あ た ら し い 世 界
ガシャン・・・
カップの割れる音がして、「きゃ・・・っ」と彼女の小さな悲鳴が聞こえた。
僕はベッドに腰掛けて台本を読んでいたが、その音と声に驚き顔を上げる。
するとが慌てて飛び散ったカップの欠片を拾おうとしていて僕は思わず、「あっ」と声をかけた。
僕の声にドキっとして立ち上がったは困ったように微笑んだ。
「ごめん、リジィ・・・」
「いいんだ、そんなの。それより手で触ったら危ないよ」
ベッドから立ち上がり、僕はキッチンに歩いて行くと、すぐにミニ掃除機を出して散らばっている欠片を吸い取った。
そして他にも落ちてないかを確認すると掃除機を止めて目の前でシュンとしているを抱き寄せる。
「カップはまた買えばいいから気にしないで」
「あ・・・じゃあ今度私が買って来るね?」
「ほんと? じゃあ楽しみにしてる」
そう言って彼女の額にキスを落とすと恥ずかしそうに微笑み、僕から離れた。
そして再び紅茶を淹れようとカップを出している。
ここは僕のトレーラーの中。
彼女、はこの"ロード・オブ・ザ・リング"のスタッフでヘアメイクをしている。
僕とは数ヶ月前から恋人同士。
でも周りには内緒にしてるから会うのも、こうして皆が寝静まった夜くらいしかない。
僕は再びベッドに戻ると読みかけの台本を閉じてから小さなテーブルにある煙草に手を伸ばした。
窓を少し開けてから火をつけ、ゆっくりと煙を燻らせれば外から少し冷たい風が入ってくる。
それが気持ち良くて、もう少しだけ窓を開ける。
だが他のトレーラーから明かりが洩れているのが見えて慌てて窓をまた少し戻した。
(あのトレーラーは・・・オーリィだな・・・。またドムとかと集まって騒いでるのかも)
僕まで起きてるなんてバレたら押しかけてきそうだ。
そんな事になったらとの事もバレて仕事がしづらくなるかもしれない。
そう思ってすぐにトレーラーの電気を消し、スタンドライトをつける。
は驚いたようにふり返り、紅茶を持ってベッドの方まで歩いて来た。
「どうしたの? リジィ」
「ん? いやオーリィがまだ起きてるようだし・・・僕も起きてるってバレたら押しかけてきそうだからさ」
「あ、そっか」
「うん」
はテーブルに紅茶のカップを置いて僕の隣に座ると、ちょっと窓の外を覗いて笑みを浮かべた。
「オーリィも元気よね。今日のロケだって結構きつかったのに」
「ほんとだね。まあ、でも彼のおかげで場が明るくなるし助かるけど」
僕がそう言うとはちょっと笑って紅茶を一口飲んだ。
窓の隙間から入ってくる風が彼女の奇麗な髪を揺らし、その髪を指で抑える仕草が女の子らしさを感じさせる。
その横顔に少し見惚れていると、が思い出したように笑った。
「そう言えば・・・今日もリジィやヴィゴとジャレてたもんね」
「あーあれね。参ったよ。突然、抱きついてくるから衣装も崩れるしウィッグもずれたしさ」
「おかげで私が呼ばれてリジィに会えた」
「・・・そうだね」
可愛い笑顔で可愛い事を言う彼女に僕も思わず笑顔になる。
そっとの肩を抱き寄せて頬に軽くキスをした。
そのままギュっと抱きしめ、彼女の体温を腕に感じる。
その時、ふと前から言おうと思っていたことを思い出し、彼女を抱きしめたまま静かに口を開いた。
「ねぇ、」
「・・・ん?」
「・・・そろそろさ・・・。皆に僕らのこと・・・話すってのはどう・・・?」
「え?」
「こんな風にコソコソするのって性に合わないって言うか・・・と堂々と会いたいし・・・さ」
「リジィ・・・」
「あ、でもが仕事がしづらいって言うなら・・・もう少し待つよ」
そう言っての顔を覗き込む。
「僕は皆にバレても全然、構わないって思ってるし、がOKならいつでも報告する気はあるからさ」
優しく微笑みながらの頬にキスをして、そのままベッドに押し倒すと、彼女は少し潤んだ瞳で僕を見上げてきた。
「ありがとう・・・リジィ・・・。そう言ってくれて・・・凄く嬉しい」
僕は彼女のその言葉にニッコリ微笑むと、「大好きだよ・・・」と呟き、ゆっくりと唇を重ねた。
の事を好きで、も僕のことを好きで・・・互いの気持ちが通じ合った時、奇跡だと思った。
こうして一緒にいる時間が嘘みたいに幸せで、どんな些細な事でも楽しく感じる。
人を好きになるって、こういう事なんだ。
『こんなに 誰かのことを
今まで 大事に 想うことなんて 一度もなかった』
・・・ただ ただ 君が愛しくて
SONG BY:ゴスペラーズ
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Postscript
残暑見舞いシリーズです。
ゴスペの「あたらしい世界」をリジィで(゜∀゜)!!
前の暑中見舞いシリーズ「息も出来ない」の続きです。
ロケの合い間の他愛もない二人の時間・・・プチ密会ってところでしょうか(笑)
残暑見舞いシリーズは、また誰かでボソボソ書いて行くと思われます。
まだまだ暑いですけど皆さんも夏バテ、熱中症に気をつけて、
学生さんは夏休みの宿題、社会人さんはお仕事頑張って下さい!
皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて…
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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