大きな煉瓦造りのアパートメントを見上げると、頭上にはあなたの極上の笑顔――








! ここ!」






嬉しそうに手を振る彼に私も笑顔で手を振り返し急いで部屋まで上がって行った。


































私はあなたの何?























彼が私の住む、ここニューヨークに引越してきたにのは、つい先日のこと。
ずっと故郷のミネソタに住んでいたのだが仕事が詰まっていたのもあり、移動が不便だとボヤいてたジョシュは、
あっさりニューヨークにも部屋を借りた。
それは長年、彼に片想いしている私にとって嬉しい事でもあり、少し切ない事でもある。



だって・・・ジョシュが他の女性と付き合ったりするのを間近で見ないといけないから。


そう、今ジョシュはモデルの女性と付き合っているのだって知ってるんだから。









「何、これ! 全然片付いてないじゃない?」
「そーか? これでも何とか片付けたんだけど」



ジョシュはコーヒーを注ぎながら呑気に笑っている。
私は軽く溜息をついて、部屋に散らかっている洋服の山を見つめた。


しかも寒くてコートすら脱げやしない。
って、窓開けっ放しだし!! 閉めなさいよねっ







「はい、コーヒー」
「ありがと・・・って呑気にコーヒー飲んでる場合じゃないわよ。これ片付けなくちゃ・・・足の踏み場もないじゃないの」
「んー、いいよ。どれも洗濯しようと思って置いてあるやつだし」
「はあ? 置いてある、じゃなくて脱ぎ散らかしてる、でしょ?」




ジョシュの言葉に呆れつつ、私が睨むと彼は眉をふにゃっと下げて微笑んだ。




もう・・・この顔に弱いのよね・・・・・・




彼の淹れてくれたコーヒーを口に運びつつ、そんな事を思う。




「じゃあ・・・・・・洗濯してあげようか?」
「Wow! ほんと? でも今日は買い物、付き合って欲しいんだろ?」
「そうだけど・・・・・・こんな服の山にジョシュを置いておけないでしょ? ほんと、ちっとも変わってないんだから」
「サンキュ! 」




私の言葉にジョシュは嬉しそうに微笑みながら、これまた服に埋れているソファに腰をかけた。



ったく・・・・・・ミネソタにいる頃から、このクセは変わってない。
脱いだ服は散らかしたまま。(この私が何とかしてあげなきゃって思ってしまうじゃないの)
いつも、それを私や当時付き合っていた彼女が片付けていた。
彼女と別れた後、その仕事は私だけのものになったけど、また最近は他の人に取られているのだと思う。



カップをテーブルの上に置き、私はコートも脱がず、彼の服を拾い集めていった。
ジョシュはソファに置いてある服をかき集めながらも煙草へと手を伸ばしている。





「なあ、。コート脱がないの?」
「・・・・・・この寒い部屋で、これを脱ぐ勇気はないわ?」
「あー悪い。窓、開けたまんまだったな」




ジョシュはそう言って苦笑しながらも開け放した窓をすぐに閉めてくれた。
ニューヨークは今、冬真っ盛り。
この寒いニューヨークで窓を全開にしてる人なんて、このジュシュ・ハートネットくらいよね。




だってミネソタで育ってるのに、これくらいで寒いのか?」
「・・・・・・どこで育とうと寒いものは寒いのー。ジョシュだって、そのうち、こっちの気温に慣れて寒く感じるわよ」
「ふーん。ヤワになったな」
「・・・・・・そんな無駄口叩いてる暇があるなら、その服、洗濯機に放り込んできてよね!」
「はいはい。相変わらず怖いよな、って」




苦笑いを浮かべながらジョシュはソファから立ち上がり、両手いっぱいの服を持って歩いて行った。
その後に私も続き、洗濯機置き場へと向う。




「ジョシュ、また服が増えたのね」
「んー。そうかも。こっちに着てからも買いあさってたし」
「クローゼットに入りきらないでしょ? ずっとニューヨークにいるわけじゃないんだからミネソタに送ればいいじゃない」
「でも長期滞在する時が多いしさ。いいんだ」
「いいって言っても・・・・・・これを片付けたり洗濯するのはジョシュじゃなくて彼女さんなんだから可愛そうじゃない」




呆れたようにそう言いながら服を洗濯機に放り込むと、ジョシュは一瞬、気まずそうな顔を見せて息をついた。




「何?」
「いや・・・・・・それが・・・さ」
「?」



ジョシュは何て言おうか考えてる風に頭をかいている。
この表情は前にも見たことがあった。
そう・・・・・・ジョシュが珍しく連絡もなしに私の家に来た、あの夜に一度だけ・・・






「もしかして・・・・・・モデルの彼女と別れた・・・とか?」
「・・・・・・ご名答」
「うそ・・・」
「ほんと」





別に本気で嘘だと思ったわけではない。
ただ最近では長続きしていた人だったし、ニューヨークに引越してからは遠距離にならなくて済むんだから、と思っていたので驚いたのだ。




ウィーンと洗濯機の中でぐるぐる回っている服を見ながら私は思い切って口を開いた。





「・・・何で・・・別れたの? せっかくニューヨークに来たのに・・・」
「・・・・・・・・・"私はあなたのメイド?!"」
「は?」
「って言われた」
「どういう・・・・・・」
「だからーがやってくれる、こう言う作業を何で私がしなくちゃいけないの?!ってさ」
「・・・・・・・・・あー」





納得。
ジョシュのこういう世話を高飛車なモデル女が出来るわけないって思ってたもの。
私、そう思ってたんだから。






「何だよ。"あー"って」
「だって。そんなモデルさんとか女優さんが、こんな庶民的なことね・・・したくないんだろうなって」
「そうかー? 普通、こうやってしてくれない?」
「それは・・・私だから出来るだけで・・・・・・」
「何でだよ?」
「何でって・・・・・・」






"ジョシュを好きだから"




たった、それだけの簡単な答えに何故、気づかないか、この男は!






「何で?」
「だから私はモデルでも女優さまさまでもないし! 自分のことは自分でしてきたからよっ」
「あー納得」
「む・・・。どうせ私は庶民ですよ」
「そういう意味じゃないよ」




スネた私の頭をジョシュは大きなその手でクシャっと撫でてくれた。
ジョシュに、こうされるのは嫌いじゃない。
いや、むしろ凄く嬉しい。





「じゃあ・・・どういう意味?」
「自立してるからな、は」
「え?」
「シッカリしてるし、いい奥さんになりそうなタイプ」
「・・・・・・じゃあ・・・ジョシュの彼女は?」
「んー。"我がままお嬢様"って感じだったかな?」
「・・・・・・そういう"お嬢様"が好みなんじゃないの?」
「まさか。付き合う前には、そんな感じじゃなかったし? "私、料理得意なの"なんて言ってたくらいだからさ」
「ふーん。料理出来るならいいじゃない」
「・・・・・・料理が出来ても・・・片付けられなくちゃな。食べ終った後にキッチンがグッチャリじゃ気持ちも半減・・・」




ジョシュはボソっとそう呟き、苦笑を洩らした。
そして人の気持ちを逆撫でするように、




「俺の理想は・・・そう、みたいな子かな?」




なんて言って顔を覗き込んでくる。
これには不覚にも胸がドキンと鳴ってしまった。





「な・・・何言ってるの・・・?」
「だって本当のことだし。料理も上手で掃除も上手だろ? まさに俺の女性像そのまんま」
「――っ!」





じゃ、じゃあ何で他の子とばかり付き合うのよ・・・って言いたくなった。(でも言えない)






「お、幼なじみには興味なんてないんじゃないの・・・・・・?」






嬉しいくせに悔しくて。
素直じゃない言葉が口から洩れる。
でもジョシュは怒った様子もなく、優しい笑顔をくれた。






「それはの方だろ?」
「・・・え?」
「俺のこと男として見てなかったくせに」
「そ・・・・・・」





そんなことあるわけないじゃない・・・!!
じゃあ私のこの長年の片想いは何だったのっ?







「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」







互いに暫く黙ったまま見つめあった。
どこまで本気で言ってるのか分からず、探り合いのような空気が流れる。



だけど、その沈黙を破ったのはジョシュが先だった。



いや・・・正確には言葉を発したのではなく、先に動いたといった方が正しい。









だって気づけば彼の唇が私の唇と重なっていたのだから。




















「そろそろ気づいてくれない? 俺の"長年の片想い"って奴にさ」













何が起きたのか分からず、ただ呆然としてる私に、ジョシュは目を細め、更に、


「ちょっと紛らわせるのに遠回りしすぎたよ・・・」


と苦笑交じりで呟いた。


彼の言葉の意味を理解するには暫く時間がかかり、私は目の前で微笑むジョシュを見上げるしか術がない。




その間、何度もジョシュの唇が下りてきて、ジョシュの"告白"の意味を理解した時には、私の顔は耳まで真っ赤だった。
それでも何とか口から搾り出した言葉は―――
















「私は・・・・・・・・・・・・・ジョシュの・・・何?」






「・・・大事な幼なじみ・・・・・・で、大切な恋人。 って事でいい?」














そういう事なら・・・・・・恋人になってあげてもいいかな?



私だって長年、待ったんだから、ね。




それに・・・・・・いつまで経っても少年のままのジョシュを面倒みれるのって私くらいじゃない・・・?

















私が小さく頷くと、ジョシュは満足そうな笑みを浮かべて再び唇を近づけてきた。


だがそれを遮るように指で彼の唇を止める私。










「何だよ・・・?」



「その前に・・・・・・まず、この洗濯物をやっつけないとね」










照れ隠しで、そう言った私に、へにゃっと眉を下げ、ジョシュは大げさに溜息をついた。















だって・・・恋人から始めるなら・・・奇麗に片付いた部屋がいいものね。






























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前にジョシュがお付き合いしてたモデルさんが、
「彼は彼女が来るときだけ脱ぎ散らかした服を集める。それは洗濯して貰う為」なんて
話してたので、それネタに。
結局、彼女も、そのジョシュの性格に耐えられず破局。(もったいないっ)
それで幼なじみヒロインで書いてみた。
でも長年、互いの気持ちに気づかないオバカな二人になってる辺り・・・(苦笑)
ジョシュの為なら、洗濯くらい!庶民ですから!(はいはい)
あ、メイドでも可。(もういいから)