先輩×後輩
りんりんりん、と風鈴の涼やかな音色が部屋に響く中、スースーと気持ち良さそうな寝息を立てる彼女。
その寝顔を飽きることなく見つめていたら、俺も小さな欠伸が洩れた。
窓から入るそよ風と風鈴の音色、そして部屋の隅に置かれた豚の置き物の中で焚かれてる、ミニミニ蚊取り線香の匂いがプラスされると確実に睡魔が襲ってくる不思議。
風鈴はが自分の分を買ったついでに俺にも買ってきてくれたものだ。
「見て、五条先輩!可愛いでしょ」
なんて言ってくるが可愛かったから、何も考えずに受け取って飾ったし、「蚊にくわれたー」と、傑に愚痴ってたら、それを聞いてたが俺の為にと蚊取り線香専用の豚さんを持って来てくれた。
「先輩!これがあれば夜に窓を開けて網戸のまま寝ても大丈夫です」
と可愛い笑顔で豚さんを差し出すから、ついつい受けとってしまった。可愛い彼女からの気遣いを無下にできるはずがない。
まあ寮の部屋は狭いから、ミニサイズの蚊取り線香を渡された時は正直ホっとしたけど。
で、今日は久しぶりに一緒の休みがとれたから、早起きしてと出かけようと思ったのに、彼女は「お部屋デートがしたい」と言いだして、その理由がまた可愛すぎた。
「五条先輩と部屋でゴロゴロしながらくっついてたいから」なーんて言われてしまえば、こっそり予約しておいた映画館のプラチナルームも速攻でキャンセル案件となったけどかまわない。
俺だってと二人きりで過ごせる部屋でのデートは好きだし、こうして可愛い寝顔まで見られるんだから言うことなし。
まあ理性を保たなければいけない、という男ならではの苦悩がある点を除けば、最高な休日だと思う。
食堂で一緒に朝ご飯を食べて、そのあとは二人で手を繋ぎながら近くのコンビニへ行った。
そこで夏の風物詩、ラムネが売ってたから、の好きなお菓子と共に買い込む。子供が好きそうなものは大抵も好きだから、案の定彼女は「ラムネだ!」と大喜びだった。クソ、可愛いな。
「だいぶ夏っぽい商品が出てきたなー」
と思ったところで、レジの前にはやっぱり夏らしい花火も置いてある。
「わーこれ種類がいっぱい」
「これも買う?」
「え、いいの?」
「当たり前だろ。夜になったらみんな誘ってやろうぜ」
「うん」
どうせ傑も硝子も、ついでに七海や灰原だって「おひとりさま」組は暇だろうし、可哀そうだから花火でも誘ってやろう。
みんなでやるなら、と色んな種類の中から大袋のものを三つほど買って、俺とは高専へと戻った。
そのまますぐに俺の部屋へ来たけど、特に何をするでもなく。
ただを膝に抱っこしながら、普段は殆ど見ないテレビ番組を見たり、飽きたら任務で起きた出来事を面白おかしく聞かせたり。そんな他愛もない時間を二人で過ごした。
でも気づけばはうつらうつらと頭を揺らしてたから、起こさないようベッドへ寝かせたところだ。
仔猫みたいに小柄なは、俺のサイズに合わせた特注ベッドの上でスヤスヤと眠ってる。寝顔を延々見てても飽きないのすげえ。
猫を愛でるように和らかい髪を撫でてると、時々小さな唇がむにゃむにゃ言うから、俺の顔が誰にも見せられないほど緩んでいく。
この時間が得られるなら、例え俺の部屋が蚊取り線香臭くなろうが、窓を開けるたびりんりんと無遠慮な音色が鳴ろうが、一向にかまわない。
起こさないようオデコに唇を寄せる。窓から入る日差しの中で眠るの髪からは、ふわりと夏の柔らかい陽だまりの匂いがした。
ちゅっと軽く触れるだけのキスをオデコに落とせば、頬をふにゅっと緩ませながら「ごじょ……せんぱぃだい……すき」という可愛い寝言を呟く。
え、この可愛い生き物をどうしてくれよう。
「俺もが大好きなんだけど」
頬にかかった髪を指で避けながら、柔らかいモチモチほっぺと小さな唇にもちゅ、と口づける。静かなこの空間がやけに幸せを感じさせてくれて、だんだんと心地のいい睡魔に襲われた。
顔を寄せ合いながら、穏やかな陽だまりの中で眠る。
目が覚めたら、次はと何をして遊ぼうか。
そんなことを考えていたら、 夏の太陽が二人の合間に沈んでいた。

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