Catch me if you can.......~A
real love ?... or... fake love?...~
今夜は、いつもの彼とのディナー。
その店はパラダイス・ビーチ近くにあるイタリアンレストランだった。
いつものように二人でワインを飲みつつ前菜から始まり、大好きなピザやパスタを食べた。
ただ…いつもと違ったのは…彼、ダニーの表情が暗かった事だろうか?
それには理由があった。
一通り料理も食べ終わり、私は気まずいままコーヒーを一口飲んだ時…
ダニーが普段よりも真剣な顔で口を開いた。
ACT.7...心を与えて…
「……え?」
「俺は本気だよ?…結婚…して欲しいんだ」
そして目の前に出された小さな箱…
「ダニー…」
「君の…今の気持ちを聞かせて欲しい…」
今の…私の気持ち…?
そんなの決まってる。
ダニーが好き。
それは変わらない。
「あなたが…好きよ?ダニー…」
「それじゃ…」
「でも…結婚なんて、まだ私には早いわ…?そうでしょう?」
「…」
「私は今の仕事についたばかりでダニーも医者になってまだ一年半…これからだし…それに私達、まだ付き合って3ヶ月半よ?」
ダニーは少し溜息をつくと少し悲しげな顔で私を見た。
「やっぱり…彼が原因?」
「ダニー…!」
「どうしても…気になるんだ…。いくら君が違うって言っても…」
私は何も言えなくなった。
彼が気にしているのは…そう、レオの事だ。
あの日の夜…レオが言っていた記事が、次の日、本当にゴシップ雑誌に載った。
聞いてはいたものの、やはり自分の写真を雑誌に載せられるというのは少なからずショックだった。
しかもその写真は知り合いが見ればすぐに私だと気づくくらいは奇麗に撮れていたので、
私はフランクと婦長、主任にはすぐに報告を入れてレオとの関係を何とか誤魔化し、その雑誌は病院内で販売される事はなかった。
ダニーだってそんなゴシップ雑誌を読むような人ではないし安心していたのに…
どこの世界にもおせっかいな人はいるもので、ダニーの病院の看護婦がたまたま休憩時間に買って来たその雑誌を見てダニーに知らせてしまった。
私が養父ショーンの娘だと言う事であの病院のスタッフにも私の顔を知っている人はいるしダニーと交際している事を知ってる人もいる。
それで…ダニーは私とレオが二人きりで試合を観戦し、その後にレオの自宅まで帰って行った…という記事を読んでしまった。
ダニーはその日の夜、家に来て私を問い詰めた。
私は…正直に言うしかなかった。
レオが怪我で運ばれて来たこと、その後に何故だか病院に会いに来るようになったこと、
この雨の日も突然来たので私も一度デートに付き合えば、レオの気が済むと思って試合を一緒に観戦したこと。
レオの家に行ったのは車で送って貰う為でそのまますぐに帰って来たと、ここは嘘をついてしまったけど…。
その時、看病して貰った事も話した。
ダニーは私が、「レオ…?」 と声をかけてしまった事も聞いてきたから…
送って貰ったときに熱があるからと少しの間、看病して貰っただけだと説明した。
でも…最初に会った時、キスをされた事は黙っていた。
そこまで言う必要もないと思ったから…
ダニーは私を信じると言ってくれた。
でも…レオが私に会いに来るのは心配のようだ。
いくら私が好きじゃないと言ったところで、私が元々レオのファンだったのはダニーだって知っているからだ。
今は好きじゃなくても会いに来られているうちにレオの事をファンとしてではなく、一人の男性として好きになるんじゃないか…
ダニーは、そう思っている。
いや…さっきの言葉を聞くと…すでに私の気持ちを疑っているようにも思う。
レオの事を話した日からダニーは毎日、会いに来るようになった。
オペが入り忙しい時は電話をかけてくる。
しかも必ず「今日、レオは会いに来た?」と聞いてくる…。
そして今日…ダニーは休みだったので、「今夜、ディナーに行こう」 と、突然病院に迎えに来た。
私は少し彼の様子が気にはなったけど、別に普段どおりのデートだと思ってここへ来た、だけど突然のプロポーズ…
私が驚くのも当然だった。
「…?」
私が黙ったままだからか、ダニーが不安げに私の手を握ってきた。
私は少し溜息をつくと顔を上げてダニーを見た。
「…私は…レオの事は何とも思ってないわ?確かに…前はファンだったけど…実際に会ってみて凄く…
こうイメージしてたのと違ったから…。 幻滅しちゃったの…言ったでしょ?」
「ほんとに?」
「ええ…」
「じゃあ…俺と…結婚してくれるね?」
「ダニーどうして急に…そんな事を言うの?レオの事を気にしてるからでしょ?だったら心配しないで…?」
ダニーは私が、そう言うと少し俯くも、すぐに顔を上げて私を見た。
「それも…あったけど…。そうじゃないんだ」
「え?」
「俺…あの記事を見て…本当にが俺から離れて行ってしまうって思って…。 そこで気付いた。
本当に君が必要なんだって…。を誰にもとられたくないって思った。それにいつか結婚したいって…思ってたんだよ…」
ダニーは私の手をギュっと握ると、
「俺のことが好きなら…まだ早い…とか…仕事の事とか…そんなものは気にしないで欲しい。
別に結婚したからって仕事を辞めろとは言わないよ?」
「ダニー…。でも…」
ダニーはそっと目の前の箱を開けると、奇麗に光るダイヤの指輪を取り出し、私の手を掴んだ。
「あ、あの…」
「これは…婚約指輪だ。受け取ってくれるね?」
私は…何を迷っているんだろう?
私だってダニーの事が好きなんだ…
その彼からのプロポーズ…断る理由もない…。
仕事だって続けていいって言ってくれたし、
何より私だって…ダニーと一緒にいたいと思ってる。
私はダニーの瞳を見つめ返すと、黙ったまま小さく頷いた。
するとダニーは本当に嬉しそうに微笑んで、その指輪をそっと私の薬指にはめてくれた。
そして、そのまま私の手に口付ける。
「嬉しいよ…!今夜は…記念すべき夜だ…」
ダニーはそう言うとウエイターにワインを頼み、それで乾杯しようと言った。
私はちょっとドキドキしていて自分の指に光る指輪を見ると少しだけ実感が湧いてきた。
(私…ダニーと婚約したんだ…)
「さ、…乾杯しよう」
ダニーが嬉しそうに運んで貰ったワイングラスを持って私に微笑んでくる。
私もちょっと微笑むとグラスを持って少しだけ持ちあげた。
「俺との婚約に…」
そう言うとダニーはワインを美味しそうに飲み、
それに続いて私もワインを飲み干すと一気に喉の奥が熱くなる。
このドキドキ感は…嬉しいからなのか…それとも少し不安に思っているからなのか、
今の私には…分からなかった――
その日の夜、俺は撮影を終えて、衣装から私服に着替えるとスタジオからコッソリ抜け出そうとしていた。
「おい、レオ!」
「……!!」
俺が驚いて振り返ると、そこにはニヤニヤしながら今の映画で共演しているトムが立っていた。
「何だよ~…脅かさないでよ…。てっきりジョーかと思った」
「マネージャーにも声をかけないで、お前はどこに行くつもりなんだ?」
トムが苦笑しながら俺の方へと歩いて来た。
ここはスタジオの裏口に通じる通路で、普段はスタッフくらいしか通らない場所だ。
今も何人かのスタッフがウロウロとしているが俺たちに気づくと軽く頭をさげて、「お疲れ様です」 と声をかけていく。
「別に…どこに行こうたって、もう夜中の2時だよ?家に帰るだけだよ…。ジョーと顔合わすと、また小言が始まるからさ…」
俺が肩をすくめて、そう答えると、トムもちょっと吹きだして俺の肩を軽く叩いた。
「お前のマネージャー、ほんと、うるさいもんな?今朝も控え室から怒鳴り声が聞こえたぞ?」
「ああ…そう言えば今朝も何だか、ブツブツと文句言ってたな…。俺、耳ふさいでたし」
「何かしたのか?レオも、色々と忙しいようだしな?」
トムはニヤリと笑って俺を見ている。
きっとこの前のゴシップ雑誌の事を言っているんだろう。
「別に…子供じゃないんだし、誰と寝ようが小言を言われる筋合いないんだけどね?」
「そりゃそうだけどな?同時に二人ってのはなぁ…。で…どっちが本命なんだ?」
トムが興味津々と言う顔で聞いてきて俺はちょっと笑ってしまった。
「トムでも人の恋路が気になる?」
「そりゃ~レオナルド・ディカプリオの恋路ならな?」
「何だよ、それ…?」
「まあ、まあ…普段、こんなゆっくり話せないし…どうだ?軽く一杯飲みに行かないか?」
「え?いいけど…」
「よし、じゃあ行こう!」
トムはそう言うと楽しそうに口笛なんか吹きながら出口の方へと歩いて行った。
俺はちょっと苦笑しながら、まあ明日は午後からだしいいか…と思いつつ、彼の後をついて行く。
(ああ…明日の朝は…病院に行けるかもしれない…)
そんな事も、ふと頭をよぎった――
「あれ?トム…ここ知ってるの?」
俺はタクシーが止まった目の前の店を見て驚いた。
そこは俺やフレッド、トビーがよく飲みに来る、ジョニーデップがオーナーのライブハウス"バイパー・ルーム"だった。
「ああ、彼とは知り合いだからな?たま~に賑やかな場所で飲みたい時は、ここに来るんだ」
「へぇ~。俺もジョニーとは飲み友達なんだ。それにしてもよく今まで会わなかったね?俺も友達と、よく来てるのに」
「時間が違うんだろ?俺は普段はこんな遅くには来ない。一応、大事な家族がいるからね?」
トムはそう言って笑うと店の中へと入って行った。
俺もちょっと笑いつつ、彼に続く。
今夜は遅い時間帯でも、かなり混んでいるようだ。
何かパーティーでもあったのだろうか。
顔見知りの店員が俺達に気付くと、いつものビップルームへと案内してくれる。
今夜はトムと一緒で驚いているようだったが共演する事を知っていたのか、公開されたら観に行かなくちゃなんて言って笑っている。
「あ、それと…今夜はオーナーも来てるよ?」
その店員の言葉に俺とトムは顔を見合わせた。
「嘘?どこ?」
「ああ、今、あそこで知り合いと飲んで…ちょっと呼んでくる」
その店員は騒ぐ人で込み合っているホールへと歩いて行くと、一際目立つハットをかぶった男に耳打ちしているのが見えた。
「あ~ジョニー、もう酔ってるみたいだよ?フラフラしながら歩いてくる」
俺がマジックミラーになっている鏡からホールを覗くとトムも苦笑しながら、
「何だかご機嫌っぽいな?」
と言ってソファーに座った。
俺もトムの隣に腰をかけて煙草に火をつけた時、勢いよくドアが開いてご機嫌なジョニーがウイスキーの瓶を持って入って来た。
「よぉ、お二人さん!仲良く男同士で飲みに来てくれたのか?」
ジョニーはふら~っと歩いて来て俺の隣にボスンと座ると店員が持って来たグラスにウイスキーを注いでくれた。
相変わらずハットにスーツという紳士な格好でキメている。
俺はそのグラスを受け取ると、「ご機嫌だね?ジョニー」 と言って彼のグラスにチンと当てた。
トムも苦笑いしながらウイスキーのグラスを受け取り、俺とジョニーのグラスにあてると一口飲んで顔をしかめる。
「か~効くね~…。ところでジョニー…珍しいな?お前が自分の店で飲んでるなんて」
「ああ、今夜は俺の友達の誕生日パーティーやってたんだ。食事は別でして二次会で場所を提供したってわけ」
「へぇ~だから、こんなに人が多いの?」
俺はホールの方を見ながら言った。
「ああ…そろそろ店、閉める時間なんだけどな?盛り上がってるから朝まで営業だな、こりゃ」
ジョニーはふらふらと、でも笑いながら俺の肩に腕を回した。
「ところで…お前、また違う女とデートしたって?しかも、もう一人追いかけてる女がいるってな?」
「え?ああ…あれ読んだの?」
「まあ、読んだと言うか…他にも情報提供者がいるって事を忘れたのか?」
ジョニーは、そう言うとニヤリと笑ってウイスキーを飲んだ。
「え…あ…っ。 フレッドとトビー?」
俺が顔をしかめて、そう言うとジョニーは俺の頭をクシャっと撫でた。
「あの看護婦の子…今までのタイプと違いすぎないか?あれはどう見ても俺の好みだな。細くて目が、こう…大きくてな?」
「は?!何言ってんの?それに…よく見てるね?…ってかジョニー酔ってる…?」
俺はジョニーの回した手を外すと煙草を吸いながら苦笑した。
「酔ってないっ。お前は…え~っと…あの…モデル?とは、まだ付き合ってるのか?」
「え?ティナ?まあ…連絡は…たまにだけどしてるよ?」
「何?そうなのか?」
そこにトムが、またも興味津々で聞いてきた。
「別に俺が誰と連絡とろうが関係ないだろ…」
「と言うか、お前はどっちが好きなんだ?さっきも聞いたが答えを聞いてないからな?」
「そうだ!どっちが好きなんだ?!」
トムの言葉に便乗したジョニーが、また俺の肩に腕を回して聞いてきた。
俺は軽く溜息が出た。
「…あのさぁ。何で、人のプライベートを詮索するわけ?」
「「面白そうだし?」」
「………」
俺は二人のハモリを聞いてまた溜息が出た。
「面白いって…。 ――俺の恋愛事情で楽しまないでくれる?」
「だって、お前…看護婦さん、追い掛け回しては引っぱたかれてんだろ?凄いよなぁ~
レオを殴る女がいるなんて…しかも二回も…!いやぁ~いい女っぷりだ。俺に紹介しろよ」
ジョニーは、そう言って楽しそうに笑うと、「で?本命はどっち?」 と聞いた。
俺は軽く頭を振ると、
「そんな…どっちなんて分かんないよ…。ティナは一目で気に入ったんだけど…」
「へぇ~。でも看護婦の子だって好きだから会いに行くんだろ?」
トムはウイスキーを飲みながら俺を見た。
「…まあ…。でも俺、最初に好きにならなかったら、後から好きになるなんて事、一度もなかったから…よく分からないんだけどね…」
「ああ、それでか…」
「何?…どういう意味?」
俺は意味深な顔でニヤリと笑ったジョニーの顔を見て聞いた。
するとジョニーは煙草に火をつけながら、また俺の顔を見てニヤっとする。
「お前、彼女が気にはなるんだけど何で気になるか分からないから会いに行ってたんだろう?自分の気持ちを確めるように…」
「え?」
「会いたいって気持ちがあるなら…それは好きだって事だよ!」
ジョニーはそう言うと俺の肩に回した腕を今度は首に回して絞めてきた。
「ちょ…苦しいって、ジョニー…!」
「お前、自分の気持ちも分からないなんて、まだまだだぞ?一目惚れもいいけどな…
相手の事を少しづつ分かって好きになっていく方が…深いんだよ」
ジョニーは、そう言って腕を放すと、笑いながらウイスキーをグイっとあおった。
俺は首をさすりながら、ジョニーを見ると、
「そんなの…ゲホ…。 ジョニーに言われたくないよ…自分だって一目惚れの達人のクセにさ…」
「まあ、そうだな?!そんな細かい事は気にするな!アッハッハ」
ジョニーは大笑いしながら背中をバンバン叩いてくるもんだから俺は飲もうとしたウイスキーをもう少しで零しそうになった。
それを見てトムも大笑いしている。
「ま、看護婦さん…って、その子名前は何て?」
「え?ああ……」
「可愛い名前だな!まあ、そのって子に好かれるようにせいぜい頑張れよ?」
トムも俺の背中をパンと叩く。
「いやぁ~いいね。若いって!結婚前は、俺もそんなドキドキするような恋愛をしたもんだよ」
トムはそんな事を言って一人でニヤニヤしている。
俺は二人から叩かれた背中の痛みに顔をしかめつつ、ウイスキーを飲んでちょっと息をついた。
(はぁ…この二人が友達って…何だか分かる気がするよ…タイプは違うけど)
俺はそんな事を思いながら煙草に火をつけているとジョニーが俺の頭に手を置いて、
「まあ、彼女は一般人なんだろ?なるべく、お前が守ってやれ」
と言って優しく微笑んだ。
「何だよ…。急に真面目な顔しちゃって…」
「ま、たまにはな?俺はお前より恋愛経験は豊富だから、先輩からのアドバイスだよ。それと…
聞いたところによると、彼女には恋人がいるそうだが…本気で好きなら構う事はないから奪ってしまえ」
「そんな簡単に…」
「いや、ジョニーの言う通りだ!奪ってしまえ!燃えるなぁ…略奪愛!う~ん、いいね!」
トムまで何だかすでに酔ってきたのかノリノリだ。
「おぉ~略奪愛か…いいな、それ。レオのやった"タイタニック"でも確か婚約者から奪ったんじゃなかったか?」
「そうだよ、ジョニー!そうか、レオはあれを、またやればいいんだな?」
二人は何やら楽しそうに人の恋愛事情で盛り上がっている。
俺は思い切り溜息をついた。
「あのさ、二人、盛り上がってるとこ悪いんだけど…」
「ん?何だ?」
「俺…明日の朝、その、"略奪愛"とやらに行かなきゃいけないから、もう帰るよ…」
そう軽く嫌味を言って立ち上がるものの、二人は一向に気付かずニヤニヤしながら俺を見た。
「おぉ~!そうか、そうか!頑張って来いよ!今度、そのって子をここに連れて来い!俺がまたお前から奪ってやるから!」
「あのねぇ、ジョニー…」
俺が軽く睨むとジョニーは笑って、「分かった、分かった…ジョ―クだよ…。レオは怖いよな?」 とトムに言って肩をすくめている。
「ジョニーが言うとジョークに聞こえないんだよ…。じゃあね、おやすみ!」
俺はそう言うと、まだ盛り上がっている二人を残し、店を出た。
はぁ…全く何が略奪愛だよ…人事だと思って。
まあ、今までだって恋人のいる女性に手を出して男から結果的に奪った事もあったけど…
あれは女の方から恋人に別れを告げて俺のとこへきたからな…
は俺の事を迷惑だと思ってるし恋人の事を好きだと言っていた。
奪うなんて無理のような気がする。
それでも…会いたいと思うんだから不思議だよ…
ジョニーが言うように…"会いたいって気持ちがあるなら好きだって事"なんだろうか。
確かに俺は自分の気持ちを確めるのに会いに行ってたってのもある。
そこで、またをからかって怒らせて最後は答えなんて見つからないままなんだけどな…
俺はちょっと溜息をつきつつタクシーを拾うため、通りを歩いて行った…。
「あら、…その指輪…」
「え?!」
「ちょっと!それ恋人からのプレゼント?!」
ロッカールームで着替えているとキャシーが目ざとく私の左手薬指に光るダイヤの指輪を見てそう叫んだ。
「見せて?!うわぁ~ダイヤじゃない?これって…もしかしてエンゲージリング?」
私の手を取り、マジマジと指輪を見ながら聞いてきた。
ちょっと顔が赤くなり、「う、うん…。夕べ…貰ったの」と言い、制服に着替えたので指輪も外してロッカーに閉まった。
「嘘!プロポーズされたの?!彼に?」
「え?ええ…そう…ね…。ま、一応…」
「キャ~凄いじゃない!!彼、脳外科の、お医者様でしょう?!素敵!」
キャシーは私以上に興奮している様子。
「で?いつ結婚するの?」
「まだそこまで決めてないわ?夕べの今日だもの…。まだ、もう少し先だと思う。
それより…サッサと仕事に行かないと、また主任に怒鳴られるわよ?」
「え?あ、いけない!申し送り始まっちゃう!」
キャシーは慌ててロッカールームを出て行った。
私も、急いで、その後に続く。
素敵…かぁ…
他の人から見ると、そうなのかもしれないわね…
でも脳外科の医者なんて忙しいし、突然、海外で講演とか言って出張に出かけるしで結婚したら大変だと思うんだけどな…
私の養父も同じ脳外科だから、一緒に住んでた時は母も寂しそうだった。
私も、ああなるのかなぁ…
ま、仕事は辞める気はないから家にこもって帰りを待つだけの生活よりはマシか…。
私はそんな事を考えながらナースステーションへと入って行った。
俺は久し振りに病院の庭を歩きながらを探していた。
今日もいい天気だし、きっと、この時間は外でマークと遊んでいるだろう…。
そんな事を思いながら俺はいつもの場所に歩いて行き、足を止める。
(いた…。やっぱりここだ)
いつものスペースで、とマークは楽しそうにバスケのシュートの練習をしている。
俺はサングラスを外して二人の方へと歩いて行った。
「Hi!」
「…レオ?!」
「あ、お兄ちゃん…!!」
マークが俺に気付くと嬉しそうに走って来て俺に飛びついた。
「マーク…!久し振りだな?元気だった?」
俺はしゃがんでマークを軽く抱きしめるとマークも笑顔で頷いた。
「うん!も~待ってたんだよ?!お兄ちゃんが来るの…
あの…ほんとにレイカーズのグッズ、ありがとう!!すっごく嬉しかったよ、僕!
ユニフォームにも、コービーのサインがあって、あまりの嬉しさにひっくり返りそうになったんだ!ね?」
マークは興奮したように一気にまくし立てると、後ろで微笑みながら立っているの方を見た。
「ええ…そうね?マークったら、その日は興奮して夜もなかなか眠らないから困っちゃったわ?」
俺はそっと立ち上がると、「やあ、元気?」 とに声をかけた。
「ええ、まあ…。って一週間前にも会ったじゃないの」
は苦笑しながら俺を見た。
「そうだけどさ…」
俺が肩をすくめると、マークが服を引っ張ってきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん!今日はダンク、教えてよ!コービーやシャックがするような派手なやつ!」
「え~?マークに出きるのか?その前にランニングシュートを覚えないと…」
「あ…そっか!」
マークも舌をペロっと出して笑っている。
も笑いながら傍のベンチへと腰をかけてニコニコとこっちを見ていた。
俺がマークにシュートを教えてあげていると、そこに前に会った受け付けにいた金髪の子が走ってくるのが見えた。
「…! ―あ…っレ、レオ…こんにちは!」
「やあ」
俺が微笑むとその子は頬を赤らめつつ、に、「あ、あの…電話よ?…フィアンセから!」 と言った。
「ちょ…!キャシー!」
が慌てた様子でキャシーとか言う子を腕でどつくと俺の方を見た。
「あ、あの…ちょっと私、電話に…」
「ああ、いいよ。マークは俺が見てるから…」
「あ、ありがとう!すぐ戻るから…」
はそう言うと病院の方へと走って行った。
キャシーは、クスクス笑いながら、「毎日、ラブコールが入るんですよ?熱いですよね」 と言って俺を見た。
俺は、そんな言葉よりも、さっき彼女が口にした言葉の方が気になっていた。
心臓が、ギュっと縮んだような感覚が襲ってくる。胸が痛い…
その時、マークが不思議そうな顔で俺を見上げてきた。
「ねぇ、お兄ちゃん…。"フィアンセ"って何?」
俺はドキっとしてマークを見た。
すると俺が答えるより先にキャシーが笑顔で説明し始める。
「ん~とね、結婚の約束をした相手…恋人よりも上って感じかしらねぇ?分かる?」
「う~ん…何となく…。え?じゃ、は…結婚しちゃうの?!」
「そうよ?今すぐじゃないけど…そのうちね?」
キャシーがそう言ってウインクすると、マークは俯いてベンチにちょこんと座ってしまった。
俺は息苦しさを感じて少し息を吐き出すとキャシーの方へ振り向いた。
「は…いつ婚約を?」
「あ…あの夕べ…らしいです。今朝、言ってました。プロポーズされたって…婚約指輪もしてましたし…」
「へぇ…そうなんだ」
俺はそう答えながら自分が酷く動揺しているのを感じていた。
「あの…さ、マーク…俺、もう仕事に行かないといけないんだ…。だからまた来るよ…」
「え~…?もう行っちゃうの?」
マークは少し顔をあげて、そう言うも、「分かった…。また…来てね?」 と微笑んだ。
俺もちょっと微笑みマークの頭を撫でると、キャシーにマークを任せて足早に病院の駐車場へと走って行った。
そこには、ジョーが運転する車が待っている。
今朝、一人で家を出ようとしたらジョーがやってきて、どうせ病院に行くんだろう?と行って一緒に行くと言い出したのだ。
俺は嫌な顔をしたが、「お前一人で行かせると、マスコミにバレた時に困るからな…!」 と一緒にくっついてきてしまった。
俺は車に乗り込むと思い切りドアを閉めた。
「あれ?早かったな…。まだ時間あるぞ?彼女、いなかったのか?」
「いや…」
俺はそう答えると、煙草に火をつけて思い切り煙を吐き出した。
そんな俺を怪訝そうな顔でジョーが見ている。
「おい…どうした?何だか様子が変だぞ?」
「いいから…車、出してよ…」
「え?あ、ああ…」
ジョーは首をかしげながらもアクセルを踏むと車を発車させた。
今日は午後からロケだ。
俺は車の窓を開けると顔を出して風に当たると軽く溜息をつく。
が…結婚する…
そう思うと何だか胸の奥がざわざわする。
この感覚は…昔、大切にしてた彼女に裏切られた時に感じたことがあった。
大切な人を失った時に感じた不安、悲しみ…絶望…
そんなものが入り混じったような痛み。
俺は…あれから心のどこかで女という生き物を信じなくなったのかもしれない…
好きになって口説いて上手くいったとしても…どっかで冷めてた気がする。
いつか…自分から離れて行くんじゃないか…とか、俺が俳優だから付き合うんじゃないかとか、いつも心の奥で疑っていた…。
ほんと…ジョニーの言う通り…俺は、まだまだだな…
気付けば何度となく溜息をついてたらしい。
さすがにジョーも心配になったのか、信号が赤になった時、また声をかけてきた。
「おい…どうした?そんな溜息ばっかついて…何か…あったのか?」
「……うん」
「な、何だよ…?素直に"うん"なんて、お前らしくないな…。彼女に…また殴られた?」
俺はジョーの言葉が、おかしくて笑ってしまった。
「そんな事くらいで俺がめげる?」
「いや…」
「だろ?違うよ」
「じゃあ…何だよ?」
「…失恋した」
「は?!」
「信号、青になったよ?」
「あ。いけね!」
ジョーは驚いた顔をして俺を見ていたが後ろの車にクラクションを鳴らされ、慌ててアクセルを踏んだ。
そして運転しながらも俺の方をチラチラと見ている。
「お、おい…失恋って?どういう意味だよ?って子に…こっぴどく振られたのか?"もう来ないで!"って言われたとか?」
「そんなの行く度に言われてるよ」
「…だよな…(!)」
俺は窓から顔を出し、窓枠のところへ顎を乗せたまま目を瞑った。
風の強さに髪が乱れるのも気にならなかった。
ジョーは、また黙り込んでいる俺を心配そうに見ながら口を開きかけた。
「おい、レオ―」
「さ…」
「え?」
「婚約したって…」
「……は?!」
ジョーは驚いてハンドルを切り損ねたのか車が一瞬だけ左右に揺れた。
「おい、危ないだろ?」
俺は顔を上げないまま、そう言うとジョーも、「悪い…!」 と言ってガシっとハンドルを握りなおした。
「婚約って…あの医者とかいう恋人とか?」
「ああ…夕べ、プロポーズされたんだって」
「だから、もう来るなって?」
「いや…本人から聞いたんじゃないよ。同僚の看護婦から」
「…そ、そうか…。ま、でもお前だって本気じゃないんだろう?ちょっと気まぐれって感じだったもんな?
お前にはティナだっているし、他にも寄って来る女が大勢いるんだからそんな落ち込むなんて事は…」
ジョーはこれでも慰めているつもりらしい。
俺はちょっと息を吐いてジョーの方を見た。
「…自分の気持ちに気付いた途端に失恋だよ?落ち込むだろ?普通…」
「はあ?!」
また一瞬車が揺れて、キキキーッとタイヤのなる音がする。
「おい…大丈夫かよ…?」
俺は呆れてジョーに言うも、また窓枠に顎を乗せて顔を出した。
何だか体に力が入らない。
「わ、悪い!今、ちょっと聞き間違えたようで…アハ…アハハ…っ」
ジョーがアホみたいな顔で笑い出した。
「何を?」
「いや、だから、お前が自分の気持ちに気付いた…とか何とか…幻聴だな、うん」
「何言ってんだよ?そう言っただろ?何だよ、幻聴って…」
「な、何?!…おま…え?気付いたって…それって本気で好きだって気づいたって事か?!」
ジョーがまたもアホの子みたいに口をポカーンと開けながら俺をチラチラ見て言った。
俺は苦笑しつつも、「それ以外に何があるんだよ? ―あ、違うな…。失恋して気付いたのかも…」 と呟く。
ジョーは少し考えていたが急に笑い出した。
「あのなぁ…!そりゃ、お前の勘違いだよ、勘違い!」
「何が?」
「だから…その…。仮に気まぐれで追いかけてた子だったとしてもさ…誰かのものになるって思うと…少しはショックも受けるだろ?
それで本気で好きだったとか勘違いしちゃうんだよ…そうだろ?」
俺はジョーの言葉に溜息をついた。
「ジョーさ…。あまり、いい恋愛してこなかったろ? ―ま、俺も人の事は言えないけど…」
「ぐ…っ!そ、そうだぞ?!お前に"だけ"は言われたくない!!」
「はいはい…。でも俺の勘違いとかじゃないよ?」
「そ、そうなのか?」
「ああ…。最近さ…のこと、ずっと頭から離れなかったし…何でだろって思ったりしたけど…でも毎日会いたいと思ってた…。
そこで気付けって感じだけどな…。ジョニーにも、"会いたいと思うのは好きだからだ"って昨日、言われたし」
「あ?ジョニー…って…。ジョニー・デップか?」
「うん」
「…あ!お前、勝手に帰ったと思ったらやっぱり飲みに行ってたな?!今朝、聞いたら帰ってすぐ寝たって言ってたのにあれは嘘か!」
「あ…やべ…」
つい口から滑ってしまった。
「全く…!お前は少しは真実を言えないのか?!だからって子にもお前の気持ちが伝わらないんだよ!」
ジョーは、いつもの様に顔を赤くして怒鳴っている。
俺は、その言葉にちょっと傷ついた。
「ジョー…。今の俺にその言葉、すっごいキツイんだけど?グサグサくるな…ほんと…。
今日の撮影できるかな…?今の言葉にショック受けてせっかく覚えたセリフ飛びそうだよ…」
俺はわざと胸を抑えて溜息をついた。
「な、何?あ、いや…嘘!今のなし!そんななあ?何で、お前の気持ちを分ってくれないんだろうなあ?」
「ジョー…顔が引きつってるよ?」
「………」
俺はちょっと苦笑しながら、それでも胸の痛みが増してきて息苦しい感覚が襲ってくる。
ほんと…気付くの遅すぎだよな…
って別に早くに気付いてたって、に嫌われてるのは変わらないんだけど。
俺は本当に胸が痛くて、今日の撮影が出きるのか?と本気で心配になった――
「え?帰った?」
私はダニ―との電話を終え、レオに借りたシャツを返そうとそれを取りに行って戻ってみると、すでに彼の姿がなくて驚いた。
「ええ…。何だか急に仕事があるからって…ね?マーク」
「うん…でも…また来てねって言っておいたから…大丈夫だよ?」
私はマークのその言葉に苦笑しながらも、何故レオが急に帰ったのか気になった。
いつもなら一時間はいるのに…
そんな急に帰るなんてこと、今までに一度もなかった。
「じゃ、私は自分の仕事に戻るわね?」
キャシーが私の肩をポンと叩いて笑顔で言った。
「あ、ほんと、ありがとう」
「いいわよ。じゃ…」
キャシーは、そう言うと病院の方へと戻って行った。
私はベンチに座ると持って来たレオのシャツの入った袋を隣に置いて溜息をつく。
はぁ…どうしよう?
これを持ってると…どうしても気になってしまう。
次…いつ来るのかな?何だか忙しそうだったし…。
私は、マークが一人でシュートの練習をしているのを見ながら軽く息を吐き出した。
今日の帰り…彼の家に持っていこうか…
いつ戻ってくるのか分からないけど…何なら玄関の所へ置いておいてもいいし…って、あの大きな門、開くのかな?
まあ、明日は私も仕事は休みだし少しなら待つ事もできるけど…。
そんな事を考えつつ、時計を見た。
もう、お昼になろうとしている。
ダニーは今夜はオペが入ってると言っていた。
彼はオペをした日は凄く疲れるらしく、私にも会いには来ない。 ―確かに脳の手術なのだから、かなりの神経を使うだろう―
(よし…今日なら、行っても大丈夫よね?)
私は、そう決めると、マークに声をかけた。
「マーク、そろそろ病室に戻るわよ?」
「は~い」
いつもの素直な返事が返ってくる。
私はちょっと微笑むと、マークの手を繋いで病院の方へと戻って行った―
「はぁ…やっぱ無理か…」
私は、その大きな黒い門を見上げて溜息をついた。
どうやらリモコンで開くようになっていて普通では開けられない。
かと言って上れるほど低くもなく、私の身長では全く中の様子さえ見えない状態だ。
庭にベル・エアの木々が多い茂っているから、家の様子も伺えず、二階の窓がかろうじて遠くに見える程度だった。
どうしよう…チャイムを鳴らしても出ないって事は、まだ仕事してるのよね…
って、当たり前か…
まだ7時過ぎだし…撮影って、どのくらいで終るんだろう…?
もしかして朝までとかかな…そんなの待ってられないぞ…?
私はブラブラと家の塀の周りを歩いて裏の方へとまわった。
すると小さな通用門があり、細い道が木々の中へと続いてるのが見える。
そこにも門があり鍵がかかっているが、表の門よりは小さく私が何とか上れる高さだった。
(ここから…入れるかも…)
私は周りをキョロキョロと見回し、誰もいない事を確めるとバッグとシャツの入った袋を門の中へと放り投げた。
そして、門のでっぱりに何とか足をかけて、ゆっくり上って一番上までくると、すぐに塀の上に移った。
そこの目の前にある大きな木に手を伸ばして今度は木の上に移動した。
あとは木のくぼみを利用して下へと降りる。
何だか私、泥棒みたいだわ…
近所の人に見付かったら熱狂的なファンだと思われて警察呼ばれるかしら…
ちょっと心配になりつつ、すでに暗くなり始めた空を見上げると、慌ててバッグと袋を拾って玄関の方まで歩いて行った。
歩けど歩けど、なかなか家が見えてこなくて途中、不安になったが、2分ほどで白い建物が見えてきて、
駐車場の前へと出ると道が開けた。
(あ、ここを右側に歩いていけば確か玄関があったはず…)
私は、そのまま右に曲ると、すぐに大きな玄関が見えてきた。
リビングの辺りの窓を確認するも、やはりいないのか電気も消えたまま。
「はぁ…どこで撮影してるんだろ…」
私、そう呟くと玄関の前の階段に腰をかけた。
電話番号も知らないし…困ったなぁ…。
これ、ここに置いておけばいいかしら?
何かメモを残しておけば…
私はバッグの中をあさって紙とペンを探した、が…今日に限って手帳を持っていない。
「ああ…今朝、スケジュール書き込んでそのまま机の上に置きっぱなしだ…」
私は溜息をついて時計を見た。
すでに、7時半過ぎになろうとしている。
一時間ほど待ってみて帰って来なかったら…置いて帰ろうかなぁ…
何だか、ここ暗くて怖いし…
私はキョロキョロしながら自分の体をギュっと抱くと溜息をついた。
庭も広くて辺りは木々があり外から見えないようになっている。
暗い中でその大きな木を見上げるとちょっと怖いのだ。
たまに風が吹くとザワザワと葉が揺れる音で、ビクっとなる。
(はぁ…早く帰って来ないかなぁ…)
私はそう思いつつ、体を小さくして階段の後ろへよりかかった。
ロスとはいえ、今は11月も半ば過ぎ…
夜になると気温も多少は下がり始める。
私はジャケットを軽く羽織った。その時――
プルルルル…
「キャ…っ」
いきなり携帯が鳴り出し、驚いた。
「はあ…びっくりした…」
私は胸を抑えると急いでバッグの中から携帯を取り出し相手も確認しないまますぐに出た。
「Hello?」
『Hello?かい?』
「あ…ダニー?」
『ああ。今、どこ?家にかけたら出なかったからさ。今日は早番だったろ?』
「あ、あの…」
いきなりの電話と質問に私は焦って一瞬言葉がつまった。
(ど、どうしよ…何て言えば…)
「あ、あのね。今日は早く終ったからキャシーと一緒に食事して帰ろうかと思って…今、行き先を考えてたのよ」
何とか誤魔化したが、ちょっと胸がドキドキしている。
だがダニーは疑う様子もなく、『なんだ、そっか。じゃ、これから夕飯?』 と明るい声で聞いてきて私は少しホっとした。
「え、ええ…。あの…少し飲んでいくかも…私、明日は休みだし…」
『ああ、構わないよ?あまり飲み過ぎなければね?』
「ええ…気をつけるわ?それより…どうしたの?何か用事だった?」
『ああ…。いや…これからオペなんだけどさ…。その前にの声が聞きたくなってさ』
ダニーは少し恥ずかしそうに、そう言った。
私は少し胸が痛くなった。
「あ、あの…オペ…頑張ってね?」
『ああ、ありがとう…。 あ、今度さ、ショーンが皆で食事しようって』
「え?養父さんが?」
『ああ、婚約のお祝いをしたいらしいよ?』
「そう…。じゃ、母さんも入れて4人でね?」
『ああ』
「分ったわ」
その時、電話の向こうで誰かが叫んでる声が聞こえた。
『ああ、呼ばれちゃった…。じゃ、行ってくるよ。 また明日にでも電話する』
「…うん」
『…?』
「ん?」
『…愛してるよ』
「…私もよ?」
『じゃ、またね』
ダニーは嬉しそうに、そう言うと電話を切った。
私は携帯をしばし見つめると何とか胸のドキドキを静めようと深呼吸をする。
「はあぁ…」
嘘…ついちゃった…。
ごめんね…ダニー…。
心配かけたくないの。
私は携帯をバッグにしまうと腕時計を見てやっと8時を過ぎたのを確認した。
(まだ…戻らないわよね…)
私はちょっと息を吐き出すと、また後ろへ寄りかかって夜空を見上げた。
この辺は高級住宅街なので辺りも静かだった。
レオ…私が待ってたら驚くかなぁ…
もし女性と帰って来たらどうしよう?誤解されたら迷惑よね?
やっぱり帰ろうか…
そんな事を考えつつ、私は何度となく時計を見てはその場から動けないでいた――
「お疲れぇ…」
「おお、お疲れさん」
俺はすれ違ったスタッフに声をかけながら衣装を閉まってあるトレーラーから着替えて出てきた。
どうもパイロットの制服は肩が凝る。
はぁ…今日は何だかダメだ…
セリフも何度となく飛んでNGにはなるし散々だな…
別に普段は出さない方だから監督も笑うだけで楽しんでたようだけど…
"NG特集で使えるな!"
なんて言い出す始末…
もう好きに何でも使ってくれって言っておいた。
俺はジョーの車のある方へと歩いて行くと、ジョーは誰かと携帯で話をしている。
俺は勝手に車に乗り込むとシートを倒して寝転がった。
何だか凄く疲れた。
そんなに動き回ったわけでもないし寝不足なわけでもないんだけど…って、ああ今日は早起きしたから少し寝不足か…
夕べ、飲み過ぎないで正解だ。
あれで朝まで飲んでたら今日はボロボロだったに違いない。
そんな事を考えてるとジョーが運転席に乗り込んできた。
「おう、お疲れ!」
「…ああ」
「何だよ、元気ないなぁ?今日は早く終った方だろ?」
ジョーは車のエンジンをかけながら笑った。
俺は返事をする気力もなく黙って目を瞑る。
「どうした?眠いのか?」
「……ん」
「真っ直ぐ帰るか?食事しないで」
「……ん」
「OK…」
あまりに気のない返事にジョーも少々気まずいのか、そこで黙って車を出した。
俺は何だか精神的にかなり参ってるようだ。
久し振りの脱落感…
俺は…こんなに彼女の事を好きになってたのかと、改めて思い知らされる。
の…笑顔が見たい…
俺にはあまり見せてはくれないけど…たまに笑いかけてくれる、あの笑顔が好きだ。
怒った顔も…俺の名を呼ぶ声も…
今では全てが愛しく感じる…。
あんなに喜怒哀楽を見せてくれる子は…今の俺の周りにはいない。
は感情が本当にストレートだ。
そこには一切の嘘も濁りもない。
本当の素顔を見せてくれる唯一の子だった。
だから…俺には新鮮で眩しかったのかもしれない。
ふと、そんな風に思った。
もう…会いに行かない方がいいんだろうか。
マークの事があったとしてもだって婚約者に俺の事を誤解されたくはないだろうし…
そう思ってみたところで…俺は会いに行くのをやめようという気には、どうしてもなれなかった。
婚約者がいたっていい。
今の俺にはが必要な気がした。
気づかないうちに…俺はから元気を貰ってたんだなと気付く。
その時、夕べ、ジョニーから言われた言葉を思い出した。
"本気で好きなら構う事はないから奪ってしまえ"
略奪愛か…
そんな本気で好きな子に出来るのかどうか…
いや…その前にの気持ちを動かせるのかどうか分らなかった。
今までも無理だったのに今更…婚約までした彼女の心を…奪えるのか?
でも…の心が…今、一番欲しいと思う。
それを手に入れたあの恋人に…俺は嫉妬した…
「おい…レオ?ついたぞ?」
俺は肩を揺さぶられて目が冷めた。
いつの間にか寝ていたらしい。
「…ああ。サンキュ…」
俺は体を起こすと思い切り息を吐き出した。
「よく眠ってたな?現実逃避か?」
「あ?うるさいよ?」
「お~こわ…。ま、お前も、これで諦めがついただろ?もう彼女には会いに行かないよな?」
「…そんなこと言ったっけ?」
「はぁ?!」
ジョーは呆れた顔で俺を見た。
「お前・…婚約者のいる女に会いに行ってどうするんだ?」
「別に…。会いたいと思うから会いに行く。それでいいだろ?それに…」
「それに?」
「今、が必要なんだ…」
「は?必要って…どういう風に?」
「に会ってると…元気になるんだよ…っ」
俺がそう言うとジョーは本当にアホかと思うくらい口をポカーンと開けている。
「お前…どうしたんだ?何だか…変だぞ?病院に行くか?!どこが悪いんだ?え?言ってみろ」
「ジョー・ふざけるなよ…俺は別にどこも悪くないって!」
「だ、だって、レオ・…お前の今までの色んな恋愛を見てきたけどな?
彼女に会うと元気になるんだ…なんて可愛いこと、言った事、一度もなかったぞ?!
逆にしすぎで元気がなかった方が多いくらいだ(!)……そういや…お前、よく体がもってたな…?」
「あのな…。そんな過去の事、いちいち蒸し返さないでくれる?」
俺は本気で疲れて溜息をついた。
「で、でもな?婚約者のいる女を追いかけてるってマスコミにバレてみろ!最高のネタにされちまうぞ?!」
「それは…気をつけるよ…。には迷惑かけたくないしさ」
「…………?!」
「何だよ?その顔…アホっぽいからやめろよ…」
ジョーは今度は目を見開いたまま口を開けている。しかもパクパクしているから鯉か金魚みたいだ。
「こ、この際、俺の顔がアホっぽかろうが、そんな事はどうでもいい!それより…め、迷惑かけたくないって…そ、そりゃ本心か?!」
「そうだけど?」
「うわあ~…お前、そんな事を言ったのも初めてだぞ?怖い…怖すぎる…!」
「失礼だな!ほんとムカつくぞ?」
俺が睨むと、ジョーは慌てて、
「あ、ああ、悪かった!それは謝る!でも…じゃあ迷惑かけたくないなら会いに行かなければいいだろ?それが一番迷惑じゃない…!」
張り切って、そう言うジョーを俺は殴りたくなってきた…(!)
「だから…さっきも言ったろ?今の俺にはが必要なんだって…
会いに行くのも迷惑だって分ってるよ…。でも…会いたいって気持ちの方が大きいんだから仕方ないだろ?」
俺がそう言うと、ジョーは本気で固まっていた…(!)
俺は相手にするのがバカくさくなってそこで車を降りた。
「明日は何時?」
「え?」
「まだボケてんの?明日は何時に迎えに来るんだって聞いてんの」
「あ、ああ…明日は…ってああ…!言うの忘れてた…明日は撮影休みだよ?」
「は?!」
「この前の休みから、かなりあいただろ?だから明日は休みだって監督が帰り際に言って来てさ」
「ったく!それを早く言えって!あ~こんな事なら飲みに行けば良かった…。あ…今から行こうかな…。まだ12時だろ?」
「お前…疲れてるんだから、少しは休め…明日、遊べばいいだろ?」
「はい、はい…じゃ、明後日の事は明日にでも電話してよ…」
「分った。じゃ、おやすみ」
「ああ、気をつけてな」
俺がそう言うとジョーは軽く手を上げて車を発車させた。
俺はジョーの車が門の外へと消えると家のほうへと歩き出す。
ったく…玄関前につけろよな…
人が寝てたのをいい事にズルしたな…。Uターンすんのが面倒だからって…
俺はイライラしながら玄関までの道を溜息をつきながら歩いて行った。
やっと家が見えてきてポケットから鍵を出し、階段を上ろうとして目の前にうずくまってる人影が見えて驚いた。
「ぅわ…!」
一瞬の驚きで心臓がドキドキしたがそ~っと近付いてみる。
少しづつ暗がりでも目が慣れてくると、そこにいるのがだと分って俺は更に驚いた。
(え?!え?…な、何でが、こんなとこで寝てるんだ?!)
は階段に座り、壁にもたれて眠っているようだ。
俺は、そっと近付くと、の前にしゃがんで顔を覗き込んでみた。
やっぱりだ…。ど、どうしたんだ?
ってか、どうやって入ったんだろ…?
まさか、あの門を超えてきたわけは…
あ、もしかして裏から?
あそこの門も小さくはないが、上れない事はない…
俺はそう思いつくとの頭をそっと撫でて門を上ってるを想像して吹きだしてしまった。
ダメだ…こんなにも愛しいと感じる。
こうして頭を撫でてるだけで…そんな想いが大きくなっていくよ…。
俺はそっとの隣へと座ると彼女の頭を抱き寄せ自分の肩に乗せた。
「…ん…」
かすかにが頭を動かし、顔が俺の方へ向いた。
その寝顔が可愛くて思わず笑みが零れる。
「…」
俺は彼女の名を呼ぶと頬にそっとキスをした。
するとの瞼がかすかに動いてゆっくりと開いた。
「ん…」
「…?おはよ」
「――ッ?!」
はそこでガバっと俺の肩から頭を上げると何か信じられないものを見るような目で俺を見た。
「レ、レオ…?え?夢?」
まだ少し寝ぼけているのか、自分がどこにいるのか分らないように回りをキョロキョロと見渡している。
「…大丈夫?」
俺は彼女の頬に手で触れるとそっと抱き寄せた。
「夢じゃないよ?」
「……え?」
は驚いた声を出すと急に俺から離れた。
「あ、あの…あれ?私…寝ちゃったの…?」
キョトンとした顔で呟くが可愛くて俺は、ちょっと笑うと、「そうみたいだね?」 と言っての頭を撫でた。
「え?レオ…?いつ…帰って来たの?!あれ…?」
「今、帰って来たら、がここで寝てたからさ…驚いたよ…?」
「あ…私…シャツを持ってきて待ってる間に…寝ちゃったんだ…!わ、今、何時?!」
「えっと…12時…半になるとこ?」
「…ええ?!」
は驚いたように立ち上がると自分の腕時計を必死に見ている。
「わ…やだ…私、9時には帰ろうと思ってたのに…」
「そうなの?え?何時から待っててくれたの?」
俺も立ち上がると、の顔を覗き込んだ。
「え?あ、あの…7時…すぎには来てたかな?」
「え?!7時から、ここに?」
「あ、あの…ごめんなさい、勝手に裏から入っちゃって…」
思い出したのか、が顔を赤くして俺を見た。
俺はちょっと笑いながら、
「別に、なら構わないよ?何なら…門を上らなくてもいいように合鍵でも渡しておこうか?」
「け、結構です…!」
は恥ずかしそうに顔を背けると何か袋を持って俺に差し出した。
「あの…これ、前に借りたシャツ…ありがとう…」
「ああ…こんなの俺が病院に行った時で良かったのに」
「だって…今日返そうと思ったら、レオ、いきなり帰ったでしょう?どうしたの?」
俺はそう言われて言葉につまった。
まさか、君の婚約を知ってショックで…とは言えない。
「あ…いや、ちょっと撮影の時間が早まっちゃってさ…マネージャーから電話が来たから…」
「そう…なの?なら、いいけど…」
俺は何とか誤魔化すと、「と、とにかく…わざわざ、ありがとう」 と言った。
はちょっと微笑みながら首を振った。
その優しい笑顔に俺はドキっとしたがちょっと顔をそらすと、「あ…お茶でも飲んでく?それとも帰る?」 と聞いた。
はクスクス笑うと、「帰るわよ…。こんな時間だもの…」 言ってバッグを持った。
「あ…じゃあ…送るよ…」
「え?いいわよ…撮影終って帰って来たばかりで疲れてるでしょ?私はタクシーで帰るから…」
「いいよ…。別に飲みに行こうかなって思ってたし…ドライブがてら家まで送るよ」
「でも…」
「いいから…!俺が送りたいんだ」
俺はそう言うとの手を掴んで駐車場の方へと歩き出した。
「え?あの…ちょっと…」
俺は車庫のドアを開けると、ポルシェのキーを取ってドアを開けた。
「はい、乗って」
「え…」
「いいから!」
俺はちょっと笑いながらを助手席に無理やり乗せるとドアを閉めて自分も運転席へと乗り込んだ。
そのままエンジンをかけ発車させる。
は何だか俯いたまま。
俺はちょっと息をつくと運転しながら彼女の手を握った。
「え?な、何?」
「これ…婚約指輪だろ?」
「え?!」
は顔を赤くして驚いた顔で俺を見た。
「今朝、キャシーに聞いた。彼にプロポーズされたんだって?」
「あ…うん…」
「結婚…するの?」
「え?」
「だって…OKしたから、指輪…してるんだろ?」
「あ、ああ…そうよ…。結婚…するわ?それで…」
「会いに来るなって?」
が言いにくそうにしているので俺から言ってしまった。
だがはちょっと悲しそうな顔で俺を見ると、軽く首を振った。
「そんな事は…思ってない」
「え?」
それには俺も驚いて思わずの顔を見た。
はちょっと俯くと、
「だって…マーク、あなたが来ないと凄く寂しそうだし…」
「ああ…そっか」
「だから…マークに会いに来てあげて欲しいの…忙しいとは思うんだけど…あの…」
「そんなの当たり前だろ?会いに行くよ」
俺の言葉には嬉しそうな笑顔を見せた。
「ほんと?」
「ああ。マークとは、もう友達だしね?」
俺がそう言って微笑むとも優しく微笑んでくれた。
それだけで胸がドキンとする。
そうこうしているうちに、すぐにサンタモニカについて俺はの家の方向に車を走らせながら、まだ一緒にいたいと思っていた。
だからなのか、自然と家の方向からビーチの方へとハンドルを切ってしまった。
「レオ…?あの…」
「ちょっと海が見たいから…付き合ってよ」
「え?でも…」
「あ、明日、早いの?」
「あ…明日は…休みなの…。レオこそ明日も撮影でしょ?」
「俺も休み。偶然だね?」
「え?そうなの?」
「ああ、じゃ一緒の休みって事で…今夜は朝まで一緒にいる?」
俺がいつもの調子で言うと、はすぐ顔を赤くして俺を睨んでくる。
「嫌です!」
「何だ、残念…」
俺は本心から、そう言うも彼女は普段どおりジョークと受け取ったようで苦笑しながら窓の外を眺めている。
ビーチまで来た俺は車を止めて、すぐに降りるとの方のドアを開けてあげた。
「どうぞ?お嬢様」
「な、何言ってるのよ…」
は照れくさそうに車を降りると両手を上げて思い切り伸びをしている。
「う~ん…何だか座ったまま寝てたからかな…。体が痛い…」
「今度から、がいつ来てもいいようにあそこにベッドでも置いておくよ」
俺が笑いながら、そう言うとも吹きだした。
「やだ…もう行かないわよ…」」
「…どうして?」
「だって行く理由もないでしょ?」
はそう言って海の方へと歩いて行く。
俺は彼女の言葉に胸が痛くなった。
"行く理由がない"、か…
そうだよな…
別には俺の事を何とも思っていないんだから…
二人で無言のままビーチを歩いて行った。
何人か散歩をしている人やランニングをしている人達とすれ違う。
俺は煙草に火をつけると大きなパームツリーの下に腰を下ろした。
も黙ったまま隣に座ると薬指の指輪を触っている。
それすら見ていて胸にズキンと痛みが走った。
「…俺とこうして一緒にいること、彼に悪いなぁとか思ってる?」
「…え?」
「今…そんな顔してる」
俺はを見つめて、そう言うと彼女は軽く溜息をついた。
「ダニー…気にしてるの…。あなたのこと…」
「え?」
「この前の…雑誌を見ちゃったのよ…」
「そうなの?」
「うん…」
「何て言われた?」
「彼と…何かあったのか?って…。バスケの試合見た後に…家に行ったとも書いてたでしょ?それで…」
「ああ…それで…何て答えたの?」
「ただ…送ってもらっただけだって言ったわ?」
「それで納得してくれた?」
「一応…。でも…やっぱり心配してたみたいで…だから急に結婚しようって言い出したのかな…」
は何だか寂しそうな顔で海を眺めている。
「は…結婚…したいの?」
「え…?」
「何だか…そうは見えないよ?」
そう言うとは驚いた顔で俺の方を見た。
「そんなこと…したいわ?だから…OKしたのよ」
「そう?」
「そうよっ。何が言いたいの?」
「別に…結婚が決まったわりには…嬉しそうじゃないなって思ってさ」
俺の言葉には少し顔を赤くして俺を睨んだ。
「そんなことないわよ…嬉しいわ?決まってるでしょ?」
「ふ~ん…そっか…」
俺は何も言えなくなって視線を海の方へ向けた。
それでも、は何だか気まずそうにして俯いている。
波の音だけが聞こえて来て、あとは静かだった。
すると今まで黙っていたが、「もう…帰りましょ?」 と言って立ち上がろうとするのを見て俺は思わずの手を掴んだ。
「な、何?」
「もう少し…。一緒にいたい」
「何言って―」
「一緒にいたいんだ…君と」
俺が真剣な顔でそう言うとは顔を赤くした。
「で、でも…もう…こうして二人で会うのは―」
がそう言いかけた時、俺は彼女の手を引っ張って思い切り抱き寄せた。
「キャ…ちょっと…っ」
俺はをきつく抱きしめたまま彼女の額に唇をつけた。
「ちょっと…!離して…」
「やだ…」
「もう…!私は―」
「婚約者がいたって構わないよ…」
「――え?」
「俺は…と…これからも会いたい…」
「…レオ…?」
"好きなんだ"と思わず言いそうになる。
その前に抱きしめたの体の温もりが伝わってきて素直な気持ちが溢れた。
誰にも…渡したくない…
こんな風に思ったのなんて…初めてだ。
「…レオ…?どう…したの?何だか…変だよ?」
が俺の腕の中で、そう呟いた。
俺は黙ったまま彼女を少し離すと頬に軽くキスをして、額にもキスをした。
はもう何も言わないで顔を赤くしたまま、ちょっと驚いた顔で俺を見ている。
俺はにキスをしようとそっと唇を近づける。
…が、真っ直ぐに俺を見つめる彼女の瞳と目があってドキっとした。
俺は軽く唇を噛むとそのまま彼女の頭を抱き寄せ頬を摺り寄せた。
「…レオ?」
そこでが口を開いた。
俺はそこでそっと彼女を離すと、「…ごめん」 と言って微笑んだ。
「何か…あった?」
は心配そうな顔で俺を見た。
俺はの頭を撫でると、「何も…ただ、こうしてと一緒にいたいって思っただけ」 と言った。
は少し俯くと、「でも…」 と呟く。
その先を聞くのが怖くてちょっと微笑むと、「さ、もう帰ろうか?」 と言って立ち上がった。
「え?あ、あの…」
「ほら、も帰りたいんだろ?俺も眠くなったしさ。もう帰るよ」
俺は笑顔での腕を引っ張って彼女を立たせると服の砂をはらってあげた。
「あ…ありがとう」
「いいよ…。じゃ家の前まで送るから…」
「…うん」
の言葉に俺はちょっと微笑むと、そのまま手を繋いで歩き出した。
本当なら…帰したくない…そう思いながら。
俺は…絶望的な恋に落ちてしまった――
>>Back
ACT.8...君を想う僕は…>>
うひゃー^^;
やっとこ進展も多少…?
何だか切なげな内容になってしまったような…(汗)
ああ…つらい…(苦笑)
このお話だけはラストまで、すでに考えてあります(笑)
珍しいです、私にしたら…^^;
意味なくダラダラになった気もしますが最後まで読んでくれた
そこのあなた!ありがとう御座いますぅ~vははぁ・…m(__)m
あ、今回でやっとジョニデ様&トムトム登場(笑)
ジョニデ様って書くの初めてなのでイメージが心配です(汗)
私のイメージと、あとPOTCのジャック船長も少々入れちゃった(オイ。笑)
皆さんのイメージと違ってたら申しわけないです!
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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