ミッドナイトシアター・後編







「もぉーうるさいよ!落ち着いて見れないだろぉう?!」

シアタールームにイライジャの怒ったような声が響いた。たった今、二本目の映画を観終わったところだ。

「今日は飲み会じゃないんだからねっ」

次のDVDをセットしながらイライジャはジロっと一番、うるさかったオーランドとドムを睨んだ。

「まあまあまあ☆リジィ!そんな怒るなよ〜!楽しきゃいいじゃん!」

そう呑気に言いつつイライジャの肩を抱いたのはこの家の"歩く騒音"こと二男のオーランドだ。

「今日は映画鑑賞会だって言ったろ?それにオーリーが一番うるさいよっ!」
「だって映画見てても話とかしたくなるだろ?なぁ?ドム」
「その通りだ、オーランド!ね?お兄さまっ」
「・・・うるさいよ・・・誰がお兄さまだ・・・」

ドムの言葉に顔を顰めたのは、この家の長男レオ。
今はと並んで座りつつ、ブランデーのグラスを片手にクッションに凭れている。
だがを挟んで反対側にいるデライラの事が気になるのか、ちょっと気まずそうに視線を反らし立ち上がった。

「レオ、どこ行くの?」
「ブランデー持ってくる。は?」
「私はまだワインあるし大丈夫よ?あ、私が持ってこようか?」

そう言いながら少しだけ腰を浮かしたにレオは笑顔で首を振った。

「いいよ、そんな気を使わなくて。勝手にやるからさ」
「そう?」

レオの言葉にはちょっと笑うと再びソファに腰を下ろす。
そして、そのやり取りを聞いていたデライラは意味深な笑みを浮かべてレオを見上げた。

「噂通り、優しいお兄さんなのね」
「え?あ・・・そう・・・かな」

デライラの言葉にはちょっと微笑んで頷いた。
だがレオは少し冷めた目でデライラを見ると、すぐにシアタールームを出て行ってしまう。
そんな彼を見送りつつ、デライラは部屋の中を見渡した。

スクリーンの前には先ほど怒っていたイライジャ、そしてオーランドとドムが陣取っている。
そして、その後ろの壁際にはスタンリーと友人のキース。
二人もオーランド達に進められるまま、お酒を飲まされ今もグラス片手に始まったばかりの映画の予告を話しながら見ているようだ。
時々、ドムに絡まれたり、オーランドにちょっかいかけられたりと、まあ楽しそうにしている。
その様子が気になるのかはチラチラ、視線を向けながら小さく溜息なんかついている。
そこへ部屋を出ていたこの家の三男ジョシュが戻って来た。
レオ同様、お酒を持ってきたのか、その手にはバーボンのグラスとボトルがある。

「ジョシュも飲むの?」

隣に座ったジョシュにが笑顔を向けた。
そんな彼女の頬に軽くキスをして、ジョシュは自分のグラスをのグラスにチンっと当てた。

「あんなに騒がれちゃシラフでいられないしな。それに明日は午後からだろ?」
「うん。デライラは何時入り?」

不意に隣にいるデライラにが声をかけると、彼女はハっとしたように二人を見た。

「えっと・・・私は・・・朝、ワンシーンだけ撮りがあるの」
「そうなの?じゃあ、あまり遅くまでは飲めないわね」
「ええ。様子を見て帰るわ」

そう言うとデライラは立ち上がり、「ちょっとお化粧室に・・・」と部屋を出て行ってしまった。
そんな彼女をジョシュは横目で見ると軽く息をつく。

(――レオのとこに行ったな・・・)

ジョシュはそこに気づき、チラっとを見た。は二人の事を知らないし気づいた様子もない。
まあ、それだけレオが上手く演じてるのかもしれない。

(ったく・・・レオも相手をよく知ってから手を出せよな・・・)

何も知らず、楽しそうに映画を見ているを見て、ジョシュは小さく息を吐き出したのだった。












レオナルド









カラン・・・

氷がグラスの中で音を立てて溶けて注いだばかりのブランデーの中でクルクル回っている。
俺はキッチンのカウンターに寄りかかりながら、ゆっくりとグラスを口に運んだ。

「はぁ・・・」

小さく息を吐き出し、髪をかきあげる。
そして何かつまみになるものはないかと冷蔵庫を開けようとした時――

「一人で飲んでるの?」

「――――っ」

不意に声が聞こえ顔を上げると、そこにはデライラが笑顔で立っていた。

「デライラ・・・」
「私にもブランデーちょうだい」

デライラはそう言ってキッチンに入ってくると馴れ馴れしく俺の肩に手を置いた。
それを軽く振りほどき、彼女に背を向ける。

「怒ってるの?」
「別に。もう、そんなもん通り越してる」
「・・・あなたの大切な妹には何もしてないわよ?」
「当たり前だ。何かしてたらお前をこの業界から追い出してやるって言っただろ?」

そう言って振り返ると、デライラはちょっとだけ微笑んだ。

「別に・・・それでもいいのよ?どうせ今のままじゃ私なんて脇役どまりの女優なんだし」
「へぇ、分かってんだったら今すぐやめろよ」
「・・・・・・相変わらず意地悪ね」

デライラは少しだけ寂しそうな顔で微笑む。
そんな彼女を見て、俺は思い切り溜息をついた。

「一体・・・どうしたいんだ?こんな事されても俺は君の事を好きにはならない」
「分かってるわ」
「じゃあどうして―」
「好きになるのに理由なんてないじゃない?嫌われても会いたいって思うのにも」
「・・・会いたい?君は俺に会いたくて、わざわざの映画のオーディションを受けたり、こうして家にまで来たってのか?」
「・・・さあ・・・どうだったかな・・・。ただ・・・レオがそんなに愛している妹さんに会ってみたかった・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

デライラの言葉に俺は少し眉を顰め、そのまま冷蔵庫を開けた。

「だったら、もういいだろ?不必要にと仲良くなろうとするな。あいつは純粋なんだ。君の事を友達だと信じるくらいな」

そう言ってビターチョコを出すと立ち上がってから振り向いた。
瞬間、唇を塞がれ目を見開く。
驚いた勢いで後ろに下がり、手にしていたチョコの袋がバサッと床に落ちて俺は冷蔵庫に背中をぶつけてしまった。
だがデライラは俺の首に腕を回し、更に唇を押し付けるようにキスをすると、すぐに離れて微笑む。

「やっぱりレオとキスすると一番、感じるわ?」

「―――ッ?」

それには俺も言葉を失い、彼女をただ呆れたように見つめる。
デライラはそれでもちょっと笑うと、「そろそろ戻らないと変に思われるわね・・・」と呟き、静かにキッチンを出て行った。

「――はぁぁぁ・・・」

一気に疲れ果て、俺は思い切り息を吐き出すと、床に落としたままのチョコを拾いカウンターテーブルへと置く。
そして椅子に座るとガックリと頭を項垂れた。

「あまり刺激すんなよな・・・ったく・・・」

そう呟き手の甲で唇を拭うと俺は煙草を咥え火をつけた。そしてグラスを額に当てて軽く溜息をつく。
少しだけ体が熱いのは仕方がない。

(ここんとこ全くデートしてないしな・・・)

「そりゃ欲求不満にもなるか・・・・・」

そう呟き、苦笑が洩れる。
だいたい本気じゃないにしろ、女を欠かしたことなんて今まで一度もなかった。
満たされない想いをぶつけるように色々な女と寝てたし、それこそ欲求不満になんてなる事すらなかったんだ。

そう・・・体だけは。

それで心が埋まらない事は知っていた。でも、そうする以外、どうしようもなかったから。

「クソッ...!」

軽い苛立ちと苦い想いが仕舞いこんだ胸の奥から湧き上がってくる気がして小さくそんな言葉を吐き出した。
と、その時、人の気配を感じてハっと顔を上げれば――


「・・・キース?」
「どうしたんですか?レオ兄貴!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

キッチンの入り口から能天気な声が聞こえて来てスタンリーの友人のキースがフラフラと入って来た。

「キースこそ・・・何してんだ?」
「俺はトイレです!んで戻ろうとしたら話し声が聞こえたから、ちょっと覗きに・・・」
「―――ッ?」

(・・・という事は・・・・・・・・・)

嫌〜な予感がしてキースを見ると彼は何だかニヤニヤした顔で俺を見返し、隣の椅子に腰をかける。

「いいんです!何も言わなくて!いや!俺が言わないし!」
「見たのか・・・」

ガックリと頭を垂れれば、キースはニヤニヤしながら、

「もう、バッチリ!」

なんて言って笑っている。そして、とんでもない事を言い出した。

「それにしても!欲求不満なら不満って言ってくれればいいのに!いくらでも奇麗なモデルさん紹介しますよ?!」
「バ・・・ッ!お前、何言って―――!」
「まあまあまあまあ☆隠さないでいいっすよ!同じ男なんだし気持ちは分かるから!」
「う・・・」

バンバンと背中を叩かれ、俺は言葉につまってしまった。

(・・・っつか人の独り言まで聞くなよ!!恥ずかしいッ!)

俺は能天気なキースの顔を見ながら少々半目になりつつ煙草を灰皿に押しつぶした。

「お前、どっかオーリィと似てるよな・・・とぼけたとことかさ・・・」
「あ、それちゃんやスタンリーにも言われたんですよ〜♪ちょっと嬉しいな〜!」
「・・・・・・そこ喜ぶとこじゃないんだけどな・・・身内としては」
「え?」
「いや、何でも・・・」

"アフォ"の異名をもつ男に似てるなんて、俺達家族や、オーランドを良く知る奴らから見れば逆に"屈辱"と思うだろう。

(ま、こいつは、そんな深いとこまで知らないから喜んでるんだろうけどな・・・)

横で嬉しそうにしているキースを見て俺は軽く苦笑を洩らした。
するとキースはいきなりテーブルの上にあったメモをちぎりペンを持ったまま俺にニッコリ微笑んだ。

「な、何だよ・・・?」
「レオ兄貴はどんなタイプの子が好みなかーと思って」
「は?どんなって・・・」
「やっぱ、さっきの彼女みたいに奇麗でセクシィ系とか?」
「・・・・・・さっきのは忘れてくれ。彼女は前に一度、デートしただけで付きまとわれて困ってんだからさ・・・・」
「あ、なるほど!だからか〜!キスまでされたのに誘わなかったのは!ふんふん・・・・・・そっかそっか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

(ほんと呑気な奴・・・・・・)

それから20分ほどの間に色々な女性のタイプをあげていくキースの話に耳を傾けつつ、こうなったら、ほんとに紹介でもしてもらおうか、とすら思ったのだった。










ジョシュ







「へぇ・・・それでなつかれたってわけ?」

俺はちょっと苦笑するとウンザリ顔のレオのグラスにブランデーを注いだ。
レオはジロっと俺を睨むと大きく溜息をついて今はオーランドと騒いでいるキースへ視線を向ける。

「笑い事じゃないぞ・・・・?」
「ごめん、ごめん。でも・・・彼女も相当なタヌキだな・・・」

俺はそう言ってと何やらおしゃべりをしているデライラをチラっと見た。
まあ、レオの事を好きなんだってのは分かるが何もここまで追い詰めなくてもいいだろうに。
それに以外には自分の正体がバレてるってのに、この場にいれる図太さも大したもんだよ、ほんと。

「女って怖いよな・・・」
「お、何だよ。ジョシュも怖い目にあったのか?」
「それはないけど・・・。レオじゃあるまいし」
「一言、余計だよ」

レオはそう言って苦笑すると俺の額を指で突付いた。
俺もちょっと笑いながらバーボンを口に運び軽く息をつく。

まあレオは昔からかなりモテてたし、気づけば"恋多き男"なんて言われてて、でもある時から"遊び多き男"なんて言われてたっけ。
いつから女遊びをしてたのか、俺には分からないけど、多分・・・
中学生になる前からすでに、その才能(?)は発揮されてたんじゃないかと思う。
俺はどっちかと言うと女の事に関しては疎い方だったし、興味がないと言えば嘘になるけどレオほど遊んではいなかった。
の世話や心配する事の方が多かったし今、思い返しても好きな女って数えるくらいしかいなかったはずだ。
それも"シスコン"なんて言われて振られたりしたんだけどさ。

"大切な妹を可愛がって何が悪いんだ"

その頃から俺はそんな風に思うようになった。
恋人の事も好きだけど、を思う気持ちより上にいったことなんてない。
って事は俺も本気で人を愛した事なんてないって事なのかもしれないな・・・
はぁ・・・父さんを見てきたせいもあるのかもしれないが。

俺はそう思いながら軽く息をつくと、小さく欠伸をした。
それを見てレオが苦笑を洩らす。

「何だよ、眠いのか?」
「ん〜。ここんとこ疲れてるんだ」
「そっか。じゃあ、もう寝たらどうだ?明日も撮影だろ?」
「ああ・・・そうしようかな・・・」

そう言ってるうちから、またしても欠伸が出る。

「レオはまだ飲んでる?」
「ああ、明日もオフだし・・・それに彼女が帰るまではな・・・」
「それもそうだな・・・。じゃあ俺は先に寝かせてもらうよ」
「ああ、ゆっくり寝ろよ」

そう言われ俺はレオの肩に軽く手を乗せると、そのままの方に歩いて行った。

、俺、先に寝るよ」
「え?早いね?」
「ちょっと眠くてさ。まあ・・・うるさいのばっかだしも早めに部屋に戻れよ?」
「うん。大丈夫よ」

そう言っては立ち上がると少し背伸びをして俺の頬にキスをしてくれた。
俺もチュっとキスを返すと、

「おやすみ」

と言って部屋を出る。
賑やかなシアタールームから一転、リビングはシーンとしていて俺はホっと息をついた。
そしてドアについてる小さな窓から中を覗けば、皆、映画など見ずに好き勝手に騒いでいる。
きっと真面目に(?)映画を楽しんでいるのはイライジャくらいだろう。
今ではオーリィやドムも酒を飲んで騒ぐ・・・と行った方にエネルギーを使ってるように見える。
もデライラと映画を見つつおしゃべりしているし、スタンリーはキースとオーリィに挟まれ何だか困った顔で飲んでいる。

「はぁ・・・こりゃ朝まで・・・って事になりそうだな・・・良かった、父さんがいなくて」

俺はそう呟いて軽く頭を振ると、再び欠伸が襲ってきてすぐに自室へと戻ったのだった。










イライジャ







全く!何なんだ、これは!
せっかく色々な映画を流してるのに皆は飲んでバカやってるだけじゃないかっ
だいたい何だよ、オーリィまでドムと一緒になってバカ騒ぎしちゃってさ!

"せっかくシアタールームあるんだし大勢集めて鑑賞会やりたくない?"

なんてホクホクしながら言ってたクセに結局、"飲み専門"かよ。
まあ・・・こなるんじゃないかなぁって僕も予想はしてたけどね。

「うぉーキースくんはイケル口だなあ!」
「任せて下さいよ!まだまだ飲めますよーーん♪」
「お、おいキース・・・そろそろやめとけって・・・」
「何だよ、スタンリ〜〜!お前も飲め!もっと飲めるだろ!」
「そうだよ、もっと飲もうよ〜!」

オーリィは何だか煽ってキースにもスタンリーにも飲ませてるし、それを仏頂面で見てるドムは勝手に飲んでるし・・・
はぁ・・・ダメだ、こりゃ。
レオはレオでとデライラの事を気にして映画なんて・・・見てないね、ウン。
は見てるけど、そろそろ頬も赤く染まってきてるし、きっとワインで酔っちゃったんだろうな。
相変わらず酔ったは可愛いけど、あのデライラが何となく煽って飲ませてる気がする。
ああ、そっか・・・だからレオもあんなに心配そうにの傍にいるんだね・・・納得。

スクリーンに目を戻せばチェーン・ソーを持った奴が女の子を追いかけてるシーン。
ベタベタのB級ホラーだけど僕はこういうのも大好きなんだ。
ただ文句を言わせてもらえば・・・これを一人で見てもね・・・
こういうホラーって大勢でキャーキャーワーワー言いながら見るのが楽しいんだよなぁ。

なんて思いながらチップスを口に放り込んだ。
と、その瞬間、僕の背中がずっしりと重くなり、ギョっとして振り向けば――


「リジィ、飲んでる?」
・・・」

おぶさってきたのは、てっきりオーリィ辺りだと思ったのに意外にもだった。
チラっと見ればデライラはトイレに立ったのか姿が見当たらない。それにレオもいない・・・ということは・・・

、彼女は?」
「あ、デライラ?もう遅いから帰るって。明日、朝早いみたいで・・・」
「そっか」

それを聞いてちょっとホっとした。
いつまでもレオのストーカーさんと同じ空間にいるってのも何だしさ。
ああ、じゃあレオが外まで送りに・・・というか、まあちゃんと帰るかどうか見張りに行ったってとこだろうな。
は酔ってるっぽいしフラフラしてるから、「俺が見送る」とか言ったんだろう、どうせ。

、重いよ」

クスクス笑いながら負ぶさってくるの腕をグイっと引っ張って僕の前に座らせた。
そして後ろからのお腹に腕を回してギュっと抱きしめ、細い肩に顎を乗せる。

「もぉーリジィ、暑いよ?」
「それはが酔ってるからだろ?ほっペ赤いよ?」

そう言って後ろから頬にチュっとキスすればはまだクスクス笑ってる。
何だか今日は凄く楽しそうだな。久し振りに酔ってるみたいだ。

「リジィ、これ何本目?」
「んー?映画?」
「そう」
「えっとねー。まだ五本目・・・かな?」
「全部、ホラーなの?」
「そ。今日はホラー鑑賞会だよ」
「えぇー?よく、こんなに集めたね」

沢山積んであるパッケージを見てが楽しそうに笑った。
まあ全部、僕のコレクションなんだけどさ。
部屋には、まだまだ色々なジャンルのDVDがギッシリと棚を埋めてるし。(見てないのも沢山ある)

ビールの缶に手を伸ばし一口、飲みながらと一緒に映画を見ていると何だかゾクゾクっと悪寒が走った。

(――何だ・・・この"殺気")

いや・・・こんな"気"を飛ばす奴はこの中に一人しかいないか・・・。

僕ははぁ・・・と小さく溜息をついてチロっと後ろを見てみた。
すると血走った目をギラギラさせながら僕を睨んでいる"犯罪者"一人・・・・・・・・・・・・やっぱりドムかよ。

オーリィ達と騒ぎつつ、さっきからの方をチラチラ気にしてたくせにレオに遠慮してか話し掛けられなかったらしい。
そのストレスが今、僕に全部注がれてる気がする。
まあ、こんな風にを抱っこして映画を見るのだって家族、いや兄としての特権だからね。
そんなに睨んだって変わってあげることは出来ないんだよなぁ。

「リジィ、どうしたの?」
「ん?いや・・・何でもないよ。あぁ、それより・・・スタンリー達、かなりオーリィに飲まされてるけど大丈夫かな?」
「え?」

僕の言葉には慌てて後ろを見ている。
その瞬間、ドムが顔を赤くして目をそらしたのを僕は見逃さなかったぞ。

「ああ、ほんとだ・・・。もうワイン何本空けてるんだろ・・・」
「僕の記憶からすると・・・6本は飲んでるね」
「・・・・もう・・・飲ませすぎよ」
「あ、彼、車だっけ?」
「うん。でも・・・あの状態じゃ・・・運転は無理ね」

は困ったように息をついて僕の顔を見上げてきた。確かにキースくんは車の運転どころじゃなさそうだ。
まだスタンリーくんはベロベロじゃなさそうだけど彼もオーリィに無理やり飲まされてるからなぁ・・・
あーあー。キースくんは何だかオーリィにせがまれ、"モデル歩き"なるものを伝授してるようだ(!)
ちょっとファッションショーみたく、ジャケットを着崩して、颯爽と歩く様子はベロベロに酔ってはいてもかなりカッコいい。
さすが現役モデルさんだ。
キースもスタンリーと同じくらい身長もあるし(羨ましい)顔だって男前だ。(性格はオーリィ似だけど)
きっと本物のショーの時はもっとカッコいいんだろうな。
あーあ・・・オーリィも真似して歩き出したよ・・・
アンタはモデル歩きなんて出来っこないだろ?!ほーら言ってる矢先から足からませてるよ・・・

「凄ーい。モデルやってる人って歩くだけでサマになるのね」
「うん。でもオーリィは絶対無理だな。せいぜいカメラの前でニッコリ微笑む程度にしとかないとショーで転んで恥かくタイプだ」
「リジィったら、そんなこと言って・・・」

ちょっと酔ってるから赤くなった頬を膨らませて怒るも凄く可愛い。
僕はちょっと笑うと、その少しだけ膨らんだ頬にチュっとキスして再び、皆の方に目を向けた。
すると今度はオーリィがスタンリーくんにも「歩いてみてーー」なんてせがんでる。
スタンリーくんは本気で嫌がってるようだけど・・・って何で彼より先にドムが立ち上がったんだ?
・・・うわ!ドムの奴、モデル歩きに挑戦する気かよ!

「俺様にだって、そのくらい出来るさ!」
「ヒュー♪ドム頑張れ〜!ドムなら足も短いし俺みたいに絡まなくて済むよねー☆」
「ぐっ!うるさい、オーランド!」

オーリィの野次でドムはすっかりやる気満々みたいだけど・・・すでにフラフラしちゃってるよ・・・
まあでも・・・きっとスタンリーくんに対抗意識を燃やしたんだろうな。

「大丈夫かな、ドム」
「平気だよ。どうせ転んで頭ぶつけるくらいだろ」

僕はそんな事を言いながらすっかり温くなったビールを飲んで顔を顰めた。

「はぁ・・・こんなんじゃ映画観れない・・・って、これ終っちゃったよ」
「あ、ほんとだ。じゃあ次は何観る?」
「んーは何がいい?」
「えっとねぇ・・・」

ギャーギャー盛り上がってるドム達を無視して僕とは二人で次に見る映画を探し始めた。
後ろで何だかドン!ゴツ!っという鈍い音と、「ぅぎゃっ」という声がした気もするけどこの際、聞かなかった事にして。

うーん、見る映画を決めたら、冷たいビールでも出してこようかな。

を抱きしめながら肩越しにDVDを探す。

とりあえず今の僕は今日という日の中で一番、幸せな時間を過ごしていた。










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