キスの代償

※軽めの性的表現あり


静かな室内に緊張感が漂う。彼女は恐ろしいものでも見るような目でボクを見つめていた。その瞳に見つめられるだけで色んな想像力を掻き立てられゾクゾクしてくる。
彼女は恐ろしいほどに可憐で、脆く壊れそうなほど魅力的だから、色んな意味でボクを楽しませてくれる。今はまだ不完全ゆえの美しさと、自分の心をひた隠しにしているいじらしさが、ボクにとったらたまらない。

「いつ…気づいたの」
「最初からさ」
「最初から…?」
「君がボクに気づく前ってこと♡」

試験会場に彼女が足を踏み込んだその時から、その存在に気づいてた。試験前、ボクが獲物を狩っていた時に、彼女がボクの存在に気づいたことも気づいてた。

「…そういうことね。なら納得」

はあっと溜息を吐いたは諦めたように帽子とサングラスを外した。絹糸のような柔らかい髪がふわりと彼女の胸元へ垂れる。いつも、触れてみたい、と思わせる柔らかそうな髪。イルミとはまた違う美しさ。

「ボーイッシュな感じも良かったけど、やっぱりボクは下ろした方が好きだなァ」
「…ヒソカの好みなんて知らない」
「相変わらずつれないねぇ」

まあ、でもそういうところも惹かれるんだけど、と言葉を続ければ、彼女は落ち着かなそうに視線を反らした。はまだ何も気づいていないみたいだ。自分が必死に逃げようとしている存在が、すぐ近くにいることを。ボクからでも、クロロからでもない。唯一、が本気で逃げてしまいたくなる相手はたったひとり。その理由を、ボクは知ってる。出会った瞬間、そんなことさえ気づいてしまうなんてボクもたいがいだけど。

「ヒソカ…」
「なんだい?」
「…もう、出てって。ツレにヒソカと知り合いだって知られたくないの」
「ツレって、君とイルミの弟だろ?見ただけで分かったよ。とよく似てる」
「なら…分かるでしょう?私の言ってる意味が」

ボクを射抜くような彼女の瞳にゾクゾクさせられる。イヤだなぁ、そんな目で見られたら興奮しちゃうじゃないか。

「もちろん…手も出さないで。絶対に」
「さて…どうしようかなァ。イルミと君の弟だけあって、なかなかに美味しそうな果実だったよねぇ」

指先で出したトランプをくるくる回しながら一歩近づくと、は同じ距離だけ後ろへ下がった。

「手を出さない代わりに…君はボクにナニをくれるのかな♡」
「…な…交換条件なんて卑怯よっ」
「タダで君のお願いを聞くほど親しくないだろ?まだ」

わざと意地悪なことを言ってみる。は真っ赤な顔で睨んでくるけど、それさえボクを煽る行為だって分かってないようだ。ゾルディック家の大切な王子様がいたのは幸いだったかもしれない。彼を餌にすれば、いつも強気な彼女が従順になってくれるんだから。まあ本気であの勝気そうな弟くんに手を出す気はないけど。今は、まだね。

「さあ、どうする?」

トランプの数を増やし、両手のひらでパラパラと移動させて遊んでいると、遂に観念したが「…どうすればいいの?」と訊いて来た。その顏を見れば不本意って表情がもろに出てて笑いそうになる。

「う~ん、そうだなァ…」

言いながら一歩、近づく。今度はも動かなかった。一歩、また近づき、彼女との距離を詰める。ボクが目の前に立ってもは黙って睨んで来るだけだ。ジリジリと近づいて獲物を追い込むように彼女を壁際まで追いやってから両手を壁に置けば、ようやくの顏が僅かに強張った。怯える顔も、またイイ♡

「キス、してもらおうかな」
「は?キ、キスって――」
「もちろん、から」

身を屈めて目線を合わせながらニッコリ微笑む。それだけで頬を染めるは穢れのない少女のようだ。でも――ボクは知ってる。

「大事な弟の為なら…それくらい、出来るだろ?」
「………」

そう挑発するだけではグっと拳を握り締めた。一瞬殴られる?と思った。それはそれで楽しいかもしれない。でも次の瞬間、はその手でボクの胸元を力いっぱい掴むと下へグっと引っ張った。同時につま先を伸ばしてボクの唇へ自分の唇を押し当てる。でもそんなんじゃ到底ボクを満足させるまではいかない。壁に置いていた手をの細い腰へ回して強く抱き寄せれば、アッと言う間にの身体はボクの身体に密着した。

「ちょ…何する――」
「キスってのはこうやるんだよ」
「な…んんっ」

指で彼女の顎を掬い上げると、その柔らかそうな唇を強引に塞ぐ。互いの腰を密着させるほどに抱き寄せれば更に顔が上を向き、僅かに出来た隙間からするりと舌を滑り込ませた。彼女の喉の奥からくぐもった声が出てボクの耳を心地よく刺激して来る。優しく絡めたの舌を舌先で弄り、吸い上げるようにたっぷりと味わうだけで下半身に熱が集まって行く。舌を動かすたびにくちゅくちゅと卑猥な音がお互いの唇から洩れて、硬く昂ったモノをの腰に押し付ければ、彼女の身体がビクリと跳ねた。逃がさないよう壁に押し付けて更に唇を貪るように口付け、じゅっと音を立てて舌を吸い上げる。口端から唾液が垂れるほどに彼女との長く、深いキスを満足するまで堪能する。思った通り、彼女の唇は想像以上に甘い。腰を抱いてた手をゆっくりと下げて、身体のラインを楽しむように撫でていく。さすがに驚いたのか、が急に暴れ出した。

「…ゃっ…離してっ…も、もういいでしょ…っ」

顔を背けて叫ぶの瞳には涙が浮かんでいる。意外なことにそれほど嫌悪感は見られない。羞恥の方が強いらしい。その顏に興奮するボクは皆が言うような変態というよりは、案外普通の男なのかもしれない。

「やっぱりキスだけじゃ足りないなァ」

頬を撫で、耳たぶを指で弄りながら囁くと、彼女の身体がぶるりと震えた。手ごたえを感じて、よりいっそうボクのモノが硬くなっていくのは、目の前の女がいちいちボクを煽って来るからだ。

「や…っていうか押し付けないでよ、それ…っ」
「クックック…真っ赤な顔して…そそるよ、凄く」
「ひゃ、ちょ、ちょっと――」

彼女の膝裏を軽く持ち上げ、硬く勃起したものを股の間へ押し付けながら腰をゆっくりと動かすだけで達してしまいそうなほどに気分が高揚した。その情欲のままの首筋に舌を這わせた途端、が闘牛のように暴れ出す。攻撃を仕掛けようとする両手首を拘束すると、今度は思い切り足を踏まれた。せっかくの興が削がれていきそうなほどの暴れっぷりには苦笑するしかない。

「嫌だなあ…盛り上がって来たところなのに」
「も、盛り上がってない!いいから離してよ、変態!」
「でもの身体も凄く熱いけど…ボクに無理やりされて興奮してない?」
「し、してないってばっ」
「そう?さっきから身体は素直に反応してるんだけどなァ♡」
「…ぁっ」

両手首を拘束したまま壁に押し付け、の下半身へ手を伸ばす。ジーンズの上から割れ目の辺りに指を往復させれば、ビクンと彼女の身体が震えたのを感じた。その反応にますますボクのモノが硬く膨張していく。ああ、でもやはり彼女は――。

「そろそろ…濡れてきた?」
「そんなわけないでしょ…!やめて…っ変なとこ触らないでってば…っ」
「でもさァ…こんなに反応するってことは……、やっぱり知ってるよね」
「…な、何…」
「男」
「……っ」

耳元でそう囁くと、は小さく息を飲んだ。赤かった頬が一気に青ざめていくんだから分かりやすいなぁと、つい笑みが零れる。

を女にしたのは――」

そう言いかけた時、物凄い力で突き飛ばされた。どうやら手にオーラを集中させたらしい。

「もう十分楽しんだでしょ…?キルが戻ってくる前に出てって」
「……ボク的には全然足りないけど」

肩を竦めて笑う。は「約束よ…キルには近づかないで!」と怖い顔で睨んで来る。こんな時まで弟の心配をするなんて嫌になるよ、全く。

「分かってるよ。弟くんに手出しはしない。こう見えてボクは約束を守る方なんだ」
「…どうだか。嘘つきのクセに」
「それは否定しない」

奇術師は気まぐれで嘘つきと相場は決まってるだろう?ドアの方へ歩いて行きながら応える。

「でもまあ…ボクもこれから約束があるんだ。残念だけどこの続きはまた今度♡」
「つ、続きなんてしないから!キルのことはさっきのキスで成立してるはずよ」
「弟くんのこと抜きにして誘ってるんだよ、

ドアを開けてから振り返ると「お断り!」という叫び声と共に大きな枕が吹っ飛んで来て慌ててドアを閉めた。ギリギリ枕は閉じたドアにぶつかったようだ。ぼふっと鈍い音がして思わず苦笑する。

「クックック…ほんと…素直だよねェ、は」

蠱惑的で魅惑的な女――。
それはある意味、禁断の実を口にしたことで溢れる魅力なのだろうか。彼女の過剰な反応でボクの読みが正しかったと分かった。前に触れた時、の反応を見て男を知ってると感じた。イルミの厳しい監視付きの中、彼女がいったい誰とそこまで深く付き合えたというんだろう。小さな疑問はでも、すぐ答えに辿り着いた。彼女の身体の深いところまで暴ける男など、ひとりしかいない。

「う~ん…ちょっと妬けるかな♡」

頭を掻きつつ悶々としながら、約束をしている男の元へゆっくりと歩き出した。




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