この前、あなたを見た。
彼女と楽しそうに手を繋いで歩いてたね。
私に気づくと、その優しい笑顔を見せて手を振ってくれたっけ。
私も笑顔で手を振り返したけど・・・・・・ほんとは胸が痛かった――












「よ、!」



ポンっと頭に手を置かれ、ドキっとして振り返れば、そこにはジョシュのいつもの笑顔があった。





「ジョシュ!どうしたの? こんなとこで・・・・っ」
「ちょっと買い物にね。もうすぐ映画のPRで海外行くしさ」





ジョシュはそう言って手に持った荷物を少しだけ持ち上げて見せた。
まさか、こんな場所で会うなんて思ってなかったから一気に鼓動が早くなってしまう。





も買い物か?」
「う、うん、まあ・・・・」





何とか笑顔を作り、頷くとジョシュは私の手からひょいっと荷物を持ってくれた。





「あ、いいよ・・・!」
「いいって。、細いから、こんな重たいの持ってたら折れちゃいそうだしさ」





ジョシュはそんな事を言って笑いながら前を歩いて行く。



"優しくしないで・・・"



胸の奥がズキズキ痛むから。









「なあ、お茶でも飲まない?」
「え?」





ジョシュについて歩き出した時、彼が不意に振り向き、微笑んだ。






「あ、時間ない?」
「あ、ううん。そんな事はないけど・・・」
「じゃあ行こう? とこんな風に会うのって久し振りだしさ」





ジョシュは嬉しそうな笑顔を見せると近くにあったオープンカフェへと歩いて行った。












「ね、ねえ・・・こんな目立つ場所にいて平気? 誰かに見つかったりしたら・・・」
「あー大丈夫。別にやましいことしてないだろ」




外にあるテーブルについたジョシュに、私は心配になり聞いてみたが当の本人はケロっと答えた。
そう言われてしまえば仕方がない、と私も椅子に座る。
注文を取りに来たウエイトレスに飲み物を頼むとジョシュは煙草を咥え、火をつけた。
それを見てピンとくる。






「あー中じゃ煙草吸えないからでしょ」
「え? ああ、ま、それもあるけどさ。今日はニューヨークにしちゃ、いい天気だし?」






少しだけ眩しそうに目を細め、笑いながらジョシュは煙を吐き出した。
その笑顔が、その仕草が・・・昔から好きだった。


私とジョシュは同じ故郷で、学生の頃からの友人だ。
彼は未だミネソタに家があるけど、私はニューヨークで一人暮らしをしている。
ジョシュがニューヨークに部屋を探したいんだけど、と言って私に連絡してくれた時は本当に嬉しかった。
だから・・・少しだけ欲張って自分のアパートメントの近くを紹介したのだけど・・・


家が近ければ、ジョシュがこっちに来た時、こんな風に偶然でも会えると思ったから。
だけど・・・それは、いい事ばかりじゃなかった。







「そう言えば・・・この前、彼女といたね」
「ああ、そうだったっけ」






言いたくない事を自分から口にしてしまう、バカな私。
その照れた顔を見て、胸が痛くなるのは分かってるはずなのに。






「奇麗な人だね。女優さん?」
「んーまあ。この前、共演したんだ」
「そうなんだ。じゃあ・・・また共演した人と、なんてゴシップで書かれちゃうね」
「だよなぁ・・・。でもさ、恋人なんて真剣に演じちゃうと相手のこと、本当に好きになったりするんだよな・・・」






ジョシュはそう言って困ったように頭をかいた。
でも私はその言葉だけで窒息しそうだ。


だって・・・それって友達の私とは一生、友達って言われてるみたいで・・・




そこに飲みものが運ばれて来て、一時、話が中断した。
だが私の飲み物を見て、ジョシュが急に笑った。






「相変わらずだな、それ」
「え・・・?」
は暑くても寒くても、いっつもアイスティー飲んでた」
「そ、そうだっけ・・・?」
「ああ。ミネソタの冬なんて、すんごい寒いのにさ。だけ冷たいの飲んでたんだよなぁ」





ジョシュはそう言いながらコーヒーカップを口に運ぶ。
少しだけ目深かにかぶった帽子の間から時々見える優しい瞳に私は涙が出そうになった。




そんな小さな事を覚えててくれてるんだ・・・って、ちょっとだけ嬉しかったから。






「ジョシュはいつもコーヒーだよね?」
「ん? ああ、そうだっけ。でもまあ暑い時はさすがに冷たいの飲むけどさ」





そう言ってちょっと笑ったジョシュは、ふと私の顔を見て、





、髪伸びたね。相変わらず奇麗だよな」





なんて言って手を伸ばして私の髪に触れる。
たった、それだけで髪の先まで心臓になったみたいにドキドキする。





ジョシュは知らないでしょ。
最初に会った時、ジョシュがそう誉めてくれたから髪を伸ばし始めたってこと・・・
日本人なんて私だけで黒い髪が凄く嫌いだった私に、ほんのちょっと誇れるものをくれたんだよ・・・?
この前だってジョシュが、女優のチャン・ツィーって可愛いよなぁって言ってた時は、何だか自分が言われたみたいに嬉しくなった。
だってブロンドの子よりも黒い髪が好きだって言ってくれたから・・・
そう、あの頃もよく、そんな風に言ってくれてた。
結局、自分の気持ちも言えないまま、こんなに時が経ってしまったけど。



ジョシュと出会ってから・・・彼が私以外の人と恋に落ちるのをずっと見てきた。
でも今でも何も変わることはなくて、何年経っても、それは同じ。
ジョシュが他の人を好きになって付き合っては別れていくのを見てるだけ。
臆病で弱虫な私のまま。





そんな事をボーっと思い出していると、ジョシュが突然、口を開いた。






はさ、好きな奴いないの?」
「・・・えっ?」
「な、何でそんな驚くわけ?」
「だ、だって変なこと聞くから・・・」
「別に変なことじゃないだろ? それに、モテるクセに特定の恋人作らないでいるしさ。誰か好きな奴でもいるのかなって」
「そ、そんな事は・・・それに私はモテないわよ」






なるべく動揺がバレないように明るく答えると、ジョシュは意味深な笑みを浮かべて身を乗り出してきた。






「あーやっぱ気づいてなかったんだ」
「え・・・?」
「マイクとビリーはのこと好きだったんだぞ?」
「・・・え、えぇ?!」





いきなり、そんな事を言われて心底、驚いた。
その二人は学生の頃、よく一緒に遊んでた仲間で、もちろんジョシュとも友達だ。
その二人が私を好きだったなんて初耳だった。





「嘘でしょ・・・?」
「ほーんとだって!今度ミネソタに帰った時、聞いてみろよ。かなり慌てると思うからさ」
「き、聞けないわよ、そんなこと・・・っ」
「あ〜あ〜。やっぱは鈍感だ!」





ジョシュは楽しげに笑って、そんな事を言っている。


(だけど私に言わせてみれば私の気持ちに未だ気づいてないジョシュだって、かなりの鈍感だと思うんだけど!)






「あの頃も今もだけど・・・はさ、こう・・・変にすれてないっていうか・・・凄く純粋で素直だから、そこが新鮮で可愛いんだよな?」
「な、何言ってるの・・・? 私は純粋なんかじゃ・・・」
「純粋だって!凄く真面目だし、俺達がバカなジョークとか言っても、すぐ信じちゃうし本気で驚いてくれたりするし」
「そ、そんなの、ただ単に単純なだけじゃない」
「あはは、そうとも言うけど!そんな子って初めてで俺達にしたら妙に新鮮だったんだ」
「・・・・・・バカにしてる・・・・・・」
「してないって。それに俺だって、あの頃、のこと凄く―」
「え・・・・・・?」






ジョシュの言葉にドキっとして顔をあげると、彼は"しまった"なんて顔で口元をその大きな手で隠し、視線を反らしている。
だが、すぐに照れたように微笑むと、軽く肩を竦めた。






「ま、いっか。もう時効だしさ。あの頃、を好きだったのは何もマイクやビリーだけじゃないんだ」
「・・・・・・ジョシュ・・・?」




呆気に取られている私を見て、彼はちょっと、おどけたように、





「実は・・・俺ものこと好きだったんだよな・・・」





なんてアッサリと告白し、私はと言えば鼓動が一気に早まり、ドキドキうるさくて息苦しくなった。







「嘘・・・でしょ・・・?」
「ほんとだって。でも・・・言えなかった。友達でいられなくなるのが怖くてさ」
「嘘・・・」






口の中で、そんな言葉が零れ落ちた。
だって・・・そんな事って・・・








まさか私と同じ理由でジョシュも言えなかったなんて――










「えっと・・・? あの・・・気にするなよ? 昔のことだし・・・さ・・・」
「う、うん・・・分かってる・・・」






そう・・・そんなの痛いくらいに分かってる。
例え、あの頃はそうでも今は私と同じ気持ちじゃないって事くらい・・・とっくに知ってたよ・・・
ただ・・・そんな残酷な事を・・・今、言わないでもいいじゃない・・・





そう思いながら、私は精一杯の笑顔を作ってジョシュを見た。
溢れそうな想いを過去形にするために――











「実は・・・私も・・・なんだ」


「え・・・?」


「私も、"あの頃"ジョシュのこと好きだったの」


「・・・えっ?!」







私の一言にジョシュは思った以上に驚いた顔をした。







「ほんとに?」
「うん。でももう・・・・・・時効でしょ?」






そう言って笑顔を見せて私なりに演じた。


ジョシュの友達として・・・精一杯の嘘をつくために。





私の突然の告白にジョシュは本当に驚いていたけど、ふと笑みを零し、椅子に凭れかかった。
そして少しだけ顔を上げて昔を思い出すかのように真っ青な空を見上げている。








「何だ・・・そっか・・・。じゃあ・・・あの頃、どっちかが告白してたら・・・何か違ったのかもな・・・」


「そうだね・・・」









ジョシュの口から零れた言葉は深く私の胸に突き刺さる。
今でもある、あなたへの想いが今は凄く痛いよ。






それから少し思い出話をして私とジョシュは別れた。









私は歩いて行くジョシュの後姿をずっと見送っていた。
あの頃とちっとも変わらない、少し背中を丸めて歩くクセ。
遠くからでも、いつだって見つけることが出来た。


あの頃の面影が今のジョシュと重なって、気づけば私の頬に涙が零れていた。
友人という関係を壊したくなくてついてきた嘘が、とても大きく私に圧し掛かってくる。






戻れるなら、あの頃に戻って、貴方に告白するのに。

過去形なんかじゃなく、ちゃんと自分の想いを伝えるのに。


今頃になってジョシュの気持ちを聞かされるなんて・・・なんて残酷なの?








今と同じ、優しい笑顔を見せてくれていた貴方に・・・あの頃のジョシュに会いたいよ・・・


ミネソタの青い空の下、いつも笑顔で私の名前を呼んでくれた、あの頃のジョシュに。













ジョシュが見えなくなっても、私はそこから歩き出せなくて・・・立ち止まったまま故郷を思い出させる真っ青な青空を見上げた―

































嘘で積みあげたお城は




                                  崩れてしまった




                                  貴方への想いは・・・永遠に私の胸の中。

























※ブラウザバックでお戻りください。


あやや〜切なチックですみませ・・・っ;
だってだってジョシュってば、またしても共演した女優さんとラブラブー!
そんなもん聞いちゃーー、そらー凹みながら暗い話を書くってもんでぃ!(笑)
お相手は何と、若いのにオッサン好きな「ブラックダリア」に出てるスカーレットさんです。
この人、前に30歳以下は男じゃないなんて言ってたクセにぃー!何てこったい。てやんでぃ!(崩壊中)
まあ、でもジョシュ曰く、「恋人を演じきると本当に相手に恋しちゃう」そうなんで今のうちだけかもですね♪;(ワォ)


皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…

【C-MOON...管理人:HANAZO】