I'll be the one...
I guess you were lost when I met you
Still there were tears in you eyes
So out of trust and I knew
No more than mysteries and lies
There you were, wild and free
Reachin. out like you needed me
A helping hand to make it right
I am holding you all through the night...
― 大丈夫、僕をあてにしてていいよ…
出会った頃の君は途方に暮れているように見えた
目にはじっと涙をためて 誰も信じられないって顔してた
僕だって知ってることは 謎や嘘ばかりだったけど
そんな時、自由に羽ばたく君が現れて
僕に訴えかけたんだ あなたが必要だって
立ち直らせてあげたかった
一晩中 君を抱きしめることで…
はホテルへと戻ってきてからベランダへ出て、ずっと夜空を見上げてる。
僕は先にシャワーを浴びて、今はバスローブのままソファーで寛いでいた。
ふとの背中に目が行く。
その後姿が、どこか寂しげで…思わず僕は、そのままベランダへと出て、彼女を後ろから抱きしめた。
「ジョシュ…?どうしたの?」
「ううん…。何でもないよ…」
「…そんな格好で外に出たら風邪ひいちゃうよ?…」
「を抱きしめてるから暖かいよ」
「…そうだね…。私も暖かい…」
そう言うとは前にある僕の腕をそっと小さな手で包んだ。
僕は暫くそうして、と一緒に夜空を見ていた。
だがの体が少し冷えてきたのを感じ、僕はそっと腕を放し、「さ、も早くお風呂に入っておいで!」と、言うとの頭にポンと手を置く。
「んー…まだ見ていたいのに…」
も少々、不満げな様子。
「ダーメ!体冷えてきたぞ?こそ風邪引いちゃうよ…。ロケ現場で風邪引いたら大変だろ?」
心配そうに言うと、も渋々、「はぁ〜い…」とバスルームへと向った。
その後姿を僕は微笑みながら見ていたが、ちょっと自分も寒くなって来たので、中へと入り、すぐにパジャマ代わりの服に着替える。
そして濡れた髪を乾かしていると――携帯が鳴った。
(なんだ?こんな時間に…)
そう思いながら無意識に視線を時計に向けた。
(夜の11時半…)
僕はロイが何か連絡し忘れたのかと思い、携帯のディスプレイを見てみた。
すると知らない携帯番号が通知されている。
(誰だ?)
…僕は少し考えていたが、その電話に出てみることにした。
「Hello...?」
『………』
(何も言わない…。 イタズラか?)
僕は、そのまま電話を切ろうとした――
『Hello?...josh?』
女性の声が、かすかに聞こえた。
(この声…誰だ?)
「…誰?」
ぶっきらぼうに答える。
たまーにだけど、"ファンです"と言うやつから電話がかかったりする。
いったい、どこで番号を調べると言うのか…。
だが、その女は、『私よ?分からない?…』と意味ありげに囁く。
今度はハッキリと聞き取れたその声に、僕は聞き覚えがあった。
「…エレン?」
『フフフ…そうよ、久し振り。元気?』
突然の彼女からの電話に僕は動揺した――
「何で…」
『今、ホテルのロビーにいるの。降りて来れない?』
「はあ?どうしてここが…」
そう言いかけて、僕は思い出した。
彼女…エレンは、マネージャーである、ロイの友人だった。
僕は軽く溜息をつく。
「ロイから聞いたな?」
『…ご名答!ジョシュが来る事は分かってたから、さっきロイに電話してさりげなく今はどこ?って聞いたの。
あなたがこっちへ来てるならロイと一緒のホテルだと思ってね』
…彼女――エレンは楽しげに笑っている。
「…で…何の用?」
『あら、冷たいのね。昔の恋人にたいして…』
「昔の彼女に優しくしてどうするんだよ?だいたい非常識だろ?こんな時間に、いきなり電話してきて」
『だってパーティーがあるって言うから待ってたのよ。ねえ、少しでいいから降りてきてよ。それとも私が上がって行きましょうか?』
僕は頭が痛くなった。
エレンは本当に上がってくるだろう――そういう女性だ。
彼女の性格を考え、いきなり部屋に来られて、を驚かせてはいけないと思い、即決した。
「…分かったよ…。今、降りる。でも明日はまた移動だから少しの時間だけだよ?」
『分かったわ!じゃ、待ってる』
彼女は嬉しそうに、そう言うと電話を切った。
僕は携帯をソファーへと放り出し、思い切り溜息をついた。
(何だってんだよ…。今さら…)
とりあえず、また軽く着替えると、バスルームの方へと歩いて行った。
そっと耳を当ててみると、は何かの曲を口ずさんでいる。
僕はドアを軽くノックするとへ声をかけた。
「…?」
「…ん?なぁに?ジョシュ」
バスルームからの声は微妙にエコーがかかっている。
「あのさ、ちょっとロイと明日の事で話し忘れた事があったから、ロイの部屋まで行って来るよ…。 ――でも、すぐ戻るから!」
僕は動揺してるのをなるべく出さないように軽く説明した。
だがは暫く黙っている。
僕は不安になり、「…?」と、また声をかけた。
「…うん。分かった。私、まだお風呂に入ってるから…ここのお風呂広くて気持ちいいし泡風呂にしちゃったの」
返事が返ってきて少しホっとした僕は、「そうか、のぼせるなよ? ―じゃ、すぐ戻ってくるから!」と明るく言って、
そのまま部屋を出て、エレベーターへと急いだ。
(ああ…!に余計な嘘ついちゃったよ…)
僕は何だか罪悪感にかられ、そして、その罪悪感は急に連絡してきたエレンに対して、かすかな怒りへと変わっていった。
(全く…昔から強引だったしな…!)
彼女…エレンは、僕が少しの間、ロスへ住んでた頃に知り合った女性だ。
僕より、6つ年上で、ロイの学生時代の友人、そしてモデルをしていた。
僕は俳優なんてやってるクセに、業界人は苦手だったが、ロイの誕生日パーティーの時にエレンを招介され、
彼女は全然、業界人らしくない僕に興味を持ったようだった。
その後に、ロイを含めて一緒に飲むようになり、何となく、そういう関係になった。
今、思えばバカな事をしたとも思う。
だけど…あの頃、の事が心配で、一人でロスにいるのは不安だった。
そして…エレン…彼女は日系アメリカ人だったのも彼女に惹かれた理由の一つかもしれない。
彼女の長い黒髪が、を思い出させた。
そんな理由を言ったら変な誤解を受けそうだけど…彼女の黒髪を撫でていると何故か安心できた。
ただ、それだけだった。
確かに彼女の強さに少し惹かれてはいたが、それが愛と呼べるものかすら疑問だ。
僕も、そのうちが不眠症のようになったと聞き、心配で、しょっちゅうミネアポリスに帰るようになり、そして、そのまま引越してしまった。
そうなると彼女と連絡をとるのさえ忘れていたんだ。
電話がかかってきても、と一緒の時に出るわけにも行かなかった。
そのうちロイ経由で何度か連絡が欲しいと言われてた…
でも彼女が僕と付き合ってる間も、色々な男と遊んだりしてたのは知っていた。
だから別に罪悪感もなしに、ほっといたらロイも、そのうち何も言わなくなった――彼女も諦めたと思ってた。
新しい恋人が出来たと聞いたからだ。
なのに何で今さら…。
僕はエレベーターでロビーへと降りると、彼女を探した。
するとロビーのソファーに派手な女性が座っている。
(ああ…思い出した。彼女は、赤い服が好きだった)
醒めるような赤。
まさに彼女にピッタリだ。
すると、彼女がこっちへと振り向いた。そしてソファーから立ち上がると、僕の方へと歩いてくる。
「久し振り、ジョシュ。元気そうね」
彼女は長い髪をかきあげて、ニッコリ微笑んで言った。
「どうしたの?急に…」
僕は相変わらず、ぶっきらぼうに答える。
「ねえ。立ち話もなんだから、そこへ入りましょうよ」
そう言うと彼女は、昼間、僕とが遅めのランチをとったアメリカンレストランへと歩いて行った。
「ちょ、おい!あまり時間ないって言ったろ?」
僕は少しイライラして言うと、彼女は全く堪えてない様子で振り向き、「一杯くらい、いいじゃない」と微笑んだ。
(こうなると彼女は引かない…)
僕は思い切り溜息をついて、仕方なくエレンの後からついていった。
彼女は店へと入るとカウンターへ腰をかけて僕にも隣に座るように促した。
僕は諦めて彼女の隣へと座る。
「私、ロングアイランドアイスティー」
エレンは、サッサと注文すると、「ジョシュはレゲエ・ラムでいい?」と聞いてくる。
「ああ、いいよ…」
僕はうんざりした顔を隠すことなく言った。
「そんなに嫌な顔、しないでよ。前はよく一緒に飲んだじゃない?お互い、ラム・ベースが好きで」
エレナは笑いながら、バーテンが出してきたカクテルのグラスを受けとると僕へグラスを傾ける。
僕も渋々、目の前に置かれたグラスをもち、エレンと軽くグラスを合わせた。
エレンは美味しそうにカクテルを飲むと、「ああ、美味しい!久々にこれ飲んだわ」と微笑み僕を見る。
僕は胸ポケットに入っていた煙草を取り出し、くわえて火をつけた。
「ジョシュ、変わってない。そうやって煙草をくわえたまま、火をつけるとこ…」
エレンは懐かしそうに呟く。
僕は聞こえないふりをして煙草の煙を吐き出すと、彼女を横目で見た。
すると真剣な瞳で僕を見つめる彼女と視線が合ってしまう。
僕はパっと目をそらし、カクテルを一口飲むと、一息ついて口を開いた。
「早く、用件を言ってくれないか?早く戻らないと…」
「大事な妹さんが待っているから?」
僕は一瞬、驚いて彼女を見た。
「ロイに聞いたの。今、連れて来てるって。 ――ねえ、私にも招介してくれない?会ってみたいわ。あなたが大切に守っているに…」
の事を持ち出され、僕は一瞬、カっとなった。
「気安く""なんて呼ぶなよ…!」
思わず大きな声を出してしまい、ハっとした。
だがバーテンも聞こえないふりをしてくれているようだ。
そのまま拭いたグラスを手に奥の方へと行ってしまう。
都合の良い事に店には僕たち以外、二組ほどしか、客の姿はなかった。
僕は溜息をつくと、彼女を見つめて言った。
「ハッキリ言って…こういう事されるのは迷惑なんだ…。もう僕らの事は過去の事だろ?君だって恋人が出来たってロイに聞いたしね」
「ああ、あんな自慢しかしないような男、とっくに別れたわ…中身が空っぽ…」
エレンは目を伏せると、カクテルを飲み、僕の吸いかけの煙草を取って口にくわえた。
「おい…」
驚いて声をかけると、煙を思い切り吐き出して、僕の方を見た。
――そして…
「やり直さない?私達…」
と一言、言った。
その彼女の瞳は今までの強気な視線とは違い、少し寂しげな影が見えた。
僕は俯くと、「無理だよ…」 と一言呟く。
「どうして?あの頃、凄く上手くいってたじゃない?私達…。お互い休みの日には一日中、一緒に――」
「やめてくれよ…っ」
僕は彼女の言葉を遮った。
「あの頃の俺は…ちょっと……初めてロスで一人暮らしして…色々と心配事もあったんだよ」
「ジョシュの心配事ってなに?殆ど妹の事じゃないの…っ!私と一緒にいる時も彼女への電話はかかさなかった…おかしいわよ、妹を溺愛するなんて」
僕は黙っていた。 これ以上、エレンと話していたくなかった。
「ねえ?そんなに妹が大事?一生、お守をしてくわけ?ジョシュの人生はどうするの?」
「…君には…関係ないだろ…!」
「私は…あなたが…心配なのよ…」
か細く彼女の声が震えた。
「エレンは…奇麗だし、仕事だって出来るし…。何も俺みたいな年下の男じゃなくたって沢山、相手はいるだろ?」
そう言うとエレンは悲しそうな目で僕を見た。
「何も分かってない。私はジョシュと会えなくなってから…凄く苦しかった…。他の男とも付き合ったけどダメだった。あなたと比べてしまうのよ…。他の人にいくら髪を撫でてもらっても…心が埋められない…」
僕は黙って席を立った。
「もう…戻るよ…。が心配する…」
「ジョシュ…。 ――私…諦めないから…。妹に取られるなんて嫌だもの…」
そう言うと、エレンの瞳は、いつもの強い彼女へと戻っているようだった。
僕は何も言わず、そのまま店を出た。
そして足早にエレベータへと乗り、部屋へと急ぐ。
(あまり遅くなるとが心配して、ロイに電話してしまうかもしれない…)
僕は、に嘘をついた事がバレるのが、一番怖かった――