Catch me if you can.......A real love ?... or... fake love...














朝、目覚める度に  君の抜け殻が横にいる




ぬくもりを感じた  いつもの背中が冷たい…
















ACT.16...ロミオとジュリエット                                 







「え?監禁?!」
「うん…多分…そうなんじゃないかって思ってさ…」


俺は少し溜息をついて煙草に火をつけるとソファーに座ってトムを見た。
トムは案の定、口を開けて俺を見ている。


「な、何でだ?連絡つかないのか?」


トムは心配そうな顔をしてやっと口を開いた。


「ああ…。3日前に話してから…。その時にさ、病院を休まなくちゃならないって言ってて…」
「どうして?ああ、病院にまで記者が押しかけてるからか?」
「まあ…。は父親から"病院の人に迷惑をかけるから暫くは休め"って言われたって言うんだけど…
俺は都合よくそう言ってるだけで外に出さないようにしてるだけだって思うんだ。それに…」
「それに?」
「やっぱり婚約者の奴も別れないって言ってるらしくてさ…。今度仕事でカナダの病院に行く事になったから、
も一緒に連れて行くって言われたって困ってた…。父親にもそう言われたって…」
「えぇ?!カナダ?!何だよ、それ…。彼女の気持ちは無視か!もう好きじゃなくなってしまったんだから仕方ないだろう…
気持ちのない子と結婚してどうするんだよ…。それに父親だって…何で娘の気持ちを一番に考えてやらないんだ?」


トムは腹が立ったのか台本をテーブルに、バン!っと叩きつけた。
俺はちょっと息を吐くと、


が言うには…きっと父親の面子を潰したからだって言うんだけどさ…」
「父親の?」
「ああ…。彼女の父親も医者でさ…。何だか娘の結婚の事を病院関係者や親戚に、すでに発表してて…
なのに俺と浮気旅行したみたいに雑誌に載ってしまったから恥をかいたって言って怒ってるらしい…
その婚約者の男も…似たようなもんだろうな…。仕事場の人間からも、婚約者を取られたって目で見られるんだからさ…」
「…それは確かにキツイだろうけど…。もう無理に結婚したって幸せになんてなれないだろう…?お互いに不幸になるだけだ…」


トムはそう言って大きく溜息をついた。


「それで…ちゃんから3日、連絡がないのか…?」
「ああ…。それにこっちからかけても繋がらなくて…心配なんだ…。もしかしたら携帯、取り上げられたのかも…」
「えぇ?そこまでするか?」
「やるだろ?もし俺と連絡取ってるってバレたなら…」


俺がそう言うとトムは動揺しだした。


「ど、どうするんだ?このままだったら本当にちゃん、その婚約者と結婚させられちまうぞ?お前、それでもいいのか?!」
「いいわけないだろ?俺だって心配なんだよ…っ。でも撮影がここんとこ押してて会いにすらいけないんだからさ…」


俺が少し大げさに溜息をつくと、トムも納得した顔で頷いている。


「ああ…そうだな…。で、でも…じゃあ、どうするんだ?お前、両親説得しに行くって言ってただろ?」
「それがさ…。の実家もパパラッチやらにバレてすっげー人数が張ってるんだ…。俺なんて行ったら、すぐ捕まるし、
の家族にも迷惑かけるだろ?だから…少し様子みてるんだけどさ…」


俺はちょっと息をついて煙草を灰皿に押しつぶした。
トムは心配そうな顔のまま俺の顔をジっと見ている。


「お前…辛そうだな…」
「ん?ああ…。辛いけど…俺よりの方が辛いだろ?皆から責められて…監禁までされて仕事にも行けないんだ…」
「そうだな…。まあ救いなのはファンとか、あの雑誌読んだ人達から以外にも励ましの言葉が聞かれるって事くらいか…」
「ああ…。あれは俺も驚いたけどな…。何かファンって在り難いな…って思ったよ」


俺はそう言ってちょっと笑った。


あのゴシップ誌に俺との事が載って、かなり責められるだろうと思っていた。
が…逆に応援するようなコメントをしてくれる人が多くて驚いた。


"あのレオがそこまで好きになった人なら応援したいわ?"とか、("あの"ってのが納得行かないが―)
"二人を引き離すような事はしないで"と、そのゴシップ雑誌の出版元に抗議の電話などがかかるようになったとかで、
他の週刊誌は俺を悪者どころか、ヒーロー扱いだ。
しかもが今、俺との事を反対されて家から出して貰えないと、どこで調べたのかそう言う記事までが出始めた。
そうなると同情の声の方が多くなってきて、これには俺もジョーも唖然としてしまった。


「いやぁ、分からないものだな?てっきり、"レオ、最低!人の婚約者に手を出すなんて!"とか言われるかと思ったのにな?」


とジョーは呑気に言うから俺も呆れたんだけど。


そんな事より…俺はが心配だった。
大丈夫…とは言ってたけど、相当参ってるのは間違いない…。
あのダニーとか言う男も何を考えてるんだ?
自分の事を愛してくれない女と結婚して…何があるんだろう。
今のとこ俺の事を訴えてくる様子はないけど…


どうしたらいいんだろう…
の両親さえ説得すればいいという訳にはいかなくなった。
ダニーは毎日、仕事の帰りに会いに来るという。
俺はダニーがに何かしないかと毎晩、心配で眠れないくらいだ。
撮影スタッフは俺との事を知ってるから励ましてくれるが俺もなるべく元気な振りして、
撮影の方もNGを出さないように集中して頑張ってる。
それに演じている時だけはこの辛い状況を忘れていられるから…


「おい、レオ。そろそろ行くぞ?」


トムが時計を見て立ち上がった。
俺は軽く溜息をつくとソファーから立ち上がりトムの後からついていく。
これから二人のシーンを撮らないといけない。


「これがNGなしなら…今夜は早く終るかもな…」


トムはそう呟くと俺の肩をポンポンと叩いた。



















「ねぇ…お母さん、お願い…!」


私はキッチンで夕飯の準備をしている母に必死に頼んだ。


「病院には行けるように、お養父さんに話して?マークが心配なのよ…っ」


私が哀願するように母の腕を掴んでそう言うと、母は困ったような顔で振向いた。


…。私だって、そうさせてあげたいわ?でも…ショーンが病院に電話して暫く休ませるって言ってしまったし…
それに今はまだ記者の人がウロウロしてるじゃないの…。行っても病院の皆に迷惑をかけるだけよ?」
「でも…!こんな風にいつまでも閉じこもってたって仕方ないじゃないの…。私は、そんなに酷い罪を犯したの?!」
…」


その言葉に母が悲しそうな顔を見せたが、私は胸の奥から湧き上がってくる感情を抑えるのにギュっと唇を噛み締めた。


「確かに…ダニーを裏切った事は悪いと思う…。でも今は気持ちがないのに結婚するなんて無理よ…
しかも一緒にカナダへ行くなんて…」
…。私だってそう思うわ?好きでもない人と結婚なんて…。でもね?ショーンだってショックだったのよ?
あなたがダニーと結婚して幸せに鳴る事を望んでたのに…嘘をつかれて…あんな雑誌にまで載ってしまったんだから…」
「お養父さんは世間体を気にしてるだけじゃない!病院の関係者や親戚にまでバレて恥をかいたと思ってるからあんなに怒ってるんでしょう?!本当の娘じゃないから私の気持ちなんて理解してくれてない―」
!!」


私の言葉に母が怒鳴った。


「あなた…そんな風に思ってたの?本当の娘じゃないからって?
そんな事を言ったら今まで可愛がってくれたショーンが可愛そうよ?」
「お母さん…だって…私…結婚したくない…」


そう言い終わらないうちに涙がポロポロ零れてきて私は慌てて手で拭うと母がそっと抱きしめてくれた。


…。そんなに…レオナルドの事が好きなの…?ショーンを責めるくらいに?」
「ごめ…なさ…い…。私…が悪いって…分かってるけど…話も聞いてく…れないから…」
…ショーンは貴方に幸せになって欲しいだけなのよ?」
「……?」
「ダニーなら…いいお医者様になるだろうし…ショーンも可愛がってるからを幸せにしてくれると信じてるの…
でもレオナルドは俳優で…派手な世界の人だっていうのもあるし、この前みたくすぐパパラッチとかに追い掛け回されたり…
そういう事を心配してるのよ…。彼と一緒にいたら…が大変なんじゃないかって…。
それに嘘をつかれたのは初めてだから…ショーンなりにショックだったみたいだし…
が嘘をついたのも彼のせいだと、そう思ってるんだと思うわ?」
「そんな…!レオは私に嘘をつけなんて言ってない…!私がダニーに言えなくて…だから…。勝手に嘘をついたのは私よっ」
…分かってるわ?でも会った事もなくて…どんな人なのかも分からないのに、すんなりを渡せる筈がないでしょ?」
「だから…レオは会いに来てくれるって…」
「あんなに記者がいるのに?家の中に入る前に捕まってしまって話どころじゃないでしょう?」
「そ、それはそうだけど…」


私は言葉につまって俯いた。
すると母は私の顔を覗き込んで、「とにかく…もう少し様子を見てから…ね?」と言って微笑んだ。
私は溜息をつくと軽く首を振った。


「そんなモタモタしてたら…結婚させられちゃうもの…」
…」
「私…部屋に戻ってるね…」


そう言って私はキッチンを出た。
そろそろ養父がダニーと帰って来る頃だからだ。
私は一人にしていて欲しいのに、毎晩ダニーが会いに来る。
その度に別れて欲しいと言うのだが彼は聞いてくれない。


…ダニーは私の事を愛してると言うよりは他の男に渡したくないだけなんじゃないかと思った。
愛してくれてるのかもしれないが…どこか歪んでる…と感じた。
この前も私のバッグから携帯を勝手に取り出し、預かると言って持って行ってしまった。
何度も返してと言っているのに返してくれない。
だからレオに電話する事も出来なくて…


(レオ…心配してるかな…)


私は部屋に戻ってベッドに寝転がると溢れ出そうな涙を堪えた。
こんな事なら番号、控えておけば良かった。
家まで行きたくてもパパラッチが前以上に張り込んでいて出ることさえ出来ない。


「はぁ…逃げ出したい…」


仕事にすら行けないなんて…
マークは大丈夫なんだろうか。心配してるんじゃないかな…


私は疲れていた。
色々と考えたり、悩んだりしていて…
レオの声すら聞けなくなってしまって…ますます眠れなくなった。


「レオ…今…どこで何をしてるの…?」



私は小さく息を吐き出して、そう呟いた。



レオに会えないのが寂しくて…レオに会いたくて…恋しくて…













撮影が終った頃、トビーから電話が入り、いつものバーに飲みに行った。
トビーは俺の顔を見るなり抱きついてきて、「レオ、大丈夫?」と心配そうに聞いてきた。
俺は、「どうかな?」 と答えて、ちょっと苦笑した。
心の中で全然、大丈夫じゃないよな…と思いながら…。


「でもさぁ…。娘を監禁するってどういう親だよなぁ~?仕事にも行けないなんて可愛そうだよっ」


トビーがウイスキーを飲みながら怒っている。


「全然、連絡取れないの?」
「ああ…かけても電源切れたまま」


俺はウイスキーの入ったグラスの大きな氷を指で回しながら溜息をついた。
トビーは少し俯き、俺をチラっと横目で見ると「そっかぁ…。まさか…このまま結婚なんてしちゃわないよな?」と呟いた。
俺はその言葉に少し顔を顰めると、「そんな不吉なこと言うなよ…」と言って煙草に火をつけると軽く煙を吐き出す。



「でもさ…このまま会えなかったら…どうする?」
「そんな事は考えたくもない」
「だって…それも有り得るだろ…?」
「有り得ないよ!俺とは…絶対に大丈夫って信じてるから…」


俺がそう言うとトビーはちょっとホっとしたように微笑んだ。


「そっか!レオがそう言うなら…大丈夫だよね?」
「ああ…」


俺はウイスキーを一口飲むと、そう頷いた。
トビーは安心したようにバーテンにお代わりを頼んでいる。


「これと同じのね? ―でもさあ、レオが悪く言われるかと思ったら全く逆だし驚いたよね?
今朝の業界ニュース見てたらさ~。ロスの街の人の声とか言うのやってて答える人、皆が皆、
"二人をそっとしておいて上げて欲しいわ?"とか、
"レオの今までの恋人の中で彼女が一番愛されてると思う。レオはやっと愛する人をみつけたのね"
とかって声が多かったよ?それって凄くない?普通なら叩かれてもおかしくないのにさ~。
だからなのか他の雑誌とかはレオの事をあまり悪く書いてないよね?」


何故だかトビーの方が嬉しそうに話してるから俺は笑ってしまった。


「何でお前が嬉しそうなんだよ?」
「だってさぁ~。何だか嬉しくない?皆は二人にあった事とか知らないのにそうやってレオの気持ちって言うかさ…
彼女への想いみたいなのを分かってくれてるって感じで…あ、それともレオの今までの行動からすると信じられなかったのかな?
そうやって一人の女の子に入れ込んでるってのも。それにちゃんが一般人ってのも高感度アップなのかもね?」
「そんなの関係あんの?」
「あるだろぉ?俳優ってのはモデルとか同じ業界人と付き合うのが多いしさ。
レオだって今までは、そう言うのばっかと付き合ってたし…
なのに今回、一般の子と障害のある恋を選んだってのはさ、ファンにしても驚いたんだじゃないの?
そうそう!そう言えばそのニュースで最後にコメントしてた女性が、
"まさにロミオとジュリエットみたい!レオはプライベートでもロミオを演じてるのね!"
なんて言って感激してたよ?それ聞いて俺も、おぉ~ロミジュリかぁーーって感動したもんね?」


俺はそのトビーの言葉に笑ってしまった。


「お前なぁ…。…実際にあんな恋愛したくないよ…」
「えぇ?!何で何で?」
「何でって…忘れたのか?あれ最後は悲劇で終るんだぞ…?
あんな結末になるかもしれないって思ったらロミオなんて演じてる場合じゃないよ」
「あ…っ。そっか…!」


気付いて口をあけてるトビーに俺は苦笑した。


「俺は…映画みたいな恋じゃなくていいから…と一緒にいたいだけなんだ…。望むのは…それだけだよ…」
「レオ…」


俺はウイスキーを軽く飲み干して、少しだけ溜息をついた。


「会いたいよ…に…」


そう言うとトビーは俺の肩にポンっと手を置いて、「会いにいけよ…」と言った。


「あんなパパラッチが張ってったら無理だよ…」
「いや…いいこと思いついたんだけど…」
「は?何…?いい事って…」




その言葉に眉を寄せると、トビーはニヤっと笑って俺の耳にそっと耳打ちをした。
















コンコン…


?」
「どうぞ…」


私はノックの音に起き上がると、そっとベッドを降りてベランダに歩いて行った。
すぐにドアが開き、ダニーが入ってくる。


「ただいま」
「………」


ダニーがベランダに歩いてきて私を後ろから抱きしめてきた。


「やめて…」


その腕を離そうと体を捩るも、ダニーは腕の力を強めて更に私を抱きすくめる。


「ちょっとダニー…」
「俺は婚約者なんだから…抱きしめるくらいいいだろ?」
「私は…もう婚約者って思ってないもの…」


私がそう呟くとダニーは思い切り溜息をついた。


「一方的に浮気されて婚約解消したいって言われて…。はい、そうですかって聞けると思う?」
「ダニー…」


ダニーは腕を離すと私を自分の方に向けた。


「俺は…と結婚して…。一緒にカナダに行きたいって思ってる。だってそのうち彼の事忘れるさ」
「そんな事はないわ?私は―」
「じゃあ、あいつがのこと忘れるよ」


そう言うとダニーは怖い顔で私を見た。


「彼とは…住む世界が違うだろ?彼の周りには奇麗な女性ばかりいるし…会えないより他の女性に目がいくよ、きっと」
「そんなこと…」
「ないって言える?会いにもこないじゃないか。彼の何を、そんなに信じてるんだ?」
「私は…っ。 ―私が信じてるのは…レオの言葉だけよ…?」
「言葉?言葉ほど曖昧なものはないね。だって俺の事を好きだって言ってくれてたのにこうして心変わりしてるじゃないか」
「それは…っ」
「彼だって同じだよ…。今は…の事を本当に好きなのかもしれない。でも他に目移りするって事もあるだろ?
あの世界の住人なんてそんなもんだよ。毎日、くっついたり別れたりしてるじゃないか。には合わないよ」


ダニーは、そう言って部屋の中へと入った。
私はそれを追いかけて行くと、


「それでも…私は…レオが好きなの…。いつか…振られるかもしれないけど…それでもいい」


と言った。
それにはダニーも驚いた顔で振向く。


「何だよ、それ…。振られてもいいだって?今さえ良ければいいのか?俺を裏切ってあいつに走って…。
俺との結婚より…いつか振られるかもしれない男の方がいいって?!」
「レオは…ちゃんとプロポーズしてくれたわ?!」


私はダニーの言葉にカっとなってつい言ってしまった。
するとダニーは一瞬、驚いたように目を見開いたが急に笑い出した。


「アハハハ…っ。プロポーズって…そんなの信じてるわけ?彼が結婚してくれるって?」
「…信じてるわ?結婚するとか、しないとかじゃなくて…レオの気持ちを…」


私はそう言いながら涙が浮かんできた。
それに気付いたダニーは私の腕を引っ張って抱きしめてくる。


「やだ…っ。離して…」
「……渡さないよ」
「…え?」
「あいつと結婚?冗談じゃない…。…君は俺の婚約者だ」
「ダニー…だからそれは…」
「いい加減にしろ!何でそう勝手なんだよ!!」


いきなりそう怒鳴られてビクっとなった。


「ダニー…」
「俺のプロポーズを受けておいて…勝手に浮気して…あげく俺と別れてあいつと結婚する?バカにするのもいい加減にしろ!」


ダニーは見た事もないくらい怖い顔で私の腕を掴んだ。


「ぃた…っ」


腕の力の強さに私は顔をしかめた。


「ダニー…私が…悪いって分かってるわ…?でも…気持ちは…変えられない…。浮気じゃないもの…」


私は腕の痛みに我慢してそう言うとダニーはふっと力を抜いて腕を離した。


「浮気じゃない…。本気だって言いたいの?」
「…そうよ…?」
「ふん、そうか…。…あいつは…俺と君が婚約したのを知ってたんだよな?」
「…え?」
「知ってて…に手を出したんだろ?」
「……ダニー?」


私はダニーの言葉に嫌なものを感じ不安になった。
するとダニーはちょっと笑って、「俺が…あいつを訴えるって言ったらどうする?」と言ってベッドに腰をかけた。
私はその言葉を信じられない思いで聞いていた。


「俺との事を知ってて、それでに近づいたなら…俺はそうする権利があるよな?結婚前の婚約者に手を出されたんだから」
「ダニー…嘘でしょ…?」
「何が?」
「そんな訴えるなんて…」
「さあ?が素直に戻って来てくれれば…俺は何も文句はないけどね?」
「そんな…」
「ま、考えておいて」
「ダニー…っ」
「じゃ、そろそろ帰るよ。明日、こっちで久々にオペがあるんだ」


ダニーはそう言ってベッドから立ち上がるとドアの方に歩いて行った。


「明日は遅くなりそうだから来れないけど…明後日、また来るよ」
「ま、待って、ダニー!私の携帯、返して?」
「携帯?ああ…それはさっきの返事次第かな?」
「そんな…っ」
「じゃ、おやすみ…」


ダニーはそのまま部屋を出て行ってしまった。
私はその場に立ちすくんで、さっきダニーが言っていた言葉をくり返し頭の中で考える。


"あいつを訴えるって言ったらどうする?"


(ジョーが心配してた通りになってしまう…。そんな…そんな事だけは…)


私は…どうしたらいいの…?
今は…あの記事を読んだ人から励ましの言葉や応援の言葉が多いけど…
裁判沙汰になってしまったら…レオの方が不利なんじゃないか…
人の婚約者を取って訴えられたなんて…イメージダウンもいいとこじゃないだろうか。


そう思うと胸がギューっと苦しくなる。




レオ…


「会いたい…」


そう呟いた時にベランダの方でガサっと音がしてビクっとなる。


振向いて見るが何もない。
私は恐る恐る外に出て周りを見渡した。
だが目の前に見える隣の家…ニコラスの家は真っ暗で下の庭にも人の気配はしない。


(もしかして…パパラッチが…?)


そう思うと少し怖くなり私は家の中に入ろうとした。
その時、すぐ近くで、またガサっと音がしてドキっと心臓が跳ね上がった。


「だ、誰かいるの…?」


ビックリするくらい小さな声で言ってみるが何の返答もない。


(どうしよう…ほんとにパパラッチだったら…)


そう思って後ずさった瞬間、ベランダの縁にヌっと手が伸びてガシっと掴んだのが見えて、「キャ…っ!」と声を上げてしまった。


「だ、誰か…っ」


助けを呼ぼうと部屋の中へ入ろうとした時――












…!俺だってば…!」




と聞こえて、その声に思わず胸がドキンっと高鳴る。
そっと振り返ると、ピョンっと柵を乗り越えてレオが入って来た。


「レオ…?」


私は幻を見てるんじゃないかって思った。
だが不意に抱きしめられ、その腕の強さと懐かしく感じる温もりに包まれた時、一気に胸が熱くなって涙が溢れてくる。


…会いたかった…」


レオはそう呟くと私の頭に頬を摺り寄せた。


「レオ…。ほんとに…?」
「ああ…。本物だよ?」
「ど…して…?」


私はレオが会いに来てくれた事が嬉しいのと信じられないのとで、ついそう聞いていた。
するとレオは少しだけ体を離し、私の顔を覗き込むと、


「ちょっと…お隣さんに協力してもらったんだ」


と言って微笑み、後ろをチラっと見た。
私も隣を見るとちょうど私の部屋の真向かいの部屋から、誰かが手を振っているのが見える。


「あれ…ニコラス…と…ジョニー…?」
「うん」
「な、何で…」
「ああ、には言ってなかったけどニコラスはジョニーと古くからの知り合いでさ?
俺も前に何度か一緒に飲んだ事があるんだ。
それで…彼に頼んで…彼の家の庭からんちの庭まで忍び込んだってわけ」
「え…えぇ?!」
「だっての家の周りはパパラッチが見張ってるしさ…。だから車で二コラスの家まで入って、
の部屋は門から見えない位置の二コラスの家側にあるって言ってたろ?
だからそれなら見付からずに入れるかなって思って…下から上って来ちゃったんだ」


そう言ってイタズラっ子のように笑うレオに私は思わず怒ってしまった。


「そんな…もし上ってる時に落ちたらどうするの?大怪我しちゃうじゃないの…っ。まだ撮影も終ってないのに…!」
「だって…そうでもしないとにいつまで経っても会えない気がしてさ…」
「でも…っ」
「会いたかったんだ…」
「………レオ…」
「凄く会いたくて…死にそうだった…」


レオはそう言うと私をギューっと抱きしめた。
恋しくて堪らなかったレオの腕の温もりに涙が溢れてくる。


「私も…凄く会いたかった…。毎日…不安だった…」
…俺もだよ…?」


レオはそう言うと私の額に口づけて、そのまま流れる涙を唇で掬ってくれる。
私はレオにしがみつくのが精一杯で、驚いたからか足の力が抜けていくのを感じた途端、レオに抱き上げられた。


「……ひゃっ」
「部屋に入っても?」
「え?う、うん…」


私が頷くとレオはチラっと二コラスの家の方を見て、


「あそこにまだ覗き魔がいるからさ?続きは中でしよう」


と言って私の頬にチュっとキスをした。確かに窓のところに二つの影が見える。
私はレオの言葉に顔が赤くなったが素直に嬉しかった。
レオは私を抱いたまま部屋の中へ入るとベッドの上に下ろしてまたギュっと抱きしめてくれる。
そしてすぐに離すと隣に座って私の頬を両手で包んだ。


…少し痩せた…?」
「え…?そ、そう?」
「うん…。眠れないの?ちゃんと食べてる?」


そう聞いてくるレオの瞳は本当に心配そうで、でも優しくて私は胸が熱くなった。
軽く首を振ると、「あまり…眠れないし食欲もないの…」と呟く。


…」


レオは優しく私の頭を撫でながらそっと頭に口付けてくれた。


「最近…連絡取れなかったから…凄い心配した…何か…あった?」
「あ…あの…携帯を…」
「ああ…やっぱり取られた…?」
「え?な、何で分かるの…?」
「何となく…?そう思ったからこうして会いに来た…」


私はレオの言葉を聞いてふと思い出した。
そして思わず笑顔が零れる。


…?何笑ってるの?」
「だって…レオってばロミオみたいだよ?」
「え?」
「ほら…映画で…こうしてジュリエットに会いに来たシーンがあるでしょ?雨の日に…」
「ああ…そう言えば…あったっけ…」
「私…あのシーンも好きなの…」


私はそう言ってレオの胸に頭を寄せた。
するとレオは私の顎を優しく持ってそのままそっと唇を塞ぐ。
レオの唇の感触にドキンっと胸が鳴ったのを感じ、ギュっと服を掴むとレオはゆっくり唇を離した。


…まだ…お父さん、許してくれない?」
「…ぅん…」
「そっか…。ダニーも?乱暴なことはしたりしない?」
「……ん」


私はダニーの名前を出されてドキっとした。
さっきのダニーの言葉を思い出したからだ。


「あの…レオ…」
「ん?」


この時、優しい瞳で私を見つめるレオが心の底から好きだ…と思った。
こうして…見付かるかもしれない中で…会いに来てくれた…と思うと嬉しくて堪らなかった。


(レオに…これ以上、心配かけたくない…)


私はそう思ってちょっと微笑んだ。


「ううん…。会いに来てくれて…ありがとう…」


そう言うとレオは照れくさそうに微笑んで私の頬にチュっとキスしてくれた。


…俺…のお父さんと話したい」
「…え?!」


不意にそう言われて私は驚いて顔を上げた。


「ちゃんと…俺の気持ちも聞いて欲しいんだ…。このままだとがあいつと結婚させられちゃうかもしれないって思ったら、
俺、不安で堪らなくなる…。俺が真剣だって分かってもらいたいし…。ちゃんと話せば分かってくれるかもしれないだろ?」
「レオ…」
「今日は…忍び込んじゃったから無理だけどさ。近いうちに話したいって俺が言ってるって伝えてくれないか?」


レオは真剣な顔で私を見つめる。
私はその言葉だけで充分に満たされた。


「あ~…泣かないでよ…。こうして会えたんだから…笑顔見せて?」


レオはそう言って私の頬に零れた涙を指で拭うと、そのまま頬にキスをしてギュっと抱きしめてくれる。


「分かってくれるまで…話すから…。何度でも…」
「……ん…ぅん…」


レオの言葉が嬉しくて私は頷くだけで精一杯だった。


撮影中の忙しい中でこうして私の事を考えてくれる…
それだけで充分…
これ以上、心配かけて撮影に支障をきたしたら…と思うとダニーの事は話せない…。


…?」
「…ん?」


レオは少しだけ体を離して私の頬を両手で包んだ。


「まだ…病院に行けないの?」
「…うん…。行けば皆に迷惑かけるからって…。マークのことも心配なのに…」
「そうだよな…。あ、俺が様子見てこようか?」
「え?」
「俺が病院に行って…マークに会ってくるよ」
「で、でも記者が張ってるのよ…?」
「大丈夫だよ。あいつらはを張ってるんだ。まさか、その中に俺が来るとは思わないだろ?それに…
見付かってもいい。俺がマークを可愛がってるのはもう調べてあると思うしさ」
「レオ…」
「だからそんな心配しないで…ね?」


レオの優しい笑顔に私は嬉しくて嬉しくて気持ちが溢れて来た。
言葉で言い表せない想いが、こんなに胸の奥を熱くしてる。
私はレオにギュっと抱きついた。


こんなに寄り添っても、まだ足りない…レオの体の一部になりたくなる。
この気持ちをどう伝えよう…何て言えばいい…?


そう思った瞬間に気づいた。


(ああ…この気持ちが…レオが言ってた事なんだ…)


"言葉で表せないから…体で…"


その気持ちが今なら理解出来る。
今、素直にレオに抱かれたい…と思った。
レオも同じ気持ちだったのかもしれない…
少し体を離したと思った瞬間、優しく口付けられた。
そのまま二人で静かにベッドへ倒れこむ。
私はレオの唇を受けながらこのまま溶けてしまいたくなった。


…愛してる…」


レオは何度もそう囁いて私の体に口付けていった―









「愛してる…」


今、気持ちを表せるのはこの言葉しかなくて、俺は何度もその言葉をくり返し囁いた。
抱いても抱いても、まだ足りない想いをぶつけるかのように俺はの体に溺れていく。
彼女の吐息を感じながら、深く深く愛撫を繰り返し、ほんのわずかな隙間さえ埋めつくかのようにを抱いた。
も同じ気持ちなのか、それに答えるかのように俺を強く抱きしめてくれる。


そんなささやかな事でさえ、心が満たされて溢れ出そうになった―
















静かな部屋の中にの寝息だけが聞こえて俺は思わず笑顔になる。
彼女の体をギュっと抱き寄せてそっと額にキスを落とした。
俺の腕の中で安心したように眠る彼女の顔があどけなくて愛しさが込みあげて来る。


…好きだよ…?」


の額に唇を寄せてそう呟けば少しだけ顔が動いて、またスヤスヤと寝息が聞こえてくる。
俺はちょっと微笑んでゆっくり瞳を閉じた。
この数日間、のいない空間が寂しくて何度も夢を見た。


二度と会えなくなる夢…
彼女が去って行く夢…


その度に俺は飛び起きて胸が痛くなった。


でも今は…こうして俺の腕の中にいる。
それだけであの不安が吹き飛んでしまう。


の為なら…どんな事でも耐えられる。
何でも出来る気がした…


鳥の鳴き声が聞こえて、ふと目を開けて外を見ると薄っすらと明るくなってきた。
その陽射しを見て俺はツキンと胸が痛む。


また…この温もりを離さないといけない…
今度は…いつ会えるんだろう。


俺は少し体を起こすと彼女の白い肩に唇をつけた。


「ん…」


少しだけの体が動いて俺はもう一度、今度は彼女の頬に口付け、そのまま唇にも口付けていく。


「んん…レ…オ?」


かすかに声が聞こえたが俺は構わずの唇を塞いで、そのまま深く口付けていった。
少しだけ開いた隙間から舌を忍ばせの口内を優しく愛撫していくと、ビクっと体を反応させて眉間を寄せながら甘い声を洩らす。


「んぅ…レ…オ」


その声すら飲み込むように更に深く口付けてから、ゆっくり唇を離し、最後にチュ…っと軽くキスをした。
は静かに目を開けると薄っすらと頬に赤みをさしていく。


「レオ…起きてた…?」
「ちょっと前にね…?」


の額にコツンと自分の額をあてて鼻先をつけると彼女が優しく微笑んだ。


「夢かと思った…」
「……ん?」
「レオの温もりを感じた時…。会いたくて堪らないから…夢を見てるんだって…」


はそう言うと俺の唇にそっと触れる程度のキスをしてくれる。


「好き…」


そう言ってちょっと照れくさそうに微笑む彼女が愛しくて、俺はもう一度優しく唇を塞いだ。
チュっと音を立てながら啄ばむように口付け、時折、軽く唇を噛むとが俺の腕をギュっと掴んでくる。
最後に唇をペロっと舐めて、そのまま頬にもキスをして耳もとにも唇を這わせ軽く噛めば、も甘い声を出した。


「ん…っ。くすぐったい…」


そんな事を言うが可愛くて、俺はちょっと微笑むともう一度、耳に今度は舌を這わせて行く。


「ん…っ」


の体がビクっと震え、俺の腕をまた強く掴んだ。
俺はそのまま首筋に唇を下げてチュっとキスを落としていく。


「ん…っ。 レ…オ?」


小さな声で俺を呼びながらが体を捩り、シーツを引っ張ると体を隠してしまった。


「ん…どうしたの?」


俺がの頬にキスをしながらそう聞けばの顔が赤い事に気付いた。


「だ、だって…明るいから・…」
「え?」
「……恥ずかしいよ…」


はそう言うと横を向いたまま。


「恥ずかしいって…明るいから見られるのが恥ずかしいの?」
「…ぅん…」


小さく頷くに俺もちょっと顔が綻んでしまう。
確かにカーテンが少し開いたままで外が明るくなってきたからか部屋の中にも陽射しが入って来ている。
それではシーツで隠してしまったようだ。


…そんな隠さないでよ…。奇麗だよ?」
「…ゃだ…」


俺がの顔を覗き込んでそう言うもは赤い顔のままギュっとシーツを掴んで離さない。
その仕草が何とも可愛くて俺はちょっと苦笑した。


、それって逆効果なんだけどな?」
「………ぇ?」


その言葉に、が少しだけ顔をこっちに向けた。
俺は素早くの唇を塞いで、シーツを掴んでいるの手を、そっと外していく。


「ん…レ…オ…」


俺の口の中での声が消えていくのを感じて少しだけ唇を離すと、


「そうやって可愛く隠されると…俺は襲いたくなっちゃうからさ…?」


と言った。
そして何かを言おうとしたの唇をまた塞いで優しく口付けながら、体に纏っているシーツを捲っていく。


「んぅ…ん…」


は最後の抵抗なのか体を捩りながら俺の手を抑えるように掴んでくる。
そんな彼女に内心、苦笑しながら少し強引に舌を入れるとの舌と絡めて思い切り吸い上げた。


「んうぅ…っ」


ビクンとの体が跳ね上がり、俺の手を掴む力が少しだけ緩んだ。
そのままの手を握り返し、ゆっくり顔の横に固定して俺はの上に覆い被さりキスを深めていく。
口内を愛撫しながら何度か舌を吸い上げる度にかビクっと反応し、瞼を振るわせた。
そのままそっと唇を解放すると首筋、そして胸へと唇を這わせてチュっとキスをしていった。
は諦めたのか体の力を抜いて素直に俺の愛撫を受けている。
それを確認すると俺はまたの唇に軽くチュっとキスをした。


…そんなギュって目を瞑らなくても何もしないよ?」


そう言ってまた唇にキスをするとが驚いたようにパチっと目を開けた。
俺がちょっと微笑むと更に顔を赤くして口を尖らせる。


「も、もぅ…レオの意地悪…っ」
「アハハ…っ。また襲われるかと思った?」
「……し、知らないっ」


はそう言ってぷいっと顔を横に向けてしまう。
俺は苦笑しながらその脹れた頬にもチュっとキスをした。


「だって必死に隠すからさ…。ちょっと俺もムキになっただけだよ?」
「ム、ムキになったって…何でよ…?」


むぅっと口を尖らせたまま俺の方へ顔を向けたのその尖った唇に俺はチュっとキスをすると、


「だって、可愛いからさ?ほんとは半分、襲っちゃおうかなぁって思ったんだけど…」


と言った。
それにはも頬を赤らめてまたシーツを胸元まで引っ張っている。


「あれれ…。警戒されちゃったよ…」


俺はちょっと笑いながら体を起こしての腕を引っ張ってそのままギュっと抱きしめる。


「そろそろ…行かないと…両親が起きて来るだろ?」


俺がそう言うとが悲しそう顔で俺を見上げて来る。


「もう…?」
「ん…。そんな顔しないで…。帰りにくくなっちゃうから…」
「だって…」


は泣きそうな顔で俯いてしまって俺まで悲しくなってきた。


、顔上げて?~?」


俺はの顔を覗き込みながら必死にそう言うが彼女はなかなか顔を上げてくれない。
軽く苦笑して彼女をギュっと抱きしめると、


「俺だって帰りたくないよ?とずっとこうしていたい…。でも、こんなとこ見付かったらますます反対されるだろ…?」


と言っての頭にそっとキスをした。
するとやっと顔をあげてくれる。


「でも…次にいつ会えるのか分からないし…」
「ここで見付かったらもう二度と会えなくなるかもしれないだろ…?俺、そんなの嫌だよ…」
「わ、私も嫌だもん…」


も涙を浮かべてそう言うと小さく息を吐きだしている。
それを見て俺は切なくなりをもう一度、ベッドへ押し倒すと強引に唇を塞いで激しくキスをした。


「んン…っ」


深く口付けての力が抜けた頃にゆっくり解放すると、最後にチュっとキスをして彼女の額にも口付ける。


「レオ…」
「また…絶対に会えるから…」
「……ぅん」


がやっと笑顔を見せてくれる。
だがシーツがなくなり自分の体がもろに見えてると気付くと慌てて手を伸ばそうとした。
俺はちょっと笑ってシーツを取ってあげると自分の上からそれをかぶりの胸元に口付ける。


「ん…っレオ…?」
「映画みたいだろ?」
「…え?」
「こうして二人でシーツの中にいるとさ…」


俺がそう言うとは思い出したのか少しだけ笑顔を見せた。


「ほんとだ…。あの朝のシーンみたいだね?」
「何なら台詞も言いましょうか?ジュリエット!」


俺はそう言ってを引っ張ると起き上がってシーツで体を包んであげた。


「わ…レオ…?」
「ん?」
「あの…動けないよ…?」


そう言いながら可愛く上目遣いで見あげて来るが愛しくて俺はちょっと微笑むと唇にチュっとキスをした。
そして、ふと思い出す。


「そう言えば…あの映画だと、こうしてたら母親がやってくるんだよな…」
「そうだったね…?それでロミオは慌ててテラスから帰っちゃうんだったっけ…」
「何だか…不吉だな…」
「え?」
「やめよう。あの映画の話は…」


俺が顔をしかめてそう言うとが笑った。


「やだ…あれは映画の中の話よ?まさかそんな―」


が言いかけた瞬間…廊下から声が聞こえた。




?起きてるの?」


「「―――ッ!!」」


俺とは顔を見合わせ慌てて離れるとドアの方でノックの音が聞こえる。
急いで服を着るとも近くにあったバスローブを羽織って俺の方に振向いた。


?起きたの?開けてちょうだい?」


母親はそう言いながらノックをしている。


「ど、どうしよう…」


慌てるに俺は素早くキスをすると、「ほんと、最後まで映画みたいだよ…」と苦笑した。
それにはも恥ずかしそうに笑っている。


「じゃ、俺もロミオみたくテラスから帰るかな?」
「レ、レオ…大丈夫?落ちたりしない…?」
「大丈夫だよ。ここのテラス上りやすかったし下りる時も楽勝だからさ?
それに少し下りればニコラスんとこの木の枝が伸びてるから、そこから向こうに飛び降りれるし」
「ほんと?大丈夫?」
「ああ、心配しないで…」


俺はそう言ってもう一度を抱きしめて優しく口付ける。
後ろではノックの音が大きくなっていった。


コンコン…!


?いるんでしょ??」


そっと彼女を離すとが悲しそうに俺を見あげて来る。


「今…開ける…っ」

はドアの方に向かってそう言うと俺の頬に手を伸ばして、「気をつけて…」と言った。
俺は笑顔で頷くとテラスへと出てもう一度を抱きしめる。


「また…会えるから…」
「……ぅん…。私も養父と何度でも話してみる…」


涙を溜めながらそう言うが維持らしくて俺は抱きしめたくなったが、またドアの方で母親の声が聞こえた。


?早く開けなさい!合鍵で開けるわよ??」


「じゃ、俺、行くね…?」
「うん…」


俺がテラスの柵を乗り越えると、が心配そうにしゃがんで、「また…会えるよね…?」と言った。
俺はちょっと微笑むとの唇にキスをして、


「"悲しみが楽しい思い出となる日が来る…。信じて…"」


と言って、にキスをした。
チュっと音を立てて離せばが赤い顔をして俺を見つめている。


「その台詞…」
「ちょっと今の心情と同じだったからさ?」


俺はそう言ってもう一度にチュっとキスをすると、


「じゃあ、俺行くね?こっちには下にプールがないから落ちたら危ない」


と言って笑うと、もやっと笑顔になった。
俺はその笑顔を見て安心するとテラスを下りて行って二コラスの庭の木にポンと飛び移った。
それをが驚いた顔で見ている。
俺はちょっと苦笑すると、


「早 く 戻 れ よ」


と口を動かして軽く手を振った。
もそれに気付き、笑顔で手を振ると名残り惜しそうに振向きながらも部屋の中に入って行く。
それを見届けてから俺はニコラスの庭先に木をつたってポンと降りた。


「まさか私生活でこんな事するとは思わなかったな…」


俺はそう呟くとの部屋を見上げた。
中から母親の声が聞こえてくる。
も何とか誤魔化してるんだろう。


俺はちょっと溜息をつくとニコラスが開けておいてくれると言ったリビングの方に歩いて行った。
そこにいきなり窓が開き、ジョニーがニコニコしながら出てきた。


「お帰り、ロミオ!!」


そう言うや否や両手を広げて俺を抱きしめてくる。


「わっ、ジョニー?!な、何して…まだいたの?ってか酒くさ!」
「当たり前だろう?!最後まで見届けなくてどうする!愛しいジュリエットに会いに行ったロミオを酒の肴にして飲んでたに決まってるだろう!なあ、ニコラス」


ジョニーがそう言って振向くと中からニコラスもふらふらと出てきた。


「そうそう!いやぁ~良かったな?会えて!」
「あ、ニコラス…ほんとありがとう。助かったよ」


俺はジョニーの腕から逃れてニコラスの方に歩いて行った。
するとニコラスも俺にガバっと抱きついてくる。(そして彼もまた酒くさい…)


「いいんだ!協力できて俺は嬉しい!まさか今、騒がれてるお前のハニーが俺の家のお隣さんだったとはな!驚いたよ!」


そう言いながらギュウギュウと抱きしめてくるニコラスに俺はさっきのとの甘い時間が夢のように思えてきた。


「さ、レオも中に入って飲め!」


ニコラスはそう言いながら俺を解放すると腕を引っ張っていく。


「ちょ、ちょっと飲むって朝の8時だよ?それに俺、昼から撮影あるんだ。帰らないと…」
「何だとぉ?!お前ほどの俳優ならドタキャンくらいしてみろ!」
「そんな事出来ないって…。トムとか他の共演者に迷惑かけるだろ?」


俺が苦笑しながらそう言うとジョニーもふらふらしながら歩いて来て、


「あんなトムなんて放っておけ!あいつなら、お前の役まで演じてくれるから!」


と無茶苦茶な事を言っている。


「そんな事、出来るかって…。出来たら怖いよ!」


俺はそう言って苦笑しながら肩を竦めた。


「それに…俺、これから行くとこあるしさ」
「ん?どこに行くんだ?俺達も一緒に行くぞ!なあ、ニコラス?」
「ああ、行くぞ~!」
「この酔っ払い!俺がいなくなってから今まで飲んでたな? ―それにそんな酒臭くしてったら行けないとこだよ」
「あ~ん?どこだ?」
「病院…」
「何?病院?!何だ?どこが悪いんだ?あ、まさか夕べ彼女と出来なかったのか?!役立たずか?お前!」
「アッハッハ!久々に会えたのに役に立たなかったのか~!可愛そうに!」


二人は勝手に決め付けて大笑いしている。
俺は顔が一気に赤くなって、


「うるさいな!違うよ!夕べはちゃんとでき…っ」


と思わず言いかけて手で口を塞いだ。
それには二人もニヤニヤしながら近寄ってくる。
俺は身の危険を感じて後ずさってしまった(!)


「そうかぁ~夕べはちゃんと出来たのかぁ~。このスケベが!」
「ぐ…苦しいって…っ」
「お前、人んちの隣で何してるんだ、このスケベ!」
「いぃ、痛いってニコラス…っ」


二人は俺の体を羽交い絞めにして首を絞めるわ、頭を拳でグリグリするわで手におえない。


「何だよ、二人して…!出来なかったらバカにするクセに、したらしたでスケベ呼わばりかよ…感じ悪い…」
「まあまあ!いいじゃないか!出来たんだから!な?で、何で病院なんだ?」


ジョニーはやっと腕を離してそう聞いてきた。


「ああ、の働いてる病院だよ?彼女の担当してるマークって子がいるんだけどさ…。
が心配してるし…俺も暫く会ってないから様子見てこようかと思ってね」
「何だ?子供?そうかぁ~!お前たち、いつの間になぁ…!へぇ~!」
「ちょっとジョニー…ちゃんと聞いてた?」
「ん?聞いてるぞ?二人の子供が入院してるんだろ?」


「…………俺…行くね…」


「ああん?そうか?じゃ、気をつけて行けよ?」
「うん。ジョニーもね…。あまり飲みすぎないように…。次の撮影が近いんだろ?」
「ああ、そうなんだよ!じゃ、ニコラス、飲みなおすか!」
「そうだな!じゃ、レオ、またいつでも彼女に会いたくなったら俺のとこに来いよ?!」
「ああ、ありがとう…」


彼の言葉に俺は笑顔でお礼を言うと、そのまま自分の車を止めた場所まで歩いて行った。


「はぁ…朝から酔っ払いジョニーを見ると強烈だな…。ってかニコラスもだけど…やっぱ類友って事か…」


俺は苦笑しながら車に乗り込むとエンジンをかけた。
ふとの家の方を見てみる。
の部屋は今は窓が閉められていた。


…必ず…奪いに行くから…それまで…




俺は胸が痛くなり、ちょっと溜息をついて車を発車させた――
























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ACT.17...絶望的な嘘>>


わぉ。ダニーの悪役っぷりが炸裂しております(苦笑)
ほんとにロミジュリのようですねぇ…くすん。
あの朝のシーンも凄く好きで、ここはこの展開になった時に書こうと決めておりましたvうっふっふv
さて…しばしの甘い時間を過ごせましたが今後はいかに…


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


C-MOON...管理人:HANAZO