EXTRA STORY. 知っていますか、私がどれだけあなたを好きかという事を 






キラがこの世から消えて、と二人、この土地に帰って来てから、もう1年になった。
あれから、めまぐるしい日々を過ごし、1年という月日など感じないくらいの毎日を送りながら、今日という日を迎える―――




「…キラの命日、か」


カレンダーを見ながら、ふと呟く。あの男の、最期の断末魔が、今でも目を瞑れば鮮明に思い出せる。
1年という時間では、あの命を懸けた戦いが遠い記憶となることもない。
それでも、あの恐ろしいキラ事件は世間の奴らから忘れ去られようとしている。
キラは死んだと唱える者、いや今は休んでいるだけだ、と信じ続けている者。そんなインターネット上での討論も最近ではサッパリ見かけなくなった。
人間なんてそんなものだ。目新しいものに興味を抱き、過去の異物への興味は少しづつ薄れていく。
いつもの日常を取り戻し、忙しい日々に追われ、過去に世間を騒がせた殺人鬼の事など、綺麗に忘れていく生き物だ。
当事者であるオレ達を除いて―――



―――その時、外から明るい声が聞こえてきて、オレはカレンダーから視線を外し窓の外を覗いた。
庭先ではハウスの子供達が楽しそうに駆け回っている。その中に彼女の姿がなく、オレは静かに窓を開けた。
清々しい空気が、故郷に帰ってきたのだ、と今でも実感させてくれるほど、のどかな風景が目の前に広がっている。
二度と帰ることはないと思っていたこの土地に、戻ってこられたのは、彼女の存在が大きかったろう。


「あ!メロお兄ちゃん!」


めざとくオレを見つけ、庭先で遊んでいた子供が明るい声を上げた。


はどうした?」


そう声をかけると、その女の子は笑顔で窓の下に駆け寄ってきた。


「あのね、ちゃんはお花摘んでいつものお墓参りに行ったの!」


女の子はある方向を指差しながら笑顔で言った。あの先には彼女の忘れられない過去が眠っている。
オレは女の子に軽く頷いて見せると、そのまま静かに部屋を出た。
ここへ戻ってから、彼女は墓参りを一度も欠かした事がない。
ハウスの庭に咲いている花を持ち、その日にあった事を彼らに報告しに行くのだ。


「ああ、メロ。もうすぐ夕飯の時間なんだけどがいなくて。一緒じゃなかったのか?」


広間からマットが顔を出した。ロジャーの言いつけどおり、子供達の面倒を見ていたのか、その顔は心なしか疲れている。


「分かってる。今からを呼びに行く所だ」


そう言っただけで、マットも彼女がどこへ行ったのか察したようだった。軽く苦笑いを浮かべると、マットはオレの肩を軽く叩いた。
何もいわずとも、マットにはオレの心の奥深いところにある痛みが分かるようだった。


「そういや、二アは元気かな」


遊んでとうるさい子供達から逃げたかったのか、マットはオレと廊下を歩きだしながら、ふと呟いた。
視線を横に向けると、そこにはリビングがあり、中には小さな子供達が思い思いに過ごしているのが見える。
絵を描く女の子、本を読む男の子。昔はその中に二アもいた。オレ達のように外で遊ぶでもなく、二アはここで延々とパズルをしていたものだ。


「この前、連絡があった」
「え、マジ?メロに?」
「ああ」


マットの異常な驚き方に内心苦笑をしつつ、先日久しぶりに聞いた、あの皮肉めいた声を思い出していた。


「二ア、何だって?」
「今は新しい事件を追ってるらしい。オレに手伝わないかってな」
「マジで?!へぇーあの二アがメロにねぇ…」


信じられないといった顔で、マットは大げさに首を振った。
昔から二アとは仲が悪かったのだから、それも仕方ない事なのかもしれない。


「で、なんて返事したんだ?」
「断った」
「ええっ何でだよ!何でもいーから引き受けりゃいーじゃん!」


いちいち派手なリアクションをするマットに、オレも思わず息をつく。


「何でオレがアイツの仕事を手伝わなくちゃいけない?オレはオレのやりたい事件をやる」
「まあ…それも分かるけど…ここんとこガキの相手ばっかで退屈なんだよなーオレ…つーか何の事件にするか決めたわけ?」
「まあな」
「え、何だよ!どういう事件?場所は?」
「…ったく…詳しい事が決まったらちゃんと話すから待ってろ」


いちいち騒ぐマットに少々辟易しながら、オレはエントランスに向かった。子供のお守りが相当嫌なんだろう。
マットは早く仕事がしたいらしかった。


「絶対あとで教えろよー!」


一人ハウスを出ると、後ろからそんな言葉が追いかけてくる。小さく溜息をつきながら、オレは軽く手を上げた。
正直、オレも早く動きたいとは思っていた。でも行けば数ヶ月は戻って来れない。その間、彼女を一人にする不安は今もあった。
いつもLを心配そうな顔で見送っていた彼女を思い出すたび、オレも彼女にあんな顔をさせてしまうんだろうか、と思ってしまう。
暫く歩くと、舞い落ちる落ち葉の中に、彼女の姿があった。いつものようにLの墓標の前に座り、落ちてくる枯葉を払っている。
その仕草一つ一つに、Lへの愛情を感じ、ガラにもなく胸が痛んだ。


「…メロ?」


落ち葉を踏む音で気づいたのか、が振り返った。
その嬉しそうな笑顔につられ、オレも微笑み返しながら、彼女の方へと歩いていく。


「よくオレだと分かったな」
「だって…私を迎えに来てくれるのはメロだけでしょ?」


スカートについた落ち葉を払いながら立ち上がると、は肩に羽織っていたショールをかけなおし、こっちへと歩いて来た。
この瞬間だけは、がオレを選んだのだ、という小さな幸福感に満たされる。
Lに背を向け、オレに手を差し伸べるこの瞬間だけは。



「あ、いけない。もうすぐ夕飯だったね」
「ああ。だから迎えに来た」
「ごめん。ついうっかりしてた」


はオレの腕に自分の腕を絡め、小さく舌を出した。
年上なのに、少女のような仕草が似合うは、いつまでも会った頃と変わらない。


「早く帰って用意しなくちゃね」
「…もういいのか?」


歩き出そうとする彼女に、ついそう聞いていた。
は一瞬キョトンとしたが、すぐにLの墓を振り返ると、「うん。もう十分よ」と微笑む。


「今日の報告は終わったから」
「そうか…じゃあ帰ろう」
「うん」


は嬉しそうに頷くと、夕飯の献立を楽しげに話し出した。
その無邪気な笑顔を見ながら、オレは心の奥にある小さな痛みを隠す。
もうこの世にはいない相手に、嫉妬する愚かな自分を知られたくなくて。


「どうしたの?メロ…何か元気ない」
「そんな事はない」
「そう?でも最近いつもそんな顔してる」
「……?」


彼女の言っている事が分からず、足を止めて見下ろすと、は心配そうな顔でオレを見上げた。


「どこか…寂しそうな顔」
「…何だよそれ。そんな顔してるか?」


笑って誤魔化したが、内心ドキっとした。普通に振舞っていたつもりなのに、彼女には心の奥を見抜かれた気がしたのだ。


「してるよ。特に最近は……何かあった?」
「別に何もないだろ。毎日ハウスにいれば同じことの繰り返しだ」
「だから…その事が退屈になってきたとか…」
「それはマットだろ」


そう笑いながらの頭を軽く撫でる。それでも彼女は納得いかないような顔で首を振った。


「違う。本当はメロだってそう思ってるでしょ…?」
「オレが?」
「…メロにだってやりたい事はあるはずだもん。でも私を心配してここにいてくれてる」
「そんな事は…」


そう言いかけたが、その後に続く言葉が見つからなかった。彼女の言葉は半分当たっているからだ。
そんなオレを見て、は「ほら」と笑ってみせた。


「私の事を心配してくれるのは嬉しいけど…でも私はメロが自分のやりたい事をやってくれた方がもっと嬉しい」
「……」
「二アと同じように、自分の信じたものを貫いて生きて欲しいの。私を助けに来てくれた時のように…」


真剣な目でオレを見つめながら、は言った。変わっていないと思っていた彼女は、以前よりもまた強くなっていた。


「…メロ…?」


何も言わないオレに不安になったのか、が顔を覗きこんできた。そんな彼女の唇に、触れるだけのキスを落とす。


「…Lにも同じ事、きっと言ったんだろうな」
「…え?」
「Lは…オレや二アよりも明確に自分のやりたい事が見えていた」
「…メロ…」
「そんなLを、はずっと支えてきたんだよな」


オレの言葉に、は一瞬だけ瞳を潤ませると、ゆっくりとオレの胸に顔を埋めた。その細い肩先がかすかに震えている。


「今の私が好きなのは…メロだけだよ…」
「……?」


かすかに呟かれた言葉にドキっとして見下ろすと、潤んだままの彼女の瞳と目が合った。


「…メロが不安に思ってるのは知ってたの…でもLの存在だけは消せない」
「ああ…分かってる」
「だけどメロも同じくらい大切なの…それだけは―――」
「…ああ。分かってる」


彼女の唇に人差し指をあて、オレは苦笑交じりに頷いた。彼女もまた、オレの心の傷に、心を痛めていたんだ―――



がオレに惚れてる事はよーく知ってるからな」
「…な、何よそれ…自惚れちゃって…」


おどけたオレに、の頬が赤くなる。この瞬間、心のずっと奥で燻っていた小さな不安が、綺麗に消えていくのを感じた。


オレは怖かったんだ。
この世からいなくなった事で、Lが今も彼女の心の中に住み続けている事が。
もう二度と彼を追い抜く事が出来ないから、一生Lには勝てないんじゃないかと、怖かった…
だから彼女と離れる事すら不安で、何も出来なかったんだ。



「…来月…ロスに行ってくる」
「え…?」
「興味を引いた事件があったんだ。だからマット連れて行ってくる」



オレの言葉に、は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってくれた。



「ガキの相手ばっかじゃマットも可哀想だしな。向こうでコキ使ってやるよ」
「…またそんなこと言って…。あ、でもロスに行くならアネットの様子も見てきてね!電話じゃ元気にしてるみたいだけど」
「ああ。分かってる。ついでにマットにも紹介してやるか」
「あ、それいいかも!二人をくっつけてアネットもハウスに連れて来ちゃえば?そしたら私も家事助かるし」
「アイツがガキの面倒みるような女に見えるか?」
「大丈夫よ、アネットなら。無愛想なメロよりはね」
「…悪かったな」
「あれ、スネた?」
「うるさい…」



楽しげに顔を覗きこんでくるの額を指で突付き、オレは僅かに屈むと、もう一度彼女に優しく口付けた。
彼女の心に、例え過去の想いが残っていようと、今はオレが傍にいる。触れる事が出来る。一緒に笑う事が出来る。
その事が、一番大切な事のように思えた―――













知っていますか、




     私がどれだけ





   あなたを好きかということを

























ちょっとした番外編で、その後の二人などを久しぶりに描いてみました;
終わった後でも、この作品に嬉しいコメントを下さって、本当にありがとう御座います<(_ _)>



2008:09/06…Nelo Angelo...管理人HANAZO


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■ここのメロすごくいいです!見てて涙が出てきました!!きゅーんときました!!メロがもっと好きになりました!!感動をありがとうございましたww By麻璃(高校生)
(涙が出てきたなんて言って頂けて本当に感激です(*TェT*)こちらこそ励みになるコメント、ありがとう御座いました<(_ _)>

■どんどん引き込んでいくような、様々な愛のこもったお話、ありがとうございました。こんな素敵なお話をお書きになるなんてきっと素敵な方なんだと拝察いたします。陰ながら応援しております。(高校生)
(素敵なお話だなんて言って頂けて感涙です(TДT)ノ私は全く素敵なんかじゃありませんが本当に励みになっております!今後も頑張りますのでまた遊びに来てやって下さいね!)

■メロかっこよすぎですvvv(フリーター)
(ありがとう御座います〜(´¬`*)〜*

■いつも楽しく読ませてもらってます!泣ける切ない夢小説ごちそうさまです(笑)(中学生)
(ありがとう御座います!これからも頑張りますね!(>д<)/

■もうホンットに大好きです、メロ!!(中学生)
(ありがとう御座います〜♪

■すっかりメロに恋してしまいました。メロとヒロインを幸せにして下さってありがとうございます。そして私まで幸せ気分に浸れました、本当にありがとう!L好きな私をここまでメロLOVEにさせるとは。 HANAZO様おそるべし、です(^^)(社会人)
(ヲヲ!L好きさんなのにメロに恋してもらえて感激です!幸せ気分に浸って頂けて私も幸せです!これはLなくして描けない話ですし、私もL好きだからこそ書けた作品だなぁと思います☆















TITLE:群青三メートル手前