"幼なじみ"から"恋人"になって一週間。




今日は仕事も休みだし、彼もオフだということで私はジョシュの家へとやってきた。
夕べの電話で"起きたら電話するから"と言われていたが、
こうやってコッソリ来たのも抜き打ち検査のようなものだ。
と言っても・・・別に女を連れ込んでいないかというものでもなく、
一週間前に片付けた部屋が持続されているか、という些細なもの。
それと・・・・・・やっぱり早くジョシュに会いたかったからだ。
幼なじみの頃は会えないのは、それなりに辛かったが、まだ我慢できていた。
でも、いざ長年の想いが叶ってしまうと、欲が出るのか少しでも早くジョシュに会いたいなんて思ってしまう。



一週間ぶりにジョシュに会える、と私は少しドキドキしながら彼の部屋へと足を踏み入れた。

















「・・・何、これ・・・・・・」




一週間前のシーンをくり返すかのごとく、同じ台詞が口から洩れた。
もらったばかりの合鍵を握りしめた拳は今は嬉しさと言うよりも小さな怒りでぷるぷると震えている。


なぜかと言うと・・・・・・見渡した部屋の中は、初めてここへ入った時と
何ら変わり映えしないくらいに散らかっていたから――















「あ、あんなに苦労して片付けたのに・・・一週間でこれ?! これなのっ?」






ブツブツ文句を言いながら床に散らばる服を足で蹴飛ばして(行儀悪い)家の主を探しにベッドルームへと向う。
一番奥にあるベッドルームのドアは僅かに開いていて、そこから覗けば確かに家の主はベッドにいた。
上半身裸のまま、うつ伏せで布団なんか腰の辺りにしかかかっていない。






「はぁ・・・・・・」





溜息一つ、ついてから静かにベッドルームのドアを閉めた。
そして、そのままリビングに戻ると着ていたコートを脱いで丸めてからバッグと共に廊下に置く。
じゃないと、ジョシュの脱ぎ散らかした服で分からなくなりそうだからだ。






「仕方ない・・・片付けちゃおう・・・」





ウンザリしつつ、私はまずは床やソファに散らばっている服を集め、洗濯機置き場へと運んでいく。
それを数回くり返し、洗濯機を回すと、今度はリビングのテーブルの上にある、
ピザを食べたと思われる食器やワイングラスをシンクの中へ放り込んだ。
食器類を手早く洗うと、今度は少しだけ窓を開けてから掃除機をかける。
今日も寒いのに動いてるからか、体はだんだん温まってくるほどだった。






「これで、よし、と」






一通りリビングが片付いたのを見ると私はホっと息をつき、また洗濯機置き場へと向った。
そこで洗い終わったものを出し、また次の洗いものを洗濯機へ放り込む。





「う・・・重い・・・」





水を含んだ衣類を大量に抱えながらベランダへと歩いて行って、そこへ皺を伸ばしてから干していく。
これを後、数回くり返さないといけないのかと思うと、気が滅入ってくる。
なのに・・・・・・やっぱり心のどこかで幸せを感じている自分がいた。






「はぁ・・・やってることは同じなのになぁ・・・。幼なじみの時より数倍も楽しいかも」






そんな事を思う、ちょっとゲンキンな私がいる。
そして洗濯が終るまでに何か軽く食事でも作ってあげようと冷蔵庫を開けた。






「何よ・・・・・・何も入ってないじゃないの~」






いや、ビールとかミネラルウォーターくらいは入っていた。
だけど食べる物が何もないのだ。





「買い物も行かないといけないわけ・・・・・・?」





そこで小さな溜息一つ。
でも、それもまた小さな"幸せ"。



よいしょっと立ち上がり、キッチンを出ると廊下に置いたコートを手にした。
だが、その前にちょっとジョシュの寝顔を見てから出かけようと踵を翻し、ベッドルームとへと向う。
静かにドアを開ければ、ジョシュは先ほどとは変わって今度は仰向けに寝ていて
右腕を自分の額に置いたままグッスリ眠り込んでる様子だ。
足音を忍ばせ、そぉっとベッドに近づくとジョシュの顔を覗き込んでみる。
夕べは台詞を入れていたのか、ベッドサイドにある棚の上には今度の映画の台本が開いたまま置かれていた。



あの電話の後、ちゃんと仕事してたのね。




夕べジョシュと電話で話していた時、これから台本読んで寝るって言ってたのを思い出し、笑顔になった。








「行って来ます・・・・・・」





そう呟いて歩いて行こうとした、その時、「う~ん・・・・・・」という唸り声が聞こえてドキっとした。







「・・・・・・・・・?」


「・・・・・・っ?」






不意に名前を呼ばれ振り向くと、ジョシュは額に乗せていた腕を避けて目を細めながら体を横にした。





「・・・お、おはよ・・・」
「おはよ・・・。何だ、やっぱ来てたんだ・・・・・・」
「う、うん・・・。え・・・? やっぱって・・・私が来るの分かってた・・・?」





抜き打ちで来る事がバレてたのかと、ベッドの横にしゃがんで尋ねれば、ジョシュは目を擦りながら小さく苦笑した。





「いや・・・さっきからリビングの方で掃除機の音がするなぁってさ。
何となく目が覚めて、またウトウトしてたから夢かなとも思ったんだけどさ」


「そ、そう・・・。ごめんね? うるさかった・・・?」


「いや・・・・・・ってか、俺もごめん・・・」


「え・・・何・・・が?」


「部屋・・・・・・・・・汚かっただろ・・・・・・」


「ああ・・・・・・」






ジョシュは寝ぼけた顔のまま、それでも気まずそうに頭をガシガシかいて子供のように上目遣いで私を見てくる。
それには、ちょっと笑顔になった。





「まあ・・・一週間で、あんなになってるとは思わなかったけど」
「悪い・・・。今週、仕事忙しくて帰って来たら、そのまま寝ちゃってたし・・・。
ほんとは今日、起きてから掃除してに電話しようと思ってたんだ」
「いいよ。もう殆ど片付けたから」
「うそ、マジで?」
「うん。後は洗濯が終るのを待つだけ」
「…さすが、仕事早いね」





ジョシュは驚いたように、そう言うと、すぐに嬉しそうな笑顔を見せる。
そして横になったまま手を伸ばし私の腕を引っ張った。





「ちょ・・・ジョシュ・・・?」
「何だよ」
「何してんの・・・?」
「んーおはようのキス、しようと思って」
「・・・・・・っ?」





私の腕を引っ張り、その腕をすぐに首の後ろに回された私はジョシュの言葉に頬が赤くなってしまった。
至近距離にジョシュの優しい瞳。
ゆっくり近づいてくる唇、それらにドキドキして思わず、顔を背けてしまう。





「・・・何で俯くわけ・・・?」
「だ、だって・・・。あの・・・私、今から買い物に・・・・・・」
「買い物・・・・・・?」
「ジョシュんちの冷蔵庫、何も入ってないから何か買って来ようと思って・・・」
「あ~そっか・・・・・・」






ジョシュはクックっと笑いを噛み殺し、そして今度は私の体を無理やりベッドに上げると
急に起き上がって私の上に覆い被さる体勢になった。






「ちょ・・・っジョシュ・・・?」


「買い物、一緒に行くよ」


「・・・・・・え?」


にキスしてから」


「な・・・・・・んっ」






その言葉に驚いて逃げようと思ったがジョシュはニヤっと笑うと、すぐに私の唇を塞いだ。
この前の触れるだけのキスよりも少し深く甘い口付けに私の頭は一瞬で何も考えられなくなる。
押し付けるように唇を愛撫され、ドキっとした瞬間、開いた隙間から熱い舌が入って来てパニックになった。





「ん・・・・・・ちょ・・・・・・」





グっとジョシュの胸を押すも、彼は一向にキスをやめてくれない。
求めるように何度も舌を絡められて私の心臓は爆発寸前だった。




だって・・・だってジョシュとキスをしたのは、この前の軽いものだけで、それだって彼との初めてのキスだったんだから。
こんな大人なキスをするのはジョシュとは初めてで恥ずかしくて顔が熱くなっていく。
そして顔の熱で頭が逆上せそうでクラクラしてきた頃、チュっという音と共にゆっくりと唇を解放された。
私はすでにクタっとして体に力が入らず、そっと目を開ければ、ジョシュは優しく微笑んで額にも軽くキスをしてくれる。
そして、ホワンとしている私を見て、ちょっとだけイタズラッ子のとような笑みを浮かべた。








「そんな目で見るなよ。このまま襲っちゃうぞ?」



「―――っっ!」









その一言で私は上に覆い被さってるジョシュを押しのけ、ガバっと起き上がった。







「ぁれ・・・逃げられた」
「昼間っから何、考えてんのよ!バ、バカなこと言ってないで早く買い物行くわよっ」
「はいはい」






恥ずかしさのあまりジョシュの方を見ないまま、そう怒鳴れば
彼はクスクス笑いながら、やっとベッドから抜け出した。
どうせ着替えるだろうと思って私はリビングで待ってると、ジョシュは黒のパーカーにジーンズ、
キャップにサングラスといった、普段の格好でやってきた。
こうして見ると、さっきまでのエロエロモードなジョシュと同じ男とは思えないほどにカッコいい。


はぁーこれで世間を騙してるんだ、きっと。
ほんとは凄くものぐさでエッチで、ちょっと意地悪で・・・・・・






「じゃ、行こっか」


「・・・・・・・・・・・・・・・」







ジョシュから、そっと差し出された手に胸がトクンと鳴る。
私がおずおずと手を出せば、彼はやんわりと手を握り、すぐに指を絡めてきて更にドキドキしてきた。
ジョシュは満足そうに微笑むと、私の手を引きながらテーブルの上に置いたままの財布を
無造作にジーンズのポケットに押し込む。





「今日はに何、作ってもらおうかなー」


「・・・・・・・・ジョシュの好きなもの」





ボソっと呟けばジョシュは嬉しそうに微笑んで素早く私の頬にチュっとキスをした。
そのまま一緒に部屋を出て近くのマーケットへと歩いて行く。


こうしてジョシュと手を繋ぎながら買い物に行くの、夢だった。
時々、頭一つ半ぶんくらい違うジョシュを見上げながら、そんな事を思い出し自然と顔が綻んでくる。






「ん? 何、ニコニコしてるの?」


「何でもない」


「何だよ・・・?」


「何でもないったら」


「ふーん・・・」






ジョシュはちょっと首を傾げつつ、目を細めて私を見ている。
そして何を勘違いしたのか、不意にニヤっと笑うと、少し屈んで私の耳元に口を寄せた。







「帰ってご飯食べたら・・・・・・さっきの続きでもしよっか」




「――は?」




「あはは・・・、すぐ赤くなるよな。ま、そこが可愛いんだけど」




「・・・・・・・・・・・・・・・」



「あれ・・・怒っちゃった?」








フニャっと眉を下げて、また私の顔を覗き込んでくるジョシュをジロっと睨みつけた。





「そんな怒るなよ・・・。ジョークだってば」



「どーだか。せっかく――」



「? せっかく・・・何?」



「な、何でもないっ」



「何だよー。気になるだろ?」







ジョシュはスネたように口を尖らせ、繋いでいる手をギュっと握りしめた。


そんなジョシュを見上げ、私はフフンと鼻で笑いながら、べーっと舌を出す。












"・・・・・・さっきの続きでもしよっか"



























・・・・・・教えてあげない












ほんとは・・・・・・それもいいかな、って思った事。



































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幼なじみ第二弾ー♪
両思いになってすぐの普段の二人を描いてみました。
きっと何もかも新鮮で楽しいんだろうなーとか思いながら、
珍しく、ちょっとエロモードで強引なジョシュなんぞ(笑)
今まで幼なじみというものに縛られ一歩引いてたのに両思いになってからは
それまで我慢してたものが思い切り出てしまう、なんて感じ?(笑)(何だよ、それ)