ミッドナイトシアター・前編







「おう、ジョシュ、おはよう。この前、久し振りにデートしたんだって?」

「…………………ッ!!」

リビングに顔を出した途端、珍しい顔(父、ハリソン)がいると思えば、いきなりの突っ込みにジョシュは軽く目頭を抑えた。
そしてテレビの前に座り込み、朝のワイドショーを呑気に見て笑っているオーランドの方に静かに歩いて行く。
そして右手を大きく振りかぶり―――





んっ!!





「――んがっ!!!!


思い切りオーランドの後頭部へ拳を炸裂させた(!)

「な…!何でいきなり殴るんだよ、レオ〜!!…………って、ぁれ?!ジョシュ?!」

この二男、いつも長男に制裁を加えられ過ぎているのか(!)自分を殴ったのはレオだと勘違いしたらしい。
だが振り向いてみれば、そこには怖い顔で仁王立ちした三男の姿。
それには一瞬、後頭部の痛みを忘れ、口を開けている。
だがジョシュは怒りを抑えるのに軽く深呼吸をしてからオーランドを見下ろした。

「オーランド…お前、父さんにこの前のこと話しただろ…」
「…えっ?あ…!」

しまった!と言うように手で口を抑えたオーランド。
その姿に再び額がピキっとなったジョシュ。

実はこの前、ジョシュがデートを終え、午前様で帰宅した時、まだ起きていたオーランドと顔を合わせてしまった。
(まあオーランドはレオにお仕置きされた傷が痛んで寝れないから冷蔵庫をあさってただけ)
そして何でと一緒に帰って来なかったの?と聞かれ、最初は誤魔化していたのだが、元々嘘はヘタなこの三男。
オーランドのしつっこい追求にアッサリと白状してしまったのだ。
だが後でしっかり口止めはしておいた。
レオやイライジャ、はたまた父ハリソンにバラされでもしたら、またからかわれるし、うるさいからだ。
しかし、そうは言っても、この二男、口だけはマシュマロよりも軽い。
口止めしたからと言って絶対、言わないという保証なんてないのは長年、オーランドを見て来ているジョシュには十分過ぎるくらいに分かっていた。
そこで口止め料としてオーランドが前から欲しがっていた自分のサングラスを仕方なくあげたのだ。

(まあ、あれには飽きてたし、今はそんなにつけないし、それに新しいのも買ったし)

そう思いながらオーランドにサングラスをあげたのは、つい先日のこと。

(なのに、こいつときたら―――!!)


「一週間も経たない内にチクってんのかよ!!!」

「ひぃ〜〜!!ゴ、ゴメンよ、ジョシュゥ〜〜!僕ってば秘密はもてない主義なんだよぉおう〜!!」

「何が"主義"だ!!オーリーみたいのは、ただ単に口が軽いだけだろがっ!!」

「兄ちゃんが悪かったよーーー!!」

「嘘つけ!そんな事、思ってないクセにッ!!」

「お、思ってるよ、ちょっとだけ…!」

「ちょっとだぁ〜?!サングラス返せッ!!」

「わーーーっ!嘘、嘘!いーーーっぱい思ってるからゲンコはやめてーーーっ!!」

「逃げるな!!アンタは子供かっ!!」


こうして……いつも通り騒々しいハリソン家の朝。
だが他の皆が起きてきて見たもの。

それはオーランドを追い掛け回し、蹴りまくっているのは(!)レオではなく、普段は温厚なジョシュ…という何とも見慣れない光景だった。











ハリソン





「おはようございます!ミスターハリソン!」

「…おはよう」

いつもの朝、私は台本を読みながら仕事へ行くまでの静かな一時。(オーランドがいればそれは壊されるが)
……のはずが。

(―――何だ?この陽気な男は!)

「僕はジョージ・ファレルです!先日、さんの担当を任されまして」
「ああ…聞いてるよ…。少しの間、スタンリーの代理だって?」

私がそう言うと、このジョージという男は明らかに顔が引きつったがすぐに営業用スマイルを浮かべる。

「今はそうですが、そのうち、本当に担当になるかも――」

「おはよう、お父さん」
「おぉ、!おはよう!」

耳をほじりながら(!)ジョージの戯言を聞いていたが、そこへ目に入れても痛くないほど可愛がっている娘がやってきて、私はすぐに顔が綻んだ。
そして歩いて来たの頬に軽く、おはようのキスをする。

「体調はどうだい?」
「もう大丈夫」
「そうか。それは良かった」
「あ、ジョージ、おはよう」
「やあ、くん!おはよう!今日もいつにも増して奇麗だね!」
  「…………(ムッ)」
「…あ、ありがとう…」

この男!私の前で堂々と娘を口説くなんていい度胸してるじゃないか!(違う)
も、こんな男、一発で振ってしまいなさい!(親ばか発揮)

私はジロリと、この調子のいい男を睨みつけながら若干、イライラしていた。
そこへジョシュが支度を終えて戻って来た。

「やあ、ジョージ」
「やあ、ジョシュくん!今、君たちの父上に挨拶を済ませたところだよ」
「…はあ。(んなこと聞いてねぇよ)」 (※今朝の件で機嫌が悪い)
「では行こうか!今日はスタジオだ」
「はい。じゃあ父さん、行って来るよ」
「ああ。頑張ってきなさい」

私はもう一度の頬にキスをして、二人にそう声をかけた。
だが歩いて行きかけたジョシュの腕をグイっと掴み、引き戻す。

「待て、ジョシュ」
「な、何だよ・・・・・・」
「どうしたの?お父さん」
「あ、ああ。いや何でもない。ちょっとジョシュに話が・・・・・・は先に車に乗ってなさい」
「・・・?分かった。じゃあジョシュ、車に乗ってるね」
「ああ、すぐ行く」

ジョシュはに笑顔でそう言うと軽く手を上げた。
そして徐に私の方に振りむくと途端に不機嫌そうな顔になる。

(ジョシュ・・・・・・お前だんだんレオに似て二重人格になってきたな・・・)(シミジミ)

「何?父さん」
「ん?ああ、いや、あのな・・・。あのジョージって男に大事なを預けて大丈夫か・・・?」
「え?」
「あんな軽そうな男・・・いくらベテランでもには合わないと思うんだが」

私がそう言うとジョシュはクシャっと髪をかきあげ手に持っていたキャップを被り息をついた。

「まあ・・・俺もそう思うけどさ。仕方ないだろ?事務所が決めたんだし・・・それにずっとじゃないよ」
「いや、でも、あの男、そのうち、本当にを担当する、みたいな事を言ってたぞ?軽く聞き流しておいたが(!)」
「はあ?まさか!ほとぼりが冷めれば、またスタンリーがやるだろ?もそんなこと言ってたし・・・」
「そうか?ならいいが・・・あの男、何だか心配だし、お前もよく見張っておけよ」
「分かってるけど・・・大丈夫だろ?まさか事務所の看板女優には手を出すはずないし」
「いーや!分からんぞ?あの手のタイプは相手の隙をついてくるタイプだ。大人の魅力を存分に使いそうだ。まあバカだが」(!)
「ああ・・・まあ・・・何となく姑息な感じはするよな・・・」(?!)
「だろう?だからちゃんと見張っておけよ」

私が真剣にそう言うとジョシュも苦笑を浮かべ、「分かったよ」と肩を竦めた。

「じゃあ行って来るけど・・・皆は?さっき一度、下りてきただろ?もう仕事行ったの?」
「ああ・・・えーとオーランドは半べそかきつつ仕事へ行ったな・・・」
「何・・・俺のせいだって言いたいわけ?」 (めっちゃ目を細めるジョシュ、怖すぎるぞッ)
「い、いや違う!そ、それで・・・レオもさっき出かけて行ったし・・・イライジャはまだ用意してないとかで部屋へ戻ったはずだ」
「ふーん。ま、今日は皆、仕事か。父さんは?」
「私は午後からちょっとイタリアの方へ行って来るよ」
「・・・・・・は?イタリア?!」
「ああ。多分・・・。一週間は戻らないな」

私がニヤニヤしつつ、そう言うとジョシュの冷たい視線が突き刺さった。

「もしかして・・・・・・新しい恋人とバカンス?」
「ん?ま、まあ・・・そんなとこかな。撮影は暫くないし」
「あっそ。まあ・・・楽しんで来てよ」
「ああ。お前も、そのデートしたとか言う女優と上手くやれ」

そう言ってバンっとジョシュの背中を叩くと、思い切り嫌な顔をされた。

「彼女とは別にそんなんじゃないよ」
「まあまあ。モテるってのはいい事だしな!あははは!」

私がそう言って高笑いすると、ジョシュは軽く首を振り、尚且つ溜息もついて静かにリビングを出て行った・・・(感じ悪い息子だ)







―――それから数日後・・・







レオナルド






父さんが、どこぞの女優とバカンスへ出かけてから四日。特にトラブルもなく、いつも通りの日々を送っていた。
まあデライラの事は心配だったがジョシュの話では今のとこ、には何もしてないようだ。
俺は昨日から暫しのオフに入り、(と言うか使っていたセットが壊れ、撮影がストップしてしまった)久し振りにゆっくりと眠った。

・・・・・・はずだった。




「・・・・・・だよ、リジィ!親友が遊びに来てやってんのに!」

「だって、そんなDVD持って来てなんて言ってないよ!今日はホラー観賞だって言っただろぉ?」


「バカヤロ!この映画は凄く泣けるんだぞ!」





「・・・あーうるっせー」

下から聞こえてくる声に俺は軽く溜息をついて寝返りを打った。
腕を顔に乗せ、再び寝ようと頑張ってみるも未だ下からはギャーギャーと聞こえてくる。


「ぅげー何しに来たんだよ、ドムーー!!」


「うるさい!オーランド!お前に会いに来たんじゃねぇー!」


「ぅーゎー何だよ、その言い草!」



「チッ・・・・・・」


この家で一番、騒音を出すオーランドの声が加わり、俺は小さく舌打ちをすると、ゆっくりと体を起こし、ガックリと頭を項垂れた。

「せっかくのオフくらい、ゆっくり寝かせてくれよ・・・・・・」

時計を見れば午前11時。本当なら午後まで眠りたいところだ。
だけどあのバカが来てるなら寝てる場合じゃない。

「はぁ・・・起きるか・・・」

何だか悪夢で起こされたかのような疲労感を感じながら俺はベッドから出るとすぐにバスルームへと向かった。
頭をスッキリさせるのにシャワーを浴びる。
軽く体も洗ってから出るとバスローブを羽織ってから部屋を出た。

「ふぁぁ・・・」

大きな欠伸をしつつ、濡れた髪をバスタオルで拭きながら階段を下りて行くと、あのうるさい声が一層、耳に響いてきた。

「これは見ないって言ってるだろ〜!今日の主催者は僕なんだからね!」
「いいだろ、一本見るくらい!」
「やだよ!それにだって、そんなベタベタのラブストーリーなんか見ないって!」
「そんな事ない!きっとは好きなはずだ!」

「・・・が何を好きだって・・・?」

「――あ、レオ!」
「・・・げっ!お、お兄さま!」

俺がウンザリした顔でリビングに入って行くと、ソファの上には沢山のDVDの山。
そして二人は驚いた顔で俺を見ている。

(こいつら、一体、こんな昼間から何をしてるんだ?)

そう思ったが、その前にドムの一言を俺はしっかり聞いていた。

「ドム・・・今、"げっ"って言ったか?」
「い、いえ!決して、そのような暴言など!"げっ元気でしたか"?と聞こうと――!」(苦しい言い訳)
「ふーん。まあいいけど・・・。それより何だよ、これ」

俺がソファの上のDVDケースを指さすと、リジィは苦笑しながら肩を竦めた。

「あ〜レオに言うの忘れてたよ。最近、時間合わなくて会ってなかったし」
「何のこと?」
「実はさ、今夜、うちで映画鑑賞会やるんだ」
「・・・・・・は?映画鑑賞会?」
「うん。ほら、せっかくシアタールーム作ったのに自分達だけで見ててもつまんないだろ?だから友達とか呼んでさ!」
「へぇ・・・それでコレか・・・」

俺はちょっと笑ってDVDケースをよけるとソファに腰をかけ、煙草を加えた。
すると、すぐにドムがポケットからライターを取り出し、サっと火をつけてくれる。

「サンキュ」
「いえ、こんな事くらい!」

ドムはそう言って嘘くさーい笑顔を見せる。(寝起きに見たくなかった)
そして素早く散らかしたDVDケースを持てるだけ手に持ち、片付け始めた。

「おいリジィ!お兄さまが寛ぐのに邪魔だろ、コレわ!」
「・・・なーにが"お兄さま"だよ・・・。――いつも"悪魔"だの"マフィアのボス"だの言ってるクセ・・・ふぐ・・・っ!

ブツブツ言ってたリジィの口をドムは素早く塞ぎ、「な、何言ってるのかなぁ?イライジャくん!」と冷や汗をかいている。

(ったく!誰がマフィアだ!聞こえてんだよ!)

俺がジロリと睨むと、ドムは引きつった笑顔を見せ、すぐに手を離した。

「ぷは・・・っていきなり何するんだよ!」
「いやー悪かった、悪かった!お前の口元にちっこい虫が止まっててな!さ、さあリジィ!早く見る映画を決めようじゃないか!」
「何が虫だよ、いるか、そんなもん!っつか見る映画はもう決まってんの!」
「だ、だからこれも見ようって言ってるんだよ!」
「やだよー。僕、ラブストーリーとか好きじゃないし!だって同じだって!」
「そんなことあるか!」

「あーもう、うるっさい!」

「・・・っ(ビク)」

二人の言い合いに俺は溜まらず、そう言ってソファから立ち上がった。

「何モメてんだよ・・・」
「だってレオ〜聞いてよ。ドム、こーんな甘々なラブストーリー見るって言うんだよ!」

イライジャはそう言ってドムの手から奪ったDVDケースを俺に見せた。
それは何だかB級っぽさの漂う、「愛されて」といかいう映画で"〜真実の愛とは何ですか?"なんてサブタイトルまでが書いてある。

「何だよ、それ・・・。だいたい、うちの家族は皆、ラブストーリーは見ないんだよ」
「そうだよねー?ほーら、見ろ。だってアドベンチャーとかアクション物が大好きだって言ってんのにさぁ」
「そ、そんな・・・でも俺はこれをと一緒に見たぃ――」

「あ?誰と見たいって?」
「・・・い、いえ!こ、これは家で一人で見ますぅ・・・!」

俺がジロリと睨むと、ドムはそう言ってすぐにリジィの手からDVDを奪い返した。
リジィはすでに笑いを噛み殺している。

(ったく・・・ほんと諦めの悪い男だ・・・)

俺は軽く溜息をつくと煙草を灰皿に押しつぶし、リジィの方を見た。

「それで・・・は仕事か?」
「うん。でも今日は夕方には帰るって」
「そうか。で・・・うちの騒音はどこだ?」

さっきまで声が聞こえていたオーランドの姿が見えず、俺がそう尋ねるとリジィは苦笑しながら外を指差した。

「さっきエマと二人で買出しに行った。きっと映画見ながら食べるおやつ大量に買ってくると思うよ」
「・・・だろうな・・・。で?そこのバカ以外に誰か呼んだのか?」

俺が指でドムを指して、そう言うとドムは顔を引きつらせたが、リジィは笑いながら首を振った。

「それがヴィゴとかビリーにも声をかけたんだけど、皆、今はロスにいないんだ」
「そっか。ふぁぁ・・・・・・ま・・・じゃあ静かに準備してくれ。俺はもう少しだけ寝てくるから」

まだ眠気が取れず、俺は立ち上がってそう言った。

「OK。僕らで準備してるよ」
「ああ。じゃな」
「お、お休みなさい、お兄さま!」
「・・・・・・その"お兄様"ってのやめろ・・・俺はお前の兄貴じゃないし、なりたくもないし、なる気もないからな・・・!」
「は、はいぃ・・・・・・(クッソォー)」

俺の言葉に更にピクピクと頬を引きつらせたドムにリジィは腹を抱えて笑っている。

(ったく・・・笑い事じゃないっての・・・)

俺は軽く溜息をついて、そのまま自分の部屋へと戻ったのだった。











イライジャ






「ったく!何で俺様があんなに気を使わないといけないんだ!あぁん?!」
「・・・・・・勝手につかったんだろ?ほーんとドムはレオに弱いよね」

僕はシアタールームを片付けながら、そう言うとドムはムっとした顔でこっちを見る。

「ま、まずとの事を考えると一番、敵にまわしたくないだけだ!」
「へー。ま、でも心配しなくても、とは結婚出来ないから大丈夫だよ」
「な、何だとぅ?!」
「あーもうほら!そんな大声出したら、またレオに"うるさい"って怒られるよ?それより、そのクッション取ってよ」
「・・・・・・」

僕の言葉にドムは少し怯えたような顔をしつつ、大きなクッションを投げてよこした。
それを受け取り、何人か座れるようにする。

「ふぅ・・・こんなもんでいいかな?はぁー疲れた」
「全くだ・・・」
「ドムはレオに気疲れしただけだろ?何もしてないじゃん」
「そ、そんな事ないぞ?ちゃんとDVDを片付けただろーが!」
「だから、それもレオがいた時だけだろ?」

僕はクッションに寝転びながら苦笑するとドムは苦虫を潰したような顔で舌打ちをしている。

「ったく。僕に少しは感謝してよね。今夜、久々にに会わせてあげるんだからさ!」
「わ、分かってるよ!そ、それより・・・ほんとに来ないんだろうな?」
「え?」
「ほら!例のモデル気取りヤロウだよ・・・!」

ドムは隣に座りながら怖い顔で聞いて来た。それには僕も溜息が洩れる。

「だから・・・スタンリーは"モデル気取り"なんじゃなくて"元モデル"!」
「んなこたぁ、どっちでもいい!それより本当に!の担当から外されたんだな?!」
「まあ、そうだけどさ」
「よっしゃ!!これで、まず邪魔者が一人減ったな・・・ふふふ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

ニヤニヤしながら、そんな事を呟いているドムは本当に犯罪者顔で、僕はちょっとだけ距離を置いて座りなおした。
そこへドタドタという、うるさい足音と共に、賑やかな声が聞こえて、すぐにシアタールームのドアが開く。

「たーだいまー♪準備出来た〜?」
「ああ、オーリー、お帰り。まあ何とかねー」
「わぉ♪少しは片付いたね!」

そう言いながらオーランドは大きな袋を抱えつつ入って来て、それをテーブルの上にドサっと置いた。

「何これ・・・まさか、これ全部・・・・・・・」
「そうさ!おやつだよ、リジィの好きな!」
「・・・・・僕じゃなくてオーリーが、でしょ?」
「まあまあまあまあ☆いいじゃないか!映画を見る時には必需品だろ?」

オーランドは得意げにそう言うと早速、袋の中からチップスやチョコレートを出し始めた。
その嬉しそうな姿を見ると、子供の頃とちっとも変わってないな・・・と内心、苦笑する。

子供の頃もよくキャンプの前日や、旅行前には、こんな風に大量のお菓子を嬉しそうに鞄につめてたっけ。
オーリィの奴、荷物の殆どがおやつだったからなぁ・・・
普通の食事より、お菓子食べてた方が多いんじゃないかってくらいだし。
あーだから、あんなに骨も脆かったのかな・・・そう言えばオーリィ、子供の頃から骨折してばっかだった。
糖分ばっか摂ってないでカルシウムも摂れ!って言いたいね、ウン。

「ほーら、このキャンディ、懐かしくない?よくリジィ、これ食べてただろー」
「・・・・・・ああ、それ。でも、すぐオーリィに盗られてたけどね・・・」
「・・・・・・ま、まあ、それは置いといて(!)は?いつ帰って来るの?」
「さあ?もうそろそろ・・・じゃないの?」

上手く話を変えたオーリィに僕はちょっとだけ半目になった。
そして隣ではドムがいきなり持ってきたバッグの中からブラシを取り出し、髪を直し始め、更に半目になる。(視界が狭い)

「何してんの・・・?」
「ん?何ってお前・・・もうすぐが帰って来るから身だしなみを整えてるんだよっ」
「・・・ふーん・・・。(・・・っつか、そんな変わらないと思うけど)」

なんて内心で思ったが言葉に出しては言わない。(復讐が怖いから)
・・・なのにオーランドが突然、笑い出して――

「あはは!ドムは今さら何しても無駄、無駄!」(!)(←怖いもの知らず)
「む!どういう意味だ、オーランド!」
「だーって顔だけは整形しないと変わらないんだし?」
「あぁん?何だと、こらぁ!ちょーっと自分がモテるからって調子に乗るなよ?!アホがバレてすぐ振られるクセに!」
「ぬ!!俺はアホなんかじゃない!!それに振られるのだって、そんな理由じゃないぞ?!」
「あー!そうか!未だに妹離れが出来ないからだったな!そろそろは俺に任せてお前は新しい恋人でも作れ!」
「ぬぁにおー!!はドムにだけは渡さないぞ!!」
「何だとぅ?!はお前のもんじゃないだろがーーー!!」
「俺のだよーー!!ぜーーったい渡すもんか!」
「ぅ、うるさーーい!そんなのはが決める事なんだ!お前にどうこう言われる筋合いはなぁーい!俺との問題だ!」
「その前にはドムなんて眼中にないっつーの!!」
「何をぅ!そーんなの聞いてみなくちゃ分からんだろがぁ!!」
「聞かなくても分かるよ!バッカじゃない?」
「あぁん?バカはお前の専売特許だろ!!」
「俺はバカじゃなぁーーーーーいぃ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ドムとオーリィは、いつもの如く下らない言い合いを始め、僕は思い切り頭を項垂れた。
そしてさっきのレオの言葉を思い出す。


"静かに準備してくれ"


(ここが防音付きのシアター内で良かった・・・・・・・)


心からそう思った。

でも何で僕がこんなに気に病まなくちゃいけないんだ!バカ二人のせいで!
が帰って来たら、ますます大変な事になりそうだ。

それを考えると、やっぱりドムを呼ばなきゃ良かった・・・と後悔した僕だった・・・・・・。









ジョシュ






「お疲れさま」
「あ、お疲れ、ケイト」

俺がそう声をかけるとケイトはちょっと微笑んで控室の方に戻って行った。
デートをしてから何となく俺の方まで意識をしてしまう。
いや、別にあの夜は特別、何があったというわけでもない。
ただ一緒に食事をして、その後、バーに飲みに行った。
思ってたよりも話も弾み、結局帰ったのは深夜になったが、やましい事は何もなかった。
ケイトは凄く聡明で奇麗な人だ。
性格もいいし一緒にいて楽しい。
だけど・・・恋愛関係になるには今の俺にはまだ時間が必要なだけだ。

(色々と心配ごともあるしな・・・)

そう思いながらセットから出ると、スタジオに先に撮り終っていたがやってくるのが見えた。

「ジョシュ!終った?」
「ああ、今ね」

の頬に軽くキスをし肩を抱き寄せる。
するとが笑顔で俺を見上げた。

「あのね、今夜の映画鑑賞にデライラも誘ったの。いいでしょ?」
「・・・ぇっ?」

(デライラ・・・今、デライラも誘ったって言ったのか?!)

それを聞いて俺は普通に頷きそうになって慌てて聞き返した。

「デライラを誘ったって・・・」
「今日、皆で映画見るって話したら、私も行きたいなって言うから。いいでしょ?今日はビリーやヴィゴも来れないってリジーも言ってたし、人数多い方がいいじゃない」

は無邪気な笑顔でそんな事を言っているが俺は軽い目眩を感じた。

(・・・デライラを家に招待するって?!そりゃマズイよ、!事情を知らないとは言え、よりによって彼女を誘うなんて・・・!)

「どうしたの?ジョシュ」
「え?あ、いや!別にその・・・」
「変なジョシュ。あ、もしかしてケイトも誘いたい?」
「は?いや、そんなんじゃないよ、うん」
「そう?誘ってもいいのに。私、言ってきてあげようか?」
「い、いい!そんな事しないでいいから!」

歩いて行こうとしたに、俺はいつにも増してアタフタしつつ首を振り、その間も頭の中であれこれ考えた。

もしこのままデライラを連れ帰ったら・・・レオに何をされるか・・・(ゾ)
いや・・・というかレオに電話して相談するか?
・・・でも相談したところでに何て言うんだ?
まさか"デライラはレオのストーカーしてるんだ"、なんて言えないぞ、俺・・・

「ジョシュ・・・?ほんとどうしたの?」
「う・・・いや、あの・・・さ。今夜は・・・家族だけで映画観よう」
「え?どうして?だってリジィが友達も誘っていいって・・・」
「で、でもさ、ほら。ヴィゴとかも来れなくなったんだしサラもダメだったんだろ?」
「うん。サラは仕事でパリだし・・・。でも・・・だから他の人誘ってみたのに」

は首を傾げつつ、何となく訝しげな顔で俺を見ている。
ちょっと変に思われてるようだ。

「それにデライラには、もうOKって言っちゃったの。だからいいでしょ?」
「え、あ・・・うん、まあ・・・じゃ仕方ないよな・・・いいんじゃない・・・?」 (レオ、許せ!俺に上手く言いくるめるなんて芸当は出来ない!)

結局、ハッキリ反対する事も出来ず、俺はの可愛い笑顔につい頷いてしまったのだった・・・。







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