文章、教えるね?」 笑顔で答えるとダンは嬉しそうな笑みを浮かべて、「ありがとう!助かるよ」とホっとした表情を見せてくれた。 それから2時間、私とダンは急遽そのカフェで日本語講座をする事になり、紅茶も4杯もお代わりをしてしまった。 「あ、あの・・・ご馳走になっちゃって・・・」 カフェを出てダンにそう言うと彼はちょっと笑いながら首を振った。 「いいよ、そんなの。それより、こんな時間まで引き止めちゃってごめんね?」 「う、ううん。全然大丈夫」 そう言いながら真っ暗になった空を見上げた。 すっかり日も暮れて今は午後8時過ぎ。 今から帰って明日の講義の準備をしなければならないけど、そんなもの今の2時間が過ごせただけで全然苦にならなかった。 2時間の間でダンと色々な話をした。 日本でのことや今の大学でのこと。 どうしてロンドンに留学したのかってことも・・・ 日本語を教える合間にダンが聞いてくれるから、調子に乗って全て話してしまった。 でもダンは楽しそうに、それらの話を聞いてくれて、私は彼が相槌を打ってくれるだけで、また彼への想いが深くなった気がした。 カフェを出て2人でバス停までの道のりを歩いて行く。 こうしてダンと並んで歩くのも外では初めてで少し緊張した。 周りから見たら私とダンはどんな風に見えるんだろう? お姉さんと弟?て、それはないか・・・(国籍が違うんだから) まあでも恋人同士になんて見えないんだろうな・・・ はっきり言って今まで年下の男の子を意識したことなんて一度もない。 だいたい好きになるのは自分よりも少し年上か、同じ歳くらいの人ばかりだった。 なのに、どうしてダンの事がこんなに気になるんだろう? どう頑張ったって手の届かない人なのに・・・。 この気持ちも有名人に対する"憧れ"や"興味"だと思っていたのに日々それが深くなっている気がしてツキンと胸が痛んだ。 こうして彼が傍にいてくれて、しかも優しくしてくれるから・・・少しづつ欲張りになっていってる。 バイトにいくたび、ダンと一度は会わないと気が済まなくなったし会えば会えたで何か一言でも言葉を交わしたいなんて思う。 今だって・・・ダンと2人でお茶を飲めただけで凄い事なのに、もう少しだけ一緒に歩いていたいな、なんて思ってしまった。 私は・・・ただのバイトで・・・だからこそダンとだって話せたし、こうして一緒に歩ける機会があっただけのことなのに。 そんなことを考えているとバス停が見えてきた。 ああ、もう帰らないといけない・・・と思うとやっぱり胸の奥がチクチクと痛んだ。 だんだん足が重くなって俯いていると、不意にバスが走ってくる音がした。 「あ・・・!バスが行っちゃうよ!」 「・・・え・・・?」 何も考える余裕などなかった。 ただ急に手を引っ張られ、気づけば私とダンは走り出していたのだ。 バス停に誰もいなかったのと、あと誰も下りる人がいなかったのだろう。 バスは止まらず、そのままバス停を通り過ぎて走って行くのが見えた。 あれを乗り過ごせば、また暫くバスはこない。(何せ夜は数が少ないのだ) 私も急に現実に戻り、必死に走った。 それでもバスはどんどん遠ざかり、気づけば私もダンも走るのをやめて、互いに顔を見合わせていた。 「はぁ・・・行っちゃったね・・・」 「うん・・・」 「どうする?次のバスが来るまで、かなり時間あるし・・・」 「・・・大丈夫よ?最悪、歩いても帰れるし」 私は内心、どうしようと思っていたがダンの心配そうな顔を見て笑顔でそう答えた。 するとダンが驚いたように、「え・・・歩くって・・・こんな時間に一人で歩いてたら危ないよ」と眉を顰めた。 「大丈夫よ?歩いても・・・40分くらいだし・・・バス待ってたら遅くなっちゃうから」 「でもこんな寒いのに・・・」 ダンはそう言って困ったような顔をしている。 そんな彼を見て私は迷惑かけたくないと笑顔を見せた。 「大丈夫だったら!それよりダンも早く帰らないと。明日も撮影でしょ?」 「・・・そうだけど・・・を置いて帰れないよ」 ダンの家はここから歩いて10分ほどのところだと前に聞いた事がある。 でも私の家は反対方向で、しかもちょっと遠いのだ。 なのでダンも自分が誘ったせいで、という思いがあるのか、まだ心配そうな顔をしている。 それだけで私は嬉しくて胸が熱くなった。 「平気だってば。ほら、ダンはあっちでしょ?」 そう言ってダンの背中を軽く押す。 そして自分は一歩後ろへと下がると、 「あの・・・今日は誘ってくれてありがとう。凄く・・・楽しかった」 「・・・いや僕こそ・・・色々と教わっちゃって・・・」 「いいのよ。じゃあ・・・返事書くの頑張ってね!」 私はそう言うとダンに手を振って一人先に歩き出した。 私がモタモタしてるとダンも気を使って帰れないんじゃないかと思ったのだ。 なので何だかそのまま振り返れず、どんどん足を速めていく。 後ろ髪の引かれるような思いを感じながらも、その気持ちを否定するかのように軽く頭を振った。 その時、かすかに足音が聞こえて― 「!」 「―――ッ?」 名前を呼ばれ、振り返るとダンが私の方へ走ってきた。 「ダ・・・ダン・・・どうしたの?」 目の前まで来て息を吐き出している彼を信じられない思いで見つめる。 ダンは私を見てニッコリ微笑むと、心臓に悪い言葉をサラリと口にした。 「家まで・・・送るよ」 「・・・えっ?」 本気で驚いて彼をマジマジと見つめるとダンは楽しそうにクスクス笑っている。 「も女の子だからね。一人じゃ帰せないよ」 「・・・・・・で、でも―」 「あ、迷惑?」 そう聞かれて慌てて首を振った。 そんな私を見てダンは「なら良かった」と思わず見惚れてしまうような笑顔を見せてくれる。 「じゃ、行こう」 まだ呆然としてる私にダンはそう言うとゆっくりと歩き出した。 ダンが送ってくれるのは凄く嬉しい。 だけど少し動揺していたからか、私は歩き出した途端、足をひねってよろけてしまった。 「あ・・・危ないっ」 フラっとした私をダンが慌てて支えてくれる。 突然の密着に私は驚いて、すぐに彼から離れた。 「ご、ごめん・・・」 「大丈夫?」 「うん・・・」 赤くなった顔を見られないよう、逸らしながら頷く。 するとダンは苦笑交じりで軽く息をつくと、「ってシッカリしてそうで案外ドジだよな?」と言った。 「な・・・ドジって・・・」 その言葉にちょっと恥ずかしくなりダンを見上げると優しい笑顔が視界に入った。 やっぱり綺麗な瞳だな、と思っていると不意にダンが私の手を繋ぎ―― 「え・・・」 「また転ばないように、ね」 目を丸くした私にダンはそう言うと再び歩き出す。 「あ、そう言えばって先週もスタジオの隅で転んでたろ。カメラのコードに足ひっかけてさ」 「・・・あ、そ、そう・・・だったっけ・・・」 「そうだよ。あとさー、一昨日は小道具さんにぶつかって尻餅ついてたし」 「・・・えっと・・・そ、そう・・・だった?」 「うん。あ、それと笑ったのがエキストラに飲み物を配ってて、そのうち撮影が始まったら、 までエキストラに間違えられてカメラの前に立たされてさ。、慌てて"私違います"なんて叫んでたよね」 「・・・・・・そ、そう・・・だったかな・・・」 私は返事をしながらも意識は繋がれている手に集中していた。 ダンは私がまた転ばないようにと思って繋いでくれたんだろうけど、それでもドキドキしてくるのを止められない。 「それと・・・昨日は帰りがけ、衣装担当のケヴィンにデートに誘われて真っ赤になって逃げたはいいけどテーブルにぶつかってた・・・」 「・・・・?!どうして、それ―」 私はそこで驚いて顔を上げた。 するとダンの顔からは笑顔が消え、彼は静かに足を止めて私の方を見る。 「・・・ダン?」 どうしてダンは・・・こんな表情をしてるんだろう? それに・・・何故、そんなことを知ってるの? 私が転んだり、ドジしたりしてる事まで・・・ そう、そして昨日の出来事さえも。 ケヴィンにデートに誘われた事は誰にも話してないのに・・・ そう思いながら彼を見ていると、ダンはふっと笑みを洩らした。 「何で知ってるの?って顔だね」 「・・・だ、だって・・・。え・・・どうして・・・知ってるの・・・?」 他のスタッフから聞いたんだろうか?とあれこれ考えながらも問い掛ける。 私の問いにダンはやっぱり笑みを浮かべて僅かに視線を逸らすと繋いでいた手を少しだけ引き寄せた。 「だって・・・僕はいつでものこと見てたから・・・さ」 「・・・・・・ッ?」 思いがけない言葉に心臓がドクンと音を立てた。 目の前のダンを少し見上げると照れくさそうな笑顔がある。 ダンは軽く息を吸い込むと繋いだ手をギュっと握り締めた。 「・・・好きなんだ。のこと・・・」 ダンの言葉をどこか遠くで聞いている気がした。 何だかふわふわした感覚で、これが夢なんじゃないかとさえ思ってしまう。 でも・・・握られた手から伝わる彼の体温で、この夢のような告白が現実なんだ、と実感させてくれるのに時間はかからなかった。 「・・・な・・・何言ってるの・・・?」 心とは裏腹に、口を突いて出た言葉。 嬉しいくせに、素直に喜べないのは・・・彼と自分のいる世界が違いすぎるって痛いほどに分かってるから。 ダンは私の態度に少し悲しげな顔を見せた。 「僕は・・・本気だよ?」 「・・・ダン・・・」 「僕はより・・・4つも年下だけど・・・そんなの気にならないくらいにが好きだ・・・」 その言葉に泣きそうになった。 ダンがそう言ってくれただけで十分なほど。 「最初は・・・年上の割にドジな子だなぁって見てたんだ。でも凄く一生懸命で、いつも笑顔で頑張ってただろ? そんな姿見てたら可愛いなって思うようになって・・・」 ダンにそんな事を言われて顔が赤くなった。 まさか彼に見られてたなんて思わなかったのだ。 ダンは顔を赤くしている私を見てちょっと笑うと、 「それに・・・この前、撮影が終わった後に・・・セットの裏側で休もうとしたらが寝てたのを見つけてさ」 「・・・え?あ・・・」 そう言われて思い出した。 今週の初め、試験勉強をしながらバイトにも通っていて、かなり疲れていた。 それで、つい仕事の合間に休もうとセットの裏側に行って座ってたら・・・いつの間にか眠ってしまってたのだ。 「凄く気持ちよさそうに寝てたから・・・暫く寝顔を見てたんだ」 「・・・え・・・」 まさかダンに見られてたなんて、と思わず恥ずかしくなる。 だが、ふとある事を思い出し――。 「あ・・・もしかしてあのローブ・・・」 「え?ああ・・・寒そうだったから」 ダンはちょっと笑うと軽く肩を竦めた。 その言葉に思わず胸が熱くなる。 あの日・・・先輩に起こされた時、何故か私にローブがかけられていた。 誰だろう?とは思ったが撮影も終わっていたので、その衣装をそのままフィッティングルームへと持っていったのだ。 でもまさか、あれがダンのかけてくれたものだったなんて・・・ 驚いたように彼を見上げた。 ダンは照れくさそうに笑いながら、 「凄い無邪気な顔で寝てるを見てたら・・・自然と自分の気持ちに気づいたんだ・・・。"ああ、僕はこの子が好きなんだ"って」 「・・・・・・」 嬉しくて涙が浮かんだ。 (やっぱり・・・私はダンのこと・・・) 消し去ってしまおうと思っていた想いが心の奥から溢れ出そうになる。 でも・・・ 出来る事なら・・・今すぐダンの気持ちに答えてしまいたい。 でも・・・それが出来ないのは・・・ 「・・・」 優しいダンの声が私を呼ぶ。 「僕と・・・付き合って欲しい」 彼の言葉がすんなりと心に入ってきた。 その瞬間、私もダンが好き、と言ってしまいそうになる。 でも・・・彼と私は立場も違いすぎるし、いくらダンが気にしないって言ってくれても・・・4つも歳が離れてるのだ。 ダンには・・・もっとお似合いの子がいるんじゃないかとすら思ってしまった。 私が何も答えないでいると、ダンは小さく息をついた。 「ごめん、急にこんなこと言って・・・」 「・・・・・・」 彼の言葉にハっと顔を上げて首を振った。 するとダンもやっと笑顔を見せてくれる。 「良かったら・・・暫く考えてみて欲しい・・・。焦らないで・・・待ってるよ」 ダンは優しくそう言うと、その後に私を家まで送ってくれた。 その後、私はダンから言われた言葉を何度も繰り返し思い出した。 嬉しくて、でも切なくて・・・ どうしたらいいんだろう、という思いが何度も頭を過ぎり、数日は勉強も手につかなかったくらいだ。 スタジオで顔を合わせてもダンは普段通りに接してくれたし、返事を催促する事もなかった。 でも日が経つにつれ、ダンと自分は不釣合いだという思いが強くなっていった。 ダンがエマや同じ歳くらいの女の子と話してるのを見ると、凄くお似合いに見えて・・・ 好きなのに・・・未だ返事が出来ない自分がいた―― あの日の事を思い返し夕日に染められてゆくダンの優しい瞳を見ながら、私は何て答えようかと考えていた。 ダンはゆっくり窓から離れると私の方に歩いて来る。 ハっと顔を上げた時には私はダンの腕にきつく抱きしめられていた。 「・・・あ、あの―」 「年齢とか・・・立場とか関係ないだろ?」 「・・・・・・え?」 「お互いに想いが一緒なら・・・小さな事だよ」 「・・・・・・ダン?」 彼の言葉に驚いて少しだけ体を離した。 すると彼は何もかも見透かしてしまうような、澄んだ瞳で私を見つめている。 (もしかして・・・ダンは私の想いに気づいてる・・・?) そう思うと胸がドキドキ鳴り出して、思わず視線を逸らした。 「な、何言って・・・私は別に―」 「嘘つきだね、は」 「・・・な・・・」 ドクンと心臓が大きく跳ね上がった。 パっと顔を上げると少し怒ったようなダンの瞳―― 「僕のこと・・・好きなくせに」 「―――っ」 ダンは強気な視線でそう言うと、いきなり私を抱き寄せ唇を塞いだ。 その熱いキスに体中が痺れた気がした。 最初は少し強引に、だけどゆっくりと優しいキスに変わり、何度も何度も唇を重ねてくる。 気づけば私は窓に体を押し付けられ、完全に逃げ場を失っていた。 「・・・僕の事が好きじゃないなら・・・殴って逃げれば?」 僅かに唇が離れた時、ダンが呟いた。 言葉は意地悪なのに、彼の瞳は優しくて私の頬に涙が一粒零れ落ちる。 こんなに素直なダンの前で・・・嘘をつくなんて出来なかった。 「逃げないって事は・・・も同じ気持ちって事・・・?」 「・・・・・・・・・」 だって・・・私もダンの事を好きだから・・・ あなたに"愛されたい"と強く願ってしまったから・・・ 年齢や立場を気にして・・・誤魔化すなんて私にはもう―― 「答えてくれないなら・・・またキスするよ」 私が黙っているとダンはゆっくりと唇を近づけて、今度は触れる程度に唇を重ねた。 その優しいキスに思わずダンのシャツを握り締める。 と、同時に少し強引に抱き寄せられた。 それだけで体中の力が抜けそうになる。 知らなかった・・・ダンの腕がこんなにも力強いなんて・・・ 知らなかった・・・ダンの腕の中がこんなにも安心するなんて・・・ "愛されたい"と心から願った日・・・私は・・・"ダニエル・ラドクリフの年上の恋人"になった―― キリ番 560000GET:竜華 桜さまへ 『俳優夢でお相手はダニエル君をお願いします。 ヒロインは年上設定(大学生ぐらい)でイギリスに留学中の日本人。 ダニエル君とは映画の撮影所でのバイトで出会って、お互いに好きなのだけれど、 ヒロインの方が年上ということを気にしているという感じ。の夢をお願いします。』 ・・・という事でしたが、こんな感じで宜しかったでしょうか(;´Д`A ``` す、すみません;;こんな出来で・・・!(汗) 何気にリクエストというものは難しかったです・・・_| ̄|○ 微妙に強気なダンで攻めて見ました・・・エヘへ(笑って誤魔化す) もしご希望に添えないようでしたら管理人が責任持って引き取らせて頂きます・・・(/TДT)/あうぅ・・・・ 今回はリクエスト、本当にありがとう御座いました<(_ _*)> C-MOON@HANAZO
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