Catch me if you can.......~A
real love ?... or... fake love?...~
例えば僕が俳優なんかじゃなくて…
もっと違う出会い方をしていたら…
君は僕の事を好きになってくれたんだろうか?
例えば僕が君と最初に会った、あの夜…
もっと優しくしていたら…
君は僕の事を愛してくれたんだろうか…?
…毎日、そんな事ばかり考えているんだ――
ACT.8...君を想う僕は…
「嘘?!キス出来なかったの?!」
トビーが驚いた顔で俺の方を見た。
一緒にいたジョニーも口を開けている。
俺は軽く溜息をつくと、バーボンを一気に飲み干した。
今は、いつもの如くジョニーの店で飲んでいるところ。
仕事の帰り、いきなりジョニーから電話が来て、
「今、トビーと俺の店で飲んでるんだ。レオも仕事終ったんなら来いよ」
と言われ、やってきた。
だが来た早々、の事を、また聞いてくるもんだから、この前気付いた自分の気持ちを伝え、
あの夜の海でにキスをしようと思ったけど出来なかった…と、つい話してしまった。
自分でも分らなかったから、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「お、お前…どうした?急に、そんな高校生みたいに…いや今時の高校生だってキスくらいするぞ?」
ジョニーは訝しげに俺を見ながら言うと店員に、「おい、これと同じもの頼むな?」 と言ってラムの入った瓶を持ち上げた。
「はぁ~あ…そんな自分でも分んないよ…。の目を見たらさぁ…何て言うか…出来なかったんだよね…」
「最初に会った時は、キスしたクセに、どうしたの?」
トビーも首を傾げている。
俺は思い切り溜息をついた。
「あの時はさ…。別に挨拶代わりって言うか…軽いノリでって言うか…」
「じゃあ、そのノリでしちゃえば良かったのに。ってまた引っぱたかれると思うけどね?」
トビーは、そう言いながら笑って俺の肩を叩いた。
俺はその腕をどけながら、
「だから…そんなノリでって雰囲気じゃなかったんだって…っ」
と言ってトビーの額を指で小突いた。
「なぁんだよ~。レオらしくないなぁ…ねぇ?ジョニー」
「ま、人を好きになったら変わるもんさ。それまでは自分の気持ちばかり優先してきたのが相手の事を先に考えたりな?」
「へぇ~そうなの?」
俺はジョニーの方を見て訊いてみた。
ジョニーはニヤっと笑って俺の頭にポンっと手を置くと、「違うのか?」 と言った。
「う~ん…そう思う時もあるし…でも会いたいのは我慢できないって言うか…自分でも矛盾してるなって思うよ、ほんと…」
俺はそう言って肩をすくめるとバーボンのグラスを持った。
「そんなもんだろ?人を好きになったら…。いつだって矛盾だらけさ」
ジョニーはニヤリと笑って俺の肩をポンポンと叩くと苦笑した。
「ジョニーも…そういう事あんの?」
「そりゃあ…な?過去に何度も熱~い恋に落ちてるし。ま、お前も知ってのとおり」
「ああ…。ジョニーは、ほんと恋多き人だったよね? ―あ、それは今でもか…」
俺はそう言って笑うとジョニーは珍しく真面目な顔で、
「今は俺だって、たった一人本気で惚れてる女くらいいるさ…」
と言ってラムをグラスに注ぐと氷をカランと手づかみでグラスへ入れた。
「え?嘘…?そうなの?」
「ああ、ダメか?」
「い、いや…。へぇ…そうなんだ…」
「え?ジョニーの惚れてる女って?誰?誰?」
トビーは無邪気にジョニーの顔を覗き込んでいる。
「まだヒミツだよ!それに今は片思い中だからな~。レオと同じで」
「はあ?嘘だろ?!」
「何だよ…。レオにだけは驚かれたくないぞ?同じ立場のクセに…」
ジョニーは少しスネた口調で俺の頭をこずくと含み笑いしながらラムを飲み干した。
「何だよ~二人して片思いって情けないな~!」
「あ?何だよ、偉そうに!お前はどうなんだ?」
ジョニーがトビーの首に腕を回して軽く締め上げ、こめかみに拳をあてると、いきなりグリグリしだし、
これにはトビーも飛び上がった。
「ぃでででっ!ぃたいってば…!ごめんって~~ジョニー!」
「何だ?人の事、情けない呼ばわりして、もうギブアップか?」
「ギブギブ!僕が悪かったよぉぉ~~!」
そのトビーの絶叫に、ジョニーも満足したのか、ニヤリと笑って腕を放した。
「はぁ~…っ痛かった…。脳みそが揺れたね、一瞬…」
トビーはグリグリされて赤くなったこめかみを撫でながら呟いた。
「お前はいっつも揺れてるだろ?」
俺はちょっと笑いながらトビーを見ると軽く鼻をつまんでやった。
「ふがっ…!ぃったいよぉ…っ。 全く二人してさ~。似たもの同士だよねぇ?」
トビーは今度は鼻を擦りながら俺とジョニーを睨んでいる。
「ま、今、片思い中ってとこは似たもの同士かな?」
俺はジョニーの言葉にちょっと吹きだしてしまった。
「お前…笑ってる場合じゃないだろう?仕事もいいけど、惚れた女くらい奪えなくてどうするよ?
このままだと結婚されちまうぞ?いいのか?それで…」
ジョニーは煙草に火をつけながら俺を見た。
「ああ…ほんとだな…。最近、また忙しくなって会いにも行けないし…」
「まだ撮影だって続くんだろう?その間に結婚されたらどうすんだ?」
「ああ…それは…ないと思うよ?まだ約束しただけで結婚の日取りとか何も話してないみたいだしさ」
「そうか…。ま、でもノンビリ構えてたら手遅れって事もあるからな?」
「ああ、分ってるよ…」
俺はジョニーの言葉に軽く頷くと煙草に火をつけて軽く煙を吐き出した。
「今度…そのって子に会わせろよ。お前が惚れた女を見てみたい」
「ええ~?それは…」
ジョニーの言葉に俺は思わず、嫌な顔をした。
「何だよ、その顔は!俺に会わせるのが嫌なのか?」
ジョニーは俺の方を少し睨みつつ口を尖らせて、まるで子供のようだ。
ちょっと酔ってきたんだろう…。
「嫌って言うか…さ…。ジョニーが手を出さないって言うなら…いいけど?」
ジョニーはその言葉にキョトンとした顔で俺を見ると、いきなり笑い出した。
「アッ八ハッハ…!お、おま…ブハハハ!」
「何だよ!」
「お、おまえ、あれかっ!そりゃ妬きもちか?俺が手を出すかと思って?アハハハ…!」
「ジョニーなら、ありえるだろ?!この前だってそんなこと言ってたしさ!」
俺はまだ笑い転げているジョニーと、ついでにつられて笑っているトビーを思い切り睨んだ。
「アハハ…っ。あ~腹が痛い…! あのなぁ…お前が惚れてる女に手を出すと思われてるほど、俺は信用ないのか?」
「うん」
「……!!」
俺がアッサリそう言うとジョニーは目をまん丸にして驚いている。
「お前…そんな悲しい事を言うなよ~…泣くぞ?」
「そんなフラフラしないでくれる?酒、かかりそうで怖いんだけど?」
「お前~~!何だ?冷たいじゃないか!何で俺を信用してないんだ?言ってみろ!」
ほんとにジョニーは酔ったのか、今では左右に揺れながらラムを呷っている。
それを笑いながら真似してトビーまでが揺れて遊んでるもんだから俺は少し二人から離れた。
「他の事では信用してるけど女の事に関しちゃ信用できるわけないだろ?
過去に俺の気にいってた子を口説いて取った事あったクセにさ」
「何ぃ~~~~?そうだったっけか?」
「忘れたの?」
俺がジョニーを見ると何やら目を瞑ってゆらゆらしながら考え込んでいる。そして―
「あ!!キャサリンか!」
「ああ、そんな名前だったかな?」
「バカ、お前! ―あれは、お前はそんな本気で惚れてたわけじゃないだろう?」
「え?ああ、まあね…。いいなぁ~って思ってた程度だけど…」
「だから俺が本気で惚れてやったのさ!」
「はあ?」
そう得意げに言うジョニーを俺は呆れた顔で見つめるとジョニーはニヤっと笑いながら、
「お前が本気だったら俺は口説いたりしなかったぞ?だから安心してに会わせろ」 ―もう呼び捨てにしている―
俺は、その言葉に軽く溜息をついた。
「ほんと…ジョニーにだけは敵わないよ…。でもさ、会わせたくても…俺がを飲みに誘ったって来てくれないって、きっと…」
「そこを何とか上手く言って連れて来いよ!得意だろう?女騙すのは」
「うーわ・…人聞き悪いな、ったく…!!それに…は…彼女の事は騙したくないよ」
俺がそう言うとジョニーは何だか嬉しそうに俺に抱きついてきた。
「うわ…!暑苦しい・・離れろよ…!おい、トビー!何とかしろ!」
「ええ~?無理だよ…酔っ払ったジョニーに勝てる訳ないだろ?」
「何だとぉ~?俺は酔ってないっ」
ジョニーはそう言ってる傍からふらふらとしながら俺にしがみついているもんだから俺まで揺れて気持ち悪くなってきた…(!)
「それより、レオ!」
「何だよ…っと苦しいって…」
「お前…本当に惚れたんだなぁ~?に~」
「は?何言って…ってか呼び捨てにするなって…!」
「いいだろ?名前呼ぶくらい…!それさえも妬きもちか~?お前」
俺はいいかげんジョニーの腕から脱出したくて思い切り立ち上がった。
「ああ、そうそう。どうせ俺は妬きもちやきだよ…っ」
俺はそう言うと少し離れたソファーへと座りなおした。
「何だ?認めるのか?」
「まあ…ね…っ。 ―の婚約者にも嫉妬してばかりだよ…っ」
俺は溜息をつきながらそう言うとジョニーはニカっと笑って(ちょっと怖い)
「そぉ~か、そぉ~か!そんなに好きなら奪ってしまえ!」
「そ~だ、そ~だ!奪ってしまえ~!」
何だかトビーまで酔ったのか張り切ってジョニーと一緒に拳を振り上げている。
「…そんな簡単にいくかよ…」
俺は苦笑しながら呟いた――
「え?婚約パーティー?」
「ああ、盛大にやろうと思ってるんだ」
養父はブランデーで酔ったのか、機嫌が良さそうにそう言いきった。
その言葉にダニーも微笑んで私を見ている。
今、私は実家へと帰って来ていた。
養父から電話で呼ばれ、一緒に食事をしようと言うのでダニーと二人でやって来た。
そして母もいれて食事をしてリビングで寛いでいると、いきなり
「今度の週末、婚約パーティーをやるからな?」
と言われたのだ。
「で、でも…そんな、まだいつ結婚するとか決めてないし…その前にパーティーなんて…」
「じゃ、今決めてしまいなさい。ダニーもいるんだしな」
「え?で、でも…」
「そうしようか?」
ダニーに、そう言われて私は困ってしまった。
(結婚の日取りを決める…。ほんとに…これでいいの?)
「?どうしたの?の好きな日でいいんだよ?」
ダニーが私の顔を覗き込んで優しく微笑んでいる。
私は何も言えなくなってしまった。
「う、うん…。日取りは…大事だし…もう少し考えさせて?」
「そう?じゃ、決まったら俺に教えてね?休み取らないといけないしさ?」
ダニーは少し笑いながら私の肩を抱き寄せた。
私はぎこちなく微笑むと、
「あの…私、少しワインで酔ったみたい…ちょっと部屋に戻ってるね?」
「え?大丈夫かい?俺もついて行こうか?」
「あ、いいの…。少し横になるだけだから…後で、また降りてくるわ?」
「そう?じゃあ、俺は、ここでお養父さんと飲んでるね?」
「ええ、養父さんに付き合ってあげて?」
「分ったよ」
「おいおい、仕方なく私の相手をするのか?」
養父ショーンは苦笑しながら私とダニーを見た。
それには母、ジーンも笑っている。
「そりゃと一緒にいたいけど未来のお養父さんを無視は出来ませんよ?」
ダニーがおどけてそう言うとショーンも愉快そうに笑った。
「そんな事言うなら、今夜はずーっと私の相手をして貰おうかな?」
「うわ、それは勘弁して下さい…」
ダニーが困った顔で肩をすくめて笑っている。
私もちょっと微笑んでからそっとソファーから立ち上がった時、ダニーが私の腕を掴んだ。
「そのまま寝ちゃうなよ?」
「ええ…大丈夫よ?」
私がそう言うとダニーはニッコリ微笑んで腕を放した。
私はダニーの頬に軽くキスをすると、二階にある自分の部屋へと行った。
横になると言ったが、そのままベランダへと出る。
12月半ばの外は少し肌寒くて、私は薄手のカーディガンを羽織った。
何だか…私の気持ちとはうらはらに、どんどんと結婚の話が進んでいく…
それを不安に感じている自分の気持ちも分らなくて、不安は増すばかりだ。
何でこんなに不安に感じてるんだろう…。
まだ…早いという気持ちも多少はある。
ダニーを好きだけど…付き合って3ヶ月で結婚を決めていいのかなぁ…
「やだ…これってマリッジブルーってやつかしら…」
私は、そう呟くとベランダの手すりに寄りかかって夜空を見上げた。
冬の空は、いつも以上に澄んでいるように見える。
正直…私は、レオの事が気になっていた。
あの日…二人で海に行った日…
レオは何故だかいつもと違うように見えた。
多少、強引なのは変わらないんだけど…でも―
あんな風に、真剣なレオを私は初めて見た。
"一緒にいたいんだ…君と…"
レオに言われた言葉を思い出し、少し胸がドキンとする…
あんな寂しそうな顔も…見た事がなかったな…
それに…"婚約者がいたって構わない…"とも言っていた。
あれは、どういうつもりで言ったんだろう…?
彼は私のことなんて本気で好きじゃないはずだ。
最初に会った時から彼は強引で人の気持ちも考えない行動ばかりとってきた。
(もし本当に好きなら…ああいう事はしないわよね…?)
でも…なのに、あの日のレオは少し様子がおかしかったように思う。
それに…あの時、キスをされるかと思ったけど彼はしなかった。
変わりに私を優しく抱き寄せて、頭に頬を寄せてきた時は少し驚いてしまったんだけど…
もし…あの時、キスをされてたら…私はどうしてたんだろう?
また…思い切り引っぱたいてたのかな?
自分でも分らなかった。
ただ…一瞬、レオが唇を近づけて来た時、目と目があってドキっとした。
彼も…そうだったように思う。
いつもの彼だったらあのイジワルな顔で笑うのにあの日は違った。
ほんと…訳が分からない…
って何で私はレオの事なんて気にしてるのよ…!
関係ないわ、あんな人…っ
私は少し寒くなって部屋の中へと戻ると自分のベッドに横になった。
…そう言えば…レオの家…ここから結構、近いのよね…
この前、レオを待ってる時に、ふと思った。
多分…歩いて5~6分だろうか。
ビバリーヒルズも広いのになぁ…
私が、ここに住んでた頃…レオは、あんな近くにいたんだと驚いた。
ここに住んでた頃から、レオのファンだったし、もし、あの頃に、もっと違う出会い方をしていたら…
私は…どうしてたんだろう?
「って、また私、レオの事なんて…!」
そう呟くとベッドから起き上がった。
「ど、どうもしないわ…違う出会い方をしたってきっとレオはイジワルだったに違いないものっ。そうよ…きっとそうだわ」
そう言いきかせると少しスッキリしてまたベッドに寝転がった。
それなのに頭に浮かんでくるのは、あの日のレオの寂しそうな顔…
やだ…私…どうして、あんな人の事なんて心配してるんだろ…
関係ないって思えば思うほど頭に浮かんできてしまう…
いつもみたいにイジワルだったら…こんなに気にならなかったのに…っ
その時、ノックの音が聞こえて私は体を起こした。
「?」
ダニーの声だ。
「ダニ―?どうぞ?」
私がそう言うとドアが開き、ダニーが静かに入って来た。
「あんまり遅いから見に来た。ショーン、居眠りしちゃったし…」
「ええ?ほんとに?もう…飲みすぎなのよね?」
笑いながらそう言うとダニーはベッドの端に座って私の頭を抱き寄せた。
「ダニー?」
私は、さっきまでとは少し様子の違うダニ―に戸惑った。すると静かに彼が口を開いた―
「…何か俺に隠してる事ない…?」
「え?」
―ドキっとした…。
「隠してる事って…?別に何もないわよ?」
「そう?」
「ええ…。 ―どうして?」
そう問い掛けるとダニーは体を少し放し、私の顔を黙って見つめている。
「ダニー…?」
「…この間から少し様子が変だからさ…」
「え?」
私はドキドキしたものの笑顔を作ると、「そんな事ないわよ」 と言ってダニーの頬に手を置いた。
ダニーはその手を掴むと、「まさか…彼に…会ってるわけじゃないよね?」 と言った。
「か、彼って…?」
「だから…レオにさ…」
「ダニー…。そんな…まだ疑ってるの?」
「疑いたくはないさっ。 …でも…どうしても不安になっちゃって…」
ダニーは、そう言うと私をまた抱き寄せて額へとキスをしてきた。
そして、そのまま頬、唇へとキスをして私をそっと横たわらせるとダニーは上に覆い被さってくる。
「…ん…ダニー…?」
私は驚いてダニーの胸元を押すも力では敵わない。
「ちょ…ダ二ー…」
名前を呼んだが唇を塞がれ途中で声が途切れた。
「…ん…っ」
ダニーは少しづつキスを深くしていく。
私は何とか体を動かそうとしたがダニーの体の重みで動けなかった。
「ん…っダ…ニィ…」
何とか声を出そうとするが口を開いた時に彼の舌が強引に入って来て声が出せない。
「んんー…っ」
ダニーの手が私のスカートをたくしあげて来て驚いて声にならない声を出す。
すると、そっと唇を離して今度は私の首筋に唇を這わしてきて私は堪らず、「や…やだ…っ」 と声をあげた。
「…愛してる…」
ダニーはそう言うと私の足から腰までそっと撫上げる。
「ん…や、やめて…っ …お願い…!」
私は思い切り体を起こすとダニーを手で押し戻した。
「…どうして?俺のこと…好きじゃないってこと?」
ダニーは悲しそうな顔で私を見ている。
私は顔が熱くなってダニーから離れた。
「ち、…違う…。そうじゃなくて…」
「じゃあ、なに?」
「急に…こんな事されたら…驚くわよ…」
私は、そう言うと俯いた。
顔が熱い…
こんな強引なダニー、初めて見た。
ダニーはちょっと息を吐き出すと、
「…ごめん。俺…どうかしてた…が…離れて行くような気がして…ごめんな?」
と言って今度は優しく私を抱きしめて額にキスをしてくれた。
私は何故か涙が零れそうになって慌てて下を向くとダニーの唇が頬に触れる。
「…どこにも行かないで…」
ダニーの言葉が…痛かった。
「ダニー…」
そう言いかけた時、ダニーは優しくキスをしてきた。
今度は私も素直に彼に体を預ける。
なのに…私の胸の奥は痛いままだった…。
「お疲れぇ…」
俺はジョーに、そう言うと車を降りた。
「あ、おい…明日は午後からだけど今夜は遊びに出るなよ?この前みたいに酒の匂いさせて来たら、ただじゃおかないぞ?」
「わ~かってるよ!朝から何度同じこと言えば気が済むわけ?」
「お前には何度言ったって足りないんだよ!いっつも約束やぶるんだから」
「はいはい…すみませんね…。今夜は疲れたし、もう寝るよ…」
「ならいいけど…。あ!明日の朝…病院に行くなら俺も一緒に行くからな?分ったか?」
「ええ~また?!俺、一人でゆっくり行きたいんだけど…」
「ダ、ダメだ!いつパパラッチの奴らに写真撮られるか分らないんだからな?俺も一緒だと言い訳しやすいだろう?」
俺は諦めて思い切り溜息をついた。
「分ったよ…。明日の朝、来るんだろ…あ~うっと~しい…じゃな」
「何がうっと~しいだ!お前に合わせて早起きしなきゃならない俺の身にもなれってんだ…!じゃあな!おやすみ!」
ジョーが、そう言って車を出して門から出て行ったのを見届けると、
「誰も一緒に早起きしてくれなんて頼んでないっつーの!」
とボヤいて思い切り舌を出した。
「全く…だんだん説教が長くなりやがって…ほんとにオヤジ化するぞ…って…うわ…っ!!」
俺はブツブツ文句を言いながら玄関まで歩いて来たが、急に人影が見えて驚いた。
そしてその人物が明るいところへ出てきた時、俺は自分の目を疑った――
「…?!」
「あ、あの…今晩…わ…」
が玄関前にちょっと微笑みながら立っていた。
俺は一瞬、頭が真っ白になったが彼女がまた会いに来てくれたのかと嬉しくなった。
「ど、どうした?何かあった?」
「い、いえ…あの…今日は実家に来てるから…ちょっといるかな?って思って来てみたら丁度レオが帰って来たから…」
「え?あ…もしかして…また裏門から?」
「あ…うん…。ごめんなさい…」
ちょっと上目遣いで俺を見上げて謝るが可愛くて思わず顔が綻んだ。
「ならいいって、この間も言ったろ?それより…ほんと何かあったの?」
が来てくれたという事実で浮かれていたが、少し冷静になって彼女を見ると少し元気がないように見えて心配になった。
「あ…そうじゃ…ないの。あの…」
「あ、とにかく中に入ろう?今日は寒いし…、また熱が出たら大変だよ?」
「え?で、でも…」
「早く!」
俺はの手を繋ぐと鍵を開けて中へと入った。
そのままリビングまで行くとをソファーに座らせる。
「ちょっと紅茶でも淹れてくるから待ってて?」
「え…?い、いいわ?そんな…すぐ帰るから…」
が慌てて立ち上がった。
「いいから黙って座ってて?」
俺がそう言うとも大人しくソファーへと腰を下ろす。
それを見てニッコリ微笑むとすぐにキッチンへと行って紅茶を淹れるのにお湯を沸かしてカップをそろえた。
(それにしても…急にから会いに来るなんて…ほんと何かあったのかな…)
嬉しさのあまり考えもしなかったが、冷静になってみると、から俺に会いに来るのはおかしい気がした。
お湯が沸いて紅茶を淹れ終わると俺はすぐリビングへと戻った。
は何だか借りてきた猫みたいに小さくチョコンとソファーに座っている。
「はい、。体冷えたんじゃない?大丈夫?」
俺はにカップを渡すと隣へ腰をかけた。
もちょっと微笑んでカップを受け取ると、
「ありがとう…。 ―そんな長い時間いたわけじゃないから…大丈夫」
と言った。
「え?の実家って…ここの近くなの?」
「あ、そうなの…。ここの裏手にある道を行くと二コラス・ケイジの家があるでしょ?そこの隣…」
「え?そうなの?何だ…凄い近いね?」
「うん、私も、この前気付いたの。雨の日は夜だったし車で出入りしたから分らなかったけど…」
はそう言いながら紅茶が熱かったのか、ふぅ~っと吹いている。
そんな姿も愛しく思う俺は完璧ににいかれてるな…と自分で思う。
「…」
「あの…」
また同時に話し出し、顔を見合わせてお互いに吹きだした。
「どうぞ?」
「あ、レオから…」
「いいから…。何?」
俺がそう聞くとはちょっと笑いながら俺を見た。
「あ、あの…この前…レオ、様子が変だったから、どうしたのかな~って思って…」
「え?」
「何か…仕事で嫌な事でもあったの?」
そう訊いてくるに驚いていた。
だって…今のは、どう考えたって俺の事を心配してくれての言葉だとしか思えないから…
「レオ?」
俺が黙ったままだからか、が首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。
「え?あ、ああ・…。そんな…とこかな?ごめん、あの時は…」
「あ、ううん。別に怒ってるわけじゃないから…」
「それより…」
「え?」
「だって…変だよ?」
「変って…何が?」
「そんな俺のこと、心配するなんて…。いつものらしくないって言うか…」
「やだ…。いつもの私ってどんななの?私だって心配くらい…」
「ああ、そうだけどさ…。俺は…に怒鳴られてばっかりだったし…」
「そ、それは、レオが怒らせるようなことばかりするから…っ」
「分ってるよ?俺が悪いのは…。でも…俺、てっきり嫌われてると思ってたし…
こんな風に心配して来てくれるとは思わなかったからさ…」
俺がそこまで言うとは少し恥ずかしそうに俯いている。
「でも…嬉しかった。来てくれて…ありがとう」
そう言っての頭を優しく撫でると彼女も驚いた顔で俺を見た。
「やっぱり…レオ、まだ変だよ?」
「え?!」
「だって…この前もそうだったけど…何だか、いつもより…優しいもの…」
に少し驚いた顔でそう言われて俺はちょっとショックだった…(!)
「え…俺…いつも優しいだろ?」
苦笑しながらそう言うとは更に驚いた顔で俺を見た。
「よく言うわ?いっつもイジワルじゃないの…。何だか余裕な顔で笑ってるし!」
は口を尖らせて俺を睨んでいる。
そんな顔も可愛いんだけど…と見惚れている場合じゃない。
「そんなイジワルってさ…。それに俺は優しく微笑んでただけなんだけどな?」
「ええ?!あの笑いのどこが優しく微笑んでるになるわけ?いつも人をバカにしたように笑うじゃないの…っ」
の言葉にそんな風に見られてたのかと、また少しショックを受けた。
「そんな…バカにしたつもりはないんだけど…って何で怒ってるの?俺、今日は何もしてないよ?」
俺はちょっと悲しげな顔で肩をすくめた。
「あ…つい、いつもの調子で…。ご、ごめんなさい…」
は顔を少し赤くして俺を見た。
俺はそんなにまたやられたようだ。
「ってさ…。ほんと素直と言うか…喜怒哀楽がはっきりしてるよな?」
「え…?そ、そう?」
「ああ。怒るときは思い切り怒るし、笑う時は大口開けて笑うしさ?」
「あ、ひどい…っ。私だって好きな人の前じゃ、大きな口を半分にしてるもの!」
の言葉で胸が少し痛んだ。
「へぇ…じゃ、ダニーの前じゃ上品に笑うんだ…」
俺がそう言うと、の顔から笑顔が消えた。
「どうした?」
「あ、何でもない…」
はぎこちなく微笑むと黙って紅茶を飲んでいる。
そんな彼女を見てると本当にダニーから奪ってやりたいと思った――
(やだ…私、どうして、ここに来ちゃったんだろ…)
私は自分の行動に戸惑っていた。
さっきダニーに送ると言われたけど、今日は実家に泊ると言って断った。
ダニーは少し心配そうな顔で私を見ていたがそのまま帰って行った。
私はダニ―を見送ると中には入らず、そのまま家の近くを散歩しようと歩き出していた。
そして…気付けばレオの家まで来てしまって…
(何でこんな事しちゃったんだろ…)
そんな事を考えていると不意にレオがリビングから出て行った。
声をかける間もない。
(どこに行ったんだろ…)
そう思いつつ、ふと時計を見ると、もう夜中の1時半になろうとしていた。
やだ…もう、こんな時間…?
早く帰って寝ないと…明日は早番だし。
そう思ってソファーから立ち上がるとそこにレオが戻って来た。
「あ、レオ…あの私…」
「はい、これ」
「え?」
ニコニコと微笑みながらレオは私の手の中に何かを握らせた。
「これ…」
手を広げるとそこには家の鍵が置かれている。
「うちの鍵。これ、リモコンにもなってるし家の鍵にもなってるからさ。
今度は裏からじゃなくて正面から入れるよ?あ、これで裏の門も開くけどさ」
そう言って微笑むレオを私はどうやら凄く驚いた顔で見ていたらしい。
レオはそんな私に気づくと、「…?あの…怒ってる…?」 と言って私の顔を覗きこんでいる、
「だ、だって…これ…合鍵でしょ?どうして私に?」
「だって…また気が向いた時にこうして来てくれるって事もあるだろ?
その度に裏から忍び込ませるのも何だし、外で待たせておくのも心配だからさ」
「でも…私は、もう…」
そう言いかけた時、レオが一瞬、悲しそうな顔を見せた気がした。
そしてそのまま私を抱きしめてくる。
「ちょっと…な、なに?」
「もう、来ないとか…言うなよ…」
「え…?」
「いつでもいいから…また気が向いた時に…こうして会いに来て欲しいんだ…」
「…レオ…?」
私はレオの言葉に驚いた。
(それは…どういう意味なの?)
そう聞こうと思ったが言葉に出来なかった。
聞くのが…怖かったから…
するとレオは少しだけ体を離し、私を黙って見つめてくる。
その瞳の優しさに胸がドキンと鳴った。
レオは優しく額にキスをして、頬にも唇で触れてくる。
私は何だか体が動かなくて、いつものように怒る事も出来なくて、ただ黙ってレオの唇を受けていた。
レオは愛おしそうに私の頬へ自分の頬を摺り寄せて来て私はだんだん顔が赤くなってくるのを感じた。
「あ、あの…レオ―」
「…俺…」
私が言いかけた言葉を消すようにレオは私を見つめて何かを言おうとしている。
私はレオの優しい奇麗な色の瞳に吸い寄せられるように、彼の瞳を見ていた。
するとレオは私の髪に指を通し、肩の後ろへとやると、「あのさ―」 と何かを言いかけて言葉を切った。
その瞬間、レオの表情が一瞬強ばったのを見て、「どう…したの?」 と声をかける。
だがレオは何も答えず、ただ黙って私の顔…というよりも首筋を黙って見ている。
その表情に何だか不安になり、言葉をかけようと口を開いた。
「あの…」
「…あいつと寝たの?」
「…え?!」
思いがけない言葉に一瞬、何を言われたのか分らなかった。
「なに…?」
レオは私から少し離れるとちょっと怖い顔で私を見て、もう一度同じ事を訊いてくる。
「あいつと…寝たんだ・…?」
「な、何言って…」
「首に…キスマークがついてるよ?」
「…え?!」
私は慌てて首を手で抑えた。
キ、キスマーク?!
な、何で、そんなものが…
そこまで考えて私は思い出した。
(さっき…ダニーに押し倒された時だ…!)
そう気付いた時、一気に顔が赤くなった。
「あ、あの…これは…違う―」
「何が違うの?そうじゃなきゃつかないだろ?普通」
レオは何だか怒っているように見えた。
「な、何を…怒ってるの?そんな…私が誰と関係持ったってあなたには―」
「ああ、関係ないよ!が誰と寝ようがどうせ俺には関係ないって言いたいんだろ!」
いきなり怒鳴られて私は驚いた。
こんなレオ、初めて見た…
「な、何よ…だって関係ないじゃないの…!何で、そんなに怒ってるの?」
「怒ってない…っ」
「怒ってるわ?」
「怒ってなんかいないって!」
レオはそう怒鳴ると私の肩を掴んで壁に押し付けた。
「いた…っ。痛いわ?レオ…」
私は肩を掴む手の強さに顔をしかめた。
それでもレオは怖い顔で私を見ている。
「レオ…何か勘違いしてる…私は彼とは…」
そう言いかけた時、レオが強引にキスをして来て驚いた。
「…ん…っ」
思い切り体を動かそうとしたがレオは私の腰を強く抱き寄せていて動けない。
その時、唇を解放されたと思った瞬間、レオがいきなり私を抱き上げた。
「キャ…な、何するの?!下ろしてよ…っ」
私は慌てて叫ぶもレオは何も答えないまま私を寝室まで運んでベッドの上に押し倒した。
「ちょ…やだったら…!」
レオは起き上がろうとする私の腕を掴んで抑えてしまった。
「ちょっと…ん…っ」
また強引にキスをされて私は足を動かしたがレオは放してくれない。
どんどんキスが深くなってきて私は怖くて涙が出てきた。
「んんー…っ」
必死に叫ぼうと言葉にならない声をあげた時、レオがそっと唇を放した。
「やだ…っ放してよ!」
私は思い切り腕を動かそうとするもレオは放してくれない。
だが、その時、レオは私の頬に零れた涙を唇で優しく掬って腕を掴む力を緩めた。
その瞬間、私は腕を振り払ってレオの頬を思い切り叩いてしまった。
「な、何でこんな事するの?!どうしたの?急に…っ」
私から離れたレオにそう怒鳴った。
だがレオは怖い顔で私を見た。
「…婚約者がいるのに…こんな夜中に俺に会いにきたって事はこういうのを期待してたんだろ?」
レオの冷たい言葉に、私は呆然とした。
「そ…んなこと…」
「じゃあ、何?俺の事が好きで会いに来たとでも?」
レオはそう言うと体を起こした私の腕を掴んだ。
「そ、それは…」
「そうじゃないんだろ?」
「レオ…どうしたの?急に―」
「…帰ってくれないか?」
「え?」
「一人になりたいから…」
レオは私から顔を背けるとそう呟いた。
私はベッドから立ち上がると、そのまま廊下に出てちょっとだけ振り向いた。
レオは私に背中を向けていて何も言わない。
私は…そのままレオの家を飛び出した。
裏の門へと走って中から鍵を開けると自分の家に向かって思い切り走る。
その時、知らず涙が溢れてきて私は走るのをやめて立ち止まった。
「やだ…何で涙なんて…」
手で拭っても次から次から溢れてきて喉の奥が痛くなる。
何で…こんなに胸が痛いんだろ…
レオに酷い事を言われたから…?
もう…分らないよ…
何で会いになんて行ってしまったんだろう…
私はその事を後悔していた――
「くそ…っ!」
俺は自分自身に腹が立って思い切りソファーを蹴飛ばした。
何やってんだ?俺は…
を傷つけて…泣かせてしまった。
あんな事くらいで嫉妬して…
俺が怒る事じゃないって分ってる…分ってるのに…
があいつと…そう思った瞬間、頭の中が真っ白になって…
あとはただ激しい嫉妬に襲われた。
無性に腹が立って、思わずあんなひどい事…
(…ちゃんと家に帰れたんだろうか…)
急に心配になって俺は家を飛び出す、正面の門が閉まってるのを確認して裏へとまわった。
すると裏の門の鍵が開いている。
(ここから出たんだ…)
俺は門の外へと飛び出して周りを見渡した。
そして、さっきが話してた方向へと走って行く。
今更…謝ったって許してもらえないかもしれない。
俺は真っ暗な道を走りながら、そう思っていた。
(もう…会ってもくれないかもしれないな…)
そう思うと急に息苦しくなる。
こんなに好きになって…大切にしたいとさえ思うのに…
彼女には恋人がいて、そいつと婚約までしてしまった。
はっきり言って今の俺はどうしていいのか分らなかった――
「はあ…」
の家の辺りまで来ると足を止めて思い切り息を吐き出した。
…ここまでの間にいないって事は…無事に家に帰ったのかな…?
それならいいんだけど。
俺は息を整えるとの家を探しに歩き出した。
(ニコラスの家がここだから…その隣…って言ってたな…)
俺は、その隣の家を見てみた。
あった…この家だ。
確かの父親も医者だとか言ってたっけ…
確かに医者っぽい真っ白で清潔そうなデザインの家だな…
そんな事を考えながら家の門の方へと近付いていった。
家の明かりは、殆どが消えていたが、木々の合い間からかすかに見える二階の部屋にはオレンジ色の明かりが見えた。
の部屋は…あそこなんだろうか。
あの小さな明かりだと、ベッドサイドの明かりかな…
もう…寝るのかもしれない…
明日は早番なのかな…。
俺は少し安心して、自分の家に戻るのに歩き始めた。
明日…病院に行くつもりだったけど、どうしたらいいんだ?
きっとは凄く怒ってるだろうし…
いや…明日は会いに行って…ちゃんと彼女に謝ろう…
前の俺なら…女を怒らせたって放っておいた。
でも…には…今更だけど…これ以上嫌われたくないと思った。
もう…手遅れかもしれないけどな…
俺は家に向かいながら、明日、に会うのが怖いとさえ感じていた…。
チャリーン…ッ
「あら…?、何か落ちたわよ?」
「え?」
「…これ鍵?」
キャシーがそれを拾い上げて私へと見せた。
それは夕べ、レオから渡された家の鍵だった。
「あ、う、うん…」
私は慌ててその鍵を受け取ると、すぐにバッグの中へと閉まった。
「何だか変わった鍵ねぇ?凄く大きいし…どこの鍵なの?」
「あ、あの…実家…実家の鍵なの」
「あ、の実家ってビバリーヒルズにある豪邸だもんね?なら鍵もゴージャスか」
キャシーは、そう言いながらナースステーションへと歩いて行った。
私はちょっと息を吐き出すとバッグをロッカーに仕舞い、廊下へと出る。
今からマークと、いつもの様に庭で遊ぶ約束をしていた。
マークの病室まで行くと、待ち構えていたかのようにマークがベッドから這い出て来た。
「、おはよう」
「おはよう、マーク」
私は飛びついてきたマークの頭を撫でると手を繋いで廊下に出た。
「、どうしたの?疲れた顔して…寝不足?」
「え?あ、うん…。ちょっと夜更かししちゃって…」
「そうなの?ダメだよ~?夜更かしは女性の肌に悪いんだからさ!」
マークは、そんなマセた事を言って笑っている。
私もちょっと笑いながら、「ほんとね?」 と言った。
「でも…何だかマークも顔色良くないわよ?眠れなかった?」
「え?…そんな事ないよ?僕は、いつでも元気さ!」
マークはそう言うと私の手を放して外へ駆け出して行った。
「ちょっと、マーク?転ばないでね?」
私も後を追いながら叫んだがマークの耳に届いたかどうか…
(ほんと…マークは元気をくれるわね…)
そんな事を思いつつ、いつものベンチに腰をかけるとマークが同部屋のマイキーとキャッチボールをして遊んでいる。
マークは本当に面倒見がいい。
知らない人から見たら、健康そのものに見えるだろう…。
「はぁ…」
私はちょっと息を吐き出すと空を見上げた。
今日の空はどんよりとしていて今の自分の心のようだ。
夕べ…家に帰ってからも全然眠れなかった…。
どうして…急にレオが、あんな事をしたのか…頭から離れなかった。
前の私なら、どうして?と理由なんて考えなかっただろう。
ただ単に、ああいう奴なんだ、とそれだけで片付けて怒って終わりだった。
でも今は…前よりかはレオの事を理解出来る気がしてきたし、
確かに分らない事もおおいけど理由もなくあんな乱暴な事をするような人とは思えなかった。
優しかったのに急に怒ったようになって…
それってやっぱり私とダニーの関係を誤解して…怒ったのかな…
でも…私のこと好きでも何でもないはずなのに…
…まさか…ね…
そんな事を考えつつ楽しそうに走り回るマークを見ていた。
その時――
「…」
「――っ」
(この声…!)
驚いて振り返ると、そこにレオが立っていた。
「レオ…」
レオはサングラスを外すと静かに私の隣へと座った。
そして少し息を吐き出すと顔を上げて私を真っ直ぐな瞳で見て口を開いた。
「あの…夕べは…ごめん…俺、どうかしてた…」
「え…?」
レオが悲しそうに私の顔を見つめてそう言ったので驚いたが、凄く胸が痛くなった。
「怒って…るよな?」
ちょっと首を傾げて悲しげな顔のまま私を見るレオを何故か愛しい…と思ってしまって自分で驚く。
「…?」
私が黙ったままなのを気にしたのか、レオは私の名前を呼んだ。
「あ、あの…もういいの…。別に怒ってないから…」
「え……ほんとに?」
「ええ…。私も…いけなかったわ…?あんな風に会いに行ったりして…ごめんなさい…」
私がそう言うとレオは何故か俯いてしまった。
「レオ…?」
「あの…さ…俺―」
レオが何か言おうと私の方へ視線を向けた時、いきなり彼が叫んだ。
「マーク…ッ?!」
そう言ってベンチから立ち上がりかけて行く。
私は慌てて振り向いた。
すると――さっきまで元気そうに走り回っていたマークが、その場に倒れていた。
「キャ…マーク……!!」
私も慌ててマークに駆け寄るとマークはグッタリして苦しそうに息をしていた。
「や、やだ…発作が…!」
私は突然の事で動揺していた。
「!しっかりして!君はプロだろ?早くドクターのとこへ連れて行かないと…案内して!」
レオはそう言うとマークをそっと抱き上げて私の方へ向いた。
私もその言葉に、ハっとして、「あ、こ、こっちよ?」 と言うと病院の方へと走り出す。
それにレオはマークを連れてついてきた。
(やだ…どうして…?さっきまで、あんなに元気だったのに…!)
私は溢れそうな涙を必死に堪えて、病院へと飛び込んだ。
そしてキャシーにドクターを呼ぶように頼むとマークを治療室へと運ぶ。
「ここに寝かせて?そ~っと…ありがとう」
私はマークを運んでくれたレオに御礼を言うと彼は黙って首を振った。
「マーク…大丈夫だろ?」
「ええ…そんな酷い発作ではないみたいだけど…息も荒いし呼吸困難にならなければ…」
そう言いかけるとドクターが入って来た。
「あ、ドクター…マークが…」
「分った」
フランクは一瞬で病状が分ったのか素早い処置をしていく。
私も自分の仕事を必死でこなしながらもマークの苦しそうな顔を見ていた…
「レオ…?」
マークの病状が安定してホっとすると私はいつの間にかいなくなっていたレオを探しに廊下へと出た。
するとレオは治療室の前をウロウロと歩きまわっていて私が出て行くと
「あ、マークは?!大丈夫なのか?」
と腕を掴んで訊いてきた。
「え、ええ…もう大丈夫よ?何とか落ち着いて…今は眠ってる…」
私がそう言うとレオは思い切り息を吐き出した。
「はぁぁ…っ良かった…!」
レオはその場にしゃがみこむと、「ほんと…良かった…」 と呟いている。
そんなレオを見ていると私もさっきまで我慢していた涙がポロポロと零れてきて慌てて手で拭った。
「…?大丈夫か?」
「う、うん…。安心したら…ちょっと気が緩んじゃったかな…?」
私は少し微笑んでそれでも、まだ零れてくる涙を必死にこらえようとした。
すると急にレオに肩を抱き寄せられ、気付けば彼の胸に顔を埋めていた。
「泣きたい時は無理しないこと…!は喜怒哀楽を思い切り出せる子だろ?」
「レオ…でも…」
レオは私の頭を優しく撫でながら、「俺の前では…はいつでも自分の気持ちに素直だったけど?」 と言って額に軽くキスをした。
「そ、それは…レオが、こういう事するから…あ、あの…ここ病院よ?もう放して…?」
「ダーメ!が素直に泣くまで放さない」
レオはイタズラッ子のような顔で私の顔を覗き込むとクスクス笑っている。
「も、もう…!こんなとこ誰かに見られたら何を言われるか―」
そう言った瞬間、治療室からフランクが出て来てギョっとした顔で私とレオを見た。
レオはそこでパっと私を解放してくれたが、私はフランクに見られて顔が真っ赤になってしまった。
「あ、あの…これは…」
「…くん、彼と…付き合ってたのか?」
「は?!」
フランクの言葉に私は驚いてしまった。
「ち、違います…!そんなはずないじゃないですか…っ」
「そう…だよなあ?君、確か隣の医者と…」
「そうです…!」
「ああ、こりゃ失敬…」
フランクも頭をかきながら笑うとレオが、
「僕は彼女を好きで追いかけてるんですけどね?なかなか振り向いてくれなくて」
と、澄ました顔で言って私は慌ててしまった。
「ちょ、ちょっとレオ…!そんな変な嘘つかないで?ドクターが本気にするでしょ?」
「ああ、何だ…ジョークか…。いや、私はてっきり本当の事かと…そうだよな?ハリウッドスターの君がまさかね?ア八ハ!」
フランクは、そう言って豪快に笑うと、「じゃ、くん、後は宜しくね?」 と言って歩いて行ってしまった。
私はホっと息を吐き出して、レオを睨む。
「もう…!ドクターに変なこと言わないでよ…!」
「別に本当のことだろ?」
レオはそう言うと、「あ、マークの顔見てから帰りたいんだけど…いい?」 と言った。
「あ、ええ…静かにね?」
私はそう言うとレオを治療室の中へと入れた。
マークは奥のベッドに寝かされていて今は呼吸も元に戻りスヤスヤと眠っている。
レオはそっとマークの頬を軽く撫でると、「また…シュート教えてやるから…早く元気になれよ…?」 と呟いた。
私は、そんなレオを見て、ちょっと微笑んだ。
すると不意にレオが私の方を見て、「そう言えば…ここさ…。俺とが初めて会った場所だな?」 と、笑顔で言った。
「え?あ…そう…ね?そうだったわ」
私が頷くとレオは私の腕を引っ張って優しく抱き寄せた。
「ちょ…っ」
「シィ~…マークが起きちゃうだろ?」
「そ、そんなこと言って…っ 」
「何だかさ…ここからもう一度始めたい気分だよ…」
「…え?」
私はレオの言った言葉の意味が分らなくて首をかしげた。
するとレオは少し体を放して私の顔を覗き込んだ。
思いがけない彼の優しい笑顔にドキっとする。
「あの夜…もし俺があんなことしなかったら…は今でも俺のファンだった?」
「え?あ、あの……そ、そうね?そうかも…しれない」
私はレオの言葉に戸惑うも、そう言ってクスクスと笑った。
するとレオは少し悲しそうに微笑んで、「そっか…残念なことしたな…」 と呟いた。
「え…?」
私はドキンとして顔を上げるとレオと目が合う。
レオは私の額にそっと唇をつけると一度ギュっと抱きしめて体を離した。
「俺、もう行くよ…。ジョー…マネージャーが待ってるんだ」
「あ、そ、そうね…あの…撮影頑張って…」
「ああ…も仕事頑張って…」
「うん」
レオはそう言って治療室から出ようとした、が、もう一度私の方へ振り返った。
「あの…さ…。ほんと夕べはごめん…。あんなひどい事する気じゃなかったんだ…」
その言葉に私も首を振ると、「もういいって言ったでしょ?気にしてないから…」 と言って微笑んだ。
レオは私の言葉に嬉しそうに微笑むとスタスタと私の方へ歩いて来てまた思い切り抱きしめてくる。
「ちょっと…っ。抱きついていいとは一言も言ってないんだけど…」
「ん…ちょっと撮影前のパワー補給…」
「…は?私は栄養ドリンクじゃないわよ?!」
「そんな大きな声出すなって…マークが起きるよ?」
レオは何だかクスクスと笑っているようだ。
そしてパっと体を離すと素早く私の頬にキスをして、「これで満タン!じゃ、またね?」と言って治療室を出て行ってしまった。
私は何だか顔が熱くなってキスされた頬を手で抑えた。
いつも…レオのペースで振り回されてる気がする。
でも…今はそんなに嫌じゃない…
何故か…そう思った。
私はスヤスヤと眠っているマークの頭を撫でながら、「早く…元気になって、また一緒にバスケやろうね?」 と呟いた…。
「遅い!!」
思ったとおりジョーはプリプリとしながら俺を出迎えてくれた(!)
「ごめん…ちょっとハプニングでさ…」
「な、何?何のハプニングだ?!」
「子供…ほら、俺がいつも遊んでるマークが発作で倒れてさ…治療終るまで見届けたかったから…」
俺がそう言うとジョーも仕方ないという顔で俺を見た。
「何だか…やけに素直だな…機嫌もいいし。彼女と上手くいったのか?」
「別に…上手く行ったとかそんなもんないだろ?彼女には婚約者がいて俺がどれだけ彼女を想っても届かないんだからさ…」
俺がそう言って苦笑すると、ジョーはまたしても口を開けている。
「ほんと、締まりない顔だな?その口、この病院のドクターに縫ってもらったらどう?」
「う、うるさい!俺の顔が締まりないのは昔からだ!余計なお世話だ、全く…!」
ジョーはプリプリと頬を脹らませつつ、車のエンジンをかけて車を出した。
その顔にちょっと吹きだすとジロリと睨まれる。
俺は気付かないフリをして窓を開けた。
少し冷たい風が入って来て気持ち良かった。
俺が…始めて会った時にあんな事しなかったら…まだ俺のファンでいてくれたんだな…
ほんと…バカな事したよ。
俺はいつまで、この報われない恋を追いかけるんだろう…
は…他の男と結婚してしまうというのに…
そんな事をふと思って、また少し胸の痛みが増した気がした――
例えば僕が俳優なんかじゃなくて…
もっと違う出会い方をしていたら…
君は僕の事を好きになってくれたんだろうか?
例えば僕が君と最初に会った、あの夜…
もっと優しくしていたら…
君は僕の事を愛してくれたんだろうか…?
君を想う僕は…毎日、そんな事ばかり考えているんだ――
>>Back
ACT.9...口づけ>>
うぉー何だか長くなってしまった…(汗)
メモ帳機能、一ページ半とか使ったし(笑)
少しづつ気持ちが動いていくお話だったんですけどねぇ・・
まあ、こんなもんですね、オイラなんてさ…アハハ…あうぅ(涙)
無駄に長くて、すみません…^^;
でも今回のレオ様、ちょっとお気に入りだったり…(笑)
最初と違って優しくなったような…気のせい?(笑)
恋をして可愛くなってきたとこをアピールです(笑)なんてな?(笑)
何だか、レオ夢は書きたいネタばかりあるのにいつになったら書けるんだ?俺…(汗)
書かない間に終ったら嫌ですよね…(苦笑)
ああ、頑張ります…っ
本日も皆様に楽しんでいただければ幸いです。
日々の感謝を込めて...
【C-MOON...管理人:HANAZO】
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