✿先輩×後輩✿


今月は「死ぬかと思ったほど疲れた」の一言で済んでしまうくらい、忙しかったと言っても過言ではない。
まず傑と東北出張から始まり、戻って来たら来たで今度は二人で南国の島、沖縄へ飛んだまでは、まだ元気だった。
「なんくるないさー」と軽ーく島のあちこちに沸いてた呪霊をフルボッコのボッコボコにして、使えそうなのは傑に取り込ませ、「ストック増えたし良かったなー」ってなもんで、再び東京へ。
でもそのあとくらいから雲行きが怪しくなり、「ああ、すみません、五条くん、夏油くん。次は北海道ですね」とさらりと言ってきた刈り上げヘアの補助監督から笑顔で飛行機のチケットを渡された時は、軽く殺意が沸いた。

この時点で一週間はと顔を合わせていない。これはハッキリ言って俺にとっての拷問に等しかった。だから移動中の電話は欠かせないのに、あまり長話をしてると後ろで『任務中に電話でイチャイチャしないで下さい』と七海に叱られ、あげく勝手に電話を切られる始末。(※いつかシバく)
仕方ないので今度はメール攻撃をしてハートを送りまくってたら、七海のケータイから速攻で激おこデコメールが送られてきた。(※デコはがプレゼントしたらしい)
あまりにガードが堅い後輩を持つと、好きな子とコミュニケーションすら取れなくなるという地獄を知る。

そんな状態なのに任務は待ってもくれず、祓っても祓っても、帰校すればすぐに刈り上げ野郎が次の地へ向かうチケットを笑顔で渡してくるんだから、純粋な殺意が止まらない。
いい加減、腹が立ち「あの刈り上げ殺っちゃってい?」と傑に笑顔で聞いたら、「ダメだよ、悟。刈り上げなんて呼び方したら」と呆れ顔で溜息を吐かれたが、え、注意するとこ、そこ?ってなった。きっと傑もこの激務で頭が回らなくなってたんだろう。激しく同情する。

青森、秋田、千葉、静岡、栃木、宮城などなど。まあ来る日も来る日も移動、移動、祓う、祓う、と社畜のように呪いを祓い続けて三千里。
そろそろ呪術界というブラック企業を木っ端微塵に消してやろうか…と思い始めた頃。遂にその鬼任務にも打ち止めとなる日がやってきた。

後半はすでに精神的な疲労と、あとはホテルでの寝泊まり続きで肉体的な疲れも蓄積。すでにフラフラになりながら帰校した時、刈り上げに「次は…どこ?」と無意識に聞いてる俺がいた。
どうせまた新幹線か飛行機のチケットを渡してくるんだろう。そう思いながら訪ねたわけだけど、何故か刈り上げは何も渡してこない。ん?と思ったら「今日と明日は都内で三件ほどですね」と爽やかな笑顔で微笑まれた。彼が恵比須様に見えた瞬間だ。
ついじょりじょりとした刈り上げを撫でてやりたくなったのは俺だけじゃない。ちょっとやつれ気味だった傑も一緒になってじょりじょりしてたから、精神的におかしくなってたんだろう。ガタイのいい男二人に自慢の刈り上げをじょりじょりされた補助監督は「ひいっ」と心底ビビってたけど。

かくして激務から解放された俺は速攻でにそのことをメールしておいた。すると「じゃあ今夜は会えますね!先輩の好きなお菓子と飲み物用意しておきます」と、どでかいハートがいっぱいのデコメを送ってくれた。い奴、と思いながら「パっと祓ってすぐ帰る」とキスマークを返しておく。
それからは早かった。あちこち地方へ飛ばされるより、都内を移動する方がまだ楽だし早い。に会いたいという煮えたぎった思いを抱えながら、呪いをバチボコにシバいて、都会の藻屑にしてやると、迎えの車を飛ばしてもらって、の待つ高専へと帰校した。

「五条先輩、お帰りなさい!一カ月お疲れ様でした」

任務報告も適当に済ませると、すぐにの待つ部屋へと走った。部屋から顔を覗かせた彼女を見た瞬間、俺の心臓がぎゅうとおかしな音を立てたくらい、その場で脱力してしまった。

「…………ただいまぁ、ー」

刈り上げの無茶ぶりのような任務振り分けでクタクタだったけど、の顔を見た瞬間、その怒り、という名の呪いがあっという間に浄化して溶けていく。
は心底嬉しそうな笑顔を見せたであろう俺を見上げて、これまた満面の可愛らしい笑顔を見せてくれた。まるで向日葵のような笑顔だ。

「…会いたかった」
「ひゃ、ご、五条先輩…?お、重たい…」

つい小柄なに倒れるように抱き着けば、そんな可愛い苦情をもらった。
とりあえずを潰したら困るし部屋に入れてもらって、フラフラの体で小さなベッドへ倒れ込むと、はキンキンに冷えたコーラをグラスに注いで出してくれる。なんて気が利くんだと思いつつ、今は喉を潤すより、心を潤したい。その想いだけで彼女の小さな手を引いた。

「あー…癒される」

いつものようにを膝の上に抱えると、ぎゅううぅっと腕の中へ閉じ込めて、すん、と彼女の匂いを堪能する。今日ばかりはも「苦しい」とは言わず、黙って俺に吸われてくれるようだ。ジっとして「わたしも癒されてます」なんて可愛いことを言ってくるから、そのモチモチ頬っぺもちゅうっと吸っておく。

「…はぁ、このまま溶けそうなくらい幸せだわ」
「えっダ、ダメです。五条先輩が溶けたら困る…」
「俺も困る…溶けたら抱っこ出来なくなるし」
「…ふふ。五条先輩、今日は甘えん坊」
「…もっと甘えてい?」
「…は、はい」

僅かに顔を離して鼻先をくっつけると、が照れ臭そうにしながらも、可愛い笑顔で頷いてくれる。その小さな鼻にちゅっとキスをして、ぷるぷるの唇にもちゅ、とキスをすれば、真っ白な頬がほんのりと色づくのがたまらない。
誰だよ、こんな可愛い生き物つくったの。

「かわい。このまま食べちゃいたいわ」
「…えっ…ひゃ」

の唇をかぷっと食んで軽く吸えば、じわじわと顔全体が赤く染まっていく。きゅるん、とした可愛い顔が俺を見上げてくるのが暴力的な可愛さで、目も潤んでるから、こんな顔を見てたら例の「辛抱たまらん」タイムに突入しそうになった。

「もっとちゅーしていい?」
「…ご、五条先輩…何か…えっちな顔になってる」
「大好きな子を抱っこしてたら、男はみーんな、こういう顔になんの」
「え…」

ボっと音がしたんでは、と思うくらい、の顔やら耳まで真っ赤に染まるの見てたら、さっきから疼いてた腰の辺りがヤバいことになった。この一カ月、疲労困憊でうんともすんとも言わなかった俺のアレが嘘のように蘇りを果たしたようだ。
やっぱり疲れた体にはという癒しが一番効果的らしい。
もろもろ我慢すんのはデフォルトだけど、とりあえず今夜は好きなだけを愛でることにしよう。




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