あの頃の私は、あなたの顔を見るたび何でもないと思ってた。





何でもないフリをしてたのかもしれないね。






自分でも、よく分らない想いが込み上げてくるよ――



























―ボーダーライン―
                                   
                            ...Friend's lover


























ホテルの屋上から見える夜景は、とても奇麗で・・・・・・




同じものを彼にも見せてあげたいと思った―














遠くで音楽が響いているのを聴きながら私は目の前のネオンを眺めていた。
ここベガスはネオンが消えないから好き。








「・・・・・・やっぱり、ここにいた」


「・・・・・・っ?」





その声で振り向けば、世界中で有名な男が煙草を咥えて立っていた。





「レオ・・・・・・」
「何、パーティ抜け出してんだよ。セシルが心配してたぞ?」
「・・・・・・・・・・・・」





彼は私の後ろまで歩いて来ると皮肉めいた笑みを浮かべた。
私は何も答えず、ただ黙って視線をネオンに戻す。
強い風がドレスの裾をバタつかせるから、それを手でそっと抑えながら鳴り響いてる心の奥を悟られないように夜空を見上げた。
レオはそんな私の気持ちに気づかないように、静かに隣に座り、同じように目の前に広がるネオンを眺めている。





「奇麗だよな・・・・・・ここから見るベガス」
「・・・・・・うん」





彼のいる右側だけが心臓になったみたい。
耳をくすぐる彼の声も、時々顔にかかる煙草の煙も、彼の全てが私の鼓動を早くする。






「・・・・・・戻らなくていいの?」
は戻らないの?」










質問を質問で返さないでよ・・・・・・






そう思いながら少しだけ彼を見れば、彼もまた私を見ていた。
その瞳にネオンのキラキラが映っていて、とても奇麗で思わず見惚れてしまう。







「私は・・・・・・もう少しここにいるわ」
「そう。じゃあ俺も」
「な、何で・・・・・・?」
「んー。何でかな」






レオはそんな事を言って小さく笑うと吸っていた煙草を指で弾いた。







「あ・・・・・・ポイ捨て」


「あ・・・・・・ポイ捨てちゃった」


「・・・・・・・・・・・・」






レオはクスクス笑いながら両手で体を支えて夜空を見上げている。
無造作に置かれたその手が、あと数ミリで私の手に触れそうでドキドキした。







「セシル・・・・・・探してるんじゃない?」







言いたくもない言葉が口から出て来る。
だって・・・・・・彼はセシルの恋人だから。
そう・・・・・・私の友達の・・・・・・恋人――








私の言葉にレオは小さく息をついて笑った。






「あーいいんだ。ちょっとケンカしちゃったし」
「・・・・・・また?」
「そう、また」
「よくケンカ出来るね」
「俺じゃなくて向こうが怒るんだって」
「怒らせるようなことしてるからじゃない?」
「えー。してないよ、俺」
「・・・・・・そうかな」
「そう見える?」






レオはそう言って私の顔を覗き込んでくる。
その不意打ちに不覚にも顔が熱くなった。




「彼女、ほったらかして、こんなとこにいるし」
「それはさー・・・・・・」
「しかも彼女の友達と」
「・・・・・・・・・・・・」





レオは黙ってしまった。
少し俯いて、投げ出してた足を片方だけ立てると小さな溜息を洩らし、それが私の耳にかすかに届く。








は・・・・・・一緒にいるとホっとするからさ」
「何言って・・・・・・」
「結構、俺のこと理解してくれてるよな、って」
「―――っ」







そう言った彼の笑顔で胸が締め付けられた。







やだ・・・・・・泣きそう。




今が夜で良かった。
風が強くて良かった。




闇が涙を、風で揺れる髪が泣き顔を隠してくれるから――












「・・・・・・ー」
「・・・・・な、何・・・?」






困ったな・・・
声が震えるのだけは隠せないわ・・・



そう思った瞬間、私の右手に体温を感じ、ビクっとなった。
見ればレオの左手が少しだけ私の置いている右手に触れている。
それだけで、右手に心臓が移動したみたい。








「・・・ここから落ちたら・・・死ぬかな」


「・・・・・・・・・・・・・・・」







彼はそう言って少しだけ体を前にすると下の方を覗いている。


私達の居る場所はホテル屋上の柵も何もない小さな出っぱり。
そこに腰をかけ夜景を眺めている。
だから無防備に投げ出した足が、さっきから風に吹かれ靴が脱げたら真っ直ぐ地上に落ちてしまいそうだなって思ってた。







「そりゃ死ぬんじゃない?」
「だよなー。怖いから、あまり下は見ないようにしよう」






レオはそんな事を言ってクスクス笑っている。
だけど私の全神経は右手に集中していて、怖さなんか感じなかった。



少し・・・・・・ほんの少し小指を動かしたら触れてしまいそうな距離に胸の奥がドキドキする。


でも、その少しの距離にある境界線が私には見えるから・・・・・・




超えちゃいけないんだ。
このギリギリのボーダーラインは。










カチっと音がしてかすかな明かりが灯ったと思えば煙草の香りがした。










「また煙草吸ってる」
「うん。吸っちゃった。あ、けむい?」
「ううん、平気」
「そう? セシルなんて、いつも"臭い"とか"けむい"とか嫌がるしさ」
「私は・・・・・・平気だよ・・・?」




あなたのものなら、する事なら何でも愛しい。



そんなこと言えないけど。






はやっぱ俺を分かってくれてるね。あ、尊重してくれてるのかな」


「そ、そんなことは・・・ないんじゃない?」


「そう? あ、もしかして付き合ったら変わるとか?」


「・・・・・・ま、まさか・・・っ」


「だよね。そんなタイプじゃないよな、はさ」


「・・・・・・・・・・・・・・・」







ど、どんなタイプに見えるの・・・・・・・・・・・・・・・?



って聞きたいけど――



聞けない。



その前に私とレオが付き合えるはずもないしいいんだけど・・・・・・・・・・・・・・・









チラっとレオを見ると、彼はただ黙って奇麗なネオンを見つめながら煙草を時々吹かしている。




何を考えてるのか知りたい。
今、この瞬間に何を、誰の事を、その胸の奥で感じてるの――?




こんなに傍にいるのに、心だけは遠くて。
彼との間に距離を感じる。
触れそうなくらい傍にいるのに、触れることも出来なくて―――




そう思ったら無意識に置いていた右手が動き、彼から離れようとした。
だけど、それは私の意志とは関係ないところで止められた。










「・・・・・・・・・ぁ」








私の手は・・・ううん。
私の小指には彼の小指が絡んでて、少しづつ、その体温が伝わってくる。










眩暈がする。



夢かと思うほど。














「なあ・・・」


「・・・な、何?」


「手・・・熱いね」


「――そっちこそ・・・」


「そっか」


「うん・・・」










レオはそれ以上、何も言わなかった。


ただ黙って指だけ絡めて目の前のネオンを見ている。


私はただドキドキしながら、でもいけないと思いながら、彼の指を解く事が出来なくて・・・














心の奥で燃え残ってる残像が愛しさを連れてくる。



あの頃、あなたの事 大切に想い過ぎてて     その想いの欠片が心の片隅で燻ってる。








愛 し さ


寂 し さ


嬉 し さ 


切 な さ




そ し て 強 さ






あなたは苦しいほどの想いを沢山、教えてくれたね。


でも揺るがないものだけ欲しかった。



揺らぐものに振り回されるのは、もう沢山。




あの時 全てを燃やし尽くして欲しかった――





















欲しいものは   いつも  私の手から零れ落ちてしまう




欲しいものは   いつも   手に     入らない





















どんなに願って   欲して   愛したとしても 




































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ヒロイン、友達の恋人に片想いって感じで・・・
レオの大好きなベガスを舞台にちょっと映画っぽく(どこが)
最近、何か音楽を聴きながら書いてるので、その曲の雰囲気になってしまいますねー
今、すーごい大好きで聴いてるのは、やっぱり"Knockin'on Heaven's door"!(最高)
切なくて詞も曲も、ものっそい切なくて大好きです。
しかも女性歌手がカヴァーしてるので、めちゃいい。
いつか、この曲で何か書きたいー。
この曲、聴きながら書いても読んでも耳障りじゃなくて、しっくりきて感情移入出来るので泣けます(笑)