あの頃の私は あなたの事が欲しくてたまらなかった。
あなたは彼女のものだけど 彼女よりも誰よりも――
一番、あなたを求めてるのは
きっと、ちっぽけな此のあたし
今日は朝から雨・・・・・・少し肌寒い日だった。
仕事を終えた日のいつもと変わらぬ午後に一本の電話がかかってきた。
「えっ?!」
『お願い! そういう事だから! じゃあ頼むわねっ』
「ちょ、困る! セシル――」
ブツッ ツーツーツー・・・・・・
「な・・・・・・何で切るのよ・・・・・・っ」
突然切れた電話に向って怒鳴るも相手には届かない。
私は思い切り溜息をつき、目の前の自宅を見つめた。
もう少しで家に着く、というところで友達のセシルからの電話。
その内容は私にとっては心臓に悪いものだった。
"今日、レオと一緒にNBA見に行く約束だったんだけど用事が出来て行けなくなったの。、代わりに行ってくれない?"
うろたえる私にセシルは"レオにはもう連絡してあるから"と言った。
「だからって・・・・・・何で私が?」
思わず、そんな言葉が口から洩れる。
友達の代わりに、その子の恋人とデートなんて・・・・・・
しかも相手は・・・・・・密かに想いを寄せてるレオ。
「・・・・・・こんなの辛いだけじゃない」
そう呟いた時、後ろで車が静かに止まった。
「Hi!」
「あ――」
振り向けば窓からレオが笑顔で顔を出した。
「セシルから電話きた?」
「う、うん・・・・・・でも――」
「あ、何か用事あった?」
「う、ううん、ないけど・・・・・・」
「じゃあ、乗って」
「え?」
レオはそう言ってすぐに車から降りると助手席のドアを開けてくれた。
「ほら早く。濡れちゃうよ」
「う、うん・・・・・・」
レオに促されるまま車へ乗り込むと、彼も運転席へと戻り、すぐに車を発車させた。
「ごめんね、急に」
「う、ううん・・・・・・セシル・・・・・・どうしたの?」
「んー何だか急な仕事が入ったんだって」
「そう・・・・・・」
「で、と一緒に行って来てよってさ。だから迎えに来たってわけ」
「・・・・・・・・・・・・」
もうーセシルったら、そういう事ちゃんと言ってよね・・・・・・
膝の上でギュっと手を握りしめる。
前にも何度か乗せてもらった事があるレオの愛車。
でも二人きりでっていうのは今日が初めてだ。
彼の香りに包まれて私は更に緊張するのを感じた。
「ねーはNBA好き?」
「え・・・っと・・・よく知らないの」
「そっかぁ。じゃあ見に行ってもつまんないな」
レオはそう呟いて何かを考えてるようだった。
その横顔をチラっと見るとトクンと鼓動が鳴る。
指先を口元に持って行って真っ直ぐ前を見ているレオは凄くカッコいいから・・・
だが不意にレオが私を見た。
突然、目が合い、ドキっとして視線を反らすと、彼はクスクス笑い出した。
「どうしたの? 今日は大人しいね」
「そ、そう・・・?」
「うん。いつもはセシルと騒いでるだろ?」
「あれは・・・」
そうしてないと・・・セシルに心の奥の想いを気づかれてしまいそうだから。
レオの一挙一動にドキドキしてる私を見透かされてしまいそうだから必要以上にはしゃいでるだけ・・・
「まあ、でも・・・時々、ふっと寂しそうな顔するんだけどな、ってさ」
「え・・・?」
「この前みたいに、フラっと一人でどっかに消えたり?」
「・・・・・・・・・そ、そんなこと・・・」
どうしてレオは、そんな事にも気づいてくれるんだろう?
だって・・・時々凄く空しくなるんだもの。
セシルと一緒にいるレオを見てると、どうしようも出来ない自分の想いに潰されそうで。
「・・・どこ・・・行くの?」
「んー? どこでも」
「え?」
「の行きたいところ」
試合会場とは逆の方に車を走らせてることに気づいた私に、レオはそう言って優しく微笑んだ。
その言葉だけで、笑顔だけで私は十分なのに。
「試合・・・見なくていいの?」
「ああ、今日は特別、大事な試合じゃないし。はバスケ興味ないんだろ?」
「そんな事は・・・」
「いいよ。それより付き合ってくれたんだしの行きたいところに行こう」
「でも・・・」
行きたい所なんて・・・ない。
こうしてレオと一緒にいれるだけで、それだけで幸せだから――
「でも雨だし・・・」
「じゃあ、ドライヴでもする?」
「・・・ドライブ・・・?」
「そう。ただ、こうして走らせるだけ」
「それでいいの、レオ」
「いいよ。俺、一人でも、よくこうしてブラブラ走ったりするんだ」
レオはそう言って煙草に火をつけた。
窓を少しだけ開けて煙を出すと、タイヤが雨を弾く音が聞こえてくる。
彼は黙ったままハンドルを握り、煙草の煙を燻らせ、時々髪をかきあげる。
その仕草の一つ一つをそっと盗み見た。
欲しい。
彼が・・・・・・欲しい。
こんな事を思う事さえ、友達を裏切ってる。
その時、静かに車が止まった。
ふと顔を上げれば、目の前には雨に濡れたロスの街並み。
そこは大きな大きな公園で、そこの駐車場からはキラキラ光る夜景が見えるのだ。
レオはゆっくりシートに凭れると前を見つめながら呟いた。
「ここ・・・覚えてる?」
「・・・うん」
覚えてるに決まってるじゃない。
前にレオとセシルと数人の友達で遊びに来た場所だ。
あの時から私はレオのこと欲しくてたまらなかった。
「レオがセシルに告白した場所、だったね」
「そうそう。でもセシル怒ったんだよな」
「"そんなジョークっぽく言うなんて"ってね」
私の言葉に、レオはかすかな笑みを洩らした。
思い出してるの?
あの日の彼女との事を・・・
私が思い出すのは・・・胸が痛かったことだけなのに。
それだって凄く遠い日のような気がする。
あの日の痛みは今も、この胸にあるのに――
そのまま暫く二人で黙って夜景を見ていた。
レオはいつの間にか煙草を消していて、今は黙ったまま窓に打ち付ける雨を見つめている。
その横顔はどこか寂しげで、思わず手を差し伸べたくなった。
「・・・」
「なぁに?」
あなたが呼ぶ、その名前すら愛しく感じる。
「俺・・・・・・間違えちゃったかな・・・・・・」
「え・・・?」
「もう一度・・・・・・ここから始められたらいいのに・・・」
どういう・・・意味?
どうして、そんな悲しそうな顔で微笑むの?
レオはそう言ったまま奇麗な瞳で私を見つめている。
私は一瞬、視線を落とし、膝の上に置いたままの手を、ただ眺めていた。
胸の奥がジンジンして痛いから、誤魔化すのにその手をかすかに握り締める。
「」
「・・・・・・」
「こっち、見て」
レオは少しだけ私の方に体を向け、ゆっくり手を伸ばしてきた。
言われるがままに顔を上げて彼を見れば暖かい手が頬に触れる。
いつの間にか零れ落ちていた涙が今はレオの指を濡らしていた。
「泣くなよ・・・・・・」
「だって・・・・・・」
ずるいよ・・・・・・
そんな風に触れてくるなんて・・・・・・
手を伸ばせば届くほどの近い距離に、こんなにもドキドキしてる私に――
あなたは私の心の奥なんて・・・
とっくに知ってたのね。
「・・・・・・触れても・・・・・・いい?」
「・・・・・・いいよ・・・」
震える手を、そっとレオに伸ばせば指先に感じる彼の体温。
頬をなぞって唇に触れれば、軽く口付けられる。
それだけでドキドキして何も考えられなくなった。
このまま・・・もう少しだけ・・・
心の奥まで
触れてもいい?――
...Friend's
lover
泣いてるの? 寂しいの?
君の横顔も雨に隠れて見えない
強がらないで
此処に居るから
一人で泣かないで
此処に居るから
一番、あなたを求めてるのは
きっと、ちっぽけな此のあたし
一番,君を欲してるのは
きっと、くだらない此のあたし
いっそ二人で雨の中
消えてしまえばいいかしら
※ブラウザの"戻る"でバックして下さいませ。
「友達の恋人」に片想いのヒロイン第二弾。
実は彼も彼女の心に気づいてたという・・・・・え? 分かりにくい?(笑)
罪悪感とか、理性とか、そんなものすら消えてしまう空間とか描きたかったんですけど(沈)
しょせん、男と女。
選ぶ人を間違える事だってありますよね(コラ)
「罪悪感」「理性」
それが消えたら、互いに惹かれあってるという"本能"だけが残るじゃないですか。
まあ、そんなイメージで・・・(曖昧)
|