2016年・初冬――。


僅かに開けたままの窓の隙間から、肌寒い冬の風が吹き込んでカーテンがふわりと浮いた気配がした。風の冷たさで微睡みから目覚めたオレは、ハッと息を飲んで隣を確認する。そこには先ほどまで抱き合ってた彼女が、オレの腕を枕にして眠っていた。

「いんのかよ…」

ホっと息を吐き出しつつも苦笑いが零れたのは、いつ、この腕をすり抜けていくか分からない女だからだ。捕まえたと思っていても、次の瞬間には他の男に抱かれているかもしれない。そんな女だ。それを許容できるような男じゃなければ、とは一緒にいられない。ある程度は見てみぬふり――彼女が相手を受け入れてる場合だけだが――をしてきた。だけど時々、こうして無性に彼女を独占したくなる。オレのものだと証明したくなる。

「いつになったらオレだけのもんになんの、オマエ…」

柔らかい髪に指を通しながら、起こさないようにそっと頭を撫でる。刺激を感じたせいか、彼女はかすかに体を動かし、オレに擦り寄ってきた。まるで気まぐれな猫のようだ。
は出会った当時からそうだった。無邪気に見えて残酷。なのに人一倍、寂しがり屋で、常に腹を空かせたような顔をしてた。それが愛情に飢えた人間の特徴だと気づいたのは、オレ自身がそうだったからに過ぎない。同類だと感じた。

報われない想いを抱えて初恋をこじらせていた彼女は、オレから見れば欲しい玩具が手に入らないと嘆く駄々っ子のように見えた。それが殊の外、愛しく思えたのは、オレも稀咲に会うまでは、何かを求めながら、退屈な日々の中を藻掻いていたから。その虚しさを知っていたからかもしれない。
だからに見せたかった。稀咲の創り出す綿密に練られた世界を。

その為に彼女から信頼と愛情を得ている九井と乾、二人との関係に距離を作らなきゃならなかった。特に、当時が想いを寄せていた九井には、彼女を振ってもらう必要があった。信頼関係だけを残し、愛情だけを密かに消滅させる。九井も報われない過去への想いを断ち切れずに足掻いていたからこそ、簡単だった。あの当時は九井もへの愛情は友人以上のものはないと思っていたようだし、そこを利用した。

九井の中にある、の想いに応えてやれない罪悪感。それを少し解放してやるだけで、二人の関係を友人に戻すことが出来たのだから、結果的にの為には良かったんだと思う。その後、九井が自分の本音に気づいたところで、それはオレの知ったこっちゃない。二人の想いが噛み合わない恋愛なんて、この世の中いくらでも転がってる。あの二人がお互い、相手に振られたと感じてるのはそのせいだ。稀咲とオレはほんの少し、手を加えただけ。それで壊れる想いなら、それだけの関係だったってことだ。

(特には…九井に惚れてると思い込んでただけだしな…)

二人は大事な人が亡くなるという悲しい出来事を、単に共有してたに過ぎない。そこに男女の関係が生まれたから、それを愛情だと思い込もうとした。男と女なんて寂しいだけで抱き合える生き物なのに、なまじ若くて初めての相手だからこそ、は九井のことを好きだからだと思い込んだ。

(まあ…オレと寝たことで何かが吹っ切れたみたいになってたけどな…。ちょっと奔放になり過ぎじゃね?)

あの頃の彼女を思い出しながら、頬にキスを一つ落とせば。の瞼がゆっくりと押し上げられた。

「…しゅ…じ…?」
「悪い…起こしちゃったな…」

しがみついてくるの背中を抱き寄せると、今度は額にキスを落とす。彼女は子供のように目を擦りながら「起きてたの…?」と訊いてきた。

「んー。オマエの寝顔を見てたら、会った当時のこと思い出して笑ってたとこ」
「…何よそれ…笑うとこある?」
「いてっ。つねんなよ…」

苦笑気味に腕を思い切りつねってくる彼女は、痛がるオレを見て更に笑った。

「いい女に育てすぎちゃったなぁ、オレ…と自分に自分で苦笑してたんだよ」
「…修二に育てられた覚えはないもん」
「オレが一途にを待ってたから、オマエは安心してあちこち飛んでまわってられたんじゃねえ?」
「それは……あるかも」
「オマエは目を離すとすーぐ他の男に甘えてたからな…。ああ、それは今も変わんねーか」
「人を尻軽みたいに言わないで。わたしは本気だったし…。後はぜーんぶ鉄ちゃんの命令だから」
「…だな」

それはそうだ。あの頃の稀咲はの金集めの力の他に、彼女の魅力を大いに利用した。それも今とあまり変わらない。あのマイキーさえ本気にさせたんだから、も大したもんだ。
と言っても、彼女からすれば本気だったし、意外なことに彼女の初めての彼氏となったのがマイキーだった。でもマイキーはと稀咲やオレとの関係を常に疑い、少しずつ壊れていった。あれも稀咲が裏で操作してたんだろう。ケンカばかりで疲れたの心もマイキーから離れ、マイキーも最後はとの別れを選び、東卍を今の形にした辺りで姿を消したが、稀咲だけは行き先を知ってるとオレは睨んでる。

「…修二は…わたしなんかのどこがいいわけ?」

不意にが呟いた。今にも泣きそうなほど、小さな声だ。

「何だよ、急に」
「急じゃないよ。ずっと…思ってた…。修二はわたしがキツい時、いつもそばにいてくれたよね…。何で?」
「何でって…オレがのそばにいたかったら」

この気持ちは理屈じゃない。本当にそうなんだから嫌になる。何でこんな厄介な感情が芽生えてしまったのか分からねえけど、他の女じゃダメだった。それだけだ。
はオレの言葉に驚いたように顔を上げた。その瞳は薄闇の中でゆらゆらと揺れていて、今にも泣いてしまいそうに見えた。

「だから…何でわたしなの…?他の男と付き合ったり…命令で寝ることだってあるし…修二には嫌な思いばかりさせてるのに」
「そりゃ…イヤなことも多いけど…まあしいて言えば…」
「…言えば…?」

不安げな顔でオレを見つめるの唇に、自分のを重ねた。

「オレがいなきゃ生きていけなさそうだから?」
「―――ッ」

おどけて言ったオレの一言に、が小さく息を飲む。でもすぐに「バッカじゃない…それは修二の方でしょ」と唇を尖らせた。

「ばはっ♡そりゃそうだ。今、言ったことはオレの気持ちだからなー」
「………」

彼女の額にちゅっと唇を押し付ければ、やっぱり泣きそうな顔をしたけど。その顔を見てたらオレも少しは自惚れてもいいのかと思った。
オレが必要なら、地獄の果てまで一緒に行ってやるよ。




2007年・7月。


夜、鉄ちゃんから呼び出しがかかり、東卍のアジトの一つへ着いた途端、不機嫌そうな千冬とすれ違った。彼がここのアジトに顔を見せるのは珍しい。この場所は鉄ちゃんが仕切ってるアジトだからだ。もう使われていない元クラブだった店を安く買い取ったと言っていた。まあその資金を提供したのはわたしとココだけど。
声をかけようと思ったけど、千冬はそのまま外へと出て行ってしまった。もしかしたら、また鉄ちゃんに文句を言いに来たのかもしれない。千冬は鉄ちゃんがマイキーに気に入られてるのが、とことん気に食わないようだから。
今日は更に鉄ちゃんが連れて来た新しいメンバーの歓迎会だし、そのことで文句でも言いに来たんだろう。漠然とそんなことを考えながら千冬の背中を見送っていると、鉄ちゃんが笑顔で歩いて来た。

「久しぶり。早かったな」
「…っていうか鉄ちゃん…わたし、別にボディガードとかいらないんだけど」

そう言いながら後ろでシレっと立っている修二を指さす。
鉄ちゃんは笑いながら「まあ、そう言うなって。今は東京の不良どもが大きくなってきた東卍を潰そうと、メンバー狙ってるって言うし」と肩を竦める。修二も迎えに来た時、そんなことを言っていたけど、わたしが東卍だって知ってる人間なんて少ないだろうと思った。

「それより…ココは?」
「ああ…」

鉄ちゃんはわたしをホールカウンターに連れて行くと「まずは乾杯しようか」と言って綺麗な色のカクテルを差し出す。すでに作らせておいたようだ。わたしがカクテルグラスを受けとると、鉄ちゃんは自分のグラスをカチンと当てて「乾杯」と楽しげに笑う。彼の作らせた綺麗なカクテルは、口当たりがよくて確かに美味しかった。

は夢ってある?」
「…夢?」

不意にそんな質問をされ、わたしは首を傾げた。
鉄ちゃんはカウンターテーブルに肘をついて天井を仰ぐと「オレの夢は前に話したよな」と呟いた。
彼の夢は確かに前、チラっと聞かさせてもらったことがある。でも何で改めてそんな話をわたしにしてくるんだと疑問に思った。

「あれ、忘れたか?」

わたしが何も応えなかったからか、鉄ちゃんは苦笑しながらわたしを見た。もしかして何か試されてるんだろうか。そんなことを考えながら、わたしはいつものように笑顔を見せた。

「どんな夢だっけ?」
「東京中の不良を集めて東卍を更にデカくする」
「…その後は?」
「日本の闇を全て…東卍が牛耳るつもり、なんだけどさ」
「闇を全て…凄いね。鉄ちゃんなら出来るよ、きっと」
「それにはの力が必要なんだ」
「…わたし?ココじゃなくて?」
「もちろん、九井も必要。でも九井はもう完全に手に入れた」
「え?」

どういう意味?と聞こうとしたわたしに、鉄ちゃんは柔らかい笑みを浮かべて、そっとわたしの肩へ触れた。反対側に座ってる修二は、珍しく口を挟んでこない。

「九井は自ら東卍を選んだ。オレについて行くと約束してくれた」
「……そう」

わたしがいない間にココは鉄ちゃんと何を話したんだろう。これまでココは青宗の為に動いて来たけど、今度は鉄ちゃんの為に動くと、そう決めたということだろうか。これからは本気で東卍の為にお金を集めると。

「だからもそろそろ本気で心を決めてくれると助かる」
「わたしは…ココがそう決めたならついてくだけだし…」
「だから、そういうの、もうやめろって言ってる」
「え…?」
「例え、九井がいなくてもオレについて来るって、そう言えよ。それくらいの覚悟が欲しい」
「ココが…いなくても…?」

少し驚いたわたしの顔を、鉄ちゃんは真剣な顔で見つめている。そのグレーの虹彩は静かな野望を秘めている。そういう類の輝きを放っていた。

「わたしは…」

この場はどう言うべきなんだろう。ココがいなくても鉄ちゃんについて行く。そう言えば正解?ココがいないなら嫌だと言えば、裏切りになるんだろうか。
珍しく迷いが出て、わたしは喉を小さく鳴らした。けれど、鉄ちゃんは黙ったままのわたしを責めるでもなく、ニッコリと微笑んだだけだった。

「ま、答えはゆっくり考えておいて」
「…え?」
「九井が心配なんだろ?行って来いよ。2Fの5番ビップルームにいるから」

それだけ言うと、鉄ちゃんは再びカクテルを飲みだした。わたしも残りのカクテルを飲み干すと、静かにスツールから下りる。何故か、この時はあれだけ張り付いていた修二もついては来なかった。

「…どういう意味だったの?」

ビップルームへと向かう階段を上がりながら、さっきの鉄ちゃんの言葉を思い出す。
ココがいなくても?ココがいないなんて考えられない。わたし達はずっと一緒にお金を稼いできたのに。赤音さんが亡くなって、お金を稼ぐ必要がなくなっても、ココはわたしにもうやめようとは言わなかった。それは行き場のない悲しみとか、後悔とか、そういうものがココの中で燻っているからで、わたしはそんなココを助けてあげたかった。これからもその気持ちは変わらない。だからココがいなくても、なんて選択肢がわたしにあるはずない。

「えっと…5番だっけ」

ビップルームの扉が並ぶ場所まで来ると番号を確かめた。5番は一番奥の部屋だ。
最近は忙しいという理由でココとも会えていなかった。二週間もココに会わなかったのは初めてかもしれない。あの雨に降られた集会以来で、わたしも風邪で寝込んだりしていたから、久しぶりに会えると思うと、少しドキドキしてきた。さっきの鉄ちゃんの話なんてすぐに頭の隅へ追いやられてしまう。

「……っ?」

その時――手前の部屋辺りから女のすすり泣くような声が聞こえて足を止めた。いや、この感じは泣いてるんじゃない。この艶のある独特の声は、女の嬌声だ。
そこに気づいた時、ドキっとしてドアの方へ視線を向けた。中は当然見えない造りになっているけど、確実に中では男女が抱き合っている気配がする。

(嘘でしょ…周りに仲間がいるってのに、こんな場所でエッチする?ってか誰よ。新人のメンバーってアジトに女連れ込んでるわけ?)

そう言えばさっきフロアにも数人の女を見かけた気がする。てっきりメンバーの彼女達かと思っていたけど、もしかして彼女達はソレ用・・・に集められた人達ってこと?
よくよく意識して聞いてみれば、向かい側の部屋からも女の喘ぐ声が漏れて来ている。どうやら東卍の新人メンバーが個室になってるのをいいことにビップルームで楽しんでるようだ。古参のメンバーがいないのは、そういう意味もあるのかもしれない。

「何考えてんの?鉄ちゃんは…」

そう思いながら足を進めた。いくら何でも他人の最中の声を聞く趣味はない。わたしはココのいるという5番の部屋まで足早に歩くと、ノックをしようと手を上げかけた。
いや、久しぶりだし脅かしてやろう――。
ふとそんなことを思いつき、そのままドアノブを握る。ビップルームとは言え、鍵はさすがについていない。ドアノブを下げて軽く押すだけでドアは開いた。

「ココ――」

ドアを開けて中へ入り、部屋の奥のソファへ視線を向けたわたしは、その光景を見て固まった。

「…ッ?!」
「……きゃっ!誰よ、アンタ!」

わたしを見て慌てた様子で身体を起こしたココは裸で、同じように身体を起こした見知らぬ女も裸。二人が何をしていたかなんて一目瞭然だった。
この感じからすると、ちょうど終わったとこだったようだ。良かった。最中だったらわたしはきっとこの場から逃げ出していた。こんな時なのに呑気にもそんなことを考えていた。

「ココ…誰?その女……」
「………」

わたしが問いかけてもココは何も応えない。代わりに女の方が口を開いた。

「何よ…この子…九井くんの彼女…?」
「いや…」

ココはわたしから視線を反らし、そっぽを向いている。見知らぬ女は急いだ様子で服を身に着けると、わたしを睨みながら「出てってよ」と言って来た。その一言にカッときたわたしは、一気に二人のところまで歩いて行くと、女の乱れた髪を引っ張った。

「オマエが出てけ!」
「痛っ!放してよ!何なの?!」

女は驚いたのか、慌ててわたしから離れると、服も乱れたまま部屋を飛び出して行く。ココは「何やってんだよ…」と呆れたようにわたしを見上げて、溜息交じりでシャツを羽織った。
その態度が余計にわたしを苛立たせた。

「それはこっちの台詞だよ。いつも忙しいって言ってばかりで…わたしがこの二週間どんな気持ちだったか分かる?!なのにココはあんな女と何してたのよ!」
「いちいち怒鳴るなって…。別に何してようがオレの勝手じゃん。心配すようなことは何もねえだろ」
「そんな言い方…」
「それにオレが誰と何しようがには関係ない。彼女じゃねぇんだから」

ココは冷めた表情でそう言い放つと、煩わしそうにジャケットを羽織り、部屋を出て行こうとする。わたしは喉の奥が詰まったみたいに声が出てこなかった。必死にこみ上げて来るものを抑えて、震える手を握り締めると、ココに向かってグラスを投げつけた。それがココの背中に当たってガシャンと派手に割れた音が響く。

「いてぇな…危ねぇだろ」
「…によ。勝手なことばかり…彼女じゃない?そんなの分かってる…」
「…分かってねぇだろ。なら何でさっきあんなにキレてたんだよ」
「ココは赤音さんのことが好きなんじゃなかったの?!なのに何であんな誰とでも寝るような女とヤったりするの?!」
「あ?赤音さんのこと今は関係ねぇだろ!」
「あるよ…!わたしは…赤音さんなら仕方ないって…そう思ってたから…でも他の女は嫌!」

つい本音をぶちまけて、ハッと息を飲む。ココは黙ってわたしを見つめるから心臓がうるさいくらいに鳴り始めた。こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。
ココは小さく息を吐いて、わたしの方へ歩いて来た。それが怖くて、ぎゅっと拳を握り締める。

…」
「……何よ」
「オマエは…そう思い込んでるだけだよ」
「は?何を――」
「オマエはオレを好きだって思い込んでるだけ。執着してるだけだ」

ココは真っすぐわたしを見つめて、そんなことを言いだした。
好きじゃない?執着してるだけ?何それ。
頭の中でそんな言葉がぐるぐると回る。

「オマエは…赤音さんのことで色んなことを悔いていたオレを見て、ただ元気をくれようとしただけだ。自分が何とかしなくちゃって傍にいてくれただけ。そういう想いを好きだって勘違いしただけなんだよ」
「…違う…わたしは…ココのこと好きだもん…。ずっと…好きだったっ」
「それは恋じゃない。愛でもない。同情っていうんだよ」
「違う!何でそんなこと言うの?!わたしはほんとにココが――っ」
「でもオレは今でも赤音さんが好きだ」
「…んなの…分かってる…っ。だからわたしは…」
「報われなくてもいいって?そんなの変だろ。オレは…オマエのこと大切に思ってる。オレの大事な幼馴染だ。そんなを…オレが縛りつけてた」

ごめんと、ココは謝った。オレのせいでの生き方まで変えてしまってごめん――と。
そんなこといいのに。わたしが好きでやってきたことだ。ココのせいなんかじゃない。なのに――。

「でも、もういいんだ。は…自分の思うように、自由に好きなことをして欲しい。オレの為じゃなく、には自分の為に生きて欲しい」

――何で今更そんなこと言うの。

わたしはココを好きなんじゃないの?この想いは同情なの?わたしはそういう自分の想いに縛られてただけ?
違う、とは、もう言えなかった。もしかしたら、自分でも薄々は気づいていたのかもしれない。ココが傍にいないと不安になるのも、傍にいてくれたらホっとするのも、全てはわたしがココに依存してたからだ。傍にいるのが当たり前で、悲しみも共有して、寂しさを理解し合って、ふたりで寄り添って来たから。
そんな感情の中で、愚かにも抱き合ってしまったせいで、その全ての思いを恋心だと――わたしは思い込んだの?

「……はは。笑える」

心の中から何かが消えたような、軽くなったような、そんな虚無感だけが残った。ツラいとか痛いとか、そういったものはなく。ただやけに心がスースーするような虚しさと、寂しさ。
それは恋心だと思っていたものなのか、それともココの言うように縛りつけられてた心だったのかは分からない。けれど、目の前のココを見るわたしの心は、もうざわめいたりはしなかった。