The present of holy night...〜クリスマス、ハリソン家は大騒ぎ〜後編









<<25 days.Chrismas>>











ジリリリリリーー




「ん〜……ぅるさいぃ……」

目覚ましの音が鳴り響き、私はモソモソっと手だけ伸ばし、それを止めた。

「ふぁぁ……」

大きな欠伸と共に、そっと体を起こすと、思い切り伸びをする。
今日はクリスマス。
そう思うだけで眠気も吹き飛んでしまう。

「さ…頑張って準備しようかなぁ…」

そう呟いてベッドから下りようとした。
その時、ふと隣に誰かが寝ているのが見えてギョっとした。

「オ、オーリィ……?」

少しだけ布団から出ているクリクリっとした髪の毛で、それがオーリーだと、すぐに分かる。

「ちょ…何で私のベッドにオーリーが……」

いつものサプライズをしに来て寝てしまったのだろうか…それにしても…
私は、そっと布団を捲ってみた。
するとオーリーは、いつもの様に丸くなって眠っている。

「もう…!勝手に入って来たのね?酔って部屋間違えたのかな…」

そんな事を呟き、オーリーの体を揺さぶった。

「オーリィ…!起きてよ、オーリー!朝だよ?」
「…ん〜………っ」

思い切り揺さぶると、やっとオーリーが動いてゴシゴシと目を擦っている。

「…んあ……」
「オーリー?起きた?」

そう言って顔を覗き込むと、寝ぼけ眼のオーリーと目が合うも心なしか赤くなっていて首を傾げる。

「オーリィ…どうしたの?目が赤いけど……もしかして寝たばかりなの?」
「あ…〜…っ」

もう一度声をかけると今度こそ起きたようでオーリーはガバっと起き上がった。

「おはよう。もう…どうして、ここで寝てるの?間違えちゃった?」
……」

苦笑しつつ、そう言うとオーリーは突然、目に涙を浮かべ、私は驚いた。

「オーリィ…どうしたの…?」
「うわーん、〜〜〜っっ」
「キャ…っ!」

突然、抱きつかれて私は大きな声を上げてしまった。
だがオーリーはおんおんと泣いているし離してくれない。
そこに、その声で起こされたのか、レオとジョシュ、リジーが飛び込んで来た。

「ど、どうした?!あ!!オーランド!!」
「おま…何してんだ?!」
「またサプライズ〜?!」

レオとジョシュが目をむいて私に抱きついているオーリーを引き剥がした。
リジーは眠そうに目を擦りながら溜息をついている。だが、それでもオーリーは泣きやまない。

「どうしたんだ?こいつ…」
「わ、私にも、よく分からないの…。今、起きたら隣にオーリーが寝てて…起こしたら突然、泣きだしちゃって…」
「はあ…大方、怖い夢でも見たんだろ?おい、オーリー、どうしたんだよ…」

レオが溜息をついてオーリーの顔を覗き込むと、今度はレオに抱きついている。

「レオォォォオ〜〜〜っっ」
「うわ、何だよ、離せって!」

レオが慌ててオーリーをひきはがそうとすると、オーリーが涙で濡れた顔をガバっと上げた。



「俺……俺、振られちゃったんだよ〜〜っっ」


「「「ぅえぇーっっ?!」」」



オーリーの一言に、その場にいた全員が驚き顔を見合わせた。
まだ眠そうにボーっとしていたリジーも今ので目が覚めたのか口をポカンと開けている。

「ふ、振られたって…あの…彼女にか?」
「そぅだよ〜〜…っっ。よりによってイヴの日に…っっ」

オーリーはそう言いながら、グスグスと鼻を鳴らし、レオにしがみついている。
それにはレオも顔を顰めて、

「おい…鼻水つけるなよ?このナイトウエア高いんだからさ…」

と呟いた(!)

「と、とにかく…オーリー、落ち着け…。な?話は聞いてやるから、まずは、その顔を洗ってリビングに来い」

ジョシュが冷静にそう言うとオーリーの頭をポンポンっと叩いた。
そこで、やっとオーリーもレオから離れる。

「じゃ…へ…部屋で…シャワー入ってくるよ…。グス……」

目を擦りながら、そう言うとオーリーは静かに私の部屋を出て行った。
それを見届けると、レオもジョシュも思い切り息をついている。

「ったく……朝から驚かせてくれるよ……」
「ほんとだな…?まあ、いつか振られるとは思ってたけどさ。ああ、それでへコんで帰って来て、に慰めて貰おうと部屋に来たけど、
が寝てたから隣に潜り込んだんだな、きっと」
「あ〜そうかもね〜。一人で寝るのが寂しかったんだろ?」

リジーもそう言って苦笑すると、大あくびをした。

「ふぁ〜僕もそろそろシャワー入って準備しないと……」
「あ、そうだな。俺もそうしよう…。は〜最悪な目覚めだよ…。、大丈夫か?」

レオが苦笑いしながら私の頭を撫でてくれる。

「うん、大丈夫よ?驚いたけど…。あ、私も準備しなくちゃ……」

そう言ってベッドを下りると、ジョシュが頬にキスをしてくれた。

「俺も用意するよ。父さんも起こさないと…」
「ああ、夕べ少し飲みすぎたしな?」

レオも、そんな事を言って肩を竦めている。大方、3人で遅くまで飲んでたんだろう。

(もう…早く寝てって言ったのに)

私は心の中で苦笑しつつ、バスルームへと向かった。
そこで簡単にシャワーを浴びると素早く着替えて下へと下りる。
するとリビングからオーリーの声が聞こえてきた。

「…でさ…会いたいって言うから、てっきりイヴのデートのお誘いかと思ってバーで待ち合わせたんだ…。俺もプレゼント持って急いで行ったらさ…
何だか知らない男と一緒に来てて…。"この人のことが好きなの"って言うんだよ?!最悪だろ?!」
「わ、分かったから…落ち着け、オーリィ…。ほら鼻水出てるぞ…?」
「サンキュ、ジョシュ……」

中を覗けばジョシュがオーリーにティッシュを渡している。
レオはバスローブ姿で呆れた顔をしつつも話を聞いてあげてるようだった。

「あ、〜〜〜っっ」

私がリビングに入っていくと、またもやオーリーが抱きついて来た(飛び掛ってきたと言った方が正しいけど)

「オーリィ……泣かないで?また素敵な人が現れるわよ…ね?」
「ううん…もう彼女なんていらないよ…。俺にはだけいてくれればいんだ…」
「オーリィ…そんなこと言わないで…。ね?今日はクリスマスだし、皆で騒いで忘れようよ」

私は抱きついてくるオーリーの背中を擦りながら、優しくそう言うとレオとジョシュもうんうんと頷いている。
そこへリジーが入って来た。

「オーリーが彼女をほったらかしてたから振られるんだよ。仕方ないんじゃない?」
「ちょ…リジィ…っ」

リジーは呆れたように、そう言ってオーリーの頭を小突いている。

「うるさい!そんなの分かってるよっ!で、でも…何もイヴの日に、しかも新しい恋人を連れてくる事ないだろ?!」

ガバっと顔を上げてオーリーが叫ぶと、リジーも肩を竦めてソファーに座った。

「ま、諦めついていいじゃん」
「そうだぞ?オーリー。そんな子、さっさと忘れて新しい恋をしろ」

レオも吸っていた煙草を消すと、そう言ってオーリーの肩をポンポンと叩いた。
するとオーリーもグスグス言いながら、小さく首を振る。

「もう恋なんてしないよ……。俺はがいればいい…」
「また、そんなこと……。オーリーモテるんだから大丈夫よ。ね?」
「いいんだ……。どうせ、また振られるのがオチさ……」
「オーリィ……」

私は何て答えていいのか分からず、困っているとレオが溜息をついて立ち上がった。

、もう放っておけよ。オーリーの自業自得だしさ?それより、そろそろ用意しないと時間なくなるよ?」
「でも……」
「俺なら大丈夫だよ…。ちゃんと自分の仕事はするからさ。もやること沢山あるんだろ?」

オーリーがやっと少しだけ笑顔を見せてくれた。

「オーリィ…大丈夫?」
「ぅん…。何かしてた方が気が紛れるし……大丈夫。今夜、皆で騒げば元気になるよ…」
「そう…そうね?じゃあ…今夜は思い切り騒ぎましょ?」
「うん!」

オーリーはニコっと笑って鼻をすすると、ゆっくり立ち上がった。

「よし。じゃあ、オーリーは庭の方をやってくれるか?俺はリジーとリビングの家具を移動させるから」

レオがそう言ってオーリーの肩を叩くと、「OK。何でもやるよ」とオーリーが庭に出て行く。
その後姿を見ながら、レオとジョシュ、リジーもホっとしたように息をついた。

「はぁ……ったく…。あんなヘコむくらいなら普段から彼女を大事にしたらいいのに」
「まあまあ、レオ。それは無理だろ?俺達が一番、よく分かってる」

ジョシュは、そんな事を言ってリジーにも目で合図している。
リジーも苦笑しながら頷いた。

「そうそう。暫くはフリーの方がいいよ。特にオーリーはさ」
「どうして?」

私が首を傾げつつ、そう聞けば3人ともニッコリ微笑んだ。

「そりゃ我が家のお姫様が心配で他の女の機嫌を取ってる暇がないからだよ?」
「その通り。俺らにはがいればいいんだってことかな?」
「ま、こんな兄貴だからさ?言い寄ってくる女性がいても、そのうち愛想着すよ、きっと」

レオ、ジョシュ、リジーは、そんな事を言って、順番に私の頬にキスをすると、

「さ〜てと、じゃあ準備でもするか」
「じゃあ、俺はオーリーを手伝ってくるよ」
「ああ、頼むよ、ジョシュ。時々オーリーにティッシュでも渡してやって」
「あはは。そうするよ」

レオの言葉に笑いながらジョシュも庭へと出て行った。
レオとリジーはリビングの物を動かすのに、二人で相談している。
私は、そんな二人を見ながら、ちょっと微笑むとキッチンの方へと歩いて行った。

はあ……朝から、どうなる事かと思ったけど…良かった。
オーリー可愛そうだけど…彼女もきっと寂しかったのかもしれないなぁ…
だって自分より妹を大事にしてる恋人なんて、やっぱり嫌だよね…。ほんと皆は過保護なんだから…

そんな事を思いつつ苦笑が洩れる。

「あ、、おはよう」

キッチンに行くとエマが忙しく動き回りながら準備をしている。

「おはよう、エマ。まず何から作る?」
「そうねぇ。じゃあ先にプリンから作りましょ?」
「分かったわ?じゃ、そっちは私がやる」
「ええ、お願い」

私はエマにクッキーを任せると、急いでプリンを作る用意をし始めた。










オーランド





「はぁ……」
「おい…大丈夫か?ほんとに」

僕が知らず溜息をついていると、ジョシュが心配そうに振り返った。

「うん……まあね」
「そんなに好きだったのか?」
「え?あ……どうだろう…。よく分からないよ…可愛いな…とは思ってたし、それなりに好きだったとは思うけどさ」
「そりゃ彼女は、寂しかっただろうな?」
「え?」
「知らないうちに、そういう気持ちが表に出てたんだろ?それでも、よく我慢したと思うよ。今回は長かったじゃないか」
「そう…だね…。アニスは優しいから、つい甘えちゃってたのかも……」
「ま、仕方ないよ。女は寂しいのが一番嫌なんだから。近くにいた男に走るさ」

ジョシュは、そんな事を言いながら庭にテーブルを並べている。
そう…昨日、アニスが連れてきた男は、今、一緒に映画に出てるという男だった。

「ジョシュ…」
「ん〜?」
「アニスの新しい恋人ってさ…」
「ああ…誰?知らない奴なんだろ?」
「ぅん…。でも共演してる奴で…」
「え?ってことはも知ってるって事か…?」
「そう。今、一緒に共演してるんだからね」
「へぇ…ま、はオーリーとアニスのこと知らないからな。その事も知らないんだろうけど」
「あ〜あ〜。今頃、そいつと一緒かぁ〜」

僕は空を見上げながら、そう呟くとジョシュが苦笑している。

「やっぱ辛いか?」
「ん〜。でも思い切り泣いたらスッキリしたよ。ま、いつもの事さ〜」

僕はちょっと笑って、そう言うと椅子をテーブルの方に運んで行った。
ジョシュは何も言わず、ただ僕の頭をクシャクシャっとやって、椅子をテーブルの前に並べている。
その弟の優しさに僕は胸が熱くなった。

「ジョシュゥ〜〜〜〜っっ!!」
「うぁ!ちょ…何だよ、オーリー!!」
「何だ、かんだ言っても優しい弟よぉ〜〜〜!!お前が振られたら今度は兄ちゃんが慰めてやるからなぁ〜っっ」
「い、いいよ!振られる予定なんてないから!」

ジョシュはしがみついている僕の頭をガスガス殴りながら逃げ出そうともがいている。
それでも離さず、僕はギュ〜っと抱きつくと親愛の意を持って無理やり頬にチューっとしてやった(!)

「うわぁぁぁっっや、やめろおーーーっ!!」

その瞬間、ジョシュは鬼のようにジタバタ凄い勢いで暴れ出した。
それを見て僕は大笑いしながら手を離してやる。

「エヘへヘ〜感謝の気持ちだよ〜」
「い、い、いらねーよ、そんな感謝!!!うぇ〜〜最悪だ…っ!オーリーのアホめ…っ」

ジョシュは頬を服の袖で拭きつつ、ブツブツ言いながらテーブルクロスを探している。
そんな後姿を見ながら僕はちょっとだけ微笑むと、

「ジョシュ〜〜っ。そのテーブルクロス、こっちがいいんじゃなーい?」

と走って行く。
それにはジョシュもギョっとして、「こ、こっちに来るな!!」と言ってテーブルクロスを放ってきた。

「何だよぉ〜〜う!そんな逃げなくてもさ〜っ」
「うるさい!その無意味なスキンシップ直せよ!」
「無意味なんて!俺は親愛の情をだな〜っ」
「わ、分かったから、サッサと終わらせるぞ!今日は夕方、教会に行かないといけないし、
その後には父さんのプレゼントがに届くんだ。それも運ばないといけないだぞ!」
「あ〜父さんのプレゼント〜イタリア製のソファだったっけ…って………あぁ!!」
「な、何だよ!ビックリするなあ!」

僕は突然、ある重大な事を思い出し大声を上げ、その声に驚いたのかジョシュが飛び上がっている。

「ま、まずい…取りに行くの忘れてた…っっ!!」
「は?何をだ?」

ジョシュが訝しげな顔で僕の方に歩いて来た。

の…」
「え?」
のプレゼント!!昨日、取りに行く筈だったんだ!でもアニスの事があって、すっかり忘れてたよぅ!」
「あ〜そのまま帰って来ちゃったんだろ?バカだな〜っておい、オーリー!!」
「ごめん、ジョシュ!!俺、ちょっと今から取って来るから一人で準備してて!」
「はあ?!そんな一人でって、お〜〜い!」

後ろでジョシュが叫んでいるのが聞こえたが僕は無視して走って車庫に向かう。

急いで愛車に乗り込むとエンジンを思い切りふかし、そのまま勢いよく発車させたのだった。











イライジャ





「あれ?ジョシュだけ?」

僕は庭を覗いて、ジョシュが一人でブツブツ言いながら作業してるのを見て首を傾げた。
その声にジョシュが振り向き徐に顔を顰める。

「それがさぁ…。オーリーの奴、のクリスマスプレゼント取りに行くの忘れてたみたいで、今、慌てて取りに行っちゃって…」
「えぇ?そうなの?ああ、昨日は色々と大変だったようだしね?」

僕がちょっと肩を竦めて笑えば、ジョシュも仕方ないって顔で両手を広げている。

「まあ、一人でも何とか終わりそうだよ」
「僕手伝おうか?」
「大丈夫。後はクロスかけて花飾ればいいだけだし」
「そう?じゃあ頑張って!風邪引かないでよ?」
「ああ」

僕はジョシュに手を振って中へ戻るとレオがキッチンから色々な酒のボトルやカクテルのセットを運んで来た。

「これ最近、使ってないから出来るかな…」

そんな事を言いながらカウンターへ並べている。
だいたいレオはカクテルを作るのが上手いのでパーティとかではバーテンダーの如く、色々なカクテルを作ってくれるのだ。

「レオなら大丈夫だろ?」

僕がそう言ってバーカウンターの椅子に腰をかければレオも小さく笑っている。

「それよりとエマはどんな感じ?」
「ああ、そろそろ出来上がるってさ。もうシェフも来る時間だろう?」
「だね。父さんは?」
「ああ、書斎で次の作品の台本読んでるってさ」
「そっか。ま、父さんが来ても邪魔になるだけだしね。あの人、何にも出来ないんだもん」

僕は酷い事を言いながらカクテルグラスを簡単に並べていく。
そこへが歩いて来た。

「あ、レオ、リジー。もう終わったの?」
「ああ、後は庭の方だけかな?」

レオはそう言いながらの頬にキスをすると、僕の方を振り返った。

「そう言えば…やけに静かだけどオーリーの奴、まだヘコんでんの?」
「ああ、オーリーはちょっと用を思い出して出かけたってさ」
「え?じゃあジョシュ一人でやってるのか?」

レオは驚いたようにと顔を見合わせている。
僕はちょっと笑うと、「あ、でも、もう終わりそうだったよ?」と付け加える。

「そうか…。ったくオーリーの奴…」

レオは呆れたように呟きながら軽く息をついた。
そこへチャイムが鳴り、エマがパタパタ走ってくる。

「どうやらシェフが到着したようだな」
「うん。あ、僕、ゲストルームの用意もしてくるよ。また誰か酔いつぶれて泊ってくかもしれないし、ダンも来るだろ?」
「ああ、頼むよ」

レオは、そう言って手を上げると、またカウンターの準備にかかった。
は慌ててキッチンに走って戻って行く。
きっと最後の仕上げでもあるんだろう。
僕は、そのまま二階に上がり、ゲストルームで使うものを部屋へ持って行く。
バスタオルに新しいシーツ、バスローブ、ナイトガウン。
これらの物はエマが別の部屋にしまっておいてくれている。

「はぁ…ドムとか絶対、泊って行きそうだ…」

ちょっと苦笑しつつ、ベッドメイクを開始した。
まあ、父さんやレオに目を付けられてるから、早々にには近づけないだろうけど、無理やり酔ったフリとかして泊るとか言いそうだな。
僕は別にいいけど、レオがなぁ…またイジメないといいけど。
今夜はダンだって来るんだし……あ〜ほんとモテる妹を持つと兄貴は心配が耐えないよ…

そんな事を考えながら簡単にベッドメイクを済ませると時計を確認した。
ちょうど昼の12時半。
あと4時間くらいしたらを連れて教会に行かないと…皆が来るのは6時頃だろうし。

「ふぅ……さて、と、次の部屋もやっちゃおう」

バスタオルやシーツを持ちながら廊下に出て隣の部屋へと向かう。
その時、ジーンズのポケットに入れてある携帯が鳴り出し、僕はシーツをベッドに放るとディスプレイを確認してみた。

「あれ?ダンからだ」

それは今日来る予定の従兄弟、ダンからだった。

「Hello?ダンか?」
『あ、リジー?僕』
「ああ、どうした?仕事終ったのか?」
『あと一つだけインタビューがあるけど、やっと、それで終わるよ〜!ほんとは昨日のうちに行きたかったんだけど』
「そっか。お疲れさん!で、夕方くらいには着くのか?」
『うん。そのつもり。皆、今、準備中?』
「ああ、もう朝から体動かしてるよ」

僕は苦笑しながらベッドに腰をかけて軽く息をつく。
ダンは楽しげに笑いながら、

「そっか〜。そうだろうと思って家にはかけなかったんだ」

と言った。
ダンは年も、まあ近いからか、うちの兄弟の中では僕に一番懐いている。
だからか、こうして個人的に携帯の番号も交換し合っていたのだ。

『ね、は?何してるの?』
「ああ、今はエマとキッチンで色々とね。代わろうか?」

笑いを噛み殺して、そう言うとダンは何となく照れている様子だ。

『い、いいよ…。忙しいだろうし…。あ、ヤバ…マネージャーが呼んでる…。じゃ、後で行くね?皆に宜しく!』
「ああ、分かった。じゃ、インタビュー頑張ってな?」
『うん。ありがと、リジー。じゃね』

そこで電話が切れて僕はちょっと微笑むとベッドから立ち上がった。
そこへ、またも携帯が鳴り響く。

「げ…ドムかよ…」

ディスプレイにはドムの名がドーンと出ていて僕は苦笑した。

「Hello?ドム?」
『お?リジー?メリークリスマース!』
「メリークリスマス。相変わらずテンション高いね?」

受話器の向こうから明るい声が聞こえて来て、僕は、そう言いながら軽く溜息をつく。

『あったりまえだろう?!今日はクリスマスだぞ?!しかも愛しのに会えるんだ。これで元気じゃなくて、いつ元気になれと?!』
「はいはい…。分かったよ…。で…どうしたの?」

ドムのテンションの高さに、まだ僕はついていけず呆れたように問い掛けると、ドムは咳払いなんかしている。

『んっんっ!じ、実はだな……』
「うん」
『今、ティファニーにいるんだけど…』
「……は?ドムが?ティファニー?!」
『な…何だ?俺様がティファニーにいて何か問題が?』
「いや、別に……で?」

あまり突っ込むと、うるさいのは分かっているので、それ以上は僕も聞かない事にした。
するとドムが途端に小声で話してくる。

『実はリジーに聞きたいことがあって………』
「何さ?の指輪のサイズでも聞きたいって?」
『んな…!!な、何で分かったんだっっっ?!!』

ドムの絶叫に近い声に顔を顰めつつ思い切り溜息をついた。

「あのねぇ……。ドムのやる事なんて、直ぐ分かるっての。ティファニーって聞いた時点で怪しいしさ〜」
『な、何が怪しいんだ!失敬だな、お前!』
「ちょ…ドム…そこ店内だろ?あまり大きな声出すなよ……」
『わ、分かってるよ…! ――どうも、すみません…』

ドムは恥ずかしそうに謝っていて僕は噴出しそうになった。
大方、店員の女性に睨まれたのだろう。

『お、おい、リジー。いいから早く教えてくれ。の指輪のサイズは何号だ?』
「10号」
『何?!そ、そんな大きいのか?』
「どこがさ?細いだろ?中指は」

僕が笑いを噛み殺して、そう言いのけると、ドムの絶叫がまたも轟いた。


『バ、バ、バカか、お前はぁ!!誰が中指のサイズを聞いとんじゃーー!!!薬指に決まってるだろうがぁっっ!!』


そう来ると思っていたので、僕は携帯を耳から少し離しておいた。
だが、受話器の向こうで、

『――あの…お客様……もう少しお声を下げて頂けますか…?――はっ、す、すみませんっ!』

なんて会話が聞こえて来て溜まらず噴出した。

「あはははは…っ」
『ぬ…。何がおかしい…っ。お前のせいで…』
「はいはい…悪かったよ…。で、の薬指のサイズだろ?」
『当たり前だ!何号だ?早く教えろよっ』
「え〜っとぉ〜〜確かね〜〜……」
『…………あ、ああ…』
「……あ、いっけね!レオが来たから切らないと!」
『な、何?!マフィアのド…い、いやレオお兄様が?!』
「ぷっ………ぅ、ぅん…じゃあドム、6時くらいには来いよ?じゃーねぇ〜っっ」
『え?ちょ…リジー、サイズ……っ』




ピッ!




そこで勝手に電話を切ってから僕はベッドに転がって大笑いした。

「ぁはははは…ド、ドムってば、ほんとレオに弱い…プハハ〜」

別に、本当にレオが来たわけじゃない。
だっての薬指のサイズなんて教えたら、ドムの奴、絶対エンゲージリングとか買ってくるしね。
そんなのレオにバレたら僕までとばっちり受けちゃうよ。


「ったく、ドムもめげないよなぁ〜。はやらないって言ってるのに」


僕はそんな事を呟きつつ起き上がると、軽く鼻歌なんて歌いながらベッドメイクの続きを再開したのだった。











ヴィゴ





私は店内にいるドムに気づいて慌ててカウンターの方に背を向けた。

(な、何で、あいつがここに…っ)

……なんて問うまでもない。
きっと奴もへのプレゼントを買う為に来たのだろう。
しかも大声で叫んでいた内容は、彼女の指輪のサイズがどうのという事だった。
という事は…あいつはに指輪を買おうとしているという事だ。

私は思い切り頭を垂れて息をついた。

(ドムと同じレベルだとは私もまだまだだな…)

その事実が私を落ち込ませる。そして手にしたダイヤの指輪をケースへと戻した。

「あの…ミスター…?お気に召しませんでしたか?」

目の前の店員が心配そうに聞いてくる。
私は彼女にニッコリと微笑んで、首を振った。

「いや…凄く気に入ったのだが…やはり指輪はやめておくよ」
「はあ…。では、どういったものを……」
「そうだなぁ……」

私は少し落ち込みつつもショーケースの中にあるキラキラと光るアクセサリーたちを眺めていった。

(はぁ…せっかく今夜、クリスマスの夜に指輪をプレゼントして自分の気持ちを伝えようと思ったのに…)

そんな事を思いつつ、チラっとドムのいるカウンターの方を見てみた。
奴は、まだ諦めきれないのか、女性店員の指のサイズを聞き、何やら聞いている様子。
どうせの手くらいの女性を見つけて、サイズを聞いているのだろう。
そんな事をして、もし間違ったサイズなんて買ったら最悪なだけのに。

私はちょっと苦笑しつつショーケースに視線を戻した。
中にはブレスレットやネックレス、可愛らしいピアスが並べられているが、私は少し考えた。

(もしレオや他の兄貴達が同じようなものを買っていたら…)

「あの…ちょっと電話をしてきたいんだが…待っててもらえますか?」
「はい。大丈夫ですよ?」

私の言葉に店員の女性も笑顔で頷いた。
そのまま礼を言うと私は店の端に行き、携帯で、ある番号へとかけた。

『Hello?ヴィゴ?』
「ああ、イライジャか?今、大丈夫か?」
『うん。どうしたの?ヴィゴもプレゼントの相談?』
「え?私も…というのは?」
『なーんだ。やっぱりね。さっきドムからも電話来たからさぁ〜』

イライジャはそんな事を言いながらケラケラ笑っている。

(う……ドムがさっき電話をしていたのはイライジャだったのか…っ!!!)

私は、そこまで奴と同じ事をしているのかと、また更に落ち込んだ。


『あれ…?ヴィゴ〜〜?ヴィゴ〜?どうしたのぉ〜?』
「あ、ああ。いや…何でもない…。ちょっと自分に憤りを感じてただけだ……」
『はぁ?ヴィゴ、どしたの?ちょっと変だよ?』
「いいんだ…。そっとしておいてくれ……。で…電話したのは…その……」
『ああ、へのプレゼントの事だろ?何?ヴィゴも指輪のサイズが聞きたいの?』
「ぐ…っ。ち、違う…!私は…お前たちが、どんなプレゼントを用意したのか、と言う事が聞きたいだけだ…っ」
『ああ、そっか。なぁーんだ』

そう言ってイライジャはクスクス笑いだし、私は顔が赤くなった。

『まずレオはディオールの新作ドレスと靴とネックレス。で、オーリーは、いつもの事ながら謎のまま。で、ジョシュは部屋のインテリアで父さんはイタリア製のソファ』
「そ、そうか…。で…イライジャは?」
『僕は新しいオーディオセットにしたんだ。夕べ皆で買い物行った時に、こっそり注文して今日届く事になってる』
「そ、そうか…。分かった…」
『ヴィゴは何にするの?ってか今、どこさ?』
「い、いいだろう?何にしても、どこにいてもっ」
『まあ、いいけどさ。6時くらいには来てよね?』
「ああ、分かってる。じゃ後で…」
『うん。まったねぇ〜』

イライジャは何だか笑いながら電話を切った。
私は知らず汗をかいていて軽く溜息をつきカウンターの方へ戻ると店員の女性が笑顔で歩いて来る。


「ああ、すまなかったね。じゃあ…このブレスレットを見せてくれないか?」


私は、いつもの営業スマイルでカウンターの中のダイヤがちりばめられたブレスレットを指さした。










レオナルド





バーの用意も終わり、カクテルの本を見ながら寛いでいると、庭の方も何とか終わったのかジョシュが戻って来た。

「終わったのか?」
「ああ、レオ……。何とかね…。はぁ〜疲れたっ」

ジョシュは、そう言いながらドサっとソファーに座ってゴロリと横になった。

「お疲れさん。ま、オーリーが帰って来たら料理を運ばせよう」
「ああ、ほんとだよ…。ったく…」
「もう少し時間あるし少し休んでたらどうだ?」
「ああ〜…もう昼過ぎか…。達は、まだキッチン?」
「そうみたいだなぁ…。何だか、いい匂いがしてきたけど」

俺はキッチンの方に視線を向けて、そう言うとジョシュも顔を向けて、

「そう言えば…腹減ったなぁ……」

と呟いた。

「ああ、朝から何も食べてないからな。何か食べるにしても…今の状態じゃ…」

そう言ってるとキッチンからが顔を出した。

「レオ、ジョシュ。ランチだよ?」
「「え?」」

その言葉に驚いて振り向けば、がトレンチにクロワッサンサンドとサラダ、紅茶を乗せて歩いて来る。

「作ってくれたの?」
「うん。だって皆、朝から何も食べてなかったでしょ?だから、クッキー焼いた後に急いで作ったの」

は、そう言ってテーブルにトレンチを置いた。

「あれ……?オーリーとリジーは?」
「ああ、リジーは上でゲストルームの準備してるけど…オーリーは、まだ帰って来てないよ?」

俺がそう言ってを抱き寄せると、

「オーリー、用事って…どこに行ったの?やっぱり、まだ落ち込んで…」

と心配そうな顔をする。
それには俺もジョシュも顔を見合わせて苦笑した。

「いや…そうじゃなくて…ちょっと野暮用だってさ。すぐ戻ってくるよ」

そう言っての頬に軽くキスをすると、直ぐに笑顔を見せてくれる。

「そう?なら良かった。じゃ、二人は先に食べてて?私、まだエマの手伝いがあるから」
「ああ。サンキュ」
「あんま無理すんなよ?」
「うん」

は笑顔で頷くと俺とジョシュの頬に軽くキスをしてキッチンに戻って行く。
それを見送りつつ二人で少し遅いランチを食べているとイライジャがリビングに入ってきた。

「あ〜何食べてんの〜?」
「ああ、がランチ作ってくれてさ。これリジーのね」
「やった!もうお腹ペコペコだよ〜っ」

イライジャはそう言ってソファーに座るとクロワッサンサンドにかぶりついている。

「そうだ。さっきドムとヴィゴから電話が来てさ〜。二人とものプレゼントで悩んでるみたいだったよ?」
「「あ…?」」

その言葉に俺もジョシュも思い切り顔を顰めるとイライジャは呑気に笑っている。

「それがさ〜ドムの奴、にティファニーで指輪を買おうとしてたみたいで僕にの薬指のサイズ教えろって言って来てさ。笑っちゃうよな?」
「はあ?!薬指だと?!そ、それでリジー教えたのか?!」

俺は思い切りソファーを立つとイライジャの方に詰め寄った。
それにはイライジャも慌てて首を振っている。

「お、教えるわけないだろ?すぐ電話切ったよ…っ」

その言葉に俺も、そしてジョシュもは〜っと安心して息をつく。

「ったく、あのバカドム!何のつもりだ?」
「ほんとだな?いきなりエンゲージリングのつもりか?」
「ああ、そうみたいだった」
「「…………っっ」」
「二人とも……凄く顔が怖いんだけど…」

俺とジョシュの怒りの表情にイライジャは怯えた顔でサンドウィッチをパクついている。

「ふざけた奴だな…っ。何がエンゲージリングだ!恋人でもないのにっ」
「やっぱ呼ぶのやめた方がいいんじゃないか?いくらクリスマスって言ったって…」
「そ、そんな…大丈夫だよ。ドムも指輪買うのは諦めたと思うし……」

俺達の会話にイライジャは慌てて入ってくる。
まあ、一応友達だからかわいそうだと思ったんだろう。それにしたって…

「リジー」
「ん?」
「ヴィゴは?何をあげるって?」

俺が横目で、そう聞けばイライジャは困ったように肩を竦めた。

「それは言わなかったけど…。僕らは何を選んだのかって聞いてきたよ?きっと被らないように聞いてきただけだと思う」
「そうか…。まあ…ヴィゴなら大丈夫だろうけど……。はあ…ドムはなぁ…」

ジョシュは、そう呟いて疲れたように頭を項垂れた。
俺も同じ気持ちで一気に食欲がなくなる。

「とにかく……ドムは要注意だな……」
「ああ、気をつけよう」

そう言いあって顔を見合わせるとイライジャも小さく頷いた。
そこへ大あくびをしながら父さんが入ってくる。

「おぉ……用意出来てきたな?」
「何だよ、父さん、寝てたの?また」
「ま、またとは何だ…。ちょっと台本読んでたら眠くなってだな……」
「そんなの、いつもの事だろ?」

俺がそう言って笑うと父さんは渋い顔でソファーに座ってポットから紅茶を注いでいる。

「ん?美味そうだな?一つ貰っていいか?」
「いいけど…父さんは何もしてないんだから、お腹も空かないだろ?」

ジョシュが呆れたように、そう言ってサンドウィッチを渡している。

「む…。何もしてなくても腹は減るぞ?それに私が手伝うと言えば、お前たち邪魔だとか言うじゃないかっ」
「だって、ほんとに邪魔だろ?テーブルだってバラバラに並べるし、お皿運べば必ず3枚は割るし。うちのお皿は殆どロイヤルコペンハーゲンで揃えてるんだよ?
去年なんかロブマイヤーのシャンパングラスまで割って、とエマに散々怒られただろ?」
「あ、あれは…ちょっと手が滑って……」

俺の突っ込みに父さんはしどろもどろになりつつサンドウィッチにかぶりついた。
それをイライジャは笑いながら見ている。

「そのロイヤルコペンハーゲンの灰皿だって、一回割って、レオが、また、あちこち探し回ってやっと買ってきたんだよ?覚えてる?」
「ぬ……お、覚えてるさ、そのくらい…。あの時だって、ちょっと酔ってて……」

父さんは更に目を泳がせながら言い訳をしだした。

そう…父さんは、よりによって去年のパーティの時、なかなか手に入らないブラックアメジストで作られたロイヤルコペンハーゲンの灰皿を見事に割ってしまったのだ。
これは1920年から1930年代に作られたゴージャスな逸品で、オクタゴンの角ばったサイドにピーコックと壷をあしらったデザインがハンドペイントされている。
重量感のある作品で、一見ポーセリンで作られているように見えるものの、太陽光線下で見るとブラックアメジストのブルーの屈折光が見る事ができ、
値段は一つ1000ドルもする高価な灰皿なのだ。
これは俺が一目で気に入って購入してきたやつで、割られた時は、かなり落ち込んだ。


「とにかく…。父さんは何もしないで。パーティの時も極力、食器には触らないでよ?」


俺がきつく、そう言うと父さんは悲しそうな顔をして口を尖らせた。(こういうとこはオーリーそっくり)


「わ、分かってる!ったく……人を破壊屋みたいに……」
「「「実際、そうだろ?!」」」
「ぬ……っ」


俺達が声をそろえて抗議すると、父さんは更に口を尖らせサンドウィッチにかぶりついた。
それを横目で見つつ俺達もランチを済ませ、一息ついていると、そろそろ教会に行く時間が近づいてくる。

「オーリーの奴…おっそいなぁ……」
「どこまで買いに行ったんだ?」

俺とジョシュで時計を見ながら、そんな事を言っていると、がキッチンから戻って来た。

「あ、終わったの?」
「うん。後は…メインのチキンが焼きあがるのを待つだけよ?イタリアンだと、そんな時間もかからないし良かったわ?」

はそう言って父さんに、少し遅い、おはようのキスをすると時計を見た。

「そろそろ教会に行くよういしなくちゃ…私、部屋に行って着替えてくるね?」
「ああ。俺達も用意するか……」
「そうだな…」

俺とジョシュもソファーから立ち上がると、イライジャも食べ終わった食器をトレンチに戻しながら、う〜んと伸びをした。

「じゃ、父さんはエマと留守番だろ?」
「ああ。私は人ごみは嫌いだ」
「はいはい。じゃあ、ちょっと行ってくるよ。一時間くらいで戻るし、それまでにお客が来たら、ちゃんと出迎えてよ?」
「ああ、分かってる。気をつけて行って来い」

父さんはそう言って呑気にテレビなんてつけている。
それには俺もジョシュもイライジャも軽く息をついた。

「ちゃんと出迎え出来るのか?」
「さあ…?こりゃ、とっとと帰って来てにさせた方がいいと思うよ?」


イライジャはそう言って肩を竦めるとの後ろから走って二階へと向かう。
それに俺もジョシュも続きながら、

「時間もないし、パーティ用の服に着替えて行った方がいいな」
「ああ、そうするか…」

と頷きあい、出かける準備をするべく階段を上がって行った。














「はぁ……疲れたぁ……」


私は部屋に戻って暫くソファーに座り、動けないでいた。
朝から、ずっと立ったままクッキーを焼いたり、プリンを作っていて、その後はシェフの作った料理を次々にお皿へ並べていく作業をずっとエマと二人でしていた。
クリスマスは、やはりシェフを出張で呼ぶ家も多く、来てくれる人数は2人ほどだ。なので料理は作っても盛り付けは手伝ってあげないと、かなり手間取る事になる。
それを省くのに、ずっとキッチンにこもっていたのだ。

「何だか食べる前に、お腹いっぱい…」

そう呟いて苦笑すると、出かける用意をしようと立ち上がった。
その時ノックの音が聞こえる。

?ちょっといい?」
「…レオ?どうぞ?」

そう声をかけると、レオが、ひょこっと顔を出した。

「どうしたの?もう行くの?」

レオがスーツに着替えて入って来たのを見て、そう聞くと、

「ああ、その前に…にクリスマスプレゼント!」

と言って目の前に大きな箱が出されて驚く。

「え…?これ……」
が欲しいって騒いでたディオールの新作ドレス…と靴だよ?」
「えぇ?ほんとに?!」

私は嬉しさのあまり疲れが吹き飛んで、レオに抱きついた。
レオは苦笑しながら、私を離すと、

「もう時間ないし帰って来てから着替えるのも大変だろ?だから、これ着て出かけよう。コート着てたら目立たないだろ?」
「うん!わあ、ありがとう!嬉しい!!」

私は、そう言ってレオの頬にキスをすれば、レオも私の頬にキスを返してくれる。

「ほら、早く着替えて見せてよ。皆で下で待ってるからさ」
「うん。すぐ用意して降りてくね?」
「ああ、じゃ、後で」

レオはそう言って最後に私の額にチュっとキスをすると静かに部屋を出て行った。
私は急いで箱を開けて中のドレスを出し、思わず溜息が出る。

「わぁ…やっぱり凄く素敵!」

少し大人びた色のロングドレスはキラキラと小さな光りを帯びて凄く奇麗だった。
中には一緒にダイヤのネックレスまで入っていて更に驚く。

「わ…レオってばドレスに合わせてネックレスまで買ってくれたんだ…。この靴も…」

レオのプレゼントには毎回驚かされるが今回もまた女の子の気持ちを鷲掴みするようなセレクトで私は笑顔になった。

「さすがレオね。女の子の喜びそうなものが、よく分かってるって感じ」

そんな事を呟き、私は急いでドレスを着ると、鏡の前でチェックしてみる。

「わ…サイズもピッタリだ…」

少し小柄の私でも充分に似合うようサイズも合わせてあり、そこでも感心させられる。
そしてネックレスをつけて靴を履けば、気分もまた変わり、本当に元気になってきた。

「素敵……。これ来年のアカデミーに着て行きたいなぁ……」

そんな事を呟きながら手早く髪もドレスに合うようにセットした。
本当なら美容室に行ってヘアメイクをしてもらいたいところだがホームパーティだから、と、予約もしていなかった。
仕方なく自分で軽く髪を捲き、アップにしていく。

「こんな感じでいいかなぁ……」

鏡で再度チェックをすれば一応、ちゃんとしたレディーに見えて自分でも満足した。

「あ、いけない……皆待ってるわ…」

時計を見て慌ててドレスに合うようなバッグを掴むと、中に必要なものだけ入れて急いでコートを手に部屋を飛び出した。
階段を下りて行くと、レオとジョシュ、イライジャがエントランスで立ち話をしている。

「お待たせ」

そう言って皆の所まで行けば、3人とも笑顔になった。

「うわーすっごく奇麗だよ、!」
「ありがとう、リジー」
「やっぱり、思ってた通りだ。よく似合ってるよ?。凄く奇麗だ」
「ありがと、レオ」

二人から抱きしめられて頬にキスをされながら、そう言うと、レオが笑いながらジョシュを見た。

「ほら。ジョシュからも何か言ってやれよ」
「え?あ、ああ…。いや…ほんと奇麗だよ、…」
「ありがとう、ジョシュ」

ジョシュは兄弟の中でもシャイなので、少し照れくさそうに微笑むと、私の頭を撫でながら軽く額にキスをしてくれる。

「じゃあ、行こうか。ジョシュの車出してくれるか?」
「ああ、いいよ」

そう言いながらレオとジョシュが外に出て行く。
私はイライジャと一緒に並んでついていきながら、

「そう言えば…オーリー、どうしたんだろ?」
「さあ?教会に真っ直ぐ来るんじゃない?」

なんて言い合っていた。
そこへ凄い勢いでポルシェが門の方から走ってきて4人でギョっとした。





ブォォン…!!





大きなエンジン音が響き、車が止まると中からオーランドが飛び出してくる。

「うわーー間に合ったぁ〜〜!!」

「「「「オーリィ…!!」」」」

必死の形相で駆け寄ってきたオーランドに皆が驚き、溜息をつく。

「お前、遅いよ!」
「ほーんと。置いて行こうかと思ったんだからね?」
「ごめん、ごめん!凄い道が混んでてさぁ〜!これでも飛ばして来たんだって!」

レオとイライジャに責められオーランドは両手を合わせて誤っている。
そして私に気づくと、笑顔で走ってきた。

「うわ〜ぁ!〜〜すっごく奇麗だよ〜〜!!!」
「あ、ありがと…」

いつも通りぎゅうっと抱きしめられ私は苦しいのを我慢しながら、そう言うと、ゴン!っという、これまた、いつもの音がして(!)オーランドが頭を抱えた。

「ぃったいよぉ〜〜!!レオ、いちいち暴力で訴えるなってば〜!」
「うるさい!早くを離せ!時間ないんだからな?」
「はいはい。分かったよ…。って皆もう着替えてるんじゃん!!俺、まだだよ〜?」

3人ともスーツなのを見てオーランドが口を尖らせたが、ジョシュが有無を言わさず、むんずと首根っこを掴んだ。

「いいから早く車に乗れ。帰って来てから着替えろ」
「わ、分かったから離してよ、ジョシュゥ〜〜っ!!」

ひっくり返された亀のようにジタバタ暴れ出したオーランドを、ジョシュはポイっと放ると素早く運転席へと乗り込む。
助手席にイライジャが乗って、私とレオ、オーランドは後部座席へと乗り込んだ。

「さて、と。じゃあ行きますか」

ジョシュが、そう言ってエンジンをかけると勢いよく車を発車させて毎年行っている教会へと向かった。











サラ





私はタクシーを下りるとエントランスの前に立ち軽く深呼吸をした。

(ちょっと…早かったかなぁ…落ち着かなくて早めに家を出てきちゃったんだけど…)

腕時計を見ながら、私は、どうしたものかと考える。

、夕方は皆で教会に行くって言ってたし…もしかしたら、まだ帰って来てないかも…)

そんな事を考えてながらも早くジョシュの顔が見たいなんて思ってしまう。
ここのところ忙しくてとも電話だけで会えていなかった。なので、もちろんジョシュにも会えず、声すら聞けず…だから今日のパーティは凄く楽しみだったのだ。

「はぁ…緊張する…」

ちょっとドキドキしてきて胸を抑えて息を吐き出した。その時、人の気配がしてビクっとなり後ろを振り向くと―――

「こんにちは」
「こ、こんにちは……」

そこには瞳の奇麗な男の子が立っていてニコっと微笑んでくる。
誰…?と思ったが、その大きな瞳に見覚えがあり、私は手で口を抑えた。

「あ…もしかして…の従兄弟の…ダニエル……?」
「うん、そうだよ?君は……友達のサラだよね?初めまして」
「は、初めまして……」
からサラのこと、よく聞いてるんだ」
「あ、私もよ?」
「ほんと?嬉しいな」

ダニエルは、そう言うとドアの前に立ち、「入らないの?」と聞いてきた。

「あ、あの…まだ早いかなって思って……」
「ああ、そんなの先に待ってたらいいんだよ。きっとハリソン叔父さんはいると思うしね」
「え?そうなの?」
「うん。叔父さんは人ごみとか嫌いだから教会には毎年行かないで家でお祈りするんだよ」
「そ、そうなの…」
「うん」

ダニエルは笑顔で頷くと勝手にドアを開けて中へ入っていく。
私も慌てて、それに続いた。

「こんにちはー。叔父さんいる?」

ダニエルが、そう言いながらリビングに入って行くと中からハリソンの声が聞こえてきた。

「おぉ〜!ダニエル!よく来たな?」
「お久しぶりです!」
「ああ。皆は、まだ帰って来てないんだが、そろそろ戻ってくるだろう。ん?ああ、サラも一緒か」

おずおずと顔を出した私に気づき、ハリソンが笑顔で歩いて来た。

「こ、こんにちは」
「やあ、よく来たね。メリークリスマス」
「あ…メリークリスマス…」
「さあ、入って座ってくれ。今、飲み物も届いてね?スパークリングワインでも開けよう」

ハリソンはそう言って私をソファーに座らせると、キッチンの方へ歩いて行った。
ダニエルも隣に座り、「皆、まだみたいだねぇ〜」と少し残念そうに呟く。
そこにエマがやってきた。

「あら、いらっしゃい!二人とも」
「あ、エマ!久し振り!」
「お邪魔してます」
「今、飲み物持ってくるから待ってて?って、あら?ハリソンは?」
「あ、今、飲み物用意するって行ってキッチンへ……」
「え?嘘…まずいわ…っ」
「…え?(何が?)」

エマの言葉に私は首を傾げた。
だが、直ぐに、その意味が分かることになる。






ガシャーン…パリーン…ガシャガシャーーーンっっ!!






凄い音がした瞬間、エマが、「あぁ…。またやった…」と手で額を抑えた。
そして慌ててキッチンの方へ走って行く。
私は驚いたまま固まっていると、ダニエルが隣でクスクス笑い出した。

「叔父さんさぁ〜。毎年、何かしら物を破壊するんだよね〜」
「え?そ、そうなの?」
「うん。だから皆は極力、ハリソン叔父さんには特に割れ物には触れるなって言ってるんだけどさ」

ダニエルは、そう言いながらケラケラ笑っていて私は唖然としてしまう。
その時、エマが悲しそうな顔で戻って来た。
手には一応、グラスとスパークリングワインを持っている。

「ごめんなさいね。うるさくて……。これ飲んで待っててくれる?あ、ダンにはジュースね」
「サンキュ。で、叔父さん、今度は何を壊したの?」

ダニエルが楽しそうに聞けば、エマが顔を顰めながら、


「ジョシュがに贈った、バカラのグラスとデキャンタセット全てよ……」


と項垂れた。
それにはダニエルも笑うのをやめ、目を見開いている。

「嘘!あれ、が凄く大事にしてた奴でしょ?!しかもセット全部って…7点全部ってこと?!」
「ええ、そうよ…?」
「うわーあれ、1200ドルもするのに!もジョシュも怒るだろうなぁ〜…」

ダニエルは、そう言いながら苦笑している。
私はそれを聞きながら、そのセットには覚えがあった。

バカラのセットは、そうだわ…前にワインを出してくれた時に、が、それを使ってたっけ。
ジョシュにもらったの…なんて嬉しそうに話してた。あれアンティークだし、また探すの大変だろうなぁ…

そんな事を思いながらダニエルが注いでくれたスパークリングワインを口にした。
そこへガックリと項垂れたハリソンが戻ってくる。

「片付けたよ、エマ…」
「全くもう…。が帰って来たら何て言えばいいの?」

エマは怒ったように腰に手を当てて溜息をついている。
ハリソンはガックリとしたままソファーに座ると、ダニエルが注いでおいたスパークリングワインを手にしてグイっと飲み干す。
そしてガバっと顔を上げた。

「すまない…。私が同じ物を探してくるよ…。それまで黙っててくれないか?」
「えぇ?黙ってるって…」
「ジョシュに何を言われてもいいが、にだけは怒られたくないんだよ…っ!分かるだろう?!」

ハリソンは必死の顔でエマに頼んでいる。
どうやらハリソンもには弱いようだ。
それを知っているからかエマも困った顔で肩を竦めている。

「分かったわ?でも……今日、あれを使うなんて言いだすかもよ?そうなったら、きちんと謝るのね?」
「わ、分かってるよ……。あ、サラもダンも、この事は、どうか内緒に…」

突然、こっちに振られて私は驚いたが、ちょっと可愛そうになり頷いた。
ダニエルも仕方ないなぁと言った風に頷いている。

「あ、ありがとう、二人とも!恩に着るよ!」

ハリソンはやっと笑顔になり、嬉しそうに両手を合わせた。
それを見て私とダニエルも、つい顔を見合わせ笑顔になる。
そこへチャイムが鳴り、エマが出て行った。

「次は誰かな?」

ダニエルは、そう呟くとエントランスホールを覗くように見ている。
だが到着したのは、お客ではなく何だか大きなソファーだった。
エマが指示をしながら業者の人に二階に運んで貰っている。

「ああ、やっと来たか」
「叔父さん、あれ何?」
「ん?あれはへのクリスマスプレゼントだよ。イタリアブランドのソファーが欲しいって言うんでな?」
「へぇー!そうなんだ。凄いね〜」

ダニエルは驚いたように、その運ばれていくソファーを見ている。
私も、そのソファーは雑誌で見た事がある。が凄く欲しがっていたものだった。
そこへ一層、賑やかな声が聞こえて来て、ドキっとした。

「うわぁ、ソファーが届いたよ?」
「ああ、ほんとだな」

最初の大きな声はオーリーで返事をしたのはレオだろう。

(帰って来たんだ…)

そう思って私はソファーから立ち上がった。

「ああ、皆、帰って来たようだな。これから、まだ料理の準備があるからダンも手伝ってやりなさい」
「は〜い」

ダニエルも嬉しそうに立ち上がり、エントランスホールの方に顔を向けると一番にオーランドが入って来た。

「ただいま〜って、サラ…と、ダン!!」
「やあ、オーリー。お久しぶり」

何故かオーリーはダンを見て思い切り顔を顰めている。
だけどダンは澄ました顔でニコニコしながら、「教会はどうだった?」なんて聞いていた。

「別に〜いつもと同じさ!それよりは?」
「「え?」」

オーランドの言葉に私もダニエルも首を傾げた。
そこへレオとジョシュ、イライジャが入って来て私はドキンと胸が鳴るのが分かる。

「父さん、帰って…ってあれ?ダンとサラ?」
「こ、今晩わ…」
「やあ、サラ。久し振り」
「ひ、久し振り…」
「サラ〜いらっしゃい!」
「あ、リジー今晩わ」

レオとジョシュ、イライジャに挨拶をしながら私は何とか笑顔を作る。
だけど3人はキョロキョロしながら、

「まだ帰ってないのか」
「ああ、そうみたいだな?」

なんて言い合っていて私は、どうしたんだろうと聞いてみようとした。
だが先にダニエルが口を開く。

「ねぇ、は?一緒に教会に行ったんじゃないの?」
「え?あ、ああ…それが……」

レオがちょっと肩を竦めて、

「用事思い出したとか行って突然、お祈りが終わったと同時に教会を飛び出して行っちゃってさ……」

と溜息をついた。

「えぇ?どこに行ったの?」
「それが事務所に忘れ物したとか何とか…」
「事務所に…?」

レオが言うには、行く時は5人一緒に行ったらしいのだが、ミサの途中でがソワソワしだして終わったと同時に、

「私、事務所に忘れ物しちゃったの!取って来るから先に帰ってて?」

と言った途端、教会を飛び出して行ったそうだ。
皆も驚いて後を追ったそうなのだが、はちょうど走ってきたタクシーに飛び乗ってしまったんだとかで仕方なく家に戻って来たらしい。

「そっかぁ〜。じゃ、すぐ戻ってくるよね?」

ダニエルが溜息をつきながら、そう聞くとジョシュも、ちょっと微笑んで頷いた。

「さ、じゃあが帰って来るまでに料理を運んでしまおう」

そこでレオが、そう言い出して皆でキッチンに歩いて行く。
私も手伝おうと皆の後を追いかけた。

「あれ?サラ、座ってていいよ?」

キッチンに向かう途中、ジョシュが振り向いて微笑んでくれた。
その笑顔にドキっとするも、「ううん。私も手伝うわ?」と言うと、「そう?ありがとう」と軽く頭に手を置いてくれて顔が赤くなってしまう。


(彼の、この優しい仕草が好き…)


そう思いながら私は彼の大きな背中を見つめていた。









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