彼氏×彼女

※軽めの匂わせ描写あり。



「あれ、真ちゃん、帰ってたのー?」

玄関のドアを開けた瞬間、大きな靴を見て顔を綻ばせながら声をかけた。どうやら今日は真ちゃんの方が早く仕事を終えたらしい。普段はわたしの方が早いから、帰って早々ふんわりと漂う夕飯の匂いにホっとするのは久しぶりな気がした。
真ちゃんの靴の隣に自分のヒールを揃えると、一日ぎゅうぎゅうに詰められてた指先がやっと息を吹き返した気がする。
軽く揉んで解したあと、すぐにキッチンへ向かうと、菜箸で麺をかき回しながら真ちゃんが「お帰り、」と喜色を浮かべた顔で笑った。

「ごめん。今日の当番、わたしなのに」
「いや、普段オレの方が遅いこと多いんだし、これくらい気にすんなって」

バッグとスマホをソファへ放り投げて、早速キッチンに立つ真ちゃんをバックハグすれば、腰に回した手をぎゅっと握ってくれる。こうしてくっつくとバイクのエンジンオイルの匂いがして、あー真ちゃんの匂いだぁ、とまた一つホっとした。

「どうした?帰宅早々甘えん坊?」
「だめ?」
「いや、嬉しいし可愛い」
「真ちゃん、相変わらずちょろい」

付き合う前、真ちゃんにしつこく告白しながら何度となく甘えてたら、まんまと惚れてくれたことを思い出す。まあこの裏技を教えてくれたのは真ちゃんの弟なんだけど。

「いいんだよ。可愛い子にはちょろくて」
「あ、じゃあ他の可愛い子にもそうなんだ」
「いてっ」

思わず脇腹をつねると真ちゃんは大げさに声を上げた。

「抓んなって。だいたい以外の子、可愛いとか思わねえもん、オレ」
「嘘ばっかり。付き合う前は色々な子に一目惚れしてたって万次郎くんが言ってたもん」
「あれはさぁ……若気の至りと言いますか……ってかフラれまくってたのだって知ってるだろ」

苦笑気味に言いながら真ちゃんは鍋の火を止めて、茹でた麺をざるにあけた。今日は冷やし中華らしい。綺麗に細切りにされた卵、キュウリ、ハムからもいい香りがしてくる。

「そりゃ知ってるけど……あの頃だっていつになったらわたしのこと口説いてくれるのかなぁって思ってたもん」
「はは、あの頃、は高校生だったし、さすがに社会人のオレが女子高生を口説くわけにはいかねぇよ」

そう、そうなのだ。わたしと真ちゃんが知り合った頃、彼はブラックドラゴンというチームの総長さんだった。
わたしが怖いお兄さんにナンパされて困ってたところへ、颯爽と現れたのが特攻服を着た真ちゃんだ。
ベタな話、わたしは自分を助けてくれた暴走族の総長さんに一目惚れをした。
でも彼が言った通り、「大人をからかうな」ってあっさりフラれて、真ちゃんはいつだってわたし以外の子を見てたっけ。

諦めの悪いわたしはそれでもめげずに、真ちゃんがチームを解散して始めたバイク屋さんにも通い詰めて、好き好きオーラを出しまくってたのは今でもいい思い出だ。
そんな真ちゃんがわたしに恋をしてくれたのは、わたしが高校を卒業して今の会社に就職が決まった頃だった。
仕事が終わって会社を出た時、真ちゃんが愛機で迎えに来てくれた日のことは、一生忘れないと思う。
思い出しながら言ったら、真ちゃんは麺を水で冷やしながらもかすかに笑ったようだった。

「あーあん時はさぁ。マンジローとかワカに"今ちゃんを捕まえとかないと一生後悔するぞ!"って脅されたんだよなぁ」
「え、それ初耳なんだけど」
「言ってねえもん。だって自発的じゃなかったの?って、怒りそうだと思ったし」
「う……確かに今ちょっとショック受けてる、かも」

自分の意志じゃなかったのか、と思いつつ、拗ねたように言えば、真ちゃんは目に見えて焦り出した。ちょっと可愛い。

「いや、でもオレだって会うたび好きだって言ってくれるの気持ちは嬉しかったし、気づけばオマエのこと考えるようになってたし、もちろん可愛い子だなとは最初から思ってたわけで。だからこんなオレでもいいのかなって考えて迷ってたんだよ。そこをマンジロー達に背中押されたってだけ」
「ふーん……でも迷ってたんだ」
「そりゃ……それまで付き合えないとか言ってたくせにって思われそうだし」
「そんなの思わないもん。わたしの想いがやっと届いたって嬉しかったし」

ぎゅうっとお腹に回した腕の力を入れると、真ちゃんは苦しいって笑った。
あの頃は色々あったけど、今こうして初恋の人だった真ちゃんと同棲できてることじたい夢みたいだから何でもいい。

「ごめん。オレ、そういうとこ情けねえんだよな。男相手だとズバっといけるのに」

怒ってる?と聞くから「ちょっとだけ」と嘘をついたのは、わたしがこういうと真ちゃんがわたわた焦る姿が可愛いからだ。

「でも許してあげてもいいよ」

言いながらお腹に回してた手をTシャツの中へ滑り込ませると、「おいっ何触ってんの」と更に焦り出した。

「ダメだって」
「何で?」
「何でって……ちょ、どこ触ってんだよ」

腹筋をすりすりしながら、手のひらを滑らせて更にその下へと触れていく。穿いてるズボンの上から下腹辺りを撫でると「……の触り方エロい」と苦笑された。だってエロい気分になって欲しいんだもん、と返すと「せっかく夕飯作り終えたのにー」と腹筋に触れていたもう片方の手を掴まれてしまった。
だから下腹に置いた手を徐々に下げて、ズボン越しにわたしが望んでるものをつつく。それだけで厭らしく熱を帯びてぐぐっと膨らみだしたそこは、期待してるかのようにどんどん硬さを増していった。

「あー勃っちまったじゃん……」
「ご飯より真ちゃんを下さいな」
「……いくらでも」

遂に諦めたらしい。真ちゃんは手にしていた菜箸を置くと、わたしの方へ振り向いた。と思ったら覆いかぶさるようにキスを仕掛けながら、わたしのスカートのファスナーをゆっくりと下げていく。すとんと足元に落ちたスカートを足首から外すと、真ちゃんの指がショーツの上から形をなぞるように動く。何度も往復する焦らすような動きは、さっきのお返しのつもりかもしれない。
小さく漏れる喘ぎを飲み込むようなキスをしながら、真ちゃんはショーツを片寄せ、直に陰部へ指を滑らせた。ぬる、とした感触は自分でも分かるくらい、その場所はとろとろになってるようだ。

「いっぱい濡れてんのかわい」

キスの合間に真ちゃんがうっとりした顔で呟く。その綺麗な顔に男の欲を灯すから、ジリジリとした熱が体内に巡って、また奥から溢れてくるのがちょっとだけ恥ずかしくなった。体の方はすっかり真ちゃんを受け入れる準備が出来ている。

「もう欲しいの?」
「……うん、欲しい」

すっかり勃ちあがった部分を指で刺激しておねだりすると、真ちゃんも興奮したようにわたしの太腿を持ち上げる。ジッパーを下ろしてあげると、昂ったものが勢いよく飛び出してきた。何だかんだ真ちゃんの方も準備万端らしい。

「真ちゃん、好き。愛してる」

キスを交わす合間に伝えると、真ちゃんはふっと笑みを浮かべて「オレも。を愛してる」と言ってくれるのが嬉しい。
だけど次の言葉に一瞬だけ息を呑んだ。

「だから――オレと結婚して」

え、と思った時にはずぷ、と一気に奥まで突き上げられて、同時に塞がれた唇の合間からくぐもった喘ぎが漏れた。そのあとは考える余裕もないくらいに揺らされて、イカされて、結局、夕飯にありつけたのはそれから二時間後だった。

綺麗に盛り付けられた冷やし中華を二人で食べていると、不意に真ちゃんがわたしをジっと見つめてくる。
またしたいの?ってふざけて聞いたら、デコピンされて「オマエの返事は?」とスネたように睨んできた。
そんなの聞かなくたって、わたしの答えなんか最初から決まってるというのに、真ちゃんはちっとも分かってない。
いっそのこと焦らしてから振ってやるのも手かもね。昔わたしが散々されたみたいに。
だけど、真ちゃんの緊張した顔を見てたらそんな気持ちすら萎んでいく。やめた。振るなんてもったいない。

「わたしを真ちゃんのお嫁さんにして」

一番最初にそうプロポーズをしたのはわたしだ。わたしの全てを守ってくれる人と、結婚したいと思った。
何もかも、あげたかった。
だから敢えて同じ言葉を口にすると、真ちゃんは泣きそうな顔でわたしを抱きしめた。

「うん。お嫁さんになって」

どうやらわたしの初恋は、長い年月を得てやっと叶ったらしい。

 



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