Catch me if you can.......~A
real love ?... or... fake love?...~
その全身黒づくめの男は、ぶらりと病院内へ入ってくると、真っ直ぐ受け付けの方へと歩いて行った。
服装もだが、目深に被っているキャップまで黒。
オマケにサングラスも黒くてどう考えても、その病院には似つかわしくなかった。
待合室にいる子供達とその母親も、その怪しい男の方を見て、ヒソヒソと話し始めるも、
男が、視線を向けるとパっと顔をそらし話も止んだ。
「Hi!」
受け付けに座っている看護婦にその男はニッコリ微笑んだ。
「何か?患者さんの…お兄さんですか?面会なら、病室は…」
「いや、違うんだ。面会は…患者じゃなくて… ―って看護婦さんなんだけど。いる?」
「え……ですか?あの…どちら様…」
看護婦…キャシーはそこで言葉を切った。
その男はサングラスを、ちょっとずらして、「レオって言って貰えれば分ると思うんだけど」 と笑顔で言った。
その一瞬見えた奇麗な瞳にキャシーは思わず声を上げた。
「…レ、レ、レオ…!!キャァ!あの!私、あなたの大ファンで…」
大きな声で立ち上がったもんだから、待合室にいる母親と子供数名が一斉に受け付けの方を…いや、二人の方を見た。
「ちょ、君…シー!シー!」
レオは慌てて、そのうるさい看護婦の口を手で塞いだ。
「あまり大きな声出さないでくれる?ちょっと内緒で来てるんだ…」
―内緒ならもっと地味な格好で来いと言いたい―
「今から…手、離すけど…叫ばないで…OK?」
キャシーは目の前にあるレオの奇麗なブルーグリーンの瞳を見ながら必死に頷いた。
そっと俺は手を離すと、そのキャシーは、「はぁ…」 と息を吐き出して改めて俺の方を見てくる。
「で…さっきの返事は?」
「え、え?」
キャシーは目の前に立っているハリウッドスターの奇麗な顔に見惚れていて彼が何をしに来たかという事を忘れていた。
「だから…って看護婦はどこにいるの?」
俺はもう一度…今度は少し小さな声で聞いてみた。
さっきの大声のせいで待合室にいる親子がジーっと俺を見ているのを感じたからだ。
きっと誰なんだろう?と興味津々で会話を聞いているだろう。
「あ、あの…なら…裏のお庭で子供達を遊ばせてますけど…何の用で…用件なら私が聞きますけど?」
「ああ、いいんだ、別に。ちょっと彼女に用事があってさ。ごめんね?
あと…俺が来てる事…誰にも言わないでくれる?騒がれたくないんだ…。分るだろ?」
俺は優しく彼女に微笑むと、その看護婦は、頬を染めてニッコリ頷いた。
俺は彼女の頬に軽くキスをすると、「サンキュ!」 と言って歩き出した―
キャシーは歩いて行くレオの後姿をウットリした顔で見つめていたが、キスをされた頬に触れて一気にテンションが高くなる。
キャー、レオにキ、キスされたわ!!信じられない!!
どうしよう?誰かに言いたい…!で、でも言わないでねって言われたし・…ここは我慢だわ…!
…でも?何故、レオがに…?
もしかして…この前、運ばれて来た時に何かあった…とか?!
そう言えば…あの日のはどこか様子が変だった…彼に…レオに近付かない方がいいとか何とか言ってたし…
もしかして…彼を独り占めしようとして?!
彼の治療の時…何かあったのかも…!!だって、ここにはベッドだけは沢山あるし…(!)
キャシーは真昼間だと言うのに、あらぬ妄想に取り付かれてブツブツと言っていたところに新たに患者がやってきた。
その患者子供の母親が受け付けにいるキャシーに、
「あの…すみません。初診なんですけど…」
と声をかけるも、「え?!」 と怖い顔で振りむくキャシーの迫力に慌てて子供の手を引いて病院から飛び出していってしまった…(!)
ACT.2...君が笑った
俺は言われた通り、裏庭の方へと歩いて行くと、子供の騒ぐ声が聞こえてきた。
(あそこ…か…)
子供達の中に、白いナース姿の女の子を見つけると、ニヤっと笑った。
ゆっくり、そっちの方へと近付いていく。
この病院の庭は子供たちの為に作られたからか、かなりの広さだった。
大きな木が何本か立っていて、小さいながらも噴水まである。
ベンチも何十個と並んで、入院している子供の親とかが座りながら我が子が遊んでいるのを笑顔で見ていた。
(いた…やっぱり彼女だ)
彼女の笑顔を確認すると、そのまま彼女に近付いていった。
彼女…は何やら7歳くらいの男の子とボールを使って遊んでいる様子。
楽しそうに大きな口を開けて笑っている。
どうやらバスケをしているらしいが、上手くドリブルが出来なくて、男の子にバカにされてるようだ。
俺は、そこで足を止め、近くのベンチに腰を下ろした。
あまりに楽しそうだから暫く見てようと思ったのだ。
は何度もドリブルに挑戦するも、数回でボールを飛ばしてしまう。
首を傾げながらも、何度も挑戦しては同じことのくり返しで、俺は見ていて思わず吹き出してしまった。
「Hey、には才能ないんだよ!僕の方が断然上手いじゃん?」
「あー生意気!マークだって10回しか出来ないじゃないのよ!」
「でもよりは出来るだろ?」
「ぐ…っ。そ、そうだけど…。 ええい、もう一回だけ!ね?」
「仕方ないなぁー。って案外、負けず嫌いだよね?」
「うるさいなー。じゃ、いくよ?」
は、そう言いながら、またバスケットボールをドリブルしだした。
だが、今度は4回目で自分の足の指にボールを打ちつけて、ボールがばいん…と弾かれ転がっていく。
「ぃた…!あ~…何で自分の足に…」
はしゃがんで足を擦りながら呟いている。
「ほーら、ヘタクソだろ~?」
とマークと呼ばれた男の子は大笑いしていた。
俺は足元に転がってきたボールを、ひょいと拾うと、ベンチから立ち上がった。
は、大笑いしているマークの頭を軽くこづくと、ボールを拾おうと笑顔で俺の方に歩いてきて足を止めた。
「Hi!。今日はご機嫌だね?」
俺はサングラスを外して笑顔で声をかけた。
「あ…!あなた…ここで何を…!」
さっきまでの笑顔が見る見ると怖い顔に変わっていって俺は、ちょっと苦笑した。
「何って、のヘタクソなドリブルを見てたんだよ?」
俺はの質問にニヤリと笑って答えると、彼女は顔を赤くして、つかつかと歩いて来た。
そして俺の手からボールを奪い取ると、「部外者は出て行って下さい!」 と怒鳴ってくる。
「部外者ってひどくない?俺も一応、ここの患者だったんだけど…」
「あれは…!たまたまでしょう?もう他の病院に移られたんでは?」
「ああ、隣にね?今日は隣に来たついでに、君の顔を見に来たんだ」
「は?!何を言って…」
「ー!何してんの?その人…誰?」
さっきのマークという男の子が彼女を呼んでいる。
は慌てて振り向くと、「ちょっとマイキ―と遊んでて?」 と叫んで持っていたボールをマークの方へと投げた。
マークはそれを受け取ると、横で見てた自分よりも小さな男の子に、何やらバスケを教えている様子。
は、それを確認すると、俺の腕を掴んで、「ちょっと来て」 と噴水の裏側まで引っ張っていった。
噴水の裏手には大きな塀があり、そこは病院側の方やベンチにいる人達からは見えにくくなっている。
「何?こんなとこに連れ込んで…何する気?」
レオはニヤニヤしながら噴水の端に腰をかけた。
「な、何バカなこと言ってるの?だいたい…何しに来たの?もう来る必要なんてないでしょう?」
は怖い顔でレオの前に立った。
「そうなんだけどさ…。何となく君の…の顔が見たくなって…」
レオはそう言うとニッコリ微笑んだ。
は一瞬、顔が赤くなるも、また怖い顔に戻って、
「私は二度と、あなたの顔は見たくありません!お帰りください」
とキッパリ。
レオは、それでもクスクス笑いながら、
「何だよ、冷たいなぁ…。この前、キスした仲だろ?」
と言って目の前に立っている、の手を掴んだ。
「あ、あれは、あなたが勝手に…!手!離して下さい…っ」
それでもレオはの手を離さず、そのまま思い切り引っ張って自分の方へと引き寄せた。
「…キャッ…!!」
はレオの腕の中に抱きとめられ、抱きつく格好になっている。
「ちょ…ちょと!離して…」
「嫌だね!」
レオは子供のように言うとを抱く腕に力を入れる。
「ちょっと…!ほんとに怒るわよ?!」
「もう怒ってるじゃん…」
「また引っぱたかれたいの?!」
「それは…やだ…」 レオは苦笑しながら呟いた。
「…!」
レオはそこで力を緩めると、の顔を覗き込んだ。
「な、何よ…また変なことしたら…」
は怯えたような顔でレオを見た。
レオは、ちょっと微笑むと、
「一度目は気まぐれでも…二度目は…本気になるかもよ?」
そう言うと、ゆっくり顔を近づけてくる。
は逃げ出したいのに、レオの強い視線から目が離せないでいた。
レオの唇がの唇に触れそうになった瞬間…――
「ー?!どこぉ~?!」
マークの声が近付いてきてレオは、ハっとして腕の力を緩めてしまった。
その瞬間、もレオの腕から素早く逃れて彼の顔に前ほどではないが一発キツイのをお見舞いした(!)
「…ぃったぁ…」
「いいかげんにして!!」
は心臓がドキドキしてくるのを感じながら、平手をくらってもまだ余裕の顔のレオに怒鳴った。
「君、ほんと手が早いね…」
と、レオはクスクス笑いながら頬をさすっている。
「そ、それは、あなたでしょう?!何度、こんなマネしたら気が済むの?!女性を口説きたいなら他でやって!」
「えぇ…?やだよ、俺は君がいいんだ」
「な…!」
は何かを言いかけたが、その時、マークが噴水の裏をひょこっと覗いた。
「あ、、見つけた!」
「…マーク…」
それを見てレオはサングラスをすると立ち上がった。
「また来るよ」
そう言って、素早くの頬にキスをする。
「ちょっと…!」
と、は怒ろうとするもレオはマークの頭を撫でて、「今度は邪魔すんなよ?」 と笑いながら言って歩いて行ってしまった。
はキスをされた頬を手で抑えて顔を真っ赤にしながら、「もう来るなぁーー!」 と叫んだ。
レオは、その声に振り向きもしないまま右手を振っている。
マークはキョトンとした顔でを見上げると、「…、今のお兄ちゃん…の彼氏?カッコイイね?」 と言った。
その問いに、ハっとして、「ち、違うわよ!」 と言うと、マークはニヤニヤしながら、
「だってにキスしたし…も顔が真っ赤だよ?」
と澄ました顔で言った。
「うるさいな!早く戻るわよ?もうお昼の時間だし…!」
はそう言うと、マークの手を繋いで、病院の方へと歩き出した。
もう…!何て奴?何で、また来るのよ…!
何が、"顔が見たくなって…" …よ!ふざけないでほしいわ…!
私はプリプリと怒りながらナースステーションへと戻って行った。
「あ、…ちょ、ちょっと、こっち…!!」
戻ったかと思えば、いきなりキャシーに腕を掴まれ、ロッカーの中へと引っ張られた。
「な、何よ、キャシー…どうしたの?」
キャシーは周りをキョロキョロしながら今度は私の顔を見ると、真剣な顔で、「…正直に話してね?」 と言った。
「だから…何?」
私はちょっと溜息をつくと、キャシーを見た。
「…、レオと…寝たの?」
「な、何を…!!」
「どうなの?本当のこと言って?」
「バ、バカなこと言わないで・…!!」
私は顔が一瞬で真っ赤になると、キャシーに怒鳴った。
「何が、バカなことよ!私は真剣よ?!」
今度は逆切れしたのか、キャシーが大声を出す。
「何で、そんなこと言うの?おかしいわよ?キャシーったら!」
「だって…さっき…来たわよ?」
「え?!」
「レオが…私にはどこ?って…」
それを聞いて私は軽い眩暈を覚えた。
よりによってキャシーに聞くなんて!
「何でもないなら…どうしてレオが、わざわざ!に会いに来るのかしら?」
キャシーはちょっと頬を脹らませて怒っている。
「そ、それは…こっちが聞きたいわよ…!」
「ほんとにぃ~?」
「ほんとに…!私だって驚いたんだから…」
「ふ~ん…」
と、キャシーはまだ納得いかないって顔をしていたが、「は…レオのこと好きだったりするわけ?」 と言った。
「え…?!…す、好きじゃないわよ、あんな奴…!」
「あんな奴って…"レオ様"よ?あのタイタニックの"ジャック "よ?何も感じないわけ?」
「な、何が?」
そのキャシーの迫力にちょっと後ずさってしまった。
「あんな素敵な人が…しかもハリウッドスターが会いに来てるのに何も感じないなんて…!―って…不感症?」
「キャ、キャシー…!!!!」
私は頭から噴火するんじゃないかと思うほど大声でキャシーを怒鳴ってやった…。
「もう、いや…」
やっとキャシーから解放されるとナースステーションの椅子へと、グッタリ腰を下ろした。
どうして、あんな奴に振り回されなきゃならないの…?
私が何をしたの…?
「はぁ…」
思い切り溜息をつくと、そこに研修医のサムが歩いて来た。 ―彼もやキャシーと同時期に入った新人だ―
「やあ、。どうしたの?グッタリして…」
「あ、サム…お疲れさま…」
「ランチ行かないの?」
「え?ああ、もう、そんな時間だった?忘れてたわ…」
「一緒にどう?病院内の食堂だけど…」
「そうね…思い出したら、急にお腹が空いてきたわ…」
私は椅子から立ち上がって廊下へと出た。
食堂まで歩いて行くと少し混んではいるものの座れないということはなく、二人は窓際の席が空いたと同時にその席を確保した。
「あ~お腹すいた!」
私はそう言うと一気にサラダを頬張った。
「いつも元気なのに今日はやけに、グッタリしてるんだね?」
サムはちょっと笑いながら私を見た。
「…ちょと…さっき嫌な事があって…」
「え?さっきって…マークと遊んでた時?」
「ええ…」
私は、それ以上、話をするのも、だるくて黙々とハンバーグを食べ始めた。
サムも、それに気付いたのか一旦、口を閉じると自分も黙ってパスタを食べ始める。
そのせいか、すぐに二人とも食べ終ってしまい、食後のコーヒーを飲み始めた。
私が窓の外をボーっと眺めていると少ししてサムが口を開いた。
「ねぇ、」
「え?」
「マークの調子はどうだい?」
「ああ・…元気よ?凄く…」
「そうか…」
「ええ…少なくとも…今は」
私の言葉にサムも黙った。
私はちょっと息をつくとコーヒーを飲みながら、また窓の方へと視線を向ける。
(マーク…まだ8歳なのに…)
マークの病名はMCM…"ミトコンドリア病"。
この名前を聞いた事がある人も多いと思う。患者は世界でも多く存在する比較的子供に多い病気だ。
ミトコンドリア病とは・…
ミトコンドリアは人のすべての細胞中に存在していて、
細胞のエネルギーを作る仕事をしている。
人が生きるうえで
とても大切な役割を担っているものだ。
これが何らかの原因でミトコンドリアの働きが悪くなると、全身のあちこちにいろいろな障害がでてくる。
特にエネルギーをたくさん使うので影響が大きく、障害が現れやすいのが脳と筋肉だからか、
ミトコンドリア脳筋症とも言う。
患者さんごとに症状は多種多様だが、疲れやすいとか、成長が遅いなどは、ほぼ共通していた。
マークは、その中でも、MERRF(福原病)という病気で、特に子供に多い病気だった。
症状として、手足がときどき細かくふるえるミオクローヌスや
てんかん発作、知的退行、歩行障害などがある。
今のところは元気だが、いつ発作が起きるかも分らない。
それだけでも目が離せなかった。
ただ…本人は不安な顔を極力見せずに、いつも無邪気に笑いかけてくる。
マークはNBAが大好きで、特に地元ロサンゼルス・レイカーズのコービーの大ファンだった。
父親が持って来た、あのバスケットボールでいつも遊んでいた。
マークの両親は離婚をしていて、マークの事は父親が引き取っていた。
だが仕事が忙しく、お見舞いにも、なかなか来れない。
それでもマークは、いつも笑顔を絶やさず、他の入院している子供達を元気に励ましてくれる存在だった。
はそんなマークを見ていて、いつも大事なことに気付かされる。
大人になると…周りを見る目も曇るのかもしれないな…
ふと、そんな事を考えていた。
「なぁ、」
「え?」
「初めての担当患者だから気持ちが入るのは分るが…あまり情に流されると、後が辛いよ?」
「…分ってるけど・…」
「なら、いいけど…。最近、よく遊んでやってるだろ?君に凄くなついてるようだしさ…
それは、いいことなんだけど…。自分の立場も考えてさ…」
「分ってる…」
私は一言だけ言うと、席をたった。
「もう行くのかい?」
「ええ、点滴を変えないと行けない子が数人いるの。ノンビリしていられないわ?」
「そうか…。ま、頑張ってな。無理するなよ」
「ええ。ありがとう」
私はちょっと微笑むと食堂を後にした。
何だかイライラする。
私は、そのまま足早に歩いて行くと、屋上に上がった。
思い切り空気を吸い込むと眩しい太陽を見上げる。
「はぁ…」
溜息が出た。
時計を見ると午後2時半すぎ。
点滴を代える時間まで、後20分はあった。
私は空いてるベンチに腰をかけると、そっと目を瞑った。
サムの言っている事は分る。
確かに看護婦が、一患者に情で流されたりしたら、大事なものを見落とす可能性だってあるし、
冷静に対処できなくなるかもしれない…。
分ってる…分ってるんだけど…
初めての担当の子だ。
やはり普通よりも感情移入してしまう…。
私はマークと一緒に遊ぶのが好きだった。
お見舞いに来れない父親を怒りもしないで、いつも体の心配をしている優しい子だった。
たった8歳なのに…凄く大人びた表情をする事もあった。
マークが幼い頃に両親が離婚をしているので、マークは母親のぬくもりを知らないで育った。
だからなのか、私によくなついてくれている。
さっきのように一緒にバスケをしたり、キャッチボールをしたり、殆どが男の子の好きな遊びばかり。
私も子供の頃からそういう遊びの好きな子だったから、ちっとも大変じゃなかった。
他の看護婦たちはそれについていけないから、遊んでくれる私になついてくれているのかもしれない…。
私は軽く息をつくと、ゆっくりと立ち上がって体を伸ばした。
「う~ん…体がなまってるわね…ギシギシするし…疲れかな…?」
そう呟いた時、そよそよと風が吹いてきて一瞬、香水の香りがした気がした。
(え…?この匂い…レオ?!)
私は驚いて周りを見渡すも、いるのは母親とその子供達だけ。皆、日向ぼっこをしているようだ。
(いない…で、でも…今、確かに、彼の香水の香りがしたのに…)
その時、また風が吹いて、今度こそハッキリと匂いがしたのが分った。
(え…?どういう事…?)
私はキョロキョロしながら、とにかく戻らないと…と歩き出して、ある事に気がついた。
―もしかして…
私は自分の制服の胸元をつまんで引っ張ると鼻を近づけた。
「やっぱり…!」
自分の胸元からレオの香水の香りがする。
「…あ!…さっき抱きしめられた時に…」
多分、つけたばかりだったのだろう…
だから私の制服にまで香りが移った…。
「んもぉーー…!何で、近くにいないのに、自分を主張してるのよ、あいつは!」
私がそう怒鳴ると、楽しそうに景色を眺めていた母子が驚いた顔で私の方を振り返った。
私は慌てて天使の微笑み(!)をつくると、「こんにちは。いい天気ですね?」 と言って早々に屋上から逃げ出したのだった…
「おい、レオ!遅いぞ?病院、こんな時間かかったのか?」
相変わらず、説教臭いジョーが怖い顔で、メイクルームに入って来た。
「いや~凄い混んでてさぁ~…まいったよ」
俺はわざとらしく疲れたって顔をすると、首をコキコキ鳴らすフリをした。
「…本当に薬、貰いに行ったんだろうな?だいたい痛み止め、そんなに早くなくなるのか?」
「痛いんだよ?たかがヒビでもさぁ…。我慢できなくてね?」
俺は澄ました顔で、そう言うとメイクのダンが苦笑している。
「何だか怪しいよなぁ…お前は」
「何だよ、たまには人を信用しろよな?」
「お前のどこをどう信用したらいいんだ?」
そう言ってジョーは俺の顔を覗き込んだ。
「ん?!お前…どうした?それ!」
「え?何が?」
「ほっぺた…また赤いぞ?それ…殴られた後じゃないのか?!」
俺は鏡越しに、ダンと目配せをして、ちょっと苦笑すると、「これ、この前のが引かないのかもな」 と呟いた。
「はあ?あれから三日は経ってるぞ?こんな長い間、赤くなってるわけないだろう?…ん?ダン…何笑ってるんだ?」
「え?!あ、いや…別に…」
俺はまた鏡に映っているダンに、顔をしかめて首を少し振った。
ダンも、手をちょっと動かすと、"ごめん"とやっている。
そんな俺たちを、ジョーはジロジロとみると、
「なぁ~んだか怪しいんだよなぁ・…お前ら…。何か隠してるのか?」
「人聞き悪いなぁ。何も隠してないだろ?何だよ、せっかく人が撮影の前に気分を盛り上げてたのに…
マネージャーが俳優の気分を盛り下げてどうするんだよ」
と、わざと少しスネた口調で言った。
そこまで言うとジョーもグっと言葉をつまらせる。
「あ、ああ・…すまん…。違うならいんだ…。ま、撮影、頑張れよ!残りワンシーンだからな?」
「ああ、OK」
「じゃ、俺はちょっと電話してくるから…」
ジョーは、そう言うと気まずそうな顔でメイクルームを出て行った。
その瞬間、俺とダンは思い切り吹き出した。
「アハハハ!ほーんと、ジョーもするどいんだか鈍いんだか分らないな?!」
「ウハハ!ま、まったくだ!…レオの演技が見抜けないなんてマネージャー失格だろ?いいのか?あれで!」
「だからいいんだよ?俺も楽しいし楽だしさ! さっきの演技は、今度参考にしよう…」
「ブハハ!あんなスネスネな演技、参考にして、何の映画に使うんだよ!」
「ああ、映画じゃないよ?」
「…え?ああ、その赤いほっぺたの原因の子か?」
ダンはニヤニヤしながら俺を見た。
「まあね!なかなか手強いんだよねぇ…どうせ彼女にスネて見せたところで怒鳴られるのがオチさ」
俺はそう言うと肩をすくめた。
「へぇ…レオを怒鳴る女がいるとは…しかも二回も平手くらって、よく諦めないな?」
ダンは苦笑しながら俺の髪をセットしている。
「でも可愛いよ?真っ赤になっちゃってさ。怒鳴られるのも殴られるのも初めてだから新鮮なんだよなぁ…」
「お前…マゾっ気あるのか?」
「アハハ!ジョーと同じこと言うなよ。そんなんじゃないけどさ…。何だか、ふと会いたくなって」
「へぇ…またまた一目惚れってやつ?レオ、お得意の。その看護婦、そんなに美女なのか?」
「一目惚れっていうよりかは…興味があるって感じかもな?それと…彼女は美女ってタイプじゃないよ?
どっちかと言うと…可愛いらしいタイプだし」
「へぇーーそりゃ、また…。…へぇーーーー」
「何だよ、ダン…。その"へぇーへぇー"攻撃はさ…。何だか気が抜けるんだけど?」
「だってレオらしからぬ、セリフ言うからさ?そりゃ、へぇーだろ?」
「何だよ、それ?」
俺は苦笑すると、ダンが、「ほい、出来上がり!撮影、行ってらっしゃい!」 と言って背中をポンっと叩かれた。
「ぃた…っ。痛いよ、ダン…肋骨にヒビが入ってるんだからさ…」
「ああ、悪い、悪い!」
ダンはケラケラ笑いながら煙草に火をつけている。
俺は椅子から立ち上がると、自分の役に顔を作るのに深呼吸をした。
「じゃ、行ってくるよ」
俺は、そう言ってセットのあるスタジオの方へと歩いて行った―
「、ちょっと海に散歩でも行こうか?」
ダニーが車を降りながら振り向いた。
今は仕事の後、二人で食事をして送ってもらったとこだった。
私はダニーの、その言葉に微笑むと、「そうね?ちょっと歩こうか」 と彼と手を繋いで言った。
家のすぐ前が海なんて、ほんとに、いいロケーションだ。
私とダニーはベニスビーチを歩きながら、お互いの仕事の話をしていた。
「う~ん…MCMかぁ…難しいよなぁ…治療法も様々だし完治するってわけでもないから」
「ええ…。でも…それに学校にも行けないし…今は安定してるんだけどね?マークは…つらいって言わないから…」
「まだ…酷い発作は起きてないのかい?」
「うん…。時々…手足が震えてるんだけど…」
「ああ…ミオクローヌスだな…。歩行に問題は?」
「まだ、それは…今、心配なのは、てんかん発作なんだけど」
「そっか…。じゃ目が離せないだろ?」
「ええ…なるべく…自分の仕事がない時は病室まで行って見てるわ?」
「、ほんと優しいなぁ…。一患者にそこまで目を配るれるんだからさ」
「そんな…ほんとは…あまり感情移入しちゃいけないって分ってるんだけど…」
「まあね…医者でも、それは同じかな…。でも頭で分っていても出来ない時もあるしな」
私はダニーの優しい言葉に微笑むと腕を絡めて寄り添った。
楽しそうに歩いてくる他のカップルとすれ違う。
その時、ふと香水の香りがして、それは昼間に香ったレオの香水と同じ香りだった。
「どうした?…振り向いて…今の二人が何か?」
「え?い、いえ…この匂い…知ってたから…」
「ああ、今の香り…俺の同僚もつけてたな…。確か…ヒューゴボスだろ?」
「そうなんだ…」
「誰がつけてるんだ?これメンズだろ?」
ダニーがちょっと怖い顔で私を見る。
私は慌てて、「い、いえ、あの…患者のお父さんがつけてて…それを今思い出したのよ…?」
苦しい言い訳だったが、それでもダニーは納得してくれたようだ。
「何だ、そっか。なら安心! ―でも…こんな香水つけてくるなんて…お洒落なお父さんだね?若いの?」
「え?あ、うん…。そうねぇ…30歳くらいかも…」
私は何とか適当に言ってみた。
「俺、どうも男が香水って苦手なんだよなぁ…。女性はいいけどさ。そう言えば…は何もつけてないね?」
「あ、私は…好きなんだけど…病院でつけるわけにもいかないし。つけていくような場所にもいかないから」
そう言って笑うとダニーは私の頭を優しく撫でてくれた。
「あ、そろそろ戻ろうか?明日も早いんだ。帰らないと…」
「え…もう帰っちゃうの?」
「うん。明日はの養父さん…ショーンと脳外の会議があるからさ。資料とか用意しないといけないんだ」
「そう…」
私が思い切り寂しそうな顔をすると、ダニーは私の顎をそっと持ち上げてキスをしてくれた。
私も素直に彼に抱きついて背中に腕を回す。
ダニーは静かに私を離すと、「暫く忙しくなるけど…電話するね?」 と微笑んで今度は額にキスをしてくれた。
私も笑顔で頷く。
「うん。…あまり無理しないで…」
「ああ」
そう言うとダニーは私の手を引いて家の前まで送ってくれた。
ダニーは車に乗り込むと、窓を開けて顔を出す。
「じゃ、も早く寝るんだぞ?」
「ええ。運転気をつけてね?」
「OK。じゃ…また」
「お休み!」
私は走り去っていくダニーの車に手を振りながら車が見えなくなると、ちょっと溜息をついて自分の部屋へと戻った。
リビングに入ると、キッチンへと行き、冷蔵庫からビールを出して一気に飲む。
「はぁ…!美味しい…」
私はそのままベランダへ出ると、白いチェアーに腰を下ろした。
潮のにおいと波の音が聞こえて、一番ホっとする時間だ。
あ~あ…今日もダニーったらすぐ帰るんだから…
私はもっと一緒にいたいのに…。
私とダニーは、キスだけのプラトニックな関係だった。
それは、ダニーが私の養父であり、自分の上司であるショーンに義理立てしてるからなのかもしれない。
でも私は別に焦って、そういう関係にもなりたくなかった。
今のまま、ゆっくり付き合っていきたい。
ただ…たまには家に上がって欲しいし、二人で部屋でのんびりしたいと思うのだ。
「あ~あ…暫く忙しいのか…。つまんない」
私は、そう呟くと部屋の中へと戻って軽くシャワーを浴びた。
髪を拭きながらソファーへと座り、リモコンでテレビをつける。
すると、いきなりレオナルドの顔が映って私は驚いてしまった。
「うわ…っ!レオ?」
その番組は映画情報の番組で何かのコーナーで、今、レオが撮っている新作が招介されている。
撮影風景とか、彼のインタビューが招介されていて、画面の中のレオはやっぱり素敵だった。
前ならきっと大騒ぎしてビデオ録画の用意とかをしてただろう。
「何よ…営業用の顔しちゃって…。ほんとはイジワルのクセに…」
そう呟くと先ほど出してきた、もう一本のビールを開けて飲んだ。
ただ、その映画の内容は面白そうで、私は見たいな…と思ってしまった。
ふーん…撮影中は、こんな真剣なんだ、彼…
いつものニヤケ顔(!)からは想像つかないけど…。
って、あの人、撮影の合い間に今日来たのかしら…案外、暇人?
隣の病院に来たって言ってたけど…ダニーとは会わないわよね…
だってダニーは脳外科だもの。
そんな事を考えていると、最後にレオがカメラに向って笑顔で何か叫んでいる。
その笑顔は私が前から好きな笑顔だった。
こういう笑顔で来てくれればいいのに…あの余裕の顔でニヤリとされると、つい身構えてしまう…。
今日だって、またキスしようとしたりして…
画面に映るレオを見ながら、昼間の事を思い出して一気に顔が赤くなった。
慌ててリモコンでテレビを消して息を吐き出す。
「まったく…どれだけ人を振り回したら気が済むの?あの色情魔!」 ―何とも酷いいいようだ―
私はソファーに寝転がってクッションに顔を埋めると、昼間、レオが帰り際に言った、
"また来るよ"
という言葉を思い出して顔をガバっと上げた。
ま、また来るよって…言ってたけど…まさか…ね…?
これ以上、彼に関わってたら、ろくな事がない…!
キャシーにも変な疑いをもたれたし、このままだと病院の人にも変に思われてしまう…
職場が気まずくなるのは嫌だった。
「今度、顔出したら…引っぱたくだけじゃ済まさないわ…!」
私は、そう(怖い)決意をすると、髪をかわかすべ洗面所へと歩いて行った――
「レオ、久し振り!」
「よぉ」
俺は友人のトビーとハイタッチで挨拶するとカウンターへと座った。
今はルネッサンスのバーに来ていた。
「どう?撮影は。順調?」
「ああ、何とかね・…。そっちは?」
「まだ始まったばかりだけど、キツイね?あの格好は…」
そう言うとトビーはウイスキーを、ぐっとあおった。
「レオはもう終るんだろ?いいよなぁ…。その後は何?オフ?」
「どうかな…一つオファーがきててさ。それも面白そうだから受けようかと思ってるんだ」
俺は煙草に火をつけながら言った。
「へぇ…どんなの?」
「う~ん…実話らしいんだけどさ…。家出して生きるために詐欺師になるって話?」
「嘘、実話なんだ。面白そうじゃん」
「そうだろ?だから、やろうかと思ってるんだ。それに共演は、トム・ハンクスだし」
「へぇ!そうなんだ!凄いなぁ。ますます面白そうだ」
トビーは何だか一人でわくわくした顔で俺以上に喜んでいる。
(ほんと可愛い奴だよなぁ…)
「それよりレオ、肋骨にヒビが入ったって?大丈夫なの?」
「ああ、そんな酷くはないんだ。骨折じゃなくて良かったよ」
俺は肩をすくめて笑った。
「でもさぁ~ほんとに子供病院に運ばれたの?それ最初に聞いた時は笑ったよ?」
トビーは笑いを堪えつつ俺を見た。
俺もちょっと笑うと、
「ああ、俺だって、ドクターに、"ここは子供病院だ"って言われた時は目が点になったよ?」
「そうだよなぁ?天下のレオナルド・ディカプリオが、怪我で子供病院に運ばれましたなんて、
ほんと笑えるって。世間にバレなくて良かったな?」
トビーは、まだ笑いたいような顔で俺の肩をポンポンと叩く。
「まったく…人事だと思って…」
俺は苦笑しながら煙草の煙を吐き出した。
「アハハ、ごめんって!でもさ、子供病院なんて子供の時くらいしか行かないし新鮮だろ?」
「まあね…それに…」
「それに?」
「ちょっと面白い子見つけたんだ」
と俺はちょっと笑いながらグラスを置いた。
それにはトビーも興味津々な顔で身を乗り出してくる。
「え?何?何?面白い子って?子供?いや…レオの事だから…あれか!看護婦だ!」
「俺の事だからって人聞き悪いな…。でも正解!」
「ほら!何も人聞き悪くないじゃん。その通りだったろ?で?何が面白いの?」
トビーは大きな瞳をキラキラさせて、俺を見てくる。
俺は苦笑しながら、彼女との激闘(!)を、トビーに詳しく話してやった―
「嘘!引っぱたかれたの?!レオが?女の子に?!」
トビーは更に目を見開いて俺を見ている。ちょっと口がポカーンとしてアホ面なんだけど。
「…ああ。きっついの二発もくらったよ…」
俺は笑いながらウイスキーを一口飲んで、グラスを軽く振ると氷がカランとなる。
バーテンダーにグラスを持ち上げて、「同じものを」 と言うと、すぐに代わりが出てきた。
「いや~嘘みたいだな?レオが女の子に殴られてるのなんてさ…想像つかないんだけど」
「俺も一瞬、何が起きたのかと思ったよ」
「そんな笑ってるけどさ。その子、大丈夫なの?変な雑誌とかに、"私、レオにキスされたんです"とか言わない?」
俺はちょっと驚いて、トビーを見た。
「まさか…そんな子じゃないよ?じゃなくて…と、思うよ…か」
「また呑気なこと言ってぇ・…。少しは自覚したら?自分の立場をさ。
女の子を口説きたいなら、もっと無難にモデルとかさ~レオなら一杯いるだろ?そういう知り合い」
「まあ…ね。今、口説き落とした子もモデルだし」
「ああ、ティナだろ?デートしたの?」
「いや、まだ。肋骨の件で初デートは、お預け」
「ふーん。ま、その体じゃね?色々と不便だろうしね?」
と、トビーはニヤニヤしながら俺を見た。
俺もちょっと苦笑して、「お前、顔がいやらしいぞ?」 と言ってやった。
トビーは慌てて顔を直すと、
「でもさ、いきなり目が覚めて女の子にチャック下ろされてたらビビるよね?ああ、それもネタになりそうだな!
"レオナルド・ディカプリオ、美人看護婦にズボンのチャックを下ろされ卒倒!"とかさ!アハハ、おもしれー」
トビーは一人盛り上がってケラケラと笑っている。
俺はちょっと笑いながらも、「お前なぁ…」 と、トビーの頭をこづいた。
「俺だって一瞬、ビビったんだからさぁ。つか、恥ずかしいだろ?いきなり目が覚めたら、その状態って」
「ああ、まあねー。俺なら、キャ、エッチ!とか言っちゃうかもね?」 と、トビーはアホな事を言って笑っている。
「あ、だからレオもあれだ!照れを隠すのに、その子に、いやらすぃー事を…!」
大げさに手を口にあて、でもニヤケ顔でこっちを指差すトビーに俺はウイスキーの中に指をいれてその雫を顔にかけてやった。
「つめた…っ! …もう~酷いなぁ、レオ~」
トビーはバーテンにタオルを貰って、濡れた顔を拭きつつ口を尖らせている。
「お前は楽しみすぎ!人のネタで、よくも、そこまで楽しめるよな?今度、お前のネタがあった時は覚えてろよ?」
俺は笑いながら煙草に火をつけた。
「人のネタだから楽しいんだろ?それに俺は会って数分の子にキスなんてしませーん」
「へぇ、紳士ぶっちゃって!お前だって、可愛いなとか思ったらキスするね、間違いなく」
「そんな、可愛いって思っただけでキスするなら、俺は世界中の美女にキスしまくってるね!」
俺はその言葉に思わず吹き出した。
「お前…張り切って言ってるけど、言ってる事、さっきと違うぞ?」
「は…!いけね…つい本音が…!」
トビーは口を抑えて、わざと、おどけた口調で言った。
俺はちょっと呆れた顔でトビーを見た。
「…ほんと、お前と飲んでると変な脱力感を感じるよ…」
「何だよ、それ?高揚感って言って欲しいね! ―つか、レオ、またその子に会いに行くつもりじゃないよね?」
「え?ああ、どうかな?会いたくなったらってとこかな?」
「そうなの?何?マジで惚れたとか?んなわけないよね?殴られて惚れたなんて、ほんと危ないって」
「言いたいこと言いまくりだな?お前…。惚れたとかって分んないって、まだ。
ただ会ってると楽しいんだ。何か、こう…楽なんだよな。構えなくていいって言うか」
「ああ、レオは他の女性の前だと気取らざるを得ないもんね」 トビーは笑いながらウイスキーのお代りを頼んでいる。
「あのな…気取ってるって何だよ…ほんと失礼な奴だな…」
俺は苦笑してウイスキーのグラスを持ち上げる。
「だって、何だか演じてるように見えるときがあるよ?パーティーとかで女性を口説いてると」
「そりゃ、最初はね?それなりに」
「うわ、やな感じ」
「うるさいよ!」
またトビーの頭をこづく。
「お前だって、色々と口説いてるだろ?最近じゃ…ほら、あのお嬢様!」
「ああ、モリーね!やっぱ、お嬢様っていいよ~。こう、おしとやかで」
と、トビーは一気にデレデレな顔になる。
「そうか?俺は、お嬢様って苦手…。何だか退屈だろ?上品過ぎてさ…」
「そこがいいんだろ?レオは凶暴な子が好みなわけ?すぐ平手打ちしてくるような」
トビーはクスクス笑いながら言った。 ―が聞いたら、トビーにも平手が飛んできそうだ―
「それは俺が勝手にキスしたからだって。別に普段から怖いわけじゃないよ?
この前も子供に優しく接してたし…仲良く遊んであげててさ…って何、ニヤニヤしてるの?お前…」
トビーは何だか唇の端をニヤっと吊り上げたような顔で俺をジーっと見ている。
「ふぅ~ん。やっぱりレオも、まんざらじゃないんだ。勝手にキスしたからだって彼女をかばったもんなぁ?
それとも、あれかな?わざとイジワルして彼女の気を引こうとしてるとか?
逃げられると追いかけたくなる心理も分るけどさ?」
トビーはヘラヘラと笑いながら、俺を見て腕をつついてきた。
「…お前、ほんと、顔がいやらしいぞ?」
俺が目を細めて、トビーを睨むと、トビーは慌てて顔の表情を元に戻している。
(まったく…言いたい放題、言ってくれちゃって…)
俺は心の中で苦笑すると、一気にグラスの中のウイスキーを飲み干した―
「ねぇ、!バスケ、しようよ」
「OK!じゃ、庭に行こうか?」
「うん」
マークは笑顔で私を見上げる。
嬉しそうに私の手を引っ張りながら、廊下を歩いて行く。
すると前からフランクが歩いて来た。
「やあ、マーク。散歩かい?」
「あ、ドクター。うん、とバスケするんだ!はヘタクソだから僕が教えてあげるのさ!」
「ほぉ~そうか!じゃ、みっちり教えてやってくれよ?」
と、フランクは、マークの頭を撫でると、私を見た。
「もう…ヘタクソは余計よ?マーク」
「だって、ほんとの事だろ?」
とマークは澄ましている。
それにはフランクも笑いつつ、「じゃ、くん。宜しくね」 と私の肩にポンと手を置いた。
「はい」
私も笑顔で答えると、またマークと一緒に庭の方へと歩き出した。
「今日も、いい天気ねぇ…」
私は高く上った太陽を見上げて呟く。
「~、早く早く!」
「待ってよ、マーク…そんな走ったらダメよ?」
私は、そう声をかけると彼を追いかけた。
マークは気にしないで、いつもの場所まで行くと、バスケットボールでドリブルしながら走り出した。
でも、すぐボールを足で蹴ってしまって、ボールが転がって行ってしまう。
「あ~あ~…私と同じ事しちゃって…」
私は苦笑しながら、ボールの転がった方へと歩いて行った。
そのボールを拾おうと手を伸ばした時、誰かの手が先に、そのボールを、ひょいっと拾った。
驚いて顔を上げると、そこにはジャケットに黒のパンツというラフな格好のレオがボールを持ってニコニコと立っていた。
「Hi!」
「あ、あ…あなた…!」
「だからレオだって」
彼は、サングラスを外しながら、そう言うと笑顔で私にボールを、「はい」 と渡した。
「か、帰ってください!」
「いいじゃん。別に俺が入っちゃダメって決まりがあるの?」
と、レオは、いつもの澄まし顔。
「そんなのはないけど…別に、ここに来る理由がないでしょう?うちは病院で、遊びに来る所じゃ…」
「に会いたいから会いに来たんだ。それが理由じゃダメ?」
レオはニコニコと笑いながら、私を見ていた。
顔が赤くなって口をパクパクさせてると後ろから、「ーボール持ってきてよ~!早くやろー」 とマークが呼んでいる。
慌てて、「あ、ごめんね!今、行くわ?」 と叫ぶとレオを見て、「あなたに構ってる暇はないの。早く帰ってください」 と言った。
「じゃ、ここで遊んでるの見てるよ。邪魔しないから。それならいいだろ?」
そう言われて、グっと詰まってしまう。
(別に大人しく見てると言うなら…放っておけばいいかな…)
「じゃ、勝手にどうぞ!」
そう言い放つと私はボールを持ってマークの方へと走って行った。
マークにボールを渡すと、チラっと振り向いてみる。
レオは、本当に近くのベンチに腰を下ろして楽しそうに、こっちを見ていた。
何なのかしら…?撮影はどうしたんだろ…
子供病院で、子供が遊んでるのを見て何が楽しいのか…
「ねぇ、!」
いきなり服を引っ張られて驚いた。
「え?な、何?マーク」
「またドリブル対決しようよ!」
「ええ…?またぁ?」
と私はちょっと顔をしかめたフリをして、でも微笑むと、
「OK!じゃ、マークが負けたら、ちゃんとお薬嫌がらずに飲む事!分った?」
「ええ?…まあ、いいや。僕が勝つから」
「うわ、でかく出たわね?負けても知らないんだから」
私は、そう言いながら、マークの頭をクシャクシャっと撫でてやった。
「じゃ、僕から行くよ?」
「いいわよ?私が数えてるわ」
「うん、じゃ。…スタート!」
マークは必死にドリブルをしだした。
「ワン…ツー…スリー…フォー…」
私はその回数を数えながらマークがイレブンまで突破した時に、心の中で、ヤバイわ…と思った。
だが、「…サーテーィ―ン…」 と言ったところでボールが転がっていった。
「ああ…!惜しいなぁ…」
マークは悔しそうに呟いている。
「ま、まあ…自己新記録でしょ?じゃ、次は私ね!」
私はボールを拾うと、ちょっと深呼吸をして、「じゃ、行くわよ?」 と真剣な顔でドリブルを始めた。
マークが、ニコニコしながら、「ワーン…ツー…スリー…」 と数え始める。
その声で緊張したのか、「ファーイブ…」 と言った瞬間、またしても足に当たってボールが弾かれた。
「ぁぃた…っ」
「アハハハ!、また足にぶつけた~」
「も、もう…笑わないでよ…」
と、私は足を擦りながら苦笑した。
すると、レオの笑い声が聞こえて、私は振り向いた。
「何が、おかしいの?」
「あ…ごめん…」
と、レオは可愛く手で口を抑えると、「でも、あんまりヘタだからさ」 と言って苦笑している。
「む…あなたに言われたくないわ!」
その時、マークが私の服を引っ張った。
「ねぇねぇ」
「ん?何?」
とマークの前でしゃがんで顔を見た。子供の目線ってやつだ。
「あの、お兄ちゃん、の恋人だろ?また来てくれたんだね?」
と何だかニヤケている。
「バ…ち、違うわよ!」
私は顔が一気に赤くなる。
その時頭上から、「と言うよりは俺が必死に口説いてるんだけど、なかなか靡いてくれなくてさ?」 と声が降って来た。
「な、あなた…!変な事を子供に言わないで!」
私は慌てて立ち上がると、レオを睨んだ。
「別に、本当の事だし、変な事でもないだろ?」
「人をからかうのもいいかげんにして!…あ、あなたは、だいたい何がしたいの?意味が分らないわ?!」
「だから…君に会いたくて来たって言ったろ?」
レオは肩をすくめて、私を見た。
「だ、だから、それが…!」 と言いかけた時―
「へぇ…お兄ちゃん、が好きなんだ」
と、マークがニコニコと、レオを見上げている。
それにはレオが意外にも(!)優しく微笑むとマークの前へしゃがみ込んで、「そうなのかもね?」 と言って頭を撫でた。
「ちょ、ちょっと…!」
私が慌ててレオの肩を掴もうとした時、レオがマークに、「マーク…だっけ。バスケ好きなの?」 と聞いた。
「うん!大好きだよ?」
「NBAとか?」
「そう!もちろん…」
「レイカーズ!」
「そうだよ、お兄ちゃん!お兄ちゃんも?」
「ああ、俺もレイカーズの大ファンだよ?時間があれば試合見に行くんだ」
「へぇー!凄いなぁ!よくチケット取れたね!」
マークは興奮したようにレオを見つめている。
「ああ、まあ…。 ―そうだ。俺がバスケ、教えてあげようか?俺も前にバスケやってたんだ」
「ほんと?!」
マークは瞳をキラキラさせてた。
「ああ、あのお姉ちゃんよりは上手いと思うよ?」
そう言ってレオは私をチラっと見て微笑んだ。
私は何だか顔が赤くなって、「ちょっと…!何を勝手に…」 と言いかけるも、マークが凄く嬉しそうな顔で、
「ね、じゃあ、ジャンプシュート教えて?」 とレオにしがみついてるのを見て、言葉を切った。
あんな嬉しそうな顔…最近は見てなかった。
父親が、お見舞いに来れないから、一人になると、塞ぎこんでいたし…
ここは…レオに任せようかな…
二人は仲良く、さっき転がっていったボールを拾いに行くと、レオがシュートの、お手本を見せている。
それを見て、マークが手を叩きながら喜んでいた。
(へぇ…本当に上手いんだ…そう言えば…昔、映画でもやってたっけ)
私は楽しそうにシュートの練習をしてるマークと、優しく微笑んでいるレオを見ながら思わず笑顔になった。
「マーク、肘は開いちゃダメなんだ。こう脇に閉めるようにね?」
「うん、分ったよ!…こう?」
「ああ、そうそう!マーク、覚えが早いな?」
レオはそう言いながら、マークの頭をクシャっと撫でた。
「ほんと?!僕、大きくなったら、レイカーズの選手になりたいんだ!」
「へえぇ!凄いじゃん!その時は是非、応援に行かせてもらおうかな?」
レオは笑顔で言うと、「ちょっと汗かいてるな?少し休もうか」 と言った。
「ええ~もっと、やろうよ~」
「ダーメ!あまり無理させちゃに怒られるだろ?俺、これ以上、嫌われたらへこむからさ」
レオは苦笑しながら、マークの頭を撫でている。
「そっか!じゃ、お兄ちゃんが、に嫌われたら可哀相だし、我慢するよ」
と、マークもニコニコとしながら言った。
私は横のベンチに座って二人を見ていたが、その会話を聞いて顔が赤くなった。
すると、レオが歩いて来て私の隣に座ると、「可愛いな?あいつ」 と微笑む。
マークの方をチラっと見ると休むと言いつつ、まだレオに教えて貰ったシュートフォームの復習をしている様子。
「…ええ。凄く…いい子なの」
私はマークを見ながら言った。
レオはちょっと私を見つめると、「…どこが悪いの?」 と聞いてきた。
「…MCM。ミトコンドリア病よ?」
「…それって…重い病気?」
「そうねぇ…症状は様々だから一口にそうは言えない。マークは、その病気の中でもMERRF…福原病と言って、
症状は…手足の震え…てんかん発作…歩行障害…ひどくなると、痙攣を起こす事もあるわ…」
私の説明を聞いてレオはマークを見た。
「あんなに元気なのに…」
「今は…まだ軽い方なの。でも…いつ発作が起きて悪化するか分らないし…」
「そうか…。バスケの選手になりたいって言ってたのに…」
レオは、そう言うと悲しそうな顔で俯いた。
その表情に私は少し驚いた。
この人…こんな顔もできるんだ…
いっつも、余裕の顔で人をからかってくるのに…同じ人だとは思えない。
私はレオの額に汗が光ってるのを見て、自分のハンカチを出すと汗を拭いてあげた。
それに、レオは驚いて顔を上げる。
「あ、汗かいてほっといたら風邪引くでしょ?撮影中なんだから、もう少し考えなさいよ…」
「…今日は優しいんだね?」
途端にいつものレオに戻った。
何だか、ニヤニヤして、私の方を見ている。
「べ、別に…!ついクセで…汗とか見ると、すぐ拭いてあげないと子供はすぐ風邪引くから…」
「へぇ…。って俺は子供と同じか?」
と、レオはちょっと情けない顔で私を見るから、思わず吹き出してしまった。
「…ぷっ…アハハ…!ほんと、大きな子供かも!」
そんな私を見てレオも唖然とした顔をしたが、ちょっと笑うと私の顔を優しく見つめてきた。
「な、何よ…?」
ちょっと警戒して、体を離す。
「いや…。やっと笑ってくれたね?」 と言って、ちょっと下を向いて笑っている。
「わ、笑うでしょ?普通…人間なんだから…」
私は何だか妙に恥ずかしくなって、そっぽを向いた。
「そりゃ、そうだけどさ。って俺の前で笑顔なんて見せてくれなかったからさ」
レオはそう言うと私の頭を撫でた。
「そ、それは、あなたが…」
「…だから、レオ」
「……!」
私はチラっとレオを見ると、何だか、ニコニコと微笑んで私を見ている。
私は、コホン…と咳払いをすると、
「レ…」
「うん」
「……」
「呼んでくれないの?」
「だ…だから…何で、あなたの名前を呼ばないといけないのよ…!」
私は、そう言って立ち上がると、マークの方へと歩いて行った。
「あ、。フォーム、教えてやるよ」
「ほんと?どうやるの?」
そう聞きながら、レオの方を見ると、何だか、いつもの様に、ニヤニヤしながら、こっちを見ていた。
私は、マークの方に視線を戻すと、一生懸命にフォームを教えてくれている。
それを、うんうんと聞きながら、背中に当たる視線が何だか痛かった…。
ほんと…彼女って面白い。
あ~あ…また失敗した…。
俺はが、マークにシュートの練習を教えて貰ってるのを座りながら見ていた。
何度も失敗して、マークに笑われている。
俺はそれを見つつ苦笑した。
あんなに子供と真剣に遊んであげてるよ…
さっきも勝負してたし…変わってるというか…
それに…さっき初めて見た彼女の笑顔。
初めて見たから驚いたのもあったけど、あんな大口開けて笑う女の子は初めて見た。
今まで俺と付き合った子って、あんな風に笑った事がない。
いつも上品に、微笑むとか、笑っても、あんな爆笑したりしない。
彼女は…ほんと自然に笑うんだな…。
俺は、そんな事を考えながら、マークと楽しそうにシュートの練習をしてるを見ていた。
「さ、もう病室に戻ろう?」
「ええ~?もっとやろうよ~」
「だめ!風も冷たくなってきたし…風邪引いちゃうよ?そろそろお昼ご飯だし…」
「は~い…」
マークはちょっと悲しそうに、でも素直に頷くと、レオの方へ走って行った。
「お兄ちゃん!」
「ん?だいぶ上達した?」
「うん、バッチリ!コツが分ってきたよ? …あのさ…」
「どうした?」
レオはマークの顔を覗き込むように首をかしげた。
「また…バスケ、教えてくれる?」
マークがモジモジしながらレオを上目遣いで見た。
その言葉に、レオはニッコリ微笑むと、「ああ、もちろん!また来るよ」 と言ってマークの頭を撫でてあげている。
「ほんとに?!やったー!じゃ、絶対だよ?約束ね!」
マークは小指を出して、レオも、マークの小さな小指に自分の小指を絡めた。
「ああ、約束!」
私はそんな二人を見て、ちょっと微笑むと、「さ…行こう?」 とマークの方へ声をかけた。
マークは私を見ると、レオに、
「お兄ちゃん、頑張ってに、アタックしなよ?僕、他に変な虫がつかないように見張ってるからさ!」
と無邪気な顔で凄い事を言っている(!)
「ちょ、ちょっと、マーク!何を言って―」
「ああ、頼むよ。俺の代わりに、マークが彼女のボディーガードしておいて」
と言って私の方を見てニヤリとする。
「あ、あなたも変なこと教えないで…!」
私は慌てて、マークの手を繋ぐと、マークが私を見上げた。
「今日は、お兄ちゃんと、さよならのキス、ほっぺにしないの?」
「…!! ――な、何言ってるの…?するわけないでしょ…!」
私は顔が赤くなって、マークの小さな鼻を軽く押した。
「何だ、、照れてるんだ?」 とマークも、レオのが移ったのか(!)ニヤニヤしながら私を見上げた。
「あのねぇ…怒るわよ?」
それを見ながら、レオはクスクスと笑っているばかり。
「ちょっと、あなたが変なこと、教えたんじゃないでしょうね?!」
「俺が?まさか」
レオは肩をすくめて、何やらマークと目で合図を送りあっている。
「何よ?何だか怪しいわね?二人して…」
「別に!じゃ、俺もそろそろ行かないと…今日もちょっと病院って抜け出してきたんだ」
「え?そうなの?」
「ああ、早く戻らないと、ジョーがうるさいしな…」
「ジョーって…あのマネージャーさん?」
「そう、これがまた、おっさんのように説教が長くてさ~、いっつもタジタジだよ」
レオはそう言って苦笑した。
私もちょっと笑ってしまった。
「撮影してるとこ…ここから近いの?」
「ああ、車で10分くらいかな?今はスタジオだからさ」
「そうなの…じゃ、早く戻ったら?」
「はいはい…まったく君はいつも俺には冷たいんだからさ…」
レオはちょっと肩を上げると、そう言った。
「それは…」
「俺が悪いんだろ?分ってるよ」
「………っ」
レオは笑いながら、私見ると、「じゃ、さよならのキスを…マークのご要望どおり、頬に…」 と言って顔を近づけてきた。
私は驚いてレオの胸を両手で押すと、「そ、そんなのしなくていいから…!早く行きなさいったら…」 と怒鳴った。
「あ~ったら…男心を分ってないなぁ…。帰り際はキスしたいんだよね?お兄ちゃん」
「…な…!!」
私は、マークの言葉に、一気に顔が赤くなった。
レオはそれを聞いて大笑いしている。
「マ、マーク…!もう…!レオも!笑ってないで早く帰って!分った? ―さ、行くわよ?マーク」
私は笑っているレオを、無視して、さっさと病院の方へと歩き出した。
「・…お兄ちゃん、可愛そうだよ?あんな冷たくしたら…」
マークは相当、レオが気に入ったのか、そんな事を言っている。
「いいの!甘やかすと、すぐ調子に乗るんだから…!マークも変なこと真似しないでね?」
「変なことって?」
「だ、だから…彼が私にする事よ」
「何、されたの?」
「……っ。 ―い、いいから…」
私は何も言えなくなってしまって、黙ってマークの手を引いていた。
そこに後ろから、「…!」 と呼ぶ声が聞こえて思わず振り向くとレオが走って来た。
「まだ何か…?」
と言った瞬間、いきなりレオにガバっと抱きつかれ、驚いた拍子にマークと繋いでた手が離れてしまった。
「ちょ、ちょっと…!何なのよ…?!」
「またねって言いに来たのと…」
「え?」
「さっき、しそこねたキスをしに…!」
レオはそう言うと素早く私の頬にキスをした。
「……っ!」
「あと、マークにも!」
と言って私を放すとマークの頬にもチュっとして、「じゃ!」 と笑顔で手を上げると病院の駐車場の方へと走って行ってしまった。
「またねーー!お兄ちゃん!」
マークは嬉しそうに手なんか振っている。
私は頬を手で抑えると、「Don't Play A Trick!」 と叫んで、その場にいた保護者の人達に睨まれた。
そこは笑顔でかわし、マークの手をとると、病院の方へ早足で戻った。
「も、も、もうーーー!悔しいぃ~~~っ!何度も何度も…バカにして…っ」
「…お兄ちゃん、別にバカにしてないよ?」
「……っ」
マークは無邪気な顔で私を見る。
私はちょっと深呼吸をすると、
「あのねマーク。マークには優しいお兄ちゃんかもしれないけど、あの人は女性からしたら、"女の敵"って言うのよ~?」
「女の敵って何?」
「……。」
私はキョトンとした顔で見あげて来るマークを見て、ちょっと溜息をついた。
はぁ…マークったら、すっかりレオになついちゃって…最悪…!
何度も病院に来られたら…いつかバレちゃうじゃないの…。
レオったら、その辺を考えろって言うのよ…
少しは自分が超有名人だってこと分かれ…バカー! ―と、レディらしからぬ言葉を心の中で叫ぶ―
「あ~あ…どうしよう…」
私はマークを病室に連れて行ってから休憩室の椅子に座って頭を抱えた。
(何だか凄く逃げたい気分だわ…)
私は溜息をつくと、椅子にもたれかかってグッタリと目を瞑った…。
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ACT.3...真夜中の密会>>
何だかレオ様、良い人なのか悪い人なのか、よく分りません(笑)
どないやねん!って・…^^;
さ、続き、また思い浮かんだので連続で書いちゃいますv
あ~今日で連休も終わり・・・凄く早かった・…
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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