03.だったら愛なんて名付けなくてもいい



くちゅくちゅと卑猥な音をたてながら互いの唾液が交じり合うくらいに舌を絡ませ合う。
は涙を浮かべながらも、それを受け入れる。
半間がゆっくりと唇を離せば、の目尻から透明の液体が一筋流れ落ち、それを舌で舐めとると半間はふと笑みを浮かべた。
濡れそぼった場所へ硬くなった先端を押し付けると、体を強張らせたが腰を引こうとするのを逃がさないよう半間は細い腰を引き寄せる。

「ゃ…しゅう…じ…怖…い…っ」
「…言ったろ。オマエに拒否権はねえし、コッチはコッチで限界なの」

半間は言いながらも閉じようとするの両足を強引に開き、硬く膨張した自身を濡れそぼる密所へと押し込んだ。

「…ぁあぁっ」
「く…きっつ!」

想像以上に中がきつく、ぎちぎちと締め付けて来る強さに半間もたまらず息を吐き出した。
それでも閉じている場所を押し開くように腰を進めると、が痛みで背中をしならせる。

「…ぃ…痛…ぃ!やだ…っ」

首を振り髪を乱しながらが嗚咽する。
そんな声を無視して半間は強引に腰を進めて行った。

「…んぁぁっ」

のけ反り、無防備にさらされたの喉元へ口付けながら、半間は根元まで自身を埋め込み、満足げに笑みを浮かべる。

「…全部入ったよ、ちゃん♡」
「……っ」

痛みを我慢しているのか、は強く目を瞑り、口元は歯を食いしばっているのか固く閉じられている。

「…そんなリキんでたら切れるぞ。少し力抜けって…」

の唇を指でなぞり、優しく口づければ、がゆっくりと目を開ける。
涙で潤んだその瞳は、半間を拒否するでも憎むでもなく、ただ許して欲しいと哀願しているように見えた。

「ひゃは…♡ ゾクゾクするな、その顔…」
「しゅう…じ…」
「…あーもう無理。動くぞ」

先ほどから凄い力で締め付けられ、疼きが高まって来るのを感じた半間は辛そうに息を吐いた。
ゆっくりと抽送を始めれば、が再び苦しげな声を上げる。
その声すら半間を昂らせる誘惑にしかならない。
しかも久しぶりの行為に加え、こうも締め付けられれば一気に絶頂まで駆け上がるのが早い。

「やべ…久しぶり過ぎてもうイキそう…つーか一回イっとくわ…」
「………っ…ぃ」

絶頂に向けて半間が腰の動きを速めていけば、は苦しそうに喘ぎながら呼吸が乱れている。

「く………イク…っ…」
「……あぁあっ」

余裕がなさそうにの名を呼びながら、半間は何度か激しく腰を打ち付けた後で一気に絶頂を迎えた。
その激しい律動に痛みの限界を超えたのか、ズルりと一気に抜けばが悲鳴に近い声を上げる。

「……あぁ…すっげ…」

脱力しながらの上に覆いかぶさると「…だいじょーぶ?」との頬を手で包み顔を覗き込む。
僅かに首を振るの涙で濡れた頬に軽く口付けた半間は「まだこれから本番だけどね」と笑みを漏らした。
言葉の通り達した直後でありながら、すぐに熱が復活している。

「まだまだ足りねぇ…」
「……っ」

言いながら新しいゴムに付け替えると、先ほどよりも潤みを帯びたの蜜所に自身を押し込む。
今度は最初から奥まで一気に挿入すると、が短い声を上げた。

「…の中…すげー熱い…」

半間は満足そうな笑みを浮かべながら、の薄く開いた唇をやんわりと塞ぐ。
痛みと同時に舌を絡み取られ吸い上げられる甘さが同時に襲い、は意識が朦朧としてくるのを感じた。
半間の歪んだ執着はに痛みと快楽を同時に与える狂暴な愛情とも言えるようだった。

「………」
「修…二…」

の白い胸が荒々しく上下してるのを見下ろしながら半間はこれまでにない喜びを感じていた。
狭い泥濘に熱く昂った熱の塊を押し進めていった時の。
誰も触れた事のない真っ白な肌を自分が汚していく快感。
誰も暴いた事のない場所へ侵入した時は、の身体に自分の印を刻んだような気がした。

(痛みで歪ませている顔も、薄っすらと開いた濡れた唇も、涙を浮かべた瞳も、全て――俺のもの)

と出会ったのはちょうど一年前。
通りがかったゲーセンの前で、半間はひと際目立つ女を見つけた。
柔らかそうな髪を肩まで伸ばした色白の女子高生。
自分のいる世界とは縁遠そうなその女が、ダサい男達に絡まれ困っているようだったから声をかけた。
男達は半間の事を知っていたのか、顔を見るなり逃げて行き、少女は怯えた顔から一転、柔らかい笑みを浮かべてお礼を言って来た。
大きな薄茶色の瞳が印象的な可愛らしい顔立ちの女で、明るく元気なところがアングラで生きている半間には少し眩しいくらいだった。
ナンパ男から助けてそれで終わるはずだったのに、女は半間の電話番号を教えてくれと言って来た。
だからいつものように軽いノリで教えて、チャンスがあればヤっちまおうくらいの気持ちだった。
数日後、電話が来て会う約束をした時は、本当にそのつもりだったのに。

「半間くんって何でそんなにケンカ強いの?格闘家にでもなればいいのに。あ、でも身長めっちゃ高いからモデルもいけるんじゃない?」
「手のタトゥーはどんな意味?あ、分かった!何か罪を犯して罰を受けたんでしょ」

コロコロ表情を変えながら、とりとめのない話を振って来ては一人で笑い、最後には自己完結をしている。
助けてくれたというだけの理由で、知り合ったばかりの半間にすっかり気を許し、無防備な笑顔を向けて来る。
そんなを見ていると、何となくガキの頃に飼っていた小型犬を思い出した。
呼んでもいないのに寄って来てはキャンキャンうるさいクセに、気づけば膝の上で腹を出して寝ていた番犬にもならないような犬だったが、半間なりに可愛がっていたあの犬に。
事故であっけなく死んでしまった時は半間も酷く落ち込んで、ガラにもなく泣いたくらいに、本当は大切にしてた―――。

(そう、はあの犬に似てる――)

一度本人にそう言ったら「どーせ私は犬顔ですよー」とぶーたれていた。
勝手に寄って来てはどうでもいい話を振って来て、半間が応える頃には全然違う話に変わってる。
隣にいたかと思えば気づけばいなくて、どこへ行ったのかと辺りを見渡せば路上で売ってるアクセサリーを楽しげに見ていたり。
落ち着きがなくて、時々うぜーと思う事もあったが、それでも半間はと関係を絶とうとは思わなかった。

といると色のなかった世界がカラフルになる。
赤、青、緑、紫、黄色。そんな色とりどりの絵の具をぶちまけたみたいに、半間のいる世界が鮮やかな色に変わる。
稀咲とはまた違った意味で、俺を楽しませてくれる女だ、とそう思ってた。
あの日、から「もう会わない」と言われるまでは―――。

最初は何を言われたのか分からなかった。分からないまま「分かった」と応えていた。
それまで毎日のように一緒にいたうるさい女が一人、傍にいなくなっただけで半間の世界は半分色を失った。
日が経つにつれ、酷い喪失感に襲われた。

「取り戻したいなら、無理やり自分のものにしちまえばいいだろ?」

自分の中にあるモヤついたものの正体が分からず、何の気なしに稀咲に話したら、あっさりそう言われ、半間は「そうだな」と応えた。
ストンと何か憑き物が落ちたようにスッキリしたのと同時に、半間の中で勝手に離れて行ったへの苛立ちのような感情が初めて沸いた気がする。
勝手に近づいて来たのはなのに、理由も言わないまま最後の最後までは自己完結して半間から離れて行った。
それが許せなかった。ガラにもなく、大切だと感じた存在だったのに。
だから簡単には手も出せず、の前では誠実であろうとした。
傍に置いた女で一度も触れなかったのは、半間にとって後にも先にもだけだ。
その想いを粉々に砕かれた気がした。

「動くなら協力してやろうか」

稀咲が珍しく楽しげな様子で言って来たので、それを受け入れた。
の行動範囲など、一年も一緒にいた半間にはすぐに分かる。
この日も歌舞伎町で友達と遊ぶを見つけ、稀咲が生贄を用意した。
家の近くでを連れ去ろうとした男達は稀咲の仕込みだ。
「そこへ何食わぬ顔をして助けに入れ。その後はオマエの好きにしろ」と半間に薬を手渡して来た。
色んなチームのヤツを相手にあれこれ画策している稀咲が、また何ともベタな方法を選んだなと半間は笑ったが、稀咲は「女相手ならベタが一番有効的だ」と鼻で笑い返された。

(まあ確かに…稀咲の言う通りだったな…)

出会った時と同じように悪い男達から助けてやると、は簡単に半間の言う事を信用した。
稀咲とはもう会ってない、なんて嘘だと分かりそうなものなのに。
を責め立てながら、半間はふと思い出してかすかに笑みを漏らした。

(最初からこうすれば良かったんだ―――)

ガラにもなくいい兄貴を演じてしまわずに、本能のままに奪えば良かった。
最初に出会ったあの日、あの時、あの場所で。壊しつくせば良かったんだ。
こんな想いを知る前に―――。


半間はの手首を拘束していたベルトを外すと、その身体を抱き起こし首筋へ顔を埋めた。
抱える事でより深く繋がった部分から卑猥な水音が響く。

「ん…っしゅ…うじ…っ」
「…んー?まだ痛い?」

左右に首を振るの体を支えるように抱きしめながら、半間は彼女の小さな耳たぶを食む。
舌先で舐れば、の体がかすかに震えるのが腕に伝わって来た。
硬直した昂りを下から何度も突き上げると、「…ぁあっ」と声を上げての背中が反り返り、白い首筋が目の前に晒される。
その首筋へ吸い付きながら、の体を押し倒すと、涙で潤んだ瞳と目が合う。
抽送のスピードを緩やかにすれば、は切なげに眉間を寄せ、薄く開いた唇からは先ほどとは違う控え目な嬌声が漏れ聞こえて来て。
何度目かの性交で体もだいぶ馴染んで来たのか、はもう痛みを訴える事はなかった。
半間は艶のあるの唇へ軽くキスを落とすと、紅潮してる頬をそっと撫でる。

「…そろそろ気持ちよくなってきた?」
「あっ…ぁ…んっ」

一度強めに腰を押し付けると、甘い声が上がった。
だがは恨みがましい目を半間に向けると「つ…強く…しないで」と荒い呼吸の合間に呟く。
その瞬間、の中に埋められている硬直したモノが僅かに膨張したのを感じて、は短い声を上げた。

「そんな目でそんなこと言うから、まーた大きくなっちゃったじゃん」
「…っ?!へ、へん…たいっ」
「変態って…その変態に犯されてエロい声出してんの誰だよ…」
「……ッ」
のココ、すーっかり俺のに馴染んで来ちゃったし?」

言いながら繋がっている部分に指で触れて何度か撫でると、が再び甘い声を上げた。

「エロい声…オマエ、いちいち俺を煽ってくるよな…。まだ犯されてーの?」
「…ち…違…修二…が…っ」
「俺が?何…?」

に覆いかぶさり、唇が触れ合う距離で見つめ合う。
半間は意地の悪い笑みを浮かべながら、涙で潤んでいるの瞳を見下ろした。
至近距離で見つめられ、は恥ずかしそうに目を伏せる。
それを見た半間は苦笑いを浮かべた。

「そんな顔すんなよ。オマエ、こんな事されてんのに俺に惚れてんの?」
「……そ…そっち…こそ…」
「俺ぇ?俺は…が欲しかっただけ。だって俺の一部だし」
「……え…?」
「言ったろ。オマエといると世界が色づくって…」
「…修二…」

そう言われた時の事をは思いだした。
に会うまでの半間は何をしても退屈で、色のない世界にいたそうだ。
ちゃんと大事に想っていてくれてたんだ、とはふと目頭が熱くなった。

(全然、分かってなかったのは私だ…)

もっと本来の半間を見ていれば、とは後悔した。

「ってヤってる時にする話じゃねー、なっ」
「…ちょ、…ぁあ…っん」

急に動きを速めた半間は、何かを振り切るように腰を打ち付けた。
結合した部分から蜜が溢れ出て粘着質な音を立てる。

「あぁ…っマジ、の中トロトロ過ぎてヤバいわ…」
「…ぁあ…っ」

半間は苦しげな顔をしながらを追い詰めるように抽送していく。
次の瞬間、何度も突かれている場所から全身へ一気に快感がうねりだし、の体が勝手に中をぎゅっと締め付けてしまった。
甘い痺れが脳天まで突き抜けた時、全身に鳥肌が立つ。

「…ぁっ…何…これ…ぁあっ」
「…く…、おま、締めんな…イク…っ」

半間は辛そうに眉間を寄せると呻き声をあげて体をかすかに震わせ、絶頂を迎えた。
そのままの上に倒れ込むと、半間は荒く深呼吸を繰り返す。
も同様に胸が上下するほど呼吸が乱れ、息苦しさを和らげようとゆっくり息を吸い込んだ。

「……オマエまでイクとかマジ?」
「…っ?」

気だるそうに体を起こした半間が苦笑気味にへ覆いかぶさる。

「犯されてるって自覚ある?」
「な…あ、あるよ…!最初はホントに痛くて死ぬかと―――」

至近距離で皮肉を言われ、の頬が赤くなる。

「オマエへの罰だから、あれは」
「……またそんな…」
「初体験が強姦って一生記憶に残るだろ。俺の事、忘れられないなあ?

と、半間は楽しげに笑っている。
だけど口ではそんな事を言っていても、途中から優しく抱いてくれていた事をは気づいていた。
最初こそ拘束はされたし行為自体は乱暴だったが、半間は一度もを殴ったりはしてこなかったし、時折気遣うような素振りさえ見せた。
そのちぐはぐな辺りが、修二らしい、とは思う。

「……赤くなっちゃったな」

力なくベッドの上に置かれたの手を取ると、半間はベルトにこすれて赤くなっている手首へ口付ける。
その行為さえ優しさを感じドキっとする。
そこでは初めて拘束が解かれている事に気づいた。
途中から意識が何度か飛んで、手が自由になっていた事にさえ気づかなかった自分に赤面する。
そしてその恥ずかしさと、色んなことへの腹立たしさをぶつけるように、は半間の頬を引っぱたいた。

「…いてっ」
「い、今のは修二が私を騙して薬使ったり拘束してきたりした事へのものだから…っ」
「………」

ぶたれた頬を手で擦りながら、半間は僅かに目を細めて溜息をついた。

「外さなきゃ良かった…」
「こ、拘束なんかしなくたって私は…っ」
「私は……何だよ」

訝しげに眉を寄せる半間を見て、は一瞬言葉を詰まらせた。
こんな状況で好きだからなんて言ったところで信じてもらえるんだろうか、と迷いが出たのだ。

「修二こそ…大事にしてた…ってどういう事…?」
「…あ?」
「さっき…言ってたでしょ?」
「ああ…」

半間は思い出したように笑うと、の額に自分の額をくっつけた。

「俺、オマエといると楽しかったから。そう言う関係、壊したくねーなって…思ってた」
「…じゃ、じゃあ…こんな事したのは…もう壊れてもいいって…そういう事…?」
「………」

思い切って尋ねたは、ふと真顔になった半間を見てドキっとした。
半間は暫く無言だったが、僅かに笑みを浮かべると「いや、逆」と一言呟いた。

「嫌われてもいーやとは思ってるけど壊れていいは思ってない。言ったろ?オマエの気持ちはどーでもいいって」
「だ、だから何それ!どうでもいいって―――」
「オマエがどう思おうといいって事。好かれようと思ってたらこんな事しねえよ」
「じゃあ…私の…気持ちはいらないって…そういう事…?」
「じゃあ俺も訊くけど、オマエは俺のこと好きなわけ?」
「し、質問に質問で返さないでよ…」

ストレートに言いにくい事を訊かれ、は慌てて視線を反らす。
それを見た半間は溜息をつくと「そもそもオマエが俺のこと好きなら離れてかねーよな」と自嘲気味に笑った。

「そ、それは…」
「だから無理やり俺のもんにした。そんでボロボロにして今度は俺から捨ててやろーかと一瞬思ったりもしたけど…」
「…な…」
「でもヤったらヤったで手放したくなくなった」
「……え…?」
「さて、どーすっかな…」

半間は苦笑しながらを見つめると、両頬を手で包んでやんわりと唇を塞ぐ。
何度も啄まれ、唇を優しく愛撫するようなキスに、は自然と目を閉じてそれを受け入れた。
本当なら初めてのキスをあんな奪うようにされるのではなく。
最初からこんな風に優しくキスをしてもらいたかったと、ふと思う
ちゅっと音を立て名残惜しげに離れていく唇に、も寂しさを感じた。
もっと触れて欲しい、と思うのは、酷い事をされてもまだ、半間の事が好きだからなのかもしれない。
今のキスでふわふわと高揚した気持ちになりながら、そんな事を考えていると、半間がの足を割って体を入れて来た。

「…な、何…」

先ほどの行為の余韻を残した場所に熱い塊を押し付けられ、ふと我に返った。
半間は上半身を起こすと、を見下ろしながら苦笑いを零していて、そのいたずらっ子のような顔にドキっとした。

「オマエがそんな顔するから勃っちゃったわ」
「……は?」
「つー事で、続きやろっか。ちゃん♡」
「ま、まだする気…?!もう無理…っっていうか私、初めてだったのにあんな無理やり…!」
「でもオマエだって途中から気持ちよくなってたろーが」
「ち、違…」
ってもしかしてドМだったり?無理やりされて感じるとかやらし~」
「だ、だから違うってば!私は修二が好きだから―――あ」

恥ずかしさのあまり、つい口走ってしまった自分の気持ちに、は慌てて口を閉じた。
だが時すでに遅く、半間は少し驚いたようにを見つめている。
その表情を見る限り、やはりその可能性は考えていなかったようだ。

「…今、なんつった?」
「え?あ、いや、だから…」
「俺のこと、好きなの?オマエ」
「す…好きって…いうか…その…」

どう伝えようか迷いながらも、今更どう取り繕っても無駄な気がして素直に頷いて見せた。

「は?じゃあ何でもう会わないなんて言って来たんだよ…」
「だから、そ、それは修二が稀咲に色々変な事させられてて心配で…見ていられなくなったから?」
「はあ?稀咲?稀咲のせいで俺はオマエに捨てられたの?」
「す、捨てたとかじゃないってば…」
「俺はそんな気持ちだったんだよ」

半間は怒ったように目を細めると深い溜息をついた。
そして呆れたようにを見ると「オマエ、そんなに稀咲のことが嫌いだったわけ?」と苦笑する。

「だ、だって…修二に色々やらせてアイツ自身は自分の手を汚さないじゃない…」
「別にいーんだよ。絵を描いてんのはアイツだし、俺はそれが楽しくて手を貸してるだけ」
「楽しいって…」
「アイツは俺を楽しませてくれるし退屈させねーの。オマエと一緒だ、

ふと優しい笑みを見せる半間に、はドキっとしつつ首を傾げた。
何か面白い事でもしたっけ、というような顔だ。

「…私が修二を楽しませたことなんかあったっけ…」
「見てて飽きねえ。最初はキャンキャンうっせぇし人の話は聞かねーし手のかかる女だなって思ってたけど…そこが面白くなって来たっつーか」
「は?何よ、それ…こっちのセリフなんですけど」
「あ?てめ、俺のどこが手ぇかかるってんだよ?」
「だってすぐケンカするじゃない。知らない人たちのケンカにまで乱入して最後は全員倒しちゃうし、警察に追いかけられた時はホント焦ったんだから」
「いつの話してんの?つーか、あの時のサツはオマエが110番したんじゃねーかっ」
「だ、だってあんな大人数じゃ修二が危ないって思ったから―――!」
「はあ?オマエ、俺があんな雑魚にやられると思ったの?バカじゃねーの」
「バカって何よ。だいたい修二はいつも―――」

と言いかけた時、半間がの口を手で塞いだ。

「んうぐぐ…っ」
「ほーらキャンキャンうるせえ…」

苦笑しながら呟くと塞いでいた手を外し、今度は唇での口を塞ぐ。
覆いかぶさり深く交わせながら、さっきよりも濃厚に唇を食むようなキスを仕掛けてくる半間に、は抗議をしようとした。
だが開きかけた唇の隙間から舌をねじこまれ、鼻から息が漏れた。

「ん…ふ…」

くちゅくちゅと音を立てながら絡み合う舌で、再び体が熱を帯びて来る。
何度も舌を吸われ、呼吸さえままならず、は半間の腕にしがみついた手に力を入れた。
その時、無防備な場所に硬いものが当てられ、ドキっとする。

「ん…しゅう…じ?」

慌てて唇を離せば、半間が笑みを浮かべながらを見下ろしている。

「言い合いしてたら一瞬萎えたけど復活したし、続きしよっか♡」
「だ、だから…もう無理…」
「言ったろ?オマエにしか勃たなくなったって。それの責任とってよ。俺のこと好き、なんだろ?」

と半間がニヤリとした笑みを浮かべる。

「せ、責任って…そ、それに私、まだ修二の気持ち聞いてない…」
「…気持ち?」
「ふ、普通こういう事する前に言うべきことあるでしょ…?」

あれこれ言われた気はするが、ハッキリ好きだと言ってくれたわけじゃない。
は半間の口からきちんと聞きたいと思った。

「普通…言うべきこと?」
「だ、だから…す、好き…とか…愛してる…とか…」
「………」
「な、何よ…」

不意に黙った半間を見て、はドキっとした。
これで違うと言われたら、もう一発ぶん殴ってやろうと思っていた。
処女を無理やり奪われたのだから一発くらい本気で殴る権利はあるはずだ。
だが半間はさも当然というような顔で、

「え、オマエにしか勃たないって事はそういう事じゃね?」
「は?そ、そんなのただエッチしたいだけじゃない。それは愛じゃないもん」
「何で?同じ事だろ」
「だからそれただの性欲でしょ?私が聞きたいのはそういう事じゃなくて―――」
「だりぃ…」

再びキャンキャン言い出したに、半間は思い切り目を細めてぼそりと呟いた。

「だったら愛なんて名前じゃなくていいわ。俺はただだけを抱きたいの」

あまりにストレートな答えに、の顏が真っ赤に染まる。

「愛なんて後付けだろ。本能に従えばいーんだよ」

半間は得意げに言いのけて、熱く滾った塊をの中へ押し込んだ―――。