Catch me if you can.......A real love ?... or... fake love...













あの夜、あの場所で、出逢えなかったら…



僕らは、ずっと見知らぬ二人のままだった。


その方が幸せだったのかな…?












ACT.10...逢瀬                                 






私はシャワーから出るとベッドへと倒れこんだ。


「はぁ…疲れた…」


ずぶ濡れで戻ったら養父に驚かれて何とか誤魔化そうと、"足を浸してたら誤って落ちちゃって…"と、そこは本当の事を言った。
養父は夜中にプールなんて危ない…と怒っていたけど別に本気で怒ってるのではなく、ただ心配してくれてるだけだ。
それより…


私はそっと指で自分の唇へと触れて顔が赤くなる。
レオに…何度かキスをされた事はあったけど今夜みたいに優しく情熱的にされたのは初めてだった。
それに唇にされたのだって最初のふいのキスと、この前の怒ったような強引なキスだけ…
でも、そんなのと今夜のキスは全然違った…。
本当に愛しいと叫ぶようなキス…
今夜、初めてレオは本気なのかもしれないと思えた。


"愛してる…結婚なんてしないで…"


レオの言った言葉を思い出し胸が苦しくなり、私は思い切り息を吐き出すとゴロンと寝返りを打った。


あれは…本気なんだろうか?
今までだって何度も告白のような事を言われてきたけど…あんな風に、きちんと"愛してる"なんて言われたのは初めてだ。
いつも、"会いたいから"とか、"顔が見たくて"とか、そういう事しか言われなかった。
そして気付いてしまった自分の気持ちに私は戸惑っていた。
本当に腹立たしくさえ思っていたはずなのに、いつの間にか、レオを気にしていたなんて…
レオが最近、たまに素顔を見せてくれるようになったからかもしれない。
元々、ファンだったのもあるけど全部が全部、いいかげんなわけじゃないんだと言う事が分かってきたから―


でも…今頃、気付いても遅い…
私はダニーと婚約までしてしまって…着々と結婚の準備が始まっているんだ。
そう思うと心臓がギュっと痛くなる。
ダニーの事は今でも好きだ。
でも…それ以上に、あの強引で自分勝手な中に、時折見せる優しいレオに惹かれている自分がいる。
私はどうしたら…


"明日の夜…11時…俺の家に来て…"


レオに言われた言葉を頭の中でくり返し思い出しながら、あの時、思わず頷いてしまったものの、行くか行かないかを迷っていた―










撮影の合い間の休憩時間、俺はトムと二人でランチをとっていた。


「んなんだってぇ~?家に忍び込んで告白した~?!」


トムが飲みかけていたコーヒーを噴出すんじゃないかと言う勢いで叫んで俺は顔をしかめた。


「ちょ…汚いなぁ…。あ…顎のとこ…垂れてるよ?」
「ん?ああ、すまん、すまん!」


トムは慌ててハンカチで顎に垂れたコーヒーを拭くと俺の方へと視線を戻した。


「それで…本当に?!お前…忍び込んだって…バレたら警察沙汰だろ?
気を付けろよ…映画撮ってる最中なのに…しっかし…映画のワンシーン利用するなんて、ずるいなぁーっ
俺なんて、そんな恋愛ものやってないし出来ない芸当だよ!」


トムは何だか、とんちんかんな事を言いながらも、ニヤニヤしている。


「…別に俺は狙ってやったわけじゃなくて…ただ…その時の状況が似てたし、が好きだって言ってくれたシーンだったからさ…
つい…セリフが出てきたんだよ…。それに…別に告白をしに行ったわけじゃなくて…」
「はあ?じゃ、何しに行ったんだ?そんな夜中に他人の家の塀を乗り越えて忍び込んでまで…」
「別に…。ほんとに、ただ会いたかっただけだよ?イヴに好きな人の顔くらい見たいだろ?」
「で、でも婚約披露パーティーだったんだろ?彼女がもし外に出てなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「何も考えてなかったけど…そうだな…。壁でも攀じ登って部屋に忍び込んでたかもね」


俺がそう言ってクスクス笑うとトムは唖然とした顔で俺を見ている。


「お前…ほんとに好きなんだ…。ジョニーからも聞いてるが…。へぇ…そうかぁ…。
あ、で、でも彼女も…お前の事、好きだって言ってくれたんだろ?良かったじゃないか!」
「いや、好きだってハッキリ言ってくれたわけじゃなくて…そんな風に感じただけ。聞く前に邪魔が入ったからさ…」
「でも今夜、家に呼んだなら、その時にちゃんと話せるじゃないか」
「ああ…。来てくれれば…の話だけど…」


苦笑しつつコーヒーを飲むとトムは笑いながら、「大丈夫だよ。そんなに弱気でどうするんだ?」 と俺の頭をクシャっと撫でた。


大丈夫…か…俺だってそう思いたい。
でも、まだどこかで不安な気持ちがあるのも事実。
今までが今までだったから…


夕べ…ほんとに凄く会いたくなった。
顔が見れるだけでもいいくらいの勢いでの家に行き、そして裏門の方から忍び込んで後は木をつたって降りるだけ。
中に入ってすぐドアの開く音がして驚いたけどそれがだと分かり自分の目を疑った。
裏庭の方へ行ったので俺も慌てて後を追って…
プールに足を浸しているに、「誰?」 と言われた時は一瞬、帰ろうかとも思ったりしたんだけど…
会いたい気持ちが強かった。
まさか声をかけてプールに落ちてしまうとは思わなくて焦ったけども、そんなに怒ってなくてホっとしたっけ。
「どうやって入って来たの?」 と言われた時、あの映画のセリフが頭に浮かんだ。
だからの好きだと言っていたシーンだったし状況も似てるから…と、ついセリフを言ったんだけど・…


ほんとはキスなんてするつもりじゃなかった。
ただセリフを言っての驚く顔が見たかっただけで…
なのにあんな風に役に入り込んでセリフを言っていると…本当にキスをしたくなって思わず唇を触れ合わせてしまった。
一瞬、が怒るかと思ったけど彼女は怒るどころか驚いた顔をして目をギュっと瞑るから、
つい、またしてしまって…そうなると気持ちは止められない。
への想いが溢れてきて自分の気持ちを伝えたくなった。
でも、まさかが泣くとは思わなくて…そしてまさか彼女からあの言葉が聞けるとは思わなくて
僕は内心、本当にドキドキしていた。
でも最後まで聞きたい言葉が聞けなくて、つい今夜、家に来てと言ってしまった。
が頷いてくれて凄く嬉しかったんだけど…
一夜明けるとやっぱり不安も襲ってくる。
本当に来てくれるんだろうか…と疑ってしまう。
夕べの事は夢なんじゃないかと思えてくる。
だって…には…婚約者がいるんだから…
…なんて、いつから俺はこんなに弱い男になったんだろう…とおかしくなる。
でも…正直、今は怖いと言う気持ちでいっぱいだ。
今夜…来てくれなかったら・…


「…オ?レオ?!」
「え?!」


知らず、ボーっとしていたのか、急に名を呼ばれてハっとする。


「どうした?ボーっとして…今夜の事が気になるか?」


トムは笑いながら言った。
俺は苦笑しながら息を吐き出すと、「ああ…凄く…」 とだけ言った。


「今日は撮影も早めに終るし時間は大丈夫だろ?来週、半ばからアトランタロケだし明日からオフなんだから、
彼女と二人で、ゆっくり過ごしたらどうだ?」
「まだそんなの気が早いよ…。彼女の気持ちも、ちゃんと聞いてないのに…」
「そうか?俺は彼女もお前の事が好きだと思うけどな?前なら殴られてたんじゃないのか?」
「まあ…そう言われると…。でも彼女も仕事があるんだし…二人でゆっくりなんて出来ないよ…」
「なら彼女をアトランタのロケに連れて来たらどうだ?彼女に仕事休んでもらってさ?」
「ええ?!そんな…来てくれないって…仕事休んでまで」
「そうか?俺も会ってみたかったんだけどなぁ~…」


トムは残念そうに最後のコーヒーを飲むと、「じゃ、残りの撮影も頑張るか」 と言って席を立った。
俺もそれに続く。


今日だけは…撮影が早く終るのが何だか怖くて、まだ続いてもいいのに…という気にさえなっていた――











「じゃあ、母さん、また来るね?」
「ええ、今度は家族だけで、またゆっくり食事しましょう?ダニーも、もちろん一緒に」
「そうね…。あの二人…今日は大丈夫だったのかしら?あんな二日酔いで…」
「さっき電話が来たけど、白衣を着ると大丈夫みたいね?ダニーは少し顔色悪いって言ってたけど…」
「そっか。二人とも今日は夜勤だし大変ね? ―じゃ、私、行くわ?」
「ええ、もう遅いし気をつけてね?」
「は~い」


私は母さんに手を振ると帰るフリをして歩き出した。
今日は婚約パーティーの件で休みを取ってある。
一日、実家で過ごしたが、今夜の事を考えるとまだサンタモニカの家には帰れないと思っていた。
私は時間を潰すのにロデオドライブまで来てウインドーを覗きながらも緊張している自分に気付く。


今夜…レオに会いに行って…何て言えばいいんだろう…
夕べの今日で凄く恥ずかしいし、あんな中途半端な告白をしたことで余計に会いづらい。


私はビバリー・ドライブを歩きながらカフェを見つけてそこに入った。
紅茶とチーズケーキを頼んで時計を見てみる。
すでに夜の9時半過ぎになっていた。


(もう少しだ…あと一時間と少し…。あ~心臓がドキドキしてきて苦しい…っ)


私は運ばれて来た紅茶をゆっくり飲んで気持ちを落ち着かせていた。
そしてバッグの中に入っているレオの家の鍵をそっと取り出す。


これ…使ってもいいのかな…あんな大きな正面の門を入るのには勇気がいるし…
これで裏門も開くと言ってたから、また裏門から入ろうか。


そんな事を考えながらも何となく落ち着かなくて鏡を出して髪形とかをチェックしてみる。


(おかしく…ないよね?メイクも普段どおりだし…)


今までなんて意識もしてなかったから別に普段の格好で会おうと気にならなかった。
それに熱を出した時だって寝顔だって見られている。
もう恥ずかしいことなんてないわ…っ


私は自分に言い聞かせるようにして紅茶を飲んだ。
それでも心臓の鼓動は静かにならない。


まさか…あのレオナルド・ディカプリオに今から会いに行くなんて…
前の私なら卒倒しそうな現実だわ…。でも…と少し疑問に思う。


何でレオは私なんかを好きになってくれたんだろう?
最初っから殴ってしまって普通なら嫌われても、おかしくはないし、それに私は特別美人というわけでもない…
ハーフだからスタイルだって日本人よりで小柄だしグラマーなタイプでもない…
本当に首を傾げてしまう…
レオの女性のタイプって…確か年上だったような気もするし。
前に雑誌のインタビューで答えているのを読んで覚えている。
レオなら年上の大人の女性が似合う気がした。


「はぁ…」


思わず溜息が出る。
私は自分に自信なんてないし、レオなんかとつりあうわけもない。
やっぱり住む世界が違うんじゃないのかなぁ…


そんな事を思いながら確実に約束の時間が近づいてきて、私はますます緊張してくるのを感じていた―

















「じゃあ、お疲れさん!」
「ああ、ジョーもね」


俺はそう言って車を降りて家の方に歩いて行こうとするとジョーが、「お、おい…今夜は出かけないだろ?」 と声をかけてきた。


「え?…何で?」
「いや…明日はお前休みだしさ…今夜はクリスマスだろ?どこか出かけるのかと思ってさ?」
「別に…もう寝るよ…?」
「そ、そうか?ならいい…。うん、じゃアトランタ行く用意はしておけよ?来週の水曜には立つから」
「わかってるよ…じゃあな」


俺はジョーの様子が気になったが後もう少しで11時だ。
の事が気がかりでジョーの事などどうでも良かった(!)
それにジョーには夕べの事も話していないし今夜の事も話していない。
家に忍び込んだなんて言ったら発狂しかねないからな…
"ザ・フライ"みたいに飛び掛られても気色悪い(!)
それにどうもジョーは普通の人のに俺が惚れ込んでるのが納得いってないみたいだ。
きっと最初に会った時、凄く怖かった印象しかないのだろう。


俺は家のドアを開けて、すぐに中へと入ると、リビングへと向かった。


散らかってないよな…
なんて思いながらさっき買ってきたシャンパンを閉まった。
せっかくクリスマスなんだしと一緒に過ごせるなら、とこんな事をしてみたくなったんだ。
それと…


俺は小さな箱をキッチンの台へと置いた。
トムとランチをした帰り、近くにブルガリの店を見つけて、ついプレゼントを買ってしまった。
本当は指輪にしたかったが、やっぱり婚約者のいるに更に指輪をあげても…と思ってネックレスにした。
カルティエの方がいかな?とも思ったが、は何となくああいう重いブランドは似合わない気がして、
もっとラフな感覚でもつけられるブルガリがピッタリだと思ったから…
店員がジロジロ見てくるから妙に照れくさかった。
トムもニヤニヤしているし…
クリスマス当日に女性物のネックレスを買えばすぐにプレゼントとバレてしまう。
そのうちゴシップ記事に売られるかもしれない。


俺はすぐシャワーに入ってスッキリすると時計を見た。
夜10時50分…そろそろ…来るかな…?


そう思った時、家のチャイムが鳴ってドキっとした。
一瞬で心臓の鼓動が早くなって苦しくなるも慌てて玄関へと出る。
ドアを開ける手が少し震えているのは緊張のせいかもしれない。


俺は軽く深呼吸をするとゆっくりとドアを開けた――











「メリークリスマス!レオ!」


「え?!」




目の前に笑顔で立っていたのは…じゃなかった。




「ティナ?!き、君…どうして…」




俺は何が何だか分からなくて動揺していた。


(俺が今夜約束したのは…ティナじゃないよな?!)(!)


するとティナがクスクスと笑いながら、「やっぱり驚いた!ジョーの言う通りだわ?」 と言った。


「え…え?ジョー?!」
「ええ」
「な、何で、ジョーが出てくるんだ?この状況で…」
「それがね?夕べ、電話を貰ったの。ジョーから。私のマネージャーと知り合いだしね」
「あ、ああ…そうだね…。でも…何でジョーが君に…。あ、デートにでも誘われた?」


俺は夕べ、ジョーがティナさえOKならデートをしたいと言っていたのを思い出しそう聞いてみた。
するとティナは笑いながら、


「まさか!ジョーが電話で"あなたが元気がないから会いにいってやってくれ"って言ってきたのよ?」
「は…はあ?!」


俺は驚いたのと呆れたので頭が混乱していた。
ティナはそんな俺を見て苦笑しながらも言葉を続ける。


「私は…デート断られたし、それはちょっと…って言ったんだけど…ジョ―がどうしてもって言うから…
それで今夜11時に家の前に来てくれって言われて…今もジョーに門を開けてもらったのよ?」


俺は開いた口が塞がらなかった…!


(ジョーの奴!勝手な真似を…っ)


「レオ?どうしたの?怒ってるの?ほんとに元気がないみたいだけど…」


俺の頬に添えようとしたティナの手を掴んで止めるとニッコリ微笑んだ。


「あ、いや…怒ってないよ?君にはね…。 あ、あのさ、今夜は…ダメなんだ…」
「…え?どういうこと?」
「えっと…だから…」


あ~早く帰さないとが来てしまう…
こんなとこ見られたら、また誤解されるよ…っ
只でさえいいかげんだと思われてるって言うのに、あんな大事な告白をして約束をした日に他の女まで家に来てたら…
二度と信じて貰えないし会ってももらえないかもしれない…!


「レオ?私がきちゃ…迷惑だったの?」


ティナが少しイラだったように聞いてきた。
俺はこうなったら正直に好きな人が来ると話そうとティナの顔を見た。


「実は…今から俺の―」


そう言いかけた時、コツっと音がして俺はハっとティナの後ろへと視線をやった。
するとそこには驚いたような顔で立っているの姿―
それには本当に心臓が一瞬で縮んだ気がした。


…!」


は俺とティナを見ると顔を歪めてゆっくり後ずさって行く。
ティナも驚いてを見ているが俺は気にしないで走り出そうとしたの腕を無意識に掴んでいた。


「…っ離してよ!あなたの言う事なんて信じた私がバカだったわ…!」
「違う!…彼女は俺が呼んだんじゃないんだ!!」
「嘘つき!離して…!」
…聞いて?! 俺は君しか好きじゃない!!しか見てないよ!」


俺が真剣にそう言うとの腕の力が少し緩み、驚いた顔で俺を見上げた。
その大きな瞳には涙が浮かんでいる。
そんなの顔を見て胸の中が愛しさでいっぱいになる。
そのままの体を抱き寄せ思い切り抱きしめた。


「俺は…を愛してる…。夕べ言った事に嘘はないよ?信じて欲しいんだ…」


の体は少しだけ震えていて、俺は抱きしめた腕の力を少し緩めるとティナの方を振り返った。
ティナは何だか驚いた顔のままそこで俺を見ている。


「ティナ…ごめん…。俺…彼女が好きなんだ…。本気で…愛してるんだ」 


俺がそう言うと腕の中のの体がビクっと動いた。
ティナは更に瞳を大きく見開いて俺を見たが気持ちが伝わったのか小さく息を吐き出した。


「そう…分かった…。おかしいとは思ってたの…。あれ以来、会ってもくれないし電話も少なくなって…
そっか…。レオもとうとう一人だけの女性を見つけたんだ…」
「ごめん…」
「あら、いいわよ。私だって本気半分,遊び半分だったんだし…そんな本気で告白するレオを見れて得したわ?」


ティナにそう言われて俺は顔が赤くなった。


「私にも…さっきみたいに熱く告白してくれてたら…本気でレオの事を好きになってたかもね?」
「…え?」


その言葉に驚いてティナを見ると、


「ま、この埋め合わせは…今度してもらうわ?ジョニーでも紹介してよ。私、彼のファンなの」
「え…?ジョニー…?それはいいけど…」
「絶対よ?じゃ、大事な彼女と素敵なクリスマスをね?って言っても、あと一時間しかないけど。
メリークリスマス!お二人さん」


ティナは笑いながらそう言うと,門の方へと歩いて行った。
俺は少し呆然としながらその後姿を見ていたが、ハっと我に返りの顔を覗き込む。


…?ほんと…ごめん…俺のマネージャーが勝手に彼女を呼んじゃったんだ…
俺が最近元気がないからって変に気を回したみたいでさ? ―ごめんね?」


俺の言葉には俯いてた顔を上げて,軽く首を振った。


「いい…私も事情も聞かないで…ごめんなさい…」


その言葉を聞いて俺は心の底から安心した。
思い切り息を吐き出すと、「良かった…」 と呟いて、そこで慌てて思い切り抱きしめていたの体を解放する。


「ご、ごめん…。ここで帰られたら絶対にもう会ってもらえないと思ったからつい…」


慌てて弁解するとはちょっと笑って、「今更、こんな事で驚かないよ?」 と言って俺を上目遣いで見上げる。
その顔が可愛くて、もう一度を抱き寄せるとそっと額にキスをした。


「来てくれて…ありがとう…。正直、来てくれないかもしれないって不安だったんだ」
「…え?」
「とにかく中へ入ろう?寒いだろ?」
「あ、うん…」


俺はの肩を抱いて家の中へと入れた。


「あ、座ってて?今、シャンパン持ってくるから」
「え?シャンパン?」
「そ、あと一時間でクリスマス終っちゃうしさ?一緒に乾杯しよう?」
「う、うん」


は照れくさそうに微笑むとソファーに腰をかけた。
それを見届けると、俺はすぐにキッチンに行きシャンパンの栓を抜きグラスを持って戻る。


「はい」
「あ、ありがとう…」


と自分のグラスにシャンパンを注いで持ち上げると「「メリークリスマス」 と言った。
も笑顔で、「メリークリスマス」 と言うとそっとグラスを口に運んでシャンパンを飲んでいる。


「冷たくて美味し…」
「俺、昨日は飲めなかったからさ。今日は飲みたいなって思って…」
「あ…私は凄く飲んじゃったけど…」
「ああ、婚約パーティーだったんだもんな…?」


つい、口からそんな言葉が出た。
だがが少し俯いてしまって俺は慌てて顔を覗き込んだ。


…お腹空いてない?」
「え?あ…ううん…食べてきたし…レオは?撮影だったんでしょう?」
「俺も、現場で食べてきたんだ。トムと」
「ああ、トム・ハンクス?彼の映画も好きでよく見てるの」
「へぇ~そうなんだ!それ言ったらトム喜ぶよ、きっと。に会いたがってたし…」
「…え?!」


俺の言葉にが驚いた。
俺はちょっと笑うと、


「ああ、俺、の事を話してあるから…今日もランチ一緒に行った時に励ましてもらってたんだ」
「ええ?私のこと?でも…励ますって…?」
「だから…さっきも言ったけど…今夜は来てくれないんじゃないかって心配だったからさ…」
「そ、それは…だって約束したし…」


は少し恥ずかしそうに俯いた。
俺は意を決しての方へと座りなおすと「…」 と名前を呼んだ。
はドキっとした顔で俺の方を見る。


「あの…さ…。夕べの事なんだけど…」
「うん…」
の…気持ちハッキリ聞けなかったし…今、もう一度聞かせてくれないか?」


俺の言葉にの顔が赤くなったのが分かり、俺はちょっと顔が綻んだ。
そっとの頬に手を添えると軽く頬にキスをした。
はますます顔を赤くして俯いてしまって、どうしようかと思ったけど、そこは優しく抱きしめる。


…俺は…昨日言った事は全部本当の気持ちだよ…?君を…誰にも渡したくないんだ」
「レオ…私…」


俺はそっと体を離すとの顔を覗き込んで瞳を見つめた。
はすでに真っ赤な顔で瞳が潤んでいる。
あ…と思った時は遅くて大きな涙がポロっとの頬を伝っていった。


「泣かないで…」


俺は胸が痛くなり、唇で涙を掬うと優しく頬を撫でた。
は少し息を吐き出し、「ごめんなさい…」 と呟く。
そんな彼女をもう一度強く抱きしめた。
するとが震える声で「…私も…レオが好き…」 と言った。


「…え?」


その小さく呟かれた言葉にドキっとして俺は体を離しの顔を見た。
は真っ赤な顔で俺を見るともう一度、「レオが…好きよ?」 と言って恥ずかしいのか俺の胸に顔を埋めてしまった。
俺はそのままをギュっと抱きしめた。


「ほんと…?」


俺の問いには答えることなく、かすかにコクンと頷いたのが分かって俺は嬉しさで胸が熱くなった。


「…オ?」
「え?」
「…るしい…」
「あ…ご、ごめん!」


ついの顔を胸に押し付けたまま強く抱きしめていたので、は息が出来なくて苦しくなったようだ。
慌ててを解放すると、は可愛く息を吐き出して俺を見て恥ずかしそうな顔で微笑む。


「あ、あの…凄く嬉しいよ…そう言って貰えて…俺…嫌われてると思ってたから半分諦めてたし…」


俺はちょっと照れくさいけどの手をそっと握るとそう言った。
するとは俺の言葉に目を丸くしてクスクスと笑い出す。


「レオが嫌われるようなことするから…」
「そ、そう?そうだったっけ…」


そう言われてちょっと考えたがやっぱり出会いからして最悪だったし、その後ものペースを乱してたように思えてきて俺は顔が赤くなってきた。


「ごめん…俺、ほんと…自分のノリでの事、振り回してたね…」
「…やっと気付いてくれた?」


は少しイジワルな顔で俺の顔を覗き込んだ。
俺は苦笑しながらの頭を抱き寄せると「もう…しないよ」 と微笑む。
そしてすぐに離すと気になった事を聞いた。


「でも…なら何で…俺のこと好きになってくれたの…?」
「え?!」


はそれには驚いた顔で俺を見た。


「そ、それは…だから…最初の方は…イジワルだったけど最近は…何だか優しかったでしょ?」
「そ、そう?自分では…気付かないけど…」
「それに…前は本当の顔を見せてくれてない気がしてた。どこか…演技してると言うか…
だから私も何となく信用出来なくて…でも最近は本当に素顔のレオを見れる様になって…私も驚いたの」


にそう言われて俺は驚いた。


そんな俺の本心…というか、どこかで演じてるように見えてたなんて言ったのはが初めてだった。
確かに前の俺はそう言う所があったように思う。
女性を好きだと言いながらも心のどこかで信用してなかったと言うか…
そんな事まで気付いてくれたがますます愛しく思える。


「それで…」
「え?」
「レオ…は?」
「え?俺?」
「うん…私なんかの…どこが…」


はそこまで言うと顔を赤くして俯いてしまう。
俺はちょっと笑いながらを抱き寄せて額にキスをした。


「俺がのどこを好きになったか聞きたいの?」
「う…うん…」


俺の少しイジワルな問いにも素直に"うん"と言った彼女が可愛くてもう一度今度は頬にキスをした。


「"私なんか…"って事はないだろ?は素敵な子だよ?」


そう言うとは真っ赤な顔をもっと赤くしてしまった。
俺はクスクス笑いながら、


「だんだんと会う様になってから少しづつ…が気になって来て…俺にポンポン怒鳴るや、
マークと遊んで大きな声で笑ってるを見てると…この子は本当に自分の気持ちに正直に生きてるんだなぁって思った。
俺が今いる世界は逆にそういうのを上手く隠してる人間が多くてさ…
だから…凄く新鮮だったし、驚いたんだ。気取らず自分のその時の感情を素直に出せるが凄く素敵だと思った。
俺には真似出来ないし羨ましいとも思った。それに…」


俺はそこで言葉を切るとの顔を覗き込んだ。
すでに恥ずかしいのか、俺の顔をまともに見てこないが可愛くてチュっと唇に軽くキスをする。


「…ちょっ…レオ…ッ?」
「それに…そんな風にすぐ照れるも可愛くて凄く好きだよ?」


それがトドメだったのかは湯気が出そうなほど真っ赤な顔で俯いてしまって俺は苦笑した。


?顔、あげてよ…」
「や、やだ…」
「何で?の顔が見たいんだ」
「だ、だって…私、今、顔が真っ赤で…恥ずかしいから…」
「いいから見せてよ」


そう言うとの頬を両手で包んで顔を上げさせた。
は目をギュっと瞑ったままで思わず顔が緩んでしまう。


…何で目瞑ってるの?」
「な、何でって…言われても…」


それでもまだ目を瞑ったままのに、「…キスしていい?」 とイジワルな事を言ってしまった。
するとは慌てたように目を開ける。
俺はちょっと吹きだしてしまった。


「ぷっ…アハハハ…っ、可愛いなぁ~…素直だよね?ほんとさ…!」
「も、もぉーー!わざと?!信じられない…っ」


は口を尖らせて怒っているが俺はそれが可愛くて仕方ない。
「ご、ごめん、ごめん!」 と謝りながらの頬にキスをして優しく抱き寄せた。
俺はの体温に安心感を覚えながら、彼女の頭に頬を寄せる。
本当は、どうしても聞きたい事があるのに聞けない…。
婚約したダニーと、これから、どうするのか…結婚してしまうのか…
それを聞くのが怖かった。
もまた聞かれても困るだけかもしれない…。


?」
「…ん?」
「今夜は…。一緒にいてくれる?」
「……え?!」


の驚きように少し悲しくなりそっと体を離した。


「何でそんなに驚くの?俺と一緒にいるの嫌とか?」
「そ、そんなんじゃ…」
「じゃあ、今夜は泊って行ってくれる?」
「そ、それは…あの…」


さっき以上に動揺した顔で視線を泳がせるに思わず微笑んでしまう。
だからと言うわけじゃないけど…またイジワルをしてしまいたくなった。


「俺、が傍にいないと眠れないんだよな…」
「……っ!」
「今夜は…。一緒に寝てほしいんだけど」


俺がそう言うとは驚いた顔で俯いてしまって少しイジワルしすぎたかな?と思った。


「で、でも…私、明日は病院に行かないと…」
「明日休みだから送ってくよ?俺も一緒に病院に行きたいし…マークにも会いたいからさ」
「…え?ほんと?」
「ああ、マーク少しは良くなった?」
「ええ。もう一般病棟に戻ったのよ?毎日、お兄ちゃんとバスケしたいって言ってる」
「そっか~。良かった~!…本当はさ…レイカーズの試合に連れていってやりたいんだけど…無理だもんな…」
「レオ…」


はちょっと悲しげな顔で俺を見たが、ちょっと微笑んで、「やっぱり…優しいね?レオは…」 と言ってくれた。
その言葉に今度は俺が赤くなってしまう。


「…そう?子供は好きなんだ。特に男の子がさ。女の子よりもマセてないしシャイで可愛いだろ?あ、でもマークはマセてるか…」
「アハハ…そうね?でも私も男の子が欲しいなぁ…。そしたら一緒にバスケするの」
「え~?が教えたら、ヘタクソになるよ?」
「ひどい!何よ、その言い方!」


はぷぅっと頬を脹らませて俺を睨んできてちょっと笑ってしまった。


「じゃあ…俺と男の子作って一緒に育てる?俺ならバスケ上手に教えてあげられるし。 ―どう?今夜、作ってみようか?」


つい、いつものジョークのつもりで言った言葉にはボっと音がするくらい顔を赤くした。


「バ、バカ言わないで!私、やっぱり帰る…!」
「え?!おい…ジョークだって…!」


ソファーから立ち上がったに驚いて俺はの腕を掴んだ。


「離してよ!レオのエッチ!スケベ!」
「ちょ、ちょっと、そんな怒るなよ…。ジョークだって!ジョーク!」


俺が慌ててそう言うとはまだ俺を睨んだまま―


「もう…っレオが言うと、ほんとジョークに聞こえない!」


俺はその言葉の方がショックだった…(!)













私はシャワールームから出ると、実家から自分の家に持っていこうと持って来たパジャマに着替えた。
そっと鏡の前に立って自分の顔を見てみる。
シャワーに入ったばかりで頬が赤いけど、他にも少し緊張して顔が赤いんだと分かった。


はぁ…いきなり泊って行ってもいいのかな…。何だか中途半端な関係だし…
レオは何もしないって言ってくれたから、それは信用してるけど…
私が…こうしてる事もダニーを裏切ってるんだと思うと胸が痛くなる。
レオは何も聞いてはこない。
何だか聞きたそうにするけど、何故か違う話に持って行ってる気がする。
本当なら…私の方から言うべきなんじゃないかなと思った。
それでも何て言っていいのかが分からないのだ。
正直、今、どうしたらいいのか自分でも分からなかった。
ダニーとの婚約を解消して、レオと…って思ってもそう簡単に行くハズもない。
すでに親戚中や養父とダニーの病院関係者にだって話してあるようだし結婚式にも招待したと言っていた。
私の知らないところで、どんどん結婚の準備が進んでいると思うと怖くなる。


こんなことになる前に…もっと早くに気付くべきだったのに…


私は溜息をつくとバスルームを出た。
リビングに行くと、レオがいない。
…寝室かな?と思って二階へと上がって行った。


「レオ…?」


薄暗い寝室の中へ静かに入って声をかけてみる。


「あ、?上がったの?」


レオは寝室のベランダで煙草を吸ってる様だった。


「うん…」


ベランダに出てレオの隣へ行くとレオが優しい顔で微笑んだ。
灰皿で煙草を消して夜空を指さし、「ほら、今夜も、あの夜みたいに星が凄いよ?」 と言って私を抱き寄せた。


「わぁ…ほんとだ…。あの夜、マークと三人で屋上で見て以来だ…こんなに星が出てるの…」
「流れ星、落ちないかな…」


そう呟くレオが子供みたいでちょっと笑ってしまった。


「ん?何笑ってるの?」
「だって…レオ、マークと同じレベルなんだもの…」
「うわ…ひどいな…それって子供って言いたいわけ?」


レオは少しスネた顔で私の事を見た。
私は笑いを堪えると、


「そうそう。大きな子供ね?って前にも言った事があったっけ…」
「ああ、言われたよ、確か…。ほら、病院に会いに行ってさ…マークにバスケを教えた後、が俺の汗を拭いてくれて…」
「ああ、そうだった。でも、あの時は子供みたいって言ったんじゃなくて…」
「そうだっけ…。凄く前のような気がする…そんな何ヶ月しか経ってないのに…」


レオは、そう言うと少し夜空を見上げて息を吐き出した。


"もう一度…ここからやり直したい"


この前、マークが寝ていた治療室で言ったレオの言葉が今は凄く胸に突き刺さる気がした。
するとレオが私の手を取り何かを乗せた。


「…え?」
「クリスマスプレゼント…に…似合うかと思ってさ」
「レオ…」


レオは恥ずかしそうに微笑むと、その箱のリボンを解いて箱を開けた。
中から奇麗なネックレスを出すと私の首に腕を回し、それを付けてくれる。


「わぁ…凄く可愛い…」
「気に入ってくれた?」
「ええ…そりゃぁ…。 でも…いいの?こんな高価なもの…」
「もちろん。ほんとは指輪でも送りたかったんだけどね」
「…え?」


その言葉にドキっとしてレオの顔を見ると、彼は少し寂しそうな顔で私を見て、


「うん、やっぱり思った通り、によく似合う…」 


と言って頬にキスをしてくれた。


「あ、ありがとう…」


私は胸が苦しくなって抑えながらもお礼を言った。
レオは嬉しそうに微笑むと、また空へと視線を戻す。
その横顔を見て胸が締め付けられた。
その時…


「あ、!落ちた!ほら、流れ星!」
「え?」


彼が指さす方を見ると一瞬光の線が見えた気がした。
それを見ながら、ふとレオを見ると両手を組んで目を瞑り何かを祈っている。
それを見てちょっと微笑むと私も星に願いを託すように祈りを捧げた。


何も…障害のない二人なら良かったのに…
私はあなたを想って何を祈ろう?
こうして…。一緒にいるだけが精一杯の私は…あなたの為に何を祈ってあげられるんだろう…?


私が祈っていると急に抱き寄せられた。


「…レオ?」


レオは何も答えず、そっと私の頭に唇をつけると私の顔を覗き込んだ。
優しい瞳が揺れていて、その中にかすかに私が映っているのが見える。
今、この瞬間、レオの瞳には私が映ってるんだ…と思うと嬉しくて涙が浮かんできた。
レオはそっと頬にキスをすると優しい笑顔で私の頭を自分の胸に押し付ける。そして―


…俺と一緒に…アトランタに行かない?」 


と呟いた。


「―え?」


驚いて顔を上げるとレオは私の鼻の上にチュっと口づけて微笑んだ。
その感触に恥ずかしくなって顔が赤くなったがレオに言われた事に驚いて思わず聞き返す。


「アトランタ…って…え?」
「今度、撮影に行くって前に話しただろ?」
「うん…」
「もしが良ければ…来ないかなぁって思ったんだけど…無理には誘わないよ」
「レオ…」
「…さ、もう寝ようか。俺は休みだからいいけどは仕事だろ?」
「あ、うん…」


レオは私の手を引いて部屋の中へと戻るとベッドに入って布団を捲リ、自分の隣を手でポンポンと軽く叩いた。
私は何だか凄く恥ずかしくてゆっくりベッドの上に上がると、腕を引っ張られてレオの胸に抱き寄せられる。
レオは額と頬にキスをすると、そっと私を寝かせて手で頬を撫でながら、


「前に…ここで寝たときは、熱出したんだっけ…」 


と言って微笑んだ。


「あ…そう…だったね?」


私もあの日の事を思い出してちょっと笑った。
すると頬を撫でる手がとまってレオが私の瞳を見つめながら、「ずっと…こうして一緒にいられればいいのに…」 と呟いた。


「レオ…?」


私はレオの言葉が痛くて瞳が揺れるのを感じた。
喉の奥が熱い…
レオは悲しそうな顔で私を見ている。


「…明日の夜も…次の日の夜も…こうして一緒に眠りたいよ…」


その時、私の頬に熱い涙が零れて落ちた。
レオはそれを優しく指で拭うと私の瞼にそっと口付ける。


「私も…レオに朝まで、おやすみって言いたい…」


小さな声でそう言えばレオも優しく微笑んで、「それは…ジュリエットのセリフだ…」 と言って頬にチュっとキスをしてくれた。


…俺は…今のままのが好きだよ?誰よりも愛してる…。それを忘れないで…」
「レオ…」


レオはそう言うと私の唇を指でそっとなぞって、そのまま優しくキスをしてくれた。
チュっと唇を啄ばむようなキスを何度もして、レオは私の瞳を見つめながら、もう一度今度は少しだけ強引に唇を塞ぐ。
目を瞑ってレオの腕をキュっと掴めば、少し深く口付けられて胸がドキドキしてきた。
レオは時折そっと唇を離すと愛しそうな目で私を見つめる。
そしてまた優しく私の唇を塞いだ。


私はレオの唇の熱さに涙が零れてきて、このまま二人で消えてしまいたいとさえ思った。


でも現実には無理なこと…
二人でいれる時間が少しでもあれば…それを無駄にはしたくない…


レオの唇を受けながら私は現実の重さに押しつぶされそうになっていた。


…泣かないで…」


レオがそう囁いて私の涙を唇で掬い、また唇にキスをする。
私にもかすかに涙の味が伝わった。
唇を解放され、私が静かに目を開けると今度は額にキスを落としてくれる。
レオに頭を抱き寄せられ優しく撫でられると、私はさっきまでの苦しさが消えていくのを感じて胸が温かくなった。


この腕を放したくない…


そう思いながら私はレオの胸に顔を埋めた――





















「おはよう御座います」


私は制服に着替えてすぐにナースステーションへと行った。


「おはよう」


主任が笑顔で私を見た。
私は決心して思い切って主任の方へと歩いて行く。


「あの…主任…」
「なあに?」
「急で申し訳ないんですけど…明日から10日間ほど休みが欲しいんです」
「え?休み?」
「はい…。ちょっと用事がありまして有給を取れればと…」
「あら、そう…。まあ急だけど…今時期はそんな忙しくもないし人は足りてるからいいわよ?有給なんだし」
「ほんとですか?ありがとう御座います!」
「なあに?婚前旅行でも行くの?」


主任は笑いながら言ったが私は少しドキっとした。


「い、いえ…そういうわけでは…」
「そうなの?じゃあ一人旅かしら…。独身を今から楽しんでおいた方がいいわよ?結婚したら家庭と仕事の両立でしょ?」
「はあ…」
「じゃ、マークの朝のお薬、頼むわね?」
「はい」


私はそう言うとすぐにマークの病室へと向かった。


良かった…!休みが取れた…
夕べ…レオにアトランタに一緒に行かないかと言われて迷ったけど…やっぱり一緒にいたいと思った。
今朝も何だかレオの優しさから離れたくなくて、本当は今日も仕事なんて来たくないと思ってしまって自分でも驚いた。
恋をしたらこんな風になるんだ…
今までの私は何だったんだろうと不思議に思う。
ダニーにも恋をしていたはずなのに…


それでもマークには会いたかった。
急いで病室に入るとマークが笑顔で待っている。


「あ、。おはよう!」
「おはよう、マーク」


私はいつものようにマークの頬にキスをして、「夕べはちゃんと眠れた?」 と聞いた。


「うん。だいぶ体調もよくなったよ?今日も元気さ」
「そう…顔色もいいわね?」


私は笑顔でそう言うとマークの薬を出してコップに水を入れてあげた。


「はい、これ飲んで…」
「うぇ~これ苦いんだよな…」
「でも、ちゃんと飲まないと…お兄ちゃんと遊べないわよ?」
「…え?!何?お兄ちゃん来てるの?!」


途端に嬉しそうな顔で私の服をギュっと掴んでくるマークに窓の方を指さした。
するとマークは急いでベッドから飛び出し窓から顔を出す。


「あ!お兄ちゃん!」


マークが大きな声で呼ぶと庭をプラプラと歩いていたレオが上を見上げた。
そしてマークの顔を見つけると、レオもまた嬉しそうに手を振っている。
レオは私の事も見つけると、ふざけたのか投げキッスをしてきて思わず顔が赤くなってしまった。


「ええ?何で、お兄ちゃん、こんなに早くに来てくれたの?」


マークは顔を輝かせて私に聞いてきた。


「え?そ、それは…」


まさか私を車で送ってくれたとは言えない…
夕べ言ってたとおり、レオは私を病院まで送ってくれた。
そのままマークと遊んでいくと言うので"マークに薬を飲ませたらすぐ行くし先に庭で待ってて"と言ったのだ。


、早く行こう?ほら薬ちょうだい?僕、何でも飲むよ!」


マークはそう言うと私の手からコップを奪い、大嫌いのはずの粉薬を口に入れると一気に水で流しこんで顔をしかめる。


「うぇぇぇ…まずい…っ」 


私はコップを片付けると、「お薬なんだから美味しい訳ないでしょ?美味しい薬があったらおかずにするわ?」 と笑った。


「何言ってるのさ、ったら!それなら僕は3時のオヤツにするよ」 


マークはそう言って笑うと私の手を繋いで、「早く、お兄ちゃんとこに行こう?」 と歩き出した。


「ああ…まだダメ!マークはこれからドクターのとこで診てもらわないと」
「ええ~?もう大丈夫だよぉ~」
「それでもダーメ!すぐ終るから…ほら行くわよ?」
「む~お兄ちゃん帰っちゃったらどうするのさ~」


マークが膨れっ面で私を見上げる。
私は苦笑しながら、「大丈夫よ?お兄ちゃん、今日はお仕事休みらしいから」 というと、すぐ笑顔になる。


「ほんと?じゃあ、今日はずっと遊んでもらえるね?」
「体に負担かけないようにね?それにお兄ちゃんだって疲れちゃうわよ?マークに付き合って遊んでたら」
「は~い…」


マークもそこは素直に頷いてくれる。
私はニッコリ微笑むとマークをフランクの所へと連れて行った。


「失礼します」
「どうぞ?」


その声が聞こえて私は中へマークを入れた。


「やあ、マーク!今朝のご機嫌はいかがかな?」
「やあ、ドクター!快調だよ?だから検査なんてしなくてもいいよ」
「そうはいかない…。ちゃんと検査をして予防をしておかないとね?」
「じゃあ、早く検査して?僕、早くお兄ちゃんと遊びたいんだ」
「お兄ちゃん?ああ、レオナルドの事かい? ――彼、来てるの?」


フランクは私の方へと聞いてきた。


「はい。今日は休みだとかで…」
「そうか…。休みに、わざわざ来てくれるなんて優しいお兄ちゃんだな。な?マーク」
「うん!僕、大好きなんだ」


フランクはその言葉に笑いながらも私を見ると、「それとも…他にも目的があるのかな?」 と言って笑った。
私はドキっとするも、「な、何を言ってるんですか…」 と言って顔を背ける。
フランクは苦笑しながらマークの体を見ていって検査は20分ほどで終った。


「ふむ…まあ、詳しく検査して見ない事には分からないが…今のとこは発作が起きなければ安定してるし大丈夫だろう」


フランクに、そう言われてマークも嬉しそうだ。


「じゃ、もう遊びに行って来ていいよ?」
「ほんと?ありがとう、ドクター! ―、行こう?」
「ええ。じゃ、ドクター…」
「ああ、彼に宜しく」
「は、はあ…」


フランクにニヤっと笑われ私は慌ててマークの手を繋ぎ廊下へと出た。


やだ…この前、抱きしめられてるのを見られてから変に勘違いされたんだわ…
って、もう勘違いでもないか…


そう自分で気付いて苦笑した。
すぐに庭へと行くとレオが気持ちよさそうに芝生に寝転がって目を瞑っていた。


「お兄ちゃん!」


マークは、そう言いながら、レオのところまで走って行く。


「ちょっと、マーク!あまり急に走っちゃダメだったら!」


私の声が届いたのかどうかも分からないがマークは寝転がってるレオに抱きついてレオが潰されてるのが見える。
それには私もい切り吹きだしてしまった。
レオが苦しそうにお腹を擦りながら体を起こしている。
それでも笑顔でマークの頭を撫でて私の方へ手招きした。
私も笑顔で歩いて行こうとした時、後ろからキャシーが呼びに来た。


…!電話よ?」
「え?」


私は足を止めて、振り返る。


「愛しのダニ―から!」


キャシーにそう言われてドキっとした。


「そ、そう…ありがとう…」
「あら?レオ、久々に来たわね?」
「え?ああ、うん…」
「彼に任せて電話に出てきたら?」
「そ、そうね…。じゃ、ちょっと言ってくる」


私は急に足取りが重くなりながらレオとマークの方へと歩いて行った。


「あ、あの…ちょっと二人で遊んでて?私…電話に出てくるから…」


私の言葉に、レオの顔が一瞬だけ曇ったが、すぐに笑顔を見せると、


「OK。じゃ、マークとバスケでもするか」 



と言ってマークの頭を軽く撫でた。


「うん、僕、ドリブルシュート、少し上達したんだよ?」
「ほんとか~?じゃ、見せてよ」


レオがそう言うとマークが、私がカバンに入れて持ってきていたボールを出し始めた。
その時、レオは私の方をチラっと見て、急に私の腕を引っ張ると素早く唇にキスをして私は顔が真っ赤になる。


「ちょ、ちょっと…もし見られたら、どうするの…?」
「いいんだ・…俺は別に誰にバレたって構わないよ?」
「レオ・…」


私は、レオの、その言葉に胸がズキンと痛んだ。

「お兄ちゃん。早く!」

マークがボールを出して顔を上げた。


「ああ、分かった」 


レオは笑顔でマークの方へと歩いて行きながら、私の方を振り返り、 「早く戻って来てね?」 と言って微笑んだ。

私もちょっと微笑むも胸が痛いまま、病院の方へと戻って行った。












「Hello?」
『あ、?』
「ええ。どうしたの?」
『いや夕べから君の携帯に電話してたんだけど繋がらなくてさ』


そう言われてドキっとした。


「あ、ご、ごめんなさい…。電池切れちゃって…知らないでそのままだったの…今朝気付いて・…」
『家にも電話したんだよ?どこか行ってたの?夕べ実家から戻ったんだろ?』
「あ、あの…実家から戻って少し具合が悪かったから家の電話も音を切ってて…」
『ええ?大丈夫かい?』
「も、もう大丈夫…。それより何か用事?」
『ああ、それがさ…。俺、明日から二週間、カナダに行かないといけなくなったんだ』
「え?カナダ?」
『うん。脳外科でも有名なドクターがいてさ。その人の講演を聞きに行って、あと病院で手術を見せて貰える事になってさ』
「そう…凄いのね?」
『そうなんだ!彼から学べるなんて脳外科のドクターなら拝んででも学びたいって奴ばかりなんだよ。
今回、それに俺が選ばれてね?君の養父さんと一緒に行く事になったんだ』
「え?養父さんも?」
『ああ、だってショーンが俺を推薦してくれたんだよ、そのドクターに!未来の息子を宜しくってさ!感激だよね?』
「そ、そう…」


ダニーの、その言葉に胸が軋んだ。


?』
「え?ああ・…聞いてるわ?」
『だから…結婚の準備とか…ちょっと遅くなりそうなんだけど…一人でも大丈夫かな?』
「え、ええ…大丈夫よ…?」
『ドレスとか一緒に選んであげられないけど…。の好きなドレスにしてくれて構わないからさ?』
「うん…そう…する」
『・……ほんと具合悪そうだね?大丈夫かい?辛いなら早退させてもらえばいいよ』
「そんな大丈夫よ…」
『そう?あ、それでさ、今夜、の家に行くよ』
「え…?!今夜?」
『ああ、ダメかい?』
「い、いえ…そういうわけじゃ…」
『明日から二週間、に会えないから顔を見ていきたいだけなんだけど…すぐ帰るよ。俺も明日は早いし…』
「う、うん…分かった…」
『じゃあ、夜に…』
「ええ…」


そこで電話を切った。


今夜…ダニーと顔を合わせるのが辛いなぁ…
でも…ダニーも明日からロスを離れるんだ…
なら別に言い訳を考えなくても…大丈夫か。
あ、でも、また電話してきて出なかったら変に思うわね…
なるべくアトランタでは出るようにしよう…

私はそんな事を考えながら庭の方へと戻って行った――







レオとマークが楽しそうにボールで遊んでいるのが見える。
私はレオの笑顔を見てホっとするのを感じていた。


「あ、!」


マークが笑顔で私に抱きついてきた。


「どう?少しはシュート上手くなった?」
「それがドリブルシュートは上手く行くんだけどレイアップが上手く行かないんだ」
「ええ?それは、また変わってるわね?」


私がそう言いながら笑うとレオも笑いながら、


「ほんとだよな?普通はドリブルシュートの方が出来ない子が多いのにさ」 


とマークの頭にポンと手を乗せる。


「そうなの?じゃあ、何で僕はできるんだろう…」


マークは首を傾げてもう一度ボールを持つと一人で練習し始めた。
私はそれを見ながらベンチへと座るとレオも隣へと座り、私の肩をそっと抱き寄せた。


「レオ…子供の親とかに見られるわ…?」


私がそう言うとレオは少し悲しげな顔で腕を離し、代わりに手をギュっと握ってきてドキっとした。


「これなら見えないだろ?」
「う、うん…」


何だか隠れて手を繋いでるという事にドキドキしてくる。


「あのさ…今夜、一緒に食事にでも行かない?」
「え?」


不意にそう言われて驚いた。


「一緒に、どこかで食事したいんだ。何なら俺、変装しようか?」


レオが笑いながら言うので、私も思わず吹きだしてしまった。


「レオの変装ってすぐバレそうだもん」
「あ~そういうこと言っちゃう?あ、じゃあ、カモフラージュにトビーか誰か誘おうか」
「ええ?そんな…来てくれないわよ」


私がクスクス笑いながらレオを見ると、


「いや…トビーもに会いたがってるし…俺も友達とかに招介したいんだ」
「え…?」


そう言われてドキっとしてレオを見た。
レオは優しい瞳で私を見つめていて思わず照れくさくて俯いてしまう。
そのレオの気持ちが凄く嬉しかった。
なのに…


「あ、あの…今夜は…ダメなの…」
「え?どうして?」
「それが……」
「……ダニー?」


レオの悲しそうな声に思わず顔を上げると彼は少し俯いて息を吐き出した。


「分かった…。じゃ、また今度…」
「あ、あの…」
「…ん?」
「私…明日から…10日間、休みを取ったの…」
「休み…?明日…から?」
「ええ…それで…あの夕べ言ってた…アトランタ…。一緒に行けたら…と思って…」


何とかそこまで言うと思ったより緊張してしまって手に汗をかいてしまった。
それでも恐る恐るレオの顔を見てみると、レオは驚いた顔のまま固まっていた(!)


「レオ…?あの…」


そう言いかけた時、レオにいきなり抱きしめられて驚いた。


「キャ…っレ、レオ…?!」
「ほんとに一緒に行ってくれるの?!」
「え、ええ…あの…レオがいいなら…」
「当たり前だろ?嬉しいよ!」


レオはそう言うと体を離して私の頬にチュっとキスをした。


「ちょ…レオ…っ見られるったら…」
「ごめん!だって嬉しくてさ…。ダメだと諦めてたんだ」


レオは本当に嬉しそうな顔で私を見つめていて私は真っ直ぐにレオの顔を見ることが出来ない。


こんなに喜んでくれるなんて思わなかった…
それなのに私は今夜、ダニーと会う…
私は二人を裏切ってるんだ…


?どうしたの?暗い顔して!いつもの笑顔見せて?」
「う、うん…」


レオはニコニコと私の顔を見ながらそう言った。
そこにマークが走って来る。


「な~に二人して見つめ合ってるの?」
「え?!」
「な、別に見つめ合ってなんか…」
「え~ジーっと見つめ合ってただろ~?」


マークはニヤニヤしながら私とレオを交互に見る。
レオも何だか少し顔を赤くしてマークの頭を撫でると、


「そ、それよりレイアップの練習するぞ、ほら」 


と言ってベンチから立ち上がった。


私は仲良く歩いて行く二人を見ながら息を吐き出すと、そっと青空を見上げた。




この時の私は…ハッキリとレオを愛していると感じていた――

















「お疲れ様…」


私がそう言うとだダニーが車から降りてきて私を抱きしめた。
その腕の強さに一瞬、苦しくなる。


今は夜の9時を回った頃。
今日は早番だったので夕方には帰って来るはずがさっきまでレオと一緒にいた。
少しお茶を飲むはずが何だか体が動かなくて、もう少し…もう少し…と時間を引き延ばしてしまったのだ。
それでも8時になるとレオは黙って送ってくれた。

"今夜はトビーと飲みに行って帰った後は一人寂しく寝るよ" と帰り際、おどけたように言っていた。

私はその言葉でさえ後ろ髪を引かれる思いだった。
本当なら…レオに友達を招介してもらいたいし、今夜も一緒に寄り添って眠りたい…
でも…


?どうした?ほんと少し具合悪そうだね…大丈夫?」
「え、ええ…寝れば…治るわ?」
「そう?なら、いいけど…俺、明日からいないし心配だよ…少し実家に戻ってたら?」
「あ、うん…でも…私も大学の時の友達と旅行に行くかもしれないし…」
「え?旅行?」
「ええ…あの…ダメ?」
「いや…そっか、も独身最後の旅行とか行きたいんだ」


ダニーは、そう言って笑った。
私は胸が痛むのを堪えて彼に笑顔を見せた。


「そ、そうなの…。だから…何か用事があれば…携帯に電話してくれる?」
「OK。分かった。でも…なら体調も治しておけよ?旅先で倒れたら大変だからな?」
「うん…分かってる…」
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。明日は朝一番の便で発つんだ」
「そう…頑張ってね?」
「うん、との結婚生活の為にも腕を磨いて戻ってくるよ?」


ダニーはそう言って笑うと私の顎をそっと持ち上げてキスをしてきた。
私はレオとは違う唇の感触に胸が苦しくなる。


やだ…違う…
もう…彼じゃないって心が言ってる…
唇が違う…匂いが違う…私を抱く腕が違う…


なのに振りほどく事が出来ない…
私は心の叫びに気付かないフリをしてダニーの腕の中でギュっと目を瞑った――

















「今日は飲むねぇ~レオ!」


相変わらずの能天気さでトビーが俺の肩を叩いた。


「痛いよ…ほんと…」
「何だよ?暗いなぁ~!愛しのちゃんもお前を好きになってくれたんだろ?良かったじゃないか!」
「そうだけどさ…」
「さっきジョニーも俺に電話してきたよ?"本当か?!"ってさ~。俺もまだ知らなかったし驚いたけどね?」
「ジョニーから?ああ…トムがしゃべったな…。ったく、おしゃべりめ…」


俺は苦笑しながらウイスキーのロックを一気に呷った。
カランと氷が小気味いい音を立てる。
それを見てバーテンがまた同じ物を出してくれた。


「おい…飲みすぎじゃない?祝い酒でもしようっての?」
「はあ?何、アホな事を…」
「む…アホって言うな、アホって!それより…せっかく両思いになったならどうしてちゃんを連れてこないんだよ?」
俺、会ってみたいな~!レオを本気にさせたちゃんに!」


トビーはニコニコしながらそう言うとバーボンのロックをお代わりしている。


「お前…馴れ馴れしく、ちゃんって連呼するなよ」
「うーわ。もう恋人ぶっちゃって~!レオったら可愛いね?」
「うるさいよ!」


俺は顔が赤くなってトビーの頬をパチンと軽く殴った(!)


「ぃたっ!ひどいなーー何も平手しなくても…!あ…ちゃんのが移った?」


バカな顔をして俺を指さしたトビーの頭を今度は思い切りグーで殴る。


ゴン!


「ぃだ…っ!」


トビーは頭を抑えてうめいている。
それを見てバーテンが噴出しそうになるのを堪えていた。


「ぃたいな!もう~何ですぐ暴力で訴えようとするんだ!レオもジョニーも!」


トビーは口を尖らせて怒っている。


「俺はジョニーに鍛えられたからね?お前も鍛えてもらえよ」
「全く…どういう先輩、後輩なんだか…」


とトビーはブツブツ言うも、「で?何でそんな機嫌が悪いのさ?もう振られたの?ちゃんに」 と俺の方を見た。

その言葉に無償にカチンと来て今度はジロっと睨むとトビーが怯えたような顔で俺から離れる。


「な…マジで?図星?」
「違うよ!今夜はダメだって言われただけ!さっきまで一緒だったんだけどさ…夜は…婚約者が家に来るらしいんだ」


イライラしながらそう言うと、トビーはアホの子のように口を開けている。


「ええ?!嘘だろ?何で?別れたんじゃないの?婚約者と!」
「シィ!バカ、声が大きいよ!」


俺は慌ててトビーの口を塞ぐ。


「あまり大きな声で話すなって…OK?」


そう聞くとトビ―もうんうんと頷くので手を離してやった。


「ぷはぁ…ごめん、だ、だってさ…まさか…まだ別れてないなんて…あ、今夜、別れ話してるとか?」


トビーの言葉に俺は溜息をつくと、 「さあね…。分からない…」 と呟いた。


「レオ…何だか…辛そうだね?」
「好きな女が、別の男…しかも婚約者と会ってるってのに楽しそうな顔してたらバカみたいだろ?」
「そ、そうだけど…さ…。そんなレオ、初めて見たよ?そんなに好きなの?ちゃんのこと…」


トビーにそう聞かれて俺はドキっとした。


「ああ…好きだよ?誰にも渡したくないし、触れさせたくない。
今だって婚約者と一緒だと思うと気が狂いそうなくらい嫉妬の感情が溢れてきてるよ…」


俺がそう言うと何故かトビーが顔を赤くしている。


「何でお前が顔を赤くするんだよ…気持ち悪いな…」
「あ、いや…だって…さ…。そんなレオが…ええ?嘘だろ?そんなに彼女が好きなんだ…驚いた…。
つか、聞いてて俺が照れたよ!まったくさ!」


と、トビ―が苦笑して言った。
俺もそんなトビーを見てちょっと笑うと、 「俺だって…驚いてるよ…」 と呟いて、ウイスキーを一口飲んだ。


「レオ…」


トビーは、ちょっと悲しそうな顔で俺を見て、 「まさか…彼女は結婚なんて…しないだろ?」 と聞いてくる。


「さあ…それは、どうかな?もしかしたら…するのかもな」
「ええ?だ、だってさ?彼女もレオが好きなんだろ?何で…」
「もう…婚約破棄出来ない状況って事もあるだろ?この前、婚約披露パーティーしてたみたいだし…」
「だからって好きでもない男と結婚なんて今時さぁ…っ」
「もしかしたら…向こうの事も…好きなのかもしれないな…」
「そんな…」


俺は自分で言った言葉にズキンと胸が痛むのを感じた。


心のどこかで…不安に思ってたことだ。


俺は煙草に火をつけて、思い切り煙を吐き出した―












「あ~飲み過ぎた…明日も休みで良かったよ…」


俺は独り言を言いながら玄関に向かって歩いて行った。
静かにドアを開けてすぐに寝室へ向かうと電気も付けないまま服を脱いだ。


このまま寝ちゃおうか…
でもシャワーに入ってスッキリしたい。


俺はそのままバスルームへと入って行って思い切り熱いシャワーを浴びた。
顔からシャワーを浴びて顔に流れてくるお湯も拭かないまま下を向いて溜息をつく。


…今、あいつと一緒なのか?
そう思うだけで胸を焼け付くような痛みが襲う。
嫉妬の痛みだと、すぐに分かる。
を好きになってから、何度となく襲ってくる痛みだった。


俺は顔を上げて両手で顔を拭うとと素早く髪と体を洗った。
少しアルコールが抜けたような気がしてシャワーを止めてすぐに出る。
バスローブを羽織っただけのまま、部屋へと戻ると、そのままベッドへと倒れこんだ。


「はぁ…」


思い切り息を吐き出し、寝返りを打った時、手に何かが触れて、ビクっとなる。


…な、何だ?今の…

俺は恐る恐る体を起こし、ベッドの方へ振り向いてみた。


「・……?」


思ったより大きな声を出してしまって慌てて手で口を抑えた。
俺は目の前の彼女が幻なんじゃないかと目をこすった。


これは…夢?それとも俺はそんなに酔ってるのだろうか…?


ベッドの上にはが安心したようにスヤスヤと眠っていた…。


静かに這って近づき、ベッドのスプリングがギシっと鳴る音にでさえ気を使うもそぉ~との顔を覗き込んでみる。
可愛い口元からスースーと小さな寝息が聞こえて来て思わず笑顔になる。


本物のだ…
俺に…会いに来てくれた…


そう思うとが愛しくて堪らなくなる。


…」


そっと名前を呼んでみる。
するとの顔がかすかに動き、唇がうっすらと開いたのを見て思わず優しく口づけた。


「…ん…」


の瞼がピクっと動いたのを見て、俺はそっと頬を撫でたまま口づけを深くしていくと、の目がゆっくりと開いた。


「ん…んん…?」


驚いた声が俺の口の中に消えていく。
それでもかすかにが俺の胸に手をあて軽く押したのを合図に俺はそっと唇を離した。


「…レ…オ…?」
「ただいま、…。ほんと君はびっくり箱みたいな子だね?」


そう言って笑うともだんだん意識が戻って来たのか、


「あ、ご、ごめんなさい…あれ?私…寝ちゃったんだ…」


俺は慌てているが可愛くてちょっと笑うと、 「何?俺のこと待っててくれたの?」 と聞いた。


「あ、あの…う、うん…」


は顔を赤くしながら体を起こすとポケットから鍵を出し、 「これで…入っちゃった…」 と言ってペロっと舌を出した。


「ああ、構わないよ?そういうつもりであげたモノだから。でも…嬉しかった…今夜は、もう会えないかと思ってたし、それに…」


―婚約者と過ごしてるのかと思ったから…


それは言葉に出せなかった。
だが、それを察したのか、は慌てて、


「わ、私…ダニーとはそういう関係じゃないから…レオ、この前、誤解してたから言うけど…」
「え?」
「あ、あれは…されそうになっただけで…してないから、ほんとに…っ」


顔を真っ赤にしてそう言うが本当に可愛くて愛しくて、俺はちょっと吹きだしてしまった。


「な、何で笑うの?!」


は少し頬を脹らませて俺を睨んだ。


「ごめん…嬉しいのと…が可愛いのとで何だかおかしくなっちゃってさ?」


俺の言葉にはキョトンとした顔で俺を見た。
俺はを抱きしめようと体を動かした時、バスローブの前を絞めていなかったためハラリと前がはだけて、が叫んだ。


「キャ…!レ、レオ…!ちゃんと着てよ…っ」
「え?ああ…ご、ごめん!」


につられてか、俺まで恥ずかしくなって慌てて前を直してを見た。
は真っ赤な顔で横を向いたまま。


?こっち来てよ…」


俺がそう言うとは真っ赤な顔のまま少し上目遣いで俺を見た。


「あ、あの…」
「いいから、ほら」


俺が両手を伸ばすとはそっと這ってきて俺の腕の中にポスンと納まった。
そのままギュっと抱きしめるとの体温を感じて胸が熱くなる。


「…会いたかった…」
「さっきまで会ってたじゃない…」
「そうだけど…」


俺はそっと体を離すと、「今夜も一緒に寝てくれるの?」 と聞いた。

は少し恥ずかしそうに視線を泳がすもコクンと頷いてくれる。
俺はちょっと笑顔になると、 「明日は?」 と聞いた。


「え?」
「明日の夜も一緒に寝てくれる?」
「う、うん…明日は…もう休みに入るし…」
「そっか、じゃあ、明後日も明々後日も一緒だね?場所はアトランタだけど…」


そう言うとは嬉しそうに微笑んでかすかに頷いたのが分かった。
それが嬉しくての顔を覗き込むと 「キスしたい…」 と言った。

俺の言葉には顔が一瞬で赤くなり俯いてしまう。


?…キスしていい…?」


俯いたをの顔を更に覗き込んで聞いてみた。
するとは俯いたまま、 「…そ、そんなこと聞かないで…っ」 と言った。

そんな彼女が可愛くてそっと顎を持つと顔を上に向けた。
すでに顔が真っ赤で瞳が奇麗に揺れていた。

俺はちょっと微笑むとの額と頬に軽く唇をつけて最後に唇に優しく口付ける。
がキュっと俺の服を掴んできたから思い切り背中に腕を回して抱きよせ、静かにベッドへと横たわらせた。
少しづつキスを深くしていくと、の体がピクっと動いたが俺は求めるようにキスを続けた。


「ん…レ…オ…」


かすかに唇が離れたときに、の小さな声が聞こえてくる。
その言葉を全て塞ぐように何度も唇を重ねた。

細くて白い首筋に唇を移動してゆっくりのシャツのボタンを外していく。


「ん…レオ…?あ…あの…」
「…怖い…?」


の瞳を見つめて聞くとは恥ずかしそうに首を振った。


「こ、怖いのも…あるけど…そう…じゃなくて…私…まだ彼と別れてな―」


その言葉を聞きたくなくて、もう一度唇に深く口付けた。


「んン…ッ」


が驚いたような声をあげたが、それも甘い響きへと変わリ、そのまま優しく口内を愛撫してから頬、耳へと唇を落としていく。


「愛してるよ……」





今、心の中で溢れている想いを口にしながら俺はの体温を感じて彼女の肌に溺れていった――












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ACT.11...媚薬>>


レオ~~あなたは、とうとう~(笑)
あまりエロイと苦情がきそうなので(笑)自粛します、アッハッハ!
爽やかな××…を想像ください…(え?)(笑)
と言うか、今回ちょいと長めになったかも…
そして辛い展開に…(汗)
ああ…どうなるのかしら…


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


C-MOON...管理人:HANAZO