Catch me if you can.......~A real love ?... or... fake love?...~







~プロローグ~









2001年・10月下旬




―今夜の病院は騒がしかった。


救急車の音が近付いてきて、一気に周りが動き回る人達でいっぱいになる。


「ドクター、急患です!」
「分った!何人かで行って! ―君!…くんだっけ?」
「あ、はい!」
「君は、僕と来て!」
「はい!」


私はそのベテランのドクターの後ろから急いでついていった。


―私はロスアンゼルス、シルバーレイク&ロス・フェリスにある、"LA子供病院"で働くナースだ。
それも入ったばかりの新人ナースで、急患を見るのは初めての事だった。


こっちには子供の頃から住んでいる。
父が日本人、母は典型的なアメリカ人だ。
両親は私が子供の頃に離婚して、私はアメリカ人の母に引き取られた。
自由奔放な母にとって日本人の父は何かと口うるさく、亭主関白な所が嫌になったようだ。
恋人の時は男らしいと思ったところも長年、連れ添っていると自分が縛られていると感じたのだろう。
父も亭主をたてない母に嫌気がさして、すぐに離婚は成立。
私も父の命令口調が嫌で、母と暮らす方を選んだのだった。


その母はすでに再婚。
今はビバリーヒルズの高級住宅街に義父と二人、メイド二人で住んでいる。
私だけは大学を卒業後、家を出てサンタモニカで半年前から一人暮らしを始めた。
義父も医者で、この病院の隣にある医療センターで働いていた。
凄く良い人で私の事も実の娘みたいに可愛がってくれている。
そんな義父の影響からか、私も医学の道に進むことになった。




―私はドクターの後ろからついて行きながら緊張してくるのを感じていた。


やだ…急患なんて…事故かしら…それとも何かの発作…?
子供は急に発作を起こしたりするので、よく急患で運ばれてくる事が多いと先輩のナースが言っていたっけ…。
とにかく…ヘマしないように気を付けなくちゃ…。


私は息を吸い込んで思い切り吐き出した。


「大丈夫か?」

ドクター ―確かフランク…という名前だった― が私の方をチラっと見て言った。

「はい。大丈夫です」
「そうか。君は夜勤も初めてか?」
「いえ、二回目です。でも急患は初めてで…」
「そうか。まあ、そんなに緊張するな」 フランクは、そこで初めて笑顔を見せてくれた。
「はい」


「ドクター!!あの…ちょっと来て下さい!」


婦長が何やら当惑顔で、フランクを呼んでいる。


「何かあったのか?」


フランクも急いで婦長の元へと走って救急治療室へと入って行った。
私もついて入ろうとしたが婦長が、「あなたは、ちょっと待機してて?」 と言われ、その通り入り口の前で足を止める。


(何だろう?そんなに酷い急患でもなかったのかしら?)


とりあえず待ってろと言う事はたいした事ではなかったのだろう。
私はちょっとホっとして、廊下を見渡した。
他にも患者が運ばれてきたりしていて、他のナースが忙しそうに動き回っている。
どうせ待つだけなら、私もあっちを手伝った方がいいんじゃないかしら…。
そんな事を考えつつ、騒がしい足音が聞こえて、私は救急の入り口へと視線を向けた。
すると男の人、3~4人が慌てて走って来る。
私は、溜息をついて、その男の人達を静止した。


「すみません、廊下は走らないで下さい」
「あ、看護婦さん!今、運ばれてきた患者は?!どこですか?」
「今…?ああ…えっと…親御さんですか?」 


―に、しては何だか父親という感じでもない。


「いえ…違います!仕事の関係者で…」
「え?!」


(仕事…?仕事って…どういう事?今運ばれてきた子は…何か子役とかやっている芸能人なのかしら…)


「とにかく…静かにして下さい!今、中で治療してると思いますし…」
「そ、そうですか・…。すみません…」


その男の人も後ろの二人も思い切り溜息をついている。
その中の一人は携帯を出して、どこかにかけようとして、私は慌てて声をかけた。

「…あの!携帯電話の使用は困ります…。外でお願いします」 
「あ、そうだった!すみません!」 


その若い男の子(と言ってもおかしくはない)は慌てて外へと走って行ってしまって、
私は、また溜息を着いた。


(もう…走らないでって言ってるのに…!常識もないのかしら…)


私は知らず怖い顔をしていたのだろう。
残った二人は頭をかきながら、入り口の方へと歩いて行った。


「はぁ…」


もう…何なのかしら?あの人達ってば…。
私は治療室の方へと視線を向けて、中を覗いてみようか…と思った、その時。




くん」 


フランクが顔を出した。


「はい!」
「ここ、君に任せても大丈夫かな?彼、胸を強打したみたいなんだが…応急処置くらい出来るだろ?」
「あ、はい…!」 


(彼って…男の子なのね…)


「ちょっと他からも要請が入ってね?当直は今夜、僕しかいないんだ」
「分りました。 ―えっと胸を強打…打撲ですか?」
「ああ、そうみたいだ。骨は折れてないようだが…ちょっと意識がない。多分、痛みで気を失ってるだけだから、
軽く応急処置だけしてもらえるかい?」
「分りました」
「で…えっと…」 


何やらフランクは頭をかきながら私を見た。


「何ですか?」
「患者は子供じゃないんだ」 
「はい?」


私は驚く前に言葉が口から先に出ていた。


「大人の男性だ。 ―それでも大丈夫かな?」
「あの…どういう事ですか?」
「いや…近くの病院も今夜は急患が多いらしくてね…大きな怪我や病気じゃないからって、ここに…」
「まわされたって事ですか?!」


私はちょっと驚いてしまった。


「ああ…まあ、子供病院でも打撲した大人くらい診れるけどな。 ―まあ、そういう事だから…頼むよ」
「はぁ…」


フランクは私の肩をポンポンっと叩いて何やら、まだ言いたそうにしていたが、
先に歩いて行った婦長に、「ドクター、急いでください!」 と言われて、慌てて走って行ってしまった。


「はぁ…大人の男性…か」


(いきなり初めての急患で、大人にあたるなんて…)



私はちょっと息をつくと救急治療室へと入っていった――





















ACT.1...最低の男                                 








中へ入り、ストレッチャーが見えた方へと歩いて行く。
カーテンがかかって、よく見えない。
私は思い切ってカーテンを開けた。


その男性は確かに気を失っているようだった。
グッタリと横たわっている姿が、ちょっと痛々しい。
私は、ゆっくりと、その男性に近付いていった。


「この人…って…」


私はどこかで見た事がある人だと思って、少し壁の方を向いている、その男の人の顔を覗き込んだ。
かすかに香水の香りがした。




「……え…っ?!」




私は驚きのあまり、ちょっと後ろへ後ずさってしまった。




…う、嘘でしょう?!
この人…彼は…知ってるわ…! ―― だって…私は彼の大ファンだもの…!





私は、マジマジと、目の前でどう見ても眠っているようにしか見えない、レオナルドの顔を見ていた―


な、な、何で、彼がここに?!え?そ、そう言えば胸を強打したとか何とか…
何かの撮影中かしら…?


「と、とりあえず応急処置をしなくちゃ…」


私はちょっと一瞬の驚いた緊張で震える手を抑えながら、彼―レオナルドの方へと、また近付いていった。
そっと顔を覗き込むと、奇麗に整った顔がまた視界に飛び込んできて少しドキドキする。


ど、どうしよう…彼の治療なんて緊張するじゃないの…!
―さっき…歩いて行きかけたフランクが何か言いたげだったのは、この事だったのね…
きっと、いきなり彼を見て驚かないようにと思ったのだろうが…


(とにかく落ち着かなくちゃ…)


ドクターは骨折はしていないと言っていた。
胸の強打なら肋骨の骨折が考えられるが、それがなくても胸は心臓や肺など大切な臓器がある。
強く打っただけでも吐き気が出たり、息ができにくくなることもあるのだ。
私は彼の顔に自分の顔を近づけて、息をしているか確認した。
小さくはあるが、かすかに息をしていると分る。
でも少し苦しそうだった。
胸の強打の場合は、まず楽な体勢にしないといけない。
私は彼の上半身を何とか起こすと背中に枕を入れて、体を45度くらいにすると、膝の下にも一つ枕を入れてあげる。
女の力で大人の男性の体を上半身とはいえ、持ち上げるのは、それなりに一苦労だった。


「ふぅ…」


これで体勢はいいとして…問題は…ズボンのベルトとチャックなんだけど…
苦しくないようにお腹の辺りを開けないといけない。
そう考えると、また緊張してきた。


ダメダメ…!私はプロなんだから、いくら相手が自分の好きな俳優だとしても、ちゃんとしなくちゃ…!
私は意を決して、彼、レオナルドのズボンのベルトを外すとズボンのチャックを下ろしていった。
その時―






「……ん…誰…?」



「…!!!!」




いきなり彼がちょっと動いたかと思うと、薄っすらと目を開けて、私は驚いて後ずさりになった。







「……天使…?」





(へ…?)




やだ…寝ぼけてるのかしら…天使だって…ああ、このナースの帽子がそう見えたのかな…




「あの…ここは病院です。 …聞こえますか?」




私は落ち着いて、彼の顔を覗き込んだ。
すると少しずつ目の視点が合ってくる。
「あの…私の顔が見えますか?」
もう一度、声をかけると、彼、レオナルドは、ボーっと私の顔を見つめてくる。
私はスクリーンの中で、いつも見てた彼の瞳から目が離せなくなってしまった。


(ど、どうしよう…顔が赤くなってるんじゃないかな…?)




「…君…誰…?」


やっと口を開いたが、やはりレオナルドは、自分が今どこにいるのか分からない様子だ。


「あの…ここは病院です。 ―あなたは胸を強打して気を失ってたんですよ?」


そこは、ちゃんと声をかけてみた。
レオナルドは分ったのか分ってないのか、ちょっと私から視線を外すと何か考えているようで、「…ああ…そうだ…」 と呟いた。


「大丈夫ですか?」


私はレオナルドの目の前で手を振ってみた。
すると彼は私の方へと視線を戻しニッコリ微笑んだ。


「ああ…何だ…看護婦さんだったんだ…。 ―さっき見た時は…天使かと思ったよ…」 と、ちょっと苦笑した。


私は彼の言葉に、ちょっと顔が赤くなってしまった。


「あの…どこか…い、痛いとこありますか?」 


私は顔を反らしながら聞いてみた。


「…ちょっと…息を吸うと…胸が痛い…かな?」
「息を吸うと…」


私は、骨にヒビでも入ってるのかもしれない…と思った。


「あの…ちょっと服をまくりますね…?」 
「え?」
「肋骨にヒビが入ってるかもしれないので…確めますから…。骨折はしてないようですけど…いいですか?」


私がそう言うと、レオは、ニコッと笑って、「どうぞ?」 と言った。


「じゃ、じゃあ…失礼します…」


私はちょっと緊張したが、レオナルドの着ている黒いシャツ(きっとアルマーニか何かのシャツだわ…)の、
お腹の辺りから胸の辺りまでボタンを外してめくった。
彼はシャツの下には何も来て無くて、引き締まったお腹が見えて、私は顔が赤くなってしまったが、
そこは何とか冷静に装うと、胸の辺りに手を当てて少し押してみた。


「痛いですか?」


私がそう聞いてみるも、レオナルドは返事をしない。


顔を上げると、「…女性に脱がされるってのも新鮮でいいね?」 と言ってニヤリと笑っている。


私は一気に顔が赤くなって、「ふ、ふざけないでください…! 痛いんですか?痛くないんですか?」 ともう一度聞いた。


「…ああ…少し痛いかな…?」
「そ、そうですか…。 じゃ、ここ押しますから…息を吸って、ゆっくり吐いて下さい…」


少し彼の胸を押すと、レオナルドも素直に息を吸ったが吐こうとして少し咳き込んだ。


「…ゲホ…ッ…ゲホ…ッ」
「だ、大丈夫ですか?! 」


私は慌てて彼の背中をさすった。


「…ゲホ……ちょ…っと痛い…かな?」
「咳き込んで痛いのは…やっぱりヒビが少し入ってるのかも…」


どうしよう?ドクターは他の急患で忙しいみたいだし…
とにかく折れてるかどうかも、ちゃんとレントゲンで検査した方がいいわね…


私はレントゲン室の準備をしようと彼から離れようとした。
その瞬間、手を掴まれたかと思うと強く引っ張られ、気付くと私は彼の胸に顔を押し付ける形で抱きしめられていた…(!)


「な…ちょっと…!な、何するんですか?! は、離して下さい!」 


私は顔が真っ赤になって彼から離れようともがいた。
だがレオナルドは強く抱きしめているので、どうしても女の私の力では動けない。


「あの…!」 


彼は今、胸がはだけてるから裸の胸に顔を押し付けてるという格好で私は一気に恥ずかしくなった。


「…行かないで…」
「…え?!」
「ここにいて欲しいんだ…」
「…は?そ、そんなことを言われても…困ります!!離して…っ」
「やだ。心細いだろ…?」


な、何を子供みたいに…!
レオナルドって…こんな人だったわけ?!
確かに色々な女性と何度もゴシップ雑誌ですっぱ抜かれてたけど…


「と、とにかく、この腕を離して下さい…!」


強く怒鳴ると、レオナルドは少し力を緩めて私の顔を覗き込んできた。


「な、何ですか?何がおかしいの?」 


彼はクスクスと笑いながら私の顔を見ると、「君…顔真っ赤だよ?恥ずかしいの?」 と言った。


「な…!何言って…いきなり知らない人に、こんな事されたら誰だって―!」
「へぇ…そうなの?俺のズボンのチャックは下ろせたのに?」
「……!!…」


私は何だか頭に血が上って来て、思い切り体を動かそうとした。


「ダメだよ?人が寝てるときに、脱がそうとしちゃ」
「ちが…!私は楽な体制にしようと思って…!応急処置です!」
「何~だ。そうなの?俺はてっきり寝込みを襲われそうになったかと思ったよ」


レオナルドはそんな事を言って、またクスクスと笑っている。


もう!何て人?!信じられない!
私は、だんだん腹が立ってきて、彼の胸元に押し付けられている顔を思い切り上げた。
すると目の前に奇麗な彼の顔がアップであって一瞬、躊躇するも、


「いいかげんにしてください!大声出しますよ?!」 


と怒鳴ってやった。


それでも彼は余裕の顔で、「どうぞ?」 と澄ましている。
私は頭に来て、本当は、こんなとこを誰にも見られたくはなかったが人を呼ぼうと、


「誰か…!」 


と叫ぼうとした、その瞬間――


私の声はレオナルドの唇で塞がれて途絶えてしまった。




「―んん…?!」




一瞬、頭が真っ白になるもレオナルドの唇の感触に我に返り、渾身の力を込めて離れようとジタバタ動く…
が、レオナルドは私の首の後ろを抱き寄せているので、まず顔が離れない。




「んんーーー…!!」




何とか塞がれた口で抗議をするも、レオナルドは一向に解放してくれない。
その時、廊下で人の声が聞こえた。
その一瞬でレオナルドは私の唇をそっと解放すると、色っぽい顔でニッコリ微笑んだ。そして―


「…ご馳走様!」 


その一言で私は頭にカーっと血が上り、気付けばレオナルドの頬を思い切り、引っぱたいていた。




「ふざけないで!!!!最低よ、あなた!」




レオナルドは叩かれた頬を手で抑えて、「いったいなぁ…。何も叩かなくてもさぁ…」 と苦笑している。


「あ、あなたが悪いんでしょう?!いきなり何するのよ!」


私は、まだ怒りが収まらず、ここが病院という事も忘れて怒鳴ってしまった。


「だって…可愛いからさ?そう思ったら勝手にキスしちゃってたんだよね」 


レオナルドはちょっと笑いながら私を見た。


「な、な、な…!」
「何?」
「何が、可愛いからさ?なのよ!そんな理由で、いちいちキスされちゃ堪らないわ!」
「そう?素直でいいじゃん」
「…!!」
「君…名前は?俺は…」
「知ってるわよ!!最低!!私、あなたのファンだっ…」 


と言いかけて、ハっとした。
レオナルドが、ニヤニヤしている。


「へぇ~俺のファンだったの?」
「も…もう違うわよ!バカ!!!最低男!」


私は、そう怒鳴ると治療室を飛び出し、救急の入り口から外に出ると、思い切り息をついた。




「はぁぁぁあ…何なのよ、あいつ…!」


私は手の甲で唇を拭った。


悔しい。
油断した。
自分にスキがあったのかと思うと自分自身にも腹が立ってくる。


「…冗談じゃないわ…!」


私は、そう吐き棄てるように言うと、悔しくて涙がこみあげて来る。
ダメ…まだ仕事中なんだ。
泣いてなんかいられない。
私は深呼吸をすると、そっと隣にある治療センターの方を見た。


(ダニエル…今日はもう帰ったのかな…)


ダニエル…ダニーとは…私の恋人で、義父の部下とも言える人だ。
彼もドクターで脳外科で勤めている。
義父がダニエルを、よく家に招いて一緒に食事をするようになってから自然と仲良くなり、
いつしか優しくて頑張り屋な彼の事が好きになった。
彼もまた私の事を好きになってくれたようで、今年の夏に二人で初めて出かけた時、告白されたのだった。 


ダニー、ごめんね…でも…裏切ったわけじゃないからね…
もう…スキなんて見せないんだから…!


私はそう決心すると軽く息を吐き出した。
そこへ、さっきの男性が声をかけてきた。




「あの…看護婦さん!」
「はい?…あ…」


(この人達って絶対、レオナルドのスタッフとかだわ…!)


「どうですか?あの…レオナルドは…」


(やっぱり…!)


私はムっとする顔を隠しもしないで、「すっごい元気ですので、ご心配なく」 と言ってやった。


「そうですか…!良かった…じゃ、あの連れて帰っても?」
「いいえ!元気ですけど、まだ胸に痛みがあるようなのでレントゲンで骨折やヒビがないか検査が必要です。
その検査も終ってないので、もう少しいてもらいます」
「ええ?で、でも…明日はあの…撮影が…」
「そんなもの知りませんけど…。別の病院に行かれてもいいですよ?うちは、元々子供病院なんです。
でも他の病院に移ってもきっと検査させられると思いますけど…」
「はぁ…そうですか…。いや、分りました。 あの…ちょっと彼と話してきても?」
「ええ、どうぞ?」
「ありがとう御座います!」


その気の弱そうな男性は他の二人にも声をかけ、一人病院内へと走って行った。
他の二人は駐車場の方へと歩いて行く。


私も戻らないと…レントゲンの用意しなくちゃ…
ああ…彼と顔を合わせるのが凄く憂鬱…
私は思い切り溜息をつくと重い足取りで病院の方へと歩いて行った…。













「おいレオ、大丈夫か?」
「ああ、ジョー。来てたの?」


俺は寝転がりながら呑気に言うと、ジョーは思い切り顔をしかめた。


「当たり前だろ?俺はお前のマネージャーだぞ?それより…胸の方はどうだ?」
「ああ…ちょっと息をすると痛いんだ」
「そうか…思い切り当たったもんなぁ・…」 


と言いつつジョーは目の前の椅子に腰をかけた。


「つか、俺って何に当たったんだっけ?」


「お前なぁ…」 


とジョーは呆れ顔で俺を見る。


「撮影が終ってお前が着替えて出てきたときにセットの中を通ろうとしただろ?」
「ああ…そう言えば…」
「その時にな、お前のいる事に気付かずスタッフがセットで使った大きな柱を担ぎながら、
振り向いたんだよ、思い切り…。それが見事、お前の腹に命中して、お前は気を失ったってわけだ」
「へえぇ~…って、どんな情けない怪我だよ、まったく…撮影中なら、ともかくさ」


と俺は笑いながら言った。


「笑い事じゃないぞ?まったく…。もしあれが腹じゃなく顔に当たってたら、撮影じたい出来なくなるところだ」
「撮影っつーか俳優じたいヤバかった、だろ?」
「まあ…そうだな…。だから、あれほどセットの中を通るなって言ったのに…」
「あそこ通るのが近道なんだよ…急いでたんだ。デートがあったからさ」


俺はちょっと笑いながら、ジョーを見た。


「またかよ…。で?今度は誰?」 


ジョーは呆れ顔で俺を見た。


「人聞き悪いなぁ・・。またって何だよ、またって…」
「お前はしょっちゅう恋に落ちるからな?一目惚れの達人だろ?それで、すぐ他の子にも同じように
恋に落ちるしだな…。というか、お前がしてるのは一目惚れじゃなくて遊びって言うんじゃないのか?」
「違うって。ほんと人聞き悪いったら…。俺はいつでも真剣なんだよ!ただその子以上に素敵な子が現れるから仕方ないだろ?」
「またヌケヌケと…。で?今夜のお相手は誰だったんだ?」
「ティナ」
「え?あのモデルのか?!」
「ああ、この前のフレッドの誕生日パーティーで知り合ったんだ」
「ティナかぁ…。いい女だよなぁ…。ほんと羨ましい限りだな?」


と、ジョーは苦笑しながら溜息をついている。


「そう?ジョーも恋しなよ。いいよ?恋はさ~」
「…お前が言うと真実味がないぞ…?」
「そう?」
「ああ…で…ティナには言い訳の電話しなくていいのか?ドタキャンになっちまったろ?」
「そうだな…。ま、怒ってたら仕方ないよ…」
「仕方ないってお前…。 しかし、ほんとお前の好みはハッキリしてるな?」
「何が?どんなのだよ?」
「だから…今までの彼女は皆、美人でスラっとしてるタイプだろうが」
「ああ、そう言えば…。キリっとしてる雰囲気が好きなんだよ。ま、でも案外、付き合ってみると皆、我儘だったけどさ」


俺は肩をすくめて言った。


「我儘はお前だろう?いつもいつも相手に甘えてるから…」
「だって相手がそれを望むんだよ…。皆、年上ばっかだったしさ…母性本能くすぐられるのがいいみたいで…
俺はウンザリしてきたんだけどなぁ…。そういうの」
「何でだ?甘えさせてくれるなら文句ないだろ?」
「そうか?何だか男の威厳も何もないだろ?俺だって、たまには相手に甘えて欲しいさ」
「へぇ…意外」
「…っんとに失礼だよな?ジョーはさ」


そう言うと俺は、また横になった。


「それよりお前、看護婦に何かしなかっただろうな?」
「え?!…何で?」
「何だか…さっき外で会った時、凄い怖い顔してたし…。怒ってる感じだったから…」
「……」
「おま…っ!何かしただろう?!その顔は絶対そうだ!」
「…どんな顔?」 


俺はジョーの慌て振りに吹き出した。


「だから…ニヤニヤして何か企んでるって顔だよ!その顔の時は、ロクな事しないからな…」
「そう?別に、ちょっとキスしただけだよ?治療の御礼もかねて」 


ニヤリと笑って、ジョーを見ると、ジョーは腰をかけてた椅子からガタッ…!っと落ちそうになりながら目を剥いて怒り出した。


「はあ?!バ、バカヤロ!お前、そんな素人さんにまで手を出すな!セクハラで訴えられたら、どうするんだ?!」
「セクハラ?…そんなつもりじゃないけど…。彼女、俺にポンポン怒鳴ってくるから新鮮で…怒ってる顔が可愛いかったし…」
「そ、そういう問題じゃないだろう?!訴えられたいのか?」
「いや…」


「訴えて欲しいなら訴えてあげてもいいですけど?」


「うわ…っ!!」 


ジョーは今度こそ椅子から落ちた…(!)


「やあ、戻って来ないから帰っちゃったかと思ったよ」


俺は笑顔で声をかけるも、彼女はムっとした顔を直しもしないで、


「私だって帰りたかったわ?でも、あなたの肋骨が折れてないかどうかレントゲン撮らないといけないから。
…用意出来たし、車椅子に乗って下さい」
「…怒ってるの?」


俺は彼女の腕を掴んだ、が―凄い勢いで振り払われて、俺は驚いた。
こんな事された事がないからだ。


彼女は冷たい目で俺を見下ろすと、「早く座って?一人で立てるでしょう?」 と言った。


「分かったよ…」


俺は仕方なく両肩をすくめると、立ち上がって車椅子へと座った。
ジョーがオロオロしながら、俺を見ている。


「あなた…マネージャー?」
「え?!あ、は、はい…」
「一緒に来ないで下さい。ここで待ってて」


彼女は、ジョーにも冷たく言い放つと、車椅子を押して歩き出した。
それを慌てて、ジョーが追いかけてくる。


「あ、あの…!看護婦さん!」
「何ですか?」


彼女はジョーの方を見ないまま返事をする。 


「さ、さっきの話ですけど…」
「何か?」
「あの…訴えるって…」
「ああ…そうですね?セクハラされたって訴えても…どうせ私がお金目当てだとかマスコミに叩かれて終わりでしょ?いいわよね?有名人は…」
「あ、いや…それは、その…」
「私、別に訴える気はありません。そんな事に労力使ってる暇はないの」
「あ…は、はあ…どうも…レオの奴が…ほんと申しわけも…」
「あの…ついて来ないで下さい」
「は、はい!」 


ピョコンと気を付けをしてジョーは返事をすると足を止めて、


「レオ、俺はロビーで待ってるからな…!」 


と、ちょっと小声で叫んでいる。
俺は振り返って、ジョーに笑顔で手を振ってやった(!)







暫く廊下を進むと、"X-ray"と書いてある部屋に入っていった。
この間、俺は何度か話しかけるも、彼女は悉くそれを無視する始末…。 ―相当、怒ってるらしい―
彼女は中へ入ると、そこにいたドクターに俺を預けて、さっさと出て行ってしまった。




「はい、じゃあレントゲン撮りますよ?息を吸って…吐いて…」


俺は言われたとおりの事を一通りやると、すぐに終った。


「う~ん…折れてはいないけど…ここ見てくれるかな?」
「え?」
「ほら、ここに傷が入ってるだろ?」
「ああ…この黒い線みたいな…」
「そう」
「何ですか、これ?」
「ヒビだね…」


そのドクターが苦笑しながら肩をすくめた。
俺は骨折じゃなくて良かった…と思いつつ、「ま、ヒビなら別に少しくらい動いてもいいかな?」 と聞いた。


「まあ…そんなに酷くヒビが入ってるわけじゃないけどね。通常通り、生活はしてもいいよ。
ただ一週間くらいは通院して診てもらうといい」


「え?どこか他の病院でって事ですか?」
「ああ、うちは子供病院だしね。今夜は他の病院がいっぱいだったから、たまたま運ばれて来ただけだよ」
「そうだったんだ…。ここって…子供病院…」
「ああ、聞いてない?から」
「え?って…」
「君を、ここまで運んで来た子だよ?」
「あ、彼女…って言うんですか?」
「ああ、入ったばかりの新人さんでね。君の傷は軽い方だったから僕が彼女に任せたんだ。
さっきは重症の子供が二人も運ばれて来てね、僕一人しかいなかったから大変だったよ…」


と、そのドクターは苦笑しながら頭をかいている。


「じゃあ…もう、ここには来なくてもいいって事ですよね?」
「ああ、君も普通の病院がいいだろ?あ、あと今夜はもう帰ってもいいよ」
「あ、はい」
「痛み止め、出しておくから、まあ、痛みが我慢できなくなったら飲むといい。
骨折じゃないし、走ったりしないで普通にしてれば、そう痛くはないと思うが息をしたり咳き込むと痛むからね」
「あ、それは、さっき体験しました」


俺が苦笑しながら、そう言うと、そのドクターはキョトンとしていた。


俺は立ち上がると、「どうも、ありがとう御座いました」 とお礼を言って廊下に出た。
夜中だから、すでにシーンと静まり返っている。
夜中の…12時を過ぎた頃。
今からティナに会いに行く気にもなれなかった。
きっと怒ってるだろうし、理由を説明するのも面倒だ。


「…ま、いっか…」


俺は、そう呟くとジョーの待つロビーへと歩いて行った。
















私は入院している子供達の病室を見回った後、受け付けの方へと戻って来た。
すると受け付けに、あのマネージャがいて何やら薬を受け取っているのが見える。多分、痛み止めだろう。


「あ、看護婦さん…」
「どうも」


そのまま通り過ぎようとした時、横の廊下から彼が歩いてくるのが見えた。




「あ、!」


「…!!」




(な、何で…私の名前…!)


私は無視して歩いて行こうとした。
すると、いきなり腕を掴まれて、「キャ、な、何よ?」 と声をあげる。


「待ってよ…何で無視するの?」
「な、何でって…  ―あなたと話す理由がありません」
「どうして?」
「ど、どうしてって…」 
「あ、俺、骨折はしてなかったよ。ヒビ入っただけだってさ」
「それは、それは…良かったですね!」


私は顔をそむけながら答える。
すると急に目の前に、彼―レオナルドの顔が見えて驚いた。



「な、何よ…!」 


私は警戒して少し後ずさる。
そんな私を見てレオナルドはクスクスと笑った。


「そんな警戒しなくても何もしないよ…。もう殴られたくないしさ」
「じゃ、この腕も離してくれません?」
「ああ…ごめんね、
「気安く呼ばないで下さい! だいたい、何であなたが私の名前知ってるの?」
「ああ…さっきレントゲンとってくれたドクターに聞いたんだ」
「え?フランク?」
「うん。 あ、それとさ、俺の事は、レオでいいから」
「は?!」
「いや、だってったら、さっきから俺の事、"あなたねぇ"とか、"あなたが…"って言うからさぁ…―も名前で呼んでよ」
「な、何で私が、あなたの…」
「ほら!また言った…!」


彼はそう言うと、またさっきのように余裕の顔をする。


「とっとと帰ったらどうですか?明日は朝から撮影なんでしょう?」
「あれ?よく知ってるね!さすが俺のファンなだけあるね?
「ちが…!さっきマネージャさんが言ってたからよ! それに…もうファンじゃないわ!」
「ええ?何で?俺の事、嫌いになった?」


彼は、そう言うと私の腕を軽く引っ張り、顔を覗き込んでくる。
私はさっきのキスを思い出して顔が赤くなってしまった。


「は、放してったら!!」 


そう怒鳴って彼の手を振り解いた。


「嫌いになるに決まってるでしょう?!そんな事も分らないなんて、あなた、どうかしてるわよ?」


私は、そう言うとナースステーションへと歩き出した。


後ろで、「待ってよ、」 と彼の声が追いかけてくるも、すぐにマネージャーの静止の声が聞こえて彼も諦めたようだった。
私は、廊下を曲ると足を止めて息を吐き出した。


「まったく…ハリウッドスターって皆、あんな感じなのかしら…!人の気持ちも分からないなんて…ほんと最悪だわ…」


そう呟くと私は軽く頭を振った。
明日は夜勤明けで休みだ。
ダニーに会いに行こう…
そう決めると少し心も軽くなる。
私は気を取り直して、ナースステーションの中へと入って行った。


「あ、!」


同期で入ったキャシーが私を手招きしている。


「何?キャシー」
「さっき、レオナルドが来たってほんと?!」
「え…?」
「婦長が話してるのを、チラっと聞いたのよ!それでコッソリ救急治療室に行ってみたら、
すでにレントゲン室に行った後だったの!それで、まだ見てないんだけど…
それとが担当したんでしょ?どうだった?彼…素敵だった?!もう、いいなー、は!―彼、まだいるかしら?」


ウキウキした顔で話すキャシーを見て私は溜息をついた。


「キャシー…彼に会わない方がいいわ?」
「え?どうして?」
「すっごく軽い男よ?あんな人だと思わなかったし…最低よ…!」


私は思い出したら、また腹が立ってきて、知らず怖い顔になっていたらしい。


「…?どうしたの?…何か…あったの?」


キャシーが怯えた顔で私を見る。


「え?い、いえ…別に…ただ馴れ馴れしかったから…」
「ええ?そんな羨ましい!!レオナルドに馴れ馴れしくされたいわ、私も!」
「キャシー…あいつは…」
「そうだ!私、ちょっとレントゲン室まで見てくるわね?!」
「え?で、でも今、帰っ―」


そう言い終わらないうちに、キャシーは廊下に出て行ってしまった。


「はぁ…何で、こうなるのよ…」


今夜は最悪の夜勤だわ…!!
だいたい、いくら他の病院がいっぱいだからって子供病院に大人を連れてこないでよね…っ


私は不貞腐れて、コーヒーを入れると、椅子に腰をかけた。


「―"素敵だった?"…かぁ…」


そりゃあね…最初に彼が寝てるのを見た時は、私だって少しくらいドキドキしたわよ…
もともとファンで、彼の映画は全部見てるし、ビデオやDVDまで持ってるんだから…
結構、年季の入ったファンだったと思う。
だから…だからこそ、彼があんな失礼な人だと知ってショックだった。


「はぁ…今度の新作も楽しみにしてたのになぁ…ダニーにも公開したら行こうって言っちゃったし…」


私は独り言を呟くと、また溜息が出た。
ちょっと苦いコーヒーを一口飲んで、「まず…」 と呟き、時計を見る。
すでに1時を少し過ぎていた。


(あ~もう…!早く帰りたい…!!)


私は頭を軽く振ると、今日のカルテの整理をするのにテーブルへと向った――












「おい、レオ。明日は10時には迎えに来るからな?」
「OK!」


俺は自宅前で下ろして貰うと、ジョーに軽く手を上げた。


「じゃ、早く寝ろよ?」
「分ってるって…こんな時間に出かけないよ…」
「そうか?前にも一度、次の日ロケで早いって言うのにこうして送った後にコッソリ飲みに行っただろ?!
次の日、迎えに来てみれば二日酔いで寝てるし、まいったよ…」


ジョーは顔をしかめて俺を見た。


「そんな古い話、持ち出すなって…」 


俺は溜息をついた。


「そんな昔じゃないぞ?!一年前の事だろうが!」
「一年も昔だろ?全く…ジョー、最近、オッサン臭くなったぞ?説教ばっかでさ…まだ36歳だろ?もっと若々しくさ…」
「誰のせいだ、誰の! 」
「…俺?」
「く…っ!…そうだよ!そんな普通に答えるな! だいたい今日だってセクハラするし…いつかお前の悪行が世間にバレるぞ?!」
「おいおい…悪行って何だよ…。俺はギャングか?って今、撮ってる映画だ、それじゃ…」
「ヘラヘラ笑うな!ほんとに…もう、あの病院には行くなよ?まあ、子供病院なんだから行く必要もないと思うけど…
治療なら、他の病院探しておいてやるから」
「ええ?いいよ、別に。俺、あの病院で治療してもらうからさ」


俺は、ニコニコと笑いながらジョーを見た。


「何?!だ、だって、あの病院は…子供専門だぞ?行くなら隣の医療センターに行けよ」
「ああ…そう言えば…隣にあったな…。ま、そこでもいいけどさ」
「…お前、何か企んでないか?」


ジョーが疑いの眼差しで俺を見ている。
俺はちょっと笑うと、「ああ、どうかな?」 と肩をすくめた。


「あ…!!お前…分ったぞ…。さっきの看護婦の…ちょっかい出そうとしてるんじゃないのか?!」
「あれ?分っちゃった?さすが俺のマネージャー歴が長いだけあるねぇ~」
「呑気に笑うな!他の奴はお前の我儘で皆やめていったんだろう!だから俺に回ってくるハメに…!」
「何?嫌なの?」 


と俺は冷た~い視線を送ってやった。


「い、嫌とか言ってないだろ?だいたい俺以外にお前の我儘に付き合ってやれる奴がいないんだしな!」
「That's right! ほんとジョーには感謝してるよ?だから今回も目を瞑ってくれる?」
「ダ、ダメだ!素人さんに手を出すなんて絶対にダメ!!すぐ噂が広まるだろ?!」
「そうか?」
「そうだよ!それにあの子は…お前の好みのタイプと違うじゃないか!
年下だろうし…美人タイプと言うよりも…こう何か可愛らしい~感じだったろ?」
「まあ、そうなんだけどね。あんなに俺に怒鳴り散らしてくる子って初めてでさ。妙に新鮮なんだよね」
「はあ?!お前はマゾか!」 


ジョーがゲッソリした顔で俺を見て溜息をついている。
俺はそれを見て噴出してしまった。


「マゾって言うか…。まあ、そうかな?彼女に引っぱたかれた頬も疼く事だしさ」
「な…!おま…引っぱたかれたのか!」
「ああ、思いっきりバチ―ンっとね」 


と言って俺は叩かれた頬を自分の手で叩くマネをした。


「ああ…だから何気に赤いのか?その頬…」
「え?赤い?」
「何だか、おかしいなぁ…とは思ってたけど…。 ―明日の撮影までには冷やして腫れを引かせろ!」
「分ってるよ!じゃ、気をつけて帰れよ?」
「ああ…ってお前に言われたくないわ!」
「アハハハ!怒らない、怒らない!体に悪いぞ?」
「誰が怒らせてると…」
「…俺?」
「…!(怒)」 ピキ…
「うそうそ。感謝してます!じゃな!ジョー」


俺はひらひらと手を振りながら家の中へと入って行った。
ジョーは溜息をつきつつ車に乗り込んだようだ。エンジンのかける音がして、すぐに遠ざかった。
ここは4年程前に購入した家だ。
かなりの広さで気に入ってるんだけど…門から玄関まで、かなり距離がある。
車以外で出かけないから別にいいんだけどさ。


リビングに入り、窓の外を見た。
ジョーがやっと門のところまで行ったのが見える。
俺がジョーの分も作ってやったリモコンで門を開けると、すぐ走り去ってそのまま車は見えなくなった。
カーテンを閉めると、ソファーに腰を下ろして煙草に火をつけた。


「…ぃつつ…。 ゲホ…」


(煙草の煙を吸い込むと、やっぱり胸が痛いな…)


「はぁ…ヒビか…。ったく、肋骨にヒビが入る柱ってどんなんだよ…つか、そのスタッフもかなりバカ力だよなぁ…」


独り言で文句を言うと煙草をすぐ消した。
そして二階の寝室へ行くと、シャワーに入ろうと、シャツのボタンを外していった。
ボタンを外しながら、先ほど顔を赤くして、俺のボタンを外していった彼女を思い出して、ちょっと微笑んだ。


あんな赤い顔されたらこっちが照れるよ、まったくさ。
だから、照れ隠しもあってちょっとからかいすぎてしまった。
何だか引っ込みつかなくて、ついキスしちゃったけど…かなり怒ってたよなぁ…。
俺は叩かれた頬をそっと手で触れた。
プライベートで、あんなに思い切り引っぱたかれたのは初めてだ。
そう考えるとおかしくなった。


その時、携帯が鳴り出し俺はディスプレイを確認して、すぐに出る。


「Hello?ティナ?」
『…レオ?!どうしたのよ、今日…』
「ああ、ちょっとトラブルでさ…。怪我して病院に行ってたんだ。ごめんね?」
『ええ?怪我?!だ、大丈夫なの?どこ怪我したの?』
「肋骨にヒビ…」 


俺は苦笑しながらベッドへ腰をかけた。


『何ですって?肋骨にヒビ…って…大丈夫なの?帰って来ても…』
「ああ、そんな走ったり無理な運動しなければ痛くないしさ」
『そうなの?…なら、いいけど…』
「よくないよ…。君と会っても何も出来ない」
『やだ!レオったら…大丈夫よ?私が優しく解放してあげるから』
「そう?なら、今度お願いするよ」 


俺はそう言って笑うと、


「じゃ、明日も早いし…もう寝るよ…」
『OK。じゃ、また電話するわ?お大事にね』
「ああ、Thanks......Goodnight」
『Goodnight.レオ...』


そう言って電話は切れた。
俺は溜息をつくと、携帯を放り出し、そのままベッドへと横になる。


あ~…ヤバ…このまま寝ちゃいそうだ…
明日は朝からびっしり撮影だったっけ…
もう少しでクランクアップだし監督、詰めすぎなんだよなぁ…


そんな事を思いつつ俺は無理やり体を起こすと、バスルームへと歩いて行った――












「お疲れさまです」
「ああ、。お疲れ様」


私は婦長に挨拶すると、そのまま病院の駐車場へ行き、自分の車に乗り込んだ。
ドアを閉めると、ちょっとハンドルを握りながら頭を垂れる。


「はぁ…疲れた…早く帰ろう…」


私は軽く頭を振ると、エンジンをかけて思い切りふかした。
そのまま勢いよく走り出す。
この車は、4WDだから馬力もある。
ランドローバー社のミドルクラスと位置付けられるのが、このディスカバリーである。
今の病院へ働く事が決まった時に、免許をとり、自分で買おうと中古車屋に車を見に行った。
そして、この車を見つけて一目惚れしてしまったのだ。(私は普通の車は好みではない)


私はサンタモニカの自分のアパートから、今の病院まで、この車で通っている。
だいたい20~30分ほどでつく。
何故、サンタモニカに住もうと決めたかというと…目の前には真っ青な海と真っ白な砂浜のビーチ。
カラフルな家並み…景色も最高で一人で住むなら絶対にサンタモニカと決めていた。
今、住んでるアパートも海のすぐ傍で、かなり気に入っている。
白い柵で囲まれた真っ白な建物に所々ブルーがあしらわれていて可愛い建物なのも気に入っている理由の一つだった。
暫く走ると、サンタモニカと書かれたアーチと橋が見えてきた。
そこを抜けると、先には広い海が見えてくる。
そして、すぐに私のアパートも見えてきて私はスピードを緩めて、駐車場へと入って行った。
エンジンを止めて、すぐに車を降りるとアパートへと入っていく。
ここの住人が、「Hi!」 と声をかけてくれて、私も笑顔を見せて、軽く手を上げた。


「Hi!」


そのまま自分の部屋がある三階へと上がる。
重い足を引きずるように部屋の前まで来ると鍵を開けて中へと入った。
ちょっと冷んやりとした空気。
私はすぐにベランダの窓を開け放すと目の前に見える海を長めた。
私の肩まである髪がサラサラと風に流されてなびくのを手で抑えると、思い切り海風を吸い込んだ。


「はぁ…ほんと、この景色だけで癒されるなぁ…」


そう呟き、また部屋まで戻ると、すぐにバスルームへと行った。
一気に服を脱いで、熱いシャワーを浴びるとバスローブに着替えてリビングのソファーへ倒れこむ。


ああ…このまま寝ちゃいそう…
窓も閉めないと…風邪引いちゃう…。
もう秋だもんね。


よいしょと体を起こすとキッチンに行って、冷蔵庫から冷たく冷えたアイスティーをグラスに注いで一気に飲み干した。


「ふぅ…」


ちょっと落ち着いた。
そのままキッチンのカウンターの椅子に腰をかけると肘をついてグッタリと頭を垂れた。
何だか昨夜は色々とあって体もだけど…精神的にも、かなり疲れた気がする。
私はガバっと顔を上げるとタオルで髪をガシガシ拭きつつベッドルームへと入って行った。
そしてクローゼットの扉を開けると上の棚に置いてあるビデオや、DVDの入ったボックスを出した。
その中には、レオナルドの作品のものが、いっぱい入っている。
ジャケットの写真を見て、夕べのレオナルドの顔を思い出していた。


(こうやって見ると…やっぱり私の大好きな"レオ様"なのに…)


ふるふると頭を振ると、そのボックスをクローゼットの奥の奥へと閉まった。
棄てるにはもったない気がしたのだ。 
だがクローゼットの扉の内側に張っていたレオナルドのポストカードは思い切り剥がして、それも机の引き出しに閉まった。


「これで、よし、と!もうレオの顔は目に入らないわ!」


夕べの怒りに任せて、レオの物を閉まって満足げに呟いてると携帯が鳴り出した。


「あ…ダニーかな」


私は慌ててリビングへと行くと、バッグから携帯を出してディスプレイを見た。思わず顔が綻ぶ。


「Hello?ダニー?」
『Hi!Good morning.! ―って、は今から寝るとこかな?』
「ええ、今さっき帰って来たばかりよ?」
『そうか、お疲れ様!』
「ダニ―は今、病院?」
『ああ、ちょっと手が開いたからさ。の声でも聞こうかと思ってね』
「ありがと。ちょっと元気出たわ?」 


私は嬉しくて、つい、そんな事を言ってしまった。


『え?どうした?疲れてるの?』
「あ、ううん…。夜勤明けでグッタリしてただけ。ちゃんと寝れば大丈夫よ?」
『そう?なら、いいけど』
「ダニーは今夜は遅いの?」
『いや、今夜は7時には終るよ。、その頃には起きてるよね?』 


と、ダニーがおどけて笑う。


「やだ。当たり前よ?」 


私は思わず笑って答えると、


『じゃ、今夜、食事にでも行かない?俺、サンタモニカまで行くしさ』
「ほんと?じゃ、待ってる」
『OK!じゃ、病院出る前に電話入れるよ』
「分ったわ!」
『じゃ、ゆっくり寝て元気になっておいて?』
「ええ、そうする」
『じゃ、また!』
「またね」


そこで電話が切れて、私は携帯をテーブルの上に置くと、バスルームに行って歯を磨いた。
少しスッキリして、ベランダの窓をしめると、そのままベッドルームへと直行してベッドに倒れこむ。
肩まで布団を引っ張り上げると、急に睡魔が襲ってくる。


はぁ…早くダニーに会いたい…。
彼の腕の中で安心したかった。
昨夜のことを忘れる為にも…




そんな事を考えると何故かレオの、あの涼しい顔でを見ていた瞳が浮かんできては目を開けた。




「…もう!!何でダニーの事を考えてるのに、あんな奴の事なんて思い出すのよ…!!」




そう叫ぶと、今度は布団を頭の上まで引っ張って、私は思い切り目を瞑った――










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ACT.2...君が笑った>>


うきゃvとうとうレオ様ドリーム書いちゃいました(笑)
家族夢のレオと似てるようで似てない感じにしてみたんですけど(そうか?笑)
今回は設定だけ出来上がってて、ヒロインの仕事だけ、どうしようかと考えてました。
まあ色々と候補があったんですけど…結局、看護婦さんになってしまいました(笑)
でも、この前見た月9、【愛し、君へ】の菅野ちゃんの役が女医さん(研修医)じゃないですか。
あれを、この前改めて見て驚いたんだけど、菅野ちゃんの役?四季って女の子のイメージと
私が書くヒロインのイメージが重なったシーンがあったんですよねぇ(笑)
私の中のヒロインのイメージって、まさに、あの四季って女の子なんですよ~
ヲヲvvとちょっと感激いちゃいました(笑)
あ、いや。他の人が見てどうかは知らないですけどね(笑)あくまで私が思うイメージです。
今回のヒロインさんは、ちょいと気が強いです(笑)レオもたじたじですかね^^;


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


C-MOON...管理人:HANAZO