Catch me if you can.......A real love ?... or... fake love...










(ん…雨の…音…?まだ…降ってるんだ…)


私は薄っすらと意識の戻る中で雨音が心地よくて、また眠ってしまいそうだった。
それに少し体が気だるい感じがする。
その時、少しづつ感じてきた温もりの方へ、無意識に手を伸ばした。
すると何かに触れる。


(ん…何だろ…スベスベする…)


私は隣にある触れた温もりを撫でてみた。

その時―




「…くすぐったいよ?…」


「………っ!!」






私はそこで思い切り目を開けた。
















ACT.5...唇に微熱                                 















「キャ…!!レ、レオ…?!な、何であなたが隣に寝て…!」


私は右に頭を向けて寝ていて、その隣に私の方へ顔を向けながら微笑んでいるレオがいて驚いた。
どうやら私がさっき触れていたのはレオの胸だったらしい。
―しかも彼は裸だった(!)―


、夕べ寝ちゃったんだよ?覚えてない?」
「え…え?!」
「だから俺が、ここまで運んだんだけど…」
「って事は…ここは…」


私はそう言うと思い切り体を起こした。
少し眩暈がしたが寝起きだからかと思い、とにかく部屋の中を見回す。
そこはレオのベッドルームらしく厚いカーテンが引いてあるので部屋の中は薄暗かった。
そのまま、またレオの方を振り返ると私が起きた勢いで布団が少しめくれてレオの裸の胸が目に飛び込んで来た。


「あ、あ、あなた、何で…は、裸なの?!」


私は真っ赤になって目を反らし、自分が服を着てるのを確認して少しホっとするも一応、下着をつけているかも確認した。
それを見てレオは体を少し起こしてクスクスと笑っている。


「何もしてないから安心してよ。 ―それに俺は寝る時はいつも裸なの。こそさっき人の胸を撫でまわしたクセに」
「ちょ…変なこと言わないでよ…!何だか分らなかったのよ!」
「ふ~ん…。あ、ダニエルかと思った?」
「バ、バカなこと言わないで! か、彼とは…そんな関係じゃないわ…!」


そう言った瞬間、急にレオは私の腕を引っ張り、ベッドへと押し倒した。


「…っ な、何するのよ…?!」
「そうなんだ。彼とはプラトニック?」
「い、いけない?!大事に付き合ってるの…!すぐ女性と寝る、あなたとは違うわ!」


そう言うとレオは苦笑しながら私の耳元で囁いた。


「じゃあ、君の想像通りの俺になろうかな?」
「な、何のことよ…?」


レオはニヤリと笑った。


「せっかくベッドの上で二人でいるのに何もしないって手はないだろ?」
「何言って…!どいてってば…っ」


レオは私の腕を掴んだまま、耳元から頬に口付けてきた。


「や…っ!やめてってば…!」


何だか力が入らなくて顔だけ背けたが、唇のすぐ横にキスをされた。


「やめて……!」


するとレオは少し顔を上げて私を見ている。
そして、また顔を近づけてきたのが見えて思い切り目を瞑ると彼はいきなり自分の額を私の額へとくっつけた。


「…?…やだったら…っ」
?……凄く…熱いよ……?」
「……離して…っ」


私はレオの言葉も耳に入らず、そう叫ぶ。
体を動かそうとするのにどうしても力が入らない。
物凄く体が重い感じがした。
その時、レオが腕を掴む手を離し、私の頬に触れてくる。
私は驚いて目を開け、彼を見た。
すると今度は私の額に手を置いた。


「やっぱり……」


レオがそう呟いた。


「な、何よ……っ」
…熱あるよ…体、だるいだろ?」


と急に心配そうな顔で私の上からよけると、もう一度、頬に手を置いた。


「え…?ね、熱…?」
「凄く熱いよ?大丈夫?」
「そ、そう言われると…確かに頭がぼわーっとするような…」


私はさっきレオの腕から逃れようと少し動いただけで、すでに疲れきって今は体に少しの力も入らないことに気付いた。


やだ…何でこんなに、だるくて頭も重いのかと思えば…熱?!
嘘でしょう……?
ど、どうしよう…今、何時なんだろ?病院に行かないといけないのに…


そんな事を少しづつ朦朧としてきた頭で必死に考えていると、レオが急にベッドから出た。
彼の裸の背中がチラっと見えて私は慌てて目を瞑った。


「ちょっと…どこに行くの…?」
「あ、そのまま動かないで待ってて!体温計持ってくるから!」


レオはそう言うと何かを羽織って部屋から出て行ったようだ。
私は今のうちに帰ってしまおうかと思って体を起こそうとするも、少し頭を上げただけでクラクラする。
しかも首の後ろが、ゾクゾクっとして風邪特有の寒気がしていた。


嘘…ほんとに風邪の症状だ…
ここのとこ寝不足も続いてたし…夕べの冷たい雨に当たったのは弱った体にはきつかったのかもしれない…。
で、でも帰らないと…


私は何とか重い体を起こし、ベッドの上に起き上がった。
途端に視界がふわりと動く感覚がして私は後ろへ倒れそうになるも何とか腕で支えた。


はぁ…私、昔から熱なんてたまにしか出なかったから一度出ると、ほんとにきついのよね…
これで病院なんて行けない。
例え動けたとしても子供達に移すことになる。
それだけは避けたかった。
その時、レオが勢いよく部屋へと戻って来た。


「何やってるんだよ!動くなって言っただろ?寝てなきゃダメだって…っ」


レオはそう言うと私の体を支えてた腕を掴んでそっとベッドに寝かせてくれた。


「で、でも…帰らないと…」
「帰るって…無理だよ…。あ、待って…今、熱測ってみるから…」


レオはそう言うと、私の着ているシャツ(レオのだけど)の胸元のボタンに手をかけて外そうとした。


「ちょっ…!何するの…!」


私はレオの、その手を掴んだ。


「ああ、違うって…。体温計、入れるだけだから…。 ―それとも自分でやる?」


レオは苦笑しながら私の目の前に体温計を差し出した。
私は、それを受け取り、


「…も、もちろん自分でやる…! ――そっち向いてて…」


と言うと、レオは少し笑いながら両手を上げた。


「OK…俺だって具合の悪い子に手は出さないんだけどな…」 


と言いながらも後ろを向く。
私はそれを確認するとシャツのボタンを素早く外し体温計を脇の間へと入れた。
そして胸元が隠れるようにシャツを元に戻すとレオが、「もういい?」 と訊いてきた。


「うん…入れた」


私がそう言うとレオは私の方を見て頬を撫でてきた。


「な、何…?」
「顔が赤いよ…。何だか息も…苦しい?」


思いがけずレオの優しい表情と言葉に私は驚いてしまった。


「…少し…あの…ごめんなさい。熱測ったら、私帰るから…」
「え?何で?無理だろ?それにが謝ることじゃないよ…。昨日、雨の中、走らせた俺が悪いんだから」


ちょっと悲しげな顔で私を見つめるレオに、私は、またビックリしてしまった。


そんな事ないのに何で彼は罪悪感なんて感じてるんだろう…?
私はレオの事が、よく分らなくなってきた。
イジワルで強引かと思えば、急にこうして優しくなる…


私は軽く息をついた。


「あの…あなたのせいだとか思ってないわ?体調管理を怠った私が悪いの。だから、こんな事で気にしてくれなくていい」


私がそう言うも、レオは黙ったまま。
その時、体温計のピピっという音がした。
するとレオがまた後ろを向いてくれたので私はボタンを一つだけ外して体温計を取り出した。


「わ…37・7℃…」


こんなにあるとは…
どうしようと考えるも頭が重くて何も考えたくない。


…?どうだった?」


レオがそっと振り向いて私の手から体温計を取り確認している。


「うわ…こんなに?ちょっと、ほんとに寝てないとダメだよ…!」


レオは、そう言うと私に布団をかけてくれようとした。
が、私はその手を止める。


「あの…いいの。私、家に帰るわ…病院にも電話しないと…」
「え?!帰るって…動けないだろ?それに病院には俺が電話するからは…」
「…え?い、いいわよ…かけなくて…!自分でかけるわ?それにレオが…かけたら…変に思われる…」
「そんな事を気にしてる場合?」


レオは少し怒った口調で私の頭を撫でた。


「き、気にするわよ…当然でしょ?と、とにかくほんと家に帰らないと…休む時は今日の引継ぎとか電話で説明しないといけないの…
それに私の担当患者の事で何か分らない事があったら病院の人が家に電話してくる事もあるし…家にいないと変に思うでしょ?」


私が体を起こそうとするとレオは溜息をついて私の体を支えてくれた。


「はぁ…。分かったよ…じゃ、今から俺がの家に送る。待ってて?着替えてくるから…」


レオはそう言うと私の背中に枕を当てて楽な体勢にしてくれると部屋を出て行った。


「あ、あの…っ」


そ、そんな呆れた顔しなくたって…仕方ないじゃないの…
私にだって責任くらいあるんだしマークの事だって引継ぎして貰わないといけないのよ…


私はちょっと溜息をついた。
ほんとに熱で息苦しい。


(あ~何で夕べ寝ちゃったんだろ…)


私は、その事を後悔していた。
するとレオが着替えて戻って来て、私の肩に何かジャケットをかけてくれる。


「外、まだ雨が降ってるんだ。寒いし…これかけてて」
「あ、ありがと…」
「じゃ、車まで運ぶから…ジっとしてろよ?」
「え?運ぶって…」


そう言った瞬間、レオは私の体を軽々と抱き上げた。


「ひゃ…っ!ちょ、ちょっと…」
「ああ、ジっとしてって言っただろ?落ちるよ?」
「ちょ、自分で歩いて行くわよ…っ」
「無理だよ、37度以上もあるんだから…フラフラされて転ばれても困るし俺が運んでやるよ」
「な、転ばないわよ…」
「いいから首に掴まって?」
「…は?」
「俺の首に腕まわして掴まってって言ってるの」
「で、でも」
「でも…じゃなくて。その方が楽だから。 ほら、早く」


レオにそう言われ、仕方なく腕をレオの首に回した。
レオは、そのままベッドルームを出て階段を下りると玄関前の横のドアを開けた。
そこは駐車場に続いてるらしい。
少しの廊下があり、またドアを開けると広い空間の中に、三台ほど車が止まっていた。
レオは手前のある車を開けると、そっと私を助手席へと座らせてくれる。


「ありがとう…」
「寒くない?」
「寒気はあるけど・…大丈夫…我慢できるから…」
「ダメだと思ったら、ちゃんと言えよ?なるべく飛ばしてくけど」


レオはそう言うとドアを閉め、運転席へと座った。
車庫の扉をリモコンで開けるとエンジンをかけ、思い切りふかして発進させる。
外はまだ雨が降り続いていた。


ほんと珍しい…カリフォルニアで、こんな長い雨…
エルニーニョかなぁ…
って、レオ飛ばしすぎなんだけど…ちょっと怖い。


私は黙ったまま車を運転してるレオの横顔をチラっと見た。
するとレオが視線を前に向けたまま、「の家は?どこ?」 と言った。


「あ、あの…サンタモニカの…ベニスビーチの方…」
「OK。サンタモニカならすぐだな…。俺も前に住んでたんだ」
「うん…知ってる…」


と、つい言ってしまってハっとした。
すると案の定、レオはニヤニヤしてチラっと私の方を見た。


「へぇ…詳しいね?」
「べ、別に…前に雑誌を読んだだけ…っ」
「ふ~ん」


レオはそう言うとちょっと微笑んで、また運転に集中しているようだ。
私はどんどん倦怠感を感じてきていて息も苦しかったが、なるべくそう見えないように我慢した。
レオが飛ばしたからか、朝の早い時間というのもあり比較的、すぐにサンタモニカについた。


「あ、そこを…右に…曲って、一番手前の道に入ると…白と青の建物があるから…」
「OK」


レオは言った通りの道を曲り、私のアパートの前で車を止めた。


「ここ?可愛い建物だね?目の前もビーチだし」


レオは体を前に乗り出しキョロキョロとしている。
そして私の肩にかけてくれてたジャケットを今度は私の頭からかぶせてきた。


「…え?」
「運ぶ時に濡れるだろ?」


レオはそう言うと雨の中、傘も差さずに外に出てすぐ助手席のドアを開けると私をまた抱き上げた。


「ちょっと走るよ?しっかり掴まってて」 
「う、うん…」


私はまたレオの首にしっかり掴まる。
レオは一気に雨の中、走ってアパートの中へと入った。


「ひゃ~霧雨で助かった…、部屋は何階?」
「あ、あの3階の2号室…」


そう言うとレオは階段を上がって私の部屋の前まで来た。
レオがいつの間にか持ってきてくれていた私のバッグの中から鍵を出すと、彼がそれを受け取りドアを開けてくれる。


「お邪魔しまーす」


レオが、そう言ったので私は思わず吹き出してしまった。


「何、笑ってるの?」


レオはキョトンとした顔で私を見ている。


「だ、だって…。何だか、お邪魔しますって言うイメージじゃないもの…」
「は?何?どんなイメージ?」


レオは苦笑しながら答えるも、「ベッドルームは?奥?」 と部屋の中を見渡した。


「あ、そう…その廊下の奥…」


私が指さすとレオはベッドルームまで歩いて行き、ドアを開けた。


(私…何か変なもの、置いてなかったわよね…?)


そう思いつつ部屋の中を見渡すと、一昨日掃除をしたばかりだったのでちゃんと片付いてホっとした。
レオは私をベッドへと寝かすと布団をかけてくれた。


「あ、あの…ほんとにありがとう…」
「そんなのいいけどさ…。薬は?看護婦なんだし風邪薬くらいあるだろ?」
「え…?ああ…熱を下げる薬なら…そこの引き出しの中に…」
「ここ?開けていい?」


レオは机の引出しに手をかけて振り向いた。


「ええ…」


と言った瞬間、あ…!!と思いだし慌てて、「あ、や、やっぱり自分で出すから…!!」 と叫んだ。 
―その勢いで頭がクラっとする―
だがすでに遅く、レオはそれを手に取り私の方へ振り向いた。
もちろんニヤリと笑って―


…そんなに俺が好きだったの?」
「そ、それは…あの…」


レオがヒラヒラと振りながら持っているもの、それは前に私が机の引出しに閉まったレオのポストカードだった。


「す、捨てようと思って、そこに入れておいたのよ…っ」


私は顔が真っ赤になりつつ、ぷいっと顔を背けた。
するとレオは私の傍に来てベッドの端に腰をかけると、「ふ~ん」 と言って私の顔を覗き込んだ。


「な、何よ…?」
「自分のファンの子の家に来たのなんて初めてだからさ、こういうのって何だか照れるね?」 


と言ってクスクス笑っている。


「は…?あなたでも…照れることなんてあるわけ?」
「うわ、酷いよな…。あるよ、それくらい」


レオはそう言いながら笑っている。


「あっと、そうだ。薬…飲む前に何かお腹に入れた方がいいな…食べる物はある?」
「え?あ、えっと…野菜くらいしか…あと卵…?買い物、昨日行くハズだったから何もないかも…」
「それだけ、あれば充分!、何か食べられそう?」
「え?い、いえ…食欲ない…気持ち悪いし…」


私が、そう言うとレオは少し考え込んで、


「そっか…。でも何かお腹に入れないと薬、飲めないだろ?じゃ、スープとかなら入りそう?」
「え?…そ、それなら何とか…」


そう言うとレオはニッコリ微笑んで、「じゃ、作ってやるよ。 キッチン借りるね?」 と言ってベッドから立ち上がった。


「え…え?!つ、作れるの?」
「俺、一人暮らし長いからさ。結構、作れるよ?じゃ、待っててね?あ、その前に何かオデコ冷やすもの…」


そう言いながら部屋を出て行くと、すぐに戻って来た。
多分バスルームから持って来たのだろう。
冷やしたタオルを、私の額に置いてくれた。


「あ、ありがと…あの…」
「ああ、いいから。寝てて?」


レオは、そう言うと私の頬に軽くチュっとキスをして部屋を出て行った。


「ちょ…っ」


怒る間もない。


「も、もう…!」


私は熱以外でも何だか顔が熱くなった。


何で、こうなるの…?
それに普通なら迷惑とか思うはずなのに、レオは何だか楽しそうだ。


「変な人…」


私はそう呟くと、ちょっと体を起こしてバッグを取った。
そして中から携帯を出すと、すぐに病院へかける。
すぐに病院の受け付けが出て、主任に回線をまわしてもらった。


「あ、あの…です」
『あ、あら、おはよう?どうしたの?』
「あの、それが…熱が37度ちょっと出てしまって…今日は、お休みさせて欲しいんです」
『まあ、熱?37度って…大丈夫なの?!』
「あ、はい…何とか…。それで今日の引継ぎをしたいんですけど…」
『え、ええ。それは構わないわ?マークの事も任せて?』
「あ、お願いします…。薬は朝食の後と昼食の後の二回…あと3時頃に検査が入ってますのでドクターの所へ…」
『あ、ええ…っと。そうね?あなたの担当者カルテの中にスケジュールがあったわ?OK、任せて』


主任が、そう言ってくれて,ホっとした。


「じゃあ、お願いします。あ、あとマークには私が熱出した事は言わないでもらえますか?心配かけたくないので…」
『え?ああ、そうね?確かにそうだわ?分った。他に何か上手く言っておく』
「ありがとう御座います…」
『ほんと息が苦しそうね?あなた一人暮らしなんでしょ?大丈夫なの?何か食べたりした?』
「あ、いえ…あの大丈夫です…。何とかやりますから…」
『そう?ほら、あなたの恋人…隣の病院にいる…彼に連絡して来て貰ったら?』
「い、いえ…彼も忙しいですから…。一人で、ほんとに大丈夫ですから…熱下がるまで寝てます…」
『そう?ほんとに無理そうだったらまた電話して?私、今日は早番だからすぐ行くし』


主任の、その優しさが嬉しかった。


「そんな、もったいないです…。でも、ありがとう御座います…」
『そんなの、いいのよ?じゃ、ゆっくり寝て。あなた最近、忙しかったから無理が祟ったのね…ちゃんと休みなさい』
「はい…じゃ、すみませんけど、あと、お願いします」
『何も心配しないで。じゃ、またね?』
「はい、失礼します…」


そう言って電話を切ると私はまたベッドに倒れ込んだ。
体を起こすのだけでも辛い。
目を瞑ると、ぐるんぐるんと自分が回っているような感覚になる。
高熱が出ると決まってこうだ。
そっと目を開けると天井が自分の方に少しずつ降りてくるような錯覚まで起こす。
この圧迫感も気持ちが悪かった。


(はぁ…ダメだ…もう限界…)


そう思った瞬間、私は気だるい眠りの中にいた…。


















「これで、よし…と」


俺は簡単に野菜スープを作ると、キッチン横にある食器棚からスープ用のお皿を出してスープを盛った。
そして、それを持って静かにベッドルームへと戻ると、が眠っているのが見える。
スープをベッドルームの端に置いてある小さなテーブルの上に置くと、俺はの額に置いてあるタオルを取った。
すでに、の熱で温くなっている。
また冷やすのにバスルームに戻ると大きな盥を見つけて、そこに氷と水をいれてタオルをそれで冷やした。
それをまたベッドルームに持っていき、タオルをギュっとしぼってから彼女の額へと置く。
の頬が少し赤い。
相当、苦しいのか寝息も苦しそうだった。
彼女の頬を手で撫でると、その熱さに胸が痛む。


さっき…別に本気で彼女を襲おうとしたわけじゃない。
ただ恋人とは、まだ何も関係してないと聞いて、ちょっとイジワルしたくなっただけだった。
だけど…頬に唇をつけた時に感じた熱に驚いた。


あんな雨の中…俺が連れ出したから…悪い事しちゃったな…
彼女も気まぐれでなのか、一緒に来てくれて嬉しかったんだけど。


俺はの苦しそうな寝顔をみてると、何だか無償に彼女の事が愛しく思えてきた。


何だろう…胸の奥がギュっと掴まれたような感覚…
彼女の事を本気で心配してるのか?
気まぐれから追いかけてた彼女の事を…
何度となく、会いたいと思う感情もが今までにいなかったタイプで面白いからだと思っていた。
俺が恋に落ちるのはいつも一瞬の事で、だいたいが会った瞬間からだ。
と会った時、そういう感情は湧いてこなかった。
普段なら最初に好きにならなかった女性と恋愛することは一度だってなかったし、それから好きになる事もなかった。
なのに…


何で、今、彼女の事を、こんなに愛しいと思うのか。
自分でも分らない感情が溢れてくる。


俺はの頬を手で触れて軽く撫でていった。
そして、そっと唇で触れる。
彼女の熱が俺の唇に伝わってきて胸が締め付けられた。
その時、かすかに彼女の目が開いて、俺は慌てて離れた。


「…?」
「ん…レ…オ…?」
「ああ…」
「わ…たし・…寝ちゃっ…た?」
「いいよ…寝てて…」
「ん……でも…」


俺はが少し体を起こそうとするのをベッドの端に腰をかけて腕で抱きとめてあげた。
は素直に俺の腕に寄りかかってくる。


「ごめ…んね?もう一人…で大丈…夫だから…」
「全然、大丈夫じゃないだろ…?迷惑だって言われてもいるよ…。それとも…あの恋人呼んでやろうか?」
「ダニーは仕事…だから…。今日…は大事…なオペ…があるって…」


は目を瞑りながら苦しそうに話している。


「…オペ?何、あいつ…医者なの?」
「そ…よ…。隣の…病院…の」
「隣…って、ああの病院の隣の?あいつ、あそこの医者なの?」
「ええ…ちょ…と、あいつ…って言わない…で…っ」


高熱で苦しんでるって言うのに恋人の事で怒るに俺はちょっと腹が立った。


「大事なオペでも恋人が熱がでた時くらい、飛んで来てくれるだろ?」
「そ…んなわけには…別に、ただ…の風邪よ?」


俺はちょっと溜息をついた。


…スープ飲める?少しお腹に入れて薬飲まないと熱、下がらないよ?」
「ん…ありがと…もらおう…かな?」


は少し目を開けて微笑んだように見えた。
俺は彼女の背中に大きなクッションを入れて支えてあげるとスープのお皿を持ってスプーンを渡そうとした。
が、はグッタリしていて辛そうだった。


、俺が飲ませてあげるから、口開けて?」
「え…いい…自分で…」
「いいから!病人の時くらいは素直に言うこと聞けって。 ―はい、あ~ん」


俺は子供に言うみたいにしてスプーンをの口元に持って行ってあげた。
も最初は恥ずかしそうにしていたが、諦めたのか口を少し開けてスープを飲む。


「おい…し…。レオ…上手ね…?」


は嬉しそうに微笑んで、そう言った。
俺は苦笑しながら、


「いいから、はい、どんどん飲んで。 ほら、あ~んして?」


は素直にスープを飲んで、お腹も空いていたのか、ちゃんと全部飲んでくれた。






「少し落ち着いた?」
「ん…ありがと…」


はお腹に物を入れたせいか、また眠くなったのだろう。グッタリとして横になった。
俺は薬と水の入ったコップを手に持って、


…?寝る前に薬飲まないと…」
「ん…」


返事はかすかにするものの、はすでに目を瞑って朦朧としている。


…?薬飲まないと熱下がらないよ…?」
「わか…た…」


はそれでも少し体を起こそうとするも、全く力も入らないようだ。
熱が少し上がってきたのかもしれないな…と思った。


…?体、起こすよ?」
「う…ん、ごめ…ん」


俺は彼女の体を少し起こし自分の腕の中に寄りかからせるとの額に自分の額をくっつけた。
さっきより熱い気がする。


「…レ…オ?」


その時が、かすかに目を開けて俺を見た。
俺は彼女に水の入ったグラスを持たせようとしたが、手に力が入ってないようだ。
それに気づき、俺は仕方なく薬と水を自分で飲んでの顎を少し持ち上げた。


「ん…レ…オ?」 


は朦朧とした顔で目をあけたが、俺は黙っての唇に口付けて口に水と薬を流し込んだ。


「…ん…っ!」


が驚いた顔で俺の服をギュっと掴んでくる。
彼女の口に薬が入ったのを確認して、すぐに唇を離すと薬を上手く飲めるよう少し顎を上げてから、
彼女が酷く咽ないように頭を支えて上に向かないようにした。


「…ゴホ…な、何…する…の…」


俺は彼女の口から垂れた水を拭いてあげるとそっと頭を抱き寄せた。


「仕方ないだろ?、コップも持てないくらいグッタリしてるんだから…今だって…全然体に力入ってないよ?」
「だ…から…て…」
「もう、別に変な意味でしたわけじゃないって…。そんな怒ると体力使うだろ?大人しく寝てて…はい」


俺はゆっくりをベッドへ寝かせると布団を肩までかけてあげた。
は目を開けてるのもだるいのか、瞑ったまま。


「…レ…オ…?」
「ん?」
「……とう…」


よく聞き取れなかったが、は、そのまま眠ってしまったようだ。


俺は手での頬に触れると、そっとキスをした。


「早く…元気になって…」


俺は暫くの間、の頬を撫でたまま彼女の寝顔を黙って見ていた――
















何だろ…頬に暖かいものが触れてる。
誰かが優しく撫でてくれてる…レオ…?


私は意識がだいぶ戻って来て頬への手の感触を感じて、そっと目を開けた。
暗い部屋の中、薄っすらと目の前に影が見える。
私は、その影に、ゆっくりと手を伸ばし、「…レ……オ?」 と呼んだ。





?起きたかい?」


「……?!」


私の視界がハッキリして来た時、目の前にいる男性が見えて私は驚いた。


「ダ、ダニー…?」
「ああ、良かった…。熱も少し下がってるよ…?」
「あ、あの…何で…ここ…に?」


私は頭が混乱していた。


さっきまで…レオがいたはずなのに…あれは夢?
いえ、そんなバカな…
だって私は彼の家から運んでもらって……
全ては高熱で見た夢なのだろうか?
そんなはずはない…


「さっき俺の病院に、の病院のスタッフって人から電話が来てさ。が高熱で寝込んでるから
一人じゃ心配だし家に行ってやってくれないかって電話が入ったんだ」
「…え?!だ、誰から…?あ…主任…かしら?」


(確かに朝、電話した時そんな話もしたような…はっきりとは覚えてないけど…)


「あ、いや…俺が出たわけじゃないんだ。俺はオペの途中だったからさ。終った後にうちの看護婦から、
そう聞いて…主任って言ってたかなあ?でものとこの主任は女性だろ?」
「え?ええ、そりゃ…だってナースステーションの主任だもの…」
「だよなぁ?でも電話してきたのは男の人だったって言ってたけど…」
「え?男……?!」
「うん、誰か心当たりある?」


(心当たり…?)


ある…。
きっと電話したのは…レオだ。
さっき朦朧としたながらもダニーの事を話した覚えがある。
名前と病院さえ分れば、彼に伝言を残す事なんて簡単にできるはずだ。
それでも…気を使ってくれたのか、私の病院のスタッフだと名乗ってくれた…


…?電話の人、誰か分った?」
「え?あ、…あの…きっとフランクだわ…。心配性だから…ダニーの事も知ってるし、きっと気を…使ってかけてくれたのね?」
「ああ、いつもが話してるドクターだろ?仕事熱心…そっか。じゃ、お礼を言わないとな?知らせてくれたんだから」


ダニーは笑顔で私の頭を撫でながらそう言ったが私は慌てて、「あ、いい…いいわ…私が…言って…おくから…」 と言った。


「そう?でも…」
「ほんとに…いいの…。 ―でも…来てくれて…ありがとう…嬉しい…」


私がそう言うと、ダニーは嬉しそうに微笑んで私にキスをしてくれた。


「ダニ―…移っちゃう…よ?」
「いいよ…俺に移せば治るだろ?」


ダニーは優しく私の頬を撫でると、そう言った。


「でも…高熱だったのに、よくスープなんて作れたね?」
「…え?」


ドキっとした。


「あ、あれ…は…まだ具合が酷くなる前に…ちょうど作ってて…」
「ああ、そうなんだ。 あ、お腹すいた?何か食べる物でも買ってこようか?」
「あ、ううん…。まだ、ちょっと気持ち悪いから…」
「そう?熱は少し下がったみたいだからね…。汗いっぱい、かいてるし、一度着替えて、また寝るといい」
「うん…」
「じゃ、俺はあっちの部屋に行ってるから着替えて?」


ダニーは、そう言うと私の頬にキスをして部屋を出て行った。


「はぁ…驚いた…」


私は思いきり息を吐き出した。
てっきりレオかと思った。
彼は・…いつ帰ったんだろう?
時計を見ると、もう夜の11時だった。
ダニーは、仕事が終った後に来てくれたのだろう。
まさか彼に電話してくれるなんて…
とにかく着替えよう。


私は汗でびっしょりになったシャツを脱いだ。


あ…これも…レオのだった…
クリーニングに出して返さないと…


そう思いつつベッドの脇に置いてあった自分のパジャマに着替えると、すぐにベッドから立ち上がってみた。
少しクラクラするも、さっきよりは力が入る。
私はそっと机の引出しを開けてみた。
すると、そこには前と同じようにレオのポストカードが入っている。


(元に…戻していったんだ…)


私はそのポストカードを手に取ると写真の中の彼の強い視線を見つめた。


ほんとに…どういう人なんだろう?
いつも余裕の顔で私に近付いてきて私の心を乱していく…
イジワルで、ほんとに最低だと思わせるかと思えば…急に優しくなって、この人ほんとは優しいんじゃ…と錯覚させる。
正直、私は彼のことが分からなかった。


…?着替えた?」


ダニーが、開いたままのドアから、ひょっこり顔を出して、私は驚いて手に持っていたレオのポストカードを落としてしまった。
ダニーは、それに気づき、拾い上げると、ちょっと笑った。


…さっき寝ぼけて俺に、"レオ"って呼んだだろ?、彼の大ファンだもんなぁ…。何?彼の夢でも見てた?」
「え…?!い、いえ…あ、あの…そ、そうね、そうなの…。ちょっと夢の続きかと思って…」


私は目に見えて動揺するも、ダニーは私が彼に悪いと思っていると勘違いしたようだ。


「そんなに焦らなくても、俺は怒ってないよ?しょせん彼は雲の上の人なんだしさ?憧れてるだけだって分かってるから」


ダニーは私を優しく抱きしめて、そう言った。


「そ、そう…ね…雲の上の…人だから……」


私は自分に言い聞かせるように、そう呟く。





…体が熱いね…?」
「え…?」


そう言うとダニーは私の顎を優しく持ってキスをしてきた。
いつもより少しだけ求めるようなキス…


「…ん…っ」


ダニーの私を抱く腕に力が入って強く抱き寄せられた。


「……んっ」


私はダニ―の服を掴むと、彼を少し押し戻そうとした。
それでも熱のせいで、まだ力が弱いのといつもより力強く抱きしめられているからか、私はダニ―に抱き寄せられたまま。
どんどんキスが深くなってきて私は驚いて声を出そうとした。


「…ん…ダ…二ー…」


唇を塞がれているからか、声が篭って聞こえる。
するとダニ―はゆっくりと唇を離して私の目を見つめた。


「……。愛してるよ…」
「ダニー…」


彼はそう言うと私を今度は軽く抱き寄せ、頭を撫でた。


「いつも…仕事で傍にいてやれなくて…ごめんな?」
「え…?そんな…こと」
「今夜は…朝までついてるから…安心して眠って?」


ダニーは、そう言うと私を抱き上げてベッドへと運んでくれた。
そして私の頬にキスをすると、「ゆっくり休んで…俺、ここにいるから」 と言って私の手を握った。


「ダ二ー…ありがとう…」


私がそう言うと、彼は嬉しそうに微笑む。


私は静かに目を閉じた。



今だけは…レオの手の温もりを忘れてダニーの手の温もりを感じて安心していたかったから…。





それでも眠りの中に落ちていく瞬間、私の唇にダニーの唇が触れるのを感じて、何故だかレオの顔が浮かんでは…消えた―


















>>Back




ACT.6...真夜中の訪問者>>


レオに看病されたいなーっと(笑)
って事で、またまたレオ夢書いちゃいました。
忘れないうちに先に…と思って(苦笑)
レオが看病してくれるなら、あの高熱の苦しさも耐えられませんかね?(笑)
まあヒロインが高熱あるにしては多少元気なのは大目に見てくだせぇ…(苦笑)
さて、そろそろ他のお話もボチボチ書いていきたいと思いますv


本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...


C-MOON...管理人:HANAZO