✿彼氏×彼女✿
真新しいカーテンに家具、食器、家電製品。何とも贅沢な空間だけど、春千夜がいないとやっぱりつまんない。
「…撃たねえのかよ」
久しぶりに帰宅した春千夜に護身用の銃を向けても彼は表情一つ変えない。修羅場をいくつも乗り越えて来た梵天のナンバー2さまには、これくらいの脅しじゃ効果がないようだ。
「もっと驚いてよー春千夜」
「…驚いて欲しけりゃ本気で引き金を引くべきだったな」
「つまんなーい」
肩を竦めて手にしていた銃をソファに放り投げる。もちろん弾は最初から入れてない。春千夜も分かってたんだろうけど。
彼は苦笑交じりで銃を拾うと、それを元の場所へときっちりしまった。普段は粗暴で口も態度も悪いくせに、こういう几帳面なところも、この三途春千夜という男なのだ。
我慢も限界で春千夜に抱き着くと、あやすように頭を撫でられた。子供扱いされるのは嫌いだけど、この優しい手は大好きだから春千夜の胸に顔を埋めて猫のように甘えた。もしかしたら喉がぐるぐる鳴ってるかもしれないなーなんてバカなことを考える。
「もし本気で撃ってたら、春千夜はわたしを殺すでしょ」
「…殺さねえよ」
「…うーそ。すぐスクラップ行きだよ。梵天のナンバー2を撃ったりしたら」
「バカか…オマエになら撃たれてもいいって前に言わなかったっけ」
「あんなの、わたしをここに閉じ込めておく為の方便だもん」
春千夜を見上げると呆れたように目を細めてる。何かムカつくから、唇にちゅうっと吸い付いてやった。そうすると春千夜も優しいキスを返してくれるけど、それは触れるだけで離れていってしまうから、少し寂しい。
「また子供扱いするんだ」
「してねえよ」
「…キス以外のことも…していいのに」
春千夜の首に腕を回して誘っても、彼はいつだって視線を反らす。わたしのことを閉じ込めるくらい大切にしてくれてるのに、触れようともしないんだから嫌になる。
ぎゅうっと首に抱き着いたわたしを引きはがすと、春千夜は壊れ物を扱うみたいにそっと優しく抱き上げた。
「あ、やっとその気になった?」
「…バカか。そんな眠そうな顔で言われてもな」
春千夜は苦笑交じりで言いながらわたしを寝室へ運ぶと、キングサイズのベッドへ抱き上げた時と同じように優しく寝かせてくれた。そんな余裕の顔を見てたら、もっと困らせてやりたくなる。
離れて行こうとする彼の腕を引っ張れば、バランスを崩した春千夜がわたしの上に倒れ込む。でもわたしを潰さないように両腕をベッドへ置いて体を支えていた。
「っぶねえな…もう少しで潰すとこだろが」
「潰してよ」
「……あのな。オマエを傷つけたくねえからオレは――」
「ここに閉じ込めたの…?」
自分から逃げないようにって意味じゃなく――わたしは逃げる気ないし――危険な目に合わせないように守ってくれてるのは薄々気づいてた。春千夜は昔からそういうところがあったから。
誰の目にも触れさせず、自分だけの視界に入れておきたい。
春千夜はそういう危ない男だけど、わたしは彼のそういうところが昔から大好きだった。わたしも危ない女かも。
「春ちゃん…わたし達はもう中学生じゃないんだよ」
「…あ?んなの分かってるよ。つーか、だったら昔みたいな呼び方すんじゃねえ。ガキじゃねーんだから」
「そうだね。もう二十代だし、あの頃よりおっぱいも大きくなったんだよ」
「……はいはい」
「触ってみる?」
そっぽを向いてる春千夜の頬を手で包んで自分の方へ向けると、意外にも色白の頬が薄っすら赤くなってた。その顏を見た瞬間、わたしの方がドキッとして、じわりと頬に熱を持つ。
これまで何度誘惑してもスルーしてきたくせに、今そんな顔をするのはズルい。
しばし見つめ合ってたら自然と春千夜の唇が下りてきて、わたしのと重なる。でもいつもの触れるだけのキスじゃなくて、ちょっと深めのエッチなキスをされてしまった。
舌を差し込んで優しく絡めたり、吸ったり、口蓋を舐めたり、春千夜の舌は動きまでが優しいのに、わたしの口の中を味わうみたいに愛撫するから、自然と息も乱れていく。
どういう心境の変化なのか分かんないけど、このチャンスを逃さないとばかりに春千夜の手を胸の膨らみへ誘導したら、お返しとばかりに太腿に硬いモノを押し付けられてしまった。
「…あー我慢も限界…勃った」
「責任とるもん」
「はぁ…こうなる前にいつも逃げてたのに意味ねぇー…」
「む…だから何で逃げる必要あるの?」
わたしのこと大好きなくせに、何で抱いてくれないんだろう。それがずっと疑問だった。
春千夜はふと項垂れてた顔を上げて、その大きな瞳をすっと細めた。男の欲を多分に孕んだ春千夜の瞳は、美しい獣みたいだ。
「に一度触れたら…もう止めらんねぇからだよ」
「…う」
「散々オレを煽ったこと、後悔しても知らねぇからな」
どうやら春千夜の中のオスを完全に目覚めさせてしまったらしい――。
このあと散々抱き潰されて、朝まで啼かされたわたしは、ちょっとだけ煽り過ぎたことを本当に後悔する羽目になった。
「……春千夜。そろそろ放して。わたしコンビニ行きたい…喉乾いた」
「あ?行かせるわけねえだろ。まだ足りねえ」
「もー…七回もしてるのに何でそんなに元気なの…?」
「んなの今まで散々我慢してきたからに決まってんだろ。あと三回はヤれる」
「………」
そろそろ疲れて欲しい、と切実に思ったのは、春ちゃんには秘密にしておこう。

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