02.ぼくが不在の未来で笑うの?
カチャカチャっというかすかな音と、手首に感じる違和感では薄っすらと意識が戻って来るのを感じた。
だが頭の中にモヤがかかったみたいに思考が定まらない。
まるで初めてお酒を飲んだ次の日の朝のように頭が重たい。
いや頭だけじゃなく体も酷く怠い。
「…ん…」
僅かに頭を動かし、重たい瞼をゆっくりと開けてみる。
だが薄暗い室内という事しか分からない。
その時、視界の隅に何かが動いた気配がした。
「あ、目ぇ覚めた?」
「……しゅう…じ…?」
視界の中によく知った顔が入って来て、は掠れた声でその名を呼んだ。
半間はの顔を覗き込むようにしている。
ただ視界がぼやけているせいで、その表情までは見えない。
「わ…たし…どう…して」
「あー寝ちゃったからベッドに運んだ」
「え…?」
確かに言われてみれば背中に柔らかい感触がある。
そこで先ほど酷い睡魔に襲われた事を思い出した。
「ごめ…ん…寝ちゃった…」
寝不足のせいで寝落ちしてしまったんだと慌てたは、何とか声を絞り出す。
少しずつ視界の方はハッキリしてきたものの、まだ体は気だるい。
その時、半間がかすかに笑ったようだった。
「修二…?」
視界に映る半間の顏が良く見えず、は何度か瞬きをした。
「はさ~寝ちゃったんじゃなくて俺が眠らせたの」
「……?」
「分かんない?何で急に眠くなったのか」
「…しゅ…うじ…?」
突然、半間が動いたかと思えばの体に覆いかぶさって来たのを感じた。
怠い体にズシリとした重みがかかる。
先ほどよりも近くなったせいで、半間の顏がハッキリ見える。
その表情は普段の半間とは違い、どこか高揚しているような顔だった。
「な…何…」
自分を見下ろしていた半間の指先が唇に触れ、はビクリと肩を揺らした。
半間の指はそのままの唇をゆっくりと撫でていく。
他人に触れられた事などなく、その初めての感触に鼓動が急に早くなった気がした。
半間が何をしているのか、何故こんな状態になっているのかすら、考えられない。
「くく…って意外に敏感なんだな。こりゃ楽しめそーだわ」
不意に半間が薄ら笑いを浮かべた。
言われた意味さえ分からず、はただ目の前の半間を見つめる事しか出来ない。
「…何…?修二…」
「まだ、自分の置かれてる状況が分かんねーみたいだな」
「…え?」
「ま、こうしたら嫌でも分かるか」
半間はニヤリと笑みを浮かべ、未だぼうっとしているの耳元へ口を近づけた。
「今、この場でオマエを犯す」
「………っ?」
驚きの声を上げる間もなく、半間は不可解な言葉を吐いての唇を塞いだ。
「……んん…っうぅ…っ」
熱い唇が貪るように何度も角度を変えては、の唇を食むんで来る。
キスをされていると脳が理解しても、の心はその現実を、半間にされている今の行為を処理しきれない。
本能的に手を動かし半間を押しのけようとした。
だが両腕とも何かで固定されているように動かず、は更にパニックになった。
「…んゃ…ぁっ」
腕が動かない事で次に顔を背けようと試みたが、半間の手が頬を両手で押さえつけているので、それすら敵わない。
何故こんな事をされているのかすら、は分からなかった。
これまで何度も半間の家に来た事がある。
泊った事も一度や二度ではない。でもその時でも半間はに手を出す事はなかった。
だからこそ女として見られていないと落ち込んだ事もあったくらいだ。
なのに何故、今こんな事をしてくるのか、理解が出来ない。それも、こんな拘束をしてまで―――。
「…ゃ…あ…」
強引なキスの合間に僅かな隙間が出来て、空気を求めるように口を開けば半間の熱い舌がねじ込まれ、その初めての行為にの体が強張る。
口内で妖しく動く舌がのそれを捉えようとする事に気づいて逃げようとしてもすでに手遅れで。
半間は器用にの舌を絡めとると、じゅくっと音を立てて強く吸い上げた。
濃厚に絡められた舌が口内でちゅくちゅくと卑猥な音を立て、感じた事のない甘い痺れがの脳まで一気に駆け巡り、全身が熱くなっていく。
その時、キャミソールの中へ冷んやりとした手が滑り込んで来るのを感じて心臓がドクンと音を立てた。
脇腹からゆっくりと撫でるように上がっていくそれは、下着の付けていない胸の膨らみへ簡単に辿り着く。
「…んんぅっ」
溜まらず声を上げようと口を開きかけたが、絡め取られた舌ではくぐもった声が漏れるだけだった。
に深く口付けながら、半間の大きな手が胸の膨らみを揉みしだき、長い指先は小さく主張している尖りへ伸びる。
何度か優しく擦り上げられ、の体が小さく跳ねた。
敏感な部分を親指の腹で何度も擦られるたび、足元からゾクゾクとしたものがこみ上げて来る。
「…ん…んぁ…」
これまで出した事もないような声が、塞がれている自分の口から勝手に洩れるのを聞いて、はカッと頬が熱くなるのが分かった。
舌が絡み合う水音を聞かされながら、口内を掻き乱された後でようやく唇が解放される。
エアコンの冷風で冷やされた室内の空気が、しっとりと濡れた唇には余計に冷たく感じて、の羞恥心を煽る。
「な…んで…」
「ん?何で?」
半間は己の濡れた唇をペロリと舐めながら苦笑いを浮かべると、驚きで戸惑うを見下ろした。
そのままのキャミソールを胸の上までまくり上げると、白い膨らみが露わになる。
「いーい眺め♡」
「や…やめて…」
なぜ急に半間がこんな強引な事をしてくるのか分からず、は恐怖を感じると言うよりは戸惑いの方が大きかった。
「さぁ~。俺から逃げられるとでも思った?」
「……え?」
ドキリとして視線を上げれば、半間の顔にいつもの笑みはない。
その鋭い瞳にかすかな怒りの炎が垣間見え、真っすぐにを射抜いてくる。
「オマエの未来に、俺がいないなんて許されねーだろ?」
低音の声で呟いた半間はゆっくりと身を屈め、胸の膨らみへ口付け、外気にさらされ硬く主張している尖りへ舌先を伸ばした。
「…っや…やだ…っ」
ねっとりとした舌で硬くなった部分を転がされ、その感じた事がない刺激に背中が引きつる。
同時に動かない自分の腕を確認すれば、両手首がベッドの左右にベルトのようなもので固定されているのが見えて息を呑んだ。
「な…なに…?な…んで…あぁっ!」
言葉を発しようとした時、胸の尖りに吸い付かれて全身に甘い刺激が走る。
半間は口内で尖りを転がしながら何度か強弱をつけて吸い上げて来た。
その強い刺激で再び頭の芯が痺れて来るのを感じ、は小さく息を吸い込んだ。
心拍数も上がっているのか呼吸が早くなって来た途端に息苦しさが襲う。
半間は執拗に尖りを愛撫しながらも、もう片方の膨らみをやんわりと揉みしだく。
「…んっゃあ…修…二っ」
「…くっくっく…可愛い声で啼くじゃん」
胸への愛撫を続けながら、半間は楽しげに笑う。
その吐息ですら敏感になった部分には甘い刺激となって伝わって来る。
やだやだとかぶりを振ってみても抵抗にすらならない。
好きな相手が何故急にこんな強姦紛いの事をしてくるのか、には理解出来なかった。
「…わ…私は…修二から…逃げよう…なんて…思ってな―――」
「嘘つくなよ」
「……っ」
不意にゾっとするような低い声で呟く半間に、はビクリと肩を揺らした。
切れ長の瞳に怒りにも似た激情が見え隠れしている事に気づき、小さく息を呑む。
彼のこんな顔は見た事がない。
だが半間は突然笑みを浮かべ、の顏の横に手をついた。
「オマエは俺から逃げられないって思い知らせてやるよ…」
唇が触れそうなくらいの距離で、低く囁く半間の言葉には言葉を失った。
「…や…んんぁっ」
静かな部屋にの嬌声と、淫靡な水音だけが響く。
胸の尖りを執拗に舐られると足の指先からゾクリとしたものが上がって来る。
女の本能を剥き出しにしてやろうという半間の意図が伝わり、は初めてこの時、半間が怖いと感じた。
口淫しながらも半間の手がの太ももへ伸び、片足を持ち上げられる。
そのまま半間は体を起こすと下へ移動し、のスカートをゆっくりとまくり上げた
「ゃ…やだ…っ」
顔が火照り、熱で朦朧とする中で、
は無駄な抵抗と知りながら腰を引いたものの、いとも簡単に下着を脱がされる。
今まで隠れていた部分が外気に触れる感覚にゾクリとした恐怖が沸きあがった。
「誰も見た事ないんだろ?のココ」
「……っ」
持ち上げた太ももに舌を這わせながら、半間が笑う。
その一言にの頬がカッと熱くなり、唯一拘束されていない脚をバタつかせる。
「やめて…っ修二…ずっと…傍にいる…からっ」
「オマエ、前にもそう言ったじゃん」
ちゅっと太ももに口付けながらに視線だけを向けた半間の顏には皮肉めいた笑みが浮かんでいる。
はその言葉を聞いて思わず眉を寄せた。そして思い出す。
二人が出会って少しした頃、あれはが半間を一人の男として好きだと認識した時だ。
いつも退屈そうに、何かを紛らわせるようにケンカをしていた半間を見て、は心配になった。
半間は何にも執着がない。だからいつか自分の前から消えてしまいそうだと思ったのだ
そしてその不安を消したくて言った「ずっと修二と一緒にいたいな」というの言葉に半間が吹き出した事があった。
「何それ。俺にプロポーズしてんの?」
あの時は自分の気持ちがバレたのかと焦って「そんなわけないでしょ」と誤魔化してしまったが、半間は「俺の未来にはいると思うけど」と笑いながら応えてくれたのが凄く嬉しかった。
「でもオマエは俺から離れた。だろ?」
「そ…それ…は…」
「だから今度こそバカな事を考えないようにオマエの体に俺を刻み込む」
「……な…何…で…」
くつくつと笑いながら半間はの足を更に押し広げ、舌なめずりをして見せた。
「は俺のだからどこにも行かせない」
ギシっとベッドが軋む音がして、太ももの付け根に熱い吐息を感じ、は体を強張らせた。
ここでようやく、半間修二という男の執着が自分に強く向けられている事を知る。
何故半間がそこまで自分に対し、そんな感情を抱くようになったのかまでは分からないが、今の半間がを思いのまま好きにしようとしている事だけは理解した。
「はあ…やっぱ綺麗だな…誰の手垢もついてねー感じがたまんねぇわ」
「…やぁ…やだ…っ見ないで…っ」
「でも、あんま濡れてねーな。初めてだからか?」
どこを指して言っているのかが分かり、は羞恥で足を閉じようと力任せに暴れた。
それでも体格のいい半間の腕を振り払う事は出来ず、足を更に大きく開かれ、恥ずかしい部分を凝視されているという自分の醜態に涙が浮かぶ。
その場所に半間が顔を埋めるのを見て、は強く目を瞑った。
「…ひ…っぁあ…っ」
ぬるりとした感触が敏感な場所に与えられ、背中が跳ねる。
熱く柔らかいものが恥ずかしい場所へと押し付けられ、お腹の奥がじんわりと熱を持った気がした。
「…んぁっ」
口付けられたかと思った瞬間、まるで生き物のように動く舌の感触に、たまらず声も跳ねた。
柔らかい舌が何度も往復し、時折くちゅっという淫らな音が鼓膜も刺激する。
「あ…ぁ…っ」
感じた事のない甘い刺激で、次第にお腹の奥に生まれた熱が全身に広がっていくのを感じて、は怖くなった。
まだ自分でも知らない女の部分を半間に無理やり暴かれていると思うと、羞恥心が煽られ再び涙が溢れて来る。
その時、これまで以上に強い刺激がを襲った。
その部分を舐められると足の指先までビリビリと電流が走るようだ。
「ここ、硬くなって来たよ、ちゃん」
「……ぁ…っ」
ピンと舌先で弾かれ、腰が浮くほどの刺激に襲われた。
「それに濡れてきてる」
小さく笑う半間の言葉に、は自分の体に起きている変化に気づいた。
お腹の奥が熱くズクンとした鈍痛のようなものを感じる。
そこから何かが流れ出るような感覚に、半間が言った言葉が当たっているのを実感させられた。
「…ぁあっ」
硬く主張しているであろう芽をねっとりと舐られ、何度も優しく往復されると、これまでにない痺れが足元から這い上がって来た。
トロリと溢れて来る蜜を舐めとられる感触と恥ずかしい部分を口淫されてる事実に、全身が燃えるように熱くなってくる。
「…すっげ…溢れて来た」
半間は興奮したように熱い吐息を吐くと、蜜が溢れて来る入口へ舌先を差し込んだ。
じゅぷっという卑猥な音と共に異物が体内に入って来る感覚に背中が引きつる。
半間の舌が動くたび、その場所から甘い快感が広がり、頭の奥まで突き抜ける感覚に体がかすかに震えた。
ちゅうっと吸われるたび、感じた事もない快楽の波が全身を駆け巡る。
「…あぁ…っゃあっ」
「きっつ…。ココ少し解さねーと」
今度はゆっくり指を抜き差しする半間が苦笑気味に呟く。
は首を振りながら、喘ぐことしかできず、すでに全身が火照って頭の奥が痺れていた。
次第に朦朧としてきた脳内で、半間に言われた事を思い出す。
"は俺のだからどこにも行かせない"
その愛の告白めいた言葉は、少なからずにとっても嬉しいものだった。
なのに半間は強引にを奪おうとしてくる。
そのアンバランスな行動をさせたのは、自分なのかと思うと、やっぱり悲しくなった。
なのに、まだ好きだという思いが、心の奥で燻っている。
こんな事をされても、まだどこかで半間の事を信じている自分がいた。
「…んぁぁあっ」
指で体内をかき回され、同時にじゅっと音を立てて芽を吸われた瞬間、強烈な快感がその場所から足の先、そして脳に突き抜ける。
強制的に快楽を引きずり出された行為で、は初めての絶頂を迎えた。
「…気持ち良かった?」
体を起こし唇を舐めながらニヤリと笑った半間は、再び覆いかぶさると乱れた呼吸を繰り返すの唇に軽くキスを落とす。
は頬が紅潮し、とろんとした目を半間に向けた。
「ひゃは♡ 可愛い顔しちゃって。俺をその気にさせられんの、やっぱだけだわ」
意外にも優しい笑みを浮かべた半間は、そう言いながらの額へちゅっと口付けた。
が訝しげに眉を寄せると、半間は徐に着ていた服を脱ぎ捨てる。
「たーっぷり嫌ってほど俺を感じさせてやるよ」
との足の間に割って入ると、先ほどトロトロに濡らされた場所に硬いものが押し付けられる。
それが何を意味するのかが分かり、の頬が赤くなった。
「オマエと会ってからさー他の女じゃ勃たなくなって、もしかしてと思ったけど、やっぱが相手だとフツーに勃ったわ」
「な…何…それ…」
「俺も分かんねーからこうしてんの。この際俺から離れようとしたオマエの気持ちはどーでもいい」
「な…どうでもいいって…」
少し怒ったような声で突き放され、はドキっとした。
確かに最初、半間から離れようとしたのは自分だ。
きちんと理由も告げず、勝手に自己完結してさよならを言ったのは、紛れもなく自身だった。
あの時のも半間の気持ちなど考えていなかったのかもしれない。
「つー事で、久しぶりだし腰が立たなくなるまでヤラせてもらうから♡」
「ちょ…や…っ」
「に拒否権はねーから」
濡れている箇所にヌルリとした塊を押し付けられ、は思わず腰を引いた。
「ちゃんとゴムつけたし心配すんなって」
「そ…そういう問題…じゃな…んんっ」
慌てて文句を言おうとした瞬間、唇を塞がれ、言いかけた言葉は半間の口内へ飲み込まれた。
深く交わった唇が一度絶頂を迎えたせいなのか更に敏感になっていて、何度も啄まれると甘い刺激に身体の芯が熱くなってくる。
自然に薄く開いた唇を割って侵入してくる半間の舌に、舌を絡めとられるだけで体内からトロリとしたものが溢れ出る感覚に鼓動が早まった。
優しさなど感じられない言葉をぶつけられたのに、その言葉とは裏腹にとても優しい口付けはの心を混乱させていく。
ちゅっと音を立てて唇が離れた瞬間、は戸惑いながら半間を見上げた。
「ま…待って…」
「待つわけねーだろ。オマエのエロい姿見せられてコッチは限界なんだよ」
「な…み、見せたわけ…じゃ…」
そう言いかけた時、頭がくらりとしては軽く目を瞑った。
それに気づいた半間は「まーだ薬が効いてんだから動くなって」と苦笑いを浮かべている。
「く、薬…?」
「あれ、気づかなかった?コーラに入れたの」
「な…」
「稀咲が飲んでる睡眠薬貰ったの。効き目は早くて起きても少し持続するらしいから、まだふわふわしてんだろ?」
「き、稀咲って、だってもう会ってないって…」
「あーあれ?嘘だよ。オマエが稀咲のこと嫌ってるのは分かってたしな」
「…嘘…?じゃあ…まだ…」
唖然としたに、半間はニヤリと笑った。
「ああでも言わないと、オマエ帰ってただろ?」
「……さ…最低…」
「最低な男だからこんな事してんの。でも俺にこんな事させたも悪いんだよ」
「…な、なんでよ…っ」
「もう会わない…なんて言って来たも悪い」
ふと寂しげな表情を見せた半間は、そっとの唇を指で撫でた。
その感触にドキっとして視線をあげると、半間は軽くキスを落とす。
「大事にしてたのに…オマエはあっさり俺を捨てた。だからその罰を受けてもらうわ」