Chapter.4...Stormyvacation
in NY 2 I WISH YOU...
「では、今度の、この【ロード・オブ・ザ・リング】での、あなたの役柄を教えて下さい」
「はい。僕はひょんな事から一つの指輪を手にしてしまうフロドを演じます……」
朝からインタビュー攻めだった。
同じ質問に、同じ答えを何度した事だろう…。
ニューヨークへと来て、すでに4日が過ぎ去っている。
ついて早々、すぐに雑誌やテレビのインタビューがあり、それが延々と続いた。
終るのは夜中の2時とかで、全く撮影してる時と変わらぬ忙しさ…。
そろそろ僕はウンザリしてきていた…。
「お疲れ!リジー!」
マネージャーのアレクが僕にコーラを持ってきてくれた。
「ほんと疲れたよぉ~~~!」
僕は我慢の限界!というようにソファーに寝転がった。
ここは、某ホテルの一室。ここで、たった今、何十本目かのインタビューを終えたばかり。
今日も朝早くからテレビ局を何社か周り、その後も雑誌の取材がびっしりと入っていた。
「まあ、仕方ないさ。主役なんだし、今回の映画は大作になるだろうからな。皆、興味津々なんだよ」
「そうだけどさぁ~・・。今、オフなんじゃないの~?僕、全然休んでないよ!」
そう言って僕はソファーから起き上がるとアレクが持ってきてくれたコーラを飲んだ。
「それは悪いと思うけどさ…。今日は、少し早めに終ると思うし頑張ってくれよ」
「ほんとに?今日は早く終るんだね?」
僕は念を押した。
「ああ。後はもう一本取材があるけど、夕方には終ると思うよ。明日は昼過ぎにラジオの撮りだけど、朝はゆっくり寝れるだろ?」
僕は夕方には終ると聞いて、目を輝かせた―!
「やった!!じゃ、早く取材しちゃおう!とっとと終らせようよ!次の記者さん、早く呼んできて!」
僕は今までの疲れが吹き飛んだかのように叫んだ。
「お、おいおい…。リジー少し休ませろって言ったのはリジーだろ?そりゃ記者は呼べば、ラウンジで待ってるから、すぐ来るけどさ…」
アレクが驚いたように言った。
「いいよ!早く取材しちゃえば、もっと早く終るだろ?サッサと終らせよう!」
僕はソファーから立ち上がり、体を解すべく軽く体操なんぞ始めた。
そんなリジーを不思議そうに見つつも、アレクは自分の携帯でラウンジで待たせている記者を呼ぶため、電話をかけたのだった…。
「では、今日はありがとうございました!」 「残りの撮影も頑張って下さいね」
記者とカメラマンは、そう言うと部屋を出て行った。
僕はソファーから立ち上がって、う~んと伸びをしながら、アレクへ「もう今ので終わりでしょ?」と聞く。
「ああ、そうだよ。今日はもう終わりだ」
「やったぁ~!予定より早く終ったぁーーー!」
僕は両手をあげて、ずっと座りっぱなしだった体を伸ばす。
今は3時半すぎ。予定の時間よりも2時間近くも早く終っていた。
と言うのも、イライジャは取材を早く終らせたいために記者から質問されると思い切り早口で答えていったのだ。
今日までに同じ質問には何十回以上も答えているので、ほぼ何を言うのか暗記してるしスラスラと答えられる。
記者も驚いた顔をしていたが、どうせ聞き取れなくても取材は一応録音しているので記事にする時はそれを聞けば問題ない。
あとは余計な雑談を一切しないで、ほんとに質問だけに答えると言った感じだったのですぐに取材も終った。
だいたい取材と言うと、少しは関係のない話もしてしまう。
別に記事になるわけじゃないのに…。
イライジャは、そんな無駄な時間を一切はぶいたのだった。
「ね?アレク、僕、自分の部屋へ戻ってもいい?」
―この部屋は取材用に借りているだけだった。
「え?ああ、いいよ。今日は…夕飯はどこにする?疲れたならホテルのレストランにするか?」
「え?!い、いや!僕、ちょっと友達と会うよ…。せっかくニューヨークに帰って来てるのに全然会えなかったし」
「ああ、そうか。じゃ、今夜は友達とディナーかい?」
「う、うん。そうしようかな?」
僕は少し目を泳がせて答えるも、それを変に思ったアレクは突然、「まさか…彼女か?」と聞いて来た。
「えっ?!ち、違うよ!友達だよ、友達!男だよ!」
「ふぅーん、そうか。何だ、やっと彼女できたかと思ったのに」
と、アレクがつまらなそうに言った。
「か、彼女作る時間ないだろ?!こんなに忙しいんだからさ!」
僕は動揺を隠すために、わざと文句を言ってみる。
「そうか?今のクルーの中だって捜せるじゃないか。いい子はいないのかい?」
と、アレクはニヤニヤ。
「な、何が?今のクルーには…」
―いる…。確かにいるさ。でも教えないよ。
「別に、いい子なんていないさ」
僕は顔が赤くなったのを見せないように窓の方へと歩いてアレクへ背を向けた。
「ま、そういう事にしておこう。さ!じゃあ、部屋に戻ろうか?」
アレクは意味深な言葉を呟きながらも、荷物を持ってイライジャを促す。
僕は何だかアレクにまで自分の心の中を見透かされている気がして、内心焦ったが何ともないという顔でアレクの後ろからついていった…。
やっとホテルの自分の部屋へと戻り、一人になった僕は素早くシャワーを浴びて疲れた頭をスッキリさせた。
「あ~!気持ちいい!」
シャワーから出るとバスローブのまま、ソファーへと横になった。
そしてチラっと時計を見ると、午後4時半…。
(は…今頃は学校で特殊メイクの勉強中かなぁ…)
そんな事を考えつつ、何時頃に電話しようか迷っていた。
前もって電話すると言ったのに、いきなり電話して今夜誘うのはダメかなぁ…。
…予定とか入れてないよな…?
だって別に、こっちに友達がいるとか言ってなかったし…。
やっぱり6時過ぎにかけてみよう!
ダメなら、まだ3日あるし…その間に無理やり時間作って、また誘えばいい。
当たって砕けろだ! ―いや…砕けたくはないが…。
僕はそう決めると、もしOKだった場合、すぐに出られるように用意を始めた。
濡れた髪を乾かし服を選ぶ。
うーん…服装はどうしようかな…。
は年上だし…少し大人っぽい方がいいのかな。
でも初めて二人で会うのに、いきなりスーツ着て行くってのも、何だか"いかにも"って感じだし…。
アレコレと悩んだあげく…
下はジーンズで軽くして上に黒のタートルネック、皮の黒ジャケットというカジュアルだけど少し大人ぽい服装に決めた。
そんな事をしてたらアっという間に時間は過ぎていた。すでに5時54分。
(うわ…!もう6時まで10分もない…!あ~…緊張してきたぞ…)
イライジャは携帯電話を手に持ち、すっかり身支度を整えソファーに座った。
あとは電話をかけるだけ。
(でも…6時きっかりにかけるのも変だよなぁ…。6時以降って…どのくらいなんだ?!)
イライジャは、またそこで、う~ん…と頭を悩ませる事となった。
しかし、そうこうしている間にも時間は刻一刻と過ぎてゆく…。
気づけば6時7分だった。
「うわ…。過ぎちゃった…。ああ…心臓が口から出そうだよ…」
僕は心を落ち着かせるため独り言を呟く。
携帯を持つ手はジットリと汗が滲んでくる。
こんなに緊張するのは、いつ以来だろう…。初めて映画の撮影現場に行った時?
いや…女の子の事で、ここまで緊張した事は、あまりなかった。
だいたいが僕からではなく、向こうから告白をされた形で始まる付き合いが多かった。
それも僕はもともと友達として、その子の事を好きではあったからOKしたのだけど…結局、お互い若かったのもあり、
興味半分で関係を持って後は何となく忙しくて会えなくなり自然に壊れていった。
いや…今も若いのだけど…。 ―まだ十代だしさ。
は…初めて(と言ってもいいくらい)僕から好きになった人だった。
しかも日本人で年上…。
今までの相手とは全く違う。
を好きになってからというもの…初めて知った自分でさえ知らなかった自分…それが分かり、僕は戸惑った…。
焼きもちを焼いたり、周りが見えなくなったり、こんなに激しい感情が自分自身の中にあったのかと驚く。
「はぁ…これって本当の初恋ってやつなのかな…」
僕は溜息をつき呟いた。
(初恋って実らないっていうもんなぁ…)
そんな事を一人で考えて一人で落ち込んでいると、時間が経つのを忘れていた。
「ア!ヤバ!今、何時だ?!」
慌てて時計を見ると、6時23分だった。
ああ!もう30分近くも経ってる…!
…もうホテルへ戻ったかなぁ…。
気づけば携帯を持ってる手がさっき以上に汗をかいていた。
「よ、よし!かけるぞ…」
そう呟き自分で自分に渇を入れる。
携帯のアドレスでの名前を出す、そして電話をかけるための開始ボタンを押そうと指をボタンへかけた。
ちょっと手が固まってしまったものの、意を決し一気に押した…―!
プップップ…プルルルル…
携帯電話特有の呼び出し音が鳴っている。 ―この時が一番緊張する時だろう…。
プルルルルル……
暫く呼び出し音が続くと、イライジャも不安になってくる。
(まだ学校かな…。そんなはずないか…。それとも出れない状況なのかな…。もう切ろうか…。出ないや…)
イライジャはガックリと力が抜けはじめ、諦めて電話を切ろうとした、その時、かすかに、
「Hello...」という声が聞こえて、イライジャは慌てて携帯を耳へと戻した。
「Hel...Hello?!?」
『あ…リジー?!』
最後に会ってから、まだ4日ほどしか経っていないのに凄く懐かしく彼女の声が僕の耳に響いた。
「う、うん!今…大丈夫だった?」
『ええ。さっきホテルに戻って来て、今ちょっとシャワー浴びてたの。
出たら携帯鳴ってるのが聞こえて慌てて出たの、ごめんね?かなり鳴らした?』
「ううん!そんな事ないよ!僕こそ、ごめんね。変な時に電話しちゃって…」
僕は、の言葉に顔を赤くした。
(今シャワーから出たって事は、今、は…は、は、裸?!)
は!いけない、いけない!こんな事、考えたらに失礼だ…!
僕はその良からぬ想像を頭の中で打ち消した。
『リジー?もしもし?聞こえてる?』
暫く黙ってるのを電波が悪いと勘違いしたのか、が声をかけてきた。
「あ!ごめん!聞こえてるよ! …あ、あのさ、実は今日、急に仕事が速く終ったんだ…。それで…良かったら食事でもと思って…」
やっとの思いで僕は、そこまで言う事が出来た。
僕はからの返事をドキドキしながら待っていると…―
「ほんと?私、こっちに来てからずっと一人の食事だったから退屈だったの。誘って貰えると本当に嬉しいわ」
僕は、のその返事で、嬉しさのあまり心が躍って思い切りソファーから立ち上がると、
「ほんと?!こっちこそ良かった!じゃあ、どこかで食事しよう!」
と張り切って言った。
『ええ!じゃ、すぐ用意するわね。私、今まだバスローブのままなの』
がそう言って笑う。
僕はまたしても顔が赤くなり、いけない想像をしてしまいそうになった…。
が、何とか打ち消すと、
「じゃあ、用意終ったら電話してよ。あ、あと僕が迎えに行った方がいいかな?
、あまりニューヨークの地理分からないでしょ?」
『そうね…。迎えに来てくれるとありがたいかも…。私、この辺しか分からないし…リジー、このホテル知ってるんだった?』
「うん、分るよ。僕のいるホテルからも、そんなに遠くないからさ」
実はマネージャーにリクエストして、なるべく近いホテルをとって貰ってたのである。
『そう、良かった。じゃ、支度終えたら電話するわ』
「うん!待ってるよ」
『じゃ、後で…』
「後でね!」
そう言って電話を切ると、僕は思い切り息を吐き出し、ソファーへと倒れこんだ。
「はぁーーー……っ!!!緊張したら汗かいちゃったよ…。せっかくシャワー浴びたのに…」
たった10分もしない程度の会話だったのに全身の力が抜けたようだ。
僕はまた軽く汗を流すのにシャワーに入り、すぐ出てきて用意をしなおした。
そして緊張のあまり、カラカラに乾いてた喉を潤すために冷蔵庫からミネラルウォーターを出すと一気にそれを飲んだ。
時計を見ると、6時56分だった。
(女性の支度は時間がかかるからな…。7時過ぎくらいかな…)
そう思い、CDプレイヤーで元気の出るラテンミュージックをかけると気分を落ち着かせようとソファーへと座る。
そこへ大きな音で携帯が鳴り始めた。
から、かかって来た時に、すぐ聞こえるようにと着信音を大きく設定しておいたのだ。
.…のクセに、いつもより大きな音に僕はビクっとなった。
「ああ…ビックリした…。まさか?早いなぁ!」
そして慌ててソファー前のテーブルに置いてある携帯へと手を伸ばし、ディスプレイに出ている名前を確認した。
そして思わず、ギョ!…「うわっ!」と叫び、携帯をソファーへと投げ出してしまった…。
まるでバイキンを触ったかのように。
そのディスプレイに出ていたのは…
"公衆電話" ――だった…!
うわ!うわーーー!絶対、オーリーだ!!何で、このタイミングでかけてくるんだよ…!!思わずビビったじゃないか!
オーリーは近代文明についてこれてないアナログ人間のため、携帯というものを持ち合わせていない。
なので連絡をしてくる時、特に外出先からだと公衆電話からかけてくる事が多かった。
携帯電話は、まだ鳴りつづけている。
僕は恐る恐る、電話へと近付き、もう一度ディスプレイを確認してみた―!
が、やはり、そこにはシッカリと"公衆電話"と出たままである。 ―当たり前だ。
(うー…どうしよう?!出るべきか・…出ないべきか…)
僕は迷った。 ―が…。
すぐに心は決まった。
よし!軽ーーーーーく無視しようっ!!!!そうだ!そうしよう!
そう決めると僕は音が気になるので、ソファーにあった大きめのクッションを携帯の上に置いて(!)音が小さくなるようにした。
電話を保留とかにするのに、触って間違って出てしまわないようにだ。 (そこまでするか)
すると暫くして、音がやんだ。
僕は心底ホっとしてそろそろ…っとクッションをよけた。
「はぁ~…何だよ…。オーリー仕事じゃないのか?つーか、どこで仕事してるんだっけ?」
あの日、一緒に空港へは行ったが便が違うので搭乗手続き後に別れたままだった。
僕は別に興味がなかったので行き先すら聞いてもいない…(!)
すると、また電話が鳴り出した。
またもイライジャは、ビクっとなった。そーーっと携帯電話のディスプレイを見てみる。
それは今度こそ、""と出ていた。
慌てて、「Hello...!?」と出る。
『あ、リジー?私、。あの…用意終ったわ。遅くなってごめんなさい…!』
「全然!もっと遅いかと思ってたから…」
と僕はからの電話で嬉しいのと、彼女の謝る姿を想像して笑いながら答えた。
『あー、ひどい!これでも急いだのよ?』
少しスネたような口調でが抗議してくる。
そんな彼女も可愛いなと思いつつ、
「じゃ、今から僕、そっちへ向うよ。ホテルのロビーに着いたら電話する」
『分かったわ!ワンコールしてくれたら、私すぐ降りていくわよ?』
「ああ、じゃ、ワンコールするね!後で!」
『うん、待ってる』
そう言って電話を切ると僕は最後にが言った、"待ってる"という言葉に思わずニヤけてしまう。
("待ってる"…かあ。何て心地いい響きなんだろ!は今、僕だけを待ってるんだ!)
そう思うと胸の奥がキューンとして暖かくなる。 ―ドキドキも凄いけど…。
ああ~ほんと僕は今、恋をしてるんだ!
何だかそんな自分に嬉しくなってくる。
そして急いで部屋を出るとホテル前に泊ってるタクシーへと乗り込み、張り切って「ウィンザーホテルまで!」と言った。
この時、イライジャの頭の中からはオーランドから電話がきたという恐ろしい(!)事実はすっきり消え去っていた…。
プルルル…
僕はウィンザーホテルのロビーへ入る少し前に、にワンコールをした。
そして中へと入ると、エレベータ―から見えやすい位置へと立ち、彼女が降りてくるのを待つ。
待ってる間も心臓はドッキンドッキンと凄い速さで打っているのが分かる。
どこに連れて行ってあげようかな…。僕の知ってるレストランでもいいかなぁ。は何が好きなんだろう…。
そう言えば…僕は彼女の事を何も知らないかもしれない…。
今頃、そこに気づいた。
―いや…知ってるさ、彼女が凄い頑張り屋で、自分のことよりも、まず出演者やスタッフ仲間の事を先に考える、そんな優しい子だって事は…。
あとは好きな音楽…好きな香水…動物、特に哺乳類が大好きで、犬や猫を見て最高に優しい笑顔で撫でてあげてるっていうのも、
朝日を見て感動しちゃうって事も、涙もろくてリハーサルから感動して涙を浮かべて見てるって事も…。
ただ…知らないのは…好きな男性のタイプ(!)と好きな食べ物、嫌いな食べ物.…
の生い立ちや故郷の事…どんな家に育ったのかって事…。
僕はの全てが知りたいと思った。こんな風に思うのですら初めてだった。
―さて…どうしよう。この辺はレストランが少ないからなぁ…。五番街の南の方へ移動した方が良さそうだな…。
そんな事をボーっと考えていると、目の前に誰かが立った気がした。
てっきりかと思ってパっと顔を上げた―
「あの…!イライジャよね?」
そこには知らない女の子、3人が僕をキラキラした瞳で見ていた。
僕は驚いて、後ずさったが、「あ…はい…」と一応、答えた。
すると一際、甲高い声を彼女達はあげた。
「キャー!やっぱり!!似てるなって思って見てたんです!嬉しいわ、こんな所で会えるなんて…!」
「あの私達、あなたのファンなんです!もう出てる映画、全部見ました!」
「本物だーー!カッコイイ~~!やっぱり目が奇麗~!」
女の子の勢いは凄まじく、僕は慌てて、
「しぃ!静かに…!ここはホテルのロビーだよ?ホテル側に迷惑になるから…」
と、言うと彼女達も慌てて口を抑える。
「ご、ごめんなさい…!あまりに感動しちゃって…」
と胸を抑えながら頬を紅潮させた。
「あ、あの…握手して貰えますか?」
一人の子が、そう言って手を差し出してくる。
僕もそこは一応、俳優という立場なので、「ああ、いいよ」と快く彼女と握手をした。
すると他の二人も、「え!私も!握手して下さい!」「私も…!」と手を出してくる。
僕は笑いながら、二人とも握手をした。
その間に、最初に握手した子は何故か手にサインペンを持っている。
そして―
「あの…サインも…いいですか?」
とおずおずと聞いて来た。
「ああ、いいよ。どこに書けばいいの?」
僕はペンを受け取り尋ねた。
「あの…これに…」
と言って彼女が差し出したのは、何と僕のブロマイドのような写真だった…!
「え…これ持って歩いてるの?」
僕は驚いたのと少し照れくさいのとで思わず手が止まってしまう。
「はい!あの…ほんとにファンなんで…。手帳に入れて持ち歩いてます」
「そ、そうなんだ…」
僕は苦笑しながらも、彼女へ「きみ、名前は?」と聞いた。
「え?名前入れてくれるんですか?あの、私、ケニーです!スペルは、K.e.n.n.y」
僕は自分の写真に、"to Kenny..."と書いてサインを入れ彼女へと渡した。
すると彼女は目に涙をためて、「ありがとうございます!感激です!」とお礼を言ってきた。
そこへ「ケニー、ずるい!私もサイン欲しいー!」「私も…!」と他の二人からの抗議の声があがり、
結局、僕は他の二人にもサインを書いてあげた。
他の二人は写真ではなかったので少しホっとしたが…。
「うわー嬉しい!宝物にしますー!」
と喜んでいる彼女達を見てると、僕はもともと気分も良かったのもあるが、何だか嬉しくなり、
「こちらこそ、応援してくれてるようでありがとう」
と言った。
そこへ…が降りてきたのが見えて、僕は焦って思わず、「…!」と声をかけてしまった。
は僕の方へ視線を向けて気づいた様子。
だが…女の子3人に囲まれているのを見て目を丸くして驚き、パっと顔をそむけてしまう。
目の前の3人も、視線はの方へと向けられていた。
僕は気にしないで、「ごめん、彼女と待ち合わせてるんだ」と言った。
そしての方へと歩いて行った。
するとは何故か僕から遠ざかるように歩き出した。
「?待ってよ!」
僕は慌てて彼女の腕を掴む。
「、どうしたの?」 そう聞くとは小声で、
「だって…。彼女達、リジーのファンでしょ?私なんかが声かけてしまったら誤解してしまうわ」
と言った。
僕は少し驚いて、
「そんな事、気にしてるの?大丈夫だよ、そんなの」
「でも…」
が何か言いかけた時、いきなり、「あのぉ~…」と声が聞こえる。
僕が振り向くと、そこには先ほどの女の子3人が立っていた。
「あの…イライジャの…彼女ですか?」
僕の写真を持っていたケニーが、おずおずと聞いて来た。
僕はいきなり、そんな事を聞かれて動揺してしまい、「え?!いや、あの…」と返答に困っていると、が慌てて、
「ち、違うのよ!私は今撮ってる映画のスタッフなの!今日は仕事があって…」
と彼女達へ訴えている。
「そうなんですか…。でも、もし彼女だったとしても誰にも言いませんって言いにきたんです」
とケニーという女の子が微笑んだ。
僕はあっけに取られたが、まあ彼女達もが顔をそむけたのを気にして、そう言いにきてくれたんだろうと思い、
「ありがとう。でも残念ながら、彼女は僕の恋人じゃないんだ」
と答えた。
(これでも僕は頑張った方だ…!)
そう言うとケニーはキョトンとしていたが少し微笑むと、
「じゃ、私達はこれで…。あの本当にありがとうございました」
と頭をさげ歩いて行った。
他の二人はまだの事が気になるのか少しだけ振り返りながらもケニーの後をついて行ってしまった。
僕は気を取り直して、の方へと向き、「さ、行こうか?おなか空いたよね」と微笑みながら声をかける。
するとは困ったような顔をして、
「リジー、さっき言った事、彼女、誤解したんじゃない?残念ながら…っていうの」
「ああ、別にいいよ。彼女達も黙っててくれるって言ってたしさ」
僕はそう言いながら、誤解じゃないよ…と呟いていた。
「それより、早く食事に行こう、僕お腹ペコペコだ!」
と大げさにお腹を抑えるとも笑って、「そうね、行きましょうか」と微笑んでくれた…。
僕とはホテルを出ると右に曲って、アベニュー・オブ・ジ・アメリカンズを歩いて行った。
ここを真っ直ぐ行くと左手に何件かレストランがある。
「、何食べたい?イタリアン?フレンチ?それとも…やっぱり日本食かな?」
「え?日本食レストランもあるの?」
「あるよ、この近くに。そこも結構、美味しいよ」
僕は前に何度か行った事のある日本食レストランを思い出していた。
「じゃあ…そこがいいな…。最近、ずっと食べてなかったから…和食が食べたい!」
とも嬉しそうに答える。
「よし!じゃあ、決まり!そこへ行こう」
そう言って僕は、その日本食レストランへと歩き出した。
「うわー美味しい!リジー、このお刺身、結構イケるわ!」
は嬉しそうに、お刺身を食べている。
僕はその顔を見てるだけで満足だった。
僕らは五番街の中心部、南に位置する場所にある日本食レストラン【紅花】の二階、
お座敷風掘りごたつの部屋へと案内され食事を楽しんでいた。
僕はシュリンプが大好きなので、それの天ぷらを沢山頼んでいると、が、「そんなに油もの食べれるの?」と驚いていた。
彼女は今、日本酒なるお酒を飲んで頬が、うっすらとピンク色に染まり凄く可愛かった―!
僕も、その日本酒なるものを、小さな"お猪口"という入れ物で飲んでみた。
が…口に広がるモワーっとした酒の味が僕にはダメだった…
ので、今は白ワインの辛口を飲んでいた。
よくよく考えると、こうしてと二人きりで食事をするなんて初めてで僕はマジマジとこの状況を考えて胸がドキドキしてくる。
チラっと目の前のを見ると、彼女は美味しそうに、今度は鮪の頬肉をパクついて、「美味しい!」と感動していた。
僕はそんな彼女を見てると自然に笑顔になってくる。
(今夜こそ…言えそうな気がするよ…)
僕は告白しようと決心していた。
今日しかない!僕には今日しかないんだ…!
またニュージーランドへ戻ったら、いつ邪魔が入るか分からないんだから…。
でも…もし…だめだったら…ロード…の撮影は、まだまだ続く。
そうなると、お互い気まずくなるのは目に見えている。
そう考えると、僕の決心はもろくも崩れ去っていくのだった…。
「リジー?どうしたの?黙っちゃって。もう酔ったの?」
とは可愛い笑顔で聞いてくる。
「ううん…!酔ってないよ!ちょっと…変な気がしてさ、こうやって二人で食事するのって初めてだから…」
そう言うと僕はの反応を伺った。
「そうね!ニュージーランドでは、いっつも大勢で食べに行ってたし。今日は大騒ぎするオーリーとヴィゴもいないしね」
はそう言うとニッコリ笑って僕を見る。
僕はその笑顔にドキっとしたが彼女の答えの中にオーリーの名前が出てガクっとした。
まあ、ヴィゴもだが…。
確かにあの二人が揃うといっつもジョークでだけど、うるさいくらいに言い合いが始まって落ち着いて食事どころじゃないしな…。
ああ…!ダメ!ダメ!
せっかくニュージーランドを離れて、今、と二人きりでいるのに、オーリー達の事なんて思い出してる場合じゃない!
僕は気をとりなおして飲み物を追加しようとメニューを見ていた彼女へ、「、今度何飲む?」と笑顔で聞いた…。
「あー風が気持ちいい!ね?リジー」
はアルコールで顔が熱いのか、ニューヨークの冷たい風にあたって目を閉じている。
僕も少し酔っていたのでと同じく冷たい風が気持ち良かった。
(まだ…帰したくないな…)
僕は気持ち良さそうに風に当たっているの横顔を見つめながら、ふと、そう思った。
時計を見ると、まだ9時半になるところ。
僕はある事を思いついてへ声をかけた。
「ね?、スケート滑りに行かない?」
「え?スケート?やれるとこがあるの?」
「うん、この近く…って言っても少しだけ歩くけどね」
「えー行きたい!歩いているうちに酔いも冷めそうだし」
嬉しそうにが微笑む。
僕はホっとして、「そうだね、じゃ、歩いて行こうか」と言うと、が突然、僕の腕を掴んで、「早く行こう!」と走り出した。
僕はドキっとしながらもが酔っているからハイなんだと言う事も分かっていたので、
「待ってよ!走ったら余計に酔っちゃうよ?」
と苦笑いしながらも腕を離す事なくのあとをついていく。
が触れている部分が緊張して、ちょっと顔が赤くなってしまい、
気づかれないかと不安に思いながら、今この時間二人でいる事を幸せに感じていた。
そのスケートリンク場はセントパトリック教会のすぐ近くにあった。
「キャー!!滑る…滑るーーー!」
ズテン!と派手な音をさせて、が転ぶ。
僕は慌てての側まで滑って行き彼女の腕を掴んだ。
「!大丈夫?!」 心配して声をかけると、は、
「アハハハ!いった~~~い…!久々に転んだ…!」
と大笑いしている。まだ酔ってるのかもしれない。
「もう~!危ないよ、は!滑れないなら言ってくれれば良かったのに~」
僕は苦笑いした。
ノリノリでスケート場へと僕を引っ張ってきたが中へ入った途端、
「私、小学生の頃以来、滑ってないの」
と笑顔で行った時はさすがに僕も肩がズリっと落ちた。
僕が「大丈夫?」と聞いても彼女は、
「大丈夫よ、スケートくらい滑るだけでしょ?」
などど呑気に言って、サッサと靴を借りて氷の上へと出てしまった。
いきなり勢いをつけて氷の上に出たものだからは真っ直ぐ滑って行ってしまい、あげく止まる事が出来ずに、
今、思ったとおり派手に転んだのである。
「ほら。お尻が冷えちゃうよ」
僕は笑いながらへ手を差し出した。
「ありがとう、リジー」
そう言っては僕に寄りかかるようにして立ち上がる。
僕の顔のすぐ近くにの頭がきて、僕はドキドキしてしまった。
(こんな向かい合って体を寄せた事ないよ…)
「リジースケート上手ねー!驚いちゃった!」
は僕のそんな気持ちに一向に気づかず、僕の事を誉めている。
「そりゃー子供の頃から滑ってたからね!」
「はぁー日本だとスケートより、スキーとかスノボーやる人の方が多いからなぁ…」
「へぇー、じゃ、はスキーとかスノボーは出来るの?」
「へ?私?私は― …やった事ない…」
と恥ずかしそうに笑っている。
僕は思わず吹き出してしまった。
「プッ!アハハハハ!…じゃ、じゃあは何もスポーツしてないじゃないか!」
「ちょっと!笑うことないじゃないの~…」
も頬を膨らませて怒っているが、その顔もまた可愛い。
「だってさ…。今の口ぶりじゃ、スキーはやった事あるのかなって思うよ~」
僕がまだ笑っていると、
はますますスネた顔をして、「もう!リジー笑いすぎよー!」とプリプリ。
「アハハ…ごめん!ごめん!」
僕は素直に謝ると、の頭を軽く撫でた。
「じゃ、僕がスケート教えてあげるよ」
と、言ってへと手を差し出した。
は、まだ頬をプーっと膨らませていたが、その手を見る、ちょっと上目遣いに僕を見てそっと繋いできた。
その可愛さに僕は今ここで抱きしめたくなったが、グっと堪え、「じゃ、行くよ?」と言ってゆっくりと滑り出した。
「わ…!わ…!リ、リジィ…手、離さないでね!」
は一度転んだので、怖さを思い出したのか、繋いでる手に力を入れて必死に訴えている。
僕は、そんなが可愛くて仕方なかった。
彼女が怖がらないように、ゆっくり滑っていく。
「、大丈夫だろ?バランスさえ崩さなかったら滑れるよ?」
「で、でも…足がガクガクするわ…っ」
「それは力入れすぎだからだよ。体の力を抜いて滑れば大丈夫」
「ダ、ダメよ…リジー離さないでよ?」
は僕が手を離すんじゃないかと心配している様子。
(離すわけないじゃないか…。出来れば、ずっとこうして手を繋いでいたいよ…)
心の中で、そう思いながら可愛く必死な顔で滑っているを見てそっと微笑んだ。
その時、かすかに、僕があげた、BABY DOLLの香りがした…。
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