✿先輩×後輩×夏油✿
私の可愛い後輩、が、親友の悟と付き合いだしたと聞いた時、ちょっとだけ彼女のことが心配になった。
悟は呪術師としては優秀なのだが、異性に対して優しいとはお世辞にも言えない。言葉も辛辣で相手を傷つけることが多々ある男だからだ。
まあ以前からに対してだけは、過剰に可愛がってる節もあるが、悟のことだから釣った魚に餌はやらないという典型的なクズ彼氏になってる可能性もある。あの可愛いが悟に冷たくあしらわれて泣いてるなら、私が先輩として慰めてあげなければ。ふとそう思った。別にそれにつて他意はないし、当然やましい気持ちもない。
そんなことを思っていたら、偶然と廊下で出くわした。互いにちょうど一人、ということで、早速声をかけてを娯楽室へと誘う。
先輩らしく彼女の好きなジュースを傲ってあげると、はいつもの陽だまりみたいな可愛い笑顔を浮かべて「ありがとう、夏油先輩」とお礼を言ってきた。
何ともほっこりさせられる。
娯楽室にあるソファに並んで座ると、そこでさり気くなく「悟とはその後どうだい?何か困ってることはないのかな」と尋ねてみる。見たところ何かに悩んでるようには見えなかったものの、悟の名前を出すと、の顏が僅かに曇った。その顏を見てピンときた私は、「何か悩みでもあるなら聞くよ」と優しく微笑みかけてみる。
するとは可愛く小首を傾げながら「悩み…というか…ちょっと困ってるくらいで」と前置きをしたあとで、その白いモチモチした頬を薄っすら赤く染めた。
「五条先輩はいつもわたしを大切にしてくれるし、最近は甘やかされすぎだって七海くんに叱られるんで、五条先輩にも甘やかさないでって言ってるんですけど…」
「……え、そうなの?あの悟が…優しい?」
「はい…すっごく優しいです」
まさか、と耳を疑う。あの悟が女の子にそこまでの優しさを見せて、かつベタベタに甘やかしてるなんて、私では全く想像できない。だからに聞いてみた。
「ちなみに…優しい、とはどういう感じなのかな」
私の問いに更に頬を赤らめたは「え、ど、どういうって言われても…」と恥ずかしそうに俯いた。それが普通に可愛い。
「えっと…毎日必ず任務に出た時は心配だって電話をくれるし、メールも三十分置きにしてくれて、帰りは自分の任務を早く終わらせて迎えに来てくれるんです」
「………へえ。そうなんだ」
そう言われると悟は最近やたらと時間を巻きたがり、サッサと祓ってサッサと帰りたがることが増えた。それもこれも全てを迎えに行くためだったのか、と若干私の口元が引きつる。
「あとは…食堂で一緒にご飯を食べる時もお茶を運んで来てくれたり、割りばしを割って棘をとってくれたり、あと、わたしの好きなプリンがデザートにあった時は他の人にとられないようキープしててくれるし、たまに"あ~ん"って食べさせてくれます」
「……そ…れは…意外だな…実に…意外だ…」
「あ、それと一緒にお出かけした時はずっと手を繋いでてくれるし、絶対道路側にわたしを歩かせないように気を配ってくれるし、コケそうになったらすぐ助けてくれるし、好きなスイーツいっぱい食べさせてくれるし、口元についたクリームも舐めてくれるし…って、何かわたし変なこと言っちゃってますね。夏油先輩に」
「い、いや…かまわないよ。私が聞いたんだから……」
私の脳内に存在しない悟がいる現実に打ちのめされていると、は「あ、あとは…」と、言葉を続ける。まだ惚気るつもりのようだ。
「この前はお腹痛くて任務休んでたら、すぐ気づいて部屋に来てくれて、硝子先輩からお薬もらってきてくれて、ずっとお腹さすってくれました」
「………(もはやスパダリ大渋滞がすぎる)」
「あ、あと、この間は――」
「まだあるの…?」
この子は放っておけば延々と惚気そうだな、とさすがの私も頬が引きつっていく。だいたい悟にそんなスパダリとしてのスキルがあったとは、この私でさえ予想もしていなかった。
と、そこへ「惚れた子の看病すんのは当然だろ」と聞きなれた声。ふと顔を上げるといつの間に来たのか、入口のところに悟が寄り掛かって笑みを浮かべている。
さては途中からこっそり聞いていたな?
「五条先輩!お帰りなさい!」
「ただいまー。んー今日もは可愛いなー」
「ひゃ」
悟は早速駆け寄って来たを抱き上げて、いつものように頬へ擬音付きのキスをしながら、満足そうに頬ずりまでしている。まるで仔猫を愛でる飼い主だ。
「んで?傑と二人きりで何話してたんだよ」
「えっ!あ、あの…五条先輩の優しいとことか…」
「ふーん?そーなんだ」
悟は私をジロリと睨んでいたが――嫉妬されたようだ――彼女の言葉を聞いた途端に顔を緩めて真っ赤になってるを見つめだした。悟でもそんな甘い顔が出来るとは、何とも意外すぎて苦笑しか出ない。
「あ、あの…」
「ん?」
「いつも大事にしてくれて…ありがとね、先輩」
「………クッソ可愛い」
「っ?!」
「ちゅーしてい?」
「ちょ、こ、ここじゃ…ちょっと――」
恥ずかしがるを無視して、強引にキスをしようとする悟に、私は盛大な溜息を吐いた。これがなければ100点なんだがな。
「悟…」
「あ?」
「0点」
「あ?何でだよ!ここは普通にちゅーしていいとこだろ」
どうどうセクハラ宣言をする悟に「公の場ですることじゃないだろ」と諭したところで聞く耳を持つはずもなく。結局は自分のしたいようにをキス攻めにしはじめた。散々その小さな唇を堪能したあと――ちょっと羨ましいが――悟はソファへ座り、彼女を膝の上に抱っこした。
「今日はどんな映画観る?あ、それともまたゲームする?今度はゾンビ撃ちまくるやつとか」
「え、ゾ、ゾンビはちょっと…」
「オマエ、呪術師なのにゾンビ怖いのかよ」
「う…だ、だって…」
「そーいうとこもかわいーけど」
悟のデレた発言に、ぷしゅーっという音が聞こえそうなほど、の顏が真っ赤になって、それを見た悟がまたデレ始めた。
まあ、私が心配したことはなさそうだ、と、そこは気を利かせて娯楽室をそっとあとにする。
あの様子じゃ今夜もまた、はべたべたに甘やかされて過ごすんだろう。心配損とはまさにこのことだ。
「……私も彼女作るかな」
親友のデレた姿を見せつけられたら、少しの対抗心が沸いたのは、悟には内緒にしておこう。

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