もう黙って










彼女の奇麗な髪が肩越しにサラサラと流れている。
雑誌を読む振りをして、それに見惚れている俺に、彼女は何かの雑誌を手に笑顔で振り向いた。


「ねぇ。オーランドってジョシュとも共演した事あるよね?」
「・・・・・・ああ」


何で急に、オーランドの話が出るんだ・・・・・・?


俺は少しだけムっとしながらも、ゆっくり顔を上げると、が雑誌を持ったまま隣に座った。


「彼って、ほんとセクシーよね?私、ファンになっちゃったの」
「・・・・・・・・・・・・へぇ・・・」


長年、彼女に片想いしている俺としては当然、面白くない一言だった。
その彼女がよりによって、俺と同業者で共演した事もあるオーランドのファンになったと言うんだから心中、穏やかではいられない。


『俺が何年、君の事を想ってきたと思ってるんだよ』


なんて言葉に出せない台詞を心の中で呟く。

彼女・・・との出会いは高校の時。
日本から転校してきた彼女を見た瞬間に、恋に落ちた。
奇麗で長い黒髪と吸い込まれそうなほどに大きくて黒い瞳。
それはアメリカ人にはない魅力だった。
華奢で小さな彼女にクラスの男どもは皆、浮き足立っていた。
その中で何故か、彼女は俺によく話し掛けてくれたっけ。
後で聞いてみると、一番、優しそうに見えたんだとか。
それに彼女は積極的な男は苦手だったようで、唯一、表立ってアプローチしなかった俺と一緒にいるのが楽だったようだ。
それを聞いて少しだけ落ち込んだのは過去の話。
それから俺は彼女と同じ大学に進み、彼女に一番近い存在として頑張ってきた。
もちろんACTORになってからも奇麗なACTRESSからの誘いも撥ね付け、一筋を貫き通していた。
なのに、彼女は、そんな俺より、最近人気の出てきたオーランドのファンになったという。
それって結構、傷つくよ・・・?



「ね、彼、どんな人?」


が雑誌を捲り、オーランドの記事を開きながら聞いてくる。
それには、つい溜息交じりで聞き返してしまう俺がいた。


「どんな人って・・・?」
「だから~優しい、とか、冷たい、とか、そういう事よ」
「ああ・・・」
「ね、どんな人?」
「スキンシップジャンキー」
「ぇ?」


の方を見ることなく、明確にオーランドが、どんな男かという事を言葉にした。
だがには伝わりきらなかったようで、キョトンとした顔で俺を見ている。



「スキンシップジャンキーって・・・?」
「だから、そのまんま。あいつは誰にでもスキンシップが激しいんだ。共演者やスタッフにもね。ところ構わず抱きついてきたり頬にキスしたりさ・・・」
「可愛い~!」
「・・・はぁ?」


の一言に驚き、俺は読んでた雑誌から顔を上げた。


「オーランドって、そうなの?」


見ればはニコニコしながら、俺の方に身を乗り出している。
その際に俺の膝に手を置いてきてドキっとしたけど、そんな気持ちにすら気付かないように彼女は言葉を続けた。


「ほら、オーランドって、こうして写真とか見る限りじゃ優しそうで大人でセクシーじゃない?でも、そうなんだ~。スキンシップ激しいんだぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


は何だか嬉しそうにオーランドの記事を見ていて、隣でショックを受けてる俺の顔なんて気付きもしない。


何だよ・・・。
そんな顔するくらいオーランドが気に入ったわけ・・・?


さすがに温和な俺も、そこまでオーランドに入れ込まれるとムカっとする。



「・・・・・・オーランドは年上だけど、なり賑やかな人だよ?」


なるべく言葉をオブラートに包みながら訴えると、は、ますます嬉しそうな顔になる。


「そうなの?何だかイメージとギャップがあって素適だね?ジョシュ、仲は良かった?」
「(全然、分かってくれてない)・・・・・・・・・まぁ、普通に」
「今でも連絡取ってる?」
「(会わせてって事か?)・・・・・・・・・・・・・・・時々」
「そうなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」



はぁ・・・・・・オーランドは確かに、いい奴だけど、が興味を持ったとなれば何となく憎たらしく思えてくる。
オーランドの本性、見せてやりたいよ・・・・・・
雑誌で気取ってるオーランドは偽者で、実はテンション高すぎのスチャラカ男だってさ。(言い過ぎ)



「ジョシュ・・・・・・どうしたの?ムスっとしちゃって・・・・・・」


やっと機嫌が悪い事に気付いてくれたのか、は俺の頬を指で突付いてきた。


そりゃムスっとしたくもなるよ。
久々のオフでミネソタに帰って来て、から、"今日、家に行っていい?"って電話が来た時は凄く嬉しくて幸せだったのに、
俺との間には何の進展もなく、あげくに他の男の話をされてるんじゃ、あまりにも悲しい。
どうせファンになるなら俺のファンになってくれって言いたい。
いやファンじゃなく、俺の恋人に・・・・・・・・・・・・



「ジョ~シュ!何、怒ってるの?」
「・・・・・・っっ」


黙ったままムスっとしているのが気に入らなかったのか、は俺の膝の上に寝転がって下から顔を見上げてくる。
その行動に心臓が跳ね上がった気がした。


「・・・・・・重い」
「む。何よ、失礼ね」
「避けろよ・・・・・・・・・・・・」
「嫌よ。何、ムス~っとしてるの?眉間に皺なんて寄せちゃって」


下から手を伸ばし、俺の眉間を指で突付く彼女の、その手を俺は咄嗟に掴んだ。


「突付くなよ・・・・・・。つか避けろよ・・・」
「なーによ。怒りんぼねぇ・・・。あ、オーランドを誉めたから焼きもち?」
「・・・・・・別に、そんなんじゃないよ・・・」
「ふ~ん。あ、じゃあ、今度、オーランドの・・・・・・キャッ・・・・・」



我慢の限界だ。


そう思った俺は膝の上に寝転がってるの体をグイっと起こすと、その勢いのままソファに押し倒した。



「ジョ・・・ジョシュ・・・・・・?」


「聞きたくない・・・・・・」



「え?」


の口から、オーランドの名前は、もう聞きたくないって言ったんだよ・・・・・・」





「な・・・何で・・・・・・?ジョシュ、オーランドのこと嫌いな・・・・・・ん――――――っ」





またオーランドの名を口にしたの唇を咄嗟に塞いだ。
そして、ゆっくり離せば、驚いたまま固まっている彼女。
そんな彼女を見て、俺は今までの想いを初めて口にした。



「好きなんだ・・・・・・ずっと前から・・・・・・。だからの口から他の男の名前なんて聞きたくない」


「ジョシュ・・・・・・」



その言葉にの瞳が、かすかに揺れた。
俺がそっとの頬に手を添えると、彼女は抵抗する事もなく、俺を見つめている。
そして少しづつ頬を赤く染めていった。



「・・・・・・あ・・・の・・・私・・・。――っ?」



「し・・・。もう黙って・・・何も言わないで・・・」



開きかけたの唇に指を当て、そう呟いた。



そして、もう一度、ゆっくりと唇を近づける。



ここで逃げられたら、答えはNO。



だからキスはしない。



でも、もし逃げなければ――――





彼女は逃げなかった。



その代わりに、そっと大きな瞳を閉じ、体の力を抜く。







答えは―――――――YESだ・・・!









そこで嬉しさを押し殺し、もう一度、唇を重ねた。


次に、頬、額、耳、そして最後に、また唇へと口付けをくり返す。
そのまま言葉も交わさず、何度も彼女の唇を求める。
キスの間、はギュっと瞳を閉じたまま、俺の腕を掴んでいた。
その仕草が、ほんとに可愛くて、俺はまた彼女の事を好きになる。





長い長いキスの後、彼女が小さな声で呟いた。





"私だってジョシュのこと好きだったのよ・・・・・・?――ジョシュの鈍感・・・"






その思ってもみない告白に、俺は自分の鈍感さに呆れつつ、それでも嬉しくて、もう一度、の唇を塞いだ。




さっきよりも深く、そして少しだけ強引に。


最後に鼻先をカプっと噛むと、さすがにも驚いた顔。





「わざと焼きもち妬かせた罰だよ」





俺がそう言って頬にキスをすると、彼女は困ったように微笑む。




「だってジョシュ、全然気付いてくれないんだもん…」











そう言って口を尖らせた彼女が可愛くて、俺はもう一度唇に軽くキスをした―――





















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うふふ・・・寒っ!極寒?!
かなり沈没気味です~
ま、ちょっと練習って事で(やる気あんのか、お前!)(笑)