※性的表現あり


2007年7月。


お洒落なインテリアがアクセントになっている広い部屋の一室で、互いの激しい呼吸音と卑猥な音が響き渡っていた。ベッドの下には無数の避妊具が転がっている。情事の残滓を視界に捉えながらも、また思考が蕩けるほどの快楽に引きずり込まれていく。
時間が分からなくなるほどに抱き合い、手触りのいいシーツがしわくちゃになっているのに、修二にとってはそれすら、どうでもいいことのようだ。

「…も…ダ…メ…」

背後から貫かれて救いを求めるように伸ばした手が、皺のよったシーツを掴む。その手に修二の手が重なって、そのままベッドに縫い付けられた。
――逃がさない。
そう言われてるように感じて、全身が震える。大量に摂取したアルコールもとっくに抜けているはずなのに、意識が朦朧としてくる。
修二とここへ入ってから、どれくらいの時間が経ったのかすら分からない。昼も夜も分からなくなるくらい、濃密な時を過ごしていた。体力の限界がきて意識を飛ばしても、目が覚めればまた貫かれるの繰り返しだ。

「ダメじゃねぇだろ?オマエが望んだことだ」

大きく骨ばった手が腰を優しくつかみ、体重をかけてナカを何度も擦られた。壊されるかも、という思いが過ぎるほどに激しい行為のはずが、心裏腹に満たされていくものも確かにある。今まで埋めていた心の大半がぽっかりと空いてしまった虚しさを、誰かに埋めて、満たして欲しかった。

――オレの為じゃなく、には自分の為に生きて欲しい。

あれはココの優しさだ。突き放すくせに、今もわたしのことを大切に思ってくれている、ココの優しさ。そんなの分かってる。だけど、長い時間、そこにあったものを失った空虚は自分だけじゃどうしても処理できなかった。だから、呆れることなく傍にいてくれた修二に縋ってしまった。
その結果がこれだ。ココ以外の男に、肌を見せるのは初めてだった。

「ん…っ…ぁあ…」
「…ダメって言うわりに随分と…良さそうじゃね…?の体の方が素直にオレの飲み込もうと…してくるし…」

脇の下から胸を鷲掴みにすると、修二は激しい抽挿を再開した。卑猥な水音が交じって、絶え間なく肌を打つ音が鼓膜を刺激してくる。

(このまま…壊して欲しい…)

ナカを抉られる快感に喘ぎながらも、そんな思いが過ぎった。これまで絶対的にわたしの心を占めていたものが消えて、どうしようもない空虚を抱えたまま、これまでのようにココと接するのがツラい。なのに――。

…こっち見て」

急に緩やかになった律動に、ふと顔を上げると、修二の手が後ろから伸びて頬へ触れる。ゆっくり振り向くと熱を孕む双眸と目が合った。顎へ滑らせた手に持ち上げられた瞬間、くちびるが重なる。
知らなかった。新宿の死神と呼ばれる男が、こんなにも優しいキスをしてくれるなんて。

「……可愛い」
「……っ?」

ちゅ…っと名残惜しそうにくちびるが離れた時、ポツリと修二が呟く。不覚にも心臓が音を立てて、繋がってる部分が反応してしまった。修二がツラそうに眉間を寄せながら、かすかに笑う。

「だから…飲み込むなって…可愛いかよ、マジで」
「な…に…言って…んぁ…」

再び律動が激しくなり、わたしの苦情は喘ぎでかき消されてしまった。

「修…二……しゅ…じ…っ」

うわ言のように彼の名前が口から洩れる。何度も達して喘いだせいか、声も掠れていた。その時、ナカの屹立が更に質量を増した気がして、「ちょ…っと…何で…」と驚くわたしに、修二が背後で薄く笑った気配がした。

が…そうやって煽るからだろ…」
「な…煽ってなんか…ぁあっん」
「オマエに名前呼ばれると…何か…苦しいのに…身体の奥が熱くなんだよ…っ…く…やべ…イキそ…」
「…ぁ…んあ…待っ…」
「さすがに…待てね…」

更に抽挿が速まり、修二の余裕のなさを伝えてくる。あんなに、ココ以外の人に触れられることなんて考えられなかったのに、修二は不思議と嫌じゃない。粗暴な男に見えるのに、壊れ物を扱うようにわたしへ触れてきた修二を思い出だした。修二に触れられているうちに、何度も抱かれているうちに、虚ろだった心が埋められていく。そんな感覚。そして気づいた。修二もきっと心の中にわたしと同じような虚を飼っていると。修二に抱かれて気づいてしまった。
わたし達はどうしようもなく、似た者同士だってこと。
修二になら、壊されてもいいかなと思った。寂しさだとか、孤独だとか、そんな目に見えないものを理解してくれた修二になら、壊されても本望だ。
吐息の合間に名前を呼ばれて、わたしもどこかが苦しくなった。
最奥を突かれた時、強すぎる快感が、全身を駆け抜けていく。

「…ンっ…ぁ…ああ…っ」

目の前が弾けて背中を思い切り反らす。何度目かの絶頂を迎えた時、わたしの意識は、そこでまた途切れた。



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夜を埋め尽くす人で溢れかえる繁華街。深夜に近い時間だというのに、この街はあちらこちらで酔っ払いの声が響いている。その中の一人が今、オレの前をフラフラと歩いていた。稀咲のアジトを出てからの彼女は、どこか心ここにあらずといった様子で。家に送ろうとしたオレに「帰りたくない…どこか飲みに連れてって」と言ってきた。稀咲に「のこと頼むな」と言われていたオレは、言われるままに彼女を連れて新宿へとやって来た。最近は稀咲と東卍乗っ取り計画で動いていたから、オレもこの街に顔を出すのは久しぶりだ。

「修二~。次、行こう、次」
「おま…っまだ飲むのかよ」

足元がおぼつかないの腕を掴んで引き留めると、普段より半分しかない瞳が不満げにオレを見上げてきた。がここまで酔うのは珍しい。いつもは警戒心の塊で、オレとデートをした時でさえ、ここまで酔ったことはない。ちょっと口説いてホテルにでも連れ込もうかという下心を見せる間もなく、颯爽と帰って行く女だ。だからこそ、少しだけ驚きながら真っ赤に染まった顔を見下ろした。泣いたのか、すっかりメイクも落ちて、あどけない素顔をさらしてる彼女はどこか、手に入らない物を泣きながら欲しがる駄々っ子のように見えた。

「まらそんな酔ってらいもん」
「いや、呂律まわってねえ口でよく言えんな。まあ、可愛いけど」
「修二に可愛い言われても嬉しくな~い…ひっく…」
「って、しゃっくり出てんじゃん…」

典型的な酔っ払いと化してきて、思わず吹き出した。普段とのギャップが凄くて、むしろマジで可愛いと思う。にもこんな一面があったんだなと苦笑が漏れる。

(つか…今日ならヤレんじゃね?)

という邪な思いが一瞬だけ過ぎったものの。九井に振られて傷ついてるコイツを、無理やりどうこうするのは何となく気乗りしなかった。
あれを演出したのは稀咲だが、事前に九井から本音を聞いていたからこそ、の九井離れに手を貸した、という形だ。
九井はのことを大事に思っている。だからこそ、想いに応えてやれずに傷つけてることを気にしていた。

――アイツは…オレに同情した気持ちを恋だと勘違いしてんだよ。

前に飲みに行った時、九井は酔った勢いでそんな話をしだした。を自分から解放してやりたいと。
と九井は元々、本当の兄妹みたいな関係だったようだ。なのに男女の関係になり、ズルズルと続けている自分に嫌気がさしてた九井は、あっさり稀咲の提案を受け入れた。「今ならまだ傷は浅い」と言われ、「と前のような関係に戻りたいんだろ」と囁かれた九井は、やっと決心がついたらしい。どっちにしろ傷つけることに変わりないなら、きちんと本音を伝えたいといったところだろう。

(ま…結果、この酔っ払いが出来上がったわけだけど…)

早く飲みに行こうと文句を言っているを見下ろしながら、ふぅっと息を吐く。

「もぉ~修二、帰りたいなら帰っていいよ…」
「あ?オマエを置いて帰れるわけねーだろ。忘れたのか?新宿が怖い街だって」
「…う……」

去年のあの件を思い出したのか、は言葉を詰まらせながら俯いた。
ヤクザに追われたが、この街を走りまわってたのが凄く遠い昔のように感じる。あれから色々あったせいかもしれない。

「オマエみたいのが一人でフラフラ飲んでたら、すぐ男にホテル連れ込まれのがオチだから」
「……別にいいもん」
「…ハァ?」
「この寂しさ埋めてくれるなら誰だっていい…」

は急に泣きそうな顔で、そんなことを言いだした。さすがにそれは聞き捨てならない。普段のは、そんな投げやりな感情で知らない男に抱かれるような女じゃないからだ。

「あのな…ヤラれるだけならまだしも、変なクスリとか飲まされたらどーすんだ。この街にはそういう奴らがウヨウヨしてんだよ。ヤク漬けにしてソープとかに売り飛ばしてやろうって、オマエみたいな女を狙ってる奴らなんて山ほどいるわけ。もう少し考えてからもの言えな?」

何も知らないガキじゃあるまいし。何を甘いこと言ってんだって頭にきて、ついムキになった。は驚いたようにオレを見上げて、それから、やっぱり泣きそうな顔で俯く。その顔を見てたら少し言い過ぎたか?と、こっちが罪悪感を覚えんのはどんな罠だ?

「ハァ…悪かったよ。言いすぎた」

と深い溜息を吐きつつ、ガシガシと頭を掻く。どっちにしろは酔ってるし、このままやっぱり家に連れて帰るか。

「…ほら、一杯だけ付き合ってやるから、それで帰るぞ」

とりあえず機嫌を直してもらわねえことには、連れて帰ろうにも嫌がって逃げられるかもしれない。そう思っての手を掴んだのに――何故かぎゅっと握り返された。その不意打ちにドキっとして視線を下げると、はやっぱり叱られた子供みたいな顔で、オレのことを見上げてる。

「…ごめん、修二…」
「…あ?」
「怒らないで…」

今にも零れ落ちそうな涙を溜めた瞳に、呆けたオレの顏がバッチリと映っている。これはいったい、何の罠だ?と本気で考えたのは、不覚にも、心臓が大きく高鳴ったせいかもしれない。こんな感覚は初めてだった。あの勝気なが見せる、もう一つの弱い素顔は、いともたやすくオレの心を撃ち抜いてきた。

「…別に…本気で怒ったわけじゃねえよ…」
「……ほんと?」
「ああ…」
「………じゃあ…まだ付き合ってくれる?」
「……(コイツ)」

未だにオレの手をぎゅっと握り締めながら「家に帰りたくない」と我がままを言う。まあ、の親は殆ど帰らないみたいだし、こんな夜は家に一人でいたくないんだろう。

(こりゃ朝までコースか…?)

と内心苦笑しながらも「男にあんまそーいうこと言わねえ方がいいぞー」とは忠告しておく。

「オレが悪い男だったら、オマエ、今頃とっくにホテル連れ込まれてっからな?」

煙草を咥え、空いた手での頭をぐりぐりと撫でる。でもさすがのオレも、次の言葉までは予想できなかった。

「いいよ…」
「は?」
「悪い男になっても」

何を言われたのか分からず、煙草に火を付けようとした手が止まる。はふと顔を上げてオレを見つめると、もう一度「だから…行こ、ホテル」と、今度こそハッキリと言った。口からポロっと煙草が落ちる。でも、そんなことよりも。今の言葉に驚いて、「オマエなぁ…」と再び溜息が漏れた。

「まだ分かんねーの?簡単にそういう――」
「簡単に言ってない」
「あ?じゃあ、からかってんのかよ。そもそも誰でもいいとか言ってる女に誘われたって嬉しくもなんとも…」

と言いかけた唇に、いきなり柔らかいものが押しつけられて言葉を失う。それはちゅっと軽く音を立てて離れていった。

「…誰でもいいなんて、あんなの嘘だもん」
「……ってか、オマエ、今なにした――」
「修二がいい」
「……っ?」

真っすぐオレを見つめながらのその言葉は、思った以上に心を揺さぶられた。

「マジで言ってんのかよ」
「…うん」
「ホテルに行って、やっぱり嘘だったじゃ済まねえけど」
「…そんなこと言わない」

そう言って、はもう一度オレの手をぎゅっと握り締めた。そこまで言われれば、オレだって理性なんて簡単に崩れてしまう。寂しいから抱いて欲しいと言われたなら、きっとオレは煩悩を振り切って彼女を拒否してただろう。だけど、オレがいいと言ってくれたから。
もしかしたらオレも、こうやって誰かに求めて欲しいと思うくらいには、孤独だったのかもしれない。


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「…意外と綺麗」

その部屋に入って驚いた。新宿にある普通のシティホテル。まさか修二がこんなところに連れてきてくれるとは思わなかった。

「オレならその辺のラブホにするとでも思ったー?」

わたしが室内を見渡していると、修二は笑いながら室内の明かりを調整する。ウォールライトだけになったことで、窓の外のネオンがいっそう輝きを放っているように見えた。
修二は煙草に火をつけてベッドへ腰を下ろすと、着ていたジャケットを脱いで、傍にあるシングルソファに引っ掛けた。そんな彼に背を向けて、窓から新宿の街並みを見下ろす。この街はまだまだ、眠る気配すらないようだ。

「まあ…普通はそうじゃない?」

カチッとライターの音がして、少しすると煙草独特の香りが漂ってくる。煙草は吸わないけど、修二の煙草の香りは嫌いじゃない。

「どうでもいい遊びの女ならラブホ行ってたけどな」
「…何それ。わたしのことだって遊びでしょ?修二にしたら」

そう言って笑いながらも、「もしかして…仲間だから気を遣ってくれたわけ?」と振り返る。でも修二は意外にも真面目な顔で「んなわけねーじゃん」と吸っていた煙草を灰皿に押し潰した。

「こっち…こいよ」

そう言われてドキリとする。勢いであんな大胆なことを言ってしまったけれど、いざ部屋に入ると緊張してくるのを感じた。でも今更帰るとは言えない。さっきしっかりと釘を刺されてるし、言えるような空気でもない。
わたしは覚悟を決めて窓から離れると、修二の隣に座った。修二とは去年出会ってから、何度となく二人でご飯に行ったり、飲みに行ったりしたことはあったけど、こういう関係になったことはない。さっき思い切ってキスをしたのですら、初めてだった。だから余計に緊張してしまう。いいだけお酒を飲んで酔っ払っているはずなのに、さっきよりは頭の中がスッキリしてきた。

「…ひゃは♡ ひょっとして緊張してんの」
「そ…そりゃ…」

隣で固まってるわたしを見て、修二が笑う。ムッとして顔を反らすと、頭をくしゃりと撫でられた。

「うーそ、怒んなって」
「…バカにして」
「してねーよ」
「嘘、笑ってるじゃん」
「可愛いなーって思っただけ」
「………思ってもないことを」
「思ってるから言ってんだよ」

修二は手を伸ばして、わたしの頬に触れた。そのまま親指でくちびるに触れられて軽くなぞられると、ゾクリとしたものが背中を走る。小さくくちびるを開けば、自然な動作で修二に口づけられた。一度目は重ねただけですぐに離れ、視線を合わせられる。目の前にある修二の整った顔を直視できずに目を反らすと、追いかけるように再びキスをされた。

「…っ…ん、」

舌が差し込まれ、ゆっくりと口内をなぞっていく。擦るような動きにゾクゾクして、思わず修二のシャツを掴んでしまう。こうしてキスをするのは初めてだった。だからわたしの舌の動きはぎこちないはずだ。ココとはキスをしたことがないし、当然、他の男とこういう行為をしたことはない。さっき思い切って修二にしたのが、わたしのファーストキスになる。つま先立ちで、軽く触れただけのキス。たったそれだけでも、わたしはいっぱいいっぱいだった。

わたしの舌先を、修二は器用に絡めとった。ぬるりと表面を擦り合わせられるだけで、心臓が一際大きく跳ねる。意外にも強引さはなく、気持ちを少しずつ高めていくように、口内を舐めて唾液をからめていく。それが想像以上に気持ち良くて、次第に緊張して強張っていた身体から力が抜けていった。
遊んでるだろうなとは思っていたけど、修二のキスは巧みで、それだけで息が乱れてしまう。キスってこんなにも気持ちのいいものだったんだと、少しだけ驚かされた。
キスをしながら、修二の大きな手はわたしの髪を撫でている。それが凄く安心して、それだけで心が満たされていく気がした。

「………っ」

修二がわたしの背中を支えながら、ゆっくりと体を倒していく。ふわりとベッドの上に倒れ込んだ瞬間、アルコールでふわふわしていた頭がぐわんと揺れた気がした。

「平気か…?」

額をくっつけながら訊いてくる修二の瞳は、男の欲とは別に、少し心配そうに細められた。こういう時にそんな気遣いを見せてくれる人なんだと、また少し驚かされる。

「ん…大丈夫だよ…」

今のキスで息を乱したわたしの頬を、修二がそっと撫でていく。その手が思いのほか優しくて、少し泣きそうになった。
修二は耳朶に口付けながら、ノースリーブワンピースの背中のファスナーをゆっくりと下ろしていく。肌に外気が触れて、ドキドキが加速してきた。
流れるような動作で服を脱がされ、下着姿を修二の目に晒す。ココ以外の人に見られるのは初めてだから、恥ずかしさで思わず顔を背けた。

「やっぱ…は綺麗だな…」
「…な、何…?」
「いや…」

修二は薄っすら笑みを浮かべると、首筋に顔を埋めて軽く口づけてきた。その刺激で無意識に肩が跳ねる。こんな風に触れられのは久々で、それも初めての相手ということもあり、どういう振る舞いや反応が正しいのかも思い出せない。

(処女じゃあるまいし…)

と、内心自嘲気味に笑いながら、再び触れてくる修二のくちびるを受け止めた。キスをしながら肌を合わせるのが、こんなにも満たされるなんて、知らなかった。ココとは何度もセックスをしたのに、一度もキスをしたことがない。もしかしたら、それが埋められない寂しさを生んでいた原因の一つだったかもしれないと感じた。

「…どうした?」

ぎゅっとしがみつくと、修二はくちびるを放して、わたしの瞳を覗き込んでくる。互いの吐息が交わるほどの距離が、今は嬉しい。

「キス…」
「え?」
「…修二のキス、気持ちいい」
「……何だよ、急に」

修二はちょっと驚いたように目を見開いて、苦笑を零す。きっとわたしより経験のある修二なら気づいてるはずだ。

「わたしね…キスするの初めてなの。さっき、気づいたでしょ?」
「……まあ。ぎこちなかったしな」

修二はふと笑みを浮かべて、ちゅっとわたしの額にキスを落とした。

「意外だったし驚いたけど」

修二は多分、わたしとココの関係に気づいているはずだ。驚くのは無理もない。体の関係はあるのだから、普通ならキスくらいしてると思うだろう。

「ココとは…キスだけはしなかったから」
「……」
「理由…聞かないの?」

そう言いながら修二を見上げると、彼の瞳が薄っすら不機嫌そうに細められた。

「興味ねえ…つーか…こういう時に他の男の名前出すのルール違反」
「ご、ごめ……んっ…」

どこか怒ったようにキスをされて心臓が大きく跳ねた。さっきよりも少し強引なキスに、体が素直に反応して熱を帯びていく。散々わたしの口内を蹂躙したあと、修二のくちびるが首筋を辿って鎖骨へと触れた。そこへ舌を這わせながら、胸の谷間に下りてきた。さっきは不機嫌そうだったのに、その動きが繊細で勝手に体が反応してしまう。

「ん…」
「…嫌なこと全部、忘れさせてやるよ」
「…え…ぁっ」

ブラのホックを外して押し上げた修二は、露わになった胸の膨らみに乱暴に吸い付いた。乳頭を口へ含まれ、舌で転がされるだけでジンジンとした疼きが下腹部へ走る。それだけで、体の奥からとろりとしたものが溢れてくるのが分かった。修二は丁寧な愛撫を施し、わたしを感じさせてくれようとしてるみたいだ。それが伝わって、体以上に心が満たされるせいか、余計に反応が良くなってしまう。
修二はそれを見計らったかのように、太腿へ手を滑らせ、ショーツの上からやんわりと撫でてくる。その強い刺激に思わず漏れてしまった甘ったるい声が恥ずかしい。胸元から顔を上げた修二が、ふっと笑った気がした。

「…可愛い声」
「い、言わないでよ…そーいうこと…んっ」

修二の指が悪戯にショーツの上を撫でて、クロッチの部分をぐっと押してくる。ピンポイントで陰核に刺激を与えられ、ビクンと腰が跳ねてしまった。

「…んん…っ」

胸と同時に攻められ、さっき以上に声が跳ねてしまう。その間に、修二はショーツを下ろして足からいとも簡単に引き抜いた。その手で膝を割られ、恥ずかしさで閉じようとしたそれより早く、修二が脚の間に体を入れてくる。

「ダーメだって」
「ちょ…修二…?」

修二はベッドに膝立ちしたまま、着ていたシャツを一気に脱いで上半身を晒した。初めて見た修二の筋肉質な裸体に頬が熱くなる。細いのに引き締まった肉体が、やたらと男を感じさせるのだ。男の体なんてココや青宗のを見慣れてるはずなのに、やけに照れくさく感じた。

「隠すの禁止なー?」
「え、待っ…」

修二はわたしの膝を大きく開かせると、素早く自分の上半身をそこへ入れてしまった。恥ずかしい部分を修二の目に晒してるのかと思うと羞恥心で体に力が入る。

「や、やだ…見ないで…」

視線を感じて恥ずかしいはずなのに、その部分からはまた愛液が溢れてくるのを自覚した。

「何で?すげー綺麗なのに」
「…ゃ…ん…っ」

修二は濡れた部分を指で触れて刺激を与えてくる。それだけで足が跳ねるくらい感じてしまった。

、感じやすい…?」
「そ…んな…ことな…ぁ…っ」

敏感な部分に生暖かいぬるりとした感触。思わず声と腰が跳ねてしまった。何をされたのか気づいて、恥ずかしさで一気に血流が良くなり、顏に熱が集中していく。

「や…な…何…して…んんっ」

柔らかい舌が襞をかき分けながら動くたび、くちゅっとした淫猥な音が響き、更に潤みをましていくのがたまらなく恥ずかしい。なのに、体は勝手に押し上げられていく。
アルコールが入っている時は感度も良くなるという自覚はあったけど、今、感じているのはそれだけじゃない。ココしか知らない体でも分かる。修二の愛撫が巧みな上に、その見た目に反して死ぬほど優しいから翻弄されてしまうのだ。

「…んっ」

舌先で陰核を転がしながら、膣口へ指が差し込まれた。きゅうっとそこが収縮するのが自分でも分かる。修二は苦笑気味に「力抜けって」と言いながらも、濡れた芽にちゅっと口付ける。それだけで達してしまいそうになった。

「マジで可愛いな。こんなに締め付けちゃって」
「…や…違…」

言葉で攻められ、カッと頬が熱くなる。いつもはこんなじゃない。そう言いたいのに、体は素直に修二の愛撫に反応していた。ゆっくりと抜き差しされるだけで愛液がどんどん密度を増していく。すでに膨らみきった陰核を剥きだされ、舐めまわされる間、指の抽挿も止まらない。喘ぐ合間にやめて、と言葉にならない声を出しながらも、快楽の波がうねるように、すぐそこまで這い上がってきた。

「んん…ぁぁあっ…」

背中が反るくらいの快感が全身を貫き、身を震わせる。一気に上昇した熱で頭が軋むくらいにキーンと締め付けられる感じがした。

「…上手にイケたなー?」
「しゅ…じ…」

乱れた呼吸を整えてる間に、修二は準備を済ませたらしい。グッタリしているわたしに覆いかぶさってきた。

「オレも限界だし…挿れてい?」

まだ何もしてないのに、わたしと同じくらい呼吸を乱した修二は、すでに避妊具をつけた劣情を未だ快感に震えてる場所へ押し付けてくる。その硬さにぞくりとした瞬間、ぐぐっとそれがナカへ押し入ってきた。

「待っ…ぁ…あっ」

達したばかりでまだ波の収まっていない場所を、想像以上の質量で貫かれて、背中が反りかえる。

「…く…せま…」

たっぷりと濡らされた場所を押し開くように、修二のものが押し入ってくる。それだけで軽く達して体がぶるりと震えてしまった。

「おま…締め付けすぎ…入れただけでイクなって…オレまで持ってかれそ…」
「だ…だって…わたし…体おかし…いかも…」

ココのように、修二に愛情があるわけじゃないはずなのに、これまで感じたことのない快感に襲われて、自分でも制御きかないくらいに感じさせられている。

「…は…っ…嬉しいこと言ってくれるじゃん…」

そういう修二もさっき以上に息が乱れていて、いつもよりも表情が蕩けている気がした。わたしで感じてくれているのかと思うと、不思議と愛おしささえ湧いてくる。

「なら…もっと感じさせてやるよ…」
「え…ひゃ…」

言った瞬間、修二はわたしの膝裏に腕を入れて、一気に奥まで貫いてきた。淫らな水音が響いて、背中を反らせながら悲鳴のような嬌声が口から零れ落ちる。あまりに強い刺激に、アルコールで溺れた頭が一瞬、意識を飛ばしそうになった。なのに修二は抽挿しながらも、繋がってる部分へ手を伸ばし、剥かれて敏感になっている陰核を撫でて刺激を与えてくる。その絶え間ない快感に、わたしの限界がすぐにきてしまう。一度のセックスでこんなに達したのは初めてかもしれない。

「…は…やべぇ…かも…こんなんありかよ…」
「…な…何…んぁ…っあ」
のナカ…すげー…良すぎて…死にそう」

ストレートに褒められた恥ずかしさで、また快感の質が上がったみたいだ。恥ずかしいのに気持ちいいなんて、やっぱりおかしい。

「…まじーな、これ…」
「……ん…な、何…が…?…」

褒められたあとにマズいと言われてドキっとした。思わず聞き返すと、修二は顔を近づけてくちびるをちゅっと軽く啄んでくる。

「…に溺れそう…」

こつんと額を合わせて修二が苦笑するから、思わず「バカ…」と返してしまう。恋人同士でもない。まして愛し合ってるわけでも。
なのに抱き合ったことで、わたしと修二の間に見えない何かが生まれた気がした。会ってから随分と経ったけれど、この時、初めてお互いのことを分かり合えたのかもしれない。