「もういい。リジィなんて知らない」 それが最後に彼女から僕に向けられた言葉。 そこで彼女との11ヶ月になる付き合いも終った。 だから今、こうして目の前で彼女の笑顔を見るのは・・・・・・約二年ぶり・・・ということになるだろうか。 「元気だった?」 「うん、まあ・・・。は?」 「私は相変わらず、見ての通りかな」 彼女はそう言って、ちっとも変わらない魅力的な笑顔を見せながら、僕の大好きだったサラサラの長い黒髪をかきあげる。 は・・・一段と奇麗になって僕の前に現れた―― そもそも、この集まりを提案したのはとも知り合うキッカケとなった "THE LORD OF THE RINGS"という作品で知り合ったオーランドとビリー。 二人が久し振りに"ロード"の仲間で集まらないか? と言い出し、結果、 こうして某高級ホテルのスィートルームを貸切り集まったのだ。 まあ一種の同窓会みたいなもんだな、うん。 でも、ただ一つの誤算。 僕はその話を聞いた時、集まるのは俳優陣だけだろうと思っていたんだ。 まさか当時のスタッフまで集まるとは思ってもみなかった。 結果、僕とという元恋人同志の再会の場にもなってしまったというわけ。 「おぉう、リジー飲んでるか~?」 「・・・まぁね・・・」 「何だよ、暗いなー!久し振りに皆と会ってるんだから、もっと楽しそうな顔をしろよ」 「・・・・・・出きると思う?」 「ん? ああ、彼女のことか? まあまあ気にするなよ。もう昔の話だろう?」 全く・・・ビリーも人ごとだと思ってさ。 オーリーもオーリーだよ。 彼女も呼んだのなら、ちゃんと教えておいて欲しいよ。 こんな予告もなしに再会なんて心臓に悪すぎる。 「彼女は人気者だったからさ。オーランドも会いたいから絶対呼ぼうってことになったんだよ」 「あーっそ。それで僕には内緒?」 「だって言えば、お前、来ないだろう?」 「よく分かるね」 「だから言わなかったんだ。なー? オーランド」 「そうそう、その通り!」 「・・・・・・・・・性格悪いよ、キミタチ・・・・・・」 呑気に笑いながら歩いて来たオーランドと目の前のビリーに小さな抵抗をするべく、 そんな事を言ってみても事態は良くなりゃしない。 「はぁ・・・どんな顔でと話せってんだよ・・・」 そうボヤいて昔と同じように大勢の人に囲まれている彼女を見た。 今はディヴィッドやショーンの"ロード兄弟"組と楽しそうに談笑している。 そうだ・・・彼女の周りには、いつも、あんな風に男がいたっけ。 言ってみれば彼女と別れた原因は僕のつまらない嫉妬なんだけどさ。 はスタッフだったけどエキストラでエルフを頼まれるほどの美貌の持ち主だった。 元々ハーフということもあって独特の魅力がある子で、当時もかなりモテていた。 男性スタッフの間でも可愛がられてたし、俳優陣の皆からも可愛がられ、よく食事にだって誘われてたっけ。 今、嬉しそうに彼女と話しているディヴィッドやショーンも、そのうちの一人。 そして今回、この提案をしたオーランドだってね。 まあ・・・例にも洩れず、この僕だって彼女の魅力に惹かれて恋に落ちた男のうちの一人なんだけど・・・・・・ そんなモテモテな子がどうして僕の事を好きになってくれたのか未だに分からない。 と言っても・・・他の男の影がチラつく彼女に嫉妬して、そのたびにケンカになって、あげく振られたんだけどさ。 ああ・・・あの頃の事を思い出すと胸が痛くなる・・・ 「よぉ、イライジャ。飲んでるか?」 「ああ・・・ショーン・・・」 「ほら、ワイン好きだろ?」 「サンキュ・・・」 いつの間にかから離れ、隣に来ていたショーンはそう言って僕にワイングラスを渡した。 そして広い空間に集まっている、かつての"戦友"達をニコニコと眺めている。 「懐かしいなぁ・・・。皆、変わってない」 「うん、そうだね。ショーンも元気だった?」 「ああ、まあな。イライジャは時々ドムやビリーとかには会ってるんだろ?」 「うん。よく一緒に飲んでるよ」 「俺はまあ途中でいなくなったのもあるから凄く久し振りだよ。たまにはいいな? こんな集まりも」 「そうだねー。皆、楽しそうだ」 そう言ってワインを口に運ぶと、ショーンは意味ありげな顔で僕を見てくる。 「彼女と・・・話さなくていいのか?」 「え?」 「だよ。付き合ってたんだろう?」 「・・・・・・・・・・・・」 「隠すな。オーランドから聞いて知ってるよ。当時、隠れて付き合ってた事も撮影終了直前に別れた事もな?」 「・・・・・・オーリーのおしゃべり・・・」 「あははっ。まあ、あいつも彼女のファンだったからな?」 「そういうショーンもだろ?」 「まあ・・・な」 「あとは――」 「僕もファンだったよ?」 「ディヴィッド・・・っ」 「よう、弟。はどうした? もう逃げられたのか?」 「いや、今、到着した王様に盗られたんだ」 苦笑交じりで歩いて来たディヴィッドは親指を立てて後ろを指差す。 その方向にはヴィゴと嬉しそうにハグしあっているの姿が見えた。 「ああ、あそこにも彼女のファンが一人、ってわけだな」 「そういうことだよ、兄上」 ディヴィッドとショーンは、そんな事を言い合いながらグラスをカチンと合わせて笑った。 だが・・・僕は笑えないよ。 久し振りに過去の傷がズキズキと痛んできたんだから。 はもう酔って来ているのか、頬を薄っすらと赤く染めて凄く可愛らしい。 当時の傷も痛むけど、あの頬にキスをした記憶までもが蘇えり、ちょっとドキっとしたりして。 「なあ、話して来いよ」 「え?」 「このままじゃパーティが終るまで他の男に盗られっ放しだぞ?」 「い、いいよ・・・。無理に話す必要は・・・・・・」 「でも彼女はそうでもないみたいだな?」 「―――は?」 ニヤリと笑うショーンの言葉に顔を上げると、ヴィゴと話し終えたがこっちに歩いて来るのが見えて心臓が跳ね上がった。 「ほら、話して来いよ。因みに・・・・・・隣のベッドルームは誰もいないし静かに話せるぞ?」 「バ・・・バカなこと言うなよ・・・っ」 「まあまあ。当時、彼女を落としたのは、あくまで、お前なんだ。俺達はとっくに振られ組だからな?」 「そうそう。ほんと憎たらしい」 "兄弟"組は、そう言いながら僕の事を肘でドンっとどついてきて、その痛みに顔を顰めた。 それは違うよ・・・ショーン・・・。僕だって、とっくに"振られ組"に入ってるんだからさ・・・。 「ショーン、ディヴィッド。ちょっとリジー貸してもらってもいい?」 「ああ、どうぞ、どうぞ」 「ほら、イライジャ。これ持ってベランダで話して来い。今なら皆も酔ってるしバレないから」 「ちょ、ちょっと二人とも――」 ショーンとディヴィッドは僕の手にワインのボトルを持たせると背中をグイグイと押してきた。 それをもクスクス笑いながら見ている。 ったく!何でこうなるんだよ・・・! そうは思いながらも、やっぱり足は自然と誰もいないベランダの方に向き、 も黙ってついてきてくれたから嬉しかったんだけど。 「元気だった?」 「うん、まあ・・・。は?」 「私は相変わらず、見ての通りかな」 彼女はそう言って、ちっとも変わらない魅力的な笑顔を見せながら、僕の大好きだったサラサラの長い黒髪をかきあげる。 言われるがまま二人でベランダに出て、視線も合わさず何とか言葉を交わした。 だんだん緊張してきたから、まずは一気にワインを飲み干すと、そのグラスにがワインを注いでくれる。 「リジーは・・・ちょっと変わったね」 「え・・・?」 「少し・・・・・・男っぽくなった」 「そ、そう・・・・・・?」 「うん。時々、雑誌とかテレビで見てたんだけど・・・」 「そう・・・・・・」 あ~何を話せばいいのか分からない。 ほんとは・・・聞きたいことが山ほどあるのに。 "今はどんな映画に携わってるの?" "今はどこに住んでるの?" "今は・・・恋人は・・・?" そんな質問ばかりが頭の隅を過ぎる。 だけど・・・今さら、そんな事を聞いたからといって、あの頃の僕らに戻れるわけもなくて、意味もない事だと言い聞かせる。 って・・・僕はあの頃に戻りたいんだろうか? まだ彼女の事を愛してるとでも・・・? この二年、恋人の一人も作らないのはの事を忘れられないから・・・・・・? そう・・・なのかもしれない・・・。 現に・・・さっきだって、楽しそうにショーン達と話していたを見て、あの頃みたいに嫉妬してる僕がいたんだ。 「リジィ・・・?」 「な、何・・・?」 あれこれ考えていると、隣に立ったが僕の顔を覗き込んできてドキっとした。 ほのかに香る彼女の香水さえ、あの頃と同じで一瞬、過去に戻った気になる。 「私と・・・会いたくなかったみたいね・・・」 「・・・・・・は?」 「だって・・・・・・気まずそうな顔してたし、今だって黙っちゃうから」 「そ、それは・・・さ・・・」 は僕の方を見ないまま、手の中でワイングラスを弄んでいる。 その横顔が少し寂しげで僕は胸が痛んだ。 彼女は・・・今日、僕が来る事を知ってたんだろうか・・・ ふと気になり、を見た。 「は・・・今日、僕が来ること・・・・・・知ってた・・・?」 「・・・・・・ええ、知ってたわ。オーリーから連絡が来た時に聞いたもの」 「そ、そう・・・・・・」 「リジーは・・・?」 「え? ああ・・・僕は・・・知らなかった・・・」 「そうなんだ・・・。やっぱりね」 「やっぱり・・・?」 「うん。だって私を見て凄く驚いた顔してたから、そうなのかなって」 「ああ・・・ごめん・・・。オーリーの奴がわざと教えてくれなかったみたいで・・・心の準備がさ・・・」 ちょっと苦笑して肩を竦めれば、もかすかに微笑んだ。 「私は・・・・・・今日、皆にも会いたかったのもあるけど・・・・・・リジーにも会いたくて来たのよ・・・?」 「え・・・・・・?」 「でもリジーはそうじゃないみたいだね」 はそう言うとテラスから離れてパーティをしている部屋ではなく、ベランダの奥の隣の部屋の方に歩いて行った。 僕は慌てて皆の方を見たけど開け放した窓からは笑い声しか聞こえず、誰もこっちを見ていない。 それを確めて彼女の後を追った。 「・・・ちょっと待てって。誰もそんなこと言ってないだろ・・・っ?」 ベランダの端の方にいるの腕を掴み、こっちに向かせてそう言うと、彼女は驚いたように顔を上げた。 「そんなにムキにならないでよ・・・・・・」 「なってないよ。ただ僕は――」 「もういい・・・」 「・・・・・・・・・っ」 "もういい。リジィなんて知らない" あの最後の言葉が記憶から蘇えってきて胸の痛みまで再現されたように痛んだ。 「何がいいんだよ・・・・・・・・・」 「だから、もういいってば」 「だから何がだよ」 「・・・何怒ってるの?」 「が怒らせてるんだろ?」 ああ、こんな言い合いまでが昔に戻ったようだ。 男に囲まれている彼女に嫉妬して、怒って、ケンカばかりしてた、あの頃に―― 「リジィが、いつも勝手に怒るんじゃない・・・・・・」 「そう思う? には理由が分からない? ほんとに?」 「・・・・・・・・・・・・それは・・・」 「ほんとは分かってるんだろ? 分かってて、それでもは変わらなかった。違う?」 「だ、だって・・・あの頃は私だって必死だったのよ!慣れない現場で知らない人達と 長い間、生活しなくちゃいけなかったし・・・っ」 「分かってるよ・・・!そんなの・・・僕にだって分かってたんだ・・・・・・」 が・・・僕を怒らせようと思ってしてたわけじゃないって・・・・・・ 早く皆に馴染もうと彼女なりに必死に頑張ってたんだって事くらい・・・ だけど・・・彼女がどうしようもなく好きで・・・・・・誰かに盗られてしまうんじゃないかって・・・いつも不安だった。 まだガキだった僕は自分に自信がなくて・・・・・・ ただ不安で彼女を縛りつけようとしてただけの・・・ただのバカな男だったよ。 そう・・・・・・だから君に振られたんだったよね。 「リジィ・・・・・・?」 ああ・・・そんな涙で潤んだ瞳で見つめないで・・・・・・ また懲りもせず、君に恋してしまうから。 「私、ほんとは、あの時――」 「・・・黙って・・・・・・」 「・・・・・・んっ・・・」 もう遅い・・・・・・ あの頃の想いまでが再燃して君にキスしないといられなくなったから。 昔と同じように、何度も触れては離し、少しづつ深くしていく。 彼女の唇はちっとも変わってなくて、しっとりと濡れて僕の体を熱くさせた。 「・・・リ、リジィ・・・・・・」 思う存分に彼女の唇を味わい、チュ・・・っと音をたててゆっくり唇を離せば、の瞳から涙が零れた。 ほんと・・・何度君に恋に落とされたら僕は気が済むのかな・・・・・・ ほんとは・・・僕だって悪かったんだ・・・・・・ ねぇ・・・今、ここで心から謝ったら・・・・・・君は僕を許してくれる・・・? また・・・僕の事を愛してくれるのかな・・・? もう一度・・・君にキスをしたら、今度こそ本気で謝るから、今の気持ちを告白するから・・・ だから もう一度 愛して。 今もなお、過去の記憶のまま、君に溺れてる哀れな僕を――
※ブラウザの"戻る"でバックして下さいませ。
元恋人同志という設定ですねー
|