✿彼氏×彼女✿



梅雨も早くから明けて寝苦しい夜がやってきた。
蘭ちゃんも竜ちゃんも暑がりだから、当然寝る間もクーラーは通常運転。少し寒いくらいの温度に設定してあった。キンキンに冷やした部屋でタオルケットに包まって眠るのが好きらしい。
私も地味に暑がりだから、二人に散々可愛がられたあと、同じようにして眠りについた。
なのに――夜中、暑くて目が覚めた。

「うーん……あっつぃ……」

吸い込む空気は冷んやりしてるのに、何故か私の体だけがポカポカ。ついでに首筋辺りや背中もしっとり汗ばんでいる。この感覚が嫌いな私は不快感で目が覚めたらしい。
何事かと目を開けたら、寝る時は少し離れて寝てたはずの蘭ちゃんと竜ちゃんが私にぴったりくっついていた。

「もぉ……また?」

普段からベタベタにくっついてくる二人だけど、さすがに夏の間は離れて寝ようって提案した。

「「は?やだし」」

……と見事にハモりで苦情を言われたけど、どうにか説得をして、互いの体温が届かない距離で寝ることになった。
だから平和に私が真ん中で川の字になって寝てたはずなのに、気づけば通常運転に戻ったらしい。
蘭ちゃんは私の方へ体を向けてシレっとした様子で腕枕をしてる。竜ちゃんは竜ちゃんで私を抱き枕のように体を抱き寄せていて、ついでにお腹には足が乗っていた。
どおりでちょっと苦しいはずだ。前から注意してるのに、この癖は直らないらしい。
いや、竜ちゃんの足の重さより、今は暑い方が問題だ。二人分の体温で温められた私の体感温度はすでに30度くらいの感覚で寝苦しいったらない。

「ねぇ蘭ちゃん、暑い」
「……ん-」

まずは蘭ちゃんの腕枕を外して体を揺さぶってみる。でも寝起きが悪い蘭ちゃんは当然、すぐには起きてくれない。仕方ないと、今度は体をぐっと押してみたけど、ころんと仰向けになるだけで距離はあまり出来なかった。
だいたいキングサイズの広いベッドなのに何で真ん中に密集して寝てるんだ。

「蘭ちゃん、もう少しそっちに移動してよ」

もう一度声をかけながら体を押す。でもさすがにビクともしない。スヤスヤと気持ち良さそうに寝てる顔を見てたら、だんだん憎たらしくなってきた。私だって眠いのに。
今度はもう少し強めにグイグイと体を押してみたら、さすがに「んー……」と声を上げて寝返りを打つ。でもまた元の位置に戻っただけで、私は「もう、蘭ちゃん暑いってば」と文句を言った。
ついでにお腹の上に乗ったままの竜ちゃんの足を持って下ろす。その瞬間だった。
蘭ちゃんの腕が伸びてグイっと引っ張られた私は、元の場所に寝かされてしまった。

「ひゃ」
「……~……何してんのぉー……?」

蘭ちゃんは寝ぼけた様子でぽやぽやと口を開く。目は瞑ったままだから起きてるかどうかも怪しい。「だって暑いんだもん」と苦情を言っても、ふにゃりと口元を緩めて「かわいー……」と笑うだけ。
これは絶対寝ぼけてるなと思ったら、綺麗な顔が近づいてきてこめかみにちゅうっと吸いつかれた。ついでに腰を抱き寄せられ、更に密着。う、暑い。
もう、これはどうすれば……と思ってたら、一度は外した竜ちゃんの足がまた私のお腹へ乗った。同時に竜ちゃんの腕が伸びて、蘭ちゃんと同じように腰に巻き付いてくる。さっき以上にくっついてきた二人分の体温を、私が独り占めしてる状態にされてしまった。

「もー……暑いって言ってるのに何でくっつくかな……」

今では首元に擦り寄ってくる蘭ちゃんと、私の肩にオデコをくっつけて眠る竜ちゃん。
これが冬ならあったかくて幸せなのだけど、暑い夏ならちょっとだけツラい。

「んー…………好きー……」

今度は竜ちゃんが寝ぼけた様子でむにゃむにゃ言ってくる。
その寝言がちょっと可愛いと思っていると、ふわぁっと大きな欠伸が出た。ついでに涙も。

「……ま、いっか」

結局、暑さよりも睡魔に負けた私は、蘭ちゃんと竜ちゃんに抱きしめられながら目を瞑る。
今ではかけてたタオルケットも蹴飛ばしてしまった。おかげでクーラーの風がそよそよと直に肌へ下りてくるのが、ちょっとだけ心地がいい。
涼しい風を受けながら大好きな二人の熱を感じて眠るのも、それはそれで悪くはない気がした。



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