Self do, self have...?懲りない二男とマフィアな三男〜







ハリソン家の食事の管理はエマがきちんと考えて行なってくれている。
仕事で不在がちな家族でも朝食だけは特別で、だいたいが揃う時間だ。
今朝もエマは皆が帰ってきてる事を確認して朝食の準備に取り掛ろうとキッチンへやってきた。
だが、そこで彼女が見たものは――


「あら?オーランド…」
「あ、おっはよぅ〜♪エマ!」


普段なら、お寝坊さんの二男オーランドが、すでに起きていてエマはちょっとビックリした。
しかも、またいつもの如くの可愛いエプロンを身に付けている。

「どうしたの…?今日は早いのね」
「まーね!いっつもエマにばっかり朝食の準備させてて申し訳ないからさ!今日は手伝おうと思って」

オーランドはそう言って忙しそうにサニーレタスをちぎっている。(ようはサラダを作っている…らしい)
そんなオーランドを見ながら、エマは"珍しい事もあるものだわ…そろそろハリケーンでも来るのかしら(!)なんて考えていた。
だが、そんな事を言ってしまえば、この二男、厄介な事にすぐ不貞腐れ+スネスネモード全開になってしまう。
長い年月、一緒に暮らしてきたエマはその事を百も承知なので、そんな事は思っても口には出さない。
逆に嬉しそうに笑顔を見せながら、

「助かるわ。ありがとう、オーランド」

とまで言ってのけた。
これで、この二男は気分よく手伝いをしてくれるに違いない。
それを証拠に隣に歩いて来たエマに、オーランドは満面の笑みを浮かべた。

「いえいえ♪どういたしまして!」(ちょー嬉しそう)

(全くもって分かりやすいわ…)

エマはそんな事を思いつつ噴出しそうになるのを堪えながら朝食を作るのにフライパンを取り出した。

「ねぇ、エマ、サラダにスクランブルエッグ入れたいんだけど」
「あら、いいわね。じゃあすぐ作るから卵割って混ぜておいてくれる?」
「OK!」

エマの言葉にオーランドは笑顔で頷くと冷蔵庫から卵を数個、取り出し、それを割って空いたボールの中へと落としていく。
まあ上手とは言えず、かなり黄身がつぶれているが、どうせ後で混ぜるのだから…とエマも苦笑しつつ自分の作業に戻った。


一方…オーランドはと言えば卵を割った後、何やらエマに背を向け、ボールに入ってしまった白い物を一生懸命、拾い集めている。
そしてニヤリとすると、何事もなかったかのようにサラダ(ちぎっただけの野菜)をお皿へと盛り付けはじめた。




一時間後――




「おはよーオーリィ」

「おはよう〜〜♪!今日もスィートだねぇー♪」


リビングにやってきた最愛の妹を思い切り抱きしめ、オーランドはいつものように頬にチュっと"おはよう"のキスを送る。
くすぐったそうに微笑みながらもオーランドの頬にキスのお返しをした。

「オーリィ、今日は早起きね!」
「え?あ、う、うんまあ…。今日はちょっと早いんだ!」

ドキッとした顔をしつつ、オーランドは何とか笑顔をつくり、を離した。
そこへ欠伸をしながら三男のジョシュが入って来る。

「おはよう、ジョシュ」
「おはよう〜」

が笑顔で歩いて行くと、ジョシュは眠そうにしながらも笑顔をになり、可愛い妹の頬にチュっとキスをする。
それを二男は面白くなさそうに横目で見ながらソファに座り、テレビをパチっとつけ"モーニング7"なるニュース番組を見だした。
その番組で毎朝、放送しているコーナー"本日のハリソン一家"を見るためだ。そこへエマが顔を出す。

「おはよう、、ジョシュ。朝食出きてるから先に食べたら?もうすぐ出るんでしょ?」
「ああ、じゃあ、先に食べちゃおう」
「うん。あ、オーリィは?」
「あ、俺はさっき食べちゃったんだ!」

に声をかけられ、少しだけドキッとした様子のオーランドは引きつった笑顔を見せつつ振り向いた。

「そうなの…分かった」

はそう言ってダイニングの方へと歩いて行く。
それを見送りつつ、オーランドはほぉ〜〜っと息をついてからニヤっとした。

ふふふ…今日こそは上手く行くぞ〜!
僕が近くにいなければジョシュも油断して、あのサラダを食べるに違いない…
この前は失敗したけど今日こそは―――!!(ほんと懲りない人)




「おい、オーランド…」

「ぅ……っ!!」



ほくほくとテレビに視線を戻した時、突然、後ろで三男の低音な声が聞こえ、ドキーっとした。
恐る恐る振り向けば、そこには、かなり上の方から自分を見下ろしているジョシュの怖い顔。
その手にはサラダの入ったお皿が持たれていて、それを見た瞬間、オーランドの顔からサーっと血の気が引いていく。
が、しかし、ここで動揺して見せれば計画がバレてしまうと思い、オーランドは満面の笑顔を見せた。


「な、何…?」

「これ…オーリィが作ったんだって?」

「えっ?!なな何でそれを――!」 (動揺しすぎ)

「エマが教えてくれたんだ。"今日はオーランドが早起きして朝食の準備を手伝ってくれたのよ〜♪"ってな…」

「………っ!!(げげぇ!口止めしとくの忘れてた!)」 (ツメが甘い)

「それ聞いて嫌な予感したからさ。オーランドが作ったのって何?って聞いたらサラダだって言うから調べたら……」

「し、調べたって、そんな酷い!俺は別に何も――」


「…何も?!」 (片眉がピクっと上がり、ちょっとドスがきいてる)

「ひゃ…っ!(すっっげー怖いよ、ジョシュ!!レオか、お前は!)」


ジョシュの迫力に亀の如く首を窄めたオーランド。
そんな彼にジョシュはサラダから何か白いものを取り出し、目の前で見せた。


「これ…卵の殻が大量に入ってるんだけどさ。間違えたのか?」

「―――!!(OH! NO! バレてんじゃないかっ」(当たり前)

「しかも、ご丁寧にかなり細かくして振りかけてあるんだけど…」

「あ、あれ〜?お、おかしいなぁ〜〜?ちゃんと割ったつもりなんだけど…」

「普通、卵割るときは他のボールだろ?何でお皿に移したサラダの中に入ってんだよっ!」

「(もうダメだ!) わわ…ご、ごめ…わ、悪気はなかったんだ!!」 (嘘つけ)


もうごまかしきれないとオーランドはジョシュに縋りつき、得意のウルウル攻撃で謝った。
だがジョシュの額にはピクピクと血管が数本……




「あんたは、いっつも悪気だらけだろうが!!!!」




「ぅひゃ…顔だけはやめ――っ!!」 (僕は俳優、顔が命さ!)






ごぃん!!






(頭に響く鈍い音)





ぅ...っ!!」






かくして役者魂を見せたオーランドの後頭部にまたしても大きなタンコブが出来上がったのだった。













イライジャ








「で…? また殴られたんだ」

僕は少々目を細めながら目の前でオイオイと泣いている我が家の二男を眺めた。

「ま、自業自得だね」
「ひ、酷いよ、リジィ〜〜!少しは慰めてくれたっていいだろぉう?!」
「うゎ、鼻水飛ばすなよ!ってか慰める気にもならないね!オーリィがバカなイタズラするからだろ? しかも子供じみたさ!」
「あ、愛嬌じゃないか〜!あんなに目を吊り上げて殴らなくてもいいってもんさ〜っ!笑って済ませるだろぉう?なのにジョシュときたら、いちいち本気で殴るしさ〜!弟のクセに兄貴を敬えってんだ!」
「…敬うほどの器があればそうするんじゃない……(ボソ)」
「……え?何が言っだ?グス……」
「いや別に」

はぁ…スーツ着てんのに鼻が真っ赤だよ、オーリィってば…
だいたい、あれって愛嬌か? あんな愛嬌、嫌だよ。
愛嬌なんてものじゃなくて、ほんとに嫌がらせだっつーの。

僕はサメザメと訴えてくるオーランドを軽く無視してネクタイを直すと会場へと入って行った。
今日は仕事ではなく、友人の映画が出来上がったので、そのプレミア試写会にご招待されたってわけ。
まあ、その友人ってのはビリーなんだけどね。そして、これまた明日はヴィゴの映画のプレミアにも招待を受けている。
今日はオーリィと僕だけオフだったから二人できたけど明日のヴィゴのプレミアは兄弟全員で招待を受けていた。(それを考えると、ちょっと怖いけどさ)

「ほら、いつまでもグスグス泣くなよー。今日はLOTRのファンだって大勢来てるらしいよ?」
「えっ?ぞうなの?ぞりゃまずい…っ」(未だ鼻を啜っている)

そう言うや否やオーリィはチーーンっと鼻をかみ、すぐにトイレへと駆け込んで行った。
数分後………



「やあ、お待たせ!」
「……………(いや誰も待ってないけど)」

その声にウンザリしながら振り向くと、そこにはさっきまで鼻を真っ赤にさせてビービー泣いていた男はどこにもいない。
代わりに某ブランドの新作スーツをビシっと着こなし、爽やかに笑顔を浮かべているオーランド・ブルームが立っていた。

(こんなオーリィ見たの、すっごい久し振りだ)

「これでどうだい? リジィ!」
「…だいぶ化けたね…」
「む!化けたとは何だ、お兄様に向って!」
「……………。(もう何も話したくない・・・)」
「あ、おいコラ、リジィ!」

スタスタと廊下を歩き、パスを見せてからビリーのいるであろう控室へと向う。
オーランドも沢山のスタッフがいるからか、よそ行きの顔で澄ましてついてきた。

「ビリーいる?」

声をかけて控え室のドアを軽くノックをすると中から、「どうぞー」という聞きなれた声が返って来る。
僕はすぐにドアを開けて中を覗いた。


「ぅげ……」

「よぉーう!リジィ!!Are you Happy?!」


能天気にそう声をかけてきたのは永遠のストーカー(!)ドミニク・モナハンだった。

「やあドム。元気そうで」
「そりゃLOTRの仲間で集まれるんだからな!おぉー!オーランド!どうやら弟にイタズラして倍返しにされてるんだってな!」
「うっさいよ!ほっとけ!」

僕とオーランドが中へ入ると、途端に賑やかになる。
僕はすぐビリーと軽くハグしてニュージーランドでヴィゴが編み出した頭突きでの挨拶を済ませた。

「久し振りだな!元気か?」
「うん、まあ…。でも、ここへ来るまでに少し疲れたけどね」

そう言って視線をオーランドに向ける。
(オーリィは何だかドムとギャーギャー言い合いをしていて端から見てると二人とも小学生の男子児童だ)
ビリーも同じく二人を見ながら苦笑いを浮かべてソファに腰をかけた。

「相変わらずだなぁ」
「だろ?もう大変だよ、ほんと…」
ちゃんは元気なのか?今ジョシュと共演する映画の撮影してるんだろ?」
「うん、元気だよ?あ、でもその話題はオーリィの前で触れない方が――」

「ビリィ〜〜!!聞いてくれよ!」

「………………」


忠告をしようと思ったが無駄だった。
""という名前を聞きつけ、オーランドはすぐにドムを放置して、こっちへ飛んで来る。

(はぁ…ほんと変なとこで地獄耳なんだよね、この人…)

「ジョシュの奴、と共演が決まったからって凄い得意げなんだよー!あの細い目で俺のことを見下すんだからさ!」
「…そ、そうなのか?」

(ああ…ビリー同情するよ…。つか見下してるんじゃなくて見下ろしてるんだろ?だってジョシュの方がオーリィより8センチも身長高いんだし)

「そぉーなんだよ!今朝だってすっごい俺を見下して、見てよ、これ!」(めちゃ張り切って後頭部を見せる男)
「あららー。何だかッコリと腫れてるぞ…?」
「だろぅ?!あの大きな手で殴ってきたんだから!これはもう立派にドメスティーバイオレーションだよ!」
「……は?」


(…それを言うなら"ドメスティックバイオレンス"だっつーの…。ほーんとバァ〜カだなぁ…オーリィって…(シミジミ))


「この前だって俺に"ジャパニーズからし"入りのパンケーキを食べさせたんだよ?!酷くない?!」
「ジャ、ジャパニーズからし?!」
「そーなんだ!クリームがベージュ色なんだよ〜!怖いだろ?俺なんて次の日、お腹がピィピィさ!」
「へ、へぇ…そりゃケツが痛そうだな…(率直な感想)」
「いぃ痛いってもんじゃなかったね!ビリビリだよ、もう!」

(でも、それ作ったのってオーリィだよね…?)(その通り)

オーランドは、それこそ自分の事は棚に上げて、(というか、もう嘘つきだよね、この人)ジョシュへの不満をビリーにぶつけている。
ビリーはビリーで、まあ彼の性格を熟知しているので、それこそ話半分で聞いているようだ。
僕は呆れつつ、勝手に紅茶をもらって飲んでいると、隣にドムが座った。

「おい…どうせオーリィがジョシュに嫌がらせしてんだろ?」
「…そうだよ?で、その罰として制裁を加えられてるだけ」
「…そ、そうか…。まあ…気持ちは分かるが…」
「あまり分からない方がいいと思うよ?そろそろレオもピキピキきてるからね。それこそレオが怒ったら――」
「(ゴクっ)お、お兄様は怖いからなぁ………」
「だろ?きっと、またオーリィは泣きながら家を飛び出して行くと思うし、そうなったらドムの家にでも泊めてあげてよ」
「は?やだぞ?俺、あいつの愚痴聞くの!」
「僕だって同じだよ…。はあ…いっそのこと、オーリィに新しい恋人でも出来ればね……」

僕はそう言って軽く息をついた。
するとドムが顎に手を当て何かを考えている様子。

「そうか…!そりゃいいな!そしたらオーリィもに今ほど執着しなくなるかも――」
「いや、そういう事じゃなくて…。オーリィは恋人がいたってには執着してるからね」
「じゃあ…何でだ?」
「だから…恋人がいれば少しくらい寂しさを癒して貰えるだろ?オーリィだって」
「ああ、なるほどな」
「それに恋人がいる時のオーリィって今ほど酷くないしね。一応、外ヅラつくる人だから」
「そう言えばそうだな…。かっこつける場を与えればいいってわけか…」
「そうそう。じゃないと、あの人、いつまで経っても小学生くらいの知能しか使わないからさ」(酷っ)

僕がそう言うとドムは不気味な髭面でニヤっと笑った。

「いい子がいるぞ?」
「え?」
「明日のプレミアにも来るはずだ」
「だ、誰?」
「いや、ヴィゴの共演者なんだけどな。前にヴィゴが言ってたんだ。今、共演してる子がオーランドの大ファンで紹介してと言ってるって」
「へぇーそうなの?」
「ああ。実態を知らないって怖いだろ?」
「う、うん、まあ…(それはお前も一緒)」
「だから明日、その子も来るし、オーランドに紹介してやればいいんじゃないか? なかなか可愛い女優さんだったぞ?」
「………何で知ってるわけ?」
「え!い、いや、まあ…ヴィゴから、その話を聞いてオーランドのファンって、どんな女優だ?って気になったからネットで調べて…」
「へー。で?」
「だ、だから…その子は新人女優で…まあまあ可愛かった…」
「そうなんだ。ドムの好みでもあったってわけだ」
「バ!ちが!(切りすぎ)おお俺は一筋だよ、エルウッドくん!!」
「(鼻の穴、膨らませすぎだよ) まあ…僕としてはドムが、その子を気に入ったって言うなら応援するけど?」
「は?!バ、バカヤロ!違うって言ってんだろ?!俺はオーランドに――」
「オーリィに紹介しなくていいからドムが付き合っちゃえば?」(結構、楽しんでる辺り)

僕がそう言ってニヤっとすると、ドムの顔がだんだん真っ赤になってきた。(経験上、これはまずい兆候だ)
焦ったり怒ったりすると、すーぐ赤鬼みたいに顔を赤くするからな、ドムって。そろそろ怒鳴るね、きっと。


「おおお俺は以外の女には興味ないんだぁぁぁっ!」


(ほーら来た。あーあ・・・目まで充血させちゃって。アイボン貸してやろうかな)(世界共通?)


「分かったから。まあ落ち着いて」


僕が笑いを堪えて軽く肩をすくませていると、ドムのアホな叫びを聞いて、やっとオーランドの愚痴が止まったようだ。

「コォーラコラコラ!いい加減、を諦めろ!ドムのバカちん!」
「うるさい!誰が諦めるか!彼女は俺様に密かな想いを寄せて――」

「「「それはないない」」」

(さすが元旅の仲間。声も手の振りもタイミングバッチリだね)

「ふぐぐぅっ!!」

もう一人の旅の仲間と言えば、変な唸り声を上げつつ手を握りしめぷるぷるしている。
額には血管が数本浮かんでいて、僕はこの顔のままファンの前に行ったら、皆引くだろうなぁなんて呑気な事を考えていた。

まあ、でも・・・オーリィファンの新人女優か…ちょっとチェックしておこうかな。
ああ、いや僕が口説こうとかじゃなくて、オーリィの恋人候補としてね。

僕は一人、そんな事を企みつつ、明日、ヴィゴに会ったらその話を提案してみよう…と思っていた。

(彼もオーリィのせいでが大変なの知ってるし心配してたからさ)

はあ…僕も人の恋人の心配なんてしてないで、そろそろ恋でもしたいよなぁ・・・(つかオーリィから解放されたい)

どこかにみたいな子がいないかな?

なんて、そんな事を思いつつ、目の前で繰り広げられているオーリィVSドムの(小学生並み)のケンカをビリーと眺めていた。










ジョシュ





今日の撮影は大きな公園でのロケ。
俺はスタッフ用の椅子に座りながら思い切り溜息をついた――

「はー朝から怒ると疲れるよ…」
「あはは…っ。でも、まさかオーリィが早起きした理由がイタズラ目的だったなんてね」

俺が溜息をついているとが楽しげに笑い出した。
それには俺もガックリと肩を落とす。

「笑い事じゃないぞ…? 毎日、何かしらオーランドのイタズラに合ってるんだから」
「でも昔もよくあったじゃない? オーリィってば、パパやレオに怒られるたびに仕返ししたりして」
「あーあったあった!父さんの靴にドリアンの汁かけたり、レオの香水にガーリックを擂ったの入れたりな」
「あはは!そうそう!パパは知らないでデートに臭い靴はいて行っちゃって口説こうとしてた彼女に振られたし、レオなんて香水つけようとして、その匂いで吐きそうになってたわ!」
「小学生で香水つけてるレオもレオだけどな」

俺はそう言って笑うと、ふとある事に気づいた。

(………今、考えてもオーランドの嫌がらせって昔っから、ちいちゃかったな…)

なんて思うと、また笑いが込み上げて来る。

(全く…とんだ兄貴だよ、オーリィは…)

そこへ監督が歩いて来て俺とは椅子から立ち上がった。

「やあ、おはよう、お二人さん」
「おはよう御座います、監督」

俺とが笑顔で挨拶をすると、助監督が一人女性を連れて歩いて来る。

「あれ誰です?」
「ん?ああ、彼女か」

俺が監督に尋ねると、彼は助監督に、これから撮るシーンの説明を受けている女性を見た。

「彼女は今日から合流した女優さんでね。ケイトの妹役だ」
「ああ、そうか。最後の被害者の役でしたね」
「そうだ。えっと名前は確か……」

監督がそう言いかけると、そこへ彼女が歩いて来た。

「監督、今日から宜しくお願いします」
「やあ、宜しくね。えっと名前は――」
「やだ、監督。忘れないで下さい」

彼女はそう言って笑うと、俺との方を見た。

「今日からルーシー役で入るデライラ・バーンズよ。宜しく」
「こちらこそ、宜しく。デライラ」
「宜しく」

人当たりのいい彼女の雰囲気に俺とは笑顔で握手をする。

「じゃあ、もう少ししたら撮影開始だ。準備しててくれ」
「はい」

監督はそう言うと助監督の方に歩いて行ってしまった。
その場に残された俺達は何となく顔を見合わせるとデライラが嬉しそうな笑顔を見せる。

「私、あなた達、家族の大ファンなの。共演出来て光栄だわ」
「それは嬉しいよ。な? 
「ええ」
「出来れば、お友達になって欲しいわ」
「もちろん!私で良ければ」

デライラの言葉にも嬉しそうな笑顔を見せる。
俺はそれを見つつ、ちょっと微笑むとの頬にチュっとキスをした。

「じゃ、俺、先にスタンバイしてるから」
「あ、うん。頑張って!」
「ああ」

そう言って歩いて行こうとした時、視界にデライラが入った。
彼女の表情からは今まで見せていた人当たりのいい笑顔が消えていて冷たい瞳が一瞬だけ垣間見える。
は俺の方に顔を向けているので、その後ろにいたデライラの表情に気づいていないようだ。

「どうしたの? ジョシュ…」
「ん? ああ、いや…何でもないよ」

首を傾げながら歩いて来るに俺は笑顔を見せて、最後にデライラを見た。
彼女は俺の視線に気づくと、すぐにさっきと同じような笑顔を見せて軽く手をあげて来る。
それに俺も答えて、そのまま監督の方に歩いて行った。

まあ…気のせいか…彼女が、あんな冷たい目でを見る理由がないもんな。
それに俺達の大ファンだって言ってたし、もしかしたら目が悪いだけなのかも。
(俺も目が悪いから少し目つきが悪くなるしな…。まあレオは本気で目つき悪いけど)(オイ)

そう思いつつ、もう一度の方に振り返ると、彼女の方へスタンリーが歩いて来るのが見えて何やら衣装の帽子を渡している。
はそれを受け取り、被っているがスタンリーがバランスを直してあげていた。

彼もよく働くよ…普通、モデル出身なんて言ったら何でもやってもらってた立場だし自分で動くのとか苦手そうなのにな。

「ジョシュー!そろそろ始めるぞ!」
「はい!」

そこで監督に呼ばれ、俺は自分の役へと頭を切り換えた。








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