Catch me if you can.......~A
real love ?... or... fake love?...~
いっそ 抱きしめて 抱きしめて 離さないよ
このまま 傍に いて欲しい
何も 問わずに…
いっそ 最後まで 最後まで 信じられる 力を 僕に下さい
例えそれが 偽りでも…
朝の光に 君が消えてしまいそうで
僕は また眠ったフリをした…
ACT.15...愛し、君へ…
出逢った頃の君は…本当に素直で純粋で…俺には眩しかった。
そして気付けば普段の自分も演じるようになってた俺に…
本当の自分で人を愛するって気持ちを…こんなに深い想いを教えてくれた。
それが…本当に嬉しかったんだ―
目覚めて隣で眠る愛しい温もりをそっと抱き寄せた。
スースーと小さく寝息を立ててる彼女が本当に心の底から愛しくて、自分の中にこれほどの愛情があったんだと驚かされる。
なのに…
もうすぐ、この温もりを手放さなければならない。
それを思うと、ふと心が寒くなる。
俺は眠っているの額にそっと口付けた。
その時、俺の携帯が震えだした。
サイドテーブルの上に置いてありバイブ機能にしたまま。
ガタガタと揺れる音にを起こしてしまったら…と顔を顰める。
俺はすぐを離し、携帯へと手を伸ばした。
ディスプレイを確認し、ちょっと溜息をつくと急いで寝室を出て行く。
寝室のドアを閉めて廊下に出ると俺は通話ボタンを押した。
「Hello...ジョー?何だよ…」
『あ、レ、レオか?!』
昨日別れたばかりのジョーからで俺は機嫌が悪かった。
だがジョーは何やら慌てた様子だ。
「何?どうかした?」
『そ、それが…や、やられた!』
「は?やられたって…何が?」
『雑誌だよ、雑誌!!』
「雑誌…?何の…?」
俺は突然の電話と興奮気味のジョーに寝起きの頭がついていかない。
だが次のジョーの言葉で一気に目が覚めた。
『だから!お、お前とちゃんの事が雑誌に載っちまったんだよ!!』
「え…っ?!嘘だろ?」
ジョーだってこんな性質の悪い嘘の為に電話などかけてこないだろう。
それは分かってるのに、つい口から出ていた。
それでもジョーは気にも止めずに、
『お前、家の前、確認してみろ!パパラッチやら記者やらがいるだろう?!』
「ちょ、ちょっと待って…」
俺は未だ信じられない気持ちはあったが急いでリビングまで行くとそっとカーテンを捲って外を見てみた。
ここからだと門の方がよく見えないが数人の人影がチラっと動くのが見えた。
「ああ…多分…いるな…。よく見えないけど…」
『そうだろう?!くそぅ…っ。あいつら、いつの間に…。と、とにかく今から俺そっちに行くから!ちゃん、まだいるんだろう?』
「え?あ、ああ…」
『そこから何とか見付からないように帰してあげないと大変だっ。今行くからな?』
ジョーは動揺した口調でそう言うと電話が切れる。
俺は電話が切れても、まだ暫くその場から動けなかった―
「え?!嘘…」
俺がを起こし、事情を説明すると、の顔から血の気が引いた。
「…それが本当らしいんだ。今からジョーが来るけど…。何て書いてあるかは聞いてない」
「そんな…」
は呆然とした顔で視線を彷徨わせた。
俺は胸が痛くなって思い切りを抱きしめる。
「…もう…こうなったら本当のこと話そう?」
「…え?」
の体がビクっとなったのを感じ、俺は少し体を離すとの顔を覗き込んだ。
「もう…隠すこともなくなった。このままダニーにバレるのも時間の問題だろ?
マスコミにもバレちゃったし…こうなったら俺も本当の事を話すし…。もダニーと話し合って…婚約解消してきてよ…
それで大丈夫だろ?怖がるものなんて何もなくなったんだからさ?」
そう言うとは悲しそうな顔で、「でも…レオが悪者になっちゃう…」と呟き涙が一粒、頬を零れていった。
俺はその涙を唇で掬うと、ちょっと微笑んだ。
「いいんだ。俺は元々バレたっていいって思ってたし…。心配なのは…だって悪く書かれてしまうかもしれないって事だけだよ?」
「レオ…そんな私はそんなのいい…」
「よくないよ…。は何も悪くない。俺が強引にを口説いたんだからさ?」
「レオ…」
俺が少しおどけた口調でそう言うとはますます悲しそうな顔をした。
「そんな顔しないで…?には笑顔でいて欲しい…」
俺はそう言っての頬に口付けた。
「バレたものは仕方ないだろ?だから俺も本当のこと話してスッキリする。もちろん結婚するつもりだとも話すよ」
「ま、待って?レオ…でも私はまだダニーに何も話してない…。それに両親にも…。皆に話すまで…マスコミには何も言わないで…?」
が必死に俺の腕を掴んで言った。
俺は笑顔を見せて、の額にそっと口付ける。
「もちろん、そのつもり!ものには順序ってものがあるからね?が皆に話して理解して貰ったらその時に話すよ。
それまでノーコメントで通すから心配しないでいい」
俺がそう言うとは、ちょっとだけ微笑んでくれた。
それでも少し強ばってるのが分かる。
それも当然だろう…
はマスコミに追われる事すら慣れていない。
しかも今回はデリケートな問題だ。
まだ婚約者のダニーに何も話していない時点で俺との事がバレれば、
それこそ俺との結婚も両親に許して貰えないんじゃないかと心配するのもあるだろうし…
一番の問題は、そのダニーだ。
自分が振られる事を本人からではなくマスコミから知ってしまうんだから…
実名こそは出さないだろうけど彼ならすぐに気付くだろう…。
僕の相手が…だって事に…
そんな事を思いながら不安げにしているを、そっと抱きしめた。
「…そんな顔しないで…?大丈夫だから…
「レオ…私…怖い…。このまま…会えなくなったら…」
そう言うに俺は軽く口付けると首を振った。
「違う…それは逆だよ、…。もともと半年は会えなくなる予定だったのが、もうそんな事は気にしなくて良くなったんだ…」
「でも…両親…養父はきっと凄く怒るわ…?ダニーは養父の部下だし…」
「そんな…だって父親だろ?ならの気持ちを尊重してくれるんじゃ…」
俺がそう言うとは軽く首を振って、
「違うの…。ショーン…養父は義理の父なの…。母が再婚して…。だから…」
「そう…だったの?」
「うん…でも凄く良い人で、私のこと本当の娘のように思ってくれてて…。だからこそ裏切ったような気持ちになっちゃう…」
は悲しそうに、そう言って俺の腕にしがみついた。
「きっと…分かってくれるよ…」
俺はそう言いながらの頭を撫でた。
すると玄関の方でドアの開く音が聞こえ、その後にジョーの声が聞こえた。
「おい、レオ!下りて来い!」
「ああ、今行くよ!」
返事をしての方を見ると、また少し顔色が悪くなっている。
彼女の頬にキスをすると、「、着替えて下りておいで?」と言って最後に唇に軽く口付けた。
も少しだけ笑顔を見せて頷いたから、俺は立ち上がってリビングに下りて行った。
リビングへ行くとジョーがオモチャの電車のように同じ場所をぐるぐると歩き回っている。
俺は苦笑しながら中へと入って行った。
「あ、レ、レオ…!」
「少しは落ち着けよ…」
俺はそう言ってソファーに座ると煙草に火をつけた。
「そんな落ち着いていられるかっ。これ見ろよ」
ジョーはそう言って俺の目の前のテーブルに一冊の雑誌をバサっと放り投げた。
俺はそれを手に取って一ページ目を捲ってみる。
そこには俺と、そしてキャシーとジョニーが一緒にいるところが映っている。
「何だ、これ?バイパールーム行った時のだ」
「何を呑気に…」
「呑気にって…これ付き合う前のだよ?」
「その次のページのも見てみろ」
「え?次の…?」
俺は言われた通り次のページも捲ってみた。
するとそこにはアトランタ空港での撮影風景が映っていて俺がと手を繋いで歩いている写真が載っていた。
「へぇ~あの時もパパラッチいたんだ!凄いな?でもこの可愛く撮れてるよ。これ貰おうかな?」
笑いながらそう言うとジョーが真っ赤な顔で怒り出した。
「んな、な、何を呑気に笑ってるんだ!あれほど外でイチャつくなと言ったのに…っ」
「ちょ、ちょっと待ってよ…。この時はまだ言われてないって」
「ぐ…っ。と、とにかく!記事を読め、記事を!」
「はい、はい…。そんな怒鳴ると血圧上がるぞ?」
俺が苦笑しながら雑誌に視線を移すとジョーはいつもの台詞を叫んだ。
「だ、誰が上がらせてるんだ、誰がぁぁ!!」
「ああ…俺だろ?」
「…ふぐぐ…っっ!!」
俺も懲りずにいつもの様に返せば、ジョーも真っ赤な顔をますます赤くして(大丈夫かと心配になる)俺を睨んでいる。
そんなものは気にせずに雑誌に書かれている記事を読んだ。
雑誌にはこう書いてあった。
『レオナルド・ディカプリオ、美人看護婦を婚約者から略奪愛?!』
というベタなタイトルで始まっている、その記事の内容は…
"レオナルドが撮影中、ちょっとした怪我で運ばれた病院先でその看護婦と出会った。
そのまま担当になった看護婦を口説き、彼女に婚約者がいるにも関わらず交際を始めて、
どこに行くにも彼女を同伴させる溺愛ぶりはスタッフからも驚きの声があがっている。
友人のジョニーデップ等にもすでに招介済み。今では二人は半同棲をしているらしい…"
というような、まあ所謂でっち上げに似た記事だった。
「ふん、何だよ、これ?俺とが出会ってすぐに交際スタートさせたって?冗談じゃないって。
どれだけ振られたと思ってんだよ…。振られた回数と殴られた回数も書いとけってっ!ったく好き勝手書きやがって…。
まあ、どこに行くにも連れてく溺愛ぶり…ってのと、美人看護婦ってとこは合ってるけどさ?
あ、でもは美人と言うよりは可愛い感じだよな?日本人形みたいなさ?キュートって言うの?なぁジョー、そう思わな―」
「ア、アホかぁぁ、お前はぁぁ!!」
突然、ジョーが糸の切れた"からくり人形"(!)みたいにジタバタと暴れ出し、俺はビックリしてしまった。
「ど、どうしたの?大丈夫か?ジョー…精神安定剤でも―」
「う、うるさい!俺は安定してる!お前の方がおかしいだろ?呑気にも程がある!逆に精神興奮剤でも飲め!」
「何でわざわざ興奮しないといけないんだよ…。それと…ジョー、そんな怒鳴るなよ…。唾が飛んで来るんだよ、汚いなぁ…」
俺は顔にジョーの唾がぺっぺと飛んで来て思わず顔をしかめた。
「ぬっ。唾くらい我慢しろ!このマネージャー不幸者!!」
「…勝手に言葉作るなよ…。何だよ、それ…。 ―あ、っ」
ジョーの相手にウンザリしてた俺は恐々とリビングに入って来たを思い切り抱きしめた。
「わ…っ。ちょっとレオ…っ」
「会いたかったよ」
俺はそう言っての頬にチュっと口付けると途端にその頬が赤みを増してくる。
その時、後ろから汚い怒鳴り声が聞こえてきた。
「会いたかったってずっと一緒にいたんだろ!アホか!つぅかレオ…お前も真面目に考えろ…っ」
「わ~かってるよ!うるさいなぁ…。 ―、ジョーを結婚式に呼ぶのはやめよう?式終るまでピーチクパーチク話してるよ、きっと」
「レ、レオ…っ。そんなこと言って…っ」
を連れてソファーに座ると彼女は困った顔で俺を見てくる。
「おい!お前、俺を式に呼ばない気か、こらぁ!―は…っ。そ、そうじゃなくて!!
外には記者がウジャウジャいるんだよっ!どうやってちゃんを帰すんだ?!」
「え~?いっそのこと帰らなくてもいいんじゃない?ね、」
「え?で、でも…」
「そ・れ・は・ダ・メ・だ!!」
「ジョー…いちいち二人の会話に入ってくるなよ…」
俺がウンザリした顔でジョーを見ると、ジョーもウンザリした顔で俺を見た。(!)
「あのなぁ…俺はお前らの事を考えて悩んでるんだぞ?」
「あ、あの…ごめんなさい…っ」
「え?」
「おい、…」
が急に立ち上がってジョーに頭を下げたから俺は驚いた。
「私のせいで…レオが…。もっと早く婚約破棄していればここまで酷くならなかったんですよね…」
「…そんなが謝る事じゃ…」
俺も立ち上がっての肩を抱き寄せた。
するとジョーがの方に歩いてきて彼女の頭にポンっと手を乗せた。
は驚いて顔を上げると、ジョーが笑顔で、
「そんな済んだ事はもういいんだ。それよりこれからの二人の事を考えよう…」
と言った。
は驚いた顔をしたが、だんだん大きな瞳に涙が浮かんでくる。
「あ…ありが…とう…ジョーさん…」
「あ、いや、そんな泣かないで…っ。ね?お、おい、レオ…抱きしめるなり、キスするなりして慰めろよ…っ」
の涙にジョーが目に見えて動揺したから俺は噴出してしまった。
そしてご要望通り、を抱きしめると軽く頬にキスをしてポロポロ零れてくる涙も唇で掬ってあげる。
「泣かないで、…。ジョーの言う通り、これからの事を考えよう?」
「う…う…ん…」
は必死に涙を手で拭うと、やっと笑顔を見せてくれた。
それにはジョーもホっと息を付いている。
「じゃ、じゃあ…まずは…ちゃんを家に帰してあげないと…」
「ああ。そうだ、…どうする?サンタモニカの家に帰る?それとも実家に帰る?」
「あ…あの実家に…。お母さんにも説明したいし…」
「そっか。じゃあ…ここから凄い近いし…どうにか見付からずに出られれば…」
「裏門にも記者がいるだろう…。なら…俺とレオが正門の方に顔を出してひきつけるしかないぞ?」
そう言いながらジョーが俺を見た。
「ああ、それでいいよ。 ―…君は記者がいなくなったら裏門から出て家まで走るんだ」
「う、うん…」
そう言うとは不安そうな顔で頷いた。
俺はを抱きしめて優しく頭を撫でながら頭に軽く口付ける。
「…家に帰ったら…電話して…?」
「うん…」
「それと…ダニーと父親が帰ってきたら…ちゃんと話すんだよ?」
「うん…ちゃんと話して説得する…」
「全部はっきりするまでマスコミの方には何も答えないから…。ちゃんと話がついたら俺、の両親にも会いに行くから…」
「ぅ…ん」
の体が少しだけ震えていた。
それを感じて俺は胸が痛くなる。
「ちょっとだけ会えないけど…」
「…ん…」
小さく頷くが愛しくて、俺は少しだけ体を離すと真剣な顔で彼女を見つめた。
「…愛してる…。絶対に離さないから…も俺のとこに戻って来て…」
「レオ…」
涙で潤んでいるの瞳を見てちょっと微笑むと優しくの唇を塞いだ。
そのまま少しだけ唇を愛撫するように口付けてチュっと音を立てて解放する。
「じゃ…俺とジョーが正門の方に行ったら、は裏門の方に行って少し隠れてて?」
「ん…」
がコクンと頷いたのを見て俺は最後に彼女の額にキスするとジョーの方に振り返った。
するとジョーは赤い顔のまま、口を開けて俺を見ている。
「何だよ、その締まりのない、いやらしい顔…」
「え?あ、ああ…っ。って誰がいやらいしんだ!お前が目の前でキスするからだろうっ?!」
「ああ、俺とのキスシーンを見てニヤケてたんだ?独身には目の毒だった?」
笑いながらそう言うともジョーも真っ赤になっている。
まあ、ジョーは怒って赤いだけなんだけど。
「そ、それより早く行くぞ!」
ジョーはプリプリしながら玄関ホールへと歩いていく。
もバッグを持って俺の方を見た。
俺は最後にをギュっと抱きしめると、「必ず…また会えるだろ?」と聞いた。
それにも今度はしっかりと頷く。
「必ず…説得する…」
「うん…。待ってる…」
俺はそう言っての唇にチュっとキスをすると彼女も嬉しそうに微笑んだ。
「じゃ、行くね?…記者に万が一見付かったら走って家まで逃げろよ?」
「うん。分かってる…」
「じゃあ…」
「うん…電話するから…」
私がそう言うとレオも笑顔で頷いてジョーと二人で正門の方に歩いて行った。
私はそれを見送ると、すぐに裏門の方へ向かう。
門の手前で大きな木の陰に隠れると門の辺りの様子を伺った。
すると3~4人の記者らしき人がカメラを持ってウロウロとしている。
だがすぐに慌てた様子で走って行ってしまった。
私はそぉっと門の方に近づいていくと誰もいなくなっている。
そのまま門から出ると、私は家に向かって一気に走って行った。
今朝、雑誌に載ってしまった事を聞いてずっと混乱していたが今はもう落ち着いてきていた。
こうなってしまったものは元には戻せない…
とにかくダニーが帰って来たらちゃんと話して…謝るしかないんだ。
謝って結婚出来ないって言わないと…
私は前以上に固い決心をしていた。
すぐに実家が見えてきて私は少し緊張した。
(お母さんは…あの雑誌のこと知ってるんだろうか…今朝発売の雑誌だったけど…)
私はそんな事を考えながら家の門の前まで歩いて来た。
だが鍵を出して門を開けた瞬間、後ろでパっと何かが光って驚いて振向くとカメラを持ってる男性が一人立っていた。
「…な、何を勝手に撮ってるんですか…?!」
「あなた、さん…ですよねぇ?レオナルドの恋人の。少し話を聞かせて欲しいんですけどね」
私は慌てて門の中に入ろうとしたが、いきなり腕を捕まれてビクっとした。
「待って下さいよ。数分でいいんだ」
「は、離して下さい!」
「いや、君、今までレオの家にいたんだろ?こんなに家が近いとはねぇ。君の事は全て調べてあったんだけど、
まさか実家に現れるとは…。他の奴は皆、サンタモニカの方に行ってるからね?」
「…え?」
それを聞いて驚いた。
(この人達はすでに私がどこの誰かって言うのを調べ上げている…)
「さんは子供病院の看護だんだよね?そこでレオナルドと知り合ったんだろ?なんて口説かれたの?
やっぱり婚約者より、レオナルドの方が良かったんだ?」
「…な、何言ってるんですか?!」
記者の無神経な質問に私は顔が赤くなった。
「だってそういう事だろ?婚約者がいないのをいいことにレオとアトランタまで一緒に行ってるんだからさ?
やっぱ一介の医者よりもハリウッドスターが良かったって事なんじゃないの?それとも…他にもいい事があるのかな?」
その記者は意味ありげな顔でニヤニヤと笑っている。
私は胸がムカついてその捕まれてる腕を思い切り振り払った。
「いい加減にして下さい!何もお答えする事はありません!」
「何、気取ってるんだよ!婚約者を裏切ったクセによく平気でいられるな?」
私はその言葉に、カっとなって引っぱたいてやりたくなった。
でもここで殴れば暴力沙汰としてまた取り上げられてしまう…
そうなったらレオにも更に迷惑をかける…。
そう思って必死に怒りを堪えると、その記者を無視して門の中へと入り思い切り鍵をかけた。
「おい、俺だけじゃなく他の奴からも同じように追い掛け回されるぞ?サッサと話しちゃった方がスッキリすると思うけどな?」
「あなた達に話す事なんてありません!何も知らないクセにズカズカと人の心にまで土足で入ってこないで!」
私はそう怒鳴ると家に向かって駆け出していた。
悔しくて涙が溢れてくる。
"婚約者を裏切ったクセに、よく平気でいられるな?"
あの記者に言われた言葉が胸に突き刺さる。
平気なんかじゃない…
でも…レオの事を、こんなに好きになってしまって…もう他の人とは結婚出来ないって…そう思ったから―
私は玄関の前で立ち止まると涙を拭ってそっと家のドアを開いた。
重苦しい空気がリビングの中に流れて私は堪らず顔を上げた。
目の前には暗い顔の母がボーっとソファーに座っている。
母は雑誌は見てないものの、朝からあの外にいた記者に押しかけられ、全ての事情を聞いてしまっていたのだ。
私が帰って来ると凄く悲しそうな顔をしたが何も言っては来なかった。
私は小さく深呼吸をすると思い切って口を開いた。
「あ、あの…お母さん…」
「…なに?」
酷く疲れたような顔で母は私を見た。
その表情のない目を見て、私は母が怒っているのか悲しんでいるのか分からなかった。
「あ、あの…私の話を聞いて欲しいの…」
「…何の話?」
「だ、だから…」
「私と父さんに嘘をついてアトランタへ行ったこと?」
「…お母さん…」
私は母の言葉に胸が痛み、言葉に詰まった。
母は少し溜息をつくと、私の方を見て、「あなた…彼が好きなの?」と聞いてきた。
「…え…?」
「一緒にアトランタへ行ったっていう彼…。 あなたが前からファンだった俳優でしょ?」
「う、うん…」
「私達に嘘ついてまで一緒にいたいほど…好きなの?」
「…うん」
私は母の質問にはっきりと頷いた。
それを見て母は少し驚いたような顔で私を見ている。
だが、ちょっと息を吐き出すと、
「そう…そうなの…。じゃあ…どうしてダニーからのプロポーズ受けたりしたの?」
と言って、もう一度私を見た。
「それは…あの時は…そう思ったから…」
「なのに心変わり?そんなのダニーが可愛そうよ?」
母の言葉に胸が痛んだ。
「うん…分かってる…。でも…私、もう彼を愛してないの…。だから…」
「…」
「…?」
「その…レオナルドは…本当に、あなたの事を愛してくれてるの?」
「お母さん…」
「だって信じられる訳ないでしょう?彼はハリウッドスターなのよ?そんな人がどうして?
何も婚約者のいる子を選ばなくたって…他にも素敵な女性がいるんじゃないの?」
「お母さん…レオは…」
「、あなた遊ばれてるだけなんじゃない?」
「違う…っ。お母さん、聞いて?レオはそんな人じゃないの!ちゃんと真剣に―」
「真剣に?じゃあ、ちゃんと私達に挨拶に来れるのね?」
「うん。来るって言ってくれたわ?」
私が必死にそう言うと母は軽く頭を振って目頭を指で抑えた。
「そう…。でも…ショーンが何て言うか…。ショーンはダニーを可愛がってるわ?自分の後継者にしたいと思ってる。
そんなダニーとあなたが結婚する事を誰よりも望んでたの…。だから今回の件を知ったら…」
「説得する…。ダニーとは結婚出来ないって…」
「そう?じゃあ、好きにしなさい…ショーンとダニーは明日帰って来るわ?」
「え?予定より早いんじゃ…」
「ちょっと事情が変わったみたいね?その辺の話も帰ったらすると思うから…。とにかく今日はもう休みなさい…」
「う、うん…」
私はそっとソファーから立ち上がると静かにリビングから出て行った。
そのまま二階へ上がり自分の部屋に入り鍵をかける。
「はぁ…っ」
ベッドへダイブすると思い切り溜息をついて時計に目をやった。
「もう9時過ぎか…。レオ…何してるかな…」
一人になってレオの事を思い出すと無性に会いたくなる。
ここ数日間はずっと一緒に過ごしてきたから尚更だ。
朝も昼も夜も…気付けばレオの温もりを感じていた。
なのに…突然、一人になると死ぬほど寂しい…と感じた。
明日…お父さんとダニーがカナダから帰って来る…
どうしたんだろう?急に早まるなんて…
まさか今回の件じゃないわよね…?
だってこれは今朝の話だもの。
お父さん…ダニーと私の結婚をそんなに望んでたんだ…
だとしたら…婚約解消したいと言えば…ショックを受けるだろうな…。
ダニーだって…やっぱりレオと…と思うかもしれない。
前に雑誌に載った時、散々心配かけてあんなにレオとは何でもないと否定までしておいて…
今更、レオが好きになったから別れたいなんて言ったら…凄く傷つけるんじゃないかな。
そう考えるだけで、私は本当に酷い事をしてるんだ…と罪悪感に襲われる…
私は枕に顔を埋めて必死に涙を堪えていた。
レオ…会いたい…。声が聞きたい…
ずっと…あのまま一緒にいたかった。
本当に寂しくなってどんどん涙が溢れてくる。
その時、バッグの中で携帯が鳴ってドキッとして顔を上げた。
すぐに携帯を取り出しディスプレイを確認する。
そこにはダニーの名前が出ていた。
ドキっとして出るかどうしようか迷っていた。
もしかしたら雑誌を見たのかもしれない…どうしよう…。出た方がいいのかな…
そう思うのに手が動かず、そのうち鳴り止んでホっとした。
「ごめんね…ダニー…」
そう呟いた時、もう一度携帯が鳴り出してビクっとなった。
だがディスプレイを見るとそこにはレオの名前が出ていて、胸がドキンっと高鳴るのを感じる。
「レオ…」
私は胸が熱くなり、すぐに電話に出た。
「Hello?」
『あ、?俺…!声聞きたくて先にかけちゃったよ』
「うん…っ」
今朝まで一緒だったのに、ずっと聞いてなかったかのような感覚になり泣きそうになった。
凄く聞きたかったレオの声が受話器の向こうから聞こえてくる。
『Hello?…?』
「う…ん…聞こえてるよ…?」
私は何とか涙声になるのを堪えて声を振り絞った。
それでもレオは気づいたようで心配そうな声を出す。
『…泣いてる…の?』
「ぅぅん…な、泣いてない…」
レオの優しい声にどんどん喉の奥が熱くなって息苦しい。
『…?どうした?何か…あったの?』
「な、何もない…大丈夫…。ちょっとレオの声聞いたらホっとしただけ…」
『そう?俺も…』
「え?」
『俺もの声聞けて凄くホっとした…』
レオの声も凄く寂しそうで私は今すぐ会いたくなった。
でも…まだ父さん達と話すまでは会えない…。
「あ、あのレオ…?」
『…ん?』
「お父さんとダニー…明日…帰って来るらしいの…」
『え?4日後のはずじゃ…』
「うん…それが仕事の事情が変わったらしくて…」
『そっか…。雑誌に載った件じゃないんだね?』
「うん…そうじゃないみたい」
『じゃあ…明日…話すの?』
「うん。きっと…ダニーも自分の家に戻る前にここに来る筈だから…その時に話すわ?」
『大丈夫…?ちゃんと話せる…?』
レオの心配そうな声が私の耳に響いて胸が痛くなる。
私は気づかれないように小さく深呼吸をすると、「大丈夫よ…?ちゃんと…話せるから…」 と言った。
レオが一瞬黙って、軽く息をついてるのが分かる。
「レオ…?」
『…』
「え?」
『もし…俺が行った方がいいなら…いつでも電話して?』
「え…っ?」
『もし…両親に責められて…俺の事とかで何か言われたら…俺も一緒にの両親に頭下げるからさ…電話して欲しい』
「レオ…」
私はレオのその言葉に目頭が熱くなって涙が溢れてくるのを感じた。
『…。一人で…全てを背負い込まないで…?俺もいるんだからさ』
「…ん…ぅん…」
声を出したら泣いてしまいそうで、ただ頷くのが精一杯だった。
レオはそれに気付いたのか、もう一度私の名前を呼んだ…。
『…愛してる…凄く会いたい…』
「…レ…オ…わた…しも…会いたい…」
『…』
押し出すようにそう言えばレオの声も震えているのに気付いた。
切なく呼ぶその声に反応して、私の心がレオを好きだと言っている。
こんなにも愛してると――
暫くお互いに無言のまま、相手の吐息だけを感じていた。
だが不意にレオが口を開いた。
『…もう今日は寝て…ゆっくり休んで…?』
「レオ…」
"まだ声を聞いていたい…"
そう言いたいのに言えなかった。
「うん…分かった…」
『俺も…今日はもう寝るよ…。隣にがいなくて寂しいけど…』
レオが寂しげにそう言って来るから、「私も…」と言葉を繋いだ。
そして"おやすみ…"の言葉の後、電話が切れて、また静寂の中一人の寂しさが襲ってくる。
「レオ…こんなに近くにいるのに…」
そう呟いてベッドへと倒れこむ。
溢れてくる涙は…もう拭かないまま、私はそっと目を瞑った―
俺は電話を握ったまま、溢れてきた涙を堪えて息を吐き出した。
あのまま話してたら…本当に泣いてしまいそうだった。
それを気付かれたくなくて慌てて電話を切ってしまったけど…変に思われたかな…
ベランダに出て煙草に火をつけると門の向こうに人影が見える。
まだ頑張ってる記者がいるんだろう。
今朝はを帰すのにあの記者たちの気を引くため、インタビューを受けるフリをした。
のらりくらりと記者からの質問を交わしたが、何度殴ろうと思ったか分からなかった。
"婚約者のいる女性だと知ってて手を出したの?"
"遊ぶなら恋人いない子の方が良かったんじゃないの?"
"相手の男性に一言!"
”彼女を撮影現場に連れて行ったのは何故?"
こんな事ばかり聞かれた。
くだらない…!
そんな事を聞いて何が楽しいんだ?
終いには、結婚するのか?とか、どう責任とるんだ?とか同じ事ばかり聞かれてウンザリした。
(早く…本当の事を話してしまいたい…)
そう思った。
遊びでもなく、俺は本気でを愛してて結婚するつもりだと言えば…どれほどスッキリするだろう。
は俺の恋人だと…言えたらどんなに…
でもそれにはまずが婚約解消してちゃんとダニーと別れなければ…
両親にも分かってもらえるまで俺は諦めるつもりはなかった。
何度でも…分かって貰えるまで…
「…早く…会いたい…」
さっき…も声が震えていた…
凄く寂しそうだった。
あの声を聞いた時…愛しさが溢れてきて今すぐ会いたいと強く思った。
会って思い切り抱きしめたいと…本気で、そう思った。
が一人で泣いてるんだって思うと…胸が痛む。
俺はそっと振り向いて部屋の中を見渡した。
今朝までいたの気配が残ってるようで、でものいないその部屋を見て寂しさが溢れてくる。
ここ数日間、ずっと一緒にいたから…
朝も昼も夜も…ずっとの温もりを感じていられたから…
いつでも手を伸ばせば抱きしめる事が出来たから…この一人の空間が無性に寂しくなる。
俺はの家の方向を見て、今、彼女は何を思ってこの夜を過ごしてるんだろうと心配になった。
「…こんなに近くにいるのに…」
俺はそう呟いて奇麗な星空を見上げた。
と一緒に、ここでこの星空を見ていた夜が…もう凄く昔の事のように感じてまた胸が痛くなった―
「?起きてるの?」
お母さんの声を私はベッドの中で聞いていた。
もぞもぞと動いて顔を出し、「なぁに?」と枯れた声で返事をする。
「そろそろ起きて来なさい?お父さん達、もうすぐ帰って来るから…」
「ん…分かった…」
そう返事をするとお母さんは安心したように、「じゃ、朝食の用意しておくわね?」と言って下へと下りて行ったようだった。
私はゆっくり寝返りを打って顔を横に向けた。
昨日までなら…私の隣にはいつでもレオの体温があった。
でも…今はこうして手を伸ばしても、その暖かい温もりは感じられない…
久し振りに一人でベッドに入ったからか、全然眠れなかった。
一瞬、眠っても気付けば隣にいるはずのレオを手が勝手に探してる。 でもそこには彼の温もりはなくて、ふと目が覚めて凄く寂しくなって眠れなくなった。
目が覚めて…隣にレオがいないと思った瞬間、ほんとに息苦しくなる。
一緒にいたのは3ヶ月もないのに…もう私にとって…空気みたいな存在になってるんだと思った。
あんなに遠かった人が、今は心の一番真ん中に存在してて、こんなに胸を暖かくしてくれてる。
それは凄く不思議な感覚だった。
「はぁ…起きて用意しよう…」
私はベッドから出るとパジャマを脱いでバスルームへと向かった。
ふとバスルームの大きな鏡に目が行き、自分の胸元に赤い跡があるのに気付く。
(これ…レオのつけた…)
そう思った瞬間、顔が赤くなる。
でも自分の体にレオが残してくれた跡があると思うと幸せを感じた。
…レオとあんな関係になってからは恥ずかしさもあるけど、幸せに感じる事の方が多くなったのもある。
レオが言ってた様に…言葉に出来ない想いを表現するのに触れたくなるという気持ちが、今の私には理解出来た。
「お父さんに見付からないようにしないと…」
私はシャワーから上がると胸元が隠れてしまう服を選んで着替えた。
そのままリビングへと下りると、キッチンに向かう。
「お母さん?」
「あ、。早く食べちゃいなさい」
「あ、うん…」
私はダイニングテーブルに用意されてる朝食を見て椅子に座った。
「はい。紅茶」
「あ、ありがとう…」
暖かい紅茶を飲んで、ちょっと息をつく。
母は黙ったまま洗い物をしている。
私は普段と変わらない母に少しだけホっとしていた。
お母さんは…昔から自由奔放な人だった。
もしかしたら…私の気持ちを分かってくれてるのかもしれない。
その時、玄関の方でチャイムが鳴った。
それには母もビクっとして振向く。
「お養父さんかな?」
私が顔を上げると母は顔を顰めて、「もしかしたら…また、あの記者かも…」と呟き、手を拭くと玄関の方に歩いて行った。
ああ、そうか…。
昨日の朝は母も、あの記者のしつこさに辟易したと言っていた。
もしかして、また?
私は心配になり椅子から立ち上がった。
すると玄関の方で声が聞こえてそれが養父の声だと分かる。
(何だ…やっぱり、お養父さんだ…)
そう思った瞬間、緊張してきた。
どうしよう…。なんて話せばいいのかな…
ダニーのいる前で話せるのか…
それとも先にダニーに言うべきことかな?
私は色々な事が一瞬で頭をめぐり、息苦しいくらいに緊張しているのが分かった。
(とにかく…朝食を食べちゃわないと…)
そう思って椅子に座りかけた時、お母さんの声が聞こえた。
「ちょっとあなた!落ち着いてください…っ」
「うるさい!お前は黙ってなさい!」
珍しく温和な養父の怒鳴り声が聞こえて私はドキっとした。
そして声のする方へ行こうか…と思った時、養父がダイニングへと入ってきた。
「あ…お養父さん…お帰りなさ―」
そう言いかけた時、パンッという音と同時に鋭い痛みが頬に走った。
一瞬フラっとよろけて体がテーブルの上にあった紅茶のカップやサラダの入ったお皿の上にぶつかり、激しい音と共に床に倒れた。
ガシャーンッバリーンッ
次々に目の前でお皿が落ちては割れた。
私はただそれを呆然としたまま見つめていた。
そこに養父の怒鳴り声が飛んでくる。
「お前は何て事をしてくれたんだっ!!私に恥をかかせて!」
「お養父さん…」
私はジンジンと痺れて熱を帯びてきた左頬を抑えながら養父を見上げた。
そこには今まで見た事もない怖い顔をした養父の顔があった。
「お前は何て恥知らずな真似を…!!よくもダニーを裏切って…っ」
養父は肩を震わせて本気で怒っている。
そこに誰かが走りこんできた。
「お養父さん!やめてください!」
「ダニ―…?」
養父がまた振り上げた拳を必死に抑えているのはダニーだった。
「…!大丈夫かい?!」
ダニーは倒れている私の前にしゃがみ込んで肩を支えてくれた。
「そんな裏切りものは放っておけ!」
養父はそう怒鳴るとダイニングから出て行ってしまった。
「ま、待って、お養父さん!」
私はそれを見て慌てて体を起こしたが、左の下腹に痛みが走り顔をしかめた。
「い…たぃ…っ」
「?どうしたの?どこが痛いの?」
ダニーが心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
さっき養父に頬を叩かれて体がテーブルの角にぶつかったのを思い出す。
その時、左の下腹をしたたか打ち付けたんだと気付いた。
私はその痛みに少しよろけた。
「あ、危ないよ、…っ」
「離して…ダニー…。私…あなたを裏切ったの…。優しくなんてしないで…」
私は痛みを堪えて何とかそう言うとダニーは悲しそうな顔をした。
「…知ってる…。雑誌…見たよ…。空港で記者に捕まって…あれこれ聞かれた…」
「…え?」
「僕と君との婚約まで知っててさ…。僕がいない間に君がどこで何をしてたのか知ってるのかって言われて…雑誌を見せられた」
「ダニー…」
その話を聞いて、私ではなく、その名前すら知らない記者から事実を聞かされたダニーの気持ちを考えると胸が痛んだ。
「ごめんなさい…。私…あなたとは結婚出来ないの…」
「…っ。嘘だろ?あんな記事…。また…彼の方から言い寄ってきた所を写真に撮られただけなんだろ?」
「ダニー…。そうじゃない…。今度のはそうじゃないの…。私…レオのこと愛して―」
「…聞きたくないよ、そんなこと!」
突然、ダニーが大きな声を出して私はビクっとした。
さっきのこともあり、また殴られる、と肩が竦む。
それに気付いたのかダニーはハっとして私を見ると急に抱きしめてきた。
「ごめん…大きな声だして…。俺は君のこと…殴ったりしないよ?だからそんな怯えた顔しないで…」
「ダニ―…苦し…い」
「あ、ご、ごめん…」
ダニーは慌てて私の体を離すと肩を支えて、
「と、とにかく…部屋に戻ろう?痛くて立ってられないんだろ?」
「で、でも私、お養父さんに話が…」
「無理だよ…そんな痛そうにしてて…。とにかく横になった方がいい…」
ダニーはそう言うと、いきなり私を抱き上げた。
「ちょ…ダニー…」
「一人で歩けないだろ?このまま部屋まで運ぶから…」
ダニーはそう言うと私を抱いたままダイニングを出てリビングへと入って行った。
リビングでは怖い顔をしたまま黙って座っている養父と、そんな養父に気を使うようにして立っている母がいる。
「お養父さん…を部屋まで運んできます…」
「ん…。頼むよ、ダニー」
養父は少しだけ顔を上げたが私の顔を見ようとはしない。
「あ、あの…お養父さん…。私の話を―」
「うるさいっ。話など聞く必要はない!サッサと部屋に行け。ダニーともよく話し合いなさい…!」
「お養父さん…!」
私は悲しくなってもう一度、養父を呼んだが、もう私の方すら見てはくれなかった。
ダニーはそれを見てそのままリビングを出ると私の部屋まで上がっていく。
「ダニー下ろして?私、やっぱり話してくる…」
そう言うもダニーは何も答えないまま私の部屋へと入っていって私をベッドの上に寝かせた。
私がすぐに体を起こそうとすると肩を抑えてそれを止める。
「寝てないとダメだよ、…」
「でも…」
「そんなに…何を話したいんだ?」
「…え?」
「お養父さんに…何を話したいの?」
ダニーはベッドの端に座り、真剣な顔で私を見つめてくる。
私はちょっと息を吐き出すと口を開いた。
「あ、あの…ダニー…さっきの話だけど…」
「俺と…別れたいの?」
「……っ」
先に言われて言葉に詰まったが、仕方なく小さく頷いた。
「あの…もう私は…ダニーに気持ちが…」
「もう俺の事は好きじゃないって事?」
「ダニー…」
「あいつの方が好きになった?」
怖い顔で次々に聞いてくるダニーに私は何も言えなくなってしまった。
「俺がカナダに行ってる間…君はあいつとアトランタに行ってたそうだね?」
「ダニー、それは…」
「…あいつと…寝たの?」
「…え?」
「…あいつに…抱かれたのかって聞いてるんだ」
「ダニー…」
強く肩を掴まれそう聞かれた私は、少し怖くなってベッドの上を後ずさった。
それでもダニーはベッドの上に上がり私を壁際まで追い詰める。
「どうなの?あいつと寝たの?」
「ダニ―、そんな事は…」
「そんな事?そんな事はどうでもいいって?」
「そういうわけじゃ…あの…落ち着いて話したぃ―」
「こんな話をどうやって落ち着いて話せばいいんだよ…っ」
「ダニ…んっ」
いきなりダニーに唇を塞がれベッドへ押し倒された。
無理やり舌を押し込まれ口内を激しく愛撫されると苦しくて涙が浮かんでくる。
「ん…ゃぁ…っ」
何とか手で押しのけようと暴れると、両手を抑えられて頭の上に固定されてしまった。
「ん…っぃや…っ」
何とか顔を背けるとダニーは今度は私の首筋に唇を這わせてくる。
「やだ…っ。やめて…っ!」
「あいつに君を寝取られたんだ…っ。今度は俺があいつから君を奪ってやるよ…っ」
「やだったら…っ」
ダニーは私の手を離すと今度は私の着ていたシャツを力いっぱい引き裂いた。
胸のボタンが弾けて散らばったのを見て私は怖くなった。
「いやぁぁっ!離してっっ」
「…俺だって君を愛してたんだ…っ。なのに…君は俺を裏切ってあいつと…!」
「ダニー…っやめて…っ」
ダニーが覆い被さってきて体を捩って暴れた。
その時、さっきぶつけた下腹に激痛が走る。
「…っぃた…っ」
「…?」
私の体が痛みでビクンっとなったのにダニ―が気付いて体を避けた。
「……?さっきの…痛いのか…?」
私は痛みと恐怖で涙がボロボロ零れてきた。
「ごめん…泣かないで…」
ダニーが私の涙を指で拭ってくれる。
「ダニー…ごめんなさ…い…。私…」
「いいから話さないで…」
ダニーは私の頭を撫でて肌蹴ている胸元もシャツを元に戻し隠してくれた。
「…やっぱり、あいつと寝たんだね…」
「……ぇ?」
「胸元に…」
ダニーはそこまで言って言葉を切った。
私はさっきのキスマークを思い出し、顔が熱くなる。
「あ…あの…」
「もういい…」
「え?」
「もうその事はいいよ…」
「その事って…」
「あいつと寝たこと…。それよりも俺は今後の事を決めてきたい」
「今後って…ダニー、私はもう―」
「俺は別れない…」
「――――っ」
私はダニーの言葉に戸惑ってしまった。
「別れないって…。ダニー…私はもう、ダニーの事を愛してない…」
「それでも構わない」
「そんな…気持ちがない人と結婚出来るの?そんなの無理よ…」
「無理かどうかはしてみないと分からないだろ?だって気持ちが変わるかもしれない…」
「私は…変わらないわ?あなたとは結婚できない…」
「あいつと結婚するって言うの?」
「…それは…」
「彼は…俺達とは住む世界が違う。今は良くても…彼だっていつか他に女でも作ってを捨てるに決まってる」
「そんな事ない…っ。レオはそんな人じゃ…っ」
「何で、そう言いきれる?そんなに彼と長く一緒にいたわけじゃないのに…。そんなこと分からないだろ?
甘い言葉を囁かれて愛されてるって勘違いしてるんだよ。彼にとったらはその他大勢のうちの一人だよ」
冷めた目で私を見つめてそう言ってくるダニーが怖い
と思った。
「…もう聞きたくない…。今は一人にして…?」
私が顔を背けてそう言うとダニーは静かにベッドから立ち上がった。
「お養父さんも…きっと俺と別れる事を反対すると思うよ?」
「…え?」
「お養父さんに言われたんだ。空港からここに向かう途中に…。"傷物になった娘だが貰ってくれるか"ってね?」 「―――ッ!」
それを聞いた途端、顔から血の気が引いた。
「き、傷物って何?私は…物なの?」
「そうは言ってない…。俺だってを一人の女性として愛してたよ?でもそれを裏切ったのは君だろ…」
「じゃあ…別れて…?私はあなたを裏切ったんだから…別れて他の人と結婚して…」
「開き直るの?でもそれは無理だよ。俺はまだ君を愛してる…結婚を止める気はない」
「ダニー…っ」
「俺…今度の学会でカナダの教授に気に入られたんだ」
「…え?」
「だから…向こうの大学病院に行く事になった。君も一緒に行くんだよ?」
「な、何言って…私は…行かない…っ」
「そう言っても無駄だと思うよ…。じゃ…また明日来るよ」
ダニーはそう言って部屋から出て行ってしまった。
私は一人になった途端、一気に涙が溢れてきてベッドに顔を埋めて大声で泣いた。
何もかもが嫌になった。
話を聞いてもくれない養父も…気持ちがないのを知ってて無理やり結婚をしようとするダニーも…
もう何もかも…消えて欲しかった。
どうして一人の人間として私の気持ちを見てくれないの?
裏切り者だから?
ただ…私はレオを愛しただけなのに…
私は泣きながらも…レオに会いたくて会いたくて…何度も彼の名前を呼んだ…
―ねえ 愛し君よ 愛し君よ…
どこにいるの?
いますぐ 会いに 来て欲しい
例え それが 幻でも…いいから…
>>Back
ACT.16...ロミオとジュリエット>>
うはー修羅場ですよっ。怖っ!
あぁ~どんよりで、ゴメンって感じですね(苦笑)
なのでジョーで少し明るくしてみたり(笑)
あぁ~ダニー予想通り!(笑)
って最初に考えてた内容と少~し違って来たような気もしますが(コラ)
まあ、どっちにしろ流れとしては同じか…^^;
今後もどよどよだったらやだな…(お前のせいだろ
あ、因みにタイトルは知っての通り、彼ですね、彼(笑)
これ聞いた時、凄くいいなぁと思いました。
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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