「ん~よく寝たなぁ・・・」



僕はLAX(ロス国際空港)に降り立ち、サングラスを外すとカリフォルニアの青い空を見上げ、思い切り両手を伸ばした。


そしてタクシーに乗り込もうと到着ロビーを歩いて行く途中、公衆電話を見つけ、足を止める。







「・・・っと・・・まずは電話しないとね」





そう呟いて、僕は鼻歌交じりに公衆電話へと歩いて行った―――
























透けて見えるだけの貴女の顔オーランド編











「やあ、久し振り!」


ドアを開けてくれた彼女に、サングラスをズラして笑顔を向ければ、彼女――はチラっと視線を上げて、


「どうぞ・・・」


と招き入れてくれた。
顔を見た瞬間、抱きしめようと思っていた。
だけど少し元気がないのが気になり、とりあえず、そのまま彼女の肩を抱き、


「お邪魔しまーす」


と部屋へ入る。
そしてウォーターリリーの香りに、ふと笑顔になった。


この香りも久し振りだ。




「・・・予定より早かったんだね」
「え?」


不意に話しかけられ、僕はソファに座りながら顔を上げれば、はキッチンの方に歩いて行って振り返った。


「こっちに来るの・・・」
「ああ・・・。まあ、ね。そろそろロスでも仕事があるしさ」
「そう。あ、紅茶でいい?」
「ん~シャンパン買ってきたんだ。これ飲もうよ」


僕はそう言って手に持っていた袋を持ち上げた。
するとは黙って、シャンパングラスを出し、テーブルに置く。
ポンっと小気味いい音を立ててシャンパンの栓を抜けば、自分のベッドで寝ていたシェビィがビクっとして顔を上げた。
その表情に苦笑しながらシャンパンをグラスに注ぐ。



「はい、
「・・・ありがと」
「ではでは、久々の再会に乾杯!」


僕が元気よく、そう言ってのグラスに自分のグラスを当てる。
彼女は何も言わず、そのグラスを口へと運んだ。


「ん、美味しい!これ、が前に好きだって言ってたやつだろ?」
「うん、そうね」
「だから途中でマーケットに寄って買ってきたんだ」
「・・・ありがとぅ」


僕がいつものテンションで話し掛けても、はどことなく顔色が悪い感じで元気がない。
それが気になり、僕はグラスをテーブルに、そっと置いた。


、どうしたの?急に来たから怒ってるの?」
「・・・・・・別に・・・」
「でも・・・何だか暗いし・・・。あ、シェビィ、この前病院に連れてくって言ってたよね?何か病気だった?」


ふと思い出し、シェビィを見れば、僕の存在にはもう慣れてるのか自分のベッドで丸くなっている。



――そう・・・シェビィが慣れるほど、僕はここに来ている・・・・・・






は僕の言葉に顔を上げ、シェビィの方を見ると軽く首を振った。


「元気なかったのは軽い風邪を引いてたからなの。だから薬を貰ったら元気になったわ?」
「そう!じゃあ良かった」


僕が本心から、そう言うともやっと少し笑顔を見せてくれた。
シャンパンのグラスを、口に運び、美味しそうに飲んでくれている。


「仕事は?今週、連絡来るって言ってただろ?」


シャンパンを飲みながら、そう尋ねれば、はグラスをテーブルにおき、小さく頷いた。


「来週末からでいいって言われたわ」
「そっか。じゃあ少しは休めるね?」
「ぅん・・・・・・」
「今度は誰の映画?」
「それが・・・・・・リジーの主演する映画で・・・・・・」
「え?リジーの?ほんとに?」
「うん・・・」


僕はちょっと驚いての顔を覗き込むと、彼女は少し戸惑い気味に僕を見た。
だが、すぐに視線を反らしてしまう。
その様子を見て、僕はグラスをテーブルに置くと、の肩を抱き寄せた。


「どうしたの?今日は何だかよそよそしいね?」
「そんなこと・・・・・・」
「ううん。よそよそしい。どうした?何か怒ってるの?」
「・・・・・・・・・」


僕の問いには答えず俯いてしまう。
その表情に僕は本気で心配になった。
彼女の体を自分の方に向けて、顔を覗き込むと、そっと頬に手を添えた。


「・・・・・・こうして・・・僕と会うの嫌になった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


そう聞いても彼女は何も答えない。
"NO"とも"YES"とも・・・・・・


それには小さな不安も一気に拡大し、頬に添えた手を顎に持って行くと、彼女の顔を少しだけ上に向けた。
の瞳はかすかに揺れていて何だか悲しげに見える。
その瞳に僕は吸い寄せられるように、彼女の唇を塞いだ。
背中に腕を回し、自分の方へ抱き寄せながら、何度も触れるだけのキスをする。
だが、その時、の手が僕の胸を軽く押してきて、そこで一度唇を解放した。


「・・・・・・どうしたの?」


キスを拒まれたように感じ、僕は彼女の額に自分の額をつけて問い掛ける。
だがは首を振って少しだけ微笑んだ。


「な、何でもないの・・・・・・。あの・・・お腹空かない?何か食べに出る?」


不自然なほど視線を反らし、そう言うに僕は嫌な予感がした。


「・・・は・・・僕と、二人きりで一緒にいるのが嫌なの?」
「そ、そんなんじゃ・・・・・・ただ・・・オーリー何も食べてないんじゃないかと思って・・・。どうせ飛行機の中で寝てきたんでしょ?」
「まあ・・・そうだけど・・・。お腹は空いてない。というか今夜はの手料理でも食べたいな?」


そう言って再び唇を重ね、すぐに離すと、が目を伏せた。


・・・?」
「あ、あの・・・オーリー・・・私、今夜は約束があって・・・・・・」
「え?誰と?」
「と、友達・・・・・・」
「友達って?」
「・・・・・・・・・・・・」


僕の問いかけには言葉がつまり、困ったような顔をする。
そんな彼女を見て、僕は、それが嘘なんだと分かった。


「約束なんてないのに何で嘘つくの?」
「う、嘘なんか・・・・・・」
「やっぱり僕と会うのが嫌になった?」
「ち、違うの・・・・・・そうじゃない・・・」
「じゃあ、どうして?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


また黙ってしまう。
僕は彼女の気持ちがどうしても分からなかった。


「また黙るんだ?」


「え・・・?キャ・・・っ」



抱き寄せていたの体をソファに押し倒し、上から彼女を見下ろす。
の奇麗な黒髪がソファに広がり、彼女の黒い瞳には戸惑いの色が見えた。


「オ、オーリィ・・・?」
が嫌でも・・・僕は君を手放す気はないから・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


僕の言葉には目を伏せてしまう。
そんな彼女の唇を指でなぞり、もう一度唇を塞いだ。


「ん・・・っ」


最初から激しく口付け、無理やり口内まで舌を忍ばせる。
彼女の舌を絡めとりながら何度も吸い上げれば、次第に体の力を抜き、素直に僕からの口付けを受けている。
時折、洩れてくる甘い声で僕の体も熱を帯び始め、ゆっくり彼女に覆い被さった。




「オ・・・オーリィ・・・」


ゆっくり唇を離せば、かすかに呼吸を荒くしたが涙目で僕を見上げてくる。
その瞳を見ると、理性が抑えられなくなる。
だけど、その前に前から気になっていた事を口にした。



は他の子と違って僕に何も求めないね・・・。どうして?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」



また答えてくれない・・・・・・・・・



僕は胸が苦しくなったが一度上がった熱だけは抑えられず、彼女の答えを聞かないまま、再び唇を奪うと、の着ていたトップスの中に手を忍ばせた。





「ん・・・・・・・っ」


それにはも少しだけ体を捩るが気にせず胸元へと更に手を入れていく。
下着を外し、服のボタンを無理やり外すと彼女は抵抗するように僕の胸元を押してきた。


「ん・・・や・・・っ」


その腕を掴み、強引に服を脱がすと唇を下降させ首筋へと辿っていく。
そのまま胸へと口付けながら、ふと膨らみの下辺りに、薄くなった赤い跡を見つけドキっとした。


これは・・・キスマーク・・・?
いや・・・でも・・・僕が前につけたものが残ってるはずは・・・


そう思いながら顔を上げれば、潤んだ瞳で逃げ出そうとする彼女。
その体を拘束して再びソファに押し倒した。


「どうして逃げるの・・・?」
「だ、だってオーリィ・・・怖い・・・」


少しだけ怯えたように僕を見上げてくるは悲しげに瞳を揺らした。
そんな彼女を見て胸が痛む。
どうして、もっと優しく出来ないんだろう・・・と・・・


「ごめん・・・怖かった?」


そう言って涙が浮かぶの頬に優しく口付け、唇にもキスをする。
するとは睫毛を震わせながら僕の事を見上げてきた。
まるで怯えた少女のようで、普段の明るい彼女の表情からは想像できないような悲しげな顔だ。
そんな彼女に胸がまたズキンと痛んだ。


「ごめん・・・ごめんね?」


僕は何度も、そう言って彼女の額と頬にキスを落としていく。
そして最後に唇を今度は優しく塞いだ。
怖がらせないように、何度も触れるだけのキスをくり返す。
するとも次第に受け入れるように手の力を抜き、僕に身を預けてくれる。
そのまま少しづつキスを深くしていけば、も抵抗することなく僕の背中に腕をそっと回した。




彼女と、こういう関係になったのは、つい二ヶ月前のこと。
たまたま仕事でロスに来た時、滞在先のホテルで偶然、とバッタリ会った。
彼女は仕事関係者の人と打ち合わせもかねて食事をしていたようで、ちょうど帰る所だったらしい。
そこで飲みに行こうとしていた僕は当然、を誘った。
前から彼女に片想いだったんだから、それは当たり前のことで、ジョシュやリジーに多少の罪悪感はあったけど、今回だけは二人きりで、と思ったのだ。
あの二人は僕がの事を本気で好きだとは思っていないみたいだった。
というのもカモフラージュで他にもガールフレンドを作っていたし、なるべく重たい雰囲気ではには接していなかったから。


それは僕なりの逃げでもある。
本命の子に振られるのは怖いから、逃げ場所を作っているだけだった。
は僕が今まで接してきた女の子の中でも一番、輝いていて笑顔が素適だった。
今までアジア系の子を好きになった事なんてなかった、この僕がにだけは簡単に恋に落とされたのだ。
それも深いところまで・・・・・・


でも気付かれたら友達としての立場も失うかもしれない・・・と予防線を張った。
それはライバルという存在もいたからなんだけど・・・


"女の子が大好き"


"ブロンドの子が好み"


"ガールフレンドは星の数"


適当に、そんな事を公言して二人には本気じゃないんだと遠まわしに言って来た。
それはも信じてたみたいで、僕がデートしようと言っても、"ブロンドの可愛いガールフレンドとしたら?"なんて軽くあしらわれるようになっていた。
だから、あの夜、偶然にでもに会えて二人きりの時間を持てることになったのは凄く嬉しい事だったのだ。
僕は初めての二人きりの時間に浮かれていた。
だから普段以上にアルコールを飲み、またにも飲ませてしまった。
結果、夜中になる頃にはは一人では立てないくらいにフラフラで仕方なく僕はホテルの自分の部屋へ彼女を運んだ。
"帰る"という彼女を無理に寝かせ、"泊まって行けば・・・?"と、つい言ってしまった。
その言葉には戸惑うように首を振り、フラつく体を起こして帰ろうとした。
だが、その姿を見て僕の中で何かが崩れた。
僕から逃げ出そうとしてるように見えたから・・・・・・
少しショックで彼女をそのまま押し倒し口付けた。
だけどは驚いた事に全く抵抗しなかった。
いや・・・抵抗したかったのか、それとも出来なかったのは分からないけれど・・・
その時、僕は自分の気持ちを言うつもりだった。
自分のした事を許してもらえなくても"好きだ"と言うつもりだったんだ。
だけどルナは情事の後、彼女を抱きしめ、気持ちを伝えようとした僕に冷めた視線を向け、


"どうせ遊びなんでしょ・・・・・・?"


と悲しげに呟いた。
これにはショックを隠せず言葉を失った。
そういう目で見られてたのか、という悲しみと、いや、そういう風に見られるように仕向けたのは自分自身だったという後悔の念が僕を襲った。
だから素直に"本気で好きだ"とは言えなくなってしまった。
いや・・・好きだとは言った。
言葉はどうであれ・・・・・


"も好きなんだ・・・"と―――


本当は他の子なんて比べものにならないくらいに彼女が好きなのに・・・・・・
そんな言葉で逃げたんだ。
それでも僕はに言った。


"また・・・・・・こうして会ってくれる?"


その時のは戸惑うように僕を見たけど、答えは”YES"だった。


それには半分、諦めていた僕も驚いたが、少なからず彼女も僕の事を好きでいてくれたんだろうか?という気持ちになり、それだけが救いだった。


それからは時々僕が仕事でロスに来た時は二人で会った。
スタートはどうであれ、このまま二人の時間を多くしていけば彼女も僕の本心に気付いてくれるんじゃないかと淡い期待を持って。
普段、撮影に入ってる時に積極的に連絡することは出来なかったけど、会ってる時には思い切りを大切にし、
君は特別なんだという事を態度で示してきた。
ロスに来ればホテルに呼ぶのではなく、彼女の家に行くようにした。
彼女の生活の中で会っていれば更に二人の気持ちが近くなるんじゃないかと期待して。
その合い間にはジョシュやリジーと4人で会う事も一回や二回はあったが、二人には気づかれなかった。
も二人には知られたくないのか、僕にも普通に接していたし、僕もまた普段どおりのハイテンションな自分を演じていた。
二人を騙してるという罪悪感を持っていたのは、きっとの方が強かっただろう。
それはジョシュとリジーに会った、その日だけは、僕が家に行く事を許さなかった事からも分かる。
それは辛い事だったけど僕も抜け駆けした事を思えば、素直に頷くしかなかった。
でも寂しくて結局、他の子とも関係を続けていた。
に気付いて貰えない辛さを埋めて貰うために・・・・・・
それが、また更に彼女の僕への不信感が強くなるのを気づかずに―――・


そう・・・が僕に何も求めないのは、そういう事があるからなのかもしれない。
他の子は体の関係を持った瞬間から、もう私だけのものと言わんばかりに僕を拘束しようとする。
SEXをしたから恋人同士になったんだと勘違いをする。
僕も面倒になって、それを受け入れてきた。
だけど本気で大切に思ってるだけは、そうじゃなかった。
僕には何も求めてこない。
"寂しい"とか"会いたい"とか、そんな事すら言って来てはくれない。
それが何より悲しかった。
ただ、こうして会ってる時だけSEXをして、それだけの関係なんだと言われてるようで・・・・・・
仕掛けたのは僕の方なのに、今じゃの方が割り切ってるような気さえしてしまう。
だから僕も辛くて他の子に逃げて・・・
そのくり返しだった。
でも・・・・・・そろそろ僕の気持ちに気付いてくれてもいいんじゃないかって思っていた。
今回、ロスでの仕事が決まった時、今度こそに今までの自分の気持ちを素直に言おうと、そう決心した。


もしかしたら・・・は本当に遊びで僕と会ってくれているのかもしれない。
それを聞くのが怖いから・・・今まで聞けなかった。
だから今日こそ・・・
そう思ったのに、一つの不安が浮かんだ。







長い口付けを一旦、終わらせるのに、ゆっくり唇を離した。
が荒い呼吸を繰り返しているのを見ながら、僕も着ているものを脱いでいく。
そして、再び彼女に覆い被さるとそのまま首筋から胸元へと唇を滑らせる。
その刺激に彼女の体も反応し仰け反るように小さく甘い声を上げた。
胸の膨らみにも口付け、更に唇を下降させていけば、先ほど目にした薄っすらと残る赤い跡にも口付ける。
今の僕の胸の中は体の熱とは裏腹に嫉妬の重苦しい感情が高ぶってきていた。


これは・・・キスマークだ。
すでに薄くなっているから分かりづらいけど本能が、そうだと告げている。
という事は会っていない間に、は他の男に抱かれたという事になる。
他に恋人が出来たのかもしれない・・・・・・と思えば思うほど胸の奥がカっと熱くなってくる。
彼女の細い腕を更に力を込めて掴み、胸の膨らみをねっとりと舐め上げればも切なげに眉を寄せ荒い吐息を洩らす。
その表情を見るだけで一気に僕自身の熱が上がる。
だが反面、その顔を他の男にも見せたかもしれないと思うと気が狂いそうになる。
胸の先を口に含み甘噛みしたが思った以上に強い刺激が彼女を襲ったのか、声が跳ね上がり体を捩った。
だけどそれを許さないほどに強く押さえ込み、の上に覆い被さる。


「ん・・・・・・オーリィ・・・・・・?」


薄っすらと目を開け、戸惑い気味に荒い呼吸をくり返しながら僕の名を呟く彼女に、更に性欲を掻き立てられる。
その感情に素直に行動し、いつも以上に荒々しく口付けながら彼女の口内を貪りつづけた。


「ん・・・・・・ぁ・・・・・・っオ・・・・・・リィ・・・・・・」



少しだけできる隙間から彼女の戸惑うような声が洩れてくる。
だが僕は構わず何度も何度も激しく口内を愛撫して、そのまま彼女の下着を剥ぎ取った。


「ん・・・・・・や・・・・・・っ」


その荒々しさに驚いたのか、が体を捩り、僕の胸を手で押してきた。
だが、その腕を掴み、再び顔の横に固定する。


「オーリィ・・・・・・・・?」


「ごめん・・・・・・今日は優しく出来ない・・・・・・止めることも・・・・・・」


「・・・・・・っ?」



唇を僅かに離し、僕がそう呟くと、彼女の瞳に不安な色が広がった。
だけど、それを見ないようにして思い切り彼女の体を貫いた。



「ぁ・・・・・・っ」




声にならない声が彼女の喉の奥から洩れ聞こえた。


いつもよりも荒い刺激に体に力を入れて苦しげな顔をする。



だけど嫉妬の熱でも覆われた僕の行為は自分でも止められず、そのまま乱暴なほどに彼女を激しく抱いた・・・・・・



















ふと目を覚ませば冷んやりとしたシーツの感触と窓から入ってくる月明かり。
そして、窓が僅かに開いているのに気づき、僕はベッドの上に体を起こした。
そっとベットを下りると、ゆっくりとテラスの方に歩いて行けば、の後姿が見えてドキっとする。
彼女はシーツに身を包みテラスに立って空を見上げていた。
僕は、その姿を見て胸がツキンと痛んだ。
まだ体は先ほどの行為でかすかに熱を持っている。
だけど外から入る少し冷たい風に体が当たればヒリっとした痛みが襲って、その場所に手を触れた。
そこには、さっきがつけた爪で引っかいた傷がある。
乱暴に抱いたからか、彼女は行為の最中でも抵抗するかのように僕の背中や腕に爪を立てるようにして掴んできた。
それでも僕は止められなかった。
今でも、その思いが強く溢れてきていて、彼女の姿を捉えた瞳にも熱が帯びてくる。
僕はそっと窓を開けると、テラスへと出て彼女を後ろから強く抱きしめた。


「キャ・・・・・・オ、オーリィ・・・起きたの・・・?」
「ん・・・。何してるの・・・?」
「ちょ・・・ちょっと風に当たってただけ・・・・・・」
「こんな格好で外にいたら人に見られるよ・・・?」
「う、うん・・・・・・」


は小さく頷いて部屋へ戻ろうと体を動かした。
だが、それを僕が許さず、更に強く抱きしめる。


「オーリィ・・・?どうしたの・・・・・・?今日・・・変だよ・・・?」
「そう・・・?もだろ・・・?」
「そ、そんな事は・・・・・・・・・・」


僕の言葉にが口篭もる。
それだけで、さっきの嫉妬の感情が再燃するかのように胸の奥が熱くなった。


・・・・・・体冷えてるよ・・・?」
「・・・・・・え?ん・・・っ」


僕の言葉に少しだけ振り向いた彼女の唇を強引に塞いだ。
その拍子に肩からかけていたシーツがパサっと落ちて、の白い肌が月明かりに艶やかに光って見える。
それを見て再び体が疼いた。


「部屋に・・・戻ろう・・・?」


少しだけ唇を離し、そう呟くと僕は彼女の体を抱き上げた。


「ひゃ・・・オ、オーリー下ろして・・・」
「ダメ。人に見られるだろ?」


そう言って部屋に戻ると、彼女をベッドへと寝かせ、すぐに覆い被さった。
生まれたままの状態で横たわる彼女は本当に奇麗で、喉の奥がゴクリと音を立てる。
だけど不安は常に沸き上がって来ていて、悲しみもまた胸の奥を痛くさせた。


「オーリー・・・?何で、そんな悲しそうな顔するの・・・・・・?」
「・・・・・・そんな顔してる?」


僕がちょっと微笑んで、の額に口付ければ、彼女はかすかに目を伏せた。
そして僕が最も恐れていた言葉をサラリと口にする。











「もう・・・・・・やめる・・・?こんな関係・・・・・・」












「――――っ」







その言葉で今までの不安で苦しかった心が軋むように痛んだ。
だけど真意が知りたくて平静を装い、彼女を見つめる。






「・・・・・・どうして・・・?僕に抱かれるのが嫌になった?それとも他に男でも出来たの?」




そう言えば彼女は悲しげな表情をする。






「オーリーがいるんじゃない・・・。私とこんな風に会わなくたって・・・いいんじゃない・・・・・・?」


・・・・・・それは・・・・・・」





彼女の言葉に今度は僕が言葉に詰まった。



だがは真っ直ぐ僕を見つめると、信じられない事を口にする。
















「私・・・・・・オーリーのこと・・・・・・・・・・・・好きだった・・・・・・」









「・・・・・・え?」







「キャ・・・」






その言葉に衝撃を受け、思わず体を起こした。
するとが恥ずかしそうに俯いて体を起こし、床に落ちていたシーツを手に取ると自分の体を隠す。
その恥じらいさえ愛しいという気持ちが湧いてきて、彼女の体をシーツごと抱きしめた。




「オ、オーリィ・・・?」



「今言ったこと・・・・・・ほんと・・・・・・?」



信じられなくて、それでも確めたくて尋ねればは小さく頷いてくれた。
だが、すぐに顔を上げ、僕を見上げる。


「で、でもね・・・・・・?オーリーが私のこと、そんな風に見てないって事は分かってるの・・・・・・だから・・・遊びでいいって思ってた・・・・・・。
それでも会いたいって・・・・・・そう思ったから・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・っ」



その言葉が胸に刺さった。


やっぱりは、そんな風に思ってたんだ・・・・・・と。



は瞳に涙を浮かべて更に言葉を続ける。



「でもね・・・・・・もう・・・辛いの・・・。それに私、自分の気持ちがよく分からなく・・・ん・・・っ」



もう何も聞きたくなくて彼女の唇を塞いだ。
さっきとは違って今度は優しく何度も触れては離し、唇を甘噛みして、チュっと音を立てて離せばの頬に涙が零れた。
その涙を指で拭ってから、その頬にもそっと口付ける。
そして自分の素直な気持ちを伝えるのに、真剣な顔での瞳を見つめた。





・・・僕だって・・・・・・本気だったよ・・・・・・?」




「・・・・・・ぇ・・・?」




驚いたように目を見開く彼女に優しく微笑んだ。



「ごめん・・・僕が悪いんだ・・・。自分の気持ちを誤魔化すのに他の子とも関係を続けたりして・・・。
でも・・・僕はいつでもの事を一番に愛してた・・・。でもの気持ちも分からないまま、こんな関係になって・・・
ますます言えなくなって自分の気持ちをに偽っていたんだ・・・・・・。でも・・・もう嘘はつかない・・・
君を・・・本気で愛してる・・・。誰にも渡したくないんだ・・・・・・誰にも・・・・・・」


「オーリィ・・・・・・・・・・」


「もう・・・他の男になんて抱かれないで・・・・・・僕だけを見て?」



「・・・・・・っっ」




僕の言葉に驚いたのか、がハっとしたように顔を上げた。
そんな彼女を見つめ、そっとシーツを捲ると、胸の先に口付け、そのまま膨らみの下へと唇を下降させる。


「ん・・・オ、オーリィ・・・っ」



はビクっと体を震わせ、その行動に驚いたように体を捩り、僕の肩に手を置いた。
だが僕は構わず、先ほどの跡へも口付けた。
そして彼女を見上げる。



「ここに・・・・・・他の男の残した跡がある・・・・・・。 ――そうなんだろ?」



「―――っっ!」




僕の言葉に反射的に体を離そうとしたの腰に腕を回して固定した。



「オ、オーリ・・・離して・・・・・・っ」


「いやだ・・・」


「オーリィ・・・っ」


・・・もう・・・いい・・・。怒ってないから・・・・・・僕だって悪い・・・」


「・・・・・・?」


「でも・・・もう僕だけを見て?僕もの事だけ見るから・・・・・・他の子とも全て関係を切る」


「オーリィ・・・・・・そんな・・・・・・」


は何故か瞳を揺らし手を口元に持って行くとポロっと涙を零した。
僕は胸が痛くなり、そのままをベッドに押し倒すと、その涙を唇で掬ってあげる。


「泣かないで・・・・・・・・・・・・」


「だ・・・って・・・・・・・・私・・・は・・・」



そう言いかけた彼女の唇に触れるだけのキスを落とし、頬にも口付ける。



「愛してる・・・・・・ずっと・・・そう言いたかった・・・・・・」





僕がそう囁くように言うと、はまた涙を浮かべる。


僕は何度も何度も口付け、その涙を掬ってあげた。



だけど僕は気づかなかった。




その彼女の涙の本当の意味に―――






















 

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おおぉっとう!妖しくなってきましたねー^^;
若干、R-指定気味ですか?(苦笑)
更にリジーに続きます~

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