もう知らない。 と言うよりは信じられない。 何度、こんなゴシップを目にしなければいけないわけ―? 「もぉーいや!もぉー別れるっ!」 ドンっとテーブルを叩き、そう怒鳴れば目の前の男(高校時代からの私とジョシュの親友)ジェイクは目をパチクリとさせ体を後退させた。 「な・・・どうしたんだよ・・・」 「どうしたもこうしたもなぁい!いいの!私はジョシュと別れるって決めたの!」 「はぁ? だから何でだよ?」 ジェイクは驚いたように今度は体を前のめりにして聞いてくる。 そんな彼に私は持っていた雑誌をバンと開いて見せてやった。 「これ!これで3回目よっ?」 「あー・・・」 ジェイクはその雑誌を見て苦笑いを浮かべると、その記事に目を通していく。 「"ジョシュ・ハートネット、美人モデルとバーで密会"・・・ねぇ・・・」 「しかも、また別の人なんだから!信じられる? 今年に入って3回も、こんな記事が載るなんて!」 私はあまりに腹が立ち、ビールをグイっと飲み干した。 そんな私にジェイクは軽く溜息をつくとポンっと頭に手を乗せてくる。 「お前なぁ・・・こんな記事、信用するのか?」 「別にそういう事じゃないの。こんな雑誌のネタになるような事をするジョシュの事が、もう信じられないのっ」 「バカ、お前、そんなヤケ酒するなよ・・・。で? ジョシュは何て言ってるんだ?」 「何も。言ってないもの、ジョシュには」 「はぁ? 何も言わずにお前、こんな荷物持って家出か?」 ジェイクはそう言ってリビングの隅に置かれている私の大きなボストンバッグを半目で見ては溜息をついている。 そう、私はさっきジョシュと一緒に住んでいた家を飛び出してきたのだ。 と言ってもジョシュはロケ先からまだ戻っていないから勝手に出てきたことになる。 それで、そのまま高校の頃からの付き合いで親友のジェイクに愚痴を言いに来たのだ。 いや・・・愚痴と言うよりは私の決意のほどを聞いてもらおうと。 (彼は私とジョシュのどちらとも友達だし、昔から私達を見てきた唯一の人物だから) 「いいのよ。言い訳の電話、一つもかけてこないんだから!帰って驚けばいいんだわ」 「良くないだろ? 帰って来るの待って、ちゃんと話し合えよ・・・どうせ、こんなのデマなんだからさ」 「嫌よ。この前だって我慢したんだから。違うって言われても、こう続けば嫌になるでしょ?」 「だから・・・あいつは今、仕事に復帰して色々な作品にも出演が決まって軌道に乗ってる時だろ? だからパパラッチだって目をつけて、あら探しとかしては小さな事を大きく書いてるんだって」 「でも・・・嫌なのよ・・・」 「おい、・・・」 私はソファに凭れて軽く息をついた。 ジョシュと高校時代から付き合ってきて何度か別れたりもしたけど、やっぱり彼の事が好きで、ずっと応援してきた。 一緒に住み始めても一年の半分も家にいない彼に、私は寂しいって言いたかったけど言わずに我慢してきた。 俳優業を長期休んだ時だって壁にぶつかったジョシュを支えてきたつもりだし、あんなに好きな仕事を辞めないで欲しいとも思ったのよ。 だから去年から復帰したジョシュの活躍は私にとっても凄く嬉しい事だったし幸せな事でもあった。 なのに・・・今年に入ってから、立て続けにジョシュの女関係がゴシップ雑誌を賑わせて最初は笑って済ませてきたけど、 でもロケでいないジョシュを待ちながら、何度もこんな記事を見せられちゃ不安にもなるってものじゃない? そう・・・いくらジョシュが仕事絡みで会ってた、なんて言ってくれても、 ほんとは嘘ついてるんじゃないかって疑いの気持ちも芽生えたりするのよ・・・ 「とにかくさぁ・・・ジョシュが帰って来るまで待てよ・・・悪いこと言わないから」 「・・・嫌よ・・・。あの家で一人ジョシュを待つのは、もう嫌・・・」 「・・・・・・まあ・・・それも分かるけどさ・・・。で・・・ジョシュはいつ帰って来るわけ?」 「・・・明日の午後・・・」 「は? じゃあ明日まで待てばいいだろ?」 「だから嫌よ・・・。今日はここに泊めてもらうから!」 「はぁ?!」 私がそう言うとジェイクは更に驚いた顔をした。 「バカ、困るよ!を泊めたりしたら俺がジョシュに殺されるだろ?」 「どうして? いいじゃない、ジェイクなら友達なんだし」 「だ、だからって男の一人暮らしの家に泊まるって・・・」 「あら、ジェイクは良からぬ事でもしようっていうの?」 「し、しないけど!」 「じゃあ、いいじゃない。ジョシュと勝手に住むって決めて出て行ったから実家にも帰りづらいのよ・・・」 私がそう言って目を伏せると、ジェイクは困ったように頭をかいていたが、大きな溜息と共に、 「・・・分かったよ・・・じゃあ・・・今夜一晩だけな? 明日、ジョシュが帰って来たら迎えに来て貰うから―」 「それは嫌!絶対、ジョシュには言わないで!OK?」 「おい、~・・・」 ジェイクは情けない顔でガックリと頭を項垂れた。 『――って事だから!おまえ、帰って来たら速攻で迎えに来い!分かったな? っとがシャワーから出てきたから切るぞ、じゃな!』 ブツ・・・ツーツーツーツー・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・」 俺はその留守電に思い切り固まってしまった。 ってかシャワーって何だよ?! あいつ、男の家でシャワーなんて入ってんのか?! 「ったく!」 俺は舌打ちすると、すぐに荷物を放り投げ、帰ってきたばかりの家を飛び出し車に乗り込んだ。 たった今、長いロケが終わり家に帰って来たって言うのに、出迎えてくれるはずのはいないし(ついでに荷物もないし) 何かあったのか、と留守電を聞いてみれば親友の慌てた声でのメッセージ・・・・・・ 「・・・・・・一体、何がどうなってるんだ?」 そうぼやきながらアクセルを踏み込んだ。 でも・・・・・・・・・・・・嫌な予感はしてたんだ。 あの雑誌の事は俺だって知らなかったわけじゃない。 でも前の記事の時にと話して分かってくれてると思ってたんだ。 だから今回もクランクアップ間近で忙しかったってのもあって、その事でには電話をしなかった。 でもだからって何も家出なんてしなくても!それもジェイクのとこなんて・・・・・・・・・・・・・ もっと他に行くとこあるだろう? 女友達の家とか! いや別にジェイクを信用してないってわけじゃないけど・・・・・シャワーとか貸してると思うと、ムっとくらいするってもんだ。 しかもは俺と別れるの一点張りで、なんて聞くと、かなり落ち込む。 「はぁ・・・・・そんなに怒ってるのか?」 俺は何て分かってもらおうかと考えつつ、ジェイクの家まで車を飛ばした。 「よぉ・・・・・・」 グッタリした様子のジェイクが家から顔を覗かせた。 そして俺の肩を抱いて何故か家から遠ざかろうとする。 「な、何だよ、おい・・・・・。は?」 「まだ寝てる・・・・・・」 「は? まだって・・・もう夕方だぞ?」 「寝たのが朝なんだよ・・・」 「な!お前、に何か―」 「バカ言うな!俺がそんな男に見えるのかっ?!」 ジェイクは血走った目でそう訴えてくるが、俺はつい頷きそうになってしまった。 「いや、ごめん。お前の事は信用してる。でも・・・何で朝まで・・・」 「ヤケ酒だよ!ったく・・・お前の愚痴を散々聞かされて、あげく酒まで付き合ったんだからな? 後で奢れよ?」 「だ、だからごめんって・・・。だから、そんなゲッソリしてんのか・・・(そういや何気に酒臭い・・・)」 「はぁー。で・・・どうすんの? 、すっかり別れる気でいるぞ?」 ジェイクは俺の車に寄りかかりながら煙草を咥えた。 その煙草に火をつけてやりながら、 「俺は・・・別れたくないよ・・・。分かってるだろ?」 「ああ、まあ・・・。でも・・・の言い分も分かるからな・・・。確かに最近、お前のゴシップが多すぎる」 「それはさ・・・」 「だいたい何でモデルとバーで飲んでんだよ?」 「だ、だからあれは違うんだって!最初、スタッフと飲みに行って・・・で、俺が一人になった時にモデルの子が話し掛けてきたんだよ」 「で、そこをパパラッチされて、でっち上げの記事を書かれたと・・・そういう事か?」 「そう!だからほんと何でもないんだって」 俺も溜息をつきつつ車のボンネットに座り、頭を項垂れた。 そして煙草を咥えると、今度はジェイクが火をつけてくれる。 「じゃあ、その事をに話してやれよ。あいつだって本気で別れたいなんて思ってないんだからさ」 「ああ・・・でも・・・今回は服とか自分の荷物、殆ど持ち出しててマジで驚いたよ・・・」 「そんな大切なら、ちゃんとの事も考えてやれよ? お前がいない間、あいつは一人ぼっちで、ずっと家で待ってるんだからさ」 「ああ、分かってる・・・」 親友の言葉に素直に頷くと、俺はボンネットを飛び下り、家の中へと入って行った。 中はカーテンが閉めっ放しで薄暗く、確かにビール瓶やらワインの瓶がリビングに転がっている。 「あーあ・・・こりゃ相当、飲んだな・・・」 それらを踏まないように気をつけて歩きながらを探すと、彼女は奥のソファの上に丸くなりながら眠っているのが見える。 その姿が子供のようで、思わず笑みが零れた。 「ったく・・・無防備な格好で寝ちゃってるよ・・・」 それでもジェイクがかけたのだろう。 彼女には薄いタオルケットがかけられていて、俺はソファの下に座ると少しだけそれを捲った。 すると彼女の寝顔が見えてホっと息をつく。 「・・・ごめんな・・・・・・。心配ばかりかけて・・・」 そう呟いて彼女の頭をそっと撫でた。 「・・・ごめんな・・・・・・。心配ばかりかけて・・・」 朦朧とした意識の中、大好きなジョシュの声が聴こえた気がした。 私は、まだ夢を見てるんだ、と思いながら、その低い声に耳を傾ける。 彼の大きな大きな手が私の頭を撫でてくれて、それが凄く心地いい。 ずっと会えなくて・・・色々な事が不安で・・・ それでも毎日、かかってくる電話だけで凄く幸せな気持ちになれた。 だから、こんな時こそ、言い訳でも何でもいいから電話して欲しかったのに・・・ そしたら素直に聞いて家で帰って来るのを待ってたんだからね・・・ ああ・・・もう何も言ってくれないの・・・? まだ聴いていたいのに・・・ 何も聴こえてこなくなった空間で私は凄く寂しくなった。 お願いだから・・・もっと私の名を呼んで・・・ 「・・・ジョシュの・・・声が聴きたい・・・・・・」 未だ夢の中を彷徨っていた私の言葉はムニャムニャと口から漏れては消えた。 その瞬間、頭を撫でていた温もりが消え、私はそこで意識が戻ってくる。 どうやら半分は目が覚めていたようだ。 ああ・・・何だ・・・ あれは夢で今私の頭を撫でてくれていたのは― 「・・・ジェイク・・・?」 そう呟いて目をゆっくりと開けた。 すると視界がボヤーっとしていて目を擦ってみる。 部屋が薄暗くて、よくは見えないが確かに目の前には誰かがいるようだ。 私はてっきりジェイクが起こしに来たんだと思って、もう一度、名前を呼ぼうとした、その時― 「バーカ。誰がジェイクだよ。恋人の声も忘れたのか?」 「―――っ?] 今度は確かにハッキリと聴こえた。 「ジョ・・・ジョシュ・・・?」 少しだけ体を起こし、必死に目を凝らせば少しづつ見えてくるのは確かに大好きな恋人の笑顔・・・ ジョシュはちょっと苦笑を洩らしながら、キョトンとしている私をそっと抱きしめた。 「ただいま・・・。ごめんな・・・? すぐ電話出来なくて・・・」 耳元で彼の声が響いてくる。 もう、それだけで昨日の怒りが消えていくのが分かって涙が溢れてきた。 「バカ・・・言い訳くらいしてよね・・・」 ジョシュの胸に顔を埋めながら、私がそう言うと彼はちょっとだけ笑って― 「・・・を愛してる・・・・・・じゃダメ?」 ああ、もう・・・仕方ないから許してあげようかな・・・? ほんと意志の弱い私―― 声が聴きたい のは遠い距離を結ぶ二人の絆を知りたいから ※ブラウザの"戻る"でバックして下さいませ。
おぉっと何とかお題が終了しました!(いや、また違うのをアップすると思いますが。笑)
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