All those endless times we tried to
make it last forever more
And baby I know
I need you
I know deep within my heart
It doesn't matter if it's wrong or right
I really need you ,oh...
何度となく 永遠の関係を築こうと
果てしない努力をしてるうちに 分かったよ
君がいないとダメだってこと
心の奥では 分かってる
いいか悪いかなんて どうでもいいってこと
どうしても 君が必要だから…
が帰ってしまってから半月。
何だか僕は取り残されたような気持ちのまま仕事を続けていた。
それでも無心で仕事に打ち込めたのも事実。
それは早くの元へと行きたかったからだ。
毎日、電話では声が聞ける。
は…前より甘えてこなくなったのが気になったんだけど…
僕に心配をかけまいと明るく振舞うに僕の胸が更に痛んだ。
『…シュ?…ジョシュったら!』
「え?!な、何?」
僕は少しの間、ボーっとしていたらしい。
『もう…聞いてなかったでしょ…』
が少しスネたように言ってくる。
僕は頬を膨らませて怒っているの顔を思い浮かべて苦笑いしながら、「ごめん、ごめん!何?どうした?」と、優しく聞き返した。
『だから…ジョシュがいない間、部屋の掃除とかしに行っていい?って聞いたのよ?』
まだ少しスネているが、もう声は笑っていた。
「部屋の掃除?」
『うん。やっぱり暫く誰も住んでいなくても部屋の中も汚れるし、今時期は空気を入れ替えしないと黴臭くなっちゃうから』
「ああ、そうか…。前のロケの時も一度してくれてたんだっけ…」
僕はの気持ちが嬉しかったし、いない時でも僕の家に行っててくれるなら何だか安心できた。
「じゃあ、お願いしようかな?」
『ほんと?じゃ、明日にでも学校の帰りに行ってくるね!日曜日は天気が良かったらお布団も干しちゃお!』
「え?日曜日も行ってくれるの?それより、休みの日くらいは、の好きな事してればいいのに」
僕は嬉しかったが、の時間をそんな事に使わせるのも嫌だった。
でもは楽しげに、
『いいの!それが私のしたい事なんだから。それに日曜に家にいるのも退屈だし…』
「そう?友だちと遊びに行けばいいだろ?」
『…友だちなんて…別に学校で会ってるからいいわ…』
と、は何だか冷めた口ぶりで言った。
僕は友だちとの間で何かあったんだろうかと気になったが、前にもが友だちから僕のことを招介しろと言われて、ウンザリしてたのを思い出し、訊くのをやめた。
「がいいなら…俺も構わないけどね」
『ほんと?じゃあ、ジョシュが帰って来た時は、ふかふかの布団で寝れるよ?』
は嬉しそうに、そう言うと、
『あ…もう、こんな時間だね…ジョシュ、明日も撮影で早いんでしょ?そろそろ寝ないと…』
「え?ああ…もう1時?…って事は、そっちは12時か…。―も明日は学校だろ?」
『…うん。何もする事はないんだけど…卒業文集みたいな物を書かされたり、写真撮ったりしてる』
「そうか…こっちも順調に撮れてるから少し帰るのも早まるかな…」
『ほんと?!』
途端に嬉しそうな声を出すに僕も顔が綻ぶ。
「ああ…ショーンがNG出さなきゃね!」
『アハハ!相変わらずショーンをイジメてるの?』
「イジメてないよ?あいつがバカすぎて、皆で真実を教えてあげてるんだから」
『うわぁーかわいそう、ショーンってば…! 皆にも会いたいな…』
ふいに寂しそうな声で呟いた。
「ああ…皆、相変わらずだよ?リジーもロ−ラも…がいないと寂しそうにしてる」
『そう…昨日はジョシュと話した後にロ−ラから電話がきたの。クレアもジョーダナもいて、皆と少し話せて嬉しかった』
「ああ、そうらしいね!今朝、少し聞いたよ。また撮影後にでも集まればいいさ」
『うん…』
「じゃ、遅いからも寝ろよ?」
『…ジョシュもね!―そうだ…今、電話を切ったら、すぐベッドに入れる?』
「え?ああ、もうベッドに入ってるよ。今、寝室からかけてるから…」
『ほんと?私もベッドに入ったままかけてるの…。―じゃ、電話を切ったら、一緒に寝れるね…』
不意に言ったのその言葉で僕は胸が温かくなった。
こんなに離れていても、一緒にいるような気持ちになる。
「ああ…じゃ、電話を切ったらすぐ目をつぶること!」
『うん、そうする!』
「じゃ…切るよ? ―お休み、…」
『お休み…!ジョシュ…』
そう言って僕はが切るのを少し待っていた。
が、一行に切れる気配もない。
「…?そのまま寝ちゃった?」
『…ジョシュこそ…』
と、はクスクス笑っている。
僕も少し笑うと、
「これじゃ、いつまでも切れないよ?」
『…そうだね…。でも…手が動かないんだもん…』
僕は苦笑いしながら、ほんとには可愛いなと思った。
「じゃ、ワンツースリーで一緒に切ろうか」
『うん、じゃ、ジョシュが数えて?』
「OK…。じゃ、いくよ。…ワン、ツー、スリー…!」
そう言って、また僕は少しだけ待ってみる。
との電話はどうしても先に切れなかった。
だが…
『あージョシュ、ずるい!切らなかったわ!』 と、が笑った。
「もだろ?」 と僕も吹き出してしまう。
『…これじゃ寝れないね』
「ああ、ほんとだ」
僕は苦笑して、そして思いついた。
「そうだ、。そのまま受話器を切らずに寝ていいよ」
『え?…どうして?』
「僕も切らないで、側に置いておくから」
『でも…それだと、ずっと繋がったままだよ…?』
「大丈夫だよ。タイマーで一時間後に切れるようにしたから」
『そっか…!』
「こっちが切れたら、そっちも切れるだろ?プーって音で起きるかもしれないけどさ。それもすぐ切れるし」
『うん、大丈夫!それで起きても、またすぐ寝れるし』
「そう?じゃ、もう寝ようか」
『うん…』
「じゃ、受話器を置いて」
『うん…。置いたよ…?』
「僕も置いた…。このままでも声は聞こえるね」
と、僕は横になりながら、側に置いた携帯電話へと話し掛けた。
すると、かすかに、
『うん…何だか、いつもみたく隣にいるみたい…』
と、の声が聞こえてくる。
「ほんとだな…目を瞑ったら、そんな感じ…」 (…温もりはないけど…)
「じゃ…今度こそ…お休み…」
『うん…お休み…ジョシュ』
そして僕は静かに目を閉じた。
電話の向こうから、かすかにが動く気配がする。
きっと布団でもかけなおしたんだろう。
本当に側にはいなくても…音だけでも繋がっていたいと思った。
僕はまたそっと目を開け、携帯に、軽く唇をつけると、心の中で、もう一度、"お休み"と呟いた・・…
「お疲れ、ジョシュ!」
元気な声で、イライジャが歩いてくる。
「お疲れ…!」
僕は煙草の煙を吐き出しながら手を軽く上げた。
「今日は誰も、NG出さなかったね!」
と笑いながらイライジャが僕の隣へと座る。
「ああ、おかげで早く終ったよな」
「このままで行くと、あと3〜4回の撮影で終わりそうだね」
「ああ…でもまだ分からないよ?NG連発とかあったり天気が悪くて撮影が延びたりしたら…」
「そっか…それも計算に入れないとダメか!」
「ま、でも順調に行けば…」
「…の卒業式に間に合う?」
不意にイライジャに、そう言われてドキっとした。
「え?ああ、そうだな…ほんと…出来れば式は見たいよ」
「そうだよなぁ…大人への第一歩だしね」
そう言ってイライジャは笑ったが、「俺は…まだ大人になって欲しくないけどな…」 と言って煙草を消した。
イライジャは不思議そうな顔で僕を見ると、
「…何で…?やっぱり…社会人になるのが心配?」
「まあ…そう…かな?」
と言いつつ、自分でも、何て過保護なんだとおかしくなる。
「そう言えば…って卒業したら、やりたい仕事って何なの?」
「え?仕事…?」
「うん…聞いたことなかったなぁって思ってさ」
「ああ、俺も聞いた事あるけど…ハッキリ言わないんだ。決めてないのかもな」
「それでいいの?心配じゃない?」
僕は苦笑しながら、「別に…。働きに出る方が不安だよ」 と呟いた。
それを聞いてイライジャも苦笑しつつ、「ジョシュも相当な過保護だよな…」 と言った。
「まあね!自分でも、そう思うよ」
「…あ…そろそろ次のシーンじゃないか?」
「ああ、そうだね。またエイリアンと戦わないと!」
「俺、あの血のりが嫌だよ…気持ち悪くてさ…」
「アハハ。僕だって小さい虫のメイク、やらなきゃだし気持ち悪いよ…」
「はぁ〜あ…しかも明日からまたオハイオだろ?ほんとラストの撮影だし…長くなりそうだな…」
僕とイライジャは、お互い溜息をつきつつ、またスタジオまで歩いて行った―
「はーい、ダメダメ!もう一度、最初から!」
監督がダメ出しして、また皆は元の位置まで戻って行く。
一週間前から、またオハイオに来て外でのロケだ。
前に豪雨で撮影が出来なかった外でのシーンを一気に撮っているので、今回はかなり長い滞在だった。
学校の校庭でのシーン、駐車場のジークと女教師のシーン、そして冒頭でのイライジャがバスから降りてくるシーン。
それと教室での授業のシーンまで実際に学校の教室を借りて撮っている。
それも沢山のエキストラを使っての撮影なので、早々に終るわけもない。必ず一人はNGを出す。
この前、来た時には天気の都合で、撮れなかったシーンばかりで、日程も詰まっていた事もあり、
監督は最後の方に一気に外でのシーンを撮ると決めてしまった。
だから今は休む間もなく、次から次へと撮影できなかったシーンを撮っているところだ。
今は学校の駐車場を借りて、最後の方のフットボールの選手達がイライジャ扮するケイシ-を襲ってくるというシーン。
寄生された選手達と、イライジャの逃げ回るところが、どうも噛み合わないらしい。
僕もこの後、寄生された女教師との対決のシーンがあり、近くでスタンバイしていた。
待っている間、煙草へと火をつけ、空を見上げた。
もう辺りは真っ暗で星が光っている。
僕は煙を吐き出しながら、さっき休憩の合い間に少しだけ話したの寂しそうな声を思い出していた。
"まだ終らないの?"と泣きそうな声だった…。
の卒業式は来週末に迫っている。
だけど…この状態だと来週末までに終るのかどうか…。
今日はすでに土曜日…
このまま、今のシーンで、NGを出しつづけると、僕のこの後のシーンが明日へと回ってしまうかもしれない。
僕のシーンも夜じゃなきゃならないからだ。
このまま朝方になり、朝日が昇ってしまったら、撮影が出来ない。
昼間のシーンも、あと何個か残っている。
僕は溜息をついて撮影で使っている"ジーク"の車のボンネットへと腰をかけた。
そこへジョーダナが歩いて来た。
「Hi!ジョシュ」
「ああ、今から?」
「ええ、この後に私とイライジャの絡みのシーンをバスの中で撮るから…」
「ああ、そっか。俺は、その後くらいかな?今夜も長くなりそうだな…」
「そうねぇ…。明日は午後からで少しましだけど…」
ジョーダナは、そう言うと苦笑した。
そこへ「はい、OK!じゃ次のシーン、すぐ行くよ!」と監督の声が聞こえた。
「あ、やっと出番みたい…」
「頑張ってくれよ?」
僕は少し笑いながら、そう言った。
するとジョーダナも、
「ええ、任せて!一発OKで、すぐジョシュの出番がくるようにしてあげるから」
とウインクすると、監督の方へと歩いて行った。
僕は煙草を消して軽く溜息をつくと、また空を見上げた。
(に…会いたいな…声が聞きたい…。毎日、少しの時間でも話しているのに…)
どうして、こんな気持ちになるんだろう?
僕は少し胸が痛んで、そっと息を吐き出した―
「OK!ジョシュ!ご苦労さん!」
僕はあちこち痛む体を起しながら、監督の方へ軽く手をあげた。
今、車で寄生された女教師を振り切るシーンで車は蛇行運転での撮影だった。
実際にはそんなにスピードは出していないのだが、蛇行運転で体中を知らず知らずのうちにぶつけている。
演技中なので手を抜く事も出来ないのだ。
その結果、体中が打撲のようになり、それであちこちが痛かった。
「お疲れ!ジョシュ。大丈夫?」
僕が血のりをつけたまま、フラフラ歩いてたので、思ったより痛そうに見えたのか、イライジャが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、別に、怪我したわけじゃないしさ」
と僕は少し笑いながら答えた。
「でも、このメイクだと真実味が感じられないけどね」
「もう…今日は終わりだろ?」
「うん、他の皆はもうロケバスに乗ってる」
「そっか…あぁー眠い…」
「もう朝方だよ…」
僕とイライジャは朝の寒い気温の中、急いでロケバスへと戻ると、すぐにバスが出発する。
「お疲れ様」
すでに先に乗っていたジョーダナが声をかけてきた。
「お疲れぇ…」
「フフフ…ボロボロね?ジョシュ」
「メイクで、よりいっそうボロボロに見えるだろ?」
僕は苦笑しながら、スタッフがくれたタオルで、血のりを拭いた。
「はぁ…早くシャワー入って寝たい…」
「ほんとね…明日…って言うか、もう今日だけど、午後からの撮影でしょ?少しは眠れるわね」
「ああ、今日もハードだし、ちゃんと寝ないとな…」
僕はそう言うと窓の外を見た。
外は少しづつ明るくなり始めている。
は…まだ眠っているだろうか…
これだけ疲れると…会いたい気持ちが我慢できなくなるな…。
の…声が聞きたい…。
僕は、うっすらと明け始めた街を見ながら…の温もりを求めていた―
Since you of lonely one are not in a side
wanting to cry " since it is in a side and cannot be called
"
Since you say delightful one "should be in a side"...
― 寂しいのは貴方が側にいないから
泣きたいのは「側にいて」と言えないから
嬉しいのは貴方が「側にいろ」と言ってくれるから...
私は少しづつ目が覚めていく中で無意識のうちに隣で寝ているはずのジョシュの温もりを求めて、手を動かしていた。
そして冷たい布団に触れると、ああ…いないんだった…と気づく毎日…。
家に戻ってからの、この一ヶ月近く…私は捨て猫のような気分のまま過ごしていた。
毎日、電話で声は聞けるけど…温もりがないと、やっぱり寂しい。
寂しい夜には不安も襲ってくる。
ジョシュが戻ってこなかったら…どうしようって…不安になる。
そんな事あるはずないのに。
私は…変わりたかった。
今までの、ジョシュだけ頼っていた女の子から変わりたかった。
学校を卒業したら今までのようには行かなくなる気がして…
自分のことも考えなきゃならない。
将来のことも…
私は自分が何をしたいのか…正直、分からなかった。
特別、これがしたいとか好きだとか、そういうものがなかった。
唯一好きなのが、やっぱりジョシュの影響で、映画を観ることだ。
アートの世界は見るのは好きでも自分では絵すら描かない。
(はぁ…私…何をしたいんだろう…)
そう言えば…夕べ、ジョシュが何か、自分の事務所の仕事をしてみないかって話してたっけ…
「え?ロイのアシスタント…?」
『ああ、もしが構わないなら、卒業した後に、うちの事務所で働いてみないかって、ロイが言っててさ!どう?やってみる?』
「ちょ…ちょっと待って…。急にそんなこと言われても…。それに…私が出来る仕事じゃないよ?」
『出来るよ、なら!それにさ、ロイも困ってるんだ。忙しいのに人が足りなくて…。一人でロケ現場とロスと行き来しててさ…
だからアシスタントと言うか…自分がいない時に、俺について仕事をしてくれる人を探してたらしいんだけどさ。
どれも見習い期間で辞めちゃうらしいんだ。この仕事、ハードだし…。
はこの前のロケでも俺の仕事とかロイの仕事を側で見て来てるし、上手く出来ると思うんだってロイが夕べ電話してきてね』
ジョシュは嬉しそうに話しているが私は困ってしまった。
そりゃ…ジョシュの側にいて仕事が出来るなんて思ってもないことで…すごーく嬉しいんだけど…。
マネージャーのアシスタントなんて、私には無理なんじゃ…
『?』
あまりに私が黙っていたので、ジョシュは心配そうに声をかけてきた。
「え?あ、聞いてるよ?…でも…」
『 そんなに急いで答え出さなくてもいいからさ…卒業式後でいいよ』
「うん…。じゃあ考えてみるね…。―それよりジョシュ…卒業式には来れそう?」
『それが…微妙なんだ…今日は朝方からやってるんだけどさ…。外での撮影だから天気の具合とかもあるし…
エキストラも大勢いるから、NGの数も増えるしで、少し押してるかな…あと2シーンだけなんだけど…。式…明後日だったよな?』
「うん…明後日。 そっか…忙しそうだよね…。じゃあ…間に合わないかな…」
少し落ち込んだ私の声を聞いて、ジョシュは慌てて、
『ご、ごめん…何とか終れるように頑張ってるんだけど…まだハッキリ分からなくてさ…』
ジョシュも何だか寂しげな声で、私も、ハっとした。
いけない。ジョシュに心配かけないって誓ったのに…。
「う、ううん!いいの!仕方ないよね?お仕事なんだし…それに…ジョシュが学校に来たら、友だちに捕まっちゃうよ?」
となるべく明るい声で言ってみる。
だがジョシュは軽く息をついて、
『よくないよ…。俺が行きたいんだ。にも早く会いたいし…ちゃんと卒業するとこも見たいからさ…』
私は、そのジョシュの言葉が凄く嬉しくて涙が出そうになった。
「で、でも…無理しないで…ほんとに…」
私の精一杯の強がりだった。
『うん…。―あ、やべ…スタンバイしなくちゃ…。じゃ、また電話するね、』
「うん。撮影、頑張ってね!」
『ああ、じゃ…』
ジョシュのその言葉に私も受話器を置いた。
(はぁ…ジョシュ…ほんと忙しそうだな…。これだと卒業式は無理かな…?)
そう思うとちょっと胸が痛む。
(でも我慢しなきゃ…)
そう言えば…ロイのアシスタント…どうしたらいいんだろう。
確かにジョシュの側にもいれるし、ロイの手助けくらいなら出来るかもしれない。
でも…私はジョシュに甘えてしまうんじゃないかと思うと、不安になるのだ。
それじゃ心配かけないと誓ったのに意味がない気がした。
「はぁ…どうしようかな…」
私は途方に暮れて溜息をついた…。
「おはよ!!」
私は学校の玄関前で声をかけられて振り向いた。
「あ、おはよう。アリー」
クラスメートの中でも比較的、仲のいいアリーが笑顔で駆け寄ってきた。
「今日は明日のリハーサルだけよね?」
「うん、そうよ。午後には帰れるし良かった…!」
「え?何で?何か用事でもあるの?」
アリーが不思議そうな顔で聞いてきた。
「別に…。ジョシュの家に行って掃除するだけだけど…」
と私は苦笑いしながら答えた。
「またお兄さんの家に行くの?まだ帰って来てないんでしょ?」
「うん…。でも来週には帰って来ると思うし…奇麗にしておいてあげたいから」
「ほんと…は、お兄さん子ねぇ…」
とアリーはクスクス笑っている。
私もちょっと笑いながら、「そうよ。ジョシュが一番大事だもの」 と澄まして言った。
「わぉ。何だか愛の告白みたいね?でも分かるなぁ。のお兄さんカッコイイもの!それにACTORだし」
「べ、別に・・愛の告白なわけじゃ…。それにACTORだからとか関係ないし…。ジョシュは昔からカッコイイの!」
私は顔を赤くしながらも、そう言うと、アリーは呆れた顔で、「はいはい!全く…朝からノロケないでよね?」と笑った。
二人で教室へと行くと、クラスメートのルイスが私の方を見て手を振ってきた。
このルイスは、いつもジョシュを招介しろとうるさく言ってきて、私は苦手だった。
「おはよう!」
「おはよ…」
「何よ、朝から暗い顔して!…ね、それより、これの兄貴でしょ?」
「え?」
そう言ってルイスが私の机に広げたのは、何かの映画雑誌だった。
それの最初のページに、ジョシュが大きく載っていてインタビューに答えている。
「あ…ジョシュだ!」
私は驚いて、その雑誌を手にとり、じっくり見てしまった。
その記事は、今度公開される、ジョシュのデビュー作、
【ハロウィン・H20】と今撮ってる【パラサイト】のことについてのインタビュー記事だった。
ジョシュはジークの格好のまま、視線をカメラに向けて少し睨みつけているような表情の写真が大きく載っていて、
私は、その写真を撮っていた時の事を思い出していた。
そうだ…これ、休憩時間に、色々とインタビューが入ったとか言って、私は一人で子犬のとこに行ってた時だった。
戻って来たら、インタビューは終っていて、何だかカメラマンらしき人がジョシュの写真を何枚か撮っていたっけ…。
あの時のインタビューは、この雑誌だったんだ。
は、少し微笑みながら次のページを捲った。
すると、そこにはイライジャのアップ。
は驚いて、「うわぁ、リジーだ!懐かしいなぁ…」 とつい呟いてしまった。
「え?何?、イライジャにも会った事あるの?」
とミーハ―なルイスが聞いてくる。
「う、うん…。この前の冬休みは…この映画のロケについて行ったから…」
「ええ?!ほんとに?!だから家に電話してもいなかったのね!おばさんったら親戚の家に行ってるって言ってたのに」
(うわ…ルイス、電話してきてたのか…。お母さんも気を利かしてくれたんだな…)
「あ、お母さんには口止めしておいたから…」
とは弁解するも、ルイスは一人で興奮して、の話をまるで聞いていない様子。
「うわぁー。ね!イライジャってどんな感じ?年下だけど可愛くない?この青い瞳が凄く奇麗よねぇ…、目の前で見た?」
ルイスの勢いに圧倒されて、は後ろへと後ずさった(!)
「リ、リジーは…すっごく優しくて…良い人だったわ?」
「キャー!そうなの?!え?彼ってリジーって呼ばれてるの?でも、いいなぁ!ったら、こんなカッコイイ兄貴までいるのにずるいわよ!」
と、今度はずるい呼ばわりだ。
「ね?明日の卒業式、お兄様は来ないの?!」
今度は、"お兄様"になっている。
は苦笑すると、
「無理かも。この映画の撮影も、まだ終わりそうにないって話してたし…」
「ええ?!そうなの?!卒業式には来ると思って楽しみにしてたのにぃ〜〜!!!」
と、ルイスは本気で嘆いているのかも分からないが、とにかくうるさかった。
教室中に響いている。
は自分の席へと座ると、雑誌を見始めた。
だが、ルイスは、まだ話し掛けてくる。
「ね?じゃあ、お兄様が撮影から帰って来たら、の家に遊びに行ってもいい?」
「え…で、でも…ジョシュは一人暮らししてるから、うちにはいないわ…?」
「そうなの?じゃ、お兄様の家まで…!」
は、あまりにズーズーしくて何も言えなくなってしまった。
すると今まで黙っていたアリーが、「ルイス…いいかげんにしなさいよ?、困ってるじゃないの」 と言ってくれた。
「何よ、アリーだって、お兄様に会いたいって言ってたじゃないの」
と、ルイスもスネた顔で言い返す。
「そりゃ会いたいけど…そこまで無理に頼むのも失礼でしょ?それにお兄さんはACTORさんなんだし…忙しいんだから」
「何よ、いい子ぶって。そうやってに取り入って、お兄様を招介でもしてもらおうって思ってるんでしょ?」
と、文句を言って、ふん!っと自分の席へと戻ってしまった。
は慌てて、「あ、ルイス…これ…」 とさっきの雑誌を返そうとしたが、アリーが、
「いいわよ、もらっておけば?どうせルイス、何冊も買ったに決まってるんだから」と口を尖らせている。
「うん…でも…彼女に何も貰いたくないし…後で返しておくわ」
と私は苦笑しながら言うと、アリーも笑って、
「そうね?こんなので恩着せがましくされて、また招介しろとか言われたくないしね」 と言った。
そこへ先生が入って来て、アリーも自分の席へと戻る。
は明日の説明を聞きながらも、そっと雑誌のジョシュを見た。
こんなの見ちゃうと…何だか恥ずかしいな…
何だか違う人みたく思える。
でも…この優しい瞳は…いつもと変わらないな…
はそっと微笑むと、早く帰りたいなと思った。
ジョシュの家にいる時が一番安心する。
ジョシュがいなくても、あの部屋へ行けば温もりが残っているようでホっとするのだ。
(明日は…とうとう…卒業だ…)
は雑誌を閉じると、そっと息を吐き出した―
「よいしょ…っと…」
は重いテーブルを元へと戻して息をつく。
「はぁ…重かったぁ…でもやっと終った!」
と言って部屋の中を見渡す。
学校帰り、ジョシュの家によって掃除をして今、終ったところだ。
「かなり奇麗になったなぁ…」
とちょっと満足する。
何度も掃除には来ているのだが、やっぱり一週間もすると、また少し汚れてくる。
ふと時計を見ると、すでに夕方の6時を過ぎていた。
「ああ…もう少しで帰らないと…母さん心配するわ…」
私は紅茶を入れて、ソファーへと座ると、溜息をついた。
明日の時間も教えなければいけない。
「はぁ…」
はまた溜息をつくとソファーへと横になった。
(ジョシュに会いたいな…。ううん…せめて…声だけでも聞きたい…)
毎日、少しの時間でも話しているのに何でこんなに恋しくなるんだろう?
そう思ったその時―
いきなり家の電話が鳴り出して、はビクっとなって起き上がった。
(え…?だ、誰だろう…ジョシュの友だちかなぁ…)
でもそれなら、携帯にかけるよね?
私はドキドキしながら、留守電に切り替わるのを待っていた。
暫くなると電話は留守電になり、機械の音声でメッセージが流れる。
『…只今、留守にしております…』
その時、その声に混じって、聞きなれた声が聞こえた。
『・…lo? …?いるんだろ?…俺だよ!出て?』
「―――っ?!」
その声を聞いては驚いた。
(え…ジョシュ?!…今、声が聞きたいと思ってたら…本当に聞けちゃうなんて…以心伝心?!)
ちょっと変なことを思いながらも、慌ててソファーから立ち上がると、すぐに受話器を取った。
「Hello?!ジョシュ?」
『あ、?』
「どうして…ここにいるって…?」
『今、少し時間出来たから家に電話したら、は今日、お前の部屋の掃除に行ってるって父さんが教えてくれたからさ!まだ、いるかな?と思って急いでかけたんだ。良かった。いてくれて…』
とジョシュは嬉しそうに答えた。
私も嬉しくて、「さっき掃除終って、もう少しで帰ろうかなって思ってたの」 と言いながら、つい笑顔になる。
『そっか…!間に合って良かったよ。…でも今そっちは夕方の6時過ぎだろ?帰る時はちゃんとタクシーで帰るんだぞ?』
相変わらず心配性のジョシュに、は笑ってしまった。
「…う、うん…。心配しないで…!ちゃんとタクシー使うから…」
『あ、でも外で拾うなよ?いつものとこへ電話して呼べよ?』
「分かってます!ジョシュったら心配しすぎよ?」
『当たり前だろ?側にいてやれないんだから…。心配にもなるよ』
とジョシュも苦笑している。
私は嬉しくて、今、目の前にジョシュがいたら抱きつきたいと思った。
そして気になってる事を、なるべく普通に訊いてみる。
「そうだ、撮影は?順調?」
その問いに、ジョシュは少しだけ重い口調で、
『うーん…微妙なとこかな…?今夜は最終撮影だから…朝方まで、かかるかもしれない…』
それを訊いて、私は物凄くショックを受けたが、それは出さず「そ、そう!ジョシュ、頑張ってね!」と明るく言った。
『ああ…明日…ごめんな…?』
「え?ううん!いいの!仕方ないでしょ?それに…クラスメートがジョシュの載ってる雑誌とかを学校に持ってきて騒いでるし…帰って来ない方がいいかも…。大変なことになっちゃうし」
と笑いながら言って、
「皆、ジョシュのこと、"カッコイイ!""紹介して!"って騒いでるのよ?」 と教えてあげる。
するとジョシュは恥ずかしいのか、『な、何言ってるんだよ…』 と呟いている。
きっと今頃、ジョシュは頭をかいてるわ、照れたときのクセだもの…と思いつつ、想像してちょっと微笑んだ。
『あ、。ところで明日は何時から何時までやるの?』
「え?明日…?明日は…10時から12時くらいまで学校にいるかな?」
『そっか…、寝坊するなよ?』
「…もう…!寝坊なんてしないもん…」
私は口を少し尖らせて、そう言うと、ジョシュがクスクス笑いながら、『、今、口尖らせてるだろ?』 と言ったので驚いた。
「え?何で分かるの?」
『だってのスネた時のクセだろ?分るよ、それくらい。何年一緒にいると思ってるんだ?』
と笑っている。
私は少し顔が赤くなった。
(やだ…私もジョシュに、クセがバレてたなんて…。でも…こういうの嬉しいかも…)
『あ、、俺、もう戻らないと…。また電話するから』
「あ、うん、分かった。撮影、頑張ってね!」
『ああ、じゃあね!気をつけて帰れよ?』
と最後まで心配しながら、電話を切った。
私は受話器を置くと、すぐに、いつも使っているタクシー会社へと電話をかけた。
そして一台タクシーを呼ぶとソファーに座り、ちょっと冷めてしまった紅茶を飲んだ。
やっぱり…明日は無理そうだな…
今から夜中まで撮影だっていうし…
でも…ルイスとかに会わせるくらいなら来てもらえなくてもいいわ…。
ルイスは絶対、ジョシュから離れなさそうだし…
は、そう思いながら立ち上がるとカップを手早く洗い、帰り支度を始めた。