「それでね?夕べバッタリ会っちゃったの!」


「へぇー」


「向こうも一人で飲んでて、良かったら一緒にどう?って言ってくれたから凄い嬉しかったー」


「ふーん」


「・・・・・・ちょっとオーリィ、聞いてるの?!」





不貞腐れた僕の背中をバンっと叩いてくる君。


今、僕がどれほど不愉快か分かってる――――?










「はいはい。聞いてますよ。ジョシュと偶然会って一緒に飲んだんだろ?良かったね」



僕はテーブルにつっぷしていた体を起こし、そう言って肩を竦めれば、頬を膨らませた彼女と目が合う。


「何よ、その言い方!もう少し感情込めてくれない?」
「・・・こめてるだろ?だいたい人を起こしておいて、話ってそれ?」
「そうよ?だって、この嬉しさ誰かに言いたかったんだもん。寝れないからオーリーのとこ来ちゃったのっ」
「あーそー。でも俺はさっき寝たばかりなの。すっごい眠いんだよ」



そう言って欠伸をしつつ寝室に向う。
するとが慌てて追いかけて来た。


「ちょ、ちょっと寝ちゃうのー?」
「当たり前だろ?今日は朝から取材とかで忙しかったし疲れてるんだよ」
「何よ、久々にロスに来たんだから相手してよ」
「ジョシュにしてもらえばー?この近くのホテルなんだろ?」
「だ、だって今、別れたばかりだもん・・・」



はそう言ってベッドの端に腰をかけ恥ずかしそうに俯いた。
そんな顔を見るだけで僕のハートはズキズキ痛むんだ。
だって僕の気持ちを、ちっとも分かってないんだからさ・・・は。


彼女とはロンドンの演劇学校の頃の同級生だ。
彼女も僕と同じ職業で、一生懸命に頑張っている。
こんな派手な世界で仕事をしてても、いつまで経っても汚れない昔のまま純粋で僕の憧れの女の子。
なのに彼女は僕の想いに一度も気づくことなく、いつも他の男を好きになる。
そして純粋なせいか、いつも悲しい思いをして別れてるんだ。
僕はその度に、"僕なら君を傷つけたりしないのに"と思うんだけど言葉に出して言った事はない。
だって彼女が僕の事を男として見てるか?と聞かれれば―――答えは"NO"だからだ。



この関係すら壊したくないから、どうしても言葉に出せない。


そう、たった一言・・・・・・


「君が好きだ」


ってね―――



まあ、僕も臆病だってことだろう。



僕だって彼女だけを想い続けてきたわけじゃない。
これでも今までに何人か、恋人はいたさ。
でも僕の心の奥底にいるのは・・・・・・いつだってだった。
だから恋人と上手く行かなくなって結局、別れるハメになるんだけど。
先月だって、僕は彼女に振られたばかりだった。
それなりに傷ついたけど、今ほど胸が痛いことはなかった。





そう・・・・・・懲りもせず、彼女は、また他の男に恋をした―――――――



それも今度は僕の友達にね。





僕とジョシュは前に一度、共演をした事があったから、そこで友達になった。
それで先月くらいに僕はロスで仕事があり、来た時にジョシュもロスに来てる事を知って連絡を取ったんだ。
その時に(彼女はロス在住だ)にも連絡してジョシュを紹介した。



でも、それが間違いの元だった。


優しいジョシュに、が惚れるのは時間の問題だったんだ。
しかも誠実で、なおかつ女性の好む少年ぽさが残ったところが、また更にの心にすんなりと入ってしまったらしい。
(でも僕だって、かなり少年ぽさはあるつもりなんだけど。曰く、オーリーは落ち着きがないって事だった・・・・・涙)


まーねージョシュは確かに僕みたいに騒がないし誰構わず抱きついてキスしたりもしないよ?
だからって何も僕と正反対の男を好きにならなくたって・・・・・・。





「ねぇーオーリィーってば」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「オーリー、ほんとに寝ちゃうの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「もう!意地悪!」





意地悪って・・・・・・その台詞、僕がに言いたいよ・・・・・・
好きな子が嬉しそうに他の男の事を話すのなんて聞きたくないに決まってるだろ・・・・・・?



布団に潜り込みながら、そう思っていると、急に肌寒くなった。


(どうやらが布団をはいだらしい)




「んーー何だよー」




僕は顔を顰めて振り向けば、すぐ傍にの膨れた顔。
ああ、その顔、僕好きなんだよなぁ、可愛くてさ。
しかもベッドの上で、そんなに近寄ってこないでよ。
僕の理性なんてに関しては凄く脆い方なんだからさ・・・・・・



「ちょっとくらい付き合ってよー」
「・・・・・・、今、夜中の2時だよ?さっさと帰って寝たら?」
「だって眠くないんだもん」
「俺は眠いの。おやすみー」
「ちょーっとオーリー!」



何とか寝ようと壁側に体を向け、丸くなるとが腕を引っ張ってきた。
その瞬間、僕は彼女の方に振り向き、素早く体を抱き寄せベッドに寝かせる。



「キャ・・・・・・ちょ・・・・・・」


「はいはい。いい子だからも一緒に寝よう?」



そう言って隣に彼女を寝かせると僕はどさくさに紛れてに腕枕をしつつ体を抱き寄せた。
だがは大人しく言う事を聞くような子じゃない。
すぐに起き上がろうと暴れ出した。



「やーだー眠くないしオーリーと寝たら絶対、イビキとかうるさそうだもんっ」


「ぬ・・・・・・失敬だな。それに普通、この場面じゃ照れるもんだよ、女の子は」


「何で?」


「何でって・・・・・・」



男とこうしてベッドに寝てるのに、は何とも思わないんだろうか・・・・・・。
それとも僕のこと、ほんとに男と思ってないのかな・・・・・・?(悲)



隣にいるを見ながら、そんな事を考えていると、彼女は大きな瞳をクリクリさせつつ見つめ返してくる。
その瞳にドキっとして鼓動が早くなってきた。



ま、まずいかも・・・・・・
こんな体勢で何もしないという保証は出来ないぞ・・・・・・?



「オーリー・・・・?」


「と、とにかく、今日は帰れよ・・・・・・。話なら明日聞いてやるからさ」



そう言っての首の下に入れた腕を抜いて離れようとした。
だがは突然、体を僕の方に寄せてくる。


「な、何だよ?」
「んー私も眠くなってきた・・・・・・」
「は?」
「緊張してワイン飲みすぎちゃったから・・・・・・」
「だ、だったら家で寝ろよっ」



す、少なくとも、ここで寝るな!
襲っちゃいそうだ!




「・・・・・・」



あれ?



「おい、・・・・・・?」


「んーここで寝る・・・・・・」


「バ、バカ言うなよっ」



彼女の爆弾発言に僕は鼻血が出そうに――――――――――もとい。







心臓が跳ね上がった。



慌てて腕を抜き肘をついて体を起こすと、の顔を覗きこむ。
彼女はすでに目を瞑っていて僕の方に体を向け、今にも寝てしまいそうだった。



「おい、・・・!」


「何・・・?」


「ここで寝るなよっ」


「何で・・・?一緒に寝ようって言ったじゃなぃ・・・・・・」




だんだん彼女の声が小さくなっていく。
ヤバイ。
本気で寝る気だ。




「だめだよ・・・」


「・・・・・・どうし・・・て・・・・・・?」


「どうしてって・・・・・・」




僕だって男なんだ。
好きな子が隣に寝てて何も出来ないのは辛いんだよ。


ほんとは、このままキスして思い切り抱きしめたいとか思ってしまってる・・・
でも、そんな事をして嫌われて今の関係を壊したくはない。




「ちょっと・・・起きてよ」




軽く息をついて、そう言うと返事がない。



「・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「ちょ・・・ほんとに寝ちゃったの?!」



僕は焦って、そっとの顔を覗き込むと、小さな寝息が聞こえてきた。



「ま、まじかよー・・・勘弁してよ・・・」





僕は体を起こし、そう呟くと両手で髪を掻き毟った。





確かに、ここに来た時から相当、酔ってるとは思ってたけど・・・まさか寝ちゃうなんて!(しかも僕のベッドに!)





「はぁ・・・今度は俺が興奮して眠れなくなっただろぉ・・・・・・?」




そう呟いての頬を指で突付いた。




「ん・・・むにゃ・・・」


「・・・ぷっ」




可愛いなぁ、もう・・・・・・。


子供のような彼女に僕は思わず顔がニヤケてしまった。



これで・・・僕の想いが届けば、このシチュエーションだって凄く幸せなものになるんだけど・・・・・・
友達のままで、これじゃあ本当にきついよ。



そう思いつつ、静かに彼女の隣に寝転がり、暫く可愛い寝顔を見ていた。
だけど、それじゃ物足りなくなり、そっと彼女の体を抱き寄せ額に口付ける。


たった、それだけで心が満たされるんだから不思議だ。


自分の額に彼女の額をくっつけて僕も目を瞑った。
きっと朝になったらも驚くかもしれないけど、今夜はこうして寄り添って寝てもいいよね・・・?


こんな夜中に君のノロケを聞かされ、散々他の男の名前を聞いたんだからさ。
これくらいのサービスは許してよね。


朝になったら、また友達に戻るから。


今は君を抱きしめさせて――――?








































今だけでいいから-----







































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アンケート投票処に、「ジョシュに片想いしているヒロインを想うオーリィ」と
いうのがあって、それで、ちょっと書いてみました(笑)
何だかオーリー可愛そうですけど、可愛いなー(笑)