Catch me if you can.......~A
real love ?... or... fake love?...~
あの日 見てた星空 願いかけて 二人探した光は
瞬く間に消えてくのに 心が 体が 君で輝いてる…
ACT.17...絶望的な嘘
久し振りの病院に俺は少しだけ懐かしく感じた。
数日間なのに…随分と来てない気がする。
俺はと約束した通り、マークに会いに病院へと来た。
やはり数人、記者らしき姿が見えて俺は帽子を深くかぶりサングラスをした。
そのまま足早に病院内へと入ると受付にキャシーが座っていた。
「Hi.キャシー」
「え?あ…っ」
「しぃ…っ。マスコミの人間がいるんだ。静かに」
俺がそう言うとキャシーは小さく頷き、後ろにいた看護婦に、「ちょっと、ここお願い」と言って立ち上がった。
「こっちに来て」
キャシーはそう言うと廊下を歩いて行く。
俺は黙って彼女について行った。
キャシーは一階奥の"資料室"と書かれた部屋へ俺を入れると廊下を見渡してからドアを閉めた。
そして俺の方に振向くと肩をすくめて苦笑いを浮かべる。
「ふぅ…。何だかドキドキしちゃった」
「ごめん…。仕事中に」
「いいの。私も心配してたし…。それより…は?元気にしてるの?」
「ああ…。家に閉じ込められたままだけど…」
「そうなの?じゃあ…暫く休むって…マスコミを避けるためじゃ…」
「表向きはそう言ってると思うけど…勝手に父親が連絡しただけなんだ」
「そう…え?じゃあ…やっぱり二人は反対されてるの?」
「…まぁね」
「辛いわね…。でも…私も驚いたのよ?いつの間に?ってね。はダニーを愛してると思ってたし…」
キャシーは俺の方を見てそう言った。
「俺が…を諦めきれなかっただけだよ」
「そう…レオは本気だったのね、の事…。でも、なら別に反対される理由は…ダニーとの婚約だって破棄できるんでしょ?」
キャシーの問いかけに俺は首を振った。
「解らない…。今のとこ…ダニーは婚約解消する気はないみたいだよ?」
「えぇ?そうなの?だって…だって今はもうレオのこと愛してるんでしょ?そんな子と結婚したって幸せには…」
「俺も…そう思うんだけどさ…。ダニーにしたら違うみたいだな…」
俺はちょっと息を吐き出し窓の方へ歩いて行った。
「じゃあ…はダニーと結婚をしなくちゃならないの?」
「それは…止めてみせるよ。何としてでも…」
「レオ…カッコイイわね?」
「え?」
キャシーの言葉に俺は一瞬、呆気にとられて振向いた。
「だって!それだけを愛してるって事でしょう?映画ではなく…現実に彼女の結婚を阻止するなんて素敵よ!」
「キャシー…そんな呑気なこと言わないでくれる?気が抜けるよ…」
俺は苦笑しながら近くの椅子に腰をかけた。
「ごめんなさいっ。そうね?当人は辛いわよね…?」
「俺より…が心配なんだ…」
「…家に監禁なんて…大丈夫かしら…」
「ちょっと…元気ないかな?」
「そう…。あ…それと…レオ、今日はどうしたの?何か用事?」
「ああ、今日は…マークに会いに来たんだ。も心配してたしさ」
「そう。マークは元気よ?今は私がの代わりに担当してるの」
「そうか…。良かった…」
「でも…毎日、やレオに会いたいってボヤいてる…。どうして来てくれないの?って…。
の事は…ちょっと家の用事で休んでるって事にしてるんだけど…」
「そうか…」
「あ、でもね?マーク、一時、退院出来る事になったのよ?」
「え?ほんとに?!」
俺はキャシーの言葉に思わず笑顔になった。
「ええ。本当に。最近は発作も起きなくなったし…。完治する病気ではないけど…家の方でも安静にしてれば…って事で」
「そうか…。良かった…。ほんと良かった…っ」
俺は心底ホっとして胸が熱くなった。
するとキャシーが時計を見て、
「あ、いけない…。そろそろマークを庭に連れて行ってあげないと…」
「俺も行っていい?」
「いいけど…マスコミがいるんじゃ…」
「別に見付かってもいいさ。マークに会いに来ただけだ」
「でも…。あ、じゃあ、私がマークをこの部屋の辺りまで連れてくるわ?」
「え?」
「ほら、窓の外見て?」
キャシーにそう言われて俺は立ち上がって窓の外を見ると噴水が見える。
「この窓の下辺りに連れて来るから、レオ、ここで待っててよ」
「OK.解った」
「じゃ、すぐ行ってくる」
キャシーはそう言うと急いで資料室を出て行った。
俺は窓を開けて外を覗き込む。
ここは一階だからここから楽に外に出れそうだ。
「何だか俺、夕べから窓を出たり入ったりしてばっかりだな…。泥棒の気分だよ…」
ちょっと苦笑しながら呟いた。
空を見上げると今日も奇麗な青空で気持ちがいい。
(こんな日に…とマークの3人で一緒に過ごしたかった…)
俺はちょっと溜息をついてボーっと空を眺めていた。
すると遠くからマークの笑い声が聞こえてくる。
「来たかな…?」
そう思って顔を出すとマークとキャシーが見えてきたので俺は声をかけようと身を乗り出した。
その時、二人の後を追うように記者らしき男が二人、走って来たのが見えて俺は反射的に隠れてしまった。
「ちょっと…君がマーク君かな?」
「…おじさん達…誰?」
窓の下に隠れていたが窓は開けたままなので会話が聞こえてくる。
「ちょっと…困ります!この子は病人なんですよ?部外者は出ていって下さい!」
「まあまあ、看護婦さん。そう固いこと言わないで…ちょっと話聞くだけだからさ?」
「そうそう。なあ、君、君は…とレオがここで密会してる時にいつも一緒にいたんだってね?」
「みっかい…?何それ?」
「だ、だから…隠れて会うって事さ」
「とお兄ちゃんが?別に隠れてなんかいなかったよ?僕とここで普通に遊んでたんだから」
俺はマークの言葉に思わず笑いを噛み締めた。
きっと記者の奴等は困った顔をしているだろう。
「それより、おじさん達こそ誰?お兄ちゃんの知り合い?」
また答えに困る事を聞いている。
案の定、記者の男は二人とも言葉が詰まっている様子だ。
「ああ…いや…その知り合いって言うか…。まあ…仕事関係の方でね?」
「へぇ。お兄ちゃんの仕事?どんな仕事してるの?そう言えば僕、お兄ちゃんの仕事知らなかったんだ」
「え?そ、そうなの?」
「うん。知らないんだ」
「そうか…。あのね…レオナルドの仕事は…俳優なんだよ?」
「え?そうなの?!」
やはり子供だからか、そう言われても、すんなりと信じてしまうところがマークらしい。
「へぇ~お兄ちゃん俳優さんなんだ!凄いなぁ!だからあんなに、カッコイイんだね!」
「そ、そうだね?ハハハ…」
俺はそれにも噴出しそうで必死に堪えていた。
「じゃぁさ。おじさん達も俳優なんだ?」
「え?」
「だって仕事関係って言っただろ?何、おじさん達はどんな映画に出てるの?アクション?あ、その顔は悪役でしょ?」
「…ぶ…っ」
俺は限界が来てちょっとだけ噴出してしまったが気付かれなかったようだ。
記者の二人は困った様子で、
「い、いや…俺達は…俳優じゃないんだ…。その…インタビューをして本に書く仕事をしてるんだよ?」
と説明している。
「何だ、そうなの?じゃあ今日は誰のインタビューしに来たの?」
「そりゃ…もちろん君さ」
「え?僕?僕に何を聞きたいの?」
「だから…レオナルドと…君の担当看護婦だったという子の仲と言うか…」
「ああ、とお兄ちゃんの仲?そりゃ二人はよくケンカしてたね?」
「え?ケ、ケンカ?」
「ケンカって言うより、がいつも一人で怒ってるんだ。お兄ちゃんはに夢中なのにさ?」
「そ、それを聞きたいんだよ、マーク」
「え?どれ?」
「だから…その二人が仲のいい姿を見てるんだろう?」
「うん。もちろんさ」
「それと…という看護婦はどんな人だったのかな?」
「どんな人って…凄く…怖い時もあるけど…それは僕のためを思って怒るだけで…普段は本当に優しいんだっ。
それに子供の僕に付き合って必死に遊んでくれるし、最後は自分が僕より夢中になっちゃうんだよ?大人げないだろ?」
楽しそうにそう話すマークに俺は胸が熱くなった。
3人で遊んでた頃を思い出し懐かしさで胸が一杯になる。
だが記者は、ちょっと笑うとマークの話を遮った。
「優しいねぇ…。でも…男にはだらしないとか、そういうところはなかった?」
「え?」
「ちょっと!子供に何てこと聞くんですか?!」
今までマークの受け答えに笑いを堪えていたキャシーが、その質問には腹が立ったらしく記者二人に文句を言った。
だが記者達は更に笑うと、「担当看護婦の本当の事を知っておくのも患者には必要だろ?」と言って言葉を続けた。
「マーク。はね、婚約者を捨ててレオナルドの元へ走ったんだ。婚約者を裏切った悪いお姉さんなんだよ。
他にもあったんじゃないかな?何か知らない?」
「…何の事さ?」
「だから…婚約者やレオナルドの他にも…男が会いに来てたとか…マークのところへ来なかった?」
俺はその質問に腹が立った。
の事を男好きみたいにマークに話すのが許せなかった。
だが、その記者は更に質問していく。
「はね、君に見せる顔の他にも違う顔を持ってるかもしれないんだ。何か知らないかな?」
その質問に俺は我慢出来なくなり出て行こうとした。
だがそこでマークも何かを察したのか突然怒り出した。
「おじさん…さっきから何言ってるの?」
「え?」
「は僕の母親代わりをしてくれてる優しい看護婦さんだよ!悪いお姉さんなんかじゃない!
それにはお兄ちゃんが好きになっただけだよ!
あんな監視するみたいに会いに来る婚約者の人より…お兄ちゃんの方がずっとずっとの事を大事にしてたよ?
だからだってお兄ちゃんの事を好きになったんだ!それのどこが悪いの?!何での事を悪く言うの?!」
「あ…いや…その…そんな怒らないで…ね?」
マークの勢いに記者の男達はオタオタしている。
俺はマークの言葉に胸が熱くなり、立ち上がるとひょいっと窓から外に飛び降りた。
「マーク!」
俺がそう呼ぶとマークは驚いた様に振向いた。
「お兄ちゃん?!来てたの?!」
そう言って走って来ると俺に飛びついてきた。
肩がかすかに震えていて、泣くのを堪えてるのが解り、俺は呆気に取られた顔でこっちを見ている記者二人を睨みつけた。
「こんな…病気の子供に、そんな話聞いて楽しいか?」
「あ、いや…」
「行けよ…。もう二度と、ここには来るなっ!!」
俺がそう怒鳴ると記者二人は顔を見合わせ慌てて門の方へ走って行ってしまった。
それを見届けると俺は腕の中で肩を震わせ声を殺して泣いているマークを力いっぱい抱きしめる。
「マーク…ごめんな?嫌な思いさせて…」
「うう…ん…ひっ…く…お兄ちゃ…んのせいじゃ…ないだろ…?」
マークはそう言って涙で濡れた顔をあげるとニッコリ微笑んだ。
俺も微笑み返すと、マークを抱き合え肩車をして庭の奥の方へ歩いて行く。
「キャシー、ちょっとマークと散歩してくるよ」
「ええ。私は噴水の辺りにいるわ?」
キャシーはそう言うと手を振って歩いて行く。
「マーク…もうすぐ退院するんだって?おめでとう!」
「あ、聞いたの?」
「ああ。最近は調子いいんだろ?」
「うん、そうなんだ。発作も出ないし、ドクターが"これなら日常生活もすぐ出来るようになるぞ"って」
「ほんとか?じゃあ…マークが、もう少し元気になったら、俺がレイカーズの試合に連れて行ってやるよ」
「えぇ?!ほんとに?!」
「おぉっと…暴れるなって…落ちるぞ?」
俺は苦笑しながら、そう言って、
「ああ、ほんと!マークがちゃんと言うこと聞いて薬を飲んで元気になったらと3人で一緒に試合に行こう?」
「うわぁーーっやったぁーー!!」
マークは手を離してバンザイをしている。
そのせいでバランスを崩し落ちそうになって俺は慌ててマークを抱きとめ、その勢いのまま芝生に転がった。
「いってぇ…ったくマーク…!」
「アハハ…ごめんなさいっ」
マークは俺のお腹に落ちてきて、あまりの苦しさと痛みに顔を顰めたが嬉しそうなマークの顔につい俺まで笑顔になる。
「そんなに元気なら、すぐ行けそうだな?」
「うん、僕、頑張って嫌いな薬もちゃんと飲むよ?だから、お兄ちゃん…」
「ん?何だ?」
「も…連れてきてよ…?」
「マーク…」
マークはさっきの事で何かを察したのか悲しそうな顔で俺を見てきた。
俺はマークの頭を撫でると、
「ああ…。必ず…連れてくるよ?それに…俺だってマークと二人きりよりもいた方がいいからね?」
と、ちょっとおどけてそう言えば、マークもすぐに笑顔になる。
「アハハ、やっぱりお兄ちゃんはにメロメロだね?」
「おい…そんな言葉、どこで教えて貰うんだ?」
俺が苦笑しながら聞くと、
「キャシーだよ?よくキャシーが僕に"今の彼氏、私にメロメロなの~"って言うんだ」
「はあ?ったく…しょ~もないな?」
俺は、それには笑ってしまった。
どうやらキャシーにも恋人が出来たらしい。
俺はそのまま寝転がって青空を眺めていた。
マークも隣で寝転がり同じように空を見ている。
きっと…この時、俺とマークの気持ちは同じだったのかもしれない。
(ここに…がいればどれだけ楽しいんだろう…)
俺はそう思っていた―
この日の夜、私は帰宅した養父にもう一度レオに会って貰いたいと話をしていた。
「お願い、お養父さん!一度でいい…レオに会って?」
「どうして私が会わなければならないんだ?」
「どうしてって…。だから会えばきっと彼が真剣かそうじゃないか解るから…」
「真剣だから何だって言うんだ?彼は医者ではないだろう?」
私は養父のその言葉に胸が痛んだ。
「お養父さん…。医者だったら誰でもいいの?お養父さんは自分の後継者さえ出来れば…それでいいって言うの?!」
「そんな事は言っておらん!ただ俳優などという世界に生きる男と…大事な娘を結婚させたら苦労するのは目に見えている!
今だって見ろ!門の前にはゴシップ誌の記者がウロウロしてるじゃないか!俳優なんかと付き合うからだ!
自分の恥を全て暴露されてお前は平気なのか?!」
「恥じゃないわ?!私はレオを愛しただけよ!それが誰にバレようが私はその事を恥じたりしない!」
「生意気言うな!」
養父はそう怒鳴ってソファーから立ち上がった。
「お前はダニ-に悪いと思わないのか?!あんなに愛してくれてる彼の気持ちを解らないのか!」
「ダニーは私を愛してるんじゃない!ただ私を自分の所有物と思ってるだけよ!そんな人を愛せないわ!」
私はそう言って養父を睨みつけると養父は黙って溜息をついた。
「そんなに…彼の事が好きなのか…?」
「ええ…。彼以外、愛せない」
「そうか…」
養父は力なくソファーに座りなおすとゆっくりと顔を上げた。
「解ったよ…」
「え…?」
「彼に…会おうじゃないか…」
私はその言葉に信じられない気持ちで思わず聞き返してしまった。
「ほんと…?」
すると養父は疲れた表情で私を見た。
「ただし…会うだけだ。彼と話してみて…もし私がお前をやれないと思えば…ダニーと結婚するんだ。解ったな?」
私は養父の言葉にドキっとしたが小さく頷いた。
「大丈夫よ…?レオに会えば…彼が、どれだけ真剣か…お養父さんだって解るはずだわ?」
私はそう言ってリビングを出ると自分の部屋へ戻った。
途端に体から力が抜けるのが解る。
「はぁ…良かった…」
安心したからか、かすかに体が震えてきて私は両手でギュっと体を抱えるとベッドの上に倒れ込んだ。
とにかく…レオと会ってくれるって言ってくれた…
そうなれば…きっと大丈夫よね…?
「そうだ…レオに電話しないと…」
そう呟き部屋の電話の方へ行くと、この前来た時に再度教えて貰ったレオの携帯番号を書いた紙を取り出しボタンを押そうとした。
そこへノックの音が聞こえて来てドキっとして受話器を置いた。
「?入るよ?」
「ダニー…?」
私は慌てて番号の書いた紙を隠すとすぐにテラスへと出た。
すると静かにドアが開きダニーが入ってくる。
「今、来たんだ」
ダニーはそう言いながら私の隣へと歩いて来た。
私は彼の方を見ないで、「そう…」とだけ答えた。
するとダニーは大きく溜息をついて、私の肩に手をかけ無理やり自分の方へと向かせた。
「な、何…?」
「今…ショーンから聞いたよ…」
「え?」
「あいつと…ショーンを会わせるそうだね?」
「ええ…。養父がやっと会う事を承諾してくれたから」
私はダニーの目を見て答えた。
「もし…養父がレオを認めてくれたら…私はレオと結婚するわ」
「アハハ…まだ、そんな事を言ってるのかい?」
「私は本気よ?」
そう言って彼の腕を振り払うと再び凄い力で腕を捕まれた。
「ぃた…っ。離してよ…」
「君は…この前、僕が言った事を解ってないようだね…?」
「…え?」
私は嫌な予感に胸がドキンと鳴るのを感じダニーを見た。
ダニーは薄ら笑いを浮かべて私を見ている。
「何が…解ってないの…?」
「この前…僕は言ったよね? "あいつを訴えるって言ったらどうする?"ってさ」
「ダニーっ!」
私はダニーの言葉に体が震えるのを感じた。
「あれ?信じてなかったの?」
「ダニー…嘘でしょう?そんな事したって何にもならないじゃない…っ!」
「そうでもないよ?」
「え?」
「俺の気が済む」
「…ダニー…」
私はダニーの言葉に呆然とした。
「君に俺の気持ちは解らないだろ?婚約者を他の男に取られ、毎日、同情の目で見られてるんだ!!
自分の女を寝取られて何もしようとしないなんて…って言う奴だっている!
俺は被害者なのに!どうして加害者のあいつがヒーロー扱いなんだよ!おかしいだろ?!」
「ダニー待って…!それは…」
「君は俺に恥をかかせた。その罪は償ってもらうよ」
「ダニー…っ。それは悪いと思ってるわ?でも…気持ちがなくなってしまったものはどうしようも…っ」
「だからさ…」
「…え?」
「君だって俺と同じように辛い立場になってもらうよ?」
「ダニー…?」
「それに…あいつにもね…。俺と同じ痛みを分けてやるよ。不公平だろ?俺だけこんな思いをするなんて…」
「ダニー…あなた…おかしいわ?!どうしたの?前はそんな人じゃなかったでしょう?!もっと優しかったはずよ!」
「優しい?優しいだけの男でいて君に振られたんだ。優しさに何の価値があるんだ?」
ダニーはそう言うと私の腕を離して部屋の中へ戻って行く。
「今はヒーロー扱いでも…訴えられたら世間の奴はどう思うかな?あいつの俳優としてもイメージだってダウンするだろう?
そうなれば仕事のオファーだって今ほどはなくなるんじゃないか?」
「ダニー!やめて!そんな事したってあなたも傷つくだけでしょう?!」
「もうとっくに傷ついてるよ!!君と…あの男のせいでね!ショーンに会わせる?冗談じゃない…っ
そんな事はさせない。明日にでもあいつを訴えてやるよ。そうなれば……君だって罪に問われる事になるからな?」
「…え?」
「婚約関係にあった場合、俺と君の間には貞操義務が発生するんだ。それを無視して他の異性と肉体関係をもった場合…
罪の対象に入るんだよ…。結婚してるのと同じ扱いになるんだ。知らなかったのか?」
「そんな…」
私はダニーの言葉に動揺した。
それでも…レオを訴えさせるわけにはいかない…。
「じゃ…じゃあ…私を訴えて」
「何だって?」
「レオじゃなく…私を訴えて…。婚約中に裏切ったのは私なの…。レオは関係ないでしょ…?」
「何言ってるんだ。あいつは君が僕と婚約してるのを知ってて君に手をつけたんだぞ?!関係ないわけないだろう?」
「手をつけたなんて言い方しないで…!私達は―」
「何だよ!純愛だとでも言いたいのか?たいした純愛だな?人を傷つけておいて!」
ダニーは吐き棄てるようにそう言うとポケットから私の携帯を取り出した。
「ダニー、それ…」
私が驚いているとダニーはその携帯を私の方へ差し出した。
「かけろよ…あいつに…」
「…え?」
「これで電話して"貴方とはもう会わない"って言えば…俺はあいつを訴えない」
「そんな…っ!酷いわ?!」
「酷い?その台詞、そっくりそのまま君に返してやるよ。俺はどっちでもいい。別にかけなくてもね。
だけど明日の朝にはまたマスコミを賑わせる事になると思うけど。もう弁護士には相談してあるんだ」
ダニーはそう言ってニヤリと笑うと携帯を私の手に持たせた。
「さ、どうするか決めろよ。このまま、あいつと一緒になるのを夢見て訴えられるか…
それとも会わないと決めて、あいつの俳優としてのイメージを守るか…。二つに一つだ」
ダニーはそう言ってベッドに腰をかけ私を見ている。
私は自分の手に握られた携帯を見つめ、体が震えてくるのを感じた。
レオの俳優してのイメージ…そして立場…
それは何より大切なことに思った。
自分の想いを貫き通す事よりも…大切な事だと…。
レオは…私と出会わなければ、こんな事に巻き込まれる事もなかった。
スターで在りつづけ…いい仕事をして…楽しく過ごしてたかもしれない…
私と出会わなければ…
私は手の中にある携帯をギュっと握ると、ゆっくりと顔を上げた。
「レオに…もう会わない…と言えば…訴えないでくれるのね…?」
「…もちろんだ。ああ、でもこの場限りの嘘は許さないよ?あいつと…別れろって事だからね?」
「……解ってる…」
「ならいい。君があいつと別れるって言うなら…俺は訴える事はしないよ?それと…俺と結婚もするんだ。
あいつのせいで結婚がダメになったなんて事になったら訴える対象に入ってしまうからね?」
「……解った…」
「解ってくれて嬉しいよ。じゃあ今、俺の目の前であいつに別れるって言ってくれ」
ダニーは何だか楽しそうにそう言った。
私は悔しくて唇を噛み締め振るえる手でアドレス機能を開く。
そしてレオの番号を表示した。
「どうした?早くかけろよ」
ダニーは愉快げに笑うと煙草に火をつけて煙を私の方へかけてきた。
私は顔を顰めて反らすと強ばった指でピっと通話ボタンを押す。
プップップ…という発信音が聞こえて来て私は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
お願い…"出ないで…"
そんな事を思っても仕方がないのに…
だが空しくもプルルルル…っと呼び出し音が聞こえて来て私は携帯を持つ手がジットリ汗をかいてきた。
『Hello?!?』
私はレオのその嬉しそうな声を聞いた途端に涙が浮かんできた。
「レ…オ…?」
『?どうしたの?携帯、返してもらったんだ?』
「…ぅん…」
私は喉の奥が痛いのを我慢して何とか声を出した。
だがレオは異変に気付いたのか心配そうな声で、『?どうした?何かあった?』と聞いてくる。
私は小さく深呼吸をすると思い切って口を開いた。
「あ…あの…話が…あるの…」
『え?話…?何?もしかしての親に会えるの?』
「…そう…じゃない…」
『え?じゃあ…何…?』
レオが不安げな声を出す。
私はこの時すでに胸が張り裂けそうに痛み、頬に涙が伝っていった。
「あの…私…もう…レオに…会えない…」
『――え?』
「別れたいの……」
そう言った瞬間、唇を先ほどよりも強く噛み締め血が滲んでくる。
レオが一瞬、息を呑んだのが解り更に胸が痛んだ。
『…?何言って…』
「ごめんな…さい…。私…やっぱり…ダニーと…結婚する…」
『!何でそんなこと言うんだ?もしかして…そう言えって脅されたのか?』
「ち、ちが…」
『もういい!俺、今からそっちに行くからっ』
「ま、待って!来ないで!」
『…嘘だろ?別れようなんて…そんなこと…』
「う、嘘じゃない…。もう…疲れたの…。普通の…生活に戻りたい…」
『………嘘だ…』
「嘘じゃない…っ!私は…レオと別れたいの…っ。もう…そっとしておいて欲しいの…っ。お願い…!」
『!俺とずっと一緒にいたいって…あれは嘘なのか?この前だって…っ』
「ごめんなさ…ぃ…。もう…連絡…しない…から…。レオも…私…に…会いに来ないで…っ」
『?!』
「…さよなら…」
私はそこで電話を切った。
そして電源さえも―
そのまま私は携帯をダニーに投げつけた。
「これで満足でしょう?!」
「…ああ」
ダニーの顔にはもう笑顔はなく無表情な顔で私を見ている。
私は頬を伝う涙を拭きもしないでダニーを睨むと、
「出てって!今は…あなたの顔は見たくない…っ!帰って!!」
と怒鳴りベッドに突っ伏した。
するとダニーは静かに立ち上がって黙って部屋を出て行く。
私はベッドに顔を押し付け、大きな声で泣き続けた。
レオの…辛そうな声が…私の名を呼ぶ声が耳から離れなくて…
突然の別れの言葉に…納得したとは思えない…
でも…私には…こうしてレオを守るしか方法が見付からなかった。
ダニーのあの気持ちを変えることなど…無理な気がして…
私は、この夜から心を閉ざしてしまった。
まるで人形のように…何にも感じず、何にも反応せず、ただ…その場に座っているだけの…人形のように…。
「おい、レオ!どうしたんだよ!」
「の家まで行く!」
「はあ?む、無理だって!!」
ジョーは車から飛び出そうとする俺の腕を掴んだ。
ちょうどから電話がかかった時、俺は家の前まで送ってもらい降りるところだった。
「離せよ!行かないと…っ」
「待てって!こんな時間に行ったって入れてくれる訳ないだろう?!それにマスコミだってウジャウジャ張ってるんだ!」
「でも…っ。に何かあったに違いないんだ!別れようなんて…嘘に決まってる!あの男に何か言われたに違いないんだ!」
「解ったから、落ち着けって!!」
ジョーは凄い力で俺の腕を引っ張った。
途端に体中の力が抜けたようにシートにもたれかかり、それでも気持ちが納まらず目の前のドアを蹴り飛ばした。
「くそ…っ!何で…っ」
「お、おい…事務所の車なんだから傷つけるなよ?」
ジョーは青い顔をして見てくるが俺にはそんな事はどうでも良かった。
が別れようと言って来た事実だけが頭の中を駆け巡る。
その時、ジョーが俺の肩にポンっと手を置いた。
「まあ…案外、本心なのかもよ?」
「え?」
「ああ、いや…さ。彼女にしてみれば…今回雑誌に書かれたり記者に張り込まれたりして…
仕事にも行けず、家に閉じ込められてるんだ…。疲れたと思うのも無理はないだろう?」
「そんな事は…!」
「解らないぞ?お前はいい。マスコミの攻撃には慣れてるんだから…。
でもな?ちゃんにしてみれば自分が婚約者を裏切り、お前と関係を持ったって世間にバラされたんだぞ?
そんなの女の子にしてみれば、かなり恥ずかしい事だろう?」
俺はジョーの言葉に、ドキっとした。
確かに…そうなのかもしれない…
女の子にしてみれば…自分の男性関係を国中に知られるのは辛い事だろう…
…いやアメリカだけじゃない…。今では世界にだって広まる時代だ。
俺と会ったばかりに…そんな辛い思いを彼女にさせてしまったんだ…。
「解っただろ?ちゃんだって…婚約者のとこに戻りたくなったのかもしれない…」
「そう…なのかな…。もう…俺のことは…好きじゃないって事なのか…?」
「いや…好きなのかもしれないけどな…。お前と付き合うにはリスクが多すぎたんだよ…。
一般の子じゃ堪えられないのも無理はない」
「リスク…そうなのかな…。俺は…に、そんな思いをさせてたのか…?」
そう言いながら俺の頬に暖かいものが伝って自分で驚いた。
「レオ…お前…泣いてるのか…?」
ジョーも驚いた顔で俺を見ている。
俺は手に落ちた雫を見て胸が苦しくなった。
こんなに愛してるのに…その子に辛い思いをさせて…
俺は…彼女に無理をさせてたんだろうか…?
「レオ…?大丈夫か…?」
ジョーが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「一人に…してくれ…」
俺はそう呟いて車を降りた。
「お、おい…レオ…?」
「心配するなよ…。の家に…行ったりしないから…」
俺はそれだけ言うと家の中へと入った。
そのまま二階へ行きベッドに倒れ込むと途端に涙が溢れてくる。
「…愛してる…」
その言葉しか出てこない…
無理をさせてたんだと思っても…
こんな突然の別れは俺には絶えられない事だった。
彼女の温もりが恋しくて…会いたくて…胸が痛い…
このまま別れるなんて…出来ない…
まだ君を抱きしめた感覚が…この腕に残ってるから…
それを忘れるなんて…今の俺には…
俺は…どうしたらいい?
こんなに愛おしくて…ただ恋しくて…
がいないと息さえ出来ない気がした。
この夜の事は今でも覚えている。
初めて…俺は絶望を感じてたんだ…
君を想いながら――
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ACT.18...偽りの結婚>>
うぉーダニー憎たらしいですっ(自分で書いておいて何だけど)
すみません。悲恋になってきてます(元々そんなイメージで書いてますが(;゚д゚))
そろそろ佳境すらも終わりを近づいてきていますね。
今回は重くてすみません^^;
ちょっと繋ぎ的な感じで短めです。
でも久々にマークもちょこっと登場v
あ~こんな子可愛くて欲しくなります(笑)
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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