今、日本は夏真っ盛り。 午前中の気温だけでも30度を越える。 そんな中、彼がまたしても来日した― 『きゃーオーリィ〜〜!!』 テレビの中で女の子達が黄色い声を上げている。 その先で爽やかな笑顔を見せ、手を振る男は白いTシャツにサングラス、ジーンズといったラフな姿だ。 そして、その黄色い歓声を受けてた男は・・・・・・・・・・・・・・・そのままの格好で今、私の隣にいる・・・ 「わぉ、凄いね。こうして見ると。日本のファンはパワフルだなぁ」 「・・・呑気なんだから・・・ホテル抜け出していいと思ってんの・・・?」 ソファの上に足を乗せ、私は横目で彼―オーランド・ブルームを睨んだ。 その言葉にオーランドは頭にかけていたサングラスを外しテーブルに置くと、ゆっくりと私の唇に自分の唇を近づけ、軽く触れる。 「大丈夫!見つからなかったから」 「・・・そういう問題?はぁ・・・どうして止めなかったのよ、セバスチャン・・・」 「・・・俺にこいつを止められると思うか?」 「・・・・・・それもそうね」 そう、この部屋にはもう一人、男がいる。 派手ないでたちの、その男性は金色の髪を立たせ、両側はなんと刈り上げている。(いわゆるモヒカンってやつだ) 彼はオーランドの従兄弟で、とても仲がいい。 今回、彼も日本に連れて来たようだ。 「で・・・仕事は?今回は随分と早い再来日だけど」 「んー、まあ本当なら来ない予定だったんだけどさ。やっぱりこの前に久々に会ったら、また会いたくなっちゃって」 「・・・じゃあ・・・映画のPRは・・・」 「そりゃ、もちろんするさ。でも記者会見とか簡単な取材しかないよ?前ほど忙しくないしね」 「へぇ・・・それはまた随分、簡単な仕事をしに日本に来たのね・・・。あんた仕事舐めてるでしょ」 「何でそんな冷たいこと言うのさ!俺はに会いたくて―」 「はいはい・・・」 私が軽くあしらうとオーランドはスネたように口を尖らせ、私の出した冷たい紅茶を飲みだした。 その姿にセバスチャンも苦笑を洩らす。 「まあ、こいつの気持ちも分かってやってくれよ。が先月、引越す予定が伸びてから、かなり我慢してるんだし」 「はあ・・・」 チラっと私を見たオーランドと目が合い、つい私も苦笑いした。 そんなの私だって同じだ。 ニュージーランドで知り合った私と彼は暫く一緒にロンドンで過ごしていたが、今回私の都合で日本に一時帰国しなくちゃならなくなった。 それで去年の年末に日本に帰って来た。 その間、オーランドからは毎日のように電話があり、 「いつ戻ってくる?」 なんて事ばかり言ってくるのだ。 まあ日本に帰って来たのは家の事情だったのだが、それも解決し、そろそろ戻ろうかと思ってた時、オーランドの来日の話があった。 なので、こっちで会う約束をし、彼が帰った後に私も・・・と思ったのだが色々と用事が重なり引越す予定が延びてしまった。 そんな中での彼の再来日・・・・・・ かなりの速さに驚いたが、まあ新作が沢山控えているのだし、PRの為だろうと、さほど気にしなかった。 そして来たら来たでホテルを抜け出し、私の家に従兄弟と一緒に押しかけて来たのだ。 本当なら私がホテルに会いに行こうと思ったのに・・・ そう思いながら未だスネてるのかテレビを見ているオーランドの背中を見た。 すると不意にセバスチャンが煙草を咥え、立ち上がった。 「ちょっと外で煙草でも吸ってくるよ」 「え?別にここで吸ってもいいのよ?一応、灰皿もあるし・・・・」 「いや・・・散歩がてら近所をブラブラしてくるよ。せっかく日本に来たんだし、六本木だけじゃなく普通の住宅街ってのも見てみたい」 「・・・この辺、何もないよ?」 「いいんだ。ただ街並みを見るだけで日本を感じれる」 「でも迷ったら・・・」 「その時はここに電話するよ。まあ・・・そんな遠くには行かない」 セバスチャンはそう言って笑うと狭い玄関へと歩いて行き、可愛いイタリア製のサンダルを引っ掛けている。(彼はいつもお洒落だ) 私も何も言わないオーランドを残し、玄関へと歩いて行った。 「セバスチャン、もしかして気を使ってるとか・・・」 「ん〜?まあ・・・二人でゆっくり話せよ。オーランドも何か話があるってさ」 「え?何の?」 「さあ?それは、あのスネスネ王子に聞いてくれ。じゃあ、ちょっと行ってくる」 「うん・・・。気をつけてね?」 「アメリカよりは治安がいいだろう?ここは」 「まあ。でも最近は似たようなもんよ?」 私がそう言うとセバスチャンは目を大きく見開いて、おどけた顔を見せ、笑顔で手を振り出て行った。 ドアが静かに閉まると私はバラバラな方向を向いているオーランドの靴を奇麗に揃えなおし再びリビングへと戻る。 するとテレビを見ていたはずのオーランドがいない。 テレビはついたまま、お昼のニュースも終わり、長年続いているバラエティ番組が流れていた。 『・・・いいとも〜!』 そんな声が聞こえ、私はリモコンで音を小さくし、それほど広くはない部屋の中を見渡した。 すると温い風がふわりと吹いてきて顔をベランダの方に向けると少しだけ窓が開いている。 「もう・・・あれじゃエアコンの意味がないじゃない・・・」 そう呟き、私はベランダの方に歩いて行く。 そっとレースのカーテンを指で避け、外を見るとやはり彼はそこにいた。 手すりに両肘をかけ、ボーっと景色を眺めている。 身長の大きな彼が狭いベランダに立っていると、いつも以上に狭く見えるのを感じながら私は窓を開けた。 「オーランド?こんな暑いのに何してるの?」 「ん〜。いい天気だなぁと思って」 「暑くないの?」 「俺、暑いの大好きだよ?まあ日本は湿気が多いからちょっと息苦しい感じはするけど」 オーランドはそう言うと手すりから腕を下ろし、う〜んと大きく伸びをした。 そして隣に立った私の方を見てニッコリ微笑んだかと思うと、すぐに腰を抱き寄せてくる。 「ちょ・・・近所の人に見られる・・・」 「いいじゃん。に恋人がいるって分かれば近所でを狙ってたかもしれない男も諦めるかも」 「そ、そんな人いるわけないでしょ?」 「分からないよ?ホラ、向かいにある寮の男が嫌って言ってただろ?」 「そ、それは・・・」 そう言われて私は言葉につまり、向かいの建物へと視線を向けた。 私のマンションの向かいには、どこかの建設業者の寮がある。 住んでいるのは、もちろん男ばかり。 時々洗濯物を干しているとそこの男も外に出てきて洗濯物を干してたりして、チラチラ私の方を見るので何となく嫌だった。 特に最近の日本はアメリカと同等くらいの事件が増えたし前ほど安心して暮らせるような環境でもなくなった。 先日は私の利用している駅近くでも通り魔に女性が刺され重症を負ったとやっていたばかり。 まあ近所の人を疑ってもキリがないのだが、今は誰が犯罪者になるかも分からないのだ。 警戒するに越した事はない。 なのでレースのカーテンすらも外側から中が見えないという物を選んでつけている。 「俺、ずっと心配だったんだからね。それ聞いた時、そんな環境にを置いておけないって思った」 「そんな・・・大げさよ?」 「でも怖がってたろ?」 「それは・・・だってチラチラ見てくるし何となく向かいから見られるのって・・・怖いでしょ?」 「だから心配なんだよ。その男、が一人暮らしだと思って何かしようとするかもしれないし?」 「・・・・・オーリィ・・・」 「どんな奴がどこで見ててストーカーになるかも分からないだろ?」 「そうだけど・・・」 オーランドはほんと心配性だ。 そう思って内心苦笑していると、彼がふと顔を上げた。 「あいつ?」 「え?」 「今、出てきた」 「・・・?」 その言葉に私も振り返ってみると、確かに向かいの寮の男が窓を開け、顔を出した。 そして、私達を見るとハっとした顔で慌てて中に引っ込む。 「うあ、怪しい・・・最初からこっちを見てたし絶対、に目をつけてるよ、あいつ!」 「ま、まさか・・・」 「もう!も少しは警戒心ってもの持ってよ」 「分かってるけど・・・」 「全然、分かってないよ・・・!あーだから一人で日本になんて置いておけないんだよなぁ・・・」 オーランドにちょっと怒ったようにそう言われ、私は少しだけ俯いた。 だけどすぐに顎を持ち上げられ、唇を塞がれる。 「ん・・・ちょ・・・オーリィ・・・?」 「もしあいつがまだ中からこっち見てたらいけないと思ってさ。見せ付ければ俺達が恋人同志ってわかるだろ?」 「・・・・・・・・・」 オーランドはそう言って軽くウインクすると、もう一度チュっと口付けてから私の手を引いて中へと入った。 私はチラっと向かい側を見てみたが今はもう人影も見えない。 まあ・・・オーランドの言うように男が出入りしてるって分かれば少しは安心かな・・・ そんな事を思いながら自分も冷たい紅茶でも飲もうとキッチンへ向かう。 冷蔵庫を開けてポットに入った紅茶をグラスに注ぎ、最後に氷を入れるとカランと音を立てた。 その時、後ろから声が聞こえた。 「」 「ん〜?」 「ちょっと・・・話があるんだけど・・・・・・」 「え?」 いつになく真剣な声にドキっとしつつ、私はグラスを持ってリビングに行った。 気づけばテレビは消され、時折、外からセミの声が聞こえるくらい部屋の中は静かだ。 オーランドはソファに腰をかけ、手には白い封筒を持っている。 私は少し緊張してオーランドの隣に座った。 「話って・・・?」 「うん・・・」 紅茶を一口飲んでから尋ねればオーランドは手の中の封筒から一枚の紙を出した。 「何、それ?」 「ロンドンの家」 「え?」 「買おうと思ってるんだ。この家」 オーランドはそう言ってニッコリ微笑むと、その紙を私に見せた。 それは大きな家の間取りやらが書いてあり、なかなか高そうな感じの外装の写真まで載っている。 「今のとこから・・・引越すの?」 「そうしようかなぁって思ってる」 「じゃあ・・・まだ決めてないのね?」 「それは・・・・・・の返事次第かな」 「・・・・・・え?」 その言葉の意味が分からず、私は顔を上げてオーランドを見た。 彼の顔には少し緊張の色が見えて、こっちまで緊張してしまい、少しだけ目を伏せる。 「私の・・・・・・返事次第って何が・・・?」 「だから・・・」 私の問いにオーランドは困ったように頭を掻くと、もう一度私を見つめた。 「ここに・・・・・・が一緒に住んでくれるなら・・・ってこと」 「私が・・・?」 「そう。今回、日本に来たのは・・・その事を言うためなんだ」 「は?」 「・・・は?じゃなくて・・・を迎えに来たんだって言ってんの!」 「――っ!」 オーランドは苦笑しながら、そう言うと私の方に体を向けた。 私は何も言えないまま彼の優しい瞳を見上げ、ちょっと笑って見せたけど、きっと上手く笑えなかった事だろう。 だって・・・彼が言ってるのはきっと― 「結婚・・・してくれないかな・・・俺と」 オーランドは、そう言って私の手をギュっと握った。 でも私の頭はパニックに陥っていて言葉も出てこないし笑顔で頷く余裕すらない。 ただ握られた手が熱いのと、外から聞こえるセミの鳴き声だけが耳に届く。 だってまさか、それを言うためだけに日本に来たのなら・・・・・・オーランドは凄い人だ・・・って変なことを感心していたから。 「・・・・・・返事は?」 黙ったままの私に不安を感じたのか、オーランドは恐る恐る私の顔を覗き込んできた。 そんな彼の顔を見て、私は泣きたいのをグっと堪えると軽く深呼吸をする。 そして顔を上げると真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。 私の答えなんか昔から決まってる・・・ 「私―」 バン・・・! 「いやーそこで酔っ払いのオッサンにからまれちゃってさぁ〜!参ったよなぁ〜!"お前、それ地毛か?"ってしつこくて―!」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 凄くいいムードで返事をしようとした瞬間、いきなりドアが開き呑気な声と共に、リビングにセバスチャンが顔を出した。 私とオーランドは驚く前に固まったまま彼の方を見る。 その雰囲気に何かを感じたのか、セバスチャンは"しまった!"って顔をしてたけど私は何だかおかしくなって思い切り噴出してしまった。 「ぷ・・・っ!あははは・・・!やだ・・・」 「あ、あの、ごめ・・・ってか俺、もう一度、散歩行って来ようか・・・?」 セバスチャンは困ったように玄関とリビングを行ったり来たりしながら情けない顔でそう呟く。 でもオーランドは顔を真っ赤にしながら立ち上がった。 「もういいよ!!」 「・・・あはは!」 「!笑いすぎ!・・・つか返事は?!」 カッカきてたからか、どさくさまぎれにオーランドが聞いてきた。 一人、何だかご機嫌斜めの王子様は顔を赤くしながら私の方を見つめている。 その表情を見ればタイミングもムードも壊され、かなり不機嫌な様子だ。 それには私も何とか笑いを堪えつつ、顔を上げる。 「もちろん・・・OKに決まってる・・・!」 「・・・!」 「わぉ!やったな!オーランド!!」 私の言葉にオーランドは再び固まり、セバスチャンが歓喜の声を上げた。 そんな二人を見ながら私は我慢していた涙が一粒、零れる。 それは、もちろん嬉し涙で、彼の気持ちが心に響いた証拠。 昨日の今頃は早くオーランドに会いたいという気持ちだけで過ごしていた。 まさか今日、こんなに幸せなサプライズがあるなんて思いもしなかった。 「ほんと・・・?ほんとに俺でいいの・・・?」 「もちろん。だって、あの言葉を言う為だけに来日してくれるのって、きっと世界中、捜してもオーリィだけでしょ?」 固まっていたオーランドがやっと口を開いた時、私がそう返せばやっと彼の笑顔が見れた。 きっとオーランドと一緒にいれば・・・この気持ちは続いていく・・・・・・・・ 昨日よりも世界が輝いている。 明日はもっと素敵な日になれば良い そして、貴方と一緒に、その素適な日を過ごしていく・・・・・・・・・・・・・・・ ※ブラウザバックでお戻りください。
今さらながらオーランド来日ネタ?(聞くな)
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